記者会見経済新しい資本主義

デフレ完全脱却のための総合経済対策について岸田内閣総理大臣記者会見(全文)

デフレ完全脱却のための総合経済対策について岸田内閣総理大臣記者会見(全文)

先週の所信表明演説では「経済、経済、経済」と強調し、この政権は何よりも物価高対策、そして経済対策を重視しているとの決意を申し上げました。その決意を「デフレ完全脱却のための総合経済対策」として、政府・与党で本日決定いたしました。

まず、今回の経済対策の考え方です。
バブル崩壊後の30年間、我が国はデフレに悩まされてきました。日本企業、特に大企業は、短期的な業績改善を優先して値下げをし、そして利益を確保するためにコストカットを進めてきました。あえて単純化すれば、賃金・投資を抑え、下請企業に負担を寄せてきました。

総理に就任した際、私が「新しい資本主義」を掲げたのは、この縮小均衡のコストカット型経済の悪循環を一掃しなければ、日本経済が再び成長することはできないと考えたからです。

この2年間、経済界に賃上げや設備投資、研究開発投資を強力に働きかけてきました。また、価格転嫁の推進など下請企業の取引改善に全力で取り組んできました。この結果、30年ぶりとなる春闘における大幅な水準の賃上げ、過去最大の民間投資、30年ぶりの株価水準、50兆円のデフレギャップ解消が実現し、今年4-6月期のGDP(国内総生産)は名目・実質とも過去最高となりました。

しかしながら、まだまだ道半ばです。
賃金が上がり、家計の購買力が上がることで消費が増え、その結果、物の値段が適度に上がる、それが企業の売上げ、業績につながり、新たな投資を呼び込み、企業が次の成長段階に入る。その結果、また賃金が上がる。そうした好循環はまだ完成していません。
鍵を握るのは、賃上げと投資です。

足元における最大の課題は、賃上げが物価上昇に追いついていないということです。この背景には、余裕のある一部の大企業は賃上げができても、多くの中小・零細企業では、まだまだ賃上げをする余裕がないという事情があります。デフレから完全に脱却し、賃上げや投資が伸びる、拡大好循環を実現するためには一定の経過期間が必要です。

そこで、今回の経済対策では、2段階の施策を用意いたしました。
第1段階の施策は、年内から年明けに直ちに取り組む、緊急的な生活支援対策です。具体的には、生活に苦しんでいる世帯に対し、既に取り組んでいる1世帯3万円に加え、1世帯7万円をできる限り迅速に追加支給することで、1世帯当たり10万円の給付を行います。このことにより生活を支えてまいります。

第2段階の施策は、来春から来夏にかけて取り組む、本格的な所得向上対策です。まず、来年の春闘に向けて、経済界に対して、私が先頭に立って、今年を上回る水準の賃上げを働きかけます。同時に、労働者の7割は中小企業で働いています。このため、年末の税制改正で、赤字法人が多い中小企業や医療法人なども活用できるよう、賃上げ税制を拡充するとともに、価格転嫁対策の強化など取引適正化をより一層進めるなどにより、中小企業の賃上げを全力で応援します。

このように、政府として全力で賃上げを進める環境を整備する予定ですが、それでもなお、来年に国民の賃金が物価を超えて伸びていく状況となるのは確実ではありません。しかし、今回のチャンスを逃せば、デフレ脱却が難しくなります。確実に可処分所得を伸ばし、消費拡大につなげ、好循環を実現する。

そのため、私は、来年の6月のボーナスのタイミングで、本人・扶養家族を問わず、1人当たり計4万円、約9,000万人を対象に、総計3兆円半ばの規模で所得税・住民税の定額減税を行いたいと考えています。本人・扶養家族を問わず、お一人ずつ減税を行うことで、過去に例のない子育て支援型の減税ともなります。例えば子供二人の子育て世帯では16万円の減税となります。

このように、来年夏の段階で、賃上げと所得減税を合わせることで、国民所得の伸びが物価上昇を上回る、そういった状態を確実につくりたいと思っています。そうすれば、デフレ脱却が見えてきます。

さて、「減税ではなく、給付金を支給すれば、もっと早い時期にお渡しできるのではないか」という意見があることは承知しています。先ほど申し上げたように、給付金は第1段階の緊急的な生活支援を行うものです。その上で、今回の所得減税は、第2段階の本格的な所得向上、そして好循環実現のために行うものです。幅広い国民の所得を下支えする観点からは、来年夏のボーナスの時点で、賃上げと所得減税の双方の効果が給与明細に目に見えて反映される、そうした環境をつくり出すことが必要だと考えています。

また、「防衛費や少子化のために、今後、国民負担の増加が避けられないのであれば、減税をすべきではない」という御指摘もあります。しかし、政策には順番というものがあり、そして、順番が何よりも重要です。

防衛費については、GDP比2パーセントに強化された防衛力を(令和)9年度以降維持するため、その9年度に向けて財源を確保することとしております。そのためにも、まずは国民の暮らしを守るため、デフレ脱却を確実にし、成長経済を実現するための取組を先行させることが重要であり、今回の減税と同時に防衛の税制措置を実施することは考えておりません。

少子化については、デジタル化(注1)の推進による効率化を含めた社会保障改革を進めることで、実質的な国民負担の増加にならないよう検討してまいります。時期についても、複数年にわたって社会保障改革を進める中で対応することとしており、今回の所得税減税と矛盾するものではありません。

言うまでもなく、強い経済は全ての政策の基盤です。
所信表明演説で「経済、経済、経済」と申し上げたのも、経済活性化なくして強い安全保障も持続可能な社会保障も実現できない、そうした確信に基づいたものです。現下の最優先は、デフレから脱却し、経済を成長経路に乗せるということです。まず経済活性化、その順番を御理解いただきたいと思います。

今正に、デフレ脱却ができるかどうかの瀬戸際だからこそ、あらゆる政策を総動員し、国民の可処分所得を拡大する。所得減税は、そのために行うものであることを改めて強調したいと思います。

国民の可処分所得を後押ししながら、我が国の「稼ぐ力」を強くしていくために全力を挙げます。しっかりと投資を後押しし、過去最大の投資が行われつつある現在の流れを更に強めてまいります。これによって賃上げの流れを確実なものとして、成長と賃金の好循環を回します。

賃上げ促進税制、最も重要な「人への投資」の拡大を図ります。これまで赤字で税制を使えなかった中小企業にも使いやすい形に強化してまいります。

投資減税と戦略投資支援。熊本県では、既に半導体の大型投資によって良質な雇用が生まれ、賃上げが広がっています。半導体、蓄電池、電気自動車などの戦略分野で過去に例のない税制や補助制度を講じ、全国で次々と大型投資を呼び込んでまいります。

中小企業の省エネ・省力化投資。小売、飲食、宿泊業からものづくりまで、人手不足に対応するメニューをカタログから選択し、現場の企業に使いやすい形で支援いたします。

物流・交通のデジタル化。デジタル情報配信道等を整備し、自動運転トラックを活用した物流の実証を行います。2024年問題に直面する物流投資も後押ししてまいります。

暮らしのGX(グリーン・トランスフォーメーション)。御家庭も投資の担い手です。ヒートポンプ設置、断熱窓への改築、電気自動車の購入補助など、光熱費を削減し、快適な暮らしを応援します。

「年収の壁」についても、長年、106万円、130万円の「壁」の存在が指摘されてきましたが、今般、就労時間を気にすることなく働く環境を整えることで、希望する所得を得られ、「壁」を実質的に無くしていくよう、具体的な支援を用意し、既に実行しております。

このように、予算、税、制度・規制改革などあらゆる手法を盛り込みました。特に規制・制度改革については、36項目、2013年以降に取りまとめられた経済対策では最多となります。あらゆる手法を総動員して「稼ぐ力」を強化してまいります。

今回の経済対策の規模は全体で17兆円前半程度を見込んでいます。私にとって、飽くまで最優先しているのは、デフレからの脱却を行い、経済を成長経路に乗せるということにあります。経済が成長してこそ税収も増え、そして財政健全化にもつながっていきます。国民の皆様には、まず経済活性化、その順番を御理解いただきたいと思います。そうした考えの下、一時的な所得減税を含む経済対策を策定しました。

その一方で、大規模な補正予算を講じてきたコロナ禍への対応が一段落した以上、歳出構造を平時に戻していく方針は堅持していきます。今回の経済対策策定に当たっても、合わせて5兆円となる予備費を半減し、財源として活用いたします。年末までの予算編成過程で更なる歳出構造の平時化を検討してまいります。

本日決定した経済対策については、その裏付けとなる補正予算を編成し、臨時国会に提出して、早期に成立させていきます。長く続いたデフレからの完全脱却は、「明日は今日より良くなる日本」を実現していくための最大の課題です。政府、経済界、労働界を始め、国民全体でこれに取り組むことが必要です。政府は先頭に立って全力を尽くします。国民の皆様の御協力を引き続きお願い申し上げます。