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こども・子育て政策について岸田内閣総理大臣記者会見(全文)

こども・子育て政策について岸田内閣総理大臣記者会見(全文)

本日は、こども・子育て政策について、基本的考え方をお知らせしたいと思います。

総理就任以来、私は、我が国は歴史的転換点にあり、これを乗り越える最良の道は「人への投資」だと申し上げてきました。人口減少時代を迎え、経済社会の活力を維持していくには、構造的賃上げを通じた消費の活性化、一人一人に着目したリスキリングと生産性の向上、そして、男女問わず、全ての人々の可能性の実現など、「人への投資」が何よりも大切です。

その大切な「人」ですが、2022年の出生数は過去最少の79万9,700人となりました。僅か5年間で20万人近くも減少しています。2030年代に入ると、我が国の若年人口は現在の倍の速さで急速に減少することになります。このまま推移すると、我が国の経済社会は縮小し、社会保障制度や地域社会の維持が難しくなります。2030年代に入るまでのこれから6年から7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスです。

子供は国の宝です。この国難に当たって、政策の内容・規模はもちろんのこと、社会全体の意識・構造を変えていく、そのような意味で、次元の異なる少子化対策を岸田政権の最重要課題として実現してまいります。
正に効果ある少子化対策が求められており、当事者であるお父さんやお母さん、地域や職場など現場の皆様の声を直接聞くことが何よりも大切です。私自身、こども政策対話を各地で重ね、当事者の方々から様々な意見をお聞きしているところです。

現在、私の指示に基づき、小倉大臣の下で、こども政策の強化について、今月末をめどに具体的なたたき台を取りまとめるべく、検討が進められていますが、本日は、これに先立ち、私が考えております目指す社会像、少子化対策の基本理念と主な課題に対する基本的方向性をお話ししたいと思います。
私が目指すのは、若い世代が希望どおり結婚し、希望する誰もが子供を持ち、ストレスを感じることなく子育てができる社会、そして、子供たちがいかなる環境、家庭状況にあっても、分け隔てなく大切にされ、育まれ、笑顔で暮らせる社会です。子供の笑顔あふれる国をつくりたい、これが私の思いです。

20歳代、30歳代は「人生のラッシュアワー」とも言われます。同時期に学びや就職、出産、子育てなど、様々なライフイベントが重なる中で、現在の所得や将来の見通しが立たなければ、結婚、出産を望んでも後回しにならざるを得ません。このような状況を打開し、人生のラッシュアワーに自信を持って向き合えるよう、若い方々の所得を向上させる政策、特に賃上げの実現がまず必要です。

また、男女ともに、子育てに当たって、キャリア形成との両立や多様な働き方を阻む壁をなくしていかなければなりません。また、少子化には、我が国のこれまでの社会構造や人々の意識に根差した要因が関わっています。個々の政策の強化はもちろんですが、個々の政策をいかすためにも、社会を変えることが必要です。
「ワンオペ育児」という言葉があります。家庭内において、育児負担が女性に集中している実態を変え、夫婦が協力しながら子を育て、それを職場が応援し、そして、地域社会全体で支援する社会をつくらなければなりません。
そして、子育て支援策は、誰がどのような形で働いていても、家にいても、学びの中にあっても、また、両親がどのような関係にあっても、分け隔てなく、切れ目なく支援するものでなければなりません。その中で、多子世帯、ひとり親世帯、障害をお持ちのお子さんがいる家庭などには、よりきめ細やかな対応を行います。

こうした社会を目指すための対策の基本理念は、第1に「若い世代の所得を増やす」こと、第2に「社会全体の構造や意識を変える」こと、そして第3に「全ての子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援する」こと、この3つです。順番にお話しいたします。
まず、「若い世代の所得を増やす」ことです。少子化の背景として未婚率の増加があり、その原因の一つとして、若い世代の経済力が挙げられます。結婚した御家庭においても、理想とする子供の数を持てない理由として、子育てや教育にお金がかかることがトップに挙がっています。若い世代の所得向上に、子育て政策の範疇(はんちゅう)を超えて、大きな社会経済政策として取り組みます。

岸田政権の最重要課題は「賃上げ」です。物価高に負けない賃上げに取り組みます。そして、賃上げが持続的、構造的なものとなるよう、L字カーブの解消などを含めた、男女ともに働きやすい環境の整備、希望する非正規雇用の方の正規化に加え、リスキリングによる能力向上支援、日本型の職務給の確立、成長分野への円滑な労働移動を進めるという三位一体の労働市場改革を加速し、若い世代の所得向上を実現します。
その際、いわゆる106万円、130万円の壁によって、働く時間を希望どおり延ばすことをためらう方がおられると、結果として世帯の所得が増えません。こうした壁を意識せず働くことが可能となるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大、最低賃金の引上げに取り組みます。加えて、106万円、130万円の壁について、被用者が新たに106万円の壁を超えても、手取りの逆転を生じさせない取組の支援などをまず導入し、さらに、制度の見直しに取り組みます。

こうした取組と併せて、3月末をめどに取りまとめるたたき台の第1の柱として、子育て世帯に対する経済的支援の強化を行います。これまでも幼児教育・保育の無償化などを進めてきましたが、さらに兄弟姉妹の多い御家庭の負担、高等教育における教育負担なども踏まえて、児童手当の拡充、高等教育費の負担軽減、さらには若い子育て世帯への住居支援などについて、包括的な支援策を講じます。
第2は、「社会全体の構造や意識を変える」ことです。社会的機能の維持が危ぶまれるような少子化が進む今、「こどもファースト社会」の実現は社会全体の課題です。これまで関与が薄いとされてきた企業や男性、さらには地域社会、高齢者や独身者を含めて、皆が参加し、社会構造・意識を変えていくという、従来とは次元の異なる少子化対策を実現したいと考えています。

子育て中の方からは、「日本は子育てに冷たい」という指摘を聞くことがあります。例えば欧米では、公共の場に子育て世帯の専用レーンが設けてあったり、子連れの人を見つけると、周囲の人がいろいろと手助けしてくれたりすることが多いと聞きます。ところが、我が国では、「子連れだと混雑しているところで肩身が狭い」、「公園の遊び声が近所迷惑と言われないか心配」といった声を多く聞きます。
他方で、私が訪れた岡山県奈義町は、子育てを終えた方や地域高齢者も参加し、地域ぐるみの住民参加型の子育て支援を展開することにより、出生率2.95という「奇跡のまち」を実現されていました。こうした好事例を横展開し、普及を図ることを目指します。

政府としても、こどもファースト社会の実現をあらゆる政策の共通の目標とします。また、様々な社会運動を展開するため、先行的に国立博物館などの国の施設において、子連れの方が窓口で苦労して並ぶことがないよう、「こどもファスト・トラック」を設けるとともに、この取組を全国展開するなど、子供優先の取組を実施することとします。

企業においても、出産、育児の支援を投資と捉え、職場の文化、雰囲気を抜本的に変えていくことが必要です。「会社に育休制度はあるが、実際には取りづらい」という社員の声が多く寄せられています。「育休で休むと職場の同僚に迷惑がかかる」、「育休について、上司や人事担当者が理解してくれない」などを理由に挙げる人が多いと言われています。こうした職場環境を早急に改め、男性、女性ともに希望どおり、気兼ねなく育休制度を使えるようにしなければなりません。

幸い、新たな取組に挑戦している事例は数多くあります。例えば大手A社は、地方に本社機能を移転し、独自の育休と時短勤務制度で、東京に比べ、女性社員の子供の数が3倍以上になりました。中小企業のB社は、男性社員が育休を取得しない主な理由が「職場に迷惑をかけたくなかった」ということでした。このため、育休取得者の担当業務を引き継ぎ、業務が増加する他の社員に応援手当を支給し、育休取得を推進しています。

こうした取組が幅広く浸透するよう、現状、低水準にとどまっている男性の育休取得率の政府目標を大幅に引き上げて、2025年度に50パーセント、2030年度に85パーセントとします。目標達成を促すため、企業ごとの取組状況の開示を進めます。最大のポイントは中小企業です。中小企業において、職場の負担を気兼ねする声が多いことも踏まえ、応援手当など育休を促進する体制整備を行う企業に対する支援を検討します。国家公務員については、先んじて男性育休の全員取得を目標として定め、2025年度には85パーセント以上が1週間以上の育休を取得するための計画を策定し、実行に移します。地方自治体や企業の皆様にも、先行して意欲的な取組をしていただくよう、様々な機会を捉えて要請してまいります。

こうした育休を取りやすい職場づくりと両輪で、育児休業制度自体も充実させます。利用者の声を踏まえて、キャリア形成との両立を可能にし、多様な働き方に対応した自由度の高い制度へと強化します。例えば現在は、育児期間中に完全に休業した場合に育児休業給付が出ますが、希望する場合には、時短勤務時にも給付が行われるよう見直しします。
また、産後の一定期間に男女で育休を取得した場合の給付率を手取り10割に引き上げます。これらにより、夫婦で育児、家事を分担し、キャリア形成や所得の減少への影響を少なくできるようにします。

育児休業中の所得減少に対する支援は、働いている企業の大きさにかかわらず、そして、正規、非正規を問わず行われなければなりません。そこで、非正規に加え、フリーランス、自営業者の方々にも、育児に伴う収入減少リスクに対応した新たな経済的支援を創設します。
育児休業に加え、職場に復帰した後の子育て期間における働き方も重要な課題です。人生のラッシュアワーに当たる時期に子供と一緒に過ごす時間を確保できるよう、例えば「フレックスタイムで午後5時までに帰宅する」、「テレワークを活用する」など、働き方を変えていかなければなりません。

以上、育休を取りやすい職場づくり、育休制度の強化、働き方改革を通じて、人生のラッシュアワーの中で御家庭に「子供と過ごせる時間を確保する」、このことを初めて本格的に取り上げます。大きな社会構造改革には相応の時間を要します。しかし、少子化問題はもはや一刻の遅れも許されない「時間との闘い」であり、社会全体の意識改革に向けた取組、働き方改革の推進とそれを支える育児休業制度等の強化などに全力で取り組んでいきます。

基本理念の第3は、「全ての子育て世帯を切れ目なく支援する」総合的な制度体系を構築することです。これまでも自公政権において、保育所の整備、幼児教育・保育の無償化など、こども・子育て政策を強化してきました。予算は大きく増加し、その結果、例えば保育所の待機児童はピーク時の2.9万人から、昨年は約3,000人まで減少するなどの成果がありました。

他方、この10年間で社会経済情勢は大きく変わり、今後取り組むべき政策の内容も変化しています。これまで申し上げた経済的支援の拡充、社会全体の構造、意識の改革に加え、子育て支援サービスの内容についても、親が働いていても、家にいても、全ての子育て家庭に必要な支援をすること、幼児教育・保育サービスについて、量・質両面からの強化を図ること、これまで比較的支援が手薄だった妊娠、出産時から0~2歳の支援を強化し、妊娠、出産、育児を通じて、全ての子育て家庭の様々な困難、悩みに応えられる伴走型支援を強化すること、子供の貧困、障害児や医療ケアが必要なお子さんを持つ御家庭、ひとり親家庭などに対して、より一層の支援を行うことなどが必要になっています。

今月末にまとめるたたき台では、こうした観点から、子育て支援制度全体を見直し、全ての子供・子育て世帯について、親の働き方やライフスタイル、子供の年齢に応じて、切れ目なく必要な支援が包括的に提供される総合的な制度体系を構築すべく、具体的な支援サービス強化のメニューをお示しします。
その際、重要な点は、伴走型支援、プッシュ型支援への移行です。従来、様々な支援メニューは当事者からの申請に基づいて提供されてきましたが、これを行政が切れ目なく伴走する、あるいは支援を要する方々に行政からアプローチする形に、可能な限り転換してまいります。

以上、こども政策の強化について、目指す社会像、基本理念と主な課題に対する基本的方向性についてお話をしました。更に検討を進め、今月末をめどに、小倉大臣に具体的なたたき台をパッケージで取りまとめてもらいます。
そして、4月1日には、日本の省庁の歴史で初めて「こども」を名称に冠する「こども家庭庁」が発足します。その後は、国民の皆様の声を引き続き伺いながら、私が主導する体制の下で、必要な政策強化の内容、予算、財源について更に議論を深め、6月の骨太方針までに将来的なこども予算倍増に向けた大枠をお示しします。

先日、こんな話を一人の若い女性から伺いました。結婚して子供も持ちたいが、将来、離婚することもあり得る、そのとき一人で子供を育てていけるだろうか、養育費はちゃんともらえるだろうか、そんなことを考えると、結婚に踏み切れない。正に時代も若い方々の意識も、大きく変化していることを実感するお話でした。内閣総理大臣として、時代の変化、若い方々の意識の変化を的確に捉えつつ、時間との闘いとなっている少子化問題に、先頭に立って、全力で取り組んでまいります。

我が国は、世代間の助け合いと支え合いを大切にしてきました。今こそ若い世代の未来を切り拓(ひら)き、少子化のトレンドを反転させる。これは、経済活動や社会保障など我が国の社会全体にも寄与します。何とぞ世代を超えた国民の皆様の御理解と御協力をお願い申し上げます。