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政策国会国会演説

第201回国会における西村内閣府特命担当大臣(経済財政政策)の経済演説

西村内閣府特命担当大臣

一.はじめに

経済財政政策担当大臣として、我が国経済の現状と課題、政策運営の基本的考え方について、所信を申し述べます。

二.経済の現状と当面の経済財政運営

第2次安倍内閣が発足した2012年の年の瀬、我が国は経済の低迷やデフレに苛まれ、厳しい環境の中での船出であったことを思い起こします。私自身、経済財政政策担当の内閣府副大臣として、経済再生こそが最優先の課題と強く心に刻み、アベノミクスの立ち上げとその推進に全力を尽くしておりました。
その後、7年にわたるアベノミクスの推進を経て、我が国経済は、大きく改善しています。デフレではない状況を作り出す中で、GDPは名目・実質ともに過去最大規模に達しています。また、生産年齢人口が減少する中にあっても、就業者数は大きく増加し、過去最高となっております。
昨年10月には、高齢化が進展する中で社会保障の充実・安定化と財政健全化を同時に実現するため、2014年4月に続いて、消費税率の引上げを実施しました。軽減税率制度や臨時・特別の措置など各種の対応策を講じたこともあって、引上げ前の駆け込み需要やその後の落ち込みは、現時点では前回引上げ時ほどではないと見ています。

しかしながら、台風第19号など相次ぐ自然災害からの復旧・復興を加速するとともに、米中間の通商問題を巡る動向、中国経済の先行きや英国のEU離脱、中東地域を巡る情勢の影響等の海外発の経済の下方リスクに十分注意が必要な状況にあります。
こうした状況を踏まえ、経済の下振れリスクを確実に乗り越え、デフレ脱却と経済再生への道筋を確かなものとするために、昨年12月に、財政支出13兆円規模の「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」を閣議決定いたしました。
本経済対策に基づき、「15か月予算」の考え方の下、今年度補正予算や来年度臨時・特別の措置等を適切に組み合わせ、切れ目のない、万全なマクロ経済運営を進めていく所存です。
本経済対策の効果もあいまって、来年度の日本経済は、実質で1.4%程度、名目で2.1%程度の内需を中心とした成長を見込んでいるところです。

三.未来への投資と、中長期の経済活力の維持・向上に向けて

今、世界では、AI、IoT、ロボット、ビッグデータ、ブロックチェーンなどの新たな技術が経済社会に第四次産業革命と呼ばれる大きな変革をもたらしています。これらの変革は、人々の生活の向上につながり、世界各国の政府や企業はこれらを、自らの競争力強化につなげるべく激しく競争しています。中長期の経済活力の維持・向上のためには、我が国も新時代を拓くための投資の促進や制度の見直しを加速する必要があります。

(「デジタル・ニューディール」の展開)

足元の景気への対応と新時代を拓くための構造改革の両立が求められる中、先般の経済対策においては、単に需要を追加するのではなく、ワイズ・スペンディングの考え方の下、IT・デジタル技術の実装・普及、ポスト5Gの開発、量子・AIといった新たなフロンティアのイノベーションなど、Society 5.0の実現につながる未来への投資の促進策を重点的に盛り込みました。今こそ、国家戦略として「デジタル・ニューディール」を展開し、産業や国民生活のスマート化を推進してまいります。

同時に、新たな時代の技術を使いこなし、更なるイノベーションを生む人材の育成も重要です。生徒一人一人がIT端末を持ち、十分に活用できる環境を実現するための支援などを強く推し進めてまいります。

(未来への投資の促進と地域の活力の維持)

新時代を拓くための構造改革を進めるためには、第一に、新たな分野への投資の促進、第二に、デジタル社会の進展を踏まえたデジタル市場のルール整備やフィンテック・金融分野の法制の見直し、第三に、地域の社会構造の変化に対応し、地域インフラを維持できるような制度改正を特に進める必要があります。昨年12月に、これらを盛り込んだ「新たな成長戦略実行計画策定に関する中間報告」を取りまとめました。これに基づき、今国会ではデジタル・プラットフォーマー取引透明化法案や、金融サービスの決済法制の 改正や業態別の壁を破る「金融サービス仲介法制」の整備に係る法案、乗り合いバスや地方銀行への独禁法の適用除外を行う法案を提出する予定です。加えて、成長戦略の具体的な検討を更に進め、本年夏には新たな成長戦略実行計画を策定し、我が国の成長力の更なる強化を図ってまいります。

(賃上げの流れの継続)

外需が弱い中で、内需を確固たるものとし、経済を成長軌道に乗せていくためには、生産性向上の実現を通じ、中小企業も含め広く賃上げの流れが継続され、また一層力強いものとなることが必要です。

これまで今世紀に入って最も高い水準の賃上げが6年連続で実現しました。この流れを継続し、成長と分配の好循環を継続・拡大させていくため、政府としても、先般の経済対策や成長戦略実行計画を通じて、生産性向上に資する取組への支援を更に加速してまいります。

(海外の活力の取り込みと21世紀型ルールの拡大)

人口減少に直面する我が国が、今後も力強い成長を続けていくためには、海外の活力を積極的に取り込むことが不可欠です。
こうした中、1月1日に日米貿易協定が発効しました。発効から約一年となるTPP11、日EU・EPAも合わせれば、我が国を中心として、世界経済の六割を占める自由で公正なルールに基づくマーケットが誕生したこととなり、高い技術力を持つ中堅・中小企業の皆様や安全でおいしい食を支えてきた農林漁業者の皆様にとっても、大きなチャンスとなっています。この機を最大限に活かすべく、昨年12月に改訂した「総合的なTPP等関連政策大綱」に基づく施策を着実に実施し、中堅・中小企業を含む、日本企業・日本産品の海外市場における新しい市場の開拓、強い農林水産業・農山漁村の構築などに全力で取り組んでまいります。TPP については、署名国の早期締結を促すとともに、参加国拡大に向け、引き続き我が国が主導的な役割を果たし、自由で公正なルールに基づく自由貿易の秩序の維持・発展に取り組みます。

四.国民生活の安心の確保に向けて

我が国が新たなチャレンジを進めるには、まずは国民一人一人の皆様の先行きに対する安心感をより実感できるようにすることが重要です。

(全世代型社会保障)

安倍内閣にとって本年最大のチャレンジは、「全世代型社会保障」への改革です。この改革を成し遂げ、持続可能な社会保障制度を次世代に引き継いでいくという強い思いを持って、全世代型社会保障改革担当大臣として、引き続き全力で取り組んでまいります。
昨年九月に全世代型社会保障検討会議を設置し、お年寄りだけではなく、子供たち、子育て世代、さらには現役世代まで広く安心を支えていくため、働き方も含めた社会保障全般にわたる改革を検討してきました。昨年末には、少しでも多くの方に「支えられる側」ではなく「支える側」として活躍していただくことで、「支える側」と「支えられる側」のバランスを見直し、現役世代の負担上昇を抑えながら、全ての世代が安心できる社会保障制度を構築するという考え方の下、検討会議の中間報告を取りまとめました。本年夏の最終報告に向けて、与党や幅広い関係者の意見も聞きつつ、検討会議において、さらに議論を深めてまいります。 本通常国会では、厚生年金の適用拡大等の年金改革、70歳までの就業機会確保、中途採用・経験者採用の促進といった、中間報告において通常国会に必要な法案の提出を図るとされた項目について、法案が成立するよう万全を期してまいります。

(就職氷河期世代の方々への支援)

また、偶然にも就職活動の時期がバブル崩壊後の時期と重なってしまった就職氷河期世代の方々への支援については、お一人お一人の人生や我が国の将来に関わる重要な課題であり、その対策は待ったなしの状況です。このため、先般の経済対策において、3年間で安定的に取り組むために必要な財源を確保する方針を打ち出すとともに、相談・支援機関の強化・連携や、本人に対する支援策の大幅な新設・拡充を図ることとしました。併せて、地域の創意工夫を活かし、就労や社会参加の取組を支援する新たな交付金制度を創設しました。今後、昨年末に取りまとめた行動計画に基づき、就職氷河期世代に対象を絞った求人を解禁するなどの支援を着実に実施するとともに、この世代の方々の様々な事情やニーズに合ったものとなるよう、官民協働の会議体であるプラットフォームをはじめ、様々な機会を通じて当事者、支援団体、労使など関係者の声に真摯に耳を傾けながら、お一人お一人に寄り添った支援に取り組んでまいります。

五.新経済・財政再生計画の推進

財政の状況については、引き続き厳しい状況にあるものの、この八年間で、当初予算ベースでは、国・地方合わせた税収は30兆円以上増加し、新規国債発行額は約12兆円減少する見込みとなるなど、改善しています。引き続き、「経済再生なくして財政健全化なし」との基本方針の下、新経済・財政再生計画に沿って着実に取組を進め、2025年度の国・地方を合わせたプライマリーバランスの黒字化、債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指してまいります。このためにも、昨年末に、AIやクラウドなどデジタル技術を活用した行政の効率化や、行政手続のワンストップ化などによる住民サービスの質の向上を図る次世代型行政サービスの早期実現等を盛り込んだ改定改革工程表に基づき、引き続き、歳出改革を力強く推進してまいります。

六.むすび

本年は、オリンピック・パラリンピック東京大会が開催されます。躍動感あふれる新しい時代の幕開けであり、日本の新たな時代を切り拓く重要な一年です。その主役は国民一人一人や事業者の皆様であり、大きな変化をチャンスと捉え、それぞれの立場で一歩踏み出す勇気こそが未来を切り拓く力となります。政府としても、予算、税制、規制改革などあらゆる手段を講じ、支援してまいります。Society 5.0が浸透した未来において、2020年が新時代の大きな変革点であったと振り返られるよう、閣僚としての責務に全力を尽くしてまいります。

国民の皆様、議員各位の御理解と御協力をよろしくお願いいたします。