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政策国会国会演説代表質問

第212回臨時国会における世耕弘成参議院自民党幹事長 代表質問

第212回臨時国会における世耕弘成参議院自民党幹事長 代表質問

自由民主党の世耕弘成です。会派を代表して、岸田総理の所信表明演説について質問をいたします。

岸田総理、最初に明確に申し上げますが、私は総理を支持し、総理が目指されている国の姿や政策の実現に少しでも協力したいと思っています。
総理は総裁選を勝ち抜かれた、我々が選んだ自由民主党総裁であります。岸田政権は安倍政権以来の基本政策を堅持され、経済、外交などの重要政策においてもこれまで大きな失敗も犯されていません。
さらに、地道に仕事に取り組まれ、長年の懸案であった安保関連3文書の策定と防衛予算の大幅拡充、原発新増設・リプレイスの方針決定などを断行されました。
また喫緊の課題であった新型コロナの5類感染症への移行、統一教会への解散命令請求も実行に移されました。
国際情勢が緊迫する中でのG7議長としての議論の取りまとめ、ウクライナへの支援、日韓関係の改善など、外交上の難題にも懸命に取り組んで成果を出しています。経済全体の指標は決して悪くはなく、賃金も税収も伸びています。我が国は、世界の中で最もまともな経済状況にあると評する方もいます。
確固たる姿勢で国民に賛否のある政策を推進した安倍政権や菅政権から、「聞く力」を重視し、国民に寄り添う姿勢を鮮明にする岸田政権へとバトンが引き継がれたことは、外交安全保障政策を重視し、安保改定という国論を二分するテーマに正面から取り組んだ岸信介政権の後を継いだのが、「低姿勢」と「寛容と忍耐」をキャッチフレーズに、世の中の安定と国民の豊かさを指向した池田勇人政権であったことを彷彿とさせます。池田元総理も同じ広島県選出であることも相まって、岸田総理の登場には、個人的に、歴史の必然さえ感じています。
しかし、現状において支持率は低空飛行、補欠選挙の結果も1勝1敗。
「こんなに頑張って成果を出しているのに、なぜ評価されないのだろう?」これが現在の岸田総理の率直なご心境ではないでしょうか。
政権の置かれている現状について、総理はどうお感じになっているでしょうか?率直にお考えをお聞かせください。

支持率が向上しない最大の原因は、国民が期待するリーダーとしての姿が示せていないということに尽きるのではないでしょうか。
リーダーの役割とは何か?サラリーマン時代からずっと、私は、自分自身に問いかけ続けてきました。上司や先輩の言動を見つめ、過去の偉大な政治家や経営者が残した言葉から学び、そして自分自身の数多の失敗から教訓を得て、私なりのリーダー像を作り上げてきましたが、まだ道半ばです。
いや、永遠に完全な答えを得ることはないでしょう。
岸田総理ご自身は、リーダーとはどうあるべきとお考えでしょうか? 本音をお聞かせください。

私が現段階で考えているリーダー像は、「決断し、その内容をわかりやすい言葉で伝えて、人を動かし、そしてその結果について責任を取る」という姿です。
しかし残念ながら、現状において、岸田総理の「決断」と「言葉」については、いくばくかの弱さを感じざるを得ません。
その弱さが顕著に露呈したのが、今回の減税にまつわる一連の動きです。
9月25日に総理は「税収増を国民に適切に還元する」と表明されました。しかしこの「還元」という言葉が分かりにくかった。自分で決断するのではなく、検討を丸投げしたように国民には映った。総理のパッションが伝わらなかった。
その後「還元」という「言葉」が一人歩きして、「給付なのか減税なのか」、「はたまた両方なのか」、総理の真意について与党内でも様々な憶測を呼んでしまいました。世の中に対しても、物価高に対応して総理が何をやろうとしているのか、全く伝わりませんでした。
もし、9月25日に総理が、「物価高による生活困窮世帯の苦境は深刻なので十分な給付を迅速に行う。一方で、物価高は中間層の家計も圧迫しており、消費の停滞にもつながっている。これには所得減税で対応する。どのような手法を取るかについては技術的な問題もあるので、党税調の専門家とも相談しながら決めていきたい。」とわかりやすく述べておられたら、政府与党での議論が混乱することもなかったでしょうし、多くの国民も物価高に対する総理の姿勢をよく理解してくれたことでしょう。
総理は過去の総理よりも頻繁に会見に応じられるなど、国民への情報発信に心を砕いておられます。しかし「綸言汗の如し」と申します。リーダーの発した「言葉」はかいた汗のように、元に戻すことはできません。
今後重要な局面で発信される際には、総理ご自身がじっくりと考えて決断し、水面下の根回しも入念に行なって、その発言により政権の政策の方向性を確定させ、なんとしてでも国民の支持を得るという覚悟で、政治家としての言葉で発信していただきたいと思います。
「そんな確定的な『言葉』で全てを発信することは難しい。発言の修正に追い込まれたらどうするのだ、逃げ道を作っておかなくては」と思われるかもしれません。
ウインストン・チャーチルは、政治家に必要な資質として、以下の言葉を残しています。
「政治家に必要な能力とは、明日、来週、来月、来年何が起こるかを予言すること。そしてそうならなかったときに理由を説明できることである」と。変更を迫られた時は、また真摯に自分の言葉で説明すればいいのです。
総理、「言葉」の重みと発信の在り方について、どのようにお考えか?率直にご意見をお聞かせください。

さて、経済政策の根本について議論させていただきたいと思います。私は財政健全化を決して軽視はしておりません。財政が健全化の方向に向かうことは、政策の選択肢を増やし、諸課題に機動的に対応できることにほかならず、好ましいことだと考えています。
しかし一方で、近視眼的な増税によって財政が健全化するとは考えておりません。増税すれば税収が増え、財政が健全化すると短絡的に考えるのは、誤りです。
逆に減税してでも、消費や投資を増やし、経済を活性化することで、結果として税収が増え、財政健全化につながっていくと考えます。近年税収が毎年大幅に増加し、昨年度は過去最高の71兆円を記録し、これから数年は税収増が続くと予想されています。このことは今後の財政健全化にも資することでしょう。これは積極財政政策を取り続けてきた成果に他なりません。
今、「GDPギャップがプラスに転じたのだから、もう積極財政は必要がない、増税してもいい」という議論がありますが、賛成できません。
アベノミクスでデフレから脱却できなかった大きな原因の一つは、2本目の矢である財政出動が十分でなかった点にあると私は考えています。
アベノミクスが始まる前の2012年度とコロナ直前の2019年度を比較すると、国民から頂いた税と社会保険料は153兆円から192兆円へと約40兆円増加しているのに対して、国民に支出した国と地方自治体の歳出と社会保障給付は193兆円から209兆円と約15兆円しか増加していません。実は差し引き25兆円ほど緊縮した財政になっていたのです。
アベノミクスの間にも大きく2回GDPギャップがプラスに転じた時期がありました。しかし2回ともその直後に消費税を増税したことによって消費が落ち込み、GDPギャップは再び大きくマイナスに転じてしまいました。
総理、アベノミクスがやり切れなかった点を教訓にしなければなりません。GDPギャップがわずかにプラスに転じた今こそがデフレ脱却への正念場です。安易に緊縮財政や増税に走るのではなく、減税や積極財政と成長戦略によって今後も安定的にGDPギャップがプラスになることを確定させ、デフレ脱却を宣言し、本格的に税収を増して、結果として財政健全化を達成すべきだと考えますが、総理のお考えはいかがでしょうか?

経済対策策定の際に、規模の議論をすると、必ず「規模ありきではない、中身が重要」との批判にさらされます。私は規模も中身も重要と考えます。中身の吟味はもちろん重要です。しかしマクロ経済全体にどのようなインパクトを与えるべきか?規模の議論も極めて重要です。
今回の補正予算で行うべき物価高への対応や生活困窮世帯への給付は、現在行っている、あるいは過去に行った施策をレビューすれば自ずと規模感は導き出されます。
よく検討しなければならないのが、所信表明で総理が1番目のポイントとして挙げられた「供給力の強化」のために必要な対策の規模です。
確かに現在GDPギャップは縮小し、税収は右肩上がりではありますが、果たして、我が国の経済は本当の意味で成長しているのでしょうか。
現在の経済指標は、強い外需の影響によって引き上げられており、我が国の内側から湧き出てくる力強い成長があるとは思えません。
ここで重要になってくるのが総理のおっしゃる「供給力の強化」であり、その指標となるのが「潜在成長率」です。「潜在成長率」とは、わかりやすく言えば国内経済における供給能力の伸びであり、一時的な景気や物価に左右されない中長期的な経済力を表します。
9月の月例経済報告関係閣僚会議では、我が国の潜在成長率は0.5である一方、アメリカは1.8、カナダが1.5、英仏が1.2となっており、日本はG7諸国の中で最も低い水準と報告されています。現時点での日本の真の経済力は極めて低いと言わざるを得ません。
潜在成長率は、工場、機械などの設備の量を示す「資本」と、労働者数に労働時間をかけた「労働」、そして「生産性」の3つの要素で構成されます。
人口減少による働き手不足により、「労働」の増加には期待できない以上、設備投資による「資本」の拡大、新技術による「生産性」向上に向けて、大胆に予算を投下し、供給力を強化しなければ、潜在成長率、即ち、中長期的な経済力は上がってきません。
今後、労働力人口の減少が潜在成長率にマイナスに働くことを踏まえた上で、欧米並みの潜在成長率まで引き上げることを考えると、大規模な「資本」の増加、すなわち設備投資を増やすことが不可欠です。今回の経済対策と補正予算では、物価対策としての給付や減税に注目が集まっていますが、民間の設備投資を後押しする施策の内容と規模も極めて重要です。
総理は、潜在成長率を欧米並みに引き上げるための民間設備投資はどの程度必要と考えますか?またそのために政府としてどのような内容でどれくらいの規模の補助金や税制による支援が必要と考えますか? 具体的にお答えください。

もう一つ目を配っておかなくてはならないのは、不確実性の時代に突入している世界経済です。世界的なインフレ基調はいまだ根強く、それに伴う欧米の政策金利の上昇が、経済の下押し要因となっています。中国経済の急激な減速も大きな懸念材料です。米中対立の激化もまた、世界経済のリスク要因です。
途上国の債務問題は、深刻さを増しています。さらには、中東情勢の悪化により、エネルギー価格のさらなる高騰も予想されます。
こうした世界経済のリスクをしっかりと見据えたとき、今回の経済対策とその裏付けとなる補正予算の規模は、日本経済を下支えする観点からも極めて重要です。
今回の経済対策について、物価対策や生活困窮世帯の生活支援などを中心に意味のある「政策」を積み上げていくべきことは言うまでもありません。
しかし、同時に、真の日本の経済力をつけるための設備投資促進と世界経済のリスク対応に必要な経済対策の規模を吟味し、十分な、いや十二分な「規模」の対策とすることもまた、不可欠であります。
経済対策の「規模」を確保することについて、岸田総理の確固たる決意を伺います。

さて、供給力の強化にあたっては、薄く広く投資するのではなく、今後の日本の「食い扶持」となり得る分野に重点投資することも重要です。
自動車等の世界の消費者に売れる商品はもちろんですが、素材、工作機械など日本企業が強みを持つ産業について「強いものをさらに強くする」観点からの積極的な後押しが必要です。例えば、半導体製造装置については、世界市場で日本が依然として1/4程度のシェアを持っており、製造工程によっては日本企業が9割のシェアを有するものもあります。素材、工作機械といった産業は派手さはありませんが、世界各国の産業を維持する上でなくてはならないものです。こういった分野で日本企業のシェアを高め、知財を押さえ、価格決定権を握っていくことこそが、日本の生産性を高めることとなり、海外との交渉力強化にも直結します。
例えば、グリーン水素の製造については日本にはその基盤となる再生可能エネルギーの適地が少なく、将来世界で水素利用が普及した場合、日本は水素の輸入国になると予想されています。
しかし、現在日本が世界をリードしている水素製造技術、輸送技術、利活用技術をしっかり抑えておけば、将来にわたって、水素生産国との交渉力が高まり、水素を安定的に確保することが出来ます。
こういう分野の中長期的戦略を国として立てて、重点投資を行なっていくことは極めて重要であり、今回の経済対策にも盛り込まれるべきと考えますが、総理のお考えを伺います。

そして、経済安全保障もまた、国民生活に直結する極めて重要な課題です。
経済産業省で現在、新たな行動計画の検討が進んでいますが、とりわけ、重要鉱物や永久磁石、蓄電池、半導体、医薬品などの重要物資について、その供給を、特定国に過度に依存している現状は、早急に改善すべきです。
新型コロナウイルスが世界を覆ったとき、そして、現在も続くロシアによるウクライナ侵略が勃発した際にも、安定したサプライチェーンの重要性を、私たちは身をもって実感しました。
それだけではありません。私たちは過去に、レアアースの輸出規制で苦しんだ経験があります。ガリウム・ゲルマニウムの輸出管理も急遽始まりました。国民の暮らしや生産活動に不可欠な重要物資の供給を、特定の国に依存することは、それ自体が大きなリスクです。
経済的な威圧行動を予防、抑止するためにも、特定の国への重要物資の依存を低減し、サプライチェーンの多様化を進めていかなければなりません。
最大の課題は、一部の物資に関して特定の国が圧倒的な価格競争力を持っていることです。とにかく安い。そのために、特定国への依存度が上がってしまっている現実があります。
しかし、その値段の安さの原因が、もし、その国の政府による莫大な補助金であったとしたら、それは公正な競争とは言えません。CO2をたくさん排出し、環境への負荷を垂れ流すことで、コストを抑えているとしたら、それもまた見過ごすことはできません。強制労働によるコスト減も許容できません。
こうした点について、平等な競争条件を回復しなければ、強靱なサプライチェーンの構築など、絵に描いた餅になってしまいます。
そのためには、環境や労働・人権などの国際スタンダードを満たし、持続可能な形で生産された重要物資に対して、大胆な購入インセンティブを与えたり、政府調達で優遇するなど、新たな産業政策を進める必要があると考えます。サプライチェーン強靱化に向けた総理の見解を伺います。

国民が岸田政権に対し、もう一つ物足りないと感じているのは、スピード感ではないでしょうか。
例えば、民間も含めたAIや防衛関連技術の漏洩を防ぐセキュリティ・クリアランスの制度化にどれだけの時間をかけているのでしょうか。来年の通常国会に法案が提出されるとは聞いていますが、有識者会議などによる詳細な詰めはこれからだとも聞きます。もう導入は決まっているのですから、総理が明確に期限を切って気迫を見せしっかりと実行に移すべきです。
また、コロナ後の需要回復などにより、各地でタクシー不足・バス不足が顕在化し、地方における生活、観光が破綻しかかっています。ライドシェアについてもいつまでも議論するのではなく、期限を切ったスピード感を持って関係者の調整を行い、腹をくくって、実現しなければなりません。
岸田政権における政策実現のスピード感について、総理はどうお考えでしょうか?

外交に目を転じると、厳しさを増す国際情勢の中で、年が明ければ、台湾の総統選挙から始まり、欧州議会選挙、そして米国大統領選挙があり、英国下院でも総選挙があるとされています。世界的な選挙イヤーにあって、権力の空白が生じるかもしれない中、その隙を突いて国際政治がさらに混乱する事態が起こることも懸念されます。
我が国は、今年、G7の議長国でありましたが、引き続き、国際社会でしっかりとリーダーシップを発揮していく。世界と日本の安寧のための外交努力の重要性は、言うまでもありません。
これまで日本は、ウクライナ支援をはじめ様々な局面で、同盟国であるアメリカと常に同一歩調を取ってきています。一方でイスラエル・パレスチナ武装勢力間の武力衝突への対応に関しては、日本の対応とアメリカの対応には若干の違いも出てきています。こうした状況の中では、同盟国アメリカとの連携を最重視しつつも、「ついて行く外交」だけでなく、日本独自の存在感を示し、自ら「道を切り拓く」外交を模索していくべきではないでしょうか。
かつて日本はグローバルな外交の舞台での存在感が希薄でした。
しかし、今や日本は東アジアという世界で最も地政学的リスクが高い場所に位置する最大の民主主義国家であるという位置づけ。世界第3の経済大国で重要な技術を多数保有するという経済的重要性。そしてインドやインドネシアといったグローバルサウスのリーダー国やASEAN各国とは歴史的に良好な関係を構築してきたこと。さらには中東諸国とも独自の関係を築いていること。こうした各種の現実により、その存在感が大幅に増しています。
安倍元総理が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」は、今や自由主義を標榜する各国の間で共通の理念となっています。
岸田総理が提唱された、アジア各国が脱炭素化に向けて協調し、エネルギー安全保障を確保し、共に経済成長を目指すというアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)はアジア各国で高く評価されています。この夏、尾辻議長に同行してベトナムとシンガポールを訪問しましたが、両国要人と尾辻議長との会談でも、相手側からAZECについて何度となく話題として持ち出され、その期待の大きさに驚かされました。
経済的、歴史的、文化的な関係を大切にしつつ、大国と堂々とフェアに渡り合う。アジアの国々や地域の利益も踏まえた新しい枠組み構築に大きな役割を果たす。国と国との間に立って、汗をかく。これこそが、日本が独自の存在感を発揮していく道ではないでしょうか。
この観点から、焦眉の急となっている中東情勢とウクライナ情勢について申し上げます。
まず中東です。今、中東情勢が緊迫しています。多数の死傷者が出ている現状を深刻に憂慮しています。
我が国は、長年、中東地域の和平のため独自に力を尽くしてきました。ヨルダン川西岸に「平和と繁栄の回廊」を築く。その一つの実績でもあるジェリコの農産加工団地には、私も平成29年に経産大臣として足を運びましたが、日本として15年以上、我が国は、パレスチナの経済社会開発を通じ、中東和平の実現のために力を尽くしてきました。

豊かさこそが平和の苗床であり、繁栄こそが安定の基盤である。その信念こそが、我が国の中東外交の原点であります。
ですから、今、中東で起きている現実を目の当たりにするとき、大きな失望の念を禁じ得ません。
しかし私は、こうした時だからこそ日本の役割があると信じます。
8年前、当時の安倍総理が、イスラエル、パレスチナを含む中東各地を訪問した際、官房副長官として同行しましたが、その時の政策スピーチで引用された、中東に古くからある言葉を思い出します。
「中庸が最善」である、というものです。伝統を大切にし、中庸を重んじる態度。
過激主義ではなく漸進主義。
憎しみではなく、寛容。
イスラエルとも、アラブの国々とも、長年にわたり友好関係を築いてきた日本にしか出来ない平和外交の余地がある。そう信じています。岸田総理を先頭に日本政府には、事態の沈静化に向けて、国際社会と連携しながら、最大限の外交努力を尽くしていただきたいと思いますが、総理のお考えはいかがでしょうか?

次にウクライナ情勢です。一旦話が逸れるように見えるポーランドの話から申し上げたいと思います。
第一次世界大戦前、帝政ロシアにより政治犯として流刑に処されるなどして、シベリアには多くのポーランド人が暮らしていました。
そして、ロシア革命とその後の内戦で多くの子どもたちが親を亡くし、飢餓や病気に苦しむ中、ポーランドの救済委員会は、孤児たちを救出してくれるよう、当時シベリアに出兵していた各国に要請しました。
手をさしのべたのは、唯一日本だけ。それも要請からわずか2週間余りの短期間で支援を決めるという、異例の英断でありました。日本陸軍の手で、760人を超える孤児が助け出されたそうです。福井県敦賀の港では、子どもたちの到着を、町をあげて歓迎したと言います。
東京と大阪で献身的な看護を受ける中、日本中からポーランド孤児たちのためにと、服やお菓子、絵本などが送られてきたそうです。そして子どもたちは、日本で体調を回復し、祖国ポーランドの地を踏むことができました。
その中の一人、イェジ・ストシャウコフスキさんは、帰国後、教育者として、多くの貧しい子どもたちの世話をしました。今もワルシャワ近郊に、イェジさんの名前を冠した特別養護学校があります。
ロシアによるウクライナ侵略で、たくさんのウクライナの人々がポーランドに避難する中で、この学校では母子多数を施設に受け入れました。侵略直後ただちに決断したと言います。
校長先生は、こう語っています。
「日本が孤児たちに示した人道の精神を、私たちが示す番だった」
先人たちの気高い精神と、大胆な決断が、世紀を超えて、遠くポーランドの地に根づき、そして今、ウクライナの人たちを支えています。そのことに静かな誇りを持ちながら、100年後の今を生きる私たちもまた、先人同様、しっかりとウクライナへ独自の支援の手をさしのべるべきであります。
今この瞬間も、ウクライナの大地では、祖国の独立を守り、愛する家族を守るため、勇敢に戦っているウクライナの人々がいます。改めて、心からの連帯の気持ちを表明します。
年明けにも、日本政府が主導して、「日ウクライナ経済復興推進会議」が行われると聞いています。我が国として、ためらうことなく、できうる限りの支援を行っていく。そのためには、今回の経済対策で、ウクライナで事業展開する日本企業への新たな補助制度の創設、100%補助なども視野に入れたテコ入れなど、異例かつ、これまでにない、大胆な支援を行っていくべきと考えますが、岸田総理の決意をお伺いします。

最後になりますが、岸田総理、繰り返しになりますが、総理は今「いくら頑張って成果を出しても、国民から評価されない」という焦りの気持ちをお持ちではないでしょうか?
「拱手傍観、坐して敗るるを観ているのは果たして如何であろうか。・・・四夷に武威を示せ。」
安政三年、開国への圧力が高まる中で、松下村塾生の久坂玄瑞は、自分が思い描く攘夷が十分に実行できない日本の現状を憂い、自分一人でも結果を出したいと功を焦っていました。
これに対して、吉田松陰は、こう諭しました。「天下後世を以て己が任と為すべし」。
この国のことと、その未来をどうするかということこそを、自らの任務と自覚すべきである。目先の結果を出すことに焦るより、もっと大きな視点で取り組むべきだと説いたのです。
世界に目を向ければ、これまでにない荒波の中に、我が国は置かれています。国内に目を向ければ、物価の高騰、さらには少子高齢化に伴う諸問題は待ったなしの課題です。社会保障制度の再構築をはじめ根本から日本の構造改革を進めていかなければなりません。
岸田総理。どうか、こうした大きな課題。総理大臣という地位にある者にしかチャレンジできない課題にこそ、真正面からぶつかっていく。そのことに集中していただきたい。様々な声に耳を傾けることは重要ですが、目先のことに汲々とする必要はありません。
どうか、「天下後世を以て己が任となすべし」。
参議院自民党も、その思いで、共に、国内外の重要課題に立ち向かっていく。そのことを、同僚議員と共に、お誓い申し上げ、私の代表質問を終わります。