AIロボティクス社会実装に向けた提言

~ 課題先進国・日本の勝ち筋を、官民の総力で具現化する ~

令和8年6月4日
自由民主党 政務調査会
経済産業部会 ロボティクス戦略プロジェクトチーム

はじめに

生成AIの急速な進展による「フィジカルAI」の台頭、そして米中を中心とするヒューマノイドロボットへの巨額投資──。世界のロボット産業は、いま大きな構造転換の渦中にある。2040年には世界市場が60兆円規模に達するとも予測されるなか、我が国がこの新たな中核産業をいかに育て、社会課題の解決と産業競争力強化に結びつけるかは、まさに国家戦略の根幹をなす課題となっている。

本提言の核心は以下である。まず、技術開発を先行させ実装を後回しにする従来型のアプローチを脱却し、「日本の現場」と「日本の課題」そのものを最大の資産として、需要創出と供給強化を一体的に進めること。令和8年度内の早期に予算・制度・人材の三位一体の措置を講じ、2027年から2028年にかけて到来するサービスロボット更新期を含む、「フィジカルAI主導権の分岐点」を確実に越えていくことである。例えば、「人件費削減5万円のロボットが月額1万円で買えれば爆発的に普及する」という需要側ボトルネックの構造、シンガポールが達成した「需要側70%補助によるロボット企業300社創出」のモデル、「コンビニ2,000台30〜40億円の政府支援が量産規模の種火となる」具体策、「本年度で既存3万台を国内製に切り替える」量産化シナリオは、本提言の重要なメッセージの元となっている。

本提言が政府の「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太の方針)及び令和9年度予算編成に確実に反映され、産業界・学術界の総力を結集した取組へとつながることを強く期待する。

令和8年6月

自由民主党 政務調査会 経済産業部会

ロボティクス戦略プロジェクトチーム長 衆議院議員 山際 大志郎

第1章 日本のロボット産業を取り巻く環境認識

1-1 フィジカルAI時代の到来と国際競争の現状

世界のロボット産業は、いま3つの大きな構造変化の渦中にある。

  • (1)フィジカルAI時代の到来

    画像・音声・動画・各種センサー等を統合して現実世界を理解するマルチモーダル化、その理解に基づき行動を生成し物理的なタスクを遂行する「フィジカルAI」の進展により、ロボティクスはAIによって質的に高度化しつつある。今後の競争軸は、AIモデルの性能に加え、コンピューティング、制御系、駆動系、知覚系を統合した「フィジカル・インテリジェント・システム」の統合力・運用力へと変化している。

  • (2)ロボット市場の構造変化

    AIロボティクスにより、これまで導入が難しかった物流、建設、小売、介護、災害対応等へと市場が拡大する見込みである。米中を中心に、ロボットメーカーに加えて、自動車・半導体等の異業種プレイヤーが巨大な資本をもって参入し、ロボット単体の単純な性能競争にとどまらず、AIモデル・データ・計算資源・量産能力・実装能力等の産業システム全体における付加価値領域のポジション獲得へと競争の様相が変化している。

  • (3)経済・産業上の意義の高まり

    人口減少を背景とした構造的な人手不足が、幅広い産業・地域で深刻化している。とりわけ介護分野では、現時点で25万人の人材が不足しており、今後10年でさらに倍以上に膨れ上がると見込まれている。AIロボティクスを通じた労働力補完、生産性向上、新たなイノベーション創出は、エッセンシャルサービスの維持・発展、経済安全保障の確保のためにも、待ったなしの政策課題である。

1-2 AIロボティクス戦略の策定と政府目標

これらの背景のもと、政府は令和8年1月、内閣官房副長官補の下に「AIロボティクスに関する関係府省連絡会議」及び幹事会を設置するとともに、経済産業省に有識者で構成する「AIロボティクス戦略検討会議」を設置。同年3月末、10年ぶりとなる本格的なロボット戦略として「AIロボティクス戦略」及び「実装ロードマップ」を策定した。

  • (1)戦略の主要目標
    • 2040年のロボット市場(世界規模60兆円)において、米中に並ぶ第三極として世界シェア3割超(20兆円)の獲得を目指す。
    • 構造的な人手不足を背景に高まる潜在的ロボット導入需要を顕在化させ、社会実装を先行して実現する。
    • エッセンシャルサービスの維持発展、DX・GXの実現、経済安全保障の確保に貢献する。
  • (2)主要施策の4本柱
    • 1. 世界最先端のAIロボティクスを実現する「頭脳(AIモデル)」の獲得:ロボット基盤モデル及びベースとなる国産マルチモーダル基盤モデルの開発、現場環境におけるデータ収集・加工・モデル改善エコシステムの構築。
    • 2. AIの高度化やSDR(Software Defined Robot)の潮流を踏まえた新たなサプライチェーンの構築:スタートアップを中心とした多用途ロボットメーカーの育成、重要部品・中核ソフトウェアの設計・開発・製造能力強化。
    • 3. AIロボティクスの潜在需要の掘り起こしと導入環境の整備:18分野について実装ロードマップを策定し、データ収集、導入支援、ルール整備等を一体で措置。
    • 4. 世界的なAIロボティクスの中核拠点(Center of Excellence:CoE)の整備:現場に近い環境でデータ収集・人材育成等を行う場の構築。
  • (3)実装ロードマップの対象18分野

    製造業(多品種少量生産)、造船、物流(倉庫・輸配送)、建設・土木、建築、インフラ保守、小売、宿泊業、飲食・食品製造業、医療、介護、警備業、農業、林業、廃棄物処理業、災害対応、警察活動、防衛の18分野について、各府省庁が連携して具体的な導入目標・課題・対応策を整理。短期(2030年まで)には「見廻る」「モノを動かす」、中長期(2030年以降)には「指作業」レベルの実現を段階的に目指すこととされている。

戦略の枠組みとしては既に高い水準に練り上げられている。残された最大の課題は、これをいかに「絵に描いた餅」に終わらせず、令和8年度補正・令和9年度当初予算において具体的な施策・予算へと落とし込み、現場での実装と成果に結び付けるかである。

1-3 日本が直面する「ラストチャンス」

とりわけ次の点が重要である。

  • (1)2027年から2028年にかけてのサービスロボット数千台更新という分岐点

    国内ロボット関係会社によれば、2021~2022年に日本市場に大量に導入された配膳・清掃・警備ロボット等のサービスロボットの多くは、減価償却期間(5~6年)を経て、2027年末頃から一斉に更新時期を迎える。また、ある企業は令和9年4月から令和10年3月(2027年4月~2028年3月)にかけて既存3万台規模の流通在庫すべてを国内製に切り替える計画を有している。すなわち、2027年から2028年にかけてサービスロボット領域の更新期として極めて重要な時期となる。この更新タイミングで再び外国製を選ぶこととなれば、フィジカルAIの基盤データ・現場ノウハウは引き続き外国メーカーに蓄積され、日本勢が次のサイクルで参入する余地はほぼ失われる。逆に、ここで国産化への端緒を確保できれば、サービスロボット領域における日本の勝ち筋を切り拓くことが可能である。

  • (2)ヒューマノイドの本格普及前夜

    米中を筆頭に、ヒューマノイドロボットへの数千億円~数兆円規模の投資が進行している。アメリカ製ヒューマノイドの日本市場投入が間近に迫る一方、経済安全保障上の制約からすでに中国製ヒューマノイドの導入には慎重な対応をとっている国もある。この狭間で、我が国にも国産化に本気で取り組むサプライヤーが現れており、量産化と社会実装を支える官民連携の枠組みも必要となっている。

  • (3)シンガポールが示した「需要側支援=勝ち筋」モデル

    シンガポール政府は「National Robotics Program」のもと、需要側ロボット導入に70%の補助を出すことで「人を雇うより導入した方が圧倒的に得」という経済構造を作り出し、清掃ロボット普及率10%(日本は2%)、ロボット企業300社超の創出、警備ロボット世界1位・清掃ロボット世界3位・自動フォーク世界2位企業の輩出を達成している。供給側では、国家戦略に合致するロボット開発について毎年6社を選定し、開発企業がIPを保有したまま補助金を支給する仕組みを構築した。これは、まさに「需要を作れば供給は後からついてくる」モデルの具体化であり、日本の学ぶべき事例である。

  • (4)「アプリケーションを先に見つけた者が勝者」となる時代

    「米中・日本でロボットのコア技術差はほとんどなく、勝負はどこに使うかというアプリケーションを最初に探し当てる者にある」という示唆は、米メガユニコーン企業がロボット基盤モデルを完成させるには「実際のユースケース現場で動いているリアルなデータ」が不可欠である事から、数万店以上での実装実績を持つ日本のスタートアップへ協業打診してきた事に由来する。中国とは「物量と相対的・総合的にやり抜く」競争はせず、「政策密度」で対抗する―すなわち、社会インフラ性が高く労働集約的な分野(小売、物流、製造、データセンター等)に対し、開発が進んでいる企業へロボットを買い上げて供給する「労働力商社的存在」を政策的に作り出すことが、日本の勝ち筋である。

上記の認識のもと、「骨太の方針2026」、令和8年度補正予算、令和9年度当初予算において、後述する具体的な施策が確実に反映されるよう、強く要請するものである。

第2章 日本のロボット普及における課題

ロボットを日本社会に普及させていくうえでの課題が、市場・技術・制度・産業構造の4側面において具体的に浮かび上がった。以下、それぞれの観点から課題を整理する。

2-1 市場・需要側の課題

  • (1)「死の谷」を越えられない実装の停滞

    日本のロボット技術は依然として世界トップクラスの研究水準にある一方で、研究開発から社会実装へと至る「死の谷」を越えられず、現場での実装が進まないという構造的課題が深刻化している。サービスロボット領域においては掃除・配膳・警備の各分野で先行して実装が進んでいるが、その多くは外国製であり、国産ロボットの存在感は限定的である。

  • (2)初期導入・運用・保守コストの壁

    ロボット本体価格に加え、現場ごとのシステムインテグレーション費用、運用・保守費用、現場改修費用が重く、特に中小企業や地方自治体において費用対効果が成立しにくい。産業用ロボットメーカーからは、変種変量生産の現場では、ロボット本体価格よりもシステム構築(SI)コストの方が大きく、これが多くの現場でロボット導入を阻む最大の要因との声があがっている。食品業界では、SIコストがロボット本体価格の半分以上を占める例も存在する。

  • (3)公共調達における仕様発注の制約

    国内ロボット提供会社によれば、自治体・準公共施設の入札は「何日何時間清掃するか」といった仕様発注が中心であり、これを民間企業も基準にするため、ロボット導入による省人化を行ったビルメンテナンス事業者がコスト構造上「逆に損をする」構造となっている。性能発注への転換がなければ、地方自治体・公共施設を含むサービスロボットの普及は構造的に阻まれ続ける。

  • (4)人手不足代替率という社会的KPIの不在

    AIロボティクスがどの程度の労働力を代替し得るのかという定量目標(人手不足代替率)が政策上、明確に設定されていない。これは外国人労働者政策との兼ね合いを含めた政策議論の前提として極めて重要であり、2035年・2040年といったマイルストーンごとに、分野別の代替目標・価格目標を併せて設定する必要がある。少子高齢化により労働力人口の減少が続く我が国においては、AIロボティクスの「人手不足代替率」を政府が台数定量目標として明確に定め、分野別・年次別に進捗を管理する体制が不可欠である。

  • (5)「データのジレンマ」:実装が進まなければデータが得られず、データがなければ実装も進まない

    AIロボティクスにおいてはVLA(Vision-Language-Action)モデルの実用化によるリアル制御への期待が大きいが、それには大量かつ高品質な実環境データが不可欠である。しかし、AIロボティクスの社会実装が進まなければ実環境データが得られず、実環境データがなければAIロボティクスの社会実装ができないという「データのジレンマ」が日本において深刻化している。一方、世界の競争軸は、モデル性能や計算資源を軸とする競争から、実世界における運用データの蓄積と活用を軸とする競争へと移行しつつあり、この潮流は「日本の現場」と「日本の課題」を最大の資産とし得る我が国にとって、むしろ好機である。このジレンマを打破するためには、政府による大規模導入支援と、量産による低コスト化を一体的に進める「官民共同データファウンドリ」の構築が必要となる。

  • (6)介護分野における重点分野指定の不十分性

    介護分野においては、経済産業省と厚生労働省が共同で策定する「ロボット技術の介護利用における重点分野」には、現状、利用者と直接接触しない「周辺業務」(炊事・掃除・洗濯・配膳・下膳、利用者の誘導等、介護施設業務時間の約30%を占めるとの指摘もある。)に対応するヒューマノイド型ロボットが含まれていない。介護現場の人手不足が10年で2.3倍に膨れ上がると見込まれるなか、「周辺業務」を中心としたAIロボティクスの開発を行った上で、当該テクノロジー機器の導入支援、介護報酬の加点制度・人員配置基準への組み込みを含めた制度設計の見直しが必要である。

  • (7)既存流通在庫の更新支援の不在

    導入に関する現行の経済産業省の補助制度(省力化投資補助金)は「新規導入」のみを支援対象としており、既にレンタル・リース契約・サブスクリプション形態で市場に展開されている既存サービスロボットの国産化への切替支援が制度の死角となっているのが現状である。サービスロボット市場の流通形態は、メーカーの売り切りではなくインテグレーター・サービス提供事業者がサブスクで提供する形態が中心であり、既存契約の存在を前提としない補助制度では、社会実装の中核をなす既存稼働ロボットの国産化が進まないという構造的問題がある。既存3万台規模の流通在庫すべてを国内製に切り替える計画の企業もあり、このような切替を確実に実現するためにも既存機体更新支援を制度化することが、量産規模到達の必須条件となる。

2-2 技術・供給側の課題

  • (1)ロコモーション(移動)の課題

    車輪式は工場内等の単純な環境で普及している一方、屋外をはじめとした複雑な環境下では経路計画に課題が残る。脚式ロボットは単純な環境下でも経路計画と安定歩行が課題であり、自己位置推定・狭隘部や雑然環境での動作安定性・通行可能性の判断などで実用化のハードルが高い。

  • (2)マニピュレーション(物体操作)の課題

    従来のプログラミングベースのロボットは、用途が限定された単純な作業ではコスト・精度・速度が担保されているが、複雑な作業に対応するには高度な作り込みを要する。AIによる自律制御を行うロボットは、現時点では単純な作業に限られ、精度・速度ともに課題が残る。とりわけ「指作業」レベルの巧緻動作(つまむ、こねる、組み付ける等)は、技術開発・コスト・社会実装のハードルが高く、中長期の重点課題である。

  • (3)データの圧倒的不足

    日本は世界モデルを作るために必要な実データの収集、構成データ(シミュレーションによる合成データ)の生成のいずれにおいても、米中に比して圧倒的に不足している。先端ロボット基盤モデルのデータ収集量は1万~10万時間規模であり、AIRoAでも年間で十数万時間規模のデータ収集体制を構築しつつあるが、米中の大規模投資には大きく差をつけられている。

  • (4)国産ロボット基盤モデル開発の遅れ

    国産ロボット基盤モデルの開発については、AIRoAがNEDOプロジェクト(事業期間2025年10月〜2029年8月、事業予算205億円)のもと、HSR(Human Support Robot)を用いたデータセット構築・基盤モデル開発を進め、2027年6月頃を目途にベータ版のオープンソース公開を予定している。しかし、米中のスタートアップ・大企業が数千億円規模の投資を進めるなか、開発スピード・規模ともに不足しており、国際競争力の確保には予算規模の抜本的拡充と複数年度にわたる安定的支援が必要である。

  • (5)重要コンポーネントとサプライチェーンの脆弱性

    日本はモーター、減速機、センサー等の重要コンポーネントについて世界有数の供給能力を有するが、ヒューマノイド用のアクチュエーターなど、新興領域のコンポーネントについては国内供給能力が限定的である。また、ロボット用ライダーセンサーの大半は外国製となっており、サービスロボット向けの量産用ボリュームを国内サプライヤーが供給するに至っていない。国内ロボット提供会社の実例によれば、サービスロボットの部品の約半分が依然として外国製である。

  • (6)SIer(システムインテグレーター)の機能不全

    前回のロボット新戦略(2015年)以降、SIerの育成は重要施策と位置付けられてきたが、製造分野の生産ライン組み込み等に活動が偏り、新規分野への展開が十分に進まなかった面がある。今後はコンサルティング能力を持ち、「あなたの業務はこう改善する」と提案できる新世代のインテグレーターの育成が必要である。

こうした技術課題に関し、AIに関する根本的な技術選択論として、ルールベース型の制御から段階的にAI制御へ移行する道筋、シミュレーションと現場データを組み合わせる道筋、ワールドモデルを活用する道筋など、複数のアプローチを並行して進める必要性が確認された。AIロボティクスには「ドメイン特化型AI」と「基盤モデル型AI(万能型AI)」の2種類があり、産業現場ではドメイン特化型で対応可能な領域を見極めつつ、必要な領域では基盤モデルにも取り組むという二段構えの戦略が重要である。

  • (7)ロボットOS主導権争いの本格化

    ロボット業界において、ロボット制御・シミュレーション基盤の主導権をめぐる競争が本格化しつつある。具体的には、海外プラットフォーム企業がフィジカルAI開発プラットフォームでロボット業界の囲い込みを進める一方、産業ロボットメーカー側はオープンソースの「ROS 2」を中心とした水平分業を志向している。国内産業用ロボットメーカーがオープンプラットフォーム(ROS連携、Python、海外シミュレーション基盤)を発表したことに象徴されるとおり、産業界は海外プラットフォーム企業との協業を進めざるを得ない現実に直面している。日本としては、産業実装が前に進むことを最優先しつつも、特定の海外プラットフォームへの過度な依存を避ける戦略的方策(例:国産ロボット基盤モデルAIRoAの早期OSS公開、複数プラットフォーム対応のサプライチェーン整備)が必要である。

  • (8)システム全体の信頼性確保とデジタルツインの課題

    ロボット単体の性能のみならず、複数のロボット・設備・AIが連携するシステム全体の品質・信頼性・安全性を確保する技術が、社会インフラ実装の前提として不可欠である。また、現場導入の工数削減にはデジタルツイン(仮想空間での事前検証)が極めて有効だが、バーチャルとリアルの差(Sim-to-Realギャップ)を埋めるデジタルツイン自体の精緻化が、ロボット本体と同等に重要な技術課題である。

2-3 制度・標準化の課題

  • (1)安全性論証・認証制度の未整備

    人と協働するサービスロボット、介護現場の直接業務ロボット、屋外作業ロボット等について、安全性論証・認証制度が十分に整備されていない。一度の事故が分野全体の導入停滞を招きかねないため、プライバシー・セーフティ・セキュリティを担保した認証制度と保険制度の確立が急務である。また、導入にあたり、制度・標準・安全性認証との連動が必要である。

  • (2)責任分界点・既存法制との整合性

    ロボット導入に当たっては、労働安全衛生法、消防法、薬機法、道路交通法、電波法など、多岐にわたる法制との整合性確保が必要である。とりわけ製造現場における労安法、医療・介護現場における関連法令、屋外作業における消防法・電波法等について、ロボット時代に対応した解釈の明確化・規制改革が求められる。

  • (3)「国産」の定義の曖昧さ

    省力化投資補助金等の補助金制度は、対象設備の「国産」要件を設けているが、サービスロボット領域における「国産」の定義が現状の制度設計に十分対応していない。段階的な国産化プロセス(受託アッセンブリ→アルゴリズム独自化→部品の段階的国産化→純国産メーカー創業)を経たロボットを、新たな「国産」として定義し直し、補助対象に含めることが必要である。

  • (4)国際標準化への対応

    建築領域におけるBIM(Building Information Modeling)の国際基準、サービスロボット分野におけるエレベーター・自動ドア・警備システム等との連携プロトコル(ロボットインフラ標準)について、国際標準の主導権をめぐる競争が進行している。日本企業を中心に、ISO/TC299 WG15においてフレームワーク規格の提案・ドラフティングをリードしている取組は、まさに日本の勝ち筋であり、これを国家として強力に支援する必要がある。

  • (5)特許戦略の脆弱性

    減速機の基本特許など、これまで日本が圧倒的優位を保ってきた分野でも、基本特許の期間満了に伴い中国企業の参入を許す状況が生まれている。フィジカルAI領域の基本特許出願では、すでに中国が日米韓を大きくリードしているとの現状もあり、特許戦略と国際標準化戦略をセットで進める体制構築が急務である。

2-4 産業構造・国際競争上の課題

  • (1)満点を求めない開発文化の限界

    海外メーカーは「まず出す(60点で市場投入)」アプローチで、現場の失敗データを即座にAIに反映させる構造を持つ。一方、日本メーカーは「完成度重視(100点まで出さない)」傾向が強く、結果として現場からのデータ蓄積が遅れ、改善サイクルが回らないという構造的不利を抱えている。サービスロボット領域では、この差がそのまま市場シェアの差として顕在化している。

  • (2)データの流出の課題

    日本国内で稼働するサービスロボットの大半が外国製である現状では、日本の優れた現場(床が平らで物が盗まれにくく、ロボットフレンドリーな環境)で生成される貴重な学習データが、すべて海外メーカーに流出している。国内ロボット企業の試算によれば、現状で清掃・警備・配膳を合わせて約5万台のサービスロボットが稼働しており、1台あたり年間1,800時間として9,000万時間分のデータが、毎年海外に流出していることになる。

  • (3)販売モデルとビジネスモデルの転換の遅れ

    ロボット単体の販売に加え、ソフトウェア、メンテナンス、サポート、データ活用までを統合した収益モデル(RaaS:Robot as a Service)への転換が、日本メーカーにおいて十分に進んでいない。国内ロボット提供会社のサブスクリプションモデル、参加した介護ロボット系企業の遠隔操作型介護ロボットの月額サブスクモデルなど、新たなビジネスモデルへの転換が模索されているが、これを支える補助金制度・税制等の枠組みが追いついていない。

  • (4)競争領域と協調領域の整理不足

    建設分野においては、建設RXコンソーシアム(319社が参画)に象徴されるように、業界横断で協調すべき領域と、各社が競争すべき領域を区分し、共通基盤を整備する取組が始まっている。しかし、製造業全般、介護、物流など他分野では同様の協調枠組みが十分に整備されていない。データの共有・標準化・安全認証等の協調領域での共同投資が遅れることが、日本全体としての競争力低下を招いている。

  • (5)AI人材の不足とエコシステムの未成熟

    AIインフラへの投資不足、世界のAIコミュニティとの接続不足、そして日本独自の強み(ものづくり現場・データ品質)の戦略的活用不足が、AI人材の確保・育成を妨げている。地域の産業界との連携・協働による高専・工業高校・大学の理工系教育の強化、AI・ロボット双方の専門性を持つ人材の育成、外国人材の積極的受け入れと国内エコシステムへの統合が必要である。

  • (6)防衛・災害対応など官需活用の遅れ

    産業・防災・防衛の「トリプルユース」によって、社会インフラへの投資と災害・有事対応への投資を一体化し、民間市場と官需を結び付ける戦略は、日本のロボット産業の成長基盤として重要である。米国においては、防衛・公共調達がロボット技術の量産化を支える重要な需要源となっているのに対し、我が国における官需活用は限定的であり、抜本的な拡充が求められる。

  • (7)米中との政策密度の圧倒的ギャップ

    米中との具体的な政策密度の差は、日本の現状の予算規模では太刀打ちできない水準にある。中国政府は2025年単年でロボット・AI領域に3,000億円超を投入し、深圳市等の市レベルでも100億円規模の追加助成を行っている。中国国家主導のヒューマノイド・データ収集センターは少なくとも20カ所以上、データ収集に従事する若者4,000人規模に対して月10〜15万円の助成を支給するなど、集中した政策投入が行われている。これに対し、我が国の令和7年度補正予算は726億円+α、令和8年度当初予算は3,995億円+αに留まる。AI半導体予算からの分配で確保できる金額にも限界があり、ロボティクス独自予算の抜本的な拡充(複数年度安定確保を含む)が、競争に参加する最低条件である。

第3章 官民共同で実現すべき政策パッケージ

3-1 産業界が主導すべき供給側施策(メーカー育成、コンポーネント国産化等)

  • (1)多用途ロボットメーカーの集中育成

    スタートアップを中心に、ヒューマノイド及びサービスロボット領域で世界市場と戦える日本メーカーを、官民連携の集中投資により育成する。具体的には、成長ステージに応じた資金調達環境の整備(VC連携、政府系ファンドによるレイトステージ投資、公的需要によるアンカーテナンシー)を講じるとともに、外国人材の招聘、海外メーカーとの戦略的アライアンス支援を行う。

  • (2)重要コンポーネントの国内開発・生産能力強化

    モーター、減速機、センサー、アクチュエーター、エンドエフェクタ等のロボット重要コンポーネントに加え、ヒューマノイド時代に必要となるアクチュエーター、ライダー、AI推論用エッジ半導体(System to Silicon)等について、海外輸出も視野に入れ、国内開発・生産能力の強化に向けた多年度・大規模な研究開発支援及び量産化支援を実施する。とりわけライダーセンサーは、現状サービスロボットコストの大きな比重を占めており、数万台規模の量産化により価格低減を実現することが、国産化推進の鍵となる。

  • (3)「段階的国産化」プロセスの政策的位置付け

    完全な純国産を初期から目指すのではなく、段階的国産化プロセスを、明確な政策ロードマップとして位置付ける。各段階に対応した補助金・税制優遇・人材支援を講じることで、サービスロボット領域における日本の参入機会を確保する。また、この「国産」の考え方は、メーカー資本・最終組立て・一部部材が国産である「Made in Japan」、データ処理・運用管理・障害対応が国内で完結する「Operated in Japan」、安全基準・個人情報保護や共創基盤プラットフォームの活用を担保する「Regulated by Japan」という三層として整理できる。

  • (4)水平分業型・オープンプラットフォーム型サプライチェーンの整備

    産業用ロボットメーカーの「オープンプラットフォーム」「Pythonサポート」「ROS連携」を通じてフィジカルAI時代に対応したロボット供給体制を構築している例にならい、ロボットメーカー、部品メーカー、ファブレス、製造受託企業(EMS)、SIerが連携した水平分業型の産業エコシステムを構築する。機能モジュール・コンポーネント、インターフェース、データ形式、安全論証等の標準化・共通化を進める政府主導のコンソーシアムを設置する。

  • (5)国産ロボット基盤モデル開発の加速

    国産ロボット基盤モデル開発について、Phase2(2025年10月〜2029年8月、事業予算205億円)における多品種双腕モバイルマニピュレーターのデータ収集・基盤モデル開発を確実に進めるための予算を確保する。2027年6月頃に予定されるベータ版オープンソース公開に向け、計算資源(GPUクラスタ)の確保、データ収集体制の拡充、海外トップ機関との連携を強力に支援する。

  • (6)R7補正「GENIAC拡充」枠組みの確実な実行とハード購入支援

    経済産業省における令和7年度補正予算「GENIAC拡充」の枠組み(計算資源支援・データ実証・新類型新枠)は、本提言の最重要施策の一つである。とりわけ、従来の委託契約ベースから補助金スキームに転換し、(a)データ収集用ロボット本体(ハードウェア)の購入を支援対象化、(b)ハードウェア人材の人件費を初めて補助対象化、(c)製造現場のデータをAIレディにする「データ実証」を製造業向けに新設し、所有権を提供企業側に保持する設計とした点は、産業界の現場ニーズに直接応える画期的な制度設計である。本枠組みの令和8年度・9年度における継続・拡充を確実に実施するとともに、AIロボティクス専用枠としての予算規模の更なる拡大が必要である。

  • (7)ロボットOS主導権をめぐる戦略的対応

    海外プラットフォーム企業のシミュレーション基盤とオープンソースの「ROS 2」をめぐるロボット制御プラットフォームの主導権争いに対し、日本としての戦略的対応を明確化する必要がある。具体的には、(a)国産ロボット基盤モデルを2027年6月のベータ版公開を起点に着実に育成し、海外プラットフォームへの過度な依存を回避、(b)参加した産業用ロボットメーカーの「オープンプラットフォーム」のような国内発のメッシュ型プラットフォームを政策的に後押し、(c)我が国主導のISO/TC299 WG15でのロボットインフラ標準化を国際展開、(d)海外プラットフォーム企業との協業も並行して進め、現場実装で後れを取らないバランスを確保する。

  • (8)ロボットのモジュール化促進と開発効率向上

    ロボット開発の効率化と多用途化を進めるため、ハードウェア・ソフトウェア両面でのモジュール化を促進する。具体的には、(a)駆動系・センサー系・制御系・通信系等のインターフェース標準化、(b)共通プラットフォーム上での部品交換可能性の確保、(c)開発者の開発効率を高めるためのSDK(Software Development Kit)・API(Application Programming Interface)・シミュレーション環境の整備、(d)スタートアップが大企業のサプライチェーンに参入しやすい水平分業型エコシステムの構築を、政府として体系的に支援する。これにより、開発から実装までの期間短縮、コスト低減、多品種少量生産への対応が可能となり、スタートアップ・中小企業を含む幅広いプレイヤーがAIロボティクス市場に参入できる基盤が整う。

  • (9)ヒト型ロボット(ヒューマノイド)及び配膳ロボット等の国産化支援

    形態別の戦略として、(a)配膳・清掃・警備など国民生活の近くで活躍するサービスロボットの国産化支援、(b)ヒト型ロボット(ヒューマノイド)のハードウェア・ソフトウェアに対する開発支援、(c)動物型ロボットのハードウェア・ソフトウェアに対する開発支援を、それぞれ独立した政策パッケージとして展開する。とりわけ動物型ロボットは、災害対応・インフラ点検・農業・林業・警備等の不整地・複雑環境での活用に強みを持ち、ヒト型ロボットとは異なる用途領域で日本の勝ち筋となり得る。中国企業の四足歩行ロボットが90万円台で世界市場を席巻している現状を直視し、日本としても両形態のロボットを並行的に開発・量産する体制を構築すべきである。

  • (10)国産移動知能(ロコモーション)開発コンソーシアムの創設

    マニピュレーション(物体操作)の基盤モデル開発がAIRoAを中心に進む一方、4脚・2脚ロボットの移動知能(ロコモーション)の開発は、現場データの不足から世界的にも未成熟であり、ここに日本が先行できる余地がある。鉄道・道路・プラント・通信・高速道路など多様かつ高品質に運用された日本のインフラ現場のデータを活かし、現場データ収集とシミュレーションデータ生成を一体で進める官民コンソーシアムを創設する。GENIACの枠組みを起点に最初のデータ循環(フライホイール)を立ち上げ、ハードウェアコンペ方式により4脚・2脚ロボットの国産化を推進する。

3-2 政府が需要創出すべき需要側施策(補助制度、官需活用等)

  • (1)「2030年度までに先行導入6分野で30万台以上」の定量台数目標設定

    社会実装の規模感と進捗を可視化するため、先行導入6分野(製造業、物流、建設・土木、建築、小売り、警備業)において、2030年度までに30万台以上、年平均6万台以上の導入を国家目標として設定する。これは、「各領域1万台」を起点とし、5年間で6倍に拡大する規模感に相当し、AIロボティクスの早期導入と量産による低コスト化の好循環を生み出す野心的かつ現実的な目標である。各分野の代替可能業務を洗い出した上で、年次ベースでの達成状況を進捗管理する仕組みを構築する。あわせて、「人手不足代替率」を分野別の台数の定量目標として政府が明示し、外国人労働者政策との整合性も含めて政策議論の前提を明確化する。

  • (2)「官民共同データファウンドリ」の構築

    AIロボティクスの早期導入が可能な分野を選定し、政府の予算措置のもとで大規模導入を実現することにより、ロボット基盤モデルの実用化に向けた「官民共同データファウンドリ」を構築する。これは、(a)政府による先行投資としての大規模導入支援、(b)量産による低コスト化の実現、(c)導入現場での運用データの蓄積、(d)蓄積データを国産ロボット基盤モデル(AIRoA等)に還流する仕組み、を一体化した枠組みである。世界の競争軸が「モデル性能・計算資源」から「実世界における運用データの蓄積と活用」へと移行しつつあるなか、日本の現場データの質の高さを最大の資産とし、デプロイ(実装)のスケーリングを日本の勝ち筋として確立する。「実装が進まなければデータが得られず、データがなければ実装も進まない」というデータのジレンマを、政府の決断と予算措置によって打破することが、この施策の本質である。

  • (3)「需要側経済性ギャップ充填」モデルの導入

    核心的な需要側施策の一つは、「経済性ギャップ充填」モデルである。すなわち、日本において清掃ロボット普及率が2%に留まる根本原因は、「人件費削減効果5万円/月」に対しロボットコスト「4万円/月」では「月1万円のメリットなら柔軟でリスクの小さい人に任せた方がいい」という需要側ボトルネックである。シンガポール型の70%補助には到達しないとしても、政府支援によりこの4万円のギャップを埋め「ロボットの方が圧倒的に安い」状況を作ることで、需要を一気に喚起する。対象を製造・物流・ビルメンテナンス・飲食・介護等の具体的業務(各領域1万台、合計5領域5万台規模)に絞り込み、日本メーカー製ロボット(製造工程は外国でも可)を対象とすることで、フィジカルAI開発につながるロボット及びデータ蓄積を国内に確保する。1万台のトイレ掃除ロボットを稼働させれば、日本がトイレ掃除データを世界最大で保有することとなり、サプライチェーン網も日本で確立される好循環を生み出す。

  • (4)2027〜2028年「サービスロボット更新切替への補助」の創設

    2027年から2028年にかけて到来するサービスロボット(配膳・清掃・警備等)の更新期にあわせ、段階的国産化プロセスを経たロボットを新たな「国産」として再定義し、これらへの切替を促進する「更新切替特別補助」を創設する。現行の経済産業省補助制度は「新規導入」のみを支援対象としているが、サービスロボット市場の大半はレンタル・サブスクリプション形態で流通しており、既存稼働3万台規模の国産化切替を促進する制度的枠組みを追加する必要がある。国産比率に応じたインセンティブの傾斜配分により、現場のロボット使用継続性とデータ国内蓄積を両立させる。

  • (5)「特定企業集中型」種火支援

    コンビニ大手の業務向けロボットに対し、現在の月額から目標月額4〜5万円への引き下げを目指す中、採算ベースで必要な8万円との「ギャップ4万円数千台=数十億円」の政府支援が量産規模到達の「種火」となるという試算もあり、これに対し「特定アプリケーション特定企業具体的台数具体的予算」の組み合わせによる種火支援を、政府が直接設計・支援する枠組みが必要である。

  • (6)導入初期需要創出・定着支援

    量産効果を早期に発現させるため、導入初期段階における需要創出策として、清掃・警備分野におけるロボット導入初年度のレンタル費用について、平均月額3万円を前提に2分の1を補助対象とする制度を提案する。本施策は短期的な価格補助ではなく、3年間・累計10万台導入を通じて量産効果と自走的普及を成立させるための国家先行投資として位置付ける。あわせて、サービスロボットのインテグレーション費・運用設計費・定着支援費を補助対象とすることで、産業ロボットと異なるサービスロボット特有のサプライチェーン構造に対応する。

  • (7)省力化投資補助金の対象拡張と性能発注への転換

    サービスロボット・介護ロボットへの省力化投資補助金の対象拡張を行うとともに、自治体・準公共施設の入札を仕様発注から性能発注へと転換する特別措置を講じる。これにより、ビルメンテナンス事業者がロボット導入で省人化した際に「逆に損をする」現状の構造を打破し、清掃・警備分野での国産ロボット導入を加速する。「公共入札における積算制度の見直し」(人件費前提から、ロボットを人手代替リソースとして評価可能とする新制度設計)を骨太の方針に組み込む。

  • (8)介護分野「重点分野」への周辺業務ロボットの追加

    経済産業省・厚生労働省が共同で策定する「ロボット技術の介護利用における重点分野」に、利用者と直接接触しない周辺業務を担うヒューマノイド型・遠隔操作型ロボットが開発された場合、その業務効率化の効果等を確認の上、当該機器を追加する。あわせて、介護報酬の加点制度・人員配置基準においてロボット活用を適切に評価する仕組みを構築する。また、複数年度予算の枠組みに応じ、ロボット導入をサブスクリプション・サービス(RaaS)として提供する事業形態に対応した補助制度を整備する。

  • (9)6先行分野+介護への重点投資

    政府AIロボティクス戦略「実装ロードマップ」は18分野を対象としつつ、令和9年度予算編成においては、(a)「先行導入分野」と期待できる6分野(製造・物流・小売・建設土木・建築・警備)に、(b)人手不足が特に深刻な介護を加えた「6+1分野」を明確な重点投資対象として位置付ける。骨太の方針においては、優先順位を明確にした上で具体的な台数目標・予算規模を明示する。

  • (10)産業・防災・防衛の「トリプルユース」戦略の制度的確立

    平時・有事の社会インフラを一体化し、産業・防災・防衛の「トリプルユース」の考え方を、政府全体の戦略として位置付ける。具体的には、(a)トリプルユース型ロボットの開発・量産支援、(b)平時利用と非常時利用の運用ルールの統一的設計、(c)協力企業へのインセンティブ付与と非常時協力義務の明確化、(d)国産部品要件と民間市場性のバランスを取った調達基準の設定を行う。

  • (11)官需活用によるアンカーテナンシーの確保

    防災・インフラ点検・防衛・土木・警察活動・学術等の官需を、ロボット技術の継続的需要源として戦略的に活用する。これらの分野における大口需要家による継続調達のコミットメント確保、国産ロボットの優先調達制度の検討、官需を起点とした技術成熟と他分野展開のサイクル構築を行う。また、霞が関・永田町をはじめとする政府関係施設・国会施設において、清掃・警備・配膳ロボットを率先導入する実証フィールド化を進める。あわせて、重要分野の国産ロボットについては、SBIR(中小企業技術革新制度)や政府調達によって初期ロット(アンカー需要)を確保し、外国製への依存が固定化する前に国内勢が量産の立ち上がりを実現できるようにする。

  • (12)実装ロードマップの定期更新と現場連携

    18分野の実装ロードマップを毎年度ローリングで更新するとともに、各分野で具体的なKPI(導入台数、代替時間、コスト削減額、人手不足代替率等)を設定する。とりわけ、2035年・2040年といった中長期目標年における分野別代替率・価格目標を併せて設定し、進捗を毎年度評価・公表する。

3-3 官民連携で進めるべき制度・横断施策(標準化、人材、予算等)

  • (1)ロボット基盤モデル向け国内データエコシステムの構築

    データの質と量の両面で日本が国際競争力を確保するため、各産業ドメインからのデータ収集・加工・共有を促進する国内エコシステムを構築する。とりわけ、(a)日本の優位性が高い現場データ(製造業、介護、建設等)の標準化、(b)競争領域と協調領域を明確に区分した上での企業間データ共有プラットフォームの構築、(c)プライバシー・セキュリティを担保したデータ管理体制の整備、(d)GENIACなど既存施策の活用拡充を進める。加えて、企業が安心してデータを持ち寄れるよう、データの取扱い・共有・帰属に関する法的ルールを整備し、基盤モデル・データの共同開発コンソーシアムの組成を後押しする。

  • (2)社会実装の「型」の量産とデプロイ・スケーリングの産業横断推進

    AIモデルそのものの開発に加え、現場で動かし運用してデータを取り、その実装の「型」を確立して横展開する「デプロイ・スケーリング」こそが、日本の勝ち筋である。部品の国産化、国内量産、現場での利活用、ロボットシステム化、データ収集、AI育成という一連のサイクル(フライホイール)を、個社任せにせず産業横断で同時に推進する支援を講じる。

  • (3)Center of Excellence(CoE)の整備と基本設計

    世界からトップクラスの人材・情報・プロジェクトが集積し、ロボット導入、データ収集、検証、安全性・信頼性の評価、標準化、人材育成等を一体的に行う中核拠点(CoE)を整備する。物理空間(モックアップ環境、テストベッド、開発・検証・試験設備)とサイバー空間(計算資源、データ基盤、高速・大容量通信網)を一体運用し、産学官、海外機関との連携の場として機能させる。筑波研究学園都市の産業技術総合研究所等、既存の国研基盤の活用も視野に入れる。CoEの設計にあたっては早急に「基本設計」を策定し、令和9年度予算において具体的な整備に着手することを求める。あわせて、現場導入の工数を抜本的に削減するデジタルツイン(仮想空間での事前検証)環境と、バーチャルとリアルの差(Sim-to-Realギャップ)を埋める精緻化技術を、CoEの中核機能として整備する。

  • (4)フィジカルAI人材・SIer・ディストリビューターの育成

    AIロボティクスの社会実装の担い手として、(a)AIとロボット双方の専門性を持つ「フィジカルAI人材」、(b)コンサルティング能力を持ち業務改善を提案できる次世代SIer、(c)ロボットの販売・運用・保守を一気通貫で担う「ディストリビューター」の3類型の人材・事業者を育成する。高専・工業高校・大学の理工系教育の強化、ハッカソン、産学連携プログラム、高専・大学連携プログラムを拡充するとともに、海外AI人材の積極的受入れと国内エコシステムへの統合を促進する制度(査証要件緩和、研究環境支援等)を整備する。とりわけSIer・ディストリビューターについては、政府による認定制度、研修プログラム、補助金スキームを整備し、サービスロボットの社会実装に不可欠な「現場の運用主体」を体系的に育成する。

  • (5)安全性認証制度・規制改革の推進

    プライバシー・セーフティ・セキュリティを担保した安全性認証制度を整備する。労働安全衛生法、消防法、薬機法、介護関連法、道路交通法、電波法等について、ロボット時代に対応した解釈の明確化・規制改革を、規制改革推進会議等の枠組みも活用しつつ進める。とりわけ、我が国で進められているロボットフレンドリー環境の標準化、認定プログラムを政府として強力に支援する。さらに、製造者・導入者・運用者・AI供給者が分かれるロボットのエコシステムにおいては、誰がどの範囲に責任を負うのかという責任分担ルールの明確化が導入の鍵となるため、関係者によるルール整備を政府が主導する。あわせて、遠隔メンテナンス・データ収集・ロボット間連携といった協調領域の共創基盤プラットフォームの活用を促進する。

  • (6)国際標準化・知財戦略の一体運用

    ISO/TC299 WG15等におけるロボットインフラ標準化の主導権確保、建築BIM国際基準への日本提案の反映、ロボット重要コンポーネントの特許戦略の体系化を一体的に進める。国際標準化戦略と特許をはじめとする知財戦略とを一体的に実施する体制を構築し、戦略的にAIロボティクス技術の創出・活用・保護を進める。とりわけ、日本が主導的な立場で進めているロボットインフラに係る国際標準化については、産業界・学術界とも連携して戦略的な対応を図る。

  • (7)通信インフラとセキュリティの確保

    ロボット制御に不可欠な低遅延・大容量通信網(Beyond 5G)の整備を加速するとともに、ロボット・AGV・PLC等の通信のセキュリティ対策を必須とする。とりわけ、産業現場におけるロボットの一斉制御に必要な通信能力(ナノセック単位の同時通信)の確保、5.9GHz帯等の電波利用ルールの整備を進める。

  • (8)競争領域・協調領域の明確化と業界横断連携の促進

    建設RXコンソーシアム(319社参画)のモデルを、製造業、物流、介護、農業、廃棄物処理等の各分野に拡大する。データ・標準・安全認証・基盤モデル等の協調領域における業界横断連携を、政府が主導的に促進する。

  • (9)デュアルユース技術と安全保障予算の活用

    令和8年3月に閣議決定された第7期「科学技術・イノベーション基本計画」において、政府計画として初めてデュアルユース技術の研究開発・社会実装に関する記述がなされたことを踏まえ、AIロボティクスの研究開発と社会実装にも安全保障予算を積極的に活用する。具体的には、(a)防衛装備庁の研究開発予算、(b)経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)、(c)官民連携型の安全保障関連研究開発予算を活用し、ロボットコンポーネント、自律移動技術、遠隔操作技術、データ収集・分析技術等のデュアルユース性のある技術領域を強化する。これにより、民生応用と防衛応用の双方を視野に入れた、より厚みのあるAIロボティクス研究開発エコシステムを構築する。

  • (10)政府における司令塔機能の強化

    AIロボティクス戦略の適切な実施に向け、政府における司令塔機能を強化する。具体的には、(a)関係13府省庁(内閣官房・内閣府・経済産業省・総務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・国土交通省・環境省・防衛省・消防庁・警察庁・こども家庭庁等)の連絡会議の定期開催と進捗管理、(b)政府全体として一元的な予算要求の仕組み、(c)AIロボティクス戦略実装ロードマップの進捗を定期的に評価・公表する体制、を整備する。

  • (11)複数年度予算化と一元的予算要求の確立

    ロボット政策の効果発現には、単年度予算では不十分であり、複数年度にわたる継続的・安定的な予算確保が不可欠である。具体的には、(a)令和8年度補正・令和9年度当初予算における複数年度継続調達の仕組み(基金化を含む)、(b)AIロボティクス戦略実装ロードマップの18分野に対応する各府省庁からの実装予算積み上げのコミット担保、(c)骨太の方針2026への各府省庁政策の盛り込みと、政府全体として一元的な予算要求の仕組み構築を行う。性能が継続的に進化するAIロボティクスの特性に対応できるよう、複数年度予算等の制度的措置を検討する。

  • (12)AIロボティクス戦略の機動的見直し

    AIロボティクス分野の技術進展は極めて速く、米国・中国の動向も日々大きく変化している。このため、令和8年3月に策定された政府AIロボティクス戦略及び実装ロードマップを固定的なものとせず、技術開発動向、社会実装の進捗、国際競争環境の変化等を踏まえ、適時適切に見直しを行うことが必要である。具体的には、(a)年次評価による進捗確認、(b)2年ごとの戦略本体の見直し、(c)緊急性の高い変化が生じた場合の臨機応変な戦略追補、を制度化する。これにより戦略の変化に即応した政策展開を可能とする。

  • (13)予算規模の抜本的拡充

    ロボット関連予算については、令和7年度補正で726億円+α、令和8年度当初で3,995億円+αが措置されているが、米中の数千億円~数兆円規模の投資規模と比較すれば依然として不十分である。2040年20兆円市場の獲得を目指すのであれば、令和8年度補正及び令和9年度当初予算において、各府省庁にまたがるロボット関連予算の抜本的拡充を行うべきである。とりわけ、国産ロボット基盤モデル開発、CoE整備、サービスロボット国産化、官需活用の4領域について、複数年度にわたる安定的・大規模な予算を確保する。これらは、GENIAC予算とは別枠で、ロボティクス独自予算として確保することが必要である。

第4章 政府への提言

第1章から第3章で詳述した課題認識及び施策の方向性を踏まえ、政府に対し、以下の事項を強く提言する。本提言は、「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太の方針)及び「成長戦略」、並びに令和8年度補正予算・令和9年度当初予算編成に確実に反映されるべきものである。

提言1 AIロボティクスによる人手不足対策

少子高齢化により労働力人口の減少が続くなか、AIロボティクスを人手不足対策の中核手段として位置付け、政府として明確な政策意思を示し、直ちに具体的施策を立案する必要がある。

  • 1-1. 人手不足代替率の台数定量目標設定

    「人手不足代替率」を分野別・年次別の導入台数として定量目標を設定すること。AIロボティクスがどの程度の労働力を代替し得るかを政策上明示し、外国人労働者政策との整合性を含む政策議論の基盤とする。

  • 1-2. 優先実装7分野の指定

    人手不足が深刻な7分野(製造業/物流/建設・土木/建築/小売り/警備業/介護)を「優先実装分野」と指定し、関係府省庁と民間が一体となって代替可能業務の洗い出しから実装まで一気通貫で推進すること。

  • 1-3. 優先実装分野への複数年度予算と補助金の徹底活用

    基金化を含む複数年度予算により着実な予算措置を行い、補助金を徹底活用すること。単年度予算ではAIロボティクスの社会実装は進展しないため、複数年度予算化を不可避の前提とする。

  • 1-4. 介護報酬による適切な評価、人員配置基準の緩和等

    介護分野でのAIロボティクスの導入支援に向けて、複数年度にわたる導入支援、介護報酬による適切な評価、人員配置基準の緩和など施策を推進すること。経済産業省・厚生労働省が共同で策定する「ロボット技術の介護利用における重点分野」に、利用者と直接接触しない周辺業務(炊事・掃除・洗濯・配膳・下膳、利用者の誘導等)を担うヒューマノイド型・遠隔操作型ロボット(業務効率化効果等を確認したもの)を追加されたい。

提言2 AIロボティクスの大規模導入とロボット基盤モデルの実用化

VLA(Vision-Language-Action)モデルの実用化には大量の実環境データが不可欠だが、「実装が進まなければデータが得られず、データがなければ実装も進まない」というデータのジレンマがある。世界の競争軸は、モデル性能や計算資源から、実世界の運用データの蓄積と活用へと移行しつつあり、これを好機として、「日本の現場」を最大の資産とし、日本の勝ち筋を実現する必要がある。

  • 2-1. 2030年度末まで30万台以上導入(累計5,000億円)

    2026年から2030年度までの5年間で、先行導入6分野(製造業/物流/建設・土木/建築/小売り/警備業)において年平均6万台以上、累計30万台以上のAIロボティクスを導入すること。需要側の経済性ギャップを政府支援によって埋め、サービスロボット更新期の切替支援、導入初期需要創出補助、特定分野特定企業具体的台数具体的予算を組み合わせた種火型支援を一体的に措置し、量産による低コスト化と現場データの国内蓄積の好循環を生み出す。あわせて、政府AIロボティクス戦略の「2040年20兆円市場・世界シェア3割」目標と整合する2035年・2040年の中長期目標(分野別代替率・価格目標)を設定し、毎年度の進捗を評価・公表されたい。

  • 2-2. 国産ロボット基盤モデルの開発および官民共同データファウンドリの構築(1兆円)

    国産ロボット基盤モデルの実用化に向けた「官民共同データファウンドリ」を構築すること。政府による先行投資としての大規模導入支援、量産による低コスト化、現場での運用データ蓄積、国産ロボット基盤モデルへのデータ還流を一体の枠組みとして設計し、量産によるAIロボティクスの低コスト化を推進されたい。

  • 2-3. RaaS型事業形態への補助制度整備

    ロボット導入をサブスクリプション・サービス(RaaS:Robot as a Service)として提供する事業形態に対応した補助制度を整備すること。現行の「資産取得」前提の補助スキームでは、サービスロボット普及の主要形態であるサブスクリプション・レンタル型に対応できないため、月額利用料への補助、運用設計費・定着支援費の補助対象化等を制度化されたい。

  • 2-4. 国産ロボット基盤モデル開発予算の拡充

    国産ロボット基盤モデルの開発予算を、現行のNEDO事業(2025年10月〜2029年8月、205億円)から拡充し、複数年度にわたり安定確保すること。2027年6月のベータ版オープンソース公開を確実に実現する。

提言3 官需活用の徹底

国及び自治体は、製品・サービスの大口の調達主体であり、AIロボティクスの社会実装の起爆剤となり得る。令和8年3月閣議決定の第7期「科学技術・イノベーション基本計画」が、政府計画として初めてデュアルユース技術の研究開発・社会実装に取り組む等の記載がなされたことも踏まえ、官需を戦略的に活用されたい。

  • 3-1. 国・自治体の原則優先導入

    国及び自治体は、AIロボティクスの現場実証を加速し、特段の理由がない限り原則として優先導入すること。永田町・霞が関を筆頭に、政府関係施設・国会施設において清掃・警備・配膳ロボットを率先導入するなど、国・自治体による率先した社会実装を推進し、国及び自治体自身が実証フィールドとなりポスト学習データの創出に貢献する。

  • 3-2. 国産ロボット優先調達制度の創設

    経済安全保障及び国内データ蓄積の観点から、国産ロボットの優先調達制度を創設すること。国際条約等に留意しつつ、防衛調達等で確立された制度を参考に、安全保障・データ主権・サプライチェーン要件を含む調達基準を新設されたい。高度な検証に裏付けられた安全性認証制度の整備や安全規制のあり方を検討し導入支援との連動を図ること。

  • 3-3. 防災・インフラ点検・防衛・土木・警察活動・学術等の分野で重点官需創出

    防災、インフラ点検、防衛・土木・警察活動・学術等の分野を「重点官需分野」と位置付け、関係府省庁による継続的かつ大規模な官需を創出すること。

  • 3-4. アンカーテナンシーによる継続調達コミットメント

    防災、インフラ点検、防衛・土木・警察活動・学術等の官需を、ロボット技術の継続的需要源として戦略的に活用すること。アンカーテナンシー(政府が最初かつ継続的な大口顧客となる手法)を確保し、官需を起点とした技術成熟と民間市場・他分野への展開サイクルを構築する。

  • 3-5. 性能発注への転換と積算基準の変更

    公共調達において、実証を加速し、AIロボティクスによる省人化や継続的な学習・改善が評価されない仕様発注から性能発注へ転換するとともに、人件費の積算を前提とする基準を変更し、ロボットを人手代替リソースとして正当に評価可能な新制度を設計されたい。

  • 3-6. トリプルユース実装の具体的制度設計

    平時・有事の社会インフラを一体化し、産業・防災・防衛の「トリプルユース」の考え方を政府戦略として位置付け、その実装のため、(a)トリプルユース型ロボットの開発・量産支援、(b)平時利用と非常時利用の運用ルールの統一的設計、(c)協力企業へのインセンティブ付与と非常時協力義務の明確化、(d)国産部品要件と民間市場性のバランスを取った調達基準の設定、を具体化されたい。

  • 3-7. 安全保障予算を活用したデュアルユース研究開発・社会実装

    第7期「科学技術・イノベーション基本計画」のデュアルユース記述を踏まえ、安全保障予算を活用したAIロボティクスの研究開発・社会実装に注力すること。防衛装備庁の研究開発予算、経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)、官民連携型の安全保障関連研究開発予算を積極活用し、国産化が進むほどインセンティブが厚くなる設計とされたい。

提言4 段階的国産化の推進

配膳・清掃ロボット等は社会導入が先行する一方、流通機体の多くが外国製であり、ソフトウェア制御やクラウド接続の管理主体が国外に依存している。これら流通機体は更新時期が近づきつつあり、これを好機として国産化の流れを作り出されたい。

  • 4-1. 段階的国産化を図るためのロードマップの策定

    国産ロボットメーカーの育成や、海外ロボットの段階的国産化を図るためのロードマップを策定すること。

  • 4-2. 「国産」の再定義

    完全な純国産のみを「国産」とするのではなく、仕様決定・機能設計・改良等の主体、データ管理・ソフトウェア制御・クラウド管理・アップデート権限の主体等に基づいて「国産」を再定義すること。これにより、サービスロボット領域における日本の参入機会を確保する。

  • 4-3. 既存機体更新支援による国産品への更新促進

    段階的国産化の推進に基づき、流通機体の大部分を占める外国製の配膳・清掃ロボット等を、国産AIロボティクスへ更新することを促進すること。2027年から2028年にかけてのサービスロボット更新期に向け、既存流通在庫の国産製への切替を支援し、国産比率に応じたインセンティブの傾斜配分により、現場のロボット使用継続性とデータ国内蓄積を両立させる設計とされたい。

提言5 AIロボティクス戦略及び実装ロードマップの着実な推進(5本柱)

本年3月策定のAIロボティクス戦略及び実装ロードマップは、ハードウェア・ソフトウェア・人材・拠点・標準化・予算・推進体制を横断する包括的な取組を必要とする。これらを一体的に推進するため、以下の5本柱で戦略推進体制を確立されたい。

  • 柱① ハードウェア開発の支援
    • 5-1. モジュール化と開発効率向上

      ロボットのモジュール化を促進し、開発者の開発効率を高める環境を整備すること。インターフェース標準化、SDK(Software Development Kit)・API(Application Programming Interface)・シミュレーション環境の提供、水平分業型エコシステムの構築を支援する。

    • 5-2. 生活密着型ロボットの国産化

      配膳ロボット等、国民生活の身近で活躍するロボットの国産化を支援すること。

    • 5-3. ヒト型ロボット(ヒューマノイド)・動物型ロボット双方の開発支援

      ヒト型ロボット(ヒューマノイド)と動物型ロボットの双方について、ハードウェア・ソフトウェア両面の開発支援を行うこと。動物型は災害対応・インフラ点検・農業等で日本の勝ち筋となり得る重要領域である。

    • 5-4. スタートアップ育成と政府系ファンドによるレイトステージ投資

      ヒューマノイド及びサービスロボット領域で世界市場と戦える日本メーカーを育成するため、成長ステージに応じた資金調達環境を整備すること。具体的には、VC連携、政府系ファンドによるレイトステージ投資、公的需要によるアンカーテナンシー、外国人材招聘・海外メーカーとの戦略的アライアンス支援を講じる。

    • 5-5. キーコンポーネント国内サプライチェーン構築と量産化支援

      モーター、減速機、センサー、アクチュエーター、ライダー、エッジ半導体(System to Silicon)等のキーコンポーネントについて、海外への輸出も視野に、国内サプライチェーン構築を支援すること。とりわけライダーセンサー、アクチュエーターは現状サービスロボットコストの大きな比重を占めており、数万台規模の量産化により価格低減を実現することが国産化推進の鍵となるため、量産化支援を強化されたい。

  • 柱② フィジカルAIの開発支援
    • 5-6. 国産ロボット基盤モデル開発の確実な実施と海外トップ機関連携

      国産ロボット基盤モデル開発について、Phase2(4年以内:2025年10月〜2029年8月、事業予算205億円)における多品種双腕モバイルマニピュレーターのデータ収集・基盤モデル開発を確実に進めるための予算を確保すること。データ収集体制の拡充、海外トップ機関との連携を強力に支援する。

    • 5-7. VLA開発支援

      マルチモーダル基盤モデル(VLA:Vision-Language-Action)の開発を支援すること。国産ロボット基盤モデル開発の2027年6月のベータ版オープンソース公開を確実に実現する。

    • 5-8. GPUクラスタ・計算資源インフラ整備

      ロボット基盤モデル開発に不可欠なGPUクラスタ等の計算資源インフラを国内に整備すること。米中の巨大GPUクラスタに対抗するため、国産ロボット基盤モデル開発機関に対する計算資源(GPUクラスタ)の優先確保、データ収集体制の拡充、海外トップ機関との連携支援を強力に推進されたい。

    • 5-9. 産業ドメイン特化型モデル開発

      産業ドメインごとの領域特化型モデルの開発を支援すること。製造業・物流・介護・建設等の各分野の特性を踏まえ、業界横断コンソーシアム方式で推進されたい。

    • 5-10. フィジカルAI人材・SIer・ディストリビューターの体系的育成

      フィジカルAI人材を体系的に育成すること。AIとロボット双方の専門性を持つ人材、現場精通の次世代SIer、販売・運用・保守を担うディストリビューターを、認定制度・研修プログラム・補助金スキームで育成する。

  • 柱③ 拠点・標準化・知財・実装環境の整備
    • 5-11. 世界的中核拠点(CoE)基本設計と整備着手

      世界的な中核拠点(CoE)の基本設計を早急に策定し、令和9年度予算で整備に着手すること。物理空間(モックアップ環境、テストベッド等)とサイバー空間(計算資源、データ基盤等)を一体運用し、産学官・海外機関連携の場として機能させる。

    • 5-12. ロボット時代対応の規制改革

      労働安全衛生法、消防法、薬機法、介護関連法、道路交通法、電波法等について、ロボット時代に対応した解釈の明確化・規制改革を進めること。規制改革推進会議等の枠組みを活用し、令和8年度から主要法令の見直しに着手されたい。実装が進まない最大要因の一つである法令の不適合を是正することは、政府にしかできない最重要施策である。

    • 5-13. ロボットフレンドリー環境の標準化・認定

      我が国で進められているロボットフレンドリー環境の標準化、認定プログラムを政府として強力に支援すること。製造者・導入者・運用者・AI供給者が分かれるロボットのエコシステムにおいて、責任分担ルールの明確化、遠隔メンテナンス・データ収集・ロボット間連携といった協調領域の共創基盤プラットフォームの活用促進を併せて進められたい。

    • 5-14. 国際標準化と知財戦略の一体運用

      国際標準化戦略と知財戦略を一体運用する体制を構築すること。AIロボティクス技術の創出・活用・保護を戦略的に進めるとともに、ロボット重要コンポーネント(モーター、減速機、センサー、アクチュエーター、ライダー等)の特許戦略を体系化されたい。

    • 5-15. ロボットインフラ標準化の日本の主導と通信・電波利用ルール整備

      ロボットインフラ標準化(ISO/TC299 WG15)については、産業界・学術界と連携して戦略的・主導的対応を図ること。また、産業現場におけるロボットの一斉制御に必要な通信能力(ナノセック単位の同時通信)の確保及び5.9GHz帯等の電波利用ルールの整備を進める。Beyond 5G通信、セキュリティの確保も一体的に推進されたい。

    • 5-16. 建築BIM国際基準への日本提案反映

      建築BIM(Building Information Modeling)国際基準への日本提案の反映を進めること。建設・物流・小売・警備分野でロボットを実装するための前提となる建築物のデジタル地図情報基盤を、国際標準と整合的に整備する。

    • 5-17. SIer・ディストリビューターの支援・育成

      SIer・ディストリビューターの支援・育成を行うこと。認定制度・補助金・人材育成プログラム等を通じて、社会実装の担い手を強化する。

  • 柱④ 政府一体での取組・骨太の方針2026・予算の確保
    • 5-18. 政府一体での取組強化

      政府における司令塔機能を強化すること。関係13府省庁の連絡会議を定期開催して進捗管理体制を整備されたい。

    • 5-19. 骨太の方針2026への施策確実盛り込み

      AIロボティクス戦略及び実装ロードマップの施策を、骨太の方針2026に確実に盛り込むこと。関係府省庁が必要な政策をまとめ、令和8年6月までに明示する。

    • 5-20. 政府一体となった一元的予算要求と複数年度予算化

      政府一体となった一元的な予算要求を行い、令和9年度当初予算で十分な予算を措置すること。性能が継続進化するAIロボティクスの特性に対応するため、複数年度予算・基金化等の制度的措置を検討されたい。

    • 5-21. GENIACとは別枠のロボティクス独自予算確保とGENIAC既存施策の活用拡充

      ロボティクス関連予算をGENIAC予算とは別枠で確保すること。国産ロボット基盤モデル開発、CoE整備、サービスロボット国産化、官需活用の4領域について、複数年度の安定的・大規模な予算措置を講じる。あわせて、GENIAC既存施策のロボティクス分野への活用拡充も並行して進められたい。

  • 柱⑤ 戦略の機動的見直し
    • 5-22. AIロボティクス戦略の適時適切な見直しの制度化

      AIロボティクス戦略の適時適切な見直しを制度化すること。年次評価による進捗確認、2年ごとの戦略本体見直し、緊急時の臨機応変な戦略追補により、技術開発動向・国際競争環境の変化に即応する。

【目標とコミットメント】

政府AIロボティクス戦略が掲げる以下の目標について、強く支持し、その確実な実現に向けて引き続き政府と一体となって取り組むものである。

  • 2026〜2030年:先行導入6分野(製造業、物流、建設・土木、建築、小売り、警備業)において年平均6万台以上、累計30万台以上のAIロボティクスを導入
  • 2027〜2028年:サービスロボット更新期における段階的国産化を本格始動、国産ロボット基盤モデルのベータ版オープンソースを公開(2027年6月予定)
  • 2030年:実装ロードマップ18分野における「見廻る」「モノを動かす」レベルの実装を完了
  • 2040年:ロボット世界市場(60兆円規模)において日本がシェア3割超(20兆円)を獲得

本提言は、「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太の方針)及び「成長戦略」、並びに令和8年度補正予算・令和9年度当初予算編成に確実に反映されるべきものである。