歴史を語り自負を示した
わが国の悠久の歴史の中から、自由と民主主義の在り方を解き明かした立党70年新ビジョン。思想史家で社会構想大学院大学教授の先崎彰容氏は、その内容を「これまで節目で示されてきた文書と比較しても、スケールが大きい」と高く評価します。「歴史の転換点」のただ中で示された新ビジョンについて策定本部でも講演した先崎氏に聞きました。

「今回のビジョンの特徴は国際情勢への配慮」と語る先崎彰容社会構想大学院大教授
「福祉国家の完成」への敏感な配慮
――これまでわが党が示してきた文書との比較は。
先崎 昭和30年の立党時にまとめられてきた文書は、世界的な共産主義の流れに自民党が対抗するという内容で、血気盛んなものでした。第二次大戦から10年という混乱冷めやらぬなかで、政治家も声が大きく、時代と堂々と対峙していた。「国家百年の大計」という言葉に、その頃の高揚した気分がうかがえます。
続く立党50年(平成17年)の文書では、当時の時代情勢を反映し、規制緩和を目指すことが論点の中心軸になっています。野党下野時代の平成22年の新綱領では、与党民主党を強く意識した内容となっており、自助・自立の重要性、財政規律の必要性が謳われています。
こうした経緯を振り返りつつ、今回のビジョンの特徴として、国際情勢への配慮がある点を挙げるべきでしょう。現在は日本を含めた先進国は成熟期を迎えており、70年前のような高揚感ではなく、むしろ冷静に時代に処する時代です。新ビジョンでは「歴史の転換点」を強調していますが、冷戦後の米国一強時代の完全な終焉を前にして、自民党はこれからの日本をどうかじ取りしていくのか。国際社会の混乱がそのまま国内の格差社会やポピュリズムに直結しているという緊張感への指摘が、今回のビジョンにはあります。
――「福祉国家の完成」という文言も新ビジョンには受け継がれています。
先崎 立党時の文書には、「福祉国家の完成」を国家百年の大計として位置付けています。戦前、子供の死亡率が高かった原因は、医療費を出せない家庭が、子供を医者に診せられなかったからです。岸信介内閣が行なった社会福祉政策は、子供からお年寄りまでの全包括的な政策でした。その結果、現在の私たちは世界に冠たる医療体制を築くことに成功した一方、激増する社会保障費に苦しむ状態に陥っています。また、医療費が高齢者支援のためのものと考えられ、国民に不公平感が生まれつつあります。全包括的政策が、ある特定の人たちの政策だと思われつつあります。今回、「福祉国家の完成」の在り方自体を問い直し、改めて「福祉国家の松明を受け継ぐ」と書いたことは、この点への敏感な配慮を示しているのだと思います。
――新ビジョンでは「歴史の転換点を乗り越える」として、憲法改正の必要性について強調しています。
先崎 「死活的に求められる憲法改正」と題されていますが、国際情勢が激動する中で、その転換点を乗り越えていくという自民党の覚悟と危機感の表れと受け止めています。
古来の伝統の中から見つけ出した「常若(とこわか)」
――先崎氏は策定本部のヒアリングで「刺さる言葉で保守を定義すべき」といったことを述べられました。今回のビジョンで保守政治の真髄を「常若」と表現したことについては。
先崎 日本古来の伝統の中から、見つけ出したものであり、非常に良い表現と感じました。伊勢神宮の式年遷宮は20年に一度行われます。その循環と自民党が常に政権が若返って70年続いてきた循環は符号するという発想から出て来たものでしょう。「常若」という言葉は耳なじみのない言葉かもしれませんが、それくらいの方がかえって印象に残るのではないでしょうか。
――「常若のサイクル」を自民党が続けていくために必要なことは。
先崎 民意が細分化し、情報も行き交う現代にあって、「国民政党」として多様な民意を捉えることがさらに難しくなっていくと思います。国民の感覚を敏感に受け止めると同時に、国際情勢の変化や日本の歴史や伝統といったさまざまな事象を感じながら、自らの国家観を磨き上げる「スケールの大きな人材」、「政治屋ではなく政治家」が輩出されることを、強く期待したいと思います。