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令和6年度予算及び税制法案の成立をうけて岸田内閣総理大臣記者会見(全文)

岸田内閣総理大臣

本日、令和6年度予算及び税制法案が成立いたしました。関係者の御協力に御礼を申し上げます。
震災対応を始め、重要施策を全速力で実行してまいります。令和6年度予算の1兆円の予備費の機動的な使用決定に向けて、被災地のニーズの酌み取りを始めるとともに、被害状況を踏まえ、被災地への復興基金設置の取組を進めます。
今回の予算や税法には、物価高を乗り越える所得増に向けた政策が数多く盛り込まれています。本日は、その実現のための道筋をより大きな視点から御説明をさせていただきます。
なお、今後、政治資金規正法の改正等に本格的に取り組んでまいります。政治とカネをめぐる諸問題については、質疑の中で丁寧に説明をさせていただきます。

私が衆議院議員に初当選してから約30年、デフレ経済をずっとこの目で見てきました。その間に主流だった議論は、企業の生産性が上がれば賃金が上がるというものでした。しかし、実際には企業収益が最も伸びたときですら、労働者の賃金は上がりませんでした。
2021年10月に私が政権を預かることとなった際、「新しい資本主義」を提唱し、成長と分配の好循環、賃金と物価の好循環を実現することこそが、私の使命だと思い定めました。
すなわち、まず賃金が上がる。その結果、消費が活発化し、企業収益が伸びる。それを元手に企業が成長のための投資を行うことで、生産性が上がってくる。そして、それにより、賃金が持続的に上がるという好循環が実現する。これによって、コストカット型の経済から成長型の新たな経済ステージへと移行していくことができる。
そのためには、長年にわたり染み付いたデフレ心理を払拭し、賃金が上がることは当たり前との方向に、社会全体の意識を一気呵成(いっきかせい)に変えなければならない。この強い確信の下、所得と成長の好循環に向けて、賃上げ、設備投資、スタートアップ、イノベーションを同時に拡大する思い切った手を打ってきました。時代に沿った新たな官民の連携を粘り強く呼び掛けてきました。

今、我々は、デフレから完全に脱却する千載一遇の歴史的チャンスを手にしています。昨年を大きく上回る春闘での力強い賃上げの流れ、労使の賃上げへの取組が大きく変わりつつあります。史上最高水準の設備投資、攻めの姿勢の企業が増え、海外からも大型戦略投資が相次ぎます。史上最高値圏の株価、変革を高く評価する市場と新NISA(少額投資非課税制度)に乗り出す個人投資家が主役です。こうした変革の勢いを見て、いよいよデフレ脱却宣言かと言われる方もおられます。
しかしながら、我が国のデフレ脱却への道は、いまだ道半ばです。抜け出すチャンスをつかみ取れるか、後戻りしてしまうか、これからの対応次第です。豊かな日本を次世代に引き継げるか否か。我々は数十年に一度の正念場にあります。これが経済の現状についての私の基本認識です。

だからこそ、春からの賃上げに加えて、6月からは一人4万円の所得税・住民税減税を行い、可処分所得を下支えすることとしました。官民が連携して、物価高を上回って可処分所得が増えるという状況を確実につくり、国民の実感を積み重ねていきます。
賃金が上がることが当たり前という前向きな意識を、社会全体に定着させていきます。物価と賃金の好循環を回し、新たな経済ステージに移行する上で最大の鍵は、全従業員の7割の方が働く中小企業の賃上げと稼ぐ力の強化です。総合的・多面的な対策を全力で講じてまいります。

第1に、適切な価格転嫁です。サプライチェーンの中で、大企業のみならず、中小企業にも適切に利益等が分配されなければなりません。このため、労務費の適切な転嫁が行われるよう、あらゆる手を尽くしていきます。
まず、賃上げを阻害する下請法違反行為について厳正に対処します。下請法違反行為については、1月以降だけで8社に勧告を実施しました。下請法の運用基準の強化を含めて、執行を強化します。
独禁法については、3月には公正取引委員会が、取組が不十分な事業者10社の企業名を公表する異例の対応をしました。引き続き労務費転嫁のための指針が徹底されているかを調べ、取引の改善を図るとの報告を受けています。

第2に、きめ細かい賃上げ支援です。賃上げ促進税制については、赤字企業も対象とし、中小企業全体の8割をカバーする、前例のない繰越控除措置が、4月から動き出します。
全就労者の14パーセントを占める医療や福祉の現場で働く方々に対しても、賃上げ実現が確実に届くように新たな仕組みを導入しました。建設業や物流業での賃上げのため、各種労務単価を大幅に引き上げます。また、個々の工事の下請契約等に反映させるための法案や、トラックドライバーの大幅賃上げのための法案を提出しました。

第3に、中小企業の人手不足対応の強化です。中小企業向けに省力化投資、自動化投資の支援を集中的に実施いたします。また、リ・スキリングを通じた労働生産性の向上、シニア世代の技術や知見を無理なくいかす仕組みづくりなどに取り組みます。

第4に、働く方への支援です。最低賃金についても、2030年代半ばまでに1,500円となることを目指すとした目標について、より早く達成できるよう全力を挙げています。パートや非正規で働く方の「年収の壁」対策については、既に20万人を超える方が、新たな支援制度の活用を予定しています。より多くの方に「壁」を乗り越えていただけるよう、引き続き予算面での制約を受けることなく、支援を拡大してまいります。

若い子育て世代への支援に向けては、児童手当の抜本的拡充、高等教育の負担軽減、児童扶養手当の拡充、育児休業給付の充実など、長年指摘されながら実現できなかった施策が動き出します。

中小企業を含め、日本の稼ぐ力を復活させる上で今後重要なのは、低廉で強靱(きょうじん)なエネルギーです。エネルギーの輸入によって海外に数十兆円が流出している現状は変えなければなりません。エネルギー安全保障が確保され、脱炭素につながり、国内で稼ぐ力を強くするエネルギー構造に転換していくための国家戦略の実行が不可避です。今後、2024年度中をめどとするエネルギー基本計画改定に向けて、議論を集中的に行います。

さらに、同計画の裏打ちとなるGX(グリーン・トランスフォーメーション)国家戦略を、昨年のGX推進戦略を更に発展する内容として展開します。

先週、日銀が、17年ぶりの金融政策の変更をしました。10年以上にわたって続いてきた異次元の金融緩和政策について、新たな段階へ踏み出すと同時に、前向きな経済の動きを更に確実なものにするとの観点から、緩和的な金融環境が維持されることは適切であると考えています。デフレ完全脱却のための最大の正念場に当たって、政府と日銀は、緊密な連携を堅持してまいります。

最後に、国民の皆様に物価高を乗り越える二つの約束を明確に申し上げます。まず、今年、物価上昇を上回る所得を必ず実現します。そして、来年以降に、物価上昇を上回る賃上げを必ず定着させます。
私からは以上です。