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政策国会国会演説

第208回国会における林外務大臣の外交演説

第208回国会における林外務大臣の外交演説

第208回国会に当たり、外交政策の所信を申し述べます。

(時代を画する変化の中、三つの覚悟を持って日本外交を切り拓く)

現在、国際社会は時代を画する変化の中にあります。国際社会のパワーバランスの変化が加速化・複雑化し、日本を取り巻く安全保障環境も厳しさと不確実性を増しています。

そうした中、これまで国際社会の平和と繁栄を支えてきた、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値や国際秩序が厳しい挑戦にさらされています。また、革新的技術の出現などにより、安全保障と経済を横断する領域で様々な課題が顕在化するなど、安全保障の裾野が急速に拡大しています。

同時に、気候変動、新型コロナ、軍縮・不拡散といった地球規模課題への対応も立ち止まることは許されません。新型コロナからの回復を支えるためにも、自由で公正な経済秩序の拡大や、デジタル分野を含め、新しい時代に対応したルール作りや国際秩序の構築が求められています。

こうした認識に立ち、先人たちの努力により世界から得た日本への信頼を基礎に、普遍的価値を守り抜く覚悟、日本の平和と安定を守り抜く覚悟、そして人類に貢献し、国際社会を主導する覚悟、これら三つの「覚悟」を持って、対応力の高い、「低重心の姿勢」で、日本外交の新しいフロンティアを切り拓いていきます。

(厳しさを増す安全保障環境への対応)

まずは、日米同盟の強化です。日米同盟はインド太平洋地域の平和と繁栄の礎であり、日本の外交・安全保障の基軸です。岸田内閣においても、先般の日米「2+2」においてブリンケン国務長官、オースティン国防長官と確認したように、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していきます。そのためには、日本自身の防衛力の抜本的な強化も必要です。日本の平和と安全の確保、「自由で開かれたインド太平洋」の実現、新型コロナや気候変動への対応などの課題に対し、日米両国の強固な信頼関係の下、緊密に連携・協力していきます。その中で、普天間飛行場の1日も早い辺野古移設を始め、地元の負担軽減と在日米軍の安定的駐留に全力を尽くします。

また、日本を取り巻く厳しい安全保障環境に対処するため、国家安全保障戦略の改定に、関係大臣との協力の下、取り組んでいきます。

(「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組の推進)

次に、「自由で開かれたインド太平洋」の実現です。インド太平洋地域において、法の支配に基づく自由で開かれた秩序を実現することにより、地域全体、ひいては世界の平和と繁栄を確保していくというこのビジョンは、今や国際社会で幅広い支持を集めています。米国を始め、豪州、インド、ASEAN、欧州などの同盟国・パートナー国と連携し、日米豪印等も活用しながら、その実現に向けた取組を一層推進していきます。

(近隣諸国などとの関係)

近隣諸国との関係については、難しい問題に正面から毅然と対応しつつ、安定的な関係を築くべく、積極的に取り組みます。

日中両国間には隣国であるが故に様々な懸案も存在します。尖閣諸島周辺海域を含む東シナ海における一方的な現状変更の試みは、断じて認められません。冷静に、かつ、毅然と対応していきます。また、南シナ海をめぐる問題についても、緊張を高めるいかなる行為にも強く反対し、力や威圧によらない、国際法に基づく紛争の平和的解決の重要性を強調していきます。台湾海峡の平和と安定も重要です。加えて、香港情勢や新疆ウイグル自治区の人権状況についても深刻に懸念します。同時に、日中関係は、日中双方にとってのみならず、地域及び国際社会の平和と繁栄にとって重要です。主張すべきは主張し、責任ある行動を求めつつ、共通の諸課題については協力することにより、本年国交正常化50周年を迎える中で、「建設的かつ安定的な日中関係」の構築を目指します。

韓国は重要な隣国です。北朝鮮への対応を始め、地域の安定にとって日韓、日米韓の連携は不可欠です。日韓関係は、旧朝鮮半島出身労働者問題や慰安婦問題などにより非常に厳しい状況にありますが、このまま放置することはできません。国と国との約束を守ることは国家間の関係の基本です。日韓関係を健全な関係に戻すべく、日本の一貫した立場に基づき、韓国側に適切な対応を強く求めていきます。また、竹島は、歴史的事実に照らしても、かつ、国際法上も日本固有の領土です。この基本的な立場に基づき、毅然と対応していきます。

ロシアとは、平和条約締結問題を含む政治、経済、文化など、幅広い分野で日露関係全体を国益に資するよう発展させていきます。最大の懸案である北方領土問題の解決のために、首脳間及び外相間で緊密に対話を重ねることが必要です。次の世代に先送りせず、領土問題を解決して平和条約を締結するとの方針の下、2018年のシンガポールでの首脳会談のやり取りを含め、これまでの両国間の諸合意を踏まえてしっかりと取り組んでいきます。また、元島民の方々のための人道的措置や北方四島における共同経済活動の更なる具体化に向けた取組の着実な進展を図ります。

北朝鮮との間では、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化の実現を目指します。今後とも、日米、日米韓の3か国で緊密に連携するとともに国際社会とも協力しながら、関連する国連安保理決議の完全な履行を進め、北朝鮮の完全な非核化を目指します。また、政権の最重要課題である拉致問題について、全ての拉致被害者の1日も早い帰国を実現すべく、全力で取り組みます。

(地域外交の課題)

日本外交が培ってきた信頼を基礎に、地域外交を推進していきます。

ASEANとの関係強化は地域全体の安定と繁栄にとって重要です。友好協力50周年となる来年、日ASEAN関係を新たな段階に引き上げるべく、「自由で開かれたインド太平洋」と「インド太平洋に関するASEANアウトルック」とが共有する本質的な原則の強化に資する具体的協力を進めます。また、ミャンマー情勢については、国際社会と連携しつつ事態打開に向けて取り組んでいきます。

今年は日本・南西アジア交流年です。この節目の年に、南西アジア各国との交流を一層深化させます。

中東地域の緊張緩和と情勢の安定化のため、中東諸国との伝統的な友好関係及び米国との強固な同盟関係を活かし、様々な外交努力を通じて貢献していきます。アフガニスタン情勢については、日本に関係する方々の出国支援を継続するとともに、周辺国を含めた人道支援の実施やタリバーンへの働きかけなど、安定化に向けた取組を続けていきます。また、世界の主要なエネルギーの供給源である中東地域の海域において航行の安全を確保すべく、引き続き、対策を徹底していきます。

新型コロナがアフリカの社会・経済にも甚大な影響を及ぼす中、国際的な連携が今こそ重要です。本年開催予定の第8回アフリカ開発会議、TICAD8を通じ、アフリカ自身が主導する発展を力強く後押しし、ポストコロナも見据え、アフリカ開発の針路を示していきます。

また、中南米や外交関係樹立30周年を迎える中央アジア・コーカサス諸国など、法の支配に基づく国際秩序を維持・強化していくパートナーであり、かつ、経済的にも重要な国々との関係を、一層強化していきます。

(自由で公正な経済秩序の拡大)

自由で公正な経済秩序の拡大に向けた国際的取組を主導していきます。

経済安全保障は岸田内閣の最重要課題の1つであり、政府一丸となって取り組んでいます。外務省としても、国際法上の観点も踏まえつつ、同盟国・同志国との連携強化や新たな課題に対応する規範の形成など、積極的に貢献していきます。

世界で保護主義的な動きが広がる中、日本は自由貿易の旗振り役としてリーダーシップを発揮し、ルールに基づく多角的貿易体制の維持・強化に取り組んできました。引き続き、TPP11協定のハイスタンダードの維持やRCEP協定の完全な履行の確保に取り組むとともに、WTO改革を主導し、APECでも取組を強化していきます。

エネルギー・鉱物資源の安定的な確保や日本企業の海外展開支援にも、引き続き積極的に取り組みます。日本産食品に対する輸入規制措置については、多くの国・地域で撤廃・緩和を実現してきており、全ての国・地域における撤廃に向け、政府一丸となって働きかけていきます。また、2025年大阪・関西万博の成功に向け引き続き力強く取り組みます。

ポストコロナで重要性を増すデジタル分野においては、関係国やOECDなどとも連携しつつ、信頼性のある自由なデータ流通、「DFFT」の実現に向け、WTO電子商取引交渉など、国際的なルール作りで中心的な役割を果たします。また、サイバー空間の脅威が高まる中、サイバー犯罪への効果的な対策やサイバー空間における法の支配の推進に取り組みます。

宇宙空間についても、米国や同志国との連携の下、持続的かつ安定的な利用の確保に向けた国際的なルール作りや国際協力を推進していきます。

(地球規模課題への対応)

人間の安全保障の理念に立脚し、地球規模課題への対応に主導力を発揮し、国際社会での日本の存在感を高めていきます。

積極的かつ戦略的なODAの活用を通じ、SDGs達成を始めとする地球規模課題への取組や「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組を加速します。その一環として、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」の実施を促進します。

新型コロナの収束に向け、途上国を含めた、ワクチン、診断薬、治療薬への公平なアクセスの確保の支援に引き続き取り組みます。将来のパンデミックへの国際的な備えと対応を強化し、より強靭、より公平でより持続可能なユニバーサル・ヘルス・カバレッジに向けて取り組みます。

気候変動問題については、COP26交渉の成果を踏まえ、引き続き、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取組を強力に推進するとともに、各国によるパリ協定の着実な実施への貢献を通じ、脱炭素社会の実現に向けて国際社会を主導していきます。

海洋プラスチックごみ、生物多様性の保全、難民・避難民、テロ対策、男女共同参画推進など、SDGs達成に向けた諸課題にも積極的に取り組みます。

普遍的な価値である人権の擁護は、達成方法や政治体制の違いに関わらず、全ての国の基本的な責務です。日本は、深刻な人権侵害に対してしっかり声を上げるとともに、努力をしている国に対しては、対話や協力によりその取組を促してきました。こうした日本独自の貢献の積み重ねを活かしつつ、現下の国際情勢も踏まえた日本らしい人権外交を進めていきます。

国連においては、安保理を改革し、日本の常任理事国入りなど今日の世界を反映したものとする必要があります。改革実現に向けた具体的交渉を開始すべく取り組むとともに、本年の安保理非常任理事国選挙での当選に万全を期します。また、PKOその他の国連の平和構築の取組に貢献するとともに、国際機関で活躍する日本人を増やす取組も行っていきます。

NPTは、国際的な核軍縮・不拡散体制の礎石です。今回、運用検討会議の開催延期が決まったことは残念ですが、日本としては、同会議が可能な限り早期に開催され、意義ある成果を収めることが重要であると考えています。「核兵器のない世界」の実現に向け、引き続きしっかりと取り組んでいきます。

(総合的な外交力の強化)

ここまで外交の重要分野における政策方針を申し上げてきました。対応力の高い、「低重心の姿勢」の外交を展開するには、人的体制、財政基盤、DX推進を含めた外交実施体制の強化が不可欠です。新型コロナの影響が続く中、水際防疫措置や在外邦人の安全確保にも、引き続き万全を期します。同時に、国際社会から日本の政策・取組・立場に対する理解と支持を得るための戦略的な対外発信を強力に展開するとともに、親日派・知日派育成や日系社会との連携強化に努めます。

議員各位、そして国民の皆様の御理解と御協力を心よりお願い申し上げます。