令和9年度科学技術・イノベーション政策に関する決議

令和8年6月2日
自由民主党 政務調査会
科学技術・イノベーション戦略調査会

科学技術・イノベーションは、わが国が持続的な成長を遂げ、「強い経済」を実現すると同時に、国際社会の中で安全保障を確保するための要となる基盤である。目下、ロシアによるウクライナ侵略の長期化や中東情勢の緊迫化等により、国際秩序は大きく揺らぎ、安全保障環境の厳しさと不確実性は一段と増している。くわえて、エージェンティックAIを始めとする最先端技術の飛躍的進歩は、経済社会や国民生活に変革と価値をもたらす一方で、安全保障上の脅威とも表裏一体の関係にある。こうした背景から、科学技術・イノベーションを中核とする国家間競争は、かつてないほどに激化しており、その優位性の確保が国家の命運を左右する時代に突入している。

高市内閣は、わが国が強みを有する技術の社会実装とともに、勝ち筋となる分野での戦略的支援を進めていく「新技術立国」を目指している。将来の産業構造の変化も見据え、「技術で勝ってビジネスでも勝つ」という確固たる意志を持ち、科学技術を国力の源泉として、イノベーションを生み出すための、わが国全体の社会システムの再構築を断行しなければならない。本年度から始動した第7期科学技術・イノベーション基本計画が、その道標としての機能を果たせるよう、科学技術と国家安全保障との有機的連携等の新たな政策の方向性を実際の施策に反映し、多様な財源を駆使しながら、これを軌道に乗せていくことが急務である。

現在、政府は、高市内閣として初の概算要求を迎えるに当たり、「危機管理投資」・「成長投資」についての「新たな投資枠」の創設や「補正予算依存」からの脱却、基金事業の予算措置は原則3年以内とする現行ルールの不適用など、「予算編成の在り方」の大胆な見直しに取り組んでいる。科学技術・イノベーションには、中長期を展望した研究開発や人材育成、研究基盤整備が不可欠であり、安定的かつ継続的な投資こそが成果創出の礎となる。政府に対しては、このような科学技術・イノベーションの特性に十分に配慮した上で、複数年度での財源確保・管理等により予算の予見可能性を高めつつ、リミッターを外し、従来は補正予算で措置されてきた施策も含め、各府省が真に必要な予算を確実に要求・確保できる仕組みを構築することを強く求める。

長いデフレの時代、わが国は、どうしても守りの発想に陥りがちであった。しかしながら、日本経済の局面が変わりつつある今こそ、「責任ある積極財政」の考え方の下、官と民が目標を共有し、国力を総合して未来を切り拓くための反転攻勢の最後のチャンスである。この強い危機感を踏まえ、政府に対しては、諸外国の動向も勘案しつつ、7期基本計画が掲げる研究開発投資目標、すなわち、政府投資をこれまでの30兆円から60兆円へと「倍増」し、官民合わせた総額を180兆円とする目標の着実な達成に向け、科学技術関係予算を抜本的に拡充することに加え、今夏に策定予定の日本成長戦略とも軌を一にして、下記に掲げる重要施策を中心に、関連施策を早急に講ずることを強く求めるとともに、産業界においても、「投資牽引型経済」へマインドセットを転換し、研究開発投資の拡大や産学連携などを強力に進めることを強く求め、ここに決議する。

■科学の再興に向けて

(科研費の大幅な拡充と全面基金化)

  • 科研費の大幅な拡充や全面基金化、戦略的創造研究推進事業等との連携・強化を通じ、多様な学術研究や若手研究者による挑戦的・萌芽的な研究、既存の学問体系の変革を目指す研究、国際性の高い研究等への支援を強化しつつ、研究者の事務負担軽減と研究時間確保を図ること。

(国立大学法人運営費交付金等の大幅な拡充)

  • 物価・人件費の上昇等を踏まえつつ、基盤的経費を確保するため、国立大学法人・国立研究開発法人等の運営費交付金や施設整備費補助金の大幅な拡充、私学助成の理系重視・充実を図ること。あわせて、国立大学法人等の第5期中期目標期間を見据え、各法人の改革を促進すること。

(大学の規模適正化と機能強化)

  • 大学の規模を適正化しつつ、産業構造の変化に対応した理工・デジタル系人材の育成強化による教育の質の向上や、知事と学長、産業界等が連携した、地域の需要に基づく人材育成の充実、高等教育へのアクセスの確保等を通じ、大学の分野・地域のリバランスを図ること。

(AI for Scienceの推進)

  • AIの基礎研究を含む研究者等の新たなアイデアへの挑戦に対する継続的支援や、戦略的な国際連携等による先導的研究の推進、それを支える計算資源や研究データ基盤、情報基盤、支援人材等の研究インフラ構築を通じ、AI for Scienceによる科学研究の革新を実現すること。

(科学技術人材の育成・確保と魅力ある研究基盤の構築)

  • 若手研究者や女性研究者、障害のある研究者の育成・活躍促進のほか、博士後期課程学生への支援、国内外の優秀な研究者の集積、高度専門人材のキャリアパスの明確化にもつながるよう、研究支援・研究環境整備・研究拠点形成の充実・強化を図ること。
  • 全国の研究大学等における先端研究施設・設備・機器の整備・共用・高度化や共同利用・共同研究システムの機能強化を戦略的に進めることで、研究基盤の持続的な維持・強化と全国の研究者のアクセスの確保はもとより、研究費の実質的な増加を図ること。
  • 「富岳」の次世代となる新たなフラッグシップシステムの開発・整備、SPring-8の高度化(SPring-8-II)、NanoTerasuの共用ビームライン増設等により、世界最高水準の大型研究施設の整備・成果創出を促進すること。

(国立研究開発法人等が持つ技術シーズの徹底した社会実装)

  • 大学・国研の施設・設備等の老朽化対策にも資する基盤的経費の確保と併せ、技術シーズの徹底した社会実装のため、産学官協働プラットフォームの構築等により、国研の機能強化を図ること。

■技術領域の戦略的重点化に向けて

(重要技術領域における取組の推進)

  • 将来のわが国の自律性・不可欠性の確保や成長産業の創出に向け、第7期基本計画が定める17の重要技術領域において、以下に列挙する取組を始め、研究開発等を重点的に推進すること。また、研究開発税制等を活用し、研究開発投資を促進すること。
  • バーティカルAIやフィジカルAIの開発・導入・AX促進、データプラットフォーム等のAI関連サービスやAI基盤の開発・整備促進、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の機能強化、フィジカルAIテストベッドの整備、AI導入と規制改革の一体的展開、AIサミットの早期開催など、AIに関するイノベーション促進とリスク対応の両立を推進すること。
  • 量子コンピューティング、量子通信・ネットワーク、量子センシングについて、研究開発から社会実装まで一気通貫の取組を加速させるとともに、産学官連携の下、拠点等の環境整備や人材育成など、産業化や市場形成も見据えた競争力確保のための基盤強化を進めること。
  • 日本の強みを活かした創薬シーズの継続的な創出(免疫作用薬・次世代iPS・感染症危機対応医薬品等)や、合成生物学・バイオものづくりに資する革新的基盤技術の創出、バイオコミュニティの機能強化を図ること。
  • フュージョンエネルギー創造立国を目指し、ITER計画やJT-60SA等の幅広いアプローチ活動、それらの成果を生かした原型炉開発やイノベーション拠点における共通技術開発、施設・設備の整備等により、残された技術課題の克服を図るとともに、スタートアップ等による野心的な技術開発の加速や人材育成、規制体系の検討加速やフュージョンエネルギー推進法(仮称)の次期通常国会への提出を含む制度整備等を推進すること。
  • AI for Materialsによる新素材開発の加速や、マテリアル・サイエンスによる資源リスクの打破を図ること。
  • 地震津波火山観測網の整備・運用や、火山噴出物分析センターの整備など火山調査研究推進本部における調査研究、専門人材の育成・継続確保を推進すること。
  • 放射性医薬品について、国内における開発・製造の推進、医療現場での利用促進に向けた制度・体制の整備、ラジオアイソトープの国内製造に資する研究開発の推進、ラジオアイソトープ製造・利用のための研究基盤や人材、ネットワークの強化を進めること。
  • 南鳥島周辺海域からの国産レアアース生産に向けた研究開発について、わが国の経済安全保障上重要なミッションを強力に推進できるよう、社会実装に向けた取組を加速すること。

(社会課題解決等に向けた研究開発プログラムの推進)

  • ムーンショット研究開発制度について、目標達成に向けて計画等を柔軟に見直しながら研究を推進するとともに、制度全体の統一的なマネジメントを強化する制度改革の検討や、重要技術領域における支援の充実を図ること。
  • 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)を推進するとともに、府省横断的に取り組むべき次期テーマの候補を令和8年度末までに選定すること。

■科学技術と国家安全保障との有機的連携に向けて

(デュアルユース技術の戦略的研究開発の推進)

  • 技術流出対策やサイバーセキュリティ対策に留意しつつ、オフキャンパス構想も念頭に置き、大学・国研等における新たな研究拠点形成や基礎研究支援に取り組むなど、防衛省を含む各省庁からの支援を質的・量的に強化し、多様な財源を活用したデュアルユース技術の研究開発を推進すること。あわせて、研究者がそこに躊躇なく参画できるよう、関係府省が連携し、大学・国研等への周知・理解増進に取り組むこと。

(経済安全保障上の重要技術の育成強化)

  • 経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)を推進するとともに、その更なる強化に向けて、これを経済安全保障の観点から国家安全保障をより強く支える技術開発のための仕組みとすべく、これまでの成果と課題等を踏まえ、対象技術の探索・選定の考え方や伴走支援の在り方など、大胆な発想で後継プログラムの具体化を進めること。

■イノベーション・エコシステムの高度化に向けて

(産業競争力強化に貢献する新たな大学群の形成)

  • 国際卓越研究大学や地域中核・特色ある研究大学といった既存の研究大学群に加え、わが国の成長につながるイノベーション創出の中心として、世界で存在感を示す研究大学群を形成すべく、特定分野において特に高い研究力を有し、高度な経営を行う大学を認定し、中長期的に支援する制度の創設について検討の上、必要な措置を講ずること。

(ディープテック・スタートアップ支援の強化)

  • SBIR制度における大規模技術実証(フェーズ3)について、新たな社会課題や政府調達ニーズに対応した公募の実施も含め、支援の更なる充実を図るとともに、スタートアップによる新製品や新サービスの本格的な調達を見据えた研究開発、試験導入、評価及び運用(委託)の枠組みを創設すること。また、第2期スタートアップ・エコシステム拠点都市を始め、地方発スタートアップの海外連携・海外展開支援を推進するため、海外市場を見据えた事業戦略の具体化や収益性確保に係るハンズオン支援を新たに実施すること。

(世界最先端の研究等を行うフラッグシップ拠点を担う運営法人の設置)

  • グローバル・スタートアップ・キャンパス構想の中核となるフラッグシップ拠点の運営法人となる先端研究成果活用推進機構の令和9年度早期の設立に向け、政府からの出資など必要な措置を講ずるとともに、拠点整備に関する基本計画を策定し、設計に取り組むこと。並行して、先行的活動を本格的に実施すること。

(知財・国際標準化の推進)

  • 特許等の知財情報を活用した分析により、国等が支援する研究開発プロジェクトの勝ち筋を明確化すること。また、国際標準は技術で劣後していてもビジネスで勝ち得るツールであることに留意の上、海外主導の国際標準化に対する守りの観点も含め、日本成長戦略における17の戦略分野の官民投資ロードマップに国際標準化をビルドインし、国際標準活動に取り組むこと。

■科学技術外交の戦略的推進に向けて

(国際頭脳循環と技術保護の推進)

  • 進化した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のビジョンも踏まえ、ホライズン・ヨーロッパへの準参加も通じた国際共同研究や、世界トップ人材の受入れと日本人研究者の海外派遣による人材交流、国際的に魅力ある研究環境整備等により、国際頭脳循環を推進すること。同時に、重要技術等の研究において、同志国等と対等に国際共同研究を実施できるよう、研究セキュリティの確保・強化を図ること。

■推進体制・ガバナンスの改革に向けて

(司令塔機能の強化)

  • わが国の科学技術・イノベーション推進システムの刷新に向け、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)やその事務局が司令塔機能を強力に発揮できるよう、事業執行等を各省庁や大学・国研等が担うことによる運用機能の最小化を図るとともに、内閣府としては、シンクタンク機能や在外公館、その他関連機関を活用し、ストラテジック・インテリジェンス機能を強化しつつ、国家として戦略的に重要な技術領域の特定、関係省庁や大学・国研等との連携に基づく政策体系の構築・強化、研究開発・人材育成の在り方に関する方針の策定等に注力するための、企画立案機能の強化に資する検討を進めること。あわせて、それに必要となる機構・定員・実員上の増強も図ること。

以上