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政策国会国会演説

第204回国会における茂木外務大臣の外交演説

第204回国会における茂木外務大臣の外交演説

第204回国会に当たり、外交政策の所信を申し述べます。

国際社会は今、3つの大きな変化・課題に直面しています。第一に、新型コロナの世界的拡大がもたらす危機、そして、「人間の安全保障」への挑戦という厳しい状況をいかに乗り越えるかです。第二に、保護主義や一方的な現状変更の試みなど、これまで国際社会の平和と繁栄を支えてきた普遍的価値や国際秩序に対する挑戦。そして第三に、グローバル化、デジタル化の進展、気候変動といった国際社会が直面する共通の課題や、宇宙・サイバーといった新領域、経済安全保障など新たな課題の顕在化です。

このような時代を画する変化の中にあって、ポストコロナの世界を見据え、多国間主義を尊重し、安全保障面でも経済面でも、自由で公正な秩序、ルールの構築に向け、日本がより一層主導的な役割を果たす。これこそが日本外交の目指す確かな方向であると考えます。

まず、新型コロナへの対応について申し上げます。これまで外務省としても、新型コロナの世界的拡大の状況を分析しつつ、様々な対策を講じてきました。感染症危険情報を始めとする関連情報のきめ細やかな発出や水際対策の強化、さらには中国・武漢からの帰国オペレーションに始まり、海外からの出国・帰国が困難となっていた在外邦人への支援に全力で取り組んできました。これまでに101か国、1万2千人を超える邦人の出国・帰国を実現しています。今後も在外邦人の安全確保及び支援に万全を期します。

新型コロナの世界的な感染拡大、「人間の安全保障」の危機に対応していくためには、国際的な連携・協力が不可欠です。新型コロナを1日も早く収束させ、次なる危機にも備えるため、国際保健課題を担うWHOの改革や機能強化、また、ASEAN感染症対策センターへの支援を始め、途上国の保健・医療システムの強化に積極的に貢献していきます。また、「誰の健康も取り残さない」との考えの下、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを推進するため、途上国を含めたワクチンへの公平なアクセスの確保を全面的に支援します。

以上を申し上げた上で、今後、特に7つの分野に焦点を当て、「包容力と力強さを兼ね備えた外交」を更に前に推し進めていきます。

第一に、日米同盟の強化です。日米同盟は日本外交・安全保障の基軸であり、今やインド太平洋地域の平和と繁栄の礎でもあります。地域の安全保障環境が厳しさを増す中、明後日発足するバイデン新政権との間で抑止力・対処力の強化も含め日米同盟をより一層強化していきます。その中で、普天間飛行場の1日も早い辺野古移設を始め、地元の負担軽減に全力を尽くします。さらに、新型コロナ対策、気候変動問題といった国際社会の課題についても、バイデン新政権と緊密に連携していきます。

第二に、「自由で開かれたインド太平洋」の実現です。我が国が推進する「自由で開かれたインド太平洋」は、法の支配に基づく自由で開かれた秩序を構築することにより、地域全体、ひいては世界の平和と繁栄を確保していくというビジョンであり、今、多くの国々がこの考えを共有しています。そして、ポストコロナに向けて、このビジョンの意義、重要性はますます高まっています。二国間や日米豪印を含む様々な多国間対話の機会を捉え、考え方を共有する米国、豪州、インド、ASEAN、更には欧州、中東、アフリカの国々とも連携・協力を進めていきます。

第三に、近隣諸国との外交に、明確な基本方針の下、積極的に取り組みます。

まず、中国への対応です。中国との安定した関係は、日中両国のみならず、地域及び国際社会の平和と繁栄のために極めて重要です。日中は世界第2位、第3位の経済大国として、地域及び国際社会の諸課題に取り組んでいく責務を共有しており、両国がその責任をしっかり果たしていくことが、国際社会の期待に応えることとなります。同時に、尖閣諸島周辺海域を含む東シナ海における一方的な現状変更の試みは、断じて認められません。今後とも日本の領土・領海・領空を断固として守り抜くとの決意の下、冷静に、かつ、毅然と対応していきます。南シナ海をめぐる問題についても、緊張を高めるいかなる行為にも強く反対し、力や威圧によらず、国際法に基づき問題を平和的に解決することが重要であると改めて強調していきます。中国との間には様々な懸案が存在していますが、引き続き首脳会談や外相会談等のハイレベルの機会を活用して、主張すべきはしっかりと主張し、懸案を一つ一つ解決し、また中国側の責任ある行動を強く求めていきます。

次に韓国。韓国は重要な隣国であり、北朝鮮への対応を始め、地域の安定には日韓、日米韓の連携が不可欠です。しかしながら、最近の日韓関係は、旧朝鮮半島出身労働者問題や慰安婦問題などにより更に厳しい状況に陥っています。特に、今般の元慰安婦等による対日訴訟判決については、国際法上も、二国間関係上も、到底考えられない、異常な事態が発生したと極めて遺憾にとらえています。私から康京和韓国外交部長官に電話をし、強く抗議するとともに、韓国が国家として国際法違反を是正するための措置を早急に講じることを強く求めました。政府として、両国間の問題に関する日本の一貫した立場に基づき、今後とも韓国側に適切な対応を強く求めていきます。また、竹島は、歴史的事実に照らしても、かつ、国際法上も日本固有の領土であり、この基本的な立場に基づき、冷静に、かつ、毅然と対応していきます。

ロシアとは、平和条約締結問題を含む政治、経済、文化等、幅広い分野で日露関係全体を発展させていく考えです。最大の懸案である北方領土問題の解決のために、首脳間のみならず外相レベルでも緊密に対話を重ねることが必要です。2018年のシンガポールでの首脳間のやり取りをしっかりと引き継いでおり、領土問題を解決して平和条約を締結するとの基本方針の下、交渉責任者として粘り強く交渉に取り組んでいきます。また、北方四島における共同経済活動の更なる具体化に向けた取組や元島民の方々のための人道的措置も着実に進展させていきます。

第四に、北朝鮮との間では、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を目指すという基本方針に全く変わりはありません。今後とも、日米、日米韓で緊密に連携し、中国、ロシアを含む国際社会とも協力しながら、関連する国連安保理決議の完全な履行の確保と朝鮮半島の非核化を目指します。また、政権の最重要課題である拉致問題の早期解決に全力で取り組みます。

第五に、中東情勢への対応です。中東地域においては高い緊張状態が継続し、また、イスラエルと一部のアラブ諸国が国交を正常化するなど、情勢の変動が見られます。世界各国が様々な関係を持つ、この地域の平和と安定は、我が国を含む国際社会の平和と繁栄に不可欠です。我が国は原油輸入の約9割をこの地域に依存しており、中東地域の海域において、航行の安全を確保することは極めて重要です。引き続き、中東地域の緊張緩和と情勢の安定化のために、多方面に信頼関係を有する日本の立場も活かし、粘り強い外交努力を通じて貢献していきます。

第六として、新たなルール作りに向けた国際的取組を主導します。

世界で保護主義や内向き志向が強まる中、日本は、TPP11以来、日EU・EPA、日米貿易協定、日英EPA、RCEPなど、自由貿易の旗振り役としてリーダーシップを発揮してきました。引き続き、日本が推進してきた自由で公正な経済圏の拡大や、ルールに基づく多角的貿易体制の維持・強化に取り組みます。また、本年開催が予定される第12回WTO閣僚会議での具体的成果も含め、WTO改革を主導します。

ポストコロナで重要性が増すデジタル分野においては、G20大阪サミットで議長国として立ち上げた「大阪トラック」を国際的に推進し、データ流通の共通ルール作りを主導するとともに、国連、WTO、OECD等の場においても、国際的なルール作りの中心的な役割を果たします。また、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」や「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」など、日本がG20サミットで打ち出した原則・ビジョンの普及・具体化に向けて、引き続き国際的な指導力を発揮します。

以上に加え、日本企業の海外展開支援を始め、官民連携の強化に一層取り組みます。また、東日本大震災から10年を迎える本年、海外における風評対策と日本産食品に対する輸入規制措置の撤廃に向けた働きかけも、一層強化します。

同時に、日本の政策・取組・立場に対する理解と支持を拡げるため、パブリック・ディプロマシーを一層力強く展開するとともに、先般訪問した中南米を始めとする世界各地の日系人社会との連携にも、これまで以上に取り組んでいきます。

第七に、地球規模課題への対応です。

「人間の安全保障」の理念に立脚し、積極的かつ戦略的なODAの活用を通じ、SDGs達成を始めとする地球規模課題への取組を加速します。特に現在、気候変動問題への取組は最も重要な課題です。2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとする、「カーボン・ニュートラル」の実現に向け、パリ協定が目指す脱炭素社会を実現するため、本年のCOP26を含め、各国と連携しつつ、国際社会の取組をリードしていきます。また、海洋プラスチックごみ、人権、難民・避難民、女性の参画、防災など、SDGs達成に向けた諸課題にも積極的に取り組みます。

来年、2022年にはアフリカで2回目の開催となる第8回アフリカ開発会議(TICAD8)のチュニジアでの開催が予定されています。新型コロナの感染拡大でその重要性が更に高まっている保健分野を含む開発課題に対し、人材育成を始め、「アフリカ自身が主導する発展」を引き続き力強く後押しします。

新型コロナの世界的な感染拡大により、今まで以上に国際協調が求められる中、日本はこれまでも国連を始めとする多国間の枠組みを重視してきました。この点、日本の常任理事国入りを含む安保理改革は待ったなしの課題であり、具体的交渉を開始すべく取り組むとともに、国際社会の平和と安定に一層貢献するため、来年、2022年の安保理非常任理事国選挙での当選を目指します。また、国連PKOや3月に日本で開催される第14回国連犯罪防止刑事司法会議、通称「京都コングレス」等を通じて、幅広い国際課題に積極的に貢献していきます。こうした多国間の枠組みを通じた貢献を一層進展すべく、より多くの有能な日本人が国際機関で活躍する機会を増やす取組を強化していきます。

さらに、8月に開催が見込まれる核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議が意義ある成果を収められるよう、国際的な議論に積極的に貢献していきます。

厳しい状況を乗り越え、今年の夏は、特別な夏にしたいと思います。人類がウイルスに打ち勝った証として、安全・安心で感動を呼ぶ東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催できるよう、外務省としても政府全体の取組に貢献してまいります。また、今年は、第9回太平洋・島サミットや第13回日メコン首脳会議を始めとする国際会議も日本で開催予定であり、日本と各国との協力関係を新たな高みに引き上げていきます。

ここまで7つの分野について政策方針を申し上げてきましたが、これらの政策の推進、「包容力と力強さを兼ね備えた外交」の機動的な展開のために、在外公館の数と質、両面の強化を含め、外交実施体制の強化に取り組みます。

2021年、米国でバイデン新政権がスタートする中で、日米同盟を一層強化するとともに、今や世界に拡がりつつある「自由で開かれたインド太平洋」を一層推進していきます。そして、我が国としてポストコロナの新たな秩序・ルール作りに向けた国際的な取組で主導力を発揮する中で、国際社会における存在感、プレゼンスを更に高める1年とすべく、責任感と使命感を持って全力で取り組む決意です。

議員各位、そして国民の皆様の御理解と御協力を心からお願い申し上げます。