海洋の総合的な開発・利用の強力な推進による日本経済の成長に向けた提言

令和8年5月21日
自由民主党政務調査会
海洋開発特別委員会

四面を海に囲まれ、世界第6位の広大な管轄海域を有する我が国にとり、国土の保全と国民の安全を確保すべく海を守っていくことは、我が国の安全保障上極めて重要である。そして、海洋は、国産レアアースをはじめとした様々な資源を創出する場であることに加え、海運や水産、洋上風力発電等の産業活動の場として、また、新たな技術を活用したスタートアップ・新産業の創出の場・フロンティアとして、無限の可能性を秘めている。社会全体のDXや経済成長を生み出す共通基盤であるG空間や、フロンティア分野の1つである宇宙といった分野との連携により、これらの海洋に係る可能性を最大限に活かし、同時に我が国安全保障・経済安全保障に貢献し、我が国の海洋大国としての力強い成長につなげていく必要がある。

令和7年(2025年)11月、高市内閣総理大臣のもと、日本成長戦略会議が開催され、強い経済を実現する「成長投資」、「危機管理投資」の17戦略分野の1つとして、「海洋」が位置付けられた。海洋分野における具体的に投資を促進していくべき『主要な製品・技術等』として、「海洋ドローン(海洋無人機)」、「海洋状況把握(MDA:Maritime Domain Awareness)」及び「革新的海底開発技術・システム」が選定されており、本委員会でも、それらの官民投資ロードマップについて、内閣第一部会と合同で総点検を行い、産業界や研究機関等からの意見を踏まえ、経済性のみにとらわれず、経済安全保障の観点から中長期的に取組を進めていくべきとしたところである。

一方、海洋開発の強力な推進体制の構築を図る海洋基本法及び内閣府設置法の一部を改正する法律案(議員立法)については、令和6年(2024年)から提出に向けて取り組んできたが、現時点で提出には至っていない。日本成長戦略の遂行のためにも、本議員立法による海洋政策の司令塔機能強化が極めて重要となっており、今国会での早期成立を実現する。

こうした背景を踏まえ、本委員会においては、海洋の開発・利用の強力な推進に向け、具体の施策について、以下提言する。

政府に対し、今夏に取りまとめる「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」や日本成長戦略等に本提言を反映した上で、必要な予算確保をはじめとする施策を講じ、実行するよう、強く求める。

1.日本成長戦略の海洋における成長投資と危機管理投資

(1)専用船等の開発体制整備を含む南鳥島周辺海域におけるレアアース泥開発の加速化

南鳥島周辺海域において採取可能なレアアース泥は、日米間の海洋鉱物資源開発に関する協力覚書において取り上げられるとともに、LED等に利用されるイットリウムや、高性能磁石に利用されるジスプロシウム等の重レアアースを含んでおり、高品質で、産業規模での生産が十分可能な資源量が確認されるなど、レアアース確保を特定国からの輸入に頼っている我が国にとって、経済安全保障上、「切り札」となりうるものである。令和8年(2026年)1月、内閣府総合科学技術イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期において、採鉱試験が行われ、我が国排他的経済水域(EEZ)内の深海6000メートルからレアアース泥の揚泥に成功したことは、国内資源開発に向け、重大な一歩が踏み出されたこととなる。

一方、今後、採泥からレアアースの分離・精製なども含めた全体システムの評価を行うこととされているが、こうした総合評価については、その取組を一層加速すべきである。

更に、今後、経済安全保障の観点から、産業規模での開発を早急に進めることが重要であり、そのため、現在はJAMSTEC(海洋研究開発機構)の地球深部探査船「ちきゅう」を他目的と共有している状況を脱するべく、「専用船」の建造や南鳥島における空港・港湾等インフラの整備を含む、開発に係る必要な体制整備を速やかに実施すべきである。当該体制整備に当たっては、予算の早期確保・充実を行い、内閣府総合海洋政策推進事務局を司令塔として、経済産業省、文部科学省、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局、国土交通省などの関係省庁の連携を深化させるべきである。

(2)海洋ドローン・海洋状況把握(MDA)などの取組を加速化させる公共調達による初期需要確保(アンカーテナンシー)を通じた市場形成・拡大

陸上でもドローンの官民を通じた世界的活用が進行する中、海洋ドローンについても、世界各国で安全保障、海洋資源開発、海洋インフラなどの分野で利用が拡大し、令和12年(2030年)ごろには1.5兆円を超える市場となることが見込まれている。とりわけ、安全保障環境が深刻化する中、海洋ドローンの重要性は増大している。

また、海洋状況把握(MDA)は、海洋に関連する多様な情報を集約・共有し、海洋の状況の効果的、効率的な把握を目指す取組として、海洋における安全保障、自然災害対応等の諸課題への対応に必要不可欠であるのみならず、産業振興等の発展の基盤となるものである。

しかし、我が国においては、海洋ドローン・MDAについて活用機会が未だ限定的であることや市場規模の不透明性といった背景から、期待される程の利用がなされていない状況にある。これらの利用を拡大していくためには、将来展開の“見える化”を図り、技術革新、需要の拡大、高付加価値モデルの確立、次の技術革新への投資といった好循環を生み出すという視点に立ち、とりわけ公共調達により初期需要を創出し、国内生産基盤の構築、市場拡大を図るべきである。その際、スタートアップも活用して海洋データ利活用や運用サービスも含めたパッケージで高付加価値化を図ることも重要である。

このため、取組の加速化を図るに当たって、官民が協調したこれまでの取組に加え、企業の投資判断の予見可能性を高めるため、複数年度の視点を以て、海洋産業の振興を図るための十分な予算を獲得し、公共調達による初期需要確保(アンカーテナンシ―)を通じた市場形成・拡大に向けた取組を推進すべきである。

また、我が国におけるMDAの取組をさらに発展させるために、同盟国・同志国等との連携が重要であるところ、ODA(政府開発援助)・OSA(政府安全保障能力強化支援)案件なども通じて後押ししていくべきである。

(3)海洋開発の加速化と基盤強化

海洋鉱物資源に関し、南鳥島のレアアース泥開発をはじめ「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を踏まえた取組を着実に進めているところであるが、マンガン団塊については、蓄電池に利用するコバルト等を含有することもあり、世界的に商業開発に向けた動きが活発化している。従来は2040年半ばの開発見通しであったところ、これを前倒しし、令和14年度(2032年度)の商業生産を開始するため、ベルギーのGlobal Sea Mineral Resources NV(GSR社)との共同開発に向けた技術協力について合意し、早期の商業化に向けて加速していることを歓迎し、支持する。今後、商業開発を進めるためには試験費用などが既存予算とは別途必要となるところ、所要予算をしっかりと確保し、世界初となる海洋鉱物資源の商業開発を達成すべきである。加えて、早期の商業化に必須となる国際海底機構(ISA)での開発規則については、一刻も早く採択されるようしっかりと取り組んでいくべきである。また、レアアース泥、マンガン団塊をはじめ、メタンハイドレート1、海底熱水鉱床2、石油・天然ガス3、コバルトリッチクラスト4を含めた「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を踏まえた取組について、一層推進していくべきである。さらに、日米海洋鉱物資源開発に関する協力覚書に基づく取組を含め、同盟国・同志国等との協力による取組を加速化させるべきである。

研究基盤の強化は、資源開発体制の確立を含む海洋産業の振興に必要であり、そのためには深海・海溝域の探査・採取プラットフォームの構築が不可欠である。しかし、我が国深海探査能力が他国から遅れをとり、かつ探査機やその母船は老朽化が深刻であるところ、飛躍的にその能力を高めるため、各種深海探査機を複数・多機種同時搭載し、かつ、陸上との高速通信も可能な、効果的・効率的な超深海探査母船を建造するとともに、当該母船に搭載するフルデプス無人探査システム(水深約11,000mでの試料採取や作業を目指した無人探査システム)を開発し、世界最深部での探査・採取能力を確保すべきである。

また、防災・減災に対応した孔内観測機器5の南海トラフ西側(高知沖)への設置など海洋観測の更なる充実、海洋研究に係る研究開発基盤の維持・更新、同盟国・同志国等との連携による国際的な海洋観測網の構築を図るとともに、燃料費等の物件費や人件費の上昇が研究開発能力の低下につながることがないよう、必要な研究開発予算をしっかりと確保・充実させるべきである。特に、中東情勢の影響等によって研究航海に支障が生じないよう、関係省庁が連携して対応するとともに必要な予算を確保すべきである。

加えて、国立研究開発法人の機能強化等を通して、海洋科学技術に関する人材の育成と確保を推進することで、海洋の研究・開発・利用を牽引する。

2.海洋基本法及び内閣府設置法の一部を改正する法律案(議員立法)の早期成立

海洋開発等重点戦略を法定計画化するとともに、総合海洋政策本部及び内閣府総合海洋政策推進事務局の司令塔機能を強化することを内容とする、海洋基本法及び内閣府設置法の一部を改正する法律案(議員立法)については、その今国会における早期成立を実現する。

内閣府総合海洋政策推進事務局は、当該議員立法の成立の暁には、日本成長戦略の実現のためにも、現行の海洋開発等重点戦略を抜本的に見直し、南鳥島のレアアース泥開発をはじめとする各種取組の加速化など海洋政策の司令塔機能をより一層発揮して、関係省庁と連携して取組を推進すべきである。

改定後の海洋開発等重点戦略を実現するためには、企業の投資判断の予見可能性を高め、公共調達による初期需要確保(アンカーテナンシー)を通じた市場形成・拡大に向けた取組等を推進することが重要であり、複数年度の視点を以て基金を含め十分な予算を獲得するとともに、将来的には「海洋庁」を設立することも視野に、その企画立案・司令塔機能を担う内閣府総合海洋政策推進事務局の体制を強化するべきである。

3.極地政策の深化

(1)「我が国の北極政策」の改定に向けた検討加速

北極政策については、平成27年(2015年)10月の「我が国の北極政策」決定以後、「研究開発」、「国際協力」、「持続的な利用」の3本柱の下、具体的な取組が進められてきた。その結果、海洋地球研究船「みらい」による調査研究や北極域研究加速プロジェクト(ArCSⅡ)等の取組を基に、我が国が科学的データの提供等を通じ貢献することで、「中央北極海無規制公海漁業防止協定」の発効等、具体的な成果が現れている。引き続き、本年秋に就航予定の「みらいII」を国際研究プラットフォームとして活用すべく着実に運用し、ArCSⅡの次期プロジェクトとして令和7年度(2025年度)から始まった北極域研究強化プロジェクト(ArCSⅢ)等の施策を着実に進めるとともに、国際シンポジウムの開催等を通じて北極圏国を含む各国との連携・情報収集を積極的に進め、我が国の北極政策を推進していくべきである。

更に、「我が国の北極政策」の3本柱を含めた基本的な考え方は引き続き有効と認識しつつも、策定から10年以上の間にあげられた具体的な成果、海氷減少に伴う北極海航路の利活用を含む北極海の戦略的な価値の高まり、国際情勢の変化を踏まえ、同政策の改定に向けた検討に着手すべきである。

(2)南極研究への貢献

南極政策については、戦後間もない昭和31年(1956年)から70年間にわたり、南極大陸の中で最もアクセスが困難な東南極にある昭和基地を拠点として、地球全体の気候システムに大きな影響を与える南極の氷床、大気、海洋循環等様々な観測を実施してきた。一方、砕氷艦「しらせ」が令和16年(2034年)に退役予定であることを踏まえ、政府においてJAMSTECが「しらせ」後継船の運用主体となる方向で検討が進められているところ、「しらせ」後継船の建造を含めた今後の南極地域観測に係る輸送体制の構築を進め、南極地域における科学活動を継続していくべきである。

[1]令和12年度(2030年度)までに民間企業が主導する商業化に向けたプロジェクトが開始されることを目指す

[2][4]令和9年度(2027年度)に経済性の評価を実施し、総合的な検証・評価を行う

[3]令和10年度(2028年度)までの10年間に概ね5万㎢の物理探査を行うとともに、有望な地質構造への試掘機会を増やしていく

[5]巨大地震発生前に観測されている「ゆっくり滑り(スロースリップ)」等の海底地殻変動のリアルタイム観測を行うための装置