第211回通常国会閉会について岸田内閣総理大臣記者会見(全文)

本日、150日にわたる通常国会が閉会しました。この間、世界で、また国内で、実に様々なことがありました。それら一つ一つに真摯に向き合い、また、お約束した政策の実現に、正面から向き合ってまいりました。

政府として提出した予算及び今国会への内閣提出法案60本中58本が成立するなど、過去10年の通常国会と比べてみても、高いレベルで堅実な成果を残すことができました。関係者の御協力に感謝いたします。

国会閉会という節目に当たり、一つ一つの政策もさることながら、私が内閣総理大臣として、今年の上半期、どのような思いで政権運営に当たってきたかについてお話をさせていただきます。

私たちは、何十年に一度と言われるような難しい課題が次々と複合的に生じる、その真っただ中にいます。G7広島サミットでも、時代の転換点、そして複合危機は、各国首脳に共通するキーワードでした。そうした中にあって、私はこの上半期、2つの思いを特に大切にしてまいりました。第1に経済成長への思い、第2に外交・安全保障への取組強化への思いです。

1つ目の思いは、30年間続いてきたデフレ経済、コストカット経済から脱却し、未来への投資によって成長する経済をつくり上げ、賃上げが当たり前となる経済に向けた道筋を着実にしたい、このチャンスを決して逃してはいけないということです。

岸田政権では、一昨年の政権発足以来、新しい資本主義を掲げ、賃上げを含めた人への投資と、官民連携による設備投資や研究開発投資の促進を二本柱の基本として、新しい資本主義実行計画、スタートアップ育成5か年計画、資産所得倍増プラン、そして、三位一体の労働市場改革の指針と具体的政策を着実に進めてきました。

特に、今年の前半は、こうした経済の好循環に踏み出せるかどうかの正念場だとの強い思いを持って、8年ぶりの政労使の意見交換の場の開催を始め、経済の好循環に向けた様々な働きかけを行ってきました。また、中小企業の人件費が円滑にコストとして大企業に転嫁できるよう、公正取引委員会の監視機能をフルに活用し、価格転嫁対策も強力に講じています。

こうした政策的対応もあって、足元では、全体で3.66パーセント、中小企業でも3.36パーセントという、実に30年ぶりの高い水準の賃上げや100兆円を超える国内投資など、企業の高い投資意欲の発揮、そして、33年来の高い株価水準など、日本経済には前向きな動きが着実に生まれています。

他方で、世界的にエネルギー・食料品価格が高騰する中、まだ賃金が十分上がっていない、生活は楽になっていないと思われる方も多いと思います。鍵となるのは、一過性でない、構造的賃上げです。新たな時代に合わせた学び直しを行うリ・スキリング、日本型の職務給の導入、成長分野への円滑な労働移動、この3つを三位一体の改革として進めていくことで構造的賃上げを実現していきます。

最低賃金についても、今年は全国加重平均1,000円を達成することも含めて、公労使三者構成の最低賃金審議会でしっかりと議論いただきたいと考えています。また、この夏以降も着実に引上げを行っていくべく、1,000円達成後の方針についても議論を行っていきます。

同時に、価格高騰のショックを和らげるため、住民税非課税世帯等への給付金、ガソリン・電気・ガス価格の激変緩和対策といった、過去に例のないような措置を講じてきており、引き続き落ち着きを取り戻しつつある国際原油・ガス市場等の動向を踏まえつつ、国民目線に立った対応を進めてまいります。

改めて申し上げます。デフレ経済からの脱却、賃上げが当たり前となる経済に向けた道筋を着実なものとするため、今後もあらゆる施策を総動員してまいります。その際、今国会での成果を礎として、今後、次のような課題に真正面から取り組んでいきたいと考えています。

第1に、国内投資の活性化に向けた更なる取組です。

世界各国は、例えばGX(グリーン・トランスフォーメーション)の分野において過去に類を見ない、大胆な政策に着手しており、我が国でも150兆円規模のGX投資を官民で実現していくため、2つのGX法案をこの国会で成立させたところです。今後、この法律の下、例えば我が国が強みを持つ水素エネルギー活用の基盤を整えるとともに、水素と化石燃料との価格差に着目した支援制度等について、所要の法制度を早急に整備します。

また、公共インフラや建築物の壁面などに貼り付けられる、ペロブスカイト型太陽電池など、日本発の新技術の開発を強く後押しし、欧米やアジアの国々と、普及や標準づくりの協力を進めていきます。

投資はGXにとどまるものではありません。半導体、バイオ、フュージョンエネルギー、AI(人工知能)など、年末に向けて、予算、税制、規制のあらゆる面で、世界に伍(ご)して競争できる投資支援パッケージをつくってまいります。

観光、インバウンドについては、2025年に向けて観光のV字回復を確かなものとするため、新時代のインバウンド拡大アクションプランに基づき、ビジネスや教育・研究、文化芸術・スポーツ等の広い分野で、市場規模を拡大していきます。

農林水産業についても、食料安全保障の確立を含めた新たな展開方向を取りまとめたところであり、農政の憲法である食料・農業・農村基本法の改正に向けて作業を加速し、農政を転換し、投資を促進していきます。

第2に、デジタルの力をフルに活用した令和版デジタル行財政改革です。

少子高齢化、脱炭素、安保情勢の変化など、新たな時代環境に適応していくために、政府の事業規模は、世界のどの国においても拡大しています。全体の公務員数を増やさずに、国民や事業者から見て、便利で使いやすい、効率的な行政に組み直すための改革が不可欠となっています。今、世界的に求められているのは、筋肉質の組織を持ちながら、広範な機能を担う、小さくて大きな政府です。

国を頂点とする上意下達の仕組みを、国がデジタルによって地方を支える仕組みに転換する。国が共通のデジタル基盤を設計し、その上で、住民や事業体と直接の接点を持つ自治体やNPO(特定非営利活動法人)が、一人一人にきめ細かいサービスをスピーディーに行う。デジタル技術の広がりがなかった昭和の時代の行革は、中央省庁再編、民営化、地方分権などでした。令和の時代に求められるのは、デジタルの力を全面的に活用し、個々の国民に個人レベルできめ細かく対応することを最優先にした抜本的な改革です。

このために、ユーザー視点に立って制度や組織を一体的に変える。また、国と地方の役割を再定義していく。政権の優先課題として、こうした令和版デジタル行財政改革に挑戦をしていきます。

こうした取組を進める上で大きな役割を担うのは、デジタル社会のパスポートであるマイナンバー、マイナンバーカードです。今国会で成立した改正マイナンバー法は、このデジタルパスポートを推進するものです。

マイナンバーについては、今週に入っても、健康保険証、年金情報に続き、障害者手帳情報について、個人情報の照合ミスにより、マイナンバーの紐(ひも)づけに誤りがある事案が確認されました。

こうした事態を重く受け止め、本日、政府内にマイナンバー情報総点検本部を設置し、マイナンバー制度を所管するデジタル庁、対象となる情報を多く所管する厚生労働省及び自治体との連絡調整を担う総務省が連携して、政府全体で総点検と再発防止を強力に推進することといたしました。私から、国民の不安を払拭するため、コロナ対応並みの臨戦態勢で、政府横断的に取り組むことを指示いたしました。

その上で、改めて次の3点について、河野大臣及び関係大臣に指示いたしました。

1点目、マイナンバーに関する手続について総点検を行います。一連の誤り事案が確認された関連データだけでなく、個人情報保護の重要性を踏まえ、マイナポータルで閲覧可能となっている全てのデータについて、本年秋までをめどに総点検を行います。

2点目、再発防止を徹底するため、マイナンバーの確認、氏名・住所・性別・生年月日の4情報を全て照合する手続への統一など、マイナンバー登録に係る政省令の見直しを本年秋までをめどに行います。

3点目、来年秋の保険証廃止への国民の不安を重く受け止めており、現行の保険証の全面的な廃止は、国民の不安を払拭するための措置が完了することを大前提として取り組みます。その際、来年秋に廃止することを予定していますが、法律に規定されているとおり、その後最大1年間、2025年秋まで、猶予期間として、発行済みの保険証を使えることとしています。この期間を活用して、国民の不安を払拭してまいります。

デジタル社会への移行のためには、国民の信頼確保が不可欠です。一日も早く国民の皆様の信頼を取り戻せるよう、政府を挙げて取り組んでまいります。

第3に、少子高齢化、人口減少社会への対応です。

2030年までが少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスです。先日の会見で詳しくお話ししたとおり、不退転の決意をもって、経済成長と少子化対策を車の両輪としてスピード感を持って実行に移していきます。

そして、さらに、女性、高齢者の活力発揮に取り組んでまいります。人口減少社会を迎えている中で、女性、高齢者の方々に活力を発揮していただくことは、ますます重要になっています。

先般、「女性版骨太の方針2023」を取りまとめました。女性がライフプランに合わせて、多様で柔軟な働き方ができるような環境の整備、男女間の賃金格差の是正、いわゆるL字カーブの解消、企業等での登用促進などに全力で取り組んでまいります。

また、国民全体の関心事であり、特に高齢者や御家族の皆様にとって切実な課題である認知症への対応については、政府を挙げて、そして国を挙げて、先送りせず、挑戦していくべき重要な課題であると考えています。今月成立した認知症基本法も踏まえて、日本の新たな国家プロジェクトとして取り組んでまいります。

以上、私がこの上半期に特に大切にしてきた経済成長への思いについて述べました。

次に、私が上半期に特に大切にしてきた思いの2つ目は、外交・安全保障への取組強化への思い、すなわち、国際社会における我が国の存在感を引き上げ、我が国の安全と国民の命を断固として守り抜いていくということです。

今、世界では、国連安保理の常任理事国が隣国を武力で侵略するという想定外の事態が起こっています。北朝鮮による弾道ミサイルの発射は、頻度、内容ともに各段に深刻化しています。日本を取り巻く安全保障環境は、戦後最も厳しく複雑な環境にあります。ウクライナは明日の東アジアかもしれない、そうした強い危機感から、私は、3月21日、ウクライナを訪問しました。そして、ゼレンスキー大統領と共に、力による現状変更は決して許されないというメッセージを国際社会に訴えました。

また、5月には、議長としてG7広島サミットを開催し、平和国家・日本の意欲と覚悟を全世界に発信いたしました。G7の存在意義を大いに発揮し、グローバルサウスとの関与、ウクライナとの連帯に加え、国際社会の在り方そのものへの根本的な強いメッセージを発信する場となったと確信しています。

G7のみならず、各地域からの招待国との間でも合意した、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化を確保し、日本の国益を増進させるための外交を今後とも積極的に展開いたします。

来月、諸般の事情が許せば、リトアニアで開催されるNATO(北大西洋条約機構)首脳会議に招待されているため出席し、そしてベルギーにおいて日・EU(欧州連合)首脳会談を行います。そして、その後、中東のサウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、カタールの3か国を訪問する予定としています。そして、秋以降はG20(金融・世界経済に関する首脳会合)ニューデリーサミットや国連総会、APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会合、日・ASEAN(東南アジア諸国連合)特別首脳会議など、グローバルサウスを含む国際的パートナーと連携する機会が続きます。

また、中国との間では、建設的かつ安定的な関係の構築を双方の努力で進めていくため、私自身も含め、あらゆるレベルで緊密に意思疎通を図っていきます。

さらに、北朝鮮との間では、首脳会談を早期に実現すべく、私直轄のハイレベルで協議を行っていきたいと考えています。拉致問題の解決に向けて全力で果断に取り組んでまいります。

あらゆる外交手段をフル活用し、国際社会の平和と安定に貢献していくとともに、日本にとって最もふさわしい形での国際秩序の維持・強化に努めてまいります。

積極的な外交活動の展開によって、その裏付けとなる防衛力の整備も重要です。一昨年から議論を積み重ねてきた防衛力の抜本的強化も併せて進めます。5年間で43兆円の防衛予算確保や防衛産業の基盤を強化する法案も、今国会で成立いたしました。断固として、あらゆる事態から国家、国民を守り抜いてまいります。

岸田政権は、先送りできない課題に一つ一つ結果を出していくことを使命としています。そうであるからこそ、私自身は、今年の夏、再度、政権発足の原点、政治家・岸田文雄の原点に立ち返って、できる限り全国津々浦々の皆様の現場にお邪魔して、改めて皆様方の声を伺うことに注力していく所存です。「信なくば立たず」。私が一昨年の8月、総裁選挙に出馬する際に述べた言葉です。その言葉を胸に、今年下半期の政権運営にも全力で当たってまいります。

最後に、これから自然災害が多発する季節を迎えますが、近年、災害が激甚化・頻発化する傾向にあります。皆様には、政府や自治体の発出する情報などに基づき行動していただければ幸いです。政府としても、線状降水帯発生情報の早期発出、ダムの事前放流など、引き続き防災・減災、国土強靱(きょうじん)化を全力で進めてまいります。

以上、冒頭発言とさせていただきます。ありがとうございました。