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政策国会国会演説代表質問

第198回国会における橋本聖子参議院議員会長代表質問

橋本聖子参議院議員会長

自由民主党の橋本聖子です。
私は、自由民主党・国民の声を代表して、安倍内閣総理大臣の施政方針演説について質問いたします。
昨年は、七月豪雨、大阪北部地震、台風二十一号、北海道胆振東部地震など非常に多くの自然災害がありました。お亡くなりになられた方々に哀悼の意を表します。被災された皆様にも心よりお見舞い申し上げます。引き続き、政府与党一体で、一日も早い生活や産業の再建に向けて全力を尽くしてまいります。

今年の干支は己亥です。同じ干支であった六十年前の昭和三十四年は、外交・安全保障環境が極めて緊迫していた冷戦時代において、日米安保条約の改定交渉が行われた年です。まさにわが国の外交・安全保障政策の基盤がつくりあげられた年です。
振り返れば、平成の三十年の間も、わが国を取り巻く外交・安全保障環境は大きく変化しました。平成元年の冷戦終結時にはこれほどの変化はまったく予想できませんでした。そして、今、新しい時代に向けて、総理は、わが国の平和と繁栄を守るため、地殻変動ともいうべき国際情勢の激変の中、日本外交の舵を取っています。

昨年も、朝鮮半島情勢が緊張する中で、総理は、史上初の米朝首脳会談に向けて、トランプ米大統領と緊密な連携を取り、北朝鮮に朝鮮半島の完全な非核化への決意を確認させることができました。また、九月の日米首脳会談でも米国側が求める自動車の追加関税の凍結を確約させることができました。安全保障、経済外交ともに、将来への道筋をつけることができたと考えています。本年は、日米物品貿易協定・TAGの交渉もいよいよ始まります。
一方、昨年十月、安倍総理は約七年ぶりに日本の総理として中国を公式訪問し、習近平国家主席や李克強国務院総理と会談し、今後の両国の道しるべとなる三つの原則を確認しましたが、いよいよ、本年は、この公式訪問の成果の下、日中関係を新たな段階へと押し上げるときでもあります。
米国と中国の間の貿易戦争は依然として予断を許さない状況にあり、その影響を受け、過日発表された中国のGDPは二年ぶりの減速傾向、世界経済全体にも不透明感が漂い始めています。また、米国、中国ともに東アジアの安全保障環境に対して大きな影響力を持っており、地域の安定のためには新冷戦と言われるような状況は避けなければなりません。
そこで、米国と同盟関係にあり、かつ、中国との間でも深い関係を持つわが国の総理として、自由貿易体制の発展とわが国の経済産業の成長のために、さらには地球規模で見た安全保障環境の改善のために、米中それぞれとの外交にどのように臨むお考えか、総理に伺います。

総理は、昨年、北方領土問題を解決して平和条約を締結するという戦後七十年以上残されてきた課題に必ずや終止符を打つとの決意をロシアのプーチン大統領と共有し、首脳会談を重ねてきました。先週もモスクワで日露首脳会談を行いました。通訳のみで五十分間、一対一の話し合いも行われ、ときにはプーチン大統領が総理を自分の執務室に招き入れるなど率直な意見交換がなされたことと存じます。これまで残されてきた課題であるからには、解決が簡単であるはずがありません。ロシア国内の厳しい世論も伝わっています。その点からすれば、今回の首脳会談で、相互に受け入れ可能な解決策を見いだすための共同作業を日露両首脳のリーダーシップのもとで力強く進めていくという決意が確認されたことは意義深いと考えます。
今後、経済活動などの緊密化や四島での共同経済活動、そして安全保障分野での信頼醸成などを進めながら、大阪G20サミットなどの機会を生かし戦後日本外交の総決算としてのこの課題に取り組んでいただきたいと思います。
そこで、今回の首脳会談の成果を踏まえ、総理は、どのように今後の日露交渉を進めていくお考えでしょうか、お尋ねします。

わが国周辺の安全保障環境を見ると、軍事力の近代化や脅威の多様化が進んでおり、不安定要因はより深刻化していると言わざるを得ません。宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における脅威も指摘されています。一方、隣国が軍拡を進める中でも、わが国は専守防衛に徹してきました。その考えは大切にしなければなりません。その上で、軍事力が近代化していく流れの中で、わが国の装備が古いままで国民の生命を守れるのかという思いもあります。新たな環境の変化に即して、どのような方針で防衛力を整備し、わが国とわが国国民を守り抜くのか、総理にお尋ねします。

平成の時代において、わが国は、本格的な人口減少、高齢化社会に突入しました。まさに国難とも言うべき大きな問題です。

このような状況の中、昨年、政府において、「経済再生なくして財政健全化なし」との基本方針を堅持しつつ、団塊世代の全てが七十五歳以上となるまでに財政健全化の道筋を確かなものとするため、二〇二五年度の国・地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化を打ち出しました。財政再建に向けた大きな一歩です。そして、ここから大切なことは、この着実かつ継続的な実行です。
人生百年時代を迎えるわが国の社会に対応した持続可能な医療・介護・年金制度の確立、これまで経験したことがないような規模やパターンで発生する自然災害から国民の生命と生活を守る国土強靭化対策の完遂などを考えれば、ただただ財政再建を唯一の旗印にして進んでいけばよいと言うわけではありません。デフレ脱却の歩みを止めることなく、プライマリーバランス黒字化目標達成に向けてどのように前向きな経済財政の循環を巻き起こしていくのかというお考えと、来年度の政府予算案においてどのような工夫がなされているのか、という点について、総理からお聞かせください。

わが国が直面する人口減少により国内市場の厳しさは増していくのではないかという懸念が指摘されています。しかし、わが国の外に目を転じてみると世界の経済成長の中心であるアジア・太平洋地域など可能性に溢れる国々がたくさんあります。昨年末、TPPが発効し、明日二月一日には日EU・EPAも発効します。現在、RCEPについても交渉中です。このような協定は世界の経済成長力をわが国に取り入れていくために欠かせない枠組みですから、日本の国益をしっかりと守りつつ、その成果を最大限に生かして頂くことを期待しています。
一方、経済連携協定に対しては、日々、額に汗して農作業に取り組んでおられる皆様が依然として不安を持っていることも確かです。今年は、TPPや日EU・EPAが発効する中、中長期的な農政の方向性を示す食料・農業・農村基本計画の見直しに向けた議論が本格化していくことが予想されますが、いずれにしても、農業政策とは生産現場あってのものであるということを忘れてはなりません。そこで、生産性を向上させつつ、人口減少時代においても希望を持って農業に飛び込んでいく新規参入者や代々大切に耕してきた田畑を受け継ぐ後継者が増えるような環境づくりをどのように進めていくつもりなのか、そのお考えを総理に伺います。

併せて、浜で頑張る漁業者の所得向上と浜の活性化を目指して、現役の漁業者や、未来の漁業を担う若者にとってやりがいのある、魅力的な産業にすることは、わが国の食料資源の確保、地域や文化の発展、引いては領土領海の保全という観点からも重要です。改正漁業法に基づき、漁業者の声にじっくりと耳を傾けて、まずは漁業者本位の制度を展開していくという決意について、総理にお伺いいたします。

先ごろ、厚労省から、今から約二〇年後、二〇四〇年の日本の就業者数は現在に比べ約二割も減る可能性があるとの中長期推計が発表されました。現時点でも、人口減少に伴う人手不足は深刻で、事業がとん挫する事例も発生しています。短期的にも中長期的にも、景気回復の火を絶やさず、成長力を維持するためには、働く意欲のある女性や高齢者が働き手として活躍できる環境の整備、働き手一人あたりの生み出す付加価値の向上などが必要です。人口減少が進展する中、わが国産業の生産性を向上するために、新技術を活用した新たなビジネスモデルづくりや業務効率化などに取り組む民間企業の努力を政府全体で支えていただきたいと思います。
同時に、中小企業・小規模事業者における働き方改革も必要です。日本商工会議所の働き方改革関連法に関する調査によれば、中小企業では、時間外労働の上限規制の内容や年次有給休暇の取得義務化はまだまだ浸透していません。労働者にとって働きやすい職場を実現するために、中小企業・小規模事業者における働き方改革をどのように後押ししていき、就労者に魅力的な職場環境を創り上げていくお考えなのか、総理からお聞かせください。

また、中小企業・小規模事業者の経営者も高齢化が進み、代替わりや若返りを考えなければならない時期となっています。昨年、事業承継時の贈与税・相続税の納税を猶予する事業承継税制が改正され、大きな後押しとなりましたが、法人のみが対象でした。今回の税制改正により、中小・小規模事業者の半分以上を占める個人事業主にも事業承継時の贈与税・相続税の納税が猶予されることとなりましたが、円滑な世代交代が進むよう行政手続の円滑化など様々な対応が必要です。関係機関と連携して、政府を挙げて中小企業・小規模事業者の事業承継をどのように支えていくか、そのお考えを総理にお尋ねいたします。

昨年、外国人観光客は初めて三千万人を超えました。この五年で三倍という急増ぶりです。東京オリンピック・パラリンピックが開催される二〇二〇年には四千万人とする目標です。しかし、大都市圏の人気のある観光地に集中してしまう傾向もあり、観光客の集中による様々な問題の発生が指摘される一方、受入環境の整備の遅れなどにより外国人観光客をうまく取り込めていない地域もあります。本年一月七日から導入された国際観光旅客税の財源を生かしながら、外国人観光客を地方創生に一層結びつける工夫が必要と考えますが、いかがでしょうか、総理のお考えをお聞かせください。

総理は、これまで「正に国難とも言うべき急速に進む少子高齢化という課題に対して、現代の私たちも真正面から向き合い、未来への改革を進める」と力強く訴えてきました。
その未来への投資として、本年一〇月からは幼児教育が無償化されます。来年四月からは真に必要な子供たちの高等教育も無償化され、給付型奨学金が拡充されることとなります。教育はわが国の発展の原動力であり、自己実現のために欠かせない土台であることから、しっかりと進めていく必要があります。一方、人工知能など革新的な技術の浸透により世界の産業地図があっという間に変わってしまう時代です。さらに、未来を支える子どもたちの勉学への熱意や意欲、関心を損ねることがないような学校制度、入試制度等を検討していくことも不可欠です。わが国の将来を担う子供たちの未来を切り開くためにどのように教育行政を進めていくつもりか、総理のお考えをお聞かせください。

この教育無償化等の財源としての消費税率引上げについてお伺いします。
平成二十六年の五%から八%への消費税率引上げでは、駆け込み需要の反動減などにより消費の落ち込みがありました。同様の事態に陥れば、現在の景気回復基調を損ねることとなり、財政再建も遠のくこととなります。
一方、米中貿易戦争に代表される相次ぐ関税引上げの報復合戦や英国のEU離脱交渉の遅れなどから経済の不透明感が高まり、それが、年明け早々、これまで好調であった株価の大きな下落につながりました。ただですら経済の先行きが不安な中、消費税率引上げがなされれば景気の腰折れを招くのではないかと心配する声が聞こえてきます。とりわけ、景気回復の温かい風がまだ十分に届いていない地域では、このような厳しい声が耳に入ってくることがあるのも確かです。
また、食料品への軽減税率適用や現金を使わないキャッシュレスでの買い物へのポイント還元策についても、消費者、事業者から分かりにくいという声がまだまだあります。
もちろん、私たちから、全世代型の社会保障制度への転換には消費税率引上げが必要であること、消費税率の逆進性や消費需要の平準化、消費の底上げといった観点から思い切った対策が講じられること、について改めて説明しているところです。しかし、まずは、消費税の引上げに伴い腰折れしない強い経済が全国津々浦々で感じられるようになること、その上で、消費者にも中小企業・小規模事業者にもわかりやすく使いやすい軽減税率であることやポイント還元策についても小売業者の負担を極力少なくする工夫、悪用濫用されない工夫が凝らされていることなどを、なお一層周知徹底すべきと感じていますが、この点について、総理のお考えを伺います。

今般、毎月勤労統計調査において、長年にわたり不適切な取扱いが行われてきたことが判明しました。また、第三者委員会が行った調査に対する厚労省の関与の仕方も調査の中立性、独立性を損ねるものであり、統計を扱う機関として体制や能力について大きな疑義を持たざるを得ません。組織のガバナンス、そして組織風土から根本的に立て直さなければならないのではないかと感じます。また、今回の不適切な統計調査により、大きな影響が出ていることに、真摯に対処、説明すべきです。雇用保険、労災保険などの過少給付について、早期かつ確実に不足分を支払うべきことはもちろん、厚労省側に全面的に起因して発生した過少給付であることは明らかですから、可能な限り、国民の皆様に手間がかからない方法で対応すべきです。
根本厚労大臣には、強力なリーダーシップの下、調査の中立性、独立性を担保し、全容の解明と徹底的な対策を講ずることで、厚労省の統計調査と厚労行政への信頼回復に努めていただきたいと考えます。
さらに、昨年1月以降の毎月勤労統計の賃金上昇率についても疑念の声が出ています。統計は国の政策の基本です。いささかでも疑念を持たれるようなことがあってはなりません。今回の不適切な統計調査や調査手法の見直しなどにより、賃金上昇率の数字などにどのような影響があるのか、これについて政府の見解を示して頂くことは大切だと思います。この点について根本厚労大臣に伺います。

また、今回の毎月勤労統計調査以外の二十三に及ぶ国の基幹統計においても、不適切な手続きがなされていたことが発覚しました。当初、二十二の統計調査で不適切とされていましたが、今週、更に厚労省の賃金構造基本統計にも本来とは異なる調査手法が行われていたなど誤りが判明したところです。基幹統計の点検すらしっかりできないのか、と怒りと同時に落胆すら覚えます。統計の信頼性が崩れるということはわが国への信頼が崩れることにつながりかねません。政府全体において統計の重要性を再認識するとともに、信頼性回復のために各省の横串を通した体制の検討など思い切った対応を講じて、政府統計への信頼性を回復すべきではないかと考えますが、総理のお考えをお聞かせください。

最後に平成の次の時代に向けた地域づくり、国づくりについて取り上げさせていただきます。
島根県雲南市、「ピンチをチャンスに」した自治体として、昨年、総理の所信表明演説で紹介された地域です。
そして今、全国の地域を見渡すと危機感をばねに新しいチャレンジに取り組む自治体が増えていると感じています。
人口減少と超高齢社会に直面する鳥取県南部町では、病気になってからの治療から病気の予防へのシフト、住民主体の介護予防と生活支援の融合を進めるために、町内の保健・医療・福祉資源を最大限に活用して、高齢者の運動習慣や社会参加を向上させる「通いの場」づくりや、だれもが気軽に健康相談できる「まちの保健室」、ボランティアポイントを貯金できる「あいのわ銀行」という仕組み、世代を超えたボランティア意識を育てるための小学生高学年と中学生を対象とした夏休み期間中のヘルパー体験と資格の付与、といった様々なユニークな取組みが広がっています。生活の質を高めるという視点で医療、保健、福祉、介護が連携し、地域の力を高め、地域も人も健康を維持し、かつ財政も健康にしていくという前向きなベクトルの政策を見ることができます。
もう一つ、「引きこもり」の若者を地域の力に変える取組みが成果を上げている事例が秋田県藤里町です。平成二十七年の内閣府調査では、全国に五十四万人の「引きこもり」の若者たちがいます。藤里町も今から十数年前、当時三千八百人の人口のうち百人以上が家に引きこもっていたと言います。レクリェーションイベントなども開催されましたが、効果があったのは、高齢者の生活をサポートする役割など就労体験の場を提供することでした。今では、引きこもりが二十人前後に減り、多くの地元企業で就労されています。地域がもともと持っていたが顕在化していなかった力が呼び起こされ、活性化に貢献している事例です。
私は、島根県雲南市、鳥取県南部町や秋田県藤里町のようにコミュニティの力を生かし、住民の協働により、住民も地域も健康に、元気になる姿が、人口減少、高齢化に直面するわが国にとって目指すべき一つのかたちであると確信しています。
そのような思いを持って、私は、現在、個人の健康の保持増進のための主体的な取組み、地域のコミュニティへの参画など様々な社会参加を通じて、国民が生涯にわたり健康で生きがいを持って生活できる社会、一言では「生涯健康活躍社会」と言えると思いますが、このような社会の実現を目指して、日夜、議論を続けているところです。
そこで、厚労大臣に伺いますが、個人と地域コミュニティが結びつくことで個人も地域も心身ともに健全となり、しかも医療費の抑制等が図られると考えられる「生涯健康活躍社会」について、どのような保健医療面や財政面でのメリットがあるとお考えでしょうか。
その上で、人口減少、高齢化が進んでいくわが国において、国民の皆様の健康を保持増進し、健康寿命を延ばしていくためには、個人だけに着目した医療だけではなく、教育、スポーツ、コミュニティ形成など地域社会全体を包括した取組みが必要ではないかと考えますが、総理はこの点についてどのようにお考えでしょうか。お伺いします。

いよいよ本年五月一日、改元の日を迎える年となりました。御代替わりを慶びを持って迎える歴史的な日です。
振り返れば、平成の時代、内外の情勢は大きく変わりました。わが国を取り巻く外交・安全保障環境、地球温暖化や大規模な地震・津波の発生、経済のグローバル化や情報社会、新たな革新的技術の誕生と普及、そして東京の一極集中と地方の人口減少の更なる進展などかつて経験がない程の大変動と言ってもよいほどです。
平成という元号は歴史書である「史記」の「五帝本紀」及び「書経」の「大禹謨」の一説、「内平かに外成る」「地平かに天成る」から引用されたものです。この「平成」の年号が発表された時、だれがこれほどの情勢変化が起こると予想できたでしょうか。
そして、このような激動に襲われたにもかかわらず、「内外、天地ともに平和が達成される」という「平成」に込められた願いを叶えるために、平成を生きてきた私たち、日本人は知恵を絞り、議論を尽くして考え得るあらゆる政策を講じて、幾多の困難を乗り越えてきました。
平成の時代に起きた、わが国を取り巻く環境の大きな変化はこれからますます大きくなり、複雑化していくことでしょう。であるからこそ、なおさら、新しい時代を迎えようとする今、時代の変化に応じた「国のすがた」である憲法はどのようなものであるべきかということについて議論することが、この国会でも求められていると確信しています。安倍総理、厳しい道ではありますが、新しい時代に向けた新しい国づくりのためにひたむきに邁進していけば、理解は広まり、様々な立場からの考えが寄せられ、憲法改正に向けた議論の輪は広がると信じております。その点を申し上げて、私の質問を終わります。