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第208回通常国会閉会について岸田内閣総理大臣記者会見(全文)

岸田内閣総理大臣

本日、通常国会が閉会いたしました。本予算、補正予算、61本の内閣提出法案、7本の条約※の全てを会期内に成立させることができました。26年ぶりのことです。円滑な国会運営に御協力いただきました与野党の皆様に、感謝を申し上げます。

新型コロナへの対応、ロシアによるウクライナ侵略、世界的なエネルギー・食料市場の高騰、何十年に一度の歴史を画するような危機的事態が次々と、しかも、同時に起こる中、内閣総理大臣として、国民の命、暮らし、雇用、経済を守るため、日々、決断と実行の連続でした。国民の皆さんの御理解と御協力に御礼を申し上げます。

冒頭に、新型コロナ対応とウクライナ侵略についてどのような考え方で対応しているか、そのポイントを申し上げます。
まず、新型コロナ対応です。
我が国は、欧米諸国に比べ、感染を極めて低いレベルに抑え込んでいます。各国首脳との会談でも、我が国の取組とその成果に高い評価が示されています。感染拡大を防ぐための国民の皆さんの御協力、また、地方自治体、医療・福祉・子育て等の現場の皆様の献身的な御尽力に、心より感謝を申し上げます。
政府としては、昨年11月にコロナ対応の「全体像」を示し、その下で、病床の確保、ワクチン接種の推進などに取り組んできました。3回目のワクチン接種率は既に60パーセントを超えました。高齢者に絞れば、90パーセントの方に接種いただいています。これは、G7でもトップクラスの水準です。
こうした取組の結果として、緊急事態宣言を回避しながら、感染拡大防止と経済活動の維持を両立させることができました。しかしながら、世界では新たな変異の報告もあるなど、まだまだ気を緩めることはできません。「平時への移行の道を慎重に歩んでいく」という基本方針を堅持しつつ、一日も早く皆さんが日常を取り戻せるように努力を続けてまいります。

次に、ウクライナ侵略への対応です。
世界の平和秩序を踏みにじるロシアによる侵略は、決して許してはならない。国際法のルールを破る行為には、高い代償が伴うことを示す。こうした思いで、これまでの対ロシア政策を大きく転換し、G7を始めとする国際社会と協力し、厳しい対ロシア制裁を科すとともに、ウクライナ等への支援に全力を挙げています。
アジアにおける唯一のG7メンバー国として、今、正に日本の外交力が問われています。3月のインド、カンボジア訪問、0泊3日でのG7ブリュッセル会合、ゴールデンウイークのアジア・欧州歴訪、先月の東京での日米首脳会談、日米豪印のクアッド首脳会合、先週末のシャングリラ・ダイアローグ、そして、再来週予定しているG7エルマウサミットに、さらに、日本の総理大臣として初めて、NATO(北大西洋条約機構)首脳会議に出席いたします。欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であり、力による一方的な現状変更は、世界のどこであれ認められないということを訴えていきます。

アジアの立場とG7の立場が協調されたものとなるよう働き掛ける。また、防衛力の抜本的強化を含め、日米同盟を新たな高みに引き上げながら、「自由で開かれたインド太平洋」を、志を同じくする国々と作っていく。さらに、核軍縮・不拡散や気候変動などのグローバルな問題に対し、日本ならではの貢献をしていく。地域の平和と安定を守るため、中国に主張すべきは主張し、責任ある行動を求めていく。同時に、諸懸案を含め対話を重ね、共通の課題については協力していく。私が掲げる「新時代リアリズム外交」です。引き続き長年培ってきた各国首脳との信頼関係をいかして、日本の平和、そして、国際社会の平和を守るため、全力で取り組んでまいります。

この国会では、様々な重要法案が成立しました。経済安全保障を推進するための新たな法律、厳しさを増す国際情勢の中、待ったなしで取り組まなければならない課題です。年内に策定する新たな国家安全保障戦略等の議論の中で、更なる取組の具体化を進めていきます。
薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)改正法では、緊急時に迅速な薬事承認を行うための手続を創設しました。これにより、新たな変異種が登場したり、別の感染症が拡大した場合に、迅速にワクチンや薬の承認を行えるようになりました。
また、こども政策の司令塔となるこども家庭庁設置法が本日成立しました。昨年の出生数は過去最少の81万人となり、少子化対策は喫緊の課題です。子供や子育て世代の視点に立った政策を強力に推進し、「こどもまんなか社会」を実現しなければ、日本の未来を描くことはできません。不妊治療の保険適用が4月から始まりました。さらに、私の判断で出産育児一時金を大幅に増額いたします。皆さんが安心して妊娠、出産できる環境づくりを進めてまいります。来年4月のこども家庭庁発足を待つことなく、直ちに設立準備室を立ち上げ、300人体制でこども政策の充実に向けて取り組みます。

次に、今後の取組です。
エネルギー・食料価格高騰による物価上昇・家計負担増大への支援、新しい資本主義の実行、新型コロナを乗り越え、平時に近い経済社会を取り戻すための取組、この3点を説明いたします。

第1に、エネルギー・食料価格高騰の問題です。
我が国の消費者物価上昇は、ほとんどがエネルギーと食料品価格の上昇です。我が国だけではありません。ガソリン代、電気料金支払額の増大、各種食料品の値上げ、ロシアによるウクライナ侵略が世界各国で国民の懐を直撃しています。正に、ロシアによる価格高騰、有事の価格高騰です。
ガソリン、軽油価格の高騰については激変緩和措置を講じています。これにより、例えばガソリンについては、制度がなければ、1リットル当たり210円であるところ、170円程度の水準に抑えています。その結果、ウクライナ侵略後のガソリン価格の値上がり幅で見ると、日本は欧米各国に比べ、半分程度の水準にとどまっています。
電気料金については、ロシアからのパイプライン供給への依存度の高い欧州の消費者は、3割から5割の値上げに直面しています。我が国は、LNG(液化天然ガス)輸入の3分の2以上を比較的低い価格で長期安定契約しています。さらに、家庭向け電気料金については、料金の上限を設けたり、燃料価格が上昇しても、直ちに値上がりしないようにするなど、激変緩和効果を持った料金制度としています。その結果、家庭用電気料金の上昇幅を欧州の3分の2程度に抑えています。

ウクライナ危機の影響は価格だけにとどまりません。ピーク時の電力需給にも大きな影響を与えます。電気料金の上昇を抑制し、同時に、電力需給の安定を確保する対策が必要です。供給面では、再生可能エネルギーの徹底的な拡大と、安全を確認し、地元の理解を得た原発の再稼働を進めていきます。他方、スピーディーに大きな効果を持つには、需要面の対策、省エネと節電の徹底です。そのための措置を早急に公表できるように準備を進めます。
そして、食品については、ウクライナ情勢で輸入小麦の国際価格が2割から3割上昇していますが、政府の国内製粉会社への売渡価格は、9月までの間、据え置くこととしています。10月以降も輸入価格が突出して急騰している状態であれば、必要な抑制措置を講じ、パンや麺類などの価格高騰を抑制します。
また、飼料の高騰による畜産物の生産コストの上昇を緩和するため、官と民による基金から生産者に補填金を交付し、肉やソーセージ等の価格上昇を抑制します。さらに、秋に向けて肥料の原料価格高騰が、多くの農産物価格の更なる上昇に影響を与えるおそれがあります。ここにも手を打ち、国民の皆様が毎日購入する様々な農産物について生産コストを最大1割程度引き下げ、価格上昇を抑制します。

同時に、11月にまとめた79兆円規模の経済対策、過去最大規模の当初予算の迅速な執行、4月にまとめた13兆円規模の総合緊急対策、そして補正予算と、切れ目のない対策を講じてきました。これらの対策を有効に活用し、万全の対応をしていきます。
5月末から、低所得の子育て世帯に5万円の給付を順次実施しています。基礎年金受給者の方々や生活困窮世帯には、この春に10万円の給付金を先んじて行いました。今回の物価高による影響を受けやすい事業者の方に対する支援も強化しています。物価高による影響は地域によって異なります。今回の対策により、地方創生臨時交付金を1兆円確保しました。この交付金を活用し、例えば私が訪問した山梨県では、生活困窮者への給付金をプッシュ型で行うとの話がありました。また、別の地域では、自治体が運営する水道料金を引き下げ、水道光熱費全体として負担抑制に取り組もうとしています。国として、こうした取組を後押ししていきます。また、こども食堂や孤独・孤立などの問題に取り組むNPO(特定非営利活動法人)といった多様な主体にも協力を求め、コロナ禍や物価高に苦しむ方をきめ細かくサポートしていきます。

岸田政権としては、物価・景気両面について、今申し上げた電気代負担軽減策や食料価格高騰対策などの様々な対策に加え、最大限の警戒感を持って対応してまいります。このため、政府に「物価・賃金・生活総合対策本部」を立ち上げます。私が先頭に立って事業規模13兆円の総合緊急対策に続く切れ目のない対応として、補正予算で確保した5.5兆円の予備費の機動的な活用を始め、物価・景気両面の状況に応じた迅速かつ総合的な対策に取り組みます。断固として国民生活を守り抜く決意です。

持続的な賃上げも重要です。今年の春闘では、賃上げ率は現時点で2.09パーセントという水準となり、ここ数年の賃上げ率低下が一気に反転上昇することとなりました。最低賃金も早急に1,000円まで引き上げる方針であり、そのための環境整備に努めます。そして、継続的な賃上げを可能とするような持続的で包摂的な経済成長を実現するため、新しい資本主義を実現させていきます。

第2に、その新しい資本主義の実行についてです。様々な社会課題を成長のエンジンに変え、持続可能で力強い成長を実現する。それが新しい資本主義です。それを実現するためには、企業に眠る320兆円の現預金、個人の保有する1,100兆円近い現預金を、しっかりと分配、そして投資に回していくことが必要です。
新たな官民連携によって、人への投資、科学技術・イノベーションへの投資、スタートアップへの投資、グリーントランスフォーメーション・デジタルトランスフォーメーションへの投資の4本柱を進めるとともに、社会的起業への支援など、民が積極的に社会課題解決に役割を果たしてもらう経済社会を作っていきます。人への投資については、引き続き賃金の引上げに政策を総動員し、分配を強化するとともに、3年間で4,000億円の施策パッケージを含め、教育訓練投資を充実するよう進めてまいります。また、NISA(少額投資非課税制度)・iDeCo(個人型確定拠出年金)改革等の資産所得倍増については、本年末に総合的な「資産所得倍増プラン」を策定します。

量子、AI(人工知能)、バイオ、医療分野について、国家戦略、国家目標を定め、官民が連携して科学技術投資の抜本的拡充を行います。本年を「スタートアップ創出元年」として、年末までに5か年計画をまとめ、イノベーションの鍵となるスタートアップを5年で10倍増とします。今後10年間で150兆円のグリーントランスフォーメーション投資を実現するため、夏以降にGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を設置し、規制と支援を一体的に行うことで、投資を促進する方策などを具体化していきます。デジタルインフラ整備、デジタル規制改革4万件など、我が国のデジタル化の着実な実行を進めていきます。これら新しい資本主義の実現のための行動計画について、秋以降、新しい資本主義実現会議の下で進捗を管理してまいります。

最後に、新型コロナを乗り越え、平時に近い経済社会を取り戻すという観点から、2点、申し上げます。
1点目に、観光の国内需要の創出です。新型コロナの影響が長引く中、4月から順次地域ブロックを対象とした観光需要喚起策を実施してきました。新規感染者数は全国的に減少傾向にありますが、地域によって感染状況に差があり、依然として警戒局面にあります。水際対策において6月1日から入国者数の拡大、10日から観光目的の入国再開を行ったところであり、これらの影響を含め、6月中の感染状況を見極める必要があります。その上で、感染状況の改善が確認できれば、7月前半より地域観光をより一層強力に支援するため、地域観光事業支援について、全国を対象とした観光需要喚起策を実施いたします。

2点目に、感染症危機への備えを強化します。本日の有識者会議の報告を受け止め、昨年の総裁選でお約束したとおり、国・地方が医療資源の確保等についてより強い権限を持てるよう法改正を行います。
医療体制については、11月の「全体像」で導入した医療機関とあらかじめ協定を締結する仕組みなどについて、法的根拠を与えることで更に強化いたします。地域の拠点病院に協定締結義務を課すなど、平時から必要な医療提供体制を確保し、有事にこれが確実に回ることを担保します。保健所や検査の体制、ワクチン、医療物資の確保なども強化します。

そして、こうした枠組みを迅速かつ強力に実行するため、司令塔機能を強化いたします。まず、内閣官房に新たに内閣感染症危機管理庁を設置し、企画立案・総合調整の機能を強化、そして、一体化いたします。厚労省における平時からの感染症対応能力も強化いたします。各局にまたがる感染症対応・危機管理課室を統合して、感染症対策部を新設いたします。あわせて、生活衛生関係の組織を見直し、医療行政への重点化を図ります。

さらに、科学的知見の基盤となる専門家組織も一元化します。国立感染症研究所と国際医療研究センターを統合し、厚労省の下にいわゆる「日本版CDC」を創設します。平時から、感染症対策部と「日本版CDC」、そして、関係自治体が一体的な連携関係を築きます。
このように、平時における機能強化を図った上で、有事においては、厚労省の感染症対策部を始めとして、物資調達や広報等に当たる各省庁の職員を内閣感染症危機管理庁の指揮下に置き、総理大臣のリーダーシップの下、一元的に感染症対策を行ってまいります。こうした方向性に基づいて、最終調整を進め、明後日のコロナ対策本部において正式に決定したいと考えております。

私は、危機に直面する中で、国民の命、暮らし、雇用・経済を守ると同時に、この国の未来を切り拓(ひら)いてまいります。それが総理に就任したときからの一貫した私の思いであり、国民の皆さんとの約束だと思っています。この約束を果たすために、これからも内閣総理大臣としての使命を果たしてまいります。