政策国会国会演説

第217回国会における赤澤亮正内閣府特命担当大臣(経済財政政策)の経済演説

経済演説を行う赤澤内閣府特命担当大臣(経済財政政策)

一.はじめに

石破総理は、施政方針演説において、「危機管理を確立し、賃上げと投資が牽引する成長型経済を実現するとともに、人財尊重を基軸として、楽しさを実現できる、バランスの取れた国づくり」を目指すという決意を明らかにされました。我が国は、かつて、「強さ」や「豊かさ」を追求し幾多の国難を乗り越えてきましたが、直面する人口減少に伴う諸課題に対応するためには、新たに、国民一人一人にとっての「楽しさ」という価値を重視する社会づくりが求められています。
私は、こうした認識の下、全ての国民の皆様が安心・安全と楽しさを実感できる新しい日本を創ることを目指し、経済財政政策担当大臣として、所信を申し述べます。

二.経済の現状認識と当面の経済財政運営

(経済の現状認識)

我が国経済は、現在、六百兆円超の名目GDP、三十三年ぶりの高い水準となった賃上げが実現するなど、成長と分配の好循環が動き始めています。その一方、物価高が継続する中で、消費は力強い回復には至っておらず、あらゆる経済主体がデフレマインドを払拭して、コストカット型経済から脱却し、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」に移行できるかどうかの分岐点にあります。

(当面の経済財政運営)

こうした中、昨年十一月には、「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」を取りまとめました。「日本経済・地方経済の成長」、「物価高の克服」及び「国民の安心・安全の確保」という三本の柱の取組みを実行します。その裏付けとなる令和六年度補正予算を速やかに執行するとともに、これと一体的に編成した令和七年度予算を着実に実行に移し、切れ目のない経済財政運営を推進します。
このような当面の経済財政運営の効果も勘案し、令和七年度の我が国経済は、実質で一・二%程度、名目で二・七%程度の成長を見込みます。

三.日本経済・地方経済の成長

経済対策の三本の柱に沿って、具体的な取組みを申し述べます。第一の柱は、全ての世代の現在及び将来にわたる賃金・所得を増やす「日本経済・地方経済の成長」です。

(賃上げ環境の整備)

まず、足元の賃上げに向けた環境の整備についてです。地域の中堅・中小企業を含め、物価上昇を上回る賃上げを普及・定着させるため、人への投資、価格転嫁等の取引適正化、DX等の省力化投資等を通じた生産性向上や経営基盤の強化に資する事業承継・M&Aの支援に取り組みます。
最低賃金の引上げを後押しし、二〇二〇年代に全国平均一五〇〇円という高い目標の達成に向け、たゆまぬ努力を継続します。このため、今後の中期的な引上げ方針について、政労使の意見交換において議論を行い、本年春までに、最低賃金の引上げに向けた対応策を取りまとめます。
全世代にわたるリ・スキリング、ジョブ型人事の導入や労働移動の円滑化からなる三位一体の労働市場改革を推進します。
賃上げ原資の確保に資する価格転嫁は一定程度進捗し、人件費の比率が高いサービスの価格も上昇してきています。価格転嫁を更に徹底するため、発注者・受注者間の取引の実態調査の結果等を踏まえ、公正取引委員会を中心として、下請代金支払遅延等防止法の執行を強化するとともに、コストが上昇する中での価格の据置き等の不適切なケースに対応するため、今国会に同法の改正案を提出します。

(地方創生2.0)

地方創生は、「楽しい日本」を実現するための政策の核心です。賃金・所得の増加を全国津々浦々に波及させるとともに、元気な地方から元気な日本をつくる試みを全国的に広げていくため、今後十年間集中的に取り組む「基本構想」を策定した上で、「地方創生2.0」を展開することとし、それに先立ち、令和七年度の地方創生の交付金は、本年度比で倍増となる二千億円を計上しました。
地域の産官学金労言が連携し、知恵と情熱を活かして潜在力を引き出そうとする取組みとして、例えば、Web3、ブロックチェーン技術、NFTといったデジタル技術を活用し、地域資源のアナログの価値を大幅に高め、新たな需要創出につなげる取組みを後押しします。
「地方創生2.0」では、かつての優良な取組事例が特定の地域という「点」に止とどまったという反省も踏まえ、今後、面的な広がりを生み出すため、「地方イノベーション創生構想」及び「広域リージョン連携」を推進します。これらに、「若者や女性にも選ばれる地方」づくり、「産官学の地方移転と創生」及び「新時代のインフラ整備」を合わせ、五本の柱からなる「令和の日本列島改造」として、大胆な変革を起こしてまいります。

(「投資立国」及び「資産運用立国」の実現)

将来の賃金・所得を増やすため、成長分野において、思い切った官民連携の投資が行われる「投資立国」に向けた取組みと合わせ、貯蓄から投資への流れを確実なものとし、国民の資産形成を後押しする「資産運用立国」の取組みを推進し、我が国経済を高付加価値創出型の成長型経済へと転換してまいります。
科学技術の振興・イノベーションの促進、GXやAI・半導体に関する国内投資の促進、宇宙・海洋分野のフロンティア開拓に取り組むほか、スタートアップへの支援を充実します。特に、我が国が再び世界の半導体市場を牽引できるよう、ラピダスを始め、未来に挑戦する半導体産業を強力に支援します。また、NISAやiDeCoの充実等を進めてまいります。

(海外の経済活力の取り込み及び経済連携の推進)

私は、一月二十一日に開催されたダボス会議において、人口減少下にある我が国は、人手不足に直面する一方で、諸外国のように失業率の上昇を心配することなく、賃上げや生産性向上に注力できる。政治においても、少数与党の状況では、むしろ、幅広い国民の皆様の納得と共感が得られる政策を導き出すことができる。正に、ピンチをチャンスに変える絶好機を迎える日本は、今後、大いに「買い」である、そして、内外の要人に対し、本年開催される大阪・関西万博に、多くの方々に御来場いただきたいと訴えてまいりました。
海外の経済活力を取り込むため、対日直接投資の拡大に強力に取り組みます。あわせて、農林水産品の輸出や中小企業の海外展開を促進するほか、諸外国との経済連携を強化します。特に、自由貿易や開かれた競争的市場、ルールに基づく貿易システム及び経済統合を更に促進していく上で大きな意義を有するCPTPPについては、コスタリカの加入交渉や協定内容の見直し等を通じ、自由で公正な経済秩序の維持・拡大に向け、引き続き、我が国としてイニシアティブを発揮してまいります。

四.物価高の克服

第二の柱は、誰一人取り残されない形で、成長型経済への移行に道筋をつける「物価高の克服」です。
当面の措置として追加的に実施する低所得世帯への給付金の支援については、多くの市区町村で給付に向けた手続きを進めていただいているところです。給付事務を担う市区町村には、支援を迅速にお届けできるよう、一層のお力添えをよろしくお願いいたします。
LPガスや灯油を使用する生活者や事業者、医療・介護・保育施設等への支援、学校給食費の支援など、地域の実情に応じたきめ細かい物価高対策を引き続き講じてまいります。

五.国民の安心・安全の確保

第三の柱は、成長型経済を支える「国民の安心・安全の確保」です。
梨の一大産地である鳥取県では、その生産に必要となる花粉を輸入に依存せず、自ら花粉専用樹を計画的に育成してきました。その結果、果樹に大きな被害をもたらす「火傷病(かしょうびょう)」の世界的な感染拡大を受け、発生国産の花粉の輸入が禁止されても、梨の生産を安定的に継続することができただけでなく、花粉の調達が困難な他産地にも供給し、それらの生産を支えました。これは、鳥取県が我が国の食料安全保障にも寄与した危機管理の取組事例ですが、私は、平時からの備えを万全にしておくことは、成長型経済への移行に向けた必須の条件であると考えます。

(防災・減災・国土強靱化)

東日本大震災、令和六年能登半島地震等の自然災害からの復旧・復興、避難所環境の整備など、防災・減災・国土強靱化の取組みを推進します。人命・人権最優先の「防災立国」を実現するため、令和七年度には、内閣府防災担当の機能を予算・人員の両面から抜本的に強化することとしました。その上で、災害発生時の司令塔機能を更に強化するとともに、防災業務の企画立案機能を飛躍的に高め、平時から万全の備えを行う「本気の事前防災」に取り組むため、令和八年度中の防災庁設置に向け、準備を加速してまいります。

(全世代型社会保障・少子化対策)

今後、本格的に人口減少が進み、超高齢社会に入っていく中にあっては、国民の皆様に安心していただける社会保障制度を構築することが不可欠です。現役世代の負担を軽減するため、若者・子育て世代への支援を強化するとともに、増加する社会保障給付を重点化・効率化しつつ、能力に応じて皆で支え合う仕組みを構築してまいります。
女性や高齢者の皆様も含めて、全ての国民が意欲や能力に応じて楽しく働き続けることが可能となれば、生涯所得が増えるほか、健康寿命の延伸や幸福度の向上につながることも期待されます。働き方に中立的な社会保障制度とすることによって、必要な労働力を確保しつつ、支え手を増やします。
こうした方向性の下、全世代型社会保障を構築するための改革工程に掲げられた具体的な改革項目について、被用者保険の更なる適用拡大など、実現できるものから着実に実施します。また、少子化への対応は地方創生と表裏一体をなすものであり、「若者や女性にも選ばれる地方」を構築してまいります。

六.経済財政運営の基本的考え方

(経済の再生と財政健全化)

ここまで申し述べた対応を含め、引き続き、「経済あっての財政」との考え方の下、経済財政運営を推進してまいります。
本年一月の「中長期の経済財政に関する試算」では、二〇二五年度の国・地方のプライマリーバランスは黒字化しないものの、二〇〇一年度に目標を掲げた以降、最も赤字幅が縮小する見通しを示しました。財政状況は、着実に改善しています。潜在成長率の引上げに重点を置いた対応を進めるとともに、歳出・歳入両面の改革を継続します。「経済・財政新生計画」の枠組みの下、骨太方針二〇二五において、早期のプライマリーバランス黒字化の実現を含め、今後の財政健全化に向けた取組みを示してまいります。

七.むすび

私は、人口が全国で最も少ない地元「鳥取県からの地方創生」を実現したいと考えています。先の総選挙でも、最低賃金の近傍で働き、年収が二百万円に満たないと見られる地元の若者やシングルマザーの方々から、「暮らしていけるようにしてください」という差し迫った要望を頂きました。
生活保護を受けずに働くという決断をしてくださったにもかかわらず、明日の心配なく暮らしていけないという現状を必ず変える。これは、政治の重大な使命です。地方創生の取組みによって地域の稼ぐ力を高めるとともに、鳥取県を含む最低賃金が低い多くの地域はもとより、全都道府県の水準を引き上げ、全ての働く国民の皆様が、明日の心配のない生活を営めるようにしたい。働くことができない国民の皆様も、しっかりお支えしたい。そうした強い思いを持って、今日まで政治活動を続けてまいりました。
私は現在、石破内閣において、現行憲法下初の「賃金向上担当大臣」を拝命しています。人手不足が常態化する中にあって、最低賃金を二〇二〇年代に全国平均で一五〇〇円まで引き上げるとともに、地域間の格差を是正する。私に切実なお声を寄せてくださった方々との約束を果たすためにも、この目標の達成に向け、全力で取り組んでまいる所存です。 国民の皆様、議員各位の御理解と御協力をよろしくお願い申し上げます。