提言

「量子産業創出に向けた官民投資の加速」

令和8年6月2日
自由民主党 政務調査会
科学技術・イノベーション戦略調査会
量子産業創出PT

「量子」は、日本成長戦略会議で示された重点17分野の一つとして位置付けられ、我が国の供給力強化と次世代産業競争力の確立を担う中核領域である。特に量子技術は、計算・通信・計測の基盤を革新し、幅広い成長分野に波及する先端技術であり、国の戦略的自律性及び不可欠性の観点からも重要な分野である。このため、量子分野を成長投資と危機管理投資の両輪として明確に位置付け、政府が策定する官民投資ロードマップに基づき、研究開発から社会実装、産業化に至るまでを官民双方からの投資によって大幅に加速することが必要である。

昨年のPTでは、「技術で勝ち、ビジネスでも勝ち抜く」量子産業を育成するため、その実現に必要な5つのアクションを提示するとともに、令和8年度からの5年間で量子技術への政府投資を6000億円規模へと拡大させるべく、政府の取組として進めるべきことを提言した。その結果、昨年度補正予算および今年度当初予算において、1723億円の量子関係予算を成立したところ。

我が国として2030年に生産額50兆円規模を目指す量子分野においては、2030年までに官民合わせて2兆円以上の戦略的投資を実施するとともに、2040年までに12兆円以上の投資を実現する。そのため、研究開発の推進、国内サプライチェーンの強靭化、ユースケース創出からサービス実装までを実現する政府投資の更なる拡充と民間投資の加速を一体的に推進することを提言する。

これらを実現するため、以下の取組みを強力に推進することを提言する。

1.基礎研究から応用・実用段階までの切れ目ない支援体制の構築

官民投資ロードマップが策定される量子コンピューティング、量子通信・ネットワーク及び量子センシングの三分野において、基礎研究から応用・実装段階に至るまでの切れ目のない支援体制を構築する必要がある。特に、急速に高まっている暗号解読リスクへの対応等の安全保障上の要請に応えるとともに、新材料開発や最適化問題の解決等を通じた産業競争力強化の観点からも、高性能な国産量子コンピュータの実機開発及び運用基盤の確立、量子暗号通信や量子センシングの社会実装の加速を図るべきである。

2.自律性・不可欠性の確保に向けた部素材・製品の国産化、運用技術の高度化

量子分野の国際競争における勝ち筋は、単なる技術開発競争にとどまらず、自律性・不可欠性の確立にある。極低温冷凍機などの部素材・製品では、自律性確保の観点から国産化及び運用技術の高度化を進め、安定的な調達・保守体制を確立する必要がある。一方で、既に国際優位性の高い低温ケーブルや量子暗号通信装置などの部素材・製品については、国産技術の高度化を重点的に推進し、サプライチェーン上のチョークポイントを掌握することで、他国が依存せざるを得ない不可欠性を獲得することが重要である。

3.初期需要の創出加速と市場の形成

成長投資としての観点から、サービス領域での競争力の確立が必要である。量子技術の価値は、ハードウェアだけでなく、アルゴリズム、ミドルウェア、ハイブリッド環境やネットワークを含む統合的サービスを提供することで顕在化する。このため、政府が社会課題を起点とした具体的テーマを提示し、金融、創薬、医療、素材、エネルギー、物流、宇宙等の分野において官民連携による実証を加速し、実用的なユースケース創出を推進すべきである。こうしたユースケースを通じて蓄積される知見と実証データは、サービス競争力の源泉となり、国際市場における優位性確立に直結する。

さらに、量子センシングによるGPS非依存型測位、量子暗号通信及び耐量子計算機暗号による安全な情報通信インフラの構築等、国の安全保障に直結する分野においては迅速な実装が求められる。政府調達や制度整備を通じて初期需要を創出し、実証から本格導入への移行を加速することで、技術の信頼性確立と市場形成を同時に進める必要がある。市場形成は国内外で戦略的に進めるべきであり、ASEANやグローバルサウス等の有望な海外市場において、例えば国産量子コンピュータを現地展開し、現地政府・大学・企業等と連携しながら、国際的な「量子エコシステム」を共同形成していくことが重要である。これにより、我が国の国際競争力を高めるべきである。

4.国際標準化の推進

国際標準化を通じて、量子分野における主導権を確保することが必要である。量子コンピューティングのソフトウェアやベンチマーキング等に関する標準化や量子暗号通信のプロトコル等に関する標準化を主導し、オープン領域と競争領域を戦略的に使い分けることで、技術優位性と市場支配力を両立させるべきである。加えて、信頼できる同志国・地域との連携を強化しつつ、日本の強みである部素材分野等をテコとして、国際サプライチェーンにおける不可欠性を高めることが求められる。

5.人材育成・研究環境の整備

量子分野を担う人材育成及び研究環境整備を戦略的に推進する必要がある。量子分野は高度かつ学際的であり、人材の確保や他分野との連携は競争力の根幹を成す。そこで、研究開発を通じた大学・研究機関・産業界の連携による人材育成の強化、海外人材の還流促進、若手研究者等への長期支援を通じた人材基盤を強化するとともに、産業界と大学との連携による契約学科の活用や、実機を活用したテストベッド等を整備し研究開発環境を充実させることで、科学とビジネスが近接化する時代に対応した研究開発から社会実装までの取組を強化すべきである。