政策国会国会演説

第217回国会における岩屋毅外務大臣の外交演説

外交演説を行う岩屋毅外務大臣

第二百十七回国会に当たり、外交政策の所信を申し述べます。

情勢認識と基本方針

ウクライナ侵略が国際秩序を揺るがし、安全保障環境も厳しさを増す中、日米同盟の強化、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた同盟国・同志国との連携、グローバル・サウスとの連携の三点を重視し、我が国の平和と地域の安定を実現し、国際社会を分断から協調に導く外交を展開してまいります。

私は昨年十一月にウクライナを訪問し、侵略の現場を前にして、力による一方的な現状変更は世界のどこであれ許されないとの思いを強くいたしました。国際社会の随所で「法の支配」に大きな挑戦がもたらされる中、粘り強い外交を通じ、法の支配に基づく国際秩序を回復し、地域及び国際社会の平和と安定を確保することが必要です。

先般、私は韓国、フィリピン及びパラオを訪問し、地域情勢に関する連携を確認しました。また今週、米国、豪州、インドとの外相会談や日米豪印外相会合において、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力を確認したところです。引き続きこうした積極的かつ戦略的な外交を進めてまいります。

外交と防衛は国の根幹を成すものであり、車の両輪です。とりわけ「外交の失敗は国を誤る」との認識の下、使命感と緊張感を持って全力で職務にあたってまいります。

日米同盟の強化

去る二十日、米国ではトランプ政権が発足し、私自身も大統領就任式に出席いたしました。ルビオ国務長官との会談では、日米関係を一層強化するとともに、来る日米首脳会談が有意義なものとなるよう、今後も緊密に連携することで一致しました。

日米同盟は、我が国の外交・安全保障の基軸であり、その充実・強化は石破政権の最優先事項です。トランプ政権との間でも、強固な信頼関係を構築し、グローバル・パートナーとしての日米協力を更に高みに引き上げてまいります。

日米同盟の抑止力・対処力の一層の強化、拡大抑止の信頼性と強靱性の強化、在日米軍の態勢の最適化に向けた取組を進めます。同時に、普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指して辺野古移設を進めるなど、沖縄を始めとした地元の負担軽減と米軍の安定的駐留に取り組んでまいります。

また、経済面での協力も重要です。日米間の投資の拡大に向けた取組、先端技術分野における協力、インド太平洋地域の持続的・包摂的な経済成長のための協力といった、経済分野における幅広い日米協力を更に拡大・深化させてまいります。

そして、重層的な人的交流も一層強化してまいります。

同盟国・同志国連携

「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けては、G7、ASEAN、豪州、インド、韓国、EU、NATOなどとの協力関係を更に強化し、日米豪印、日米韓及び日米比を始め、実践的な協力を広げてまいります。

日本自身の取組

我が国が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面する中、国家安全保障戦略の下、防衛装備移転、OSA(政府安全保障能力強化支援)の推進や、サイバー安全保障分野での対応能力の向上に取り組んでまいります。 また、テロ及び暴力的過激主義の脅威、サイバー犯罪を含む国際組織犯罪への対策は、引き続き重要な課題です。こうした分野においても、我が国自身の取組や国際的な協力関係を強化してまいります。

同盟国・同志国と密接に連携しつつ、サプライチェーンの強靱化や経済的威圧への対応、重要・新興技術の保全・促進など、経済安全保障の課題にも引き続き全力で取り組んでまいります。

偽情報の拡散といった国際的な情報戦に対しては、情報の収集・分析能力の向上、適時適切な発信とともに、情報セキュリティ基盤の強化にも取り組んでまいります。同時に、SNSを通じた発信を強化するなど、外交政策に対する国民の理解と支持を得るための情報発信に努めてまいります。

近隣諸国などとの関係

近隣諸国などとは、難しい問題に正面から対応しつつ、未来志向の安定的な関係を築いてまいります。

日本と中国の間には、様々な可能性があると同時に、尖閣諸島情勢を含む東シナ海、南シナ海における力による一方的な現状変更の試みや、我が国周辺での一連の軍事活動を含め、多くの課題や懸案が存在しています。

台湾海峡の平和と安定も重要であり、さらに、中国の人権状況や香港情勢についても深刻な懸念を有しています。

しかし、その上で日中両国は、地域と世界の平和と繁栄に対して大きな責任を負っています。 昨年、石破総理と習近平主席の間で確認したように、「戦略的互恵関係」を包括的に推進するとともに、「建設的かつ安定的な関係」を構築するという大きな方向性の下、課題と懸案を減らし、協力と連携を増やしていくために互いに努力していかねばなりません。昨年の訪中で、私は王毅外交部長とそのための対話を行ってまいりました。

ALPS処理水の海洋放出と日本産水産物の輸入規制に関する日中両政府による発表に基づき、中国による日本産水産物の輸入回復を早期に実現するよう引き続き求めてまいります。また、拘束されている邦人の早期釈放、在留邦人の安全確保にも全力を尽くしてまいります。

日本と韓国は互いに国際社会の様々な課題にパートナーとして協力すべき重要な隣国です。日本政府として、今般の韓国国内の一連の動きについては、引き続き特段かつ重大な関心をもって注視してまいりますが、現下の戦略環境の下、日韓関係の重要性はいささかも変わりません。先般の私の韓国訪問においても、チョ・テヨル外交部長官との間で、北朝鮮への対応も含め、引き続き、日韓・日米韓が緊密に連携していくことを確認しました。韓国側とは、今後も緊密に意思疎通してまいります。

一方、竹島については、歴史的事実に照らしても、国際法上も、日本固有の領土であるとの基本的な立場に基づき、毅然と対応してまいります。 日中韓の協力も、大局的な視点から、地域及び世界の平和と繁栄にとって重要であり、議長国としての取組を着実に進めてまいります。

北朝鮮の核・ミサイル開発は断じて容認できません。また、北朝鮮兵士のウクライナに対する戦闘への参加といった、露朝軍事協力の進展は、ウクライナ情勢のみならず、我が国周辺地域の安全保障に与える影響の観点からも、深刻に懸念しています。引き続き、関連安保理決議の完全な履行に向け国際社会と緊密に連携してまいります。

日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化を実現するとの方針に変わりはありません。

全ての拉致被害者の一日も早い御帰国を実現するとともに、北朝鮮との諸問題を解決するため、総理自身の強い決意の下、総力を挙げて最も有効な手立てを講じてまいります。

ロシアによるウクライナ侵略への対応

ロシアによるウクライナ侵略を終わらせ、一日も早く公正で永続的な平和を実現するため、G7を始めとする国際社会と連携して、ウクライナ支援と対露制裁を強力に推進してまいります。ウクライナの復旧・復興支援についても、官民一体で取組を強化してまいります。

日露関係は引き続き厳しい状況にありますが、その責任を日本側に転嫁することは受け入れられません。ロシア側による一方的な発信や措置には毅然と対応してまいります。同時に、日露間には隣国として解決しなければならない懸案事項もあり、ロシア側との意思疎通を適切に行っていく必要があります。

北方領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持しつつ、最優先事項の一つである北方四島交流・訪問事業の再開については、特に北方墓参に重点を置いて事業の再開を強く求めてまいります。

中東情勢への対応

中東情勢は、引き続き予断を許しません。ガザ情勢をめぐって、人質の解放と停戦に関する合意が当事者間で成立したことは重要な一歩であり、歓迎いたしますが、その誠実かつ着実な履行を通じて、人道状況の改善と事態の沈静化に繋げていくことが必要です。

シリアにおいては、シリア人による対話を通じた包摂的な政治的解決が実現することを強く望んでおり、そのための支援を行ってまいります。イスラエルとレバノンの停戦合意の完全な履行も不可欠です。

引き続き、G7や国連を始めとする関係国・機関と緊密に連携しながら、事態の早期沈静化、人道状況の改善、そして中長期的な地域の平和と安定の確立に向け、外交努力を重ねてまいります。

地域外交の推進

多様化する国際社会において、グローバル・サウスとの連携も極めて重要です。特に、アフリカとの関係については、本年8月に横浜で開催する第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)の機会も捉え、これまでの日本の取組を土台に様々な課題への解決策を共に創り上げるべく、取り組んでまいります。ODAやOSAも活用し、丁寧な対話を通じたきめ細やかな外交を進め、ODAについては、民間資金動員の促進などの新しい仕組みを導入してまいります。

海上交通の要衝であり世界の成長センターである東南アジアとの連携を進めるとともに、太平洋島嶼国との間でもそのニーズを踏まえた協力を強化してまいります。

また、「中南米外交イニシアティブ」に基づく中南米諸国との協力を強化してまいります。

文化・人的交流の促進

国際社会の平和と安定のためには、国家間のみならず人と人の交流による相互理解の促進が重要です。各国との人的交流を一層推進するとともに、文化外交を精力的に展開し、対日理解の促進に注力してまいります。

経済外交

日本経済の成長や地方創生に貢献すべく、日本企業の海外展開、日本産食品の輸出拡大、対日直接投資の推進を後押ししてまいります。在外公館では、公館長自ら先頭に立ち、経済広域担当官や日本企業支援担当官も活用して日本企業をバックアップするとともに、対日直接投資を促進してまいります。

そして、二〇二五年大阪・関西万博、二〇二七年国際園芸博覧会の成功に向けた取組を推進してまいります。

ルールに基づく自由で公正な経済秩序の維持・拡大も重要です。多角的貿易体制の一層の強化のためのWTOの改革、CPTPPを始めとする経済連携協定の推進、安全、安心で信頼できるAIの実現や、信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)の推進を含む新興分野での国際的なルール作りに取り組んでまいります。

多国間外交の推進

本年、国連が創設八十周年を迎える中、分断や対立が深刻化する国際社会を融和と協調に導くべく、安保理改革を含め国連の機能強化に取り組んでまいります。

女性・平和・安全保障、いわゆるWPSに関する国連加盟国ネットワークの二〇二五年共同議長国として、人権や女性参画に根ざした外交を引き続き推進してまいります。

核軍縮・不拡散については、NPT体制を維持・強化し、「核兵器のない世界」の実現に向けた現実的で実践的な取組を行ってまいります。

ALPS処理水の海洋放出の安全性については、IAEAと緊密に連携し、科学的根拠に基づき、高い透明性をもって国内外に丁寧に説明し、理解を得てまいります。

地球規模課題の解決

気候変動、国際保健、防災といった地球規模課題については、人間の安全保障の理念の下、二〇三〇年までのSDGsの達成に向けて、取組を加速してまいります。また、ポストSDGsを見据えての国際的なルール形成を主導します。国際機関における邦人職員の活躍も一層後押ししてまいります。

外交・領事実施体制の抜本的強化

これらの取組に向けて、人的体制の強化、財政基盤の充実、業務の合理化・DXや働き方改革の推進など、外交・領事実施体制の抜本的強化に取り組んでまいります。また、緊急事態対応や邦人保護、情報保全対策などに万全を期すため在外公館の強靱化を推進します。

結語

以上の所信の下、我が国がこれまで、平和国家として築いてきた国際社会からの信頼の土台の上に、「対話と協調の外交」を戦略的かつ精力的に進めてまいります。議員各位、そして国民の皆様の御理解と御協力を心よりお願い申し上げます。