急な御案内で誠に恐縮であります。
この度、私は、自由民主党総裁の職を辞することといたしました。そのため、党則第6条第2項に基づく総裁選、すなわち、任期中に総裁が欠けた場合の臨時総裁選の手続を実施するよう、森山幹事長に伝えたところであります。したがって、党則第6条第4項に基づく臨時総裁選の要求手続を行う必要はございません。新総裁を選ぶ手続を開始していただきたい、このように考えております。
正に国難ともいうべき米国関税措置に関する交渉は、私どもの政権の責任において道筋をつける必要があると、このように強く考えてまいりましたが、先週の金曜日に、投資に関する日米了解覚書の署名が行われ、米国大統領令も発出をされました。昨日、帰国した赤澤大臣から直接報告を受け、私としても、一つの区切りがついたと感じることができました。
かねてより私は、地位に恋々とするものではないと、やるべきことを成した後に、然るべきタイミングで決断すると、このように申し上げてまいりました。あわせまして、選挙結果に対する責任は総裁たる私にあると、このようにも申し上げてきたところであります。米国関税措置に関する交渉に一つの区切りがついた今こそが、その「然るべきタイミング」であると、このように考え、後進に道を譲る決断をいたしました。新しい総裁が選ばれるまでの間、国民の皆様方に対して果たすべき責任を着実に果たし、新しい総裁・総理にその先を託したいと思っております。
少数与党であるにもかかわらず、約1年間、ここまで務めることができましたのは、自民党、そして友党・公明党の皆様、国民の皆様方のお支えがあったからこそであり、心より深く感謝を申し上げます。誠にありがとうございました。私は、党派を超えた合意形成、「熟議の国会」にふさわしい、真摯で、誠実な国会審議に精いっぱい努めてまいりました。できる限り、自分の言葉で語るようにいたしてまいりました。この間、御尽力、御協力を頂いた各党、各会派の皆様にも、心より感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。
その結果、昨年の臨時国会及び今年の通常国会におきまして、少数与党でありながら、能動的サイバー防御に係る法律など、政府が提出をした法案68本中67本、条約は13本全てが成立をいたしました。党において、あるいは現場において、大変な御苦労を皆様方にいただきました。お陰様でこのような結果を残すことができました。
私どもの政権では、本当に困っておられる方々、苦しんでおられる方々に手を差し伸べたい、そのような思いで取り組んでまいりました。その一環として、令和6年度補正予算で低所得者給付金と重点支援交付金を措置するとともに、令和7年度には、所得税減税につながる、いわゆる「103万円の壁」の引上げも行いました。
先週金曜日には、全ての都道府県での最低賃金の取りまとめが出そろい、全国加重平均で過去最高額の1,121円、引上げ額は過去最大の66円、率にして6.3パーセントの増と、このような結果となりました。これは、都道府県間の格差縮小にもつながる内容でもございました。同日に公表されました7月分の実質賃金は7か月ぶりのプラスとなりました。多くの方々の大変な御努力のお陰であります。「賃上げこそが成長戦略の要」と、こういう考え方が着実に浸透し、成果が上がっております。
災害対策につきましても、被災して苦しんでおられる方々の御負担を軽減したいと、そのような思いで避難所の生活環境の改善などに取り組んでまいりました。トイレカーであり、キッチンカーであり、そしてまた段ボールベッドであり、一番苦しい立場におられる方々、一番つらい思いでおられる方々、そういう方々に少しでも手を差し伸べたい、そのように強く今でも考えております。内閣府防災担当の人員・予算を前年度から倍増するとともに、専任の大臣の下で十分なエキスパートと予算を有する防災庁を来年度に設立をいたします。
世界有数の災害大国である我が日本国は、災害対応も世界一でなければならない。これは私の変わらざる思いであります。頻発化・激甚化するこの災害、この被害を、本当に少しでも減らしていかねばならない。それは国家としての責務であると私は信じております。首都直下型地震、南海トラフ地震などの大規模災害は、起きるかどうかではありません。いつ起きるかの問題であります。それに備える体制の整備には一刻の猶予も許されるものではございません。
昨年来の米の価格高騰を踏まえ、令和7年度から米の増産を進めることといたしました。消費者の皆様方が安定的に米を買えるようにするとともに、意欲ある生産者の皆様の所得が確保され、不安なく増産に取り組めるような新たな米政策へと転換をすることにいたしました。これは十数年前、私が麻生内閣の農林水産大臣を務めておりましたときからの強い思いでありました。今後、その政策を具体化していくことになります。
政府としても力を入れて取り組んでおります大阪・関西万博も、御来場のお客様が2,000万人を超え、黒字化のめども立ちました。
万博の機会を捉えて、多くの海外の首脳の皆様方が来日をされ、そのような方々も含めて、私が昨年10月に就任いたしまして以来、89の国や機関と150を超える首脳会談を行いました。
そうした中で、関税交渉も含め、日米同盟関係は更に深化をし、同志国との連携の強化、ASEAN(東南アジア諸国連合)、インドを始めとするアジア、大洋州、アフリカ、中南米など、幅広い国との信頼関係を構築できたものと考えております。トランプ大統領との電話会談、対面の会談も何度も行いました。また、大韓民国・李在明(イ・ジェミョン)大統領、そしてインドのモディ首相。本当に実りある、誠心誠意の会談ができたと、このように思っております。
私どもは、アジアの国々、そういう国々の理解を、連帯を、更に追求をしていかなければなりません。合衆国との同盟関係を強化することは当然のことでありますが、それと同時に、アジアの国々、そしてアフリカの国々、そしてかねてより深い関係がありますヨーロッパの国々。世界にとって日本が必要であると、そういうような思いをこの1年間、強く感じてまいりました。これを次の総裁・総理にも、是非とも引き継いでいただきたい。この外交にお力添えをいただいた多くの皆様に本当に心から厚く御礼を申し上げる次第でございます。
しかしながら、昨年9月に自由民主党総裁に選んでいただいたときの多くの方々の御期待に応えることができたかと、そのように自問するとき、本当に忸怩(じくじ)たる思いがございます。
地方創生こそが日本の経済成長、少子高齢化の克服のために必要だと訴えてまいりました。地方の育ちであり、そして初代の地方創生大臣を務め、本当に地方の疲弊、そういうものを実感しております私にとって、地方創生は最も成し遂げたい事業の一つでございました。そのような思いから、「地方創生2.0」を「令和の日本列島改造」と位置づけ、重点施策として取り組んでまいりました。新地方創生交付金を倍増し、国の職員が自治体に寄り添って支援をする「地方創生伴走支援制度」も創設をいたしました。本当に地方の方々に寄り添って、国が上とかそのようなことではない、本当に共に笑い、共に泣き、共に汗する、そういうような国と地方との関係を築きたいと、そう思ってまいりました。
その上で、今後10年間を見据えた「基本構想」を取りまとめ、「ふるさと住民登録制度」を創設をし、関係人口1,000万人創出などを打ち出しました。しかし、東京一極集中を脱却し、地方創生を実現するためには、もっと大胆で強力な取組が必要であると、その思いを強くしておったところであり、これは残念ながら道半ばであると言わざるを得ません。
賃上げにつきましても、確かに潮目の変化は現れておりますが、物価上昇を上回る賃金上昇を定着させ、実感をしていただくためには、更に取組を加速させることが必要であります。都会であれ地方であれ、男性であれ女性であれ、働きたい方が年齢を問わずに働ける社会にしていかなければならない。労働に見合った対価を得られるようにしなければならない。これは私の確固たる考えであります。特に、介護、福祉、医療など、我々の生活を支えていただいておる皆さん方には、より高い報酬が支払われるべきであります。賃上げが当然であるという考え方の定着、労働分配率を上げる企業行動の変容、それらを促し、きめ細かく支援する政府の更なる取組が必要であります。
賃上げが消費に結び付く、そのような好循環を実現するために、セーフティネットとしての社会保障制度、持続可能な社会保障制度、次の時代にもきちんと機能する社会保障制度。安心の確保は、国家にとって国民にとって不可欠の課題であります。消費税がその貴重な財源であると、この認識に変わりはありませんが、消費税や社会保険料が現役世代の方々、とりわけ所得の低い方々にとって負担感が極めて強いということも肌身で実感をしておるところでございます。医療・介護・年金などの社会保障制度について、責任を持って次の時代に引き継ぐために、給付と負担の在り方も含め、与野党を超えて議論を進めていく必要がございます。
米国との関税交渉については、この度成立した合意により、我が国の経済安全保障の確保と経済成長の大幅な加速を目指す、その礎ができたものと確信をしておりますが、これで決着ではありません。これから合意の実施を確保すること。そして、新たな懸念が生ずれば、それに対応していくことが必要であります。
私どもの政権とトランプ政権との信頼関係の下で成り立った合意でございますので、私どもの政権においてその責任を全うすべきでありましたが、このような形になったことは実に心残りであります。
我が国は輸出の品目が6,000ございます。その中で対米輸出品目は4,000を超えております。一つ一つの輸出品目、それを取り扱っておられる企業・事業者の皆様、そういう方々の持っておられる不安をきちんと払拭をし、そして、更に強い日本の経済をつくっていかねばなりません。是非、新しい政権も、日米両国政府の信頼関係を引き継いでいただき、合意の実施を確実にしていただきたいと、このように強く思っております。
戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に対応するため、防衛力の抜本的強化を着実に進めてまいりました。どんなに立派な飛行機や車両や船を持っても、それを動かしていただく人がいなければどうにもならないと就任以来、申し上げてきたことでございます。人的基盤である自衛官の皆さん方の処遇の改善について、関係閣僚会議を設け、政府を挙げて取り組み、一定の成果が現れ始めております。
先日、中国で行われた軍事パレード。中国、ロシア、北朝鮮の首脳が並んで立つ姿を目の当たりにするとき、今後更に厳しい安全保障環境になる、その危惧を禁じ得ません。
カナナスキスのG7サミットでも、私は何度も申し上げたことですが、欧州、中東、東アジアの安全保障環境は互いに密接に関係しております。米国の核抑止力の信頼性の確保、シェルターの整備など、我が国の抑止力を高めていくことは喫緊の課題であります。ウクライナにおける戦闘に見られるように、戦い方は急速に変化をしております。我が国の防衛力の自主的な強化、誰から言われたからではない、自主的に防衛力を強化する、それに更に取り組んでいかねばなりません。それと同時に、各国との対話を通じた信頼構築、これに取り組んでいかねばならないことは言うまでもございません。
拉致問題の本質は国家主権の侵害であり、拉致被害者の方、御家族が御高齢となる中で、時間的制約のあるひとときもゆるがせにできない人道問題であります。日朝平壌(ピョンヤン)宣言の原点に立ち返り、全ての拉致被害者の一日も早い御帰国、北朝鮮との諸課題の解決に向けて努力をいたしてまいりましたが、その結果を出すことができませんでした。痛恨の極みであります。
政治改革につきましては、昨年、総裁として、政策活動費の廃止、いわゆる「旧文通費」の使途公開と残金の返納、政治資金規正法に基づく第三者機関の早期設置という方針を示し、昨年末には、政治改革法が成立をいたしました。それでもなお、政治とカネの問題を始め、国民の皆様方の政治に対する不信を払拭することはいまだにできておりません。このことは私にとって最大の心残りであります。我が自由民主党は、けじめをつけなければなりません。
我が自民党は、今さえよければいいとか、自分さえよければいいとか、そのような政党であっては決してなりません。寛容と包摂を旨とする保守政党であり、真の国民政党であらねばなりません。我々自民党が信頼を失うことになれば、日本の政治が安易なポピュリズムに堕することになってしまうのではないかと、その危惧を私は強めております。
私としては、まだやり遂げなければならないことがあるという思いもある中、身を引くという苦渋の決断をいたしました。それは、このまま党則第6条第4項に基づく臨時総裁選要求の意思確認に進んでは、党内に決定的な分断を生みかねないと考えたからであり、それは決して私の本意とするところではございません。
自民党の皆様には、その思いを共有していただき、共にこの難局を乗り越えていただきたいと心から強く願っております。古い自民党のままである、何も変わっていないと国民の皆様方から見られるようであっては、党の明日はございません。真の意味での「解党的な出直し」を成し遂げなければなりません。本日この場を、その一歩とすることができますよう、党員・党友の皆様方のお力を賜りますように、心よりお願いを申し上げます。
国民の皆様方には、このような形で職を辞することになったことを大変申し訳なく思っております。本当に申し訳ございません。残された期間、全身全霊で国民の皆様方が求めておられる課題に取り組んでまいりますので、何とぞ御理解を賜りますよう、心よりお願いを申し上げます。
私からは以上であります。ありがとうございました。