知的財産戦略調査会提言
令和8年5月26日
自由民主党政務調査会
【基本認識】
我が国はこれまで「技術で勝ってビジネスで負ける」という状況が繰り返されてきたが、その根本的な原因の一つは、我が国において知財の価値が長年にわたり著しく低く評価されてきたことにある。知財・無形資産の評価・保護を世界水準に引き上げることこそが、知財立国実現に向けたあらゆる取組の前提であり、この認識を官民が共有することが不可欠である。特に国家戦略として極めて重要な高市政権の成長戦略17分野においては、政府主導でIPランドスケープを推進し、現在の日本の強み(As Is)を再確認するとともに将来の市場環境を分析して投資テーマ(To Be)を探索し、その価値創造に向け官民が協働して投資と開発を実行していくことが肝要である。このため、IPランドスケープに基づき、戦略的自律性・不可欠性や競争優位性を確保するための権利化をはじめとする知財の保護と、他国企業が権利化したものを侵害するリスクへの備えが、経済安全保障の観点からも必須である。また、こうした観点は経済安全保障の担い手たる個別の企業における知財管理についても妥当することに配意すべきである。
一方で、我が国企業の企業価値に占める無形資産の割合は、欧米主要国と比べて依然として低い水準にとどまっており、知財・無形資産への投資、経営戦略への統合、資本市場との対話はいまだ十分とは言えない。知財・無形資産は、中長期的な競争力や価格決定力を生み出す源泉である。しかしながら、これらが財務諸表上で可視化されにくいこともあり、経営判断や投資家評価において十分に活用されてこなかった。
また、大学・研究機関においても、研究成果の迅速な公開が重視される一方、知財としての保護や事業化・社会実装を見据えたマネジメントが十分に確立されていない例が見受けられる。大学発の優れた研究成果を我が国の競争力強化に確実につなげていくためには、研究の初期段階から知財を意識した戦略的な管理と、組織としての知財ガバナンスの強化が不可欠である。
さらに、デジタル化・グローバル化の進展に伴い、模倣品・海賊版の流通、営業秘密の不正取得、オンラインプラットフォームを通じた知財侵害、外国当局による技術情報の開示強制など、知財を取り巻くリスクは高度化・複雑化している。現行制度の下では、侵害に対する抑止力や、技術流出に対する実効的な防止措置が十分とは言えず、日本が「侵害されやすい国」「技術が流出しやすい国」とみなされかねない状況にあることは深刻な問題である。
巨大外資企業や国家支援を受けた外国企業による知財侵害に対し、個々の日本企業が単独で対抗することは極めて困難な状況にある。また、著作権においては、ありとあらゆるコンテンツをタダで閲覧・視聴させる海賊版サイトが不特定かつ多数の著作権者の利益を侵害しているが、個々の著作権者が対応するには非常に負担が大きく、法執行が困難である。こうした状況に対応するため、集団的・組織的な権利行使を可能とする仕組みの検討が必要である。
このような認識の下、知財の価値を世界水準で正当に評価する意識を官民全体に根付かせることを基盤としつつ、知財戦略を我が国の成長戦略及び経済安全保障政策の根幹に位置づけ、国家戦略、企業経営、大学・研究機関、資本市場、制度・執行の各層において、官民が一体となった取組を強力に推進するとともに、国際的なルール形成・秩序構築においても我が国が主体的な役割を果たしていくことが求められる。
また、国内外に向けて知財豊国としての力強いメッセージを発信するとともに、国家の総力を結集して迅速かつ実効的な知財戦略の策定・執行を可能とするため、短期的には司令塔機能及び知財戦略推進機能の強化として、知的財産戦略推進事務局の定員・実員の増強、予算の拡充、権限の強化が不可欠である。また長期的には、省庁再編・行革の機運が高まる機会には、各府省庁にバラバラに存在する知財関連部署を統合し、知的財産の創造、保護、活用、権利行使にかかる政策を一元的に担当する知的財産省(仮)を創設するといった組織再編の検討も不可欠である。
今日、地政学的対立が激化し、一方で新たな技術の開発スピードが上がっている。既存の国際秩序・ルールの遵守が、もはや当然の理とは言えなくなっている中で、国際社会における我が国の生存やプレゼンス確保に向けては、より一層、国際連携も通じた国際的なルール形成を主導することがますます不可欠となっている。
我が国産業の国際競争力は、長期の低落傾向にあった。その要因は様々考えられるところであるが、もっぱら企業の技術面での強みに恃み、国際標準化・ルールメイクを意識的に行ってこなかった結果、技術がガラパゴス化し、投資が滞り、結果として国際的な技術革新の波に乗り遅れてしまった面も否めない。そのため、政府における成長投資・危機管理投資における戦略17分野の官民投資ロードマップの策定においても、市場創出・需要創出に向けて、「国際標準化」を組み込むことが求められるようになっており、人口減少・高齢化によって、我が国の経済的・社会的プレゼンスの低下が懸念される中、国際的なルール形成・国際標準化の取組は、国内外の社会課題解決を通じた新たな価値創出や市場創出を実現する有力なツールであるという認識が広がりつつある。
さらに、海外によるレアアースの輸出制限や、中東における紛争により、重要物資の安定供給を通じた自律性の確保やサプライチェーン強靭化といった、経済安全保障の確保がより一層重要となっている。
さらに、標準の活用の遅れは、日本の重要な技術や機微な情報の流出を招き、また日本市場に危険な製品やサービスが入り込むリスクを生じさせる。すなわち、他国市場で求められる他国の基準の認証について他国の認証・試験機関に依存した場合、その試験及び認証の過程で、製品・サービスに関する技術やデータが流出するリスクが生じ得る。また、特に外国のデジタル製品・サービスについては、常にその製品やサービスを通じた他国への情報の流出について注意する必要があるところ、このような製品・サービスの国内市場での販売について適切な標準が設定されない場合には、このような情報流出の危険が高まることになる。
他方、この裏返しとして、日本において標準が適切に策定され、海外標準及び国内標準の試験・認証のために国内の試験機関・認証機関が積極的に活用されるようになれば、日本製品、さらには日本の試験機関・認証機関の競争力が高まることが期待できる。
以上を踏まえ、国際標準・国内標準の積極的かつ戦略的な活用は、我が国の産業競争力を高め、我が国の安全を守るために必要不可欠である。そのために、我が国は、標準の戦略的活用の重要性に関する政府および民間の意識を抜本的に変え、必要な予算措置を講じ、官民の体制を強化し、いわば「標準に関する国際競争力」を強化しなければならない。
昨年度の本調査会提言を受け、政府としては19年ぶりに「新たな国際標準戦略」を定めるとともに、「日本型標準加速化モデル2025」を策定し、官として標準化について前面に立つ姿勢が示された。その後、これらの戦略を踏まえ、官民司令塔としての役割を担う「国際標準に係る官民ハイレベルフォーラム」を新たに立ち上げるとともに、在外公館やNEDO、JETROといった在外事務所の協力による国際標準インテリジェンスの強化が図られている。
また、ペロブスカイト太陽電池、水素・アンモニア、量子、データ連携基盤、バイオものづくり、通信といった分野において、政府が主導して官民連携体制を構築し、国際標準化の戦略作りが進められている。
加えて、試験・認証機関の育成強化に向けて、国内外の認証機関との連携強化や試験設備の導入支援、認証機関等によるコンサルティング活動の範囲の明確化といった対応が図られたところである。
また、標準の活用を促進する観点から、国内標準の最たるものである国家規格(JIS)の活用状況の網羅的な調査や、公共調達等との連携についても取組が始められている。
しかしながら、取組はまだ緒についたに過ぎない。すなわち、依然として我が国企業、特にその経営層においては、ごく一部の例外を除き、欧州など海外に比して、経営戦略の一環としてのルール形成・国際標準化を戦略的に組み込み、適切にリソースを配分することが出来ていない。民間においては、経営層の意識改革、予算や人のリソース配分も含めた社内体制の強化が求められ、一方で、政府においては、それらを強力に後押しするための更なる取組が必要となる。
政府においても、産業政策を始め多様な政策実現の手段として取り組む意識が総じて希薄で、施策も体制もいまだ脆弱と言わざるを得ない。今回の成長戦略における戦略17分野の官民投資ロードマップを奇貨として、政府は、産業政策・科学技術政策・経済安全保障政策などと一体的に、民間との連携を深め、民間の国際標準作りに関する取組の支援を強化する十分な予算の確保、体制構築を図るとともに、民間に委ねた場合に国際競争において後れを取ったり経済安全保障上の問題が生じたりする場合には、政府が思い切って標準作りをリードする姿勢も求められる。
さらに、標準は策定しても実装されなければ意味がない。今回、政府において公共調達における規格の活用のためのガイダンスを取りまとめたところであるが、各省庁がこのガイダンスも活用しながら適切に規格の活用を図っているのかをしっかりとフォローアップする必要がある。さらに、公共調達に留まらず、国内規制、補助金交付の条件等の場面においても標準を積極的に活用するとともに、民間の調達における規格の活用も促していくべきである。国際的には、確立した国際標準や日本の標準が、他国の標準として採用されるよう官民で取組を進める必要がある。
国内標準の活用や試験・認証機関の体制強化も重要である。国内標準については、海外製品に対する競争力を確保するためのツールであるのみならず、日本の安全を守るためのツールであると位置づけられるべきであり、公共調達等における規格・標準の活用においても、そうした観点を旨に運用を図るべきである。また、試験・認証機関の強化によって、増大する試験・認証ニーズに対応するとともに、日本の技術力を生かし、試験も含め「認証産業」自体を一つの産業として位置づけ、競争力ある産業として振興していくことも引き続き取り組んでいくべきである。
そもそも、海外、特に欧州などに比して、上述のような経営戦略と一体的に標準化を活用しようとする意識の弱さについては、その適否はさておくとして、規制(ハードロー)と標準・認証を一体化させ、標準・認証への対応がそのまま経営に直結する欧州と、企業や業界の自主的な取組(ソフトロー)を重視する日本では、自ずから企業経営における標準・認証のプライオリティに相違が生じることになる。
こうした状況を前提に我が国としての対応策を考えたときに、今後、縮小する国内市場を見据えて海外に打って出る必要性、国内市場において粗悪品等が出回ること等により生ずるリスク、あるいは経済安全保障の重要性の高まりなどを踏まえれば、ルール形成・標準化について、欧州型でもアメリカ型[1]でもない、我が国として望ましいガバナンスや規制の在り方を再考した上で、政府が民間をよりリードあるいはサポートしていくことが不可欠である。
なにより、これらの取組は、場当たり的に行われるのではなく、大きな戦略に基づいて行われるべきである。ただし、求められているのは、抽象的な方向性が書かれるにとどまっている戦略ではなく、具体的に実施するべき施策やスケジュールが明示されているロードマップ的な戦略である。その点、政府の取組は一部の分野に留まっており、まだまだ途上であると言わざるを得ない。そのような戦略の構築に際しては、KPIやエビデンスでもって客観的に進捗を評価できるPDCAサイクル実施の十分な体制を整えるとともに、継続的なフォローアップと、状況の変化に応じたアジャイルな対応についても引き続き深掘りを図っていくべきである。
国益があからさまにぶつかり合う世界、これまでのルールが通用しない世界へと移行しつつある今日において、成長戦略とも連動して、デジュール[2]・フォーラム[3]・デファクト標準[4]、国際標準・国内標準を柔軟に駆使し、国民の安全を守る一方で、我が国の産業競争力やプレゼンスを高め続け、世界に咲き誇るために、取り組みを進める必要がある。
日本のコンテンツ産業の市場規模は13.3兆円(2023年)であり、石油化学産業と並び、半導体産業よりも大きい。また、日本のコンテンツの海外市場規模は6.1兆円(2024年)であり、鉄鋼産業や半導体産業の輸出額を上回る規模を有する、我が国の基幹産業となっている。
こうした中、政府は高市総理の施政方針演説に基づき日本成長戦略本部を立ち上げ、AI・半導体や防災・国土強靭化と並んでコンテンツを戦略17分野の一つとして掲げ、ゲーム、アニメ、マンガ、音楽、実写の5分野を柱とする官民投資ロードマップの策定を進めている。
我が国としては、こうした好機をとらえ、魅力ある日本のコンテンツを今こそ世界のコンテンツ市場へ積極果敢に売り込むべきとの気概を官民で共有し、高い目標を掲げ、関係者の緊密な連携の下に取組を進めていくべきである。
昨年11月に党日本成長戦略本部が示した「日本成長戦略における17の戦略分野に関する5つの基本原則」に沿って、コンテンツ分野を含む官民投資ロードマップにおいて、ヒト・カネ・マネジメント・アライアンスの要素がしっかりと反映され、成長の契機となる複数年度にわたる取組が盛り込まれ、官だけでなく民間を含め、今後の具体的な投資額へのコミットがなされることが重要である。
また、デジタル社会の公共的知識基盤としてのデジタルアーカイブの重要性が高まり続けていることを受け、デジタルアーカイブ政策を統合的に推進する法的基盤としてのデジタルアーカイブ振興法(仮称)を早急に制定することが必要である。
「新たなクールジャパン戦略」では、2033年までに、コンテンツの海外展開、インバウンド(訪日外国人消費)、農林水産物等の海外展開、ファッション、化粧品等の海外展開など、クールジャパン関連産業の海外展開規模を50兆円以上とする目標を掲げ取り組んでいる。直近のクールジャパン関連産業全体の海外展開規模は、約27兆円(2024年比約41%増)にまで拡大し、クールジャパン関連産業はグローバル市場における我が国の「稼ぐ力」の源泉となっている。とくに、コンテンツ、インバウンド(訪日外国人消費額)が牽引しており、日本経済あるいは地域経済の発展をリードする産業となっている。これまで我が国の商品・サービスは、技術面品質面等から評価されてきたが、今後さらなる海外展開を進めていくためには、個々の商品・サービスといった、製品単位でなく、業界一体あるいは業界横断の取組による集合体の日本ブランドとしてブランド発信の取組が進むことが今後の重要となっている。
以上の基本認識に基づき、本調査会では、3つの小委員会(知的財産権創出・保護小員会、国際標準化小委員会、コンテンツ戦略小委員会)において、分野毎の議論を集中的に行うとともに、本調査会において、知財経営、知財・無形資産の投資・活用の促進、クールジャパン戦略の新たな展開などなどについて精力的に議論を行ってきた。これらの議論を踏まえ、以下を提言する。
【提言】
I. 知的財産の創造と保護
(1)国家戦略における知財戦略の活用
日本成長戦略会議における17の戦略分野は、技術・市場・標準・知財を巡る国際競争が極めて激化している。知財は単なる民間企業の経済的資産にとどまらず、国家安全、外交交渉、産業政策を左右する戦略的資源として扱われている。海外では知財を活用し、技術覇権や市場経済の主導権を握るための攻勢的な戦略が展開されている例がある一方、17戦略分野に関連するフィジカルAIの特許競争力で日本がトップ10に入れなかったとの報道もある。
こうした動向を踏まえれば、国家レベルでの知財防衛と攻勢の両立が、我が国にも強く求められている。このため政府は、17戦略分野において、経営・事業情報に知財情報を組込んだ分析を行うIPランドスケープの分析を早急に実施し、戦略分野における我が国の強み技術やいわゆる「ブルーオーシャン」を把握したうえで、官民が連携して戦略投資とともに、オープン&クローズ戦略や特許クリアランスを含む知財武装を集中的に実行することにより、チョークポイントとなる技術と知財を戦略的に創出、保護、活用する取組を強化すべきである。
富士フイルム日立の画像診断関連事業
富士フイルム
日立の画像診断関連事業
(出典)経済産業政策新機軸部会第5次中間整理(案)参考資料集
企業におけるIPランドスケープの例
また、国が支援する研究開発投資は、将来的な産業競争力の強化や社会実装を通じて、強固な経済基盤の形成に結び付くことが期待されている。しかしながら、先行特許や論文等を十分に把握しないまま研究を進めた場合、研究成果の事業化や国際展開に支障を来すおそれがある。
このような状況に対応するには、研究開発投資の事業の目的に応じて、研究開発の初期段階から先行文献調査を行い、他者の知財権の侵害を回避しつつ、自らの研究成果を適切に権利化・活用する戦略的な知財マネジメントの実践が必要不可欠となる。このため、各府省の研究開発評価指針や「大学知財ガバナンスガイドライン」等を踏まえ、研究機関の知財管理体制の整備を支援するとともに、公募型研究費においては、申請時に先行文献調査や知財戦略の提出を求め、採択後も成果報告の中で知財に関する状況を継続的に把握・評価することにより、研究成果が我が国の産業競争力強化に確実につながる環境を整備すべきである。
(2)知財・無形資産経営の推進
日本企業の無形資産投資割合は米国と対比すると依然として低い水準にあり、企業価値に占める無形資産の割合も日経225では約50%にとどまる一方、米国S&P500では約90%に達している。
(出典)Ocean tomo Intangible Asset Market Value Study
時価総額に占める無形資産の割合
資源に乏しく、また国内の製造コストが上昇している我が国の企業が持続的な成長を遂げるためには、「モノの大量生産で稼ぐ」モデルから、「知財・無形資産で稼ぐ」モデルへと転換する企業を増やしていくことが、国家戦略上の最重要課題である。そのためには、知財・無形資産が企業のビジネスモデル及び価値創造の中核要素のひとつであるとの理解のもと、企業が知財・無形資産に関する経営戦略(以下「知財・無形資産経営戦略」)を立案・実行することを推進する必要がある。具体的には、まず上場企業における知財・無形資産経営戦略の推進状況について、業種別・ビジネスモデル別の実態把握と課題の構造化を行うとともに、機関投資家の関心等についての調査・分析を実施すべきである。次に、知財・無形資産経営戦略を推進している先進事例を体系的に調査・分析し、知財開発の段階や業種特性を踏まえた実践的なフレームワークを構築すべきである。さらに、企業による知財・無形資産経営戦略の立案・実行を推進する諸外国の法制度についても調査し、日本の法制度で不十分な点を明らかにするべきである。政府は、令和8年度中にこれらの調査・分析を行い、その結果を踏まえ、コーポレートガバナンス・コードの改訂と連動した知財・無形資産ガバナンスガイドラインの改訂を実施するとともに、これを広く普及させるための取組を行うべきである。加えて、自己創設無形資産の財務諸表上の取扱いについて、国際調和の観点も踏まえて、検討を進めることが重要である。
また、企業に知財戦略の立案・実行を促すためには、開示制度の強化も選択肢となり得る。すなわち、現行の統合報告書や有価証券報告書等においては、企業価値の相当部分を占める自己創設的な無形資産がどのような経営戦略に基づき形成され、どのように収益化されているのかについての情報開示は依然として限定的である。
出典:第8回知的財産戦略調査会/第3回知的財産権創出・保護小委員会における三瓶裕喜氏説明資料
自己創設無形資産による価値創造力
そのため、知財・無形資産に関するガバナンス体制や、その形成・活用の戦略、さらには利益を押し下げる費用として認識されがちな販管費の評価を含む、当該戦略に基づく中長期的な価値創造等について、経営者自らの言葉で説明する開示が行われるような環境を整備することが望ましい。そこで、政府は、上記の諸外国の制度の分析、機関投資家の関心の調査、企業の知財戦略の立案・実行に関する課題の整理を踏まえ、知財・無形資産を単なる付随情報ではなく、企業のビジネスモデル及び価値創造の中核要素として位置づけた開示を促進する制度のあり方(特に、有価証券報告書に知財・無形資産に関する開示項目を設けることやその具体的な制度のあり方)について検討し、令和8年度中に方針を示すべきである。
また、知財は、単なる権利取得や権利管理の対象ではなく、事業戦略、研究開発、及び経営判断と一体となって活用されるべき戦略的資産である。しかしながら、我が国企業においては、知財部門が事業や経営の中枢から切り離され、事務的機能にとどまっている例も少なくない。知財・無形資産を活用できない経営者が交代しなければ、成長の機会を獲得することはできず、企業の持続的な成長は見込めない。このため、企業において、全社を横断的に俯瞰し得る知財部門を事業部門・研究開発部門・経営層と密接に連携させ、戦略立案段階から主体的に関与する組織体制への改革や、機能別組織から事業軸に沿った知財体制への再編、知財責任者の経営層への参画等を通じ、知財を経営の共通言語として位置づける取組を促進する政策を講じるべきである。
さらに、企業の姿勢や価値観を一貫して表現し、あらゆるタッチポイントを通じてパーセプションを形成することは、信頼の蓄積、イノベーション力の向上、さらには中長期的な企業価値向上に直結する。このため、政府は「ブランド」を知財・無形資産の一部として明確に位置づけ、経営戦略・ガバナンス・投資判断に組み込む取組を推進すべきである。あわせて、ブランドの意義や成果を適切に開示・説明する環境を整備することにより、知財・無形資産への戦略的投資が正当に評価される市場環境を構築すべきである。
加えて、知財・無形資産を適切に評価し、資金調達に結びつける仕組みの整備が急務である。我が国の金融機関は長らく不動産担保や経営者保証に依存し、知財・無形資産を強みとする企業、とりわけ有形資産に乏しいスタートアップや中小企業が、企業価値に見合った資金調達を行うことが困難な状況が続いてきた。2026年5月25日に施行された事業性融資推進法(企業価値担保権の創設等)は、こうした構造的課題を克服するための重要な制度的基盤であり、これを実効性あるものとするための環境整備が求められる。そのため、政府は以下の取組みを着実に推進すべきである。第一に、知財・無形資産を強みとする企業における具体的な活用について、事業の将来性に着目したコミュニケーションを担う人材の育成も視野に、制度の本旨に沿った質の高い案件を着実に積み上げていくため、制度の周知・普及を強力に推進すべきである。第二に、弁理士等の知財専門家と金融機関が協働して事業性評価を行う仕組みを整備するべきである。第三に、金融機関での融資の審査及びフォローアップに当たって有用な事項を、取りまとめて公表するべきである。第四に、制度利用のハードルを引き下げるために、融資時の事業性評価費用や融資後のモニタリング費用について費用負担軽減措置を講じるべきである。
(3)地域における知財戦略支援
我が国の中小企業・スタートアップ・大学(中小企業等)は、優れた技術・製品を有しながらも、国際市場における知財の保護・活用が十分に進んでいない状況にある。グローバル競争が激化する中、海外での知財権取得は、中小企業等が国際市場において競争優位を確保するうえで不可欠である。しかしながら、海外での知財権取得には多大なコストと専門的知識が必要であり、大企業と比較してリソースの限られた中小企業等にとっては依然として大きな困難が伴う。実際、ペロブスカイト型太陽電池等、多額の費用や労力がかかるため、海外での基本特許が取得できなかった例もある。
(出典)特許行政年次報告書2025年版
中小企業の海外出願率
現在、特許庁・INPITにおいては、海外展開知財支援窓口の提供、外国出願補助金による助成、国際出願関係手数料の軽減・支援措置の提供等、中小企業等による海外での知財権取得に関する各種支援を実施しており、一定の成果を上げている。また、特許庁は、海外での特許審査の早期化に資する特許審査ハイウェイの拡大・拡充を進めており、外国特許を適時に取得できる環境の構築に貢献している。さらに、科学技術振興機構(JST)は、大学等の発明から生み出された外国出願の費用の一部を補助する知財活用支援事業を展開しており、ライセンス等の技術移転活動の活性化を進めている。政府は、上記の施策の状況を不断にフォローアップし、これらの制度の周知や使いやすさの改善に努めるとともに、中小企業等の国際知財戦略支援を更に拡充すべきである。加えて、大企業やベンチャーキャピタルとの連携を通じて、中小企業等の国際知財戦略を資金面・人材面から支援するエコシステムの構築を促進すべきである。
日本の農林水産物は、長年にわたる農業者の努力と技術の蓄積により、世界的に高い評価を受けている。しかしながら、その価値を支える知的財産が十分に保護・活用されていないため、海外への品種流出や模倣品の横行が後を絶たず、農業者が本来得られるべき収益が失われているといわれている。
農林水産分野の知財には、育成者権、商標権、地理的表示(GI)、特許権、営業秘密等に加え、食文化・伝統文化、生産・保存・製造技術、地域ブランド等の多様な知的資産が存在する。一方、現場ではこれらを横断的に組み合わせて活用するための基盤がなく、権利取得後のブランド展開・輸出・模倣対策・再投資まで一貫していないため、農業者の「汗」や「創意工夫」が単なるコストとなり、付加価値や差別化、地域の「稼ぐ力」に転換されていない構造上の課題が生じている。
このため、農業知財を収益化と再投資につなげる「知財の好循環」を実現するため、品種登録、GI、商標、特許、海外制度等を、農業者・支援機関・専門家が横断的に利用できる環境整備を進めるべきである。また、農業者が知財を「経営の武器」として活用できるよう人材育成と伴走支援体制を一体的に整備すべきである。
(4)大学の知財マネジメント力の向上
大学はイノベーション・エコシステムの中核として、知財の創出・保護・活用を通じて産業界や社会への価値提供を担う基本的機能を有している。2004年の国立大学法人化以降、研究成果としての知財は原則として各大学法人に帰属し、大学が主体的に管理・活用する体制へと移行した。しかし、現状では多くの大学における知財の実施率は約2割にとどまり、8割もの知財が十分に活用されていない。加えて、大学発スタートアップにおいては、知財の保護・活用戦略が不十分なまま事業化が進み、成長軌道に乗れず停滞するいわゆる「リビングデッド」問題が顕在化しており、知財を核とした事業基盤の構築が急務となっている。また、オープンサイエンスの国際的な進展を背景に、論文や研究データの迅速な公開が求められる中、多くの大学では、論文数や論文掲載先が教員・学生の評価の中心となっており、その結果として、特許出願や営業秘密としての保護の検討が十分になされないまま研究成果が公開されるおそれがある。こうした状況は、大学発技術を活用しようとする企業にとっては、競争優位性の低下から大学への投資を躊躇させる要因となりかねない。
(出典)知的財産推進計画2025
大学保有特許の利用状況
大学の研究成果を日本の知財として確実に保護し、社会実装や産業活用につなげていくためには、大学知財ガバナンスガイドラインに基づき、研究成果の創出から開示に至るまでの管理プロセスを体系的に整備することが必要である。このため、政府は、論文発表前に、秘密保持や特許出願の要否を確認した上で論文提出を行うことを含め、知財を意識した研究活動を大学全体で実施することができるよう、サポート体制を拡充すべきである。また、現状では各大学が個別に担っている知財活動について、大規模大学・研究機関等に専門的な知財機能を集約し、複数の大学・研究機関の知財活動を広域的にカバーできる体制を検討すべきである。さらに、地方大学にも優れた研究成果は数多く存在しており、こうした広域的な知財支援体制を構築することで、地域を問わず研究成果の権利化・活用を促進し、日本全体で研究成果としての知財の社会実装機会の最大化と知財収益の好循環を実現すべきである。
(5)知財保護の強化
現行の損害賠償算定ルールでは、知財侵害に対する賠償額が侵害行為の利益に見合わず、侵害企業にとって「侵害し逃げ得」となる構造的問題がある。令和元年改正により一定の改善が図られたものの、巨大企業による組織的・継続的な侵害行為に対して十分な抑止力を発揮するには至っていない。
このような状況に対応するには、「侵害し逃げ得」という不公正な結果を許容せず、損害賠償の実効的な抑止力を確保する必要がある。このため、諸外国の類似制度も参考にしながら、損害の回復と侵害者利益の剥奪を確実にする規定の導入を検討し、その結果に基づいて所要の措置を講じるべきである。
また、知財侵害事件においては、侵害の立証に必要な証拠が侵害者側に偏在しており、権利者が証拠収集を行うことが構造的に困難である。特に、外国企業や国家支援を受けた組織による侵害の場合、証拠が国外に存在することが多く、現行の証拠収集手続では実効的な対応が極めて難しい状況にある。
このような状況に対応するため、権利者が実効的に証拠収集できる環境を整備する必要がある。具体的には、査証制度の実効性向上など証拠収集手続の充実・強化、著作権及び営業秘密への拡大、海外所在証拠への対応の在り方を検討すべきである。
さらに、巨大外資企業や国家支援を受けた外国企業による知財侵害に対し、個々の日本企業が単独で対抗することは極めて困難な状況にある。特に、国家的支援を受けた企業は、補助金・市場保証・非関税障壁等を活用して圧倒的な競争力を持ち、個別企業が知財権侵害で対抗しようとしても、相手国政府からの報復制裁リスクを抱えるなど、実効的な権利行使が阻まれている。
こうした状況に対応するため、日本企業が外国企業に対して権利行使しやすくする方策を検討する必要がある。具体的には、知財権を一元的に集約して行使するパテントプールや消費者団体訴訟制度における取組を参考にしながら、集団的・組織的な権利行使を可能とする仕組みを検討すべきである。このような一元的に集約する団体が権利者に代わって侵害企業に対するライセンス交渉・訴訟提起を行うことで、個別企業が報復リスクを負うことなく実効的な権利保護を実現できる。また、模倣品・海賊版対策等に必要な海外での訴訟対応や権利者が証拠を確保する等の困難を緩和することも期待される。
グローバル化・デジタル化の進展に伴い、模倣品・海賊版の流通経路が多様化・複雑化しており、従来の物理的な水際措置のみでは知財侵害の実効的な抑止が困難となっている。また、損害賠償に応じない企業が存在する国からの製品流入や、オンラインプラットフォームを通じた侵害コンテンツの流通が深刻な問題となっている。
このような背景の下、模倣品・海賊版へ対策強化が求められている。このため、政府は、外国公安当局への積極的な働きかけや国際捜査協力の推進等の国際連携を強化するとともに、被害の特に大きい地域における現地対応拠点の開設、正規版流通促進等の取組を官民一体となって推進すべきである。
外国当局による行政調査・司法手続きを名目とした技術情報の開示強制が、日本企業の先端技術流出の重大な経路となっている。現状では、日本企業の法務部門が外国当局の要求に応じて技術情報を提供するケースが多く、これが実質的な技術流出につながっているとの指摘がある。
このような状況において、技術流出を防止するための更なる方策が求められている。このため、政府は、フランス等が40年以上前から導入しているアンチディスカバリー法の考え方も参考に、外国当局の命令・要求に応じた先端技術情報の開示に対応できる方法を検討すべきである。
また、営業秘密の不正取得・使用・開示に対する現行の刑事罰は、国際的な水準と比較して著しく低く、日本が事実上「産業スパイの活動しやすい国」となっている深刻な状況がある。一方、コアとなる技術の不正取得や、その予備行為に対しても懲役刑を科す法制度を整備し、技術流出事案が発覚した際には当局が迅速に捜査・逮捕・起訴を行ったり、スパイによる技術窃取事案に対して長期間の懲役を確定させたりするなど、厳格な刑事制裁を通じて強力な抑止力を確保している国・地域も存在する。
こうした国際的な実態を踏まえ、営業秘密を実効的に保護するための更なる方策が求められている。そのため、政府は、諸外国の法制度も参考にしながら、経済安全保障の観点から重要な技術の不正取得について、厳しく帰責し、これを実効的に抑止するための具体的な制度について検討すべきである。あわせて、捜査当局における技術・知財分野の専門的知見を有する人材の育成・確保及び体制強化を推進し、高度化・巧妙化する技術流出事案に対して迅速かつ実効的に対応できる捜査能力を整備すべきである。
(6)声の権利等の保護
近年、著名な俳優や声優の声を生成AIに学習させ、本人の許諾を得ることなく本人類似の合成音声をウェブサイト上にアップロードするなどの事例が見られている。
生成AIにおける、他人の声等の利用に係る権利等の保護に関しては、民事的側面及び刑事的側面について、関連法や裁判例における考え方についてこれまでも一定の整理がなされてきたところである。実演家の声を模倣した音声コンテンツの無断生成・公開などが一定の場合にはパブリシティ権等の侵害に該当し得ることを踏まえ、これらの侵害に関する不法行為法の解釈・適用等について、現行法及び判例法理を踏まえた法的整理の検討を行い、ガイドライン等を作成するとともに、その結果を周知し、より確実な権利保護に向け、ハードロー整備(不正競争防止法改正を含む)の必要性も含め引き続き議論を継続すべきである。
(7)司令塔機能・知財戦略推進機能の強化
国内外に向けて知財豊国としての力強いメッセージを発信するとともに、国家の総力を結集して迅速かつ実効的な知財戦略の策定・執行を可能とするため、短期的には司令塔機能及び知財戦略推進機能の強化として、知的財産戦略推進事務局の定員・実員の増強、予算の拡充、権限の強化をすべきである。また長期的には、省庁再編・行革の機運が高まる機会には、各府省庁にバラバラに存在する知財関連部署を統合し、知的財産の創造、保護、活用、権利行使にかかる政策を一元的に担当する知的財産省(仮)を創設するといった組織再編について検討すべきである。
II. 国際標準化の推進
(1)国家標準戦略の実行・見直しと司令塔機能の強化
(国家標準戦略の実行・見直しと他の国家戦略との連動)
- 昨年策定した「新たな国際標準戦略」について、引き続き政府において責任をもってその実行を図るとともに、その進捗や課題を分析した上で、これまでの提言及び今回の提言の内容や趣旨に沿って、不断に内容を見直し、深掘りすること。
- 主要SDO[5]における幹事国引受数など、我が国の官民における国際標準化の進捗を適切に図れるようなKPIを検討・設定すること。特に、それぞれの分野における国際標準化の具体的進捗が把握できるよう、工夫を行うこと。
- 政府内における取組の進捗評価に留まらず、民における取組についても適切に把握・分析できるような体制を構築すること。
- 日本成長戦略における戦略17分野・61の技術・製品等の官民投資ロードマップ素案について小委員会で総ざらいした結果、その多くで国際標準化に係る記載が既に盛り込まれ、あるいは今後記載を検討することとなっている。国際標準化は、たとえ技術で劣後していてもビジネスで勝ち得るツールである。海外主導の国際標準化に対する守りの観点も念頭に、現時点で記載予定のない技術・製品等を含め、改めて各ロードマップにおいて国際標準化対応の盛り込むとともに、各分野・技術・製品等において、ビジネスで勝つための国際標準活動にリソースを割いて取り組んでいくこと。その上で、第七期科学技術・イノベーション基本計画とも連動し、国際標準化の進捗評価を図ること。
(領域の柔軟な設定とリソースの戦略的配分、ロードマップの策定、必要な予算の確保)
- 国家標準戦略において、成長戦略や科学技術・イノベーション基本計画で示された重要技術・製品等を踏まえ、また、産業界の意見も聴取しつつ、国際社会及び我が国にとって重要であり、かつ、我が国に強みがある、あるいは死守すべき領域(環境・エネルギー、デジタル・AI、情報通信、量子、宇宙、素材、防衛など) を柔軟に、メリハリをつけて選定した上で、それらの領域に官民のリソースを集中投下すること。
- それらの領域については、企業投資を促すために主体やその取組等を盛り込んだロードマップ等の策定を通じて予見可能性を確保しつつ、アジャイルに見直しを行うこと。
- 経済安全保障の観点も含め、各領域や分野の検討に留まらず、複数の領域や規格を含めた、領域横断的・システム的な規格・標準体系や、サイバーセキュリティ(IoTやSBOM等)、日本が主導的な立場で進めているロボットインフラに係る国際標準化について、産業界・学術界とも連携して戦略的な対応を図ること。
- これらの取組のために、日本成長戦略や科学技術関係予算を最大限活用するとともに、標準活用加速化支援事業(BRIDGE事業の一部)や政府がリードする分野別のロードマップ策定・規格開発・交渉予算を拡充すること。この際、技術開発から知財戦略、標準化戦略、事業戦略まで一気通貫で支援できるよう取り組むこと、さらに、高市総理から指示のあった複数年に跨る予算執行についても併せて検討し、中長期的に支援が出来るように取り組むこと。
(司令塔機能の実効性の担保)
- 今回政府と経済界の連携の下で新たに設けられた「国際標準に係る官民ハイレベルフォーラム」は、現状では情報共有や会議開催に留まっていることから、より実効性のある司令塔となるよう、国際標準化に係る一元的な情報プラットフォームや支援機能を具備する、あるいは省庁単位や業界単位では対応困難な横断的な国際標準化に取り組むなどの具体的な取組を進めること。
- 集められた国際標準・ルールに関する情報について、そのままでは情報量が過多であって活用が難しいことから、我が国にとって影響が大きい情報を抽出し、情報管理に留意しつつ必要な関係者にリーチできるよう、その方法論の精緻化を図ること。
- 司令塔がその役割を十全に果たすためには、その事務局機能を強化することが不可欠であることから、引き続き政府における体制強化を図るとともに、民の協力も得て、官民一体で持続的な事務局機能の強化を図ること。
- ルール形成・国際標準化の戦略的重要性に鑑み、政府部内で関連施策を府省横断的に統括する能力を向上させ、より高次元の政府における司令塔機能を発揮できるよう、国際対応を含む標準政策を統括する「標準戦略監」(仮称)を設けることも含め、体制の強化を図ること。
- これらの司令塔機能の実効性担保に向け、必要十分な予算の確保を図ること。
(2)ルール形成・国際標準化を促進する産業界等の取組の強化
- 企業、特にその経営層において、国際的なルール形成・国際標準化が経営において重要なツールであることの意識改革を徹底させるべく、オープン&クローズ戦略に基づき、経営戦略におけるルール形成・国際標準化戦略や知財情報の分析・組み込み、ルール形成・国際標準化の国際動向の把握や現地でのロビイング、知財の国内外での権利取得の推進や国際会議への積極参画、そのためのCSO(Chief Standardization Officer)の設置や標準化人材の育成、標準専門機関などによる政府に対する伴走機能の強化、キャリアパスの明確化などを積極的に進めることとし、政府としてもその取組を後押ししていくこと。
- 企業や大学による国際標準戦略やオープン&クローズ戦略の実行を後押しするため、グリーンイノベーション基金事業やBeyond 5G基金事業などにおける研究開発支援と国際標準化の一体的推進を、政府の他の研究開発事業や支援事業等においても実施すること。
- 金融機関において、自ら能動的に標準化活動に取り組むとともに、スタートアップなどによる知財や国際標準化への取組を、経営戦略の一環として適切に評価し、その投融資活動を通じて、国際標準化を後押しすること。
- 官民で連携し、経営層などに働きかけるための国内セミナーやシンポジウム、国際標準化に関する国際会議を開催すること。
(3)国内標準を含む標準の積極的な活用と担当省庁の意識改革
- 国際標準および国内標準の活用は、産業政策、科学技術・イノベーション政策、デジタル政策、社会インフラ整備政策、経済安全保障政策等を推進する一つのツールであるとの認識を官庁において徹底すること。そのため、各省庁の国際標準化窓口のみならず、担当課室を対象とした研修を実施すること。この際、戦略的標準化に向けた「型」や「方法論」を整理した上で、国際標準に係る官民ハイレベルフォーラムに参加する関係省庁の政務三役や、関係省庁の局長級からなる標準活用推進タスクフォースを通じて、関係府省において、担当課室における意識の涵養や知見強化、「型」「方法論」の横展開を図るとともに、各省庁内における国際標準戦略の推進体制(統括的な責任体制を含む)の更なる整備・強化を図ること。
- 重要な産業分野について、産業界での自然な議論に委ねた場合に世界での競争に乗り遅れるおそれがある場合や、リターンが見えにくいが経済安全保障などの外部性の観点から重要な場合などにおいては、政府が主体的にリードする形で国際標準化活動を推進すること。
- 国内標準も、日本の産業競争力の強化や海外のリスクの高い製品の流入防止に有用であるという認識の下で、そのような認識が妥当する領域においては、国内標準を積極的に策定すること。特に、安全保障・経済安全保障の観点から重要となる国内標準については、民間に委ねていても必ずしも発展しないため、担当省庁が主体的に標準作りを行うこと。
- 標準は策定しても実装されなければ意味がないという理解に基づき、一方で企業 に標準の有用性を認識してもらうために、国際標準・国内標準が確立している分野については、政府が率先垂範することとし、今回策定された「JIS規格の公共調達引用ガイダンス(Ver.1.0)」に基づき、(ルールの範囲内でという前提のもと)原則として標準に適合した製品・サービス等であることを調達の条件とすることを省庁横断的に徹底すること。加えて、今後実施するJIS規格の総ざらいレビューの結果も踏まえつつ、JIS規格が更に有効に活用されるための方策について検討すること。
- 補助金の交付の場面において、標準が確立している製品・サービスが関係する場合、標準に適合した製品・サービスを用いることを補助金交付の条件とすることを促進すること。
- 研究開発予算において、研究テーマに係る知財や標準化について分析・検討することを支援の要件あるいは支援メニューとして盛り込むこと。
- 国内規制への標準・認証の組み込みについても、戦略17分野における官民投資ロードマップにおいて規制改革による需要創出が謳われていること等を踏まえ、官民共同規制・アジャイルガバナンスや経済安全保障、イノベーション促進の観点から、モデル事業やガイドライン等の策定を通じて、関係省庁連携による積極的な検討を促すこと。その際には、我が国にとって望ましい規制の在り方とはどのようなものか、企業の創意工夫やイノベーションに繋がり得るか、国際競争力の強化につながり得るか、アジャイルな規制を阻害しないか等の観点から、そのメリット・デメリットを分析し、メリットがデメリットを上回る分野についてはその一体推進を図ること。
- 経済産業省が現在進めているJIS規格の総ざらいレビューを参考に、各省庁においても、既存の規制・認定・認証等をレビューし、国際標準や国内標準との整合性や相互運用性を図るようにすること。
- 自国のイニシアティブで確立された国際標準や、自国の産業力強化の観点から重要な国内標準については、それらが他国の国内標準として組み込まれることに向けて、産業界と協力しながら、他国への働きかけを行うこと。
- 我が国において様々な制度に基づいて設けられているJISをはじめとする認証マークについて、欧州のCEマークの事例も参考に、我が国のブランドとして国際的な認知度を高めるための取組を進めていくこと。
(4)標準化人材の育成と活用
- ルール形成・国際標準化に取り組む人材不足により、我が国が国際コミュニティの場において不利な立場に陥ることのないよう、企業、アカデミア、政府が連携して若手や現場を始めとした標準化人材の育成強化を図ること。
- 大学や研究機関といったアカデミアにおいて、標準化人材育成を図るとともに、研究開発を社会実装するための国際標準化の取組が組織として人事評価に適正に評価されるよう、政府として国際標準化の重要性及び優良事例の大学等への幅広い周知等、その取組を後押ししていくこと。
- 人材育成に当たっては、会議プロトコル(ルール)の習熟やマーケティング、チームでの対応力を涵養するため、OJTやシャドウコミッティの開催、国際標準化会合の日本誘致、SDOツールの活用等を図ること。
- 特定の国が多数のエキスパートを国際会議の場に投入し、戦略的に標準化活動を進めていること等を踏まえ、人材育成及び国際的なネットワーキングをより一層強化する観点から、企業等による国際会議への参加やロビイングについて国が積極的に支援すること。
- 司令塔組織などにおいて、領域横断的・省庁横断的な人材データベースの拡充・機能の強化を図っていくこと。
(5)標準化機関、試験・認証機関等の育成・強化
- 中小やスタートアップを含む国際標準化に取り組む企業が、国内でも優れたサービスを受けられるよう、海外の主要標準化機関と遜色のないような国内の標準化機関、試験・認証機関等の専門機関のサービス拡大・体制強化に向けて支援を強化すること。
- 我が国からの良質な国際規格の提案数の増大や、国際規格と連動する国家規格の増大を図るべく、AIの適正な活用等を通じた国際規格・国家規格の策定の迅速化を図ること。
- 海外への情報流出への懸念に対応するべく、海外の機関のみに依存しない試験・認証体制の強靭化を図るため、企業からのニーズを踏まえつつ、海外の試験・認証機関との連携(日本の試験機関による試験結果の海外認証における承認等)、日本の認証機関による海外の試験・認証機関の買収の促進、国内の試験・認証機関間の連携等を図ること。
- さらに、国内の試験設備等の基盤強化に向けた政府による支援の必要性について検討し、そのための必要十分な予算措置を図ること。
- 日本の産業競争力を強化するという観点から、国内における試験・認証の合理化・効率化の可能性について検討すること。
- 国内の試験・認証機関の育成強化を図るべく、企業においても国内の試験・認証機関を積極活用すること。試験・認証機関側においても、企業のニーズに応えられるよう、試験・認証機関間の連携や、産業界との連携強化、体制の強化を図っていくこと。
(6)国際連携、国際標準インテリジェンスの強化
(国際連携の強化)
- 同盟国・同志国やグローバルサウスなどの外国政府や国際機関等とのパートナーシップを戦略的に構築・強化して、我が国主導の国際標準化に加え、我が国主導でなくとも、相互運用性を確保しつつ同盟国・同志国と連携した国際標準化・ルールメイクを展開すること。また、国内市場における財・サービスの安全・安心や質の確保という観点からの国内標準の活用を推進すること。
- 国際標準化に関する国際コミュニティに積極参画するとともに、ポスト獲得自体が自己目的化しないよう、戦略的な目標を持って国際機関における重要ポストの獲得を図ること。
- 産学官の意識醸成や国際ネットワーク構築のため、官民で連携し、ISOやIEC、ITUといったデジュール国際標準機関の国際会議や、主要なフォーラム標準の国際会議の国内開催を促進するとともに、より多くの日本人がコンビーナを務めることの推進並びにコンビーナを務める日本人の支援を行うこと。
(国際標準インテリジェンスの強化)
- NEDO、JETRO等の政府の海外事務所や、在外公館によるネットワークを通じて、国際標準化への積極的な対応を進める、あるいは国際コミュニティに積極的に参加するなどして、現地の情報収集を含めた標準インテリジェンス機能を強化すること。また、そこで得られた情報について、情報管理に十分に注意しつつ、国内の必要なステークホルダーに提供し、適切なアクションに繋げられるような枠組みの構築を図ること。
(7)必要な財政措置等の確保
- (1)~(6)の取組を進めるために、従来の予算にとどまらず、複数年に亘る予算管理も含めて、メリハリやターゲットの明確化を図りつつ、各種予算の抜本的な拡充や人員体制の強化を行うこと。
- 本提言については、政府において速やかに(遅くとも2027年までには)取組に着手し、遅くとも2030年までにその実現を図ること。
III. コンテンツ戦略の推進
第一. 官民投資ロードマップに反映すべき事項
1.総論
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(1)基幹産業としてのコンテンツ産業の育成
コンテンツ産業を基幹産業と位置付け、日本のコンテンツ産業の構造改革と強靭化(海賊版対策を含む。)を官民一体となって進め、コンテンツに対する政府の公的投資を5年で5000億円以上に拡大するなどの、複数年の支援を含めた大規模・長期・戦略的な官民投資を推進することで、2033年までに海外売上高を20兆円とする目標を達成するべきである。
そのために、我が国としてコンテンツを海外に出していくという姿勢を、本気度の見える形で打ち出しつつ、製作や海外展開、人材育成等を一体的に支援するともに、IPの多角化やプラットフォーム間の連携を図りながら、コンテンツの持つ価値の最大化につなげることが重要である。
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(2)コンテンツ産業を一体となって推進するために必要な体制の整備
コンテンツ産業を所管する各省庁においては、縦割り行政の下で2~3年での担当者の交代といった問題を抱えており、基幹産業として長期的にコンテンツ振興を行うにはより一層の司令塔機能の強化が必要である。韓国コンテンツ振興院(KOCCA)をはじめ諸外国のコンテンツ戦略の推進体制も参考にしつつ、予算配分や執行を取りまとめ、一気通貫での支援を行うための体制について早急に検討を行うべきである。
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(3)ロードマップの着実な実施
ロードマップで方向性を示すことに留まるのではなく、実行可能な戦略としていくことが重要である。多様な日本の創造の強みを活かしつつ、マーケットインの視点でのポテンシャルの高い市場の分析、実施時期や施策の優先順位等の具体化を進めるとともに、5分野をそれぞれ個別に捉えることなく、バリューチェーンとしてつながりを意識しながら戦略的に実行していくべきである。
2.5分野において盛り込むべき事項
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(1)ゲーム
ゲーム産業は日本発コンテンツの海外売上の約6割(3.4兆円)を占めており、家庭用ゲーム機市場(6兆円)のシェアは半分程度に達し競争力が高い。一方で、モバイルゲーム市場(18兆円)やPCゲーム市場(7兆円)でのシェアは数%に満たないため、市場拡大の余地が大きい。
特に開発コストも高騰している中、世界的に強みを持つ既存IPのゲームの収益力向上を図りながら、その収入で新規IPのゲームを開発し、世界的なヒット作品を生み出していくために必要な支援を大規模に実施すべきである。併せて、国際的なグッズ流通機能の拡大や開発基盤の整備、AI・XR等の先端技術を活用した新しいゲーム開発への投資も拡大すべきである。また、技術進化に対応した高度開発人材育成、マーケティング・批評など含めた幅広いゲーム関連の職種への支援、ファン拡大につながるeスポーツ市場への支援、そして次世代ゲームクリエイターの学習の場に資する過去の実機アーカイブや公開・体験施設等のゲームアーカイブ機関の整備も官民連携で進めていくべきである。
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(2)アニメ
アニメ産業は日本発コンテンツの海外売上の約3割強(2.1兆円)を占めており、5分野の中でも最も成長スピードが速い分野である。一方で海外市場からの利益回収率が低く、海賊版による被害も甚大であり、海賊版対策やプロデュース力・契約交渉力の強化等による正規版流通促進によって海外市場を広げていくといった視点が重要である。
海外売上の更なる拡大に向けて大規模作品製作を推進し、他のコンテンツ分野と連携しながら日系配信プラットフォームのシェアやリアル店舗を含めたグッズ販売を拡大することで、国際的な流通網を整備するべきである。同時に、製作・制作会社の成果報酬率向上を高める構造改革を通じて再投資原資の確保を推進することで、新規IP開発に邁進できる素地を固めるべきである。投資判断のためには、視聴データを入手・分析することが重要であり、その過程においては、地域の特性や文化的背景なども考慮し、現地の有力プラットフォームとの協調・連携を図るべきである。加えて、クリエイターをはじめとした関係人材の育成、取引・就業環境改善を通じた定着率向上、デジタルプラットフォームによる製作会社等への視聴実績等の共有等も推進するべきである。
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(3)マンガ
マンガ産業は、ゲーム・アニメ・実写分野に原作を供給しており、日本発コンテンツ全体の競争力を支えるIPの源泉である。アニメと同様に海賊版被害が甚大であり、海賊版対策及び正規版流通を促進することで海外市場の拡大を狙っていく。
海賊版を抑制するため、海賊版の削除要請や訴訟等へのきめ細かな支援を拡大すべきである。また、翻訳人材の育成、AIも活用したローカライズによる供給制約の解消を通じて、紙および電子書籍の正規版の流通を図るべきである。あわせて、日系コンテンツ配信プラットフォーム間における広告・コラボレーションを促すとともに、マンガ版権のグッズの正規版流通も促進すべきである。
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(4)音楽
音楽産業は、ゲーム・アニメ・実写分野の熱狂を創出する役割を担っている。特に主題歌を通じてゲーム、アニメ、実写の魅力向上に寄与しているとともに、日本アーティストのライブを目的とした高付加価値なインバウンド需要の創出にもつながる。
海外で認知度の高いアニメソングを起点として、国内外でのライブや関連イベントを通じて各アーティストの熱狂的な海外ファンダム(ファンの集団)を形成・拡大していくためには、認知から消費に至るサプライチェーンを一体的に整備するなど、戦略性の高い施策を充実すべきである。それと同時に、海外公演を支える人材のビザ取得の円滑化・迅速化の支援を検討すべきである。
また、楽曲の評価を高めることに資する大規模・高品質な映像作品、プロモーションビデオへの投資促進についても検討を進めるべきである。これらを入口にしてアーティストの楽曲全体や、日本の音楽全体への関心・消費を喚起し、音楽の配信収入やグッズ販売の増加に繋げていくべきである。同時に、多言語化対応を含むメタデータの整備を通じて、デジタルプラットフォームから楽曲による収益が権利者へ適切に還元されるような環境を整えていくべきである。
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(5)実写
実写産業は、日本発コンテンツを原作として海外スタジオが製作した実写作品や、海外の配信事業者が巨額な資金を拠出して日本の制作会社が制作した実写作品の一部が世界的にヒットするなど、ドラマやバラエティのリメイク権の販売も含めて海外売上伸長の可能性がある。また、タイでは、日本企業が参画するプラットフォームでドラマの配信に着手している。
競争力のあるIPを原作とした映画・ドラマ等の大規模作品等の製作の推進と、日系配信プラットフォームの海外展開支援を車の両輪として海外収益拡大を目指すべきである。
大規模作品等の製作の推進に当たっては、以下の取組を一体的に推進すべきである。
- 高度技術の活用:VFX(視覚効果)等の先端技術の活用と、これに対応した高度なスタジオの整備
- 国際連携・ノウハウ取得:海外スタジオの大作ロケ誘致、国際共同製作、国際映画祭を通じた情報発信
- ローカライズ支援:字幕・吹替等の多言語対応に要するローカライズ費用を制作会社が負担する際の財政的支援
また、海外展開支援に当たっては、日系配信プラットフォームの海外展開を通じて得られる視聴データを収集・分析し、次なる製作・展開戦略へ繋げることが重要である。
こうした個別施策の効果を持続的なものとするためには、産業構造の改革と一体的に取り組む必要がある。具体的には、製作委員会方式に留まらない多様な資金調達の枠組みの検討、制作委託における視聴回数等の情報開示を含む取引適正化指針の策定、出資・制作印税の比率向上を通じた成果報酬率の改善に取り組むべきである。
あわせて、J-Beauty産業(化粧品、美容家電、美容機器、美容商材、ヘア、エステ、ネイル等)の海外展開との好循環を図りつつ、コンテンツ産業の海外売上拡大のため、プロモーション連動等についても推進していくべきである。
第二.ロードマップと相まって施策推進や検討を深めるべき事項
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(1)AI技術の促進と知財の保護の両立に向けた各主体の取組促進
コンテンツビジネスにおいて、AIの活用は不可逆的な流れになりつつあり、そうした中で、AI活用に伴う利便性に加えて、リスクも考慮する必要がある。
昨年施行された「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」において、著作権の侵害をはじめ国民の権利利益が害される事態を助長するおそれがあることに鑑み、AI活用の過程の透明性の確保その他の必要な施策の推進を講じていくことが明記された。
政府においては、適切な知的財産の保護と利活用につながる透明性の確保や、コンテンツホルダーへの対価還元、生成AIと知的財産権に関する分かりやすい情報提供等の推進を進めるため、「生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード」の策定に向けた検討が進められている。
党としては、コード案が権利者及び事業者の双方が抱える懸念を十分に踏まえたものとなるよう、政府に対し引き続き丁寧な調整を進めるよう求めるとともに、何よりも利用者が安全に生成AIを活用できる環境を確保できるよう、適切な周知を図っていくことを求める。また、権利者による訴訟提起を含めた権利執行にも支援を講じていくことが必要である。
あわせて、文化庁が設置した関係当事者の間における適切なコミュニケーションの場を活用し、AI事業者やクリエイター等の権利者等との相互理解と信頼関係を醸成することが必要である。
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(2)海賊版対策と正規版流通促進の強化
海外における海賊版対策と正規版流通促進においては、コンテンツ政策のみならず、対日理解の促進や日本への信頼度・好感度の向上といった外交政策と一体の施策を講ずることが必要である。
具体的には、途上国にはファンサブと呼ばれるファンが字幕をつけた海賊版アニメやファンが翻訳した海賊版マンガしかなく、それらが多く視聴・閲覧されている事情も踏まえ、許諾に基づいて翻訳された正規版が視聴・閲覧されるよう、ODA予算を用いた海賊版対策を行うとともに、日本コンテンツの海外市場の環境整備を一体的に行うという施策も重要である。
特に重視すべき国として、我が国はベトナムに対する最大のODA(政府開発援助)供与国であるが、ベトナム政府は、日本の権利者からの要請や総理大臣をはじめとする閣僚等からの働きかけにもかかわらず、日本コンテンツに多大な損害を与え続けてきたベトナム系海賊版サイトの検挙・処罰を行っておらず、日本の知財保護に対して十分な対応をしてきていない。このような状況に鑑み、日本の知財保護をODAの条件とするといった見直しも検討すべき。海賊版サイトは、あらゆるコンテンツを無料で閲覧・視聴させており、不特定かつ多数の著作権者の利益を侵害していることから、ただちに対策をとることが求められる。
海賊版サイトへのアクセス数は減少傾向にあるものの、コンテンツ産業のデジタル化、インターネット環境の進化により、日本のコンテンツが国内向けだけでなく外国語に翻訳され、海外向けに海外の海賊版サイトから発信されるなど、海賊版による被害は巧妙化・多様化している。このような現状に対応するため、「インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー」を適時・適切に更新し、官民連携の下で、海賊版に対するユーザーのアクセスを抑止するための取組、著作権侵害に対するエンフォースメントの取組、及び正規版流通促進の取組を進めるべきである。
日本が世界に誇るキャラクターなどのコンテンツIPに関連する偽キャラクターグッズや偽トレーディングカードなどが世界中の電子商取引市場などで流通している現状に対し、対策を講じるべきである。
海外向けの海外の海賊版サイトに関する侵害実態の継続的な把握や、外国公安当局との国際捜査共助の強化等、国際連携・国際執行の一層の推進を図るとともに、日本のコンテンツの侵害に関して、著作権侵害の処罰規定が適用される場合の実効性確保に向けた取組を引き続き行うべきである。
アニメや漫画等の海賊版サイト対策で成果を上げている一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)や出版社連合(JPMAC)等の国際執行を強化するため、関係府省庁による支援について検討を行うとともに、世界各国での刑事手続・行政手続・民事手続・ノック&トークをより一層推進する抜本的な予算の拡充や仕組みの充実を図るべきである。
各種の刑事罰に向かう対策と並行して、違法性の否定できない業者も含めて契約を締結することにより、少しでも対価を還元していくといった経営戦略も考えられるところであり、各業界や企業においてこのような戦略を検討するに当たり、在外公館やジェトロ等の関係機関は積極的に協力すべきである。
海賊版サイト運営者に対するCDN(Contents Delivery Network)サービスの提供停止など、海賊版サイトの運営に利用される各種民間事業者のサービスについて必要な措置が講じられるよう、当該民間事業者への働きかけ等を行うべきである。
海賊版に関して生じる広告収入の歯止めとして、現行の犯罪収益移転防止法や組織的犯罪処罰法等の刑事上の規制がどのように及び得るのか、適用関係についてさらに整理を深めるべきである。また、民法上も、海賊版に関して生じる広告収入は、侵害者においてもプラットフォーマーにおいても正当に取得できるものではないことの整理を行い、必要に応じ、立法措置の検討も行うべきである。あわせて、インターネット上の著作権侵害等の違法・有害情報への対応として、削除対応の迅速化や運用状況の透明化を大規模プラットフォーム事業者に義務付けるため、情報流通プラットフォーム対処法が施行されたところであり、その適正な運用によって、YouTubeやSNS等のプラットフォームに関する実効的な対策を推進すべきである。
海外のマーケティング情報の収集・共有、海外の現地プレイヤー等とのマッチング機能の強化、海外における日本コンテンツの海賊版サイトの撲滅のため、日本貿易振興機構(JETRO)にプロパーのコンテンツ専門人材を配置し、コンテンツ産業の海外展開支援や現地マーケット等へのコアネットワークの構築や、現地における海賊版サイトの最新状況や関連法規等の情報収集を推進すべきである。また、海賊版サイトの継続的なモニタリングを行う取組を支援すべきである。
CODA北京事務所の開設による中国での海賊版サイトへの国際執行の成功を踏まえ、十分な予算措置を行い、海賊版対策の実務を行う海外事務所の開設による迅速かつ効果的な国際執行体制を整備すべきである。
ドメインをめぐる問題については、ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)等を通じたドメイン事業者の働きかけ、CDNサービスの悪用防止、現地での摘発(国際司法協力)等を中心に、官民で連携しながら対応を進めていくべきである。特に、新たに発行が予定されるトップレベルドメインについても注意をしていく必要があるとともに、日本発コンテンツの権利者等が国際的な対応を行うための支援体制づくりや、専門家人材間の知見の共有等を促進する必要がある。
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(3)著作権制度・関連政策の改革の推進
アーティストの海外展開の後押しに資する、レコード演奏・伝達に係る実演家及びレコード製作者への望ましい対価還元については、本年5月15日に著作権法改正案が提出されたところであり、同法の早期の成立を図るとともに、引き続き国際動向や関係者の合意形成及び現場の実態に配慮した円滑な徴収・分配体制の見通し等を踏まえつつ、必要な検討を進めていくべきである。
デジタル時代に対応したコンテンツ創作の好循環を促し、クリエイターへの対価還元の拡大等にも資するものとなるよう、本年施行された令和5年改正著作権法に基づく新たな裁定制度が円滑に運用されるよう、関係規程等の周知や指定補償金管理機関及び登録確認機関に対する適切な指導及び支援等を進めるとともに、関係者に対して十分な周知を行うべきである。
また、同制度の施行に合わせて構築された分野横断権利情報検索システム及び個人クリエイター等権利情報登録システムが適切に構築・運用されるよう、権利者、利用者をはじめ幅広いステークホルダーの協力を得つつ、各分野のデータベースを保有する団体等との連携やデータベース化の促進、可能な限りデジタルで完結できるシステムの開発等に向けて、十分な予算措置のもと取組を進めるべきである。
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(4)デジタルアーカイブの推進
デジタル社会の公共的知識基盤としてのデジタルアーカイブの重要性が高まり続けていることを受け、デジタルアーカイブ政策を統合的に推進する法的基盤としてのデジタルアーカイブ振興法(仮称)を早急に制定しなければならない。
また、同法に基づき、産官学による恒常的な推進母体を設置し、官民のデジタルアーカイブ振興計画を策定するとともに、全国アーカイブ機関連携・支援の中核的拠点としてナショナルデジタルアーカイブセンターの設立に向けた取組みを進めるべきである。
デジタルアーカイブ振興法(仮称)が制定されるまでの間は、政府が策定したデジタルアーカイブ戦略2026-2030に基づき、国立国会図書館をはじめとするアーカイブ機関や関係府省庁の連携の下、予算措置の充実を図り、コンテンツのデジタル化等のデジタルアーカイブの取組を総合的かつ着実に推進すべきである。
ユネスコ(国連教育科学文化機関)は、2025年までにデジタル化を急がなければ、世界の膨大な磁気テープの映像が失われかねないと警告してきたが、我が国として十分に対応ができているとは言えない状況である。映像コンテンツのデジタルアーカイブを推進するため、公的補助の充実をはじめ政府が主導的な役割を果たすべきである。
国立国会図書館においては、後述の2000年以前に出版された雑誌のデジタル化を集中的に行うとともに、2000年以降の資料のデジタル化や、経年劣化による毀損のおそれが高いボーンデジタルのコンテンツメディア(パッケージ系電子出版物)のマイグレーション等の取組を計画的に推進すべきである。
デジタルアーカイブの推進に向けて、公的プラットフォームを拡充する必要があるところ、特にジャパンサーチについては、日本の多様なコンテンツに関する情報をまとめて検索・閲覧・活用できるコンテンツプラットフォームとして、十分な予算措置にもとづく開発・運用を進める必要がある。ジャパンサーチにおいて、様々なデジタル情報資源を網羅的にナビゲーションできるよう、国や自治体のアーカイブ機関については全て連携させることを原則とした連携先の拡大及び連携先でのコンテンツのデジタル化の支援などアーカイブ機関との連携の更なる拡充を図るべきである。
社会・経済状況の変化により、デジタルアーカイブ政策の推進にあたって、AI環境における情報の信頼性担保、防災・レジリエンスと地域再生、マンガ・アニメ・ゲームや音楽・舞台芸術等の現代文化アーカイブの拡充、海外への情報発信と国際連携、人材育成と教育活用、デジタルアーカイブ分野に焦点を当てた研究開発の推進、オープンデータ政策との連携等が喫緊の課題となっており、政府において、これらの課題に迅速に対応することが必要である。
アーカイブされた放送に関しては、番組や映像素材について、調査研究及び教育の目的での利用を最大限可能とするとともに、権利者の利益を不当に害しない態様で広く国民にも公開するなど映像コンテンツの利活用を促進すべき。加えて、公共放送であるNHKの番組を中心に、出版物と同様に、現在と未来の視聴者のために、国民共有の文化的資産として永く保存され、日本国民の知的活動の記録として後世に継承される制度を構築し、国をあげた放送アーカイブの取組も進めるべきである。その上で、民放の番組も含め、NHKアーカイブスや放送番組センターをはじめとする関係機関や権利処理に知見を有する者が連携・議論することで、権利処理が円滑に実施されることを期待する。
また、マンガやアニメ、特撮、ゲーム等についても、歴史的・文化的・芸術的・技術的な観点から、それらの中間生成物等を保存・継承していくことが重要である。収集・保存、リサーチ、展示・活用等の機能を備えた、メディア芸術ナショナルセンター(仮称)構想を、官民連携して実現すべきである。
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(5)スマホ新法の厳格な運用
昨年施行された「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」については、対象事業者から遵守報告書が提出され、広くアプリ事業者や国民からの意見を公正取引委員会において受け付けているが、依然としてアプリ事業者側では、外部決済機会の確保や、対象事業者との円滑なコミュニケーション等の観点で懸念を有している。公平な競争や、適切な対価還元を促す観点から、公正取引委員会による同法の厳格な運用を求めるとともに、関係省庁において丁寧な制度の周知等を行い、遵守の徹底を図るべきである。
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(6)ファイナンス手法の充実
これまで我が国の実写及びアニメを含む映像作品の製作においては、製作委員会方式が広く採用されてきた。同方式は、複数の事業会社が出資・リスク分散を行う点において一定の合理性を有する一方で、権利関係や収益配分の複雑化により、作品単体の価値やキャッシュフローに着目した金融的評価や、柔軟な資金調達を困難にしてきた側面も否定できない。例えば、他国では大規模作品の製作費を調達する際、IP保有の有無にかかわらず、デットファイナンスとエクイティファイナンスを組み合わせて調達する手法が見られ、その際には作品の価値評価や完成保証(映画制作において資金を提供する金融機関や投資家に対して完成保証会社が映画の完成を保証する仕組み)の仕組みが重要だが、これまでわが国ではこれらにつき十分に検討がなされてこなかった。
日本発コンテンツの海外での市場拡大を進め、利益を最大化するために、KOCCA(韓国コンテンツ振興院)、韓国母胎ファンド・K-コンテンツ制作ファンド等、他国の取組も参考に、以下の取組を推進すべきである。
- エクイティ手法の高度化や、信用保証制度の拡充等を含む民間金融機関のリスク補完・官民のリスク分担の在り方についての検討
- 制作費支援やローカライズ、プロモーション等の支援の拡充
- 事業計画の進捗把握や事業価値評価を金融機関が実施するために有効な、制作会社等におけるデジタルツール等の導入支援
IV. クールジャパン戦略の新たな展開
(1) 総論
「新たなクールジャパン戦略」において定めた、2033年までにクールジャパン関連産業の海外展開規模を50兆円以上とする目標達成に向け、引き続き進捗状況の把握と課題分析を行い、取組内容の見直しを進めていくことが重要である。
海外展開では、ターゲットとなる市場の特性を踏まえた戦略的なブランディング、JETROなどの関係機関との連携強化が不可欠となっている。現在、我が国を訪れる訪日外国人観光客が年々増加する中、我が国を訪れる国・地域のニーズにあわせたインバウンド誘致を実践することは輸出に必要なマーケティング情報の取得につながることを意識しながら輸出拡大の取組とインバウンドの取組に戦略的に取り組んでいくべき必要がある。
(2) インバウンド誘致、ロケ誘致
インバウンド消費額は、約9兆円(2025年)と過去最高を記録しているが、さらに拡大していくためには持続的な地方誘客によるインバウンド需要分散の取組が重要となる。地域には文化財、史跡、自然、食などが豊富にある。魅力的な地域資源を活用するロケ誘致の取組は、ロケ撮影を通じた地域消費拡大と地域の映像制作能力の向上等につながるとともに、作品の海外展開を通じた地域PRとなっているため、インバウンド増加による地域経済活性化につながる。このため、政府においては、地域におけるロケ誘致に必要な支援の充実強化を図っていくとともに、地域における自治体・警察、地元経済団体等の関係機関の連携強化を通じ、ロケ撮影に係る円滑な許可手続を含め撮影環境の整備を推進していくべきある。
また、アニメがマンガ等コンテンツとの連携による地域資源の高付加価値化やコンテンツの人材育成や企業誘致等の取組は、地域活性化につながるとともに、コンテンツの魅力の発信及び我が国のコンテンツ産業の競争力向上にも資する。こうした取組を行うコンテンツ地方創生拠点が個別に海外発信等に取り組んでいる現状では、海外からの認知度、海外ファンへの訴求力も限定的である。このため、公立文化施設を含む多様なコンテンツ地方創生拠点が一体的に海外発信等に取り組む枠組みを構築し、拠点同士が連携した取組を促進する環境整備を推進すべきである。
さらに、地方周遊・長期滞在による消費拡大につなげるには、訪日外国人観光客の観光消費体験及び宿泊体験の魅力向上の取組が不可欠である。このため、作品を核とした観光のストーリー・基盤づくり・観光コンテンツ造成等の総合的な支援や地域の歴史やストーリー、伝統文化等を体験できる体験型施設の整備、歴史的な建物や街並み等をいかした高付加価値な宿泊施設の整備等への支援強化もあわせて進めるべきである。
(3) 農林水産物等の海外展開
海外展開にあたっては、展開する国・地域の市場に関する知見や人脈などのネットワークを有するJETRO等支援機関の継続的な連携・協力のもと、一過性の取組にならない持続的な海外展開を推進していくことが重要である。
その際、ターゲットを明確にし、国・地域により異なる文化や価値観、生活様式等を踏まえたマーケティング戦略が必要となる。マーケティング戦略におけるブランディングでは、食材がもつ背景やストーリーに基づくブランディングに加え、ユネスコ無形文化遺産登録や地理的表示(GI)制度の活用など、世界的な評価に裏打ちされた価値訴求によるブランディングや日本各地の多様な食文化や包丁や器などの調理器具等周辺産業との連携、アニメやマンガなどのコンテンツとの連携等により、新たな需要を喚起していく取組を強化するべきである。
また、農林水産分野には「汗」や「創意工夫」により新品種、栽培技術、加工技術等多様な知的資産が集積しているが、十分に保護・活用されておらず、地域の「稼ぐ力」に転換されていない。その一例として、我が国の優良品種が海外で無断栽培され、これらの外国製品と我が国の輸出品と競合、我が国のブランド価値の棄損が発生、さらに、正規にライセンスすれば得られたはずのロイヤルティ収入も逸失するなどが生じている。このため、優良品種について、海外における無断栽培を抑止しつつ、海外からの稼ぎにつなげていく育成者権管理機関の早期立上げ・事業化を早急に実現するべきである。
我が国の農林水産物の知財を保護する制度として、GI・商標等様々あるが、個別に扱われており、重層的な保護設計が図られていない。ブランド価値は「名称」だけではなく、「品質管理」や「規格」、「表示」の信頼性で支えられているため、制度を点ではなく面で設計することが、最終的に地域のブランド価値の持続的向上につながる。このため、各制度間の連携運用の強化と海外での模倣対策まで含めた一体的なブランド保護の取組支援の強化を進めるべきである。
現場では、制度を横断して使いこなす実務基盤が不足している。このため、業界団体(日本弁理士会や日本弁護士連合会等)の協力・連携のもと、制度横断的に一元調査できるデータベースの整備、知財に関する調査、権利取得、契約、表示、海外対応等の標準メニューの整理、知財活用を再投資につなげる運用モデルの提示等、現場の努力を持続的な地域価値へ転換するための知財情報インフラの構築に取り組んでいくべきである。
さらに、現場で「専門家との接点」「学ぶ場」「実践機会」「相談体制」を一体で整えるなど知財経営を担う人材育成と伴走支援体制の整備を進めるべきである。具体的には、①地域拠点への支援人材の配置、②教育カリキュラムへの導入、③実践型教育の拡充、④支援人材の育成と派遣等が挙げられる。
なお、我が国の商標制度では、農林水産物以外の地域ブランドについては、GIのように地理的名称と品質・評判・製法等との結び付きを公的に担保できる仕組みになっていない。地域ブランドの保護強化の観点から、GI、商標、伝統的工芸品認定制度等との関係整理を進め、伝統的なものから革新的なものまで地域発の価値ある商品・サービスを保護するための実効性ある制度設計の検討を進めるべき。
(4) ファッション、化粧品の海外展開
日本の素材は、その品質の高さ等から国際的にも高く評価、海外ブランドで採用され、吸引力があるにもかかわらず、点在するテキスタイル産業の体系的な発信ができておらず、一つの価値体系として世界的なブランディングができていない。テキスタイル産業は日本のファッションを支える基盤でありかつ文化的財産であることを国内外に戦略的に発信していくことが重要である。
このため、伝統素材と機能素材等の日本のテキスタイル産業全体を一体的に「価値体系」として束ね、最高峰の職人技やSDGsに資する環境配慮といった日本の強みに基づき、海外展開に向けた国際的なブランド力を構築していくべきである。
また、日本のハイブランドの育成・成長及び最終製品の国際競争力を高める観点から、国内外のファッション関係の職人・専門家とテキスタイルの一体的な発信など、効果的な取組について引き続き議論を継続すべきである。そのため、政府においては、全国各地の産地やファッション関係の職人等、業界団体等と連携・協力し、オールジャパンでの日本のテキスタイルの海外発信の取組を進めるための取組体制を構築し、日本各地で分散して開催されている日本の素材展や点在するファッション関係の職人・専門家のアトリエを結束させ、日本でテキスタイル国際見本市を開催することも念頭に具体的な検討を進めるべきである。
我が国の化粧品は、高品質や原料の自然素材などが世界的評価をされながら、国際競争力が伴っていない。化粧品の海外展開では、展開する国・地域の嗜好、規制への対応が必要不可欠である。このため、これまで個社ごとに取り組んでいた各国・地域の嗜好や規制情報等について業界共通的な情報基盤の構築・運用など、化粧品業界全体で国際競争力強化に取り組んでいくための体制整備・取組強化を進めていくべきである。
とくに、化粧品規制に係る諸外国との「イコールフッティング(同等な条件での競争)」では、国民の健康・安全重視を維持しつつ、我が国の化粧品産業がグローバル市場で優位性を確立し、持続的な成長を遂げるためには、関係省庁、JETRO、業界団体が密接に連携し、我が国に有利になるような化粧品の国際ルールの確立などに積極的に取り組んでいくことも重要である。とくにJETROにおいては、個社の相談対応・支援のみならず、化粧品業界との連携強化を図ることで業界全体の海外展開強化にむけてより積極的な役割を果たすことが期待される。
(5) チケット不正転売対策
「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(チケット不正転売禁止法)については、昨年の当調査会からの提言を受け、所管する文化庁において啓発が行われ、不正転売した者の刑事責任のみならず、購入した者が不正転売チケットで入場することの刑事責任その他の不利益についても、広報が行われた。また、興行主においても、非正規の転売サイト上の転売出品が違法なものであるとの趣旨で違反事例に対する訴訟提起を行い、判決の形で権利侵害が認められる等の実績があらわれている。ところが、依然として不正が疑われる事案があとをたたず、事業者側が困難を抱えている。その背景には、チケット転売サイトが自社の利益を優先し不正転売対策を怠っているといった事情がある。チケット不正転売は犯罪行為であり、チケット転売サイトの運営者が、当該サイトを介して行われたチケットの転売が不正転売であることを認識・認容していたとの事実が認定される場合には、共同正犯や幇助犯等の成立要件を満たし処罰対象になり得る。そのような悪質なチケット転売サイトについて被害者等による告訴・告発があった場合、捜査機関において早急に捜査を尽くし、検挙・処罰を行う必要がある。このことを踏まえ、当局による取締りの徹底や、関係省庁による周知・相談対応を通じ、実効性のある運用を行うとともに、チケット取引をめぐる適正かつ十分な利益が得られるビジネスモデルが確立するよう、必要に応じて関係省庁において必要な情報提供等の支援を行うべきである。また、こうした取組と連動して、正規チケットの流通促進に取り組むことも重要である。さらに、舞台等のライブエンターテイメント産業の海外展開との好循環を図りながら、コンテンツ産業の海外売上拡大のための連携等に取り組むべきである。
加えて、現行のチケット不正転売禁止法においては、チケット転売サイトに対しての特段の規定が存在しないが、チケット転売サイトによる不正転売対策が尽くされない場合には、非正規の特定興行入場券の売買へと殊更に誘導するサイトをチケット不正転売禁止法の取締対象とすることを検討すべきである。
以上
開催実績
(知的財産戦略調査会)
| 第1回 令和7年11月6日(木) |
村松 俊亮 経団連クリエイティブエコノミー委員長、日本レコード協会会長、株式会社ソニー・ミュージック・エンターテイメント代表取締役社長 舛本 和也一般社団法人日本動画協会人材育成委員長
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| 第2回 令和7年12月16日(火) |
知財事務局、文化庁、経済産業省、特許庁、観光庁、農林水産省、総務省
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| 第3回 令和8年2月26日(木) *デジタル社会推進本部AI・web3小委員会との合同開催 |
1.プリンシプル・コード(仮称)について 内閣府 2.Seedance2.0に係るTikTokからの状況報告について Tik Tok Japan |
| 第4回 令和8年3月13日(金) |
内閣府、金融庁、特許庁
知財・無形資産ガバナンス協会 |
| 第5回 令和8年3月31日(火) |
内閣府 中山 淳雄Re entertainment代表 2.新たなクールジャパン戦略の進捗状況(個別論点) (1)インバウンド誘致・ロケ誘致 内閣府、警察庁、経済産業省、観光庁 (2)食の海外展開 国税庁、農林水産省 (3)ファッション、化粧品の海外展開 経済産業省 |
| 第6回 令和8年4月2日(木) |
内閣府 デジタルアーカイブ学会 黒橋 禎夫 会長(国立情報学研究所所長/京都大学特定教授) 福井 健策 法制度部会長(骨董通り法律事務所) デジタルアーカイブ推進コンソーシアム(DAPCON) 事務局長 緒方 靖弘(寺田倉庫株式会社 執行役員)
文化庁 |
| 第7回 令和8年4月14日(火) *知的財産権創出・保護小委員会との合同開催 |
国内外における特許など産業財産権の活用 内閣府(知財、科技、経済安保)、公正取引委員会、文部科学省、農林水産省、経済産業省、中小企業庁、特許庁 菅 裕明 東京大学教授 玉井 克哉 東京大学教授 |
| 第8回 令和8年4月20日(月) *知的財産権創出・保護小委員会との合同開催 |
1.コーポレートガバナンスコードの改訂のアップデートと有価証券報告書の報告事項について 金融庁 三瓶 裕喜 アストナリング・アドバイザー合同会社 代表 2.産業界での知財・無形資産の投資・活用に向けて 水戸 信彰 住友化学株式会社代表取締役社長 社長執行役員 勝沼 潤 日本電気株式会社 チーフデザインオフィサー |
| 第9回 令和8年4月21日(火) |
1.農業知財の保護・活用等について 農林水産省 日本弁理士会 農林水産知財対応委員会 2.チケット不正転売対策について 文化庁、消費者庁、警察庁 株式会社STARTO ENTERTAINMENT、株式会社ヤング・コミュニケーション、中島博之弁護士 |
| 第10回 令和8年4月22日(水) *コンテンツ戦略小委員会との合同開催 |
1.映画業界の現状と展望について 植田 浩史 東宝株式会社執行役員 エンタテインメントユニット国際担当、TOHO Global株式会社 代表取締役社長 2.コンテンツ官民投資ロードマップ 内閣府 |
| 第11回 令和8年4月23日(木) *文部科学部会、文化立国調査会との合同会議 |
著作権法の一部を改正する法律案【法案審査】 文化庁 |
| 第12回 令和8年4月27日(月) |
1.ファッションの海外展開等について 田中 杏子 株式会社 扶桑社Numero TOKYO統括編集長 2. IPの海外展開等について 後藤 健郎 一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)代表理事 |
| 第13回 令和8年5月14日(木) |
1.金融機関の知財評価について 金融庁 日本弁理士会 みずほ銀行 (オブザーバー)一般社団法人全国地方銀行協会 2.コンテンツ・ファイナンスについて 三菱UFJ銀行 |
| 第14回 令和9年5月21日(木) |
知的財産戦略調査会 提言(案)について |
(知的財産権創出・保護小委員会)
| 第1回 令和8年4月1日(水) |
知的財産権の保護の在り方について(有識者ヒアリング) 菊地 修 知財・無形資産ガバナンス協会理事長 松岡 和NTTドコモビジネス株式会社 知的財産担当部長 |
| 第2回 令和8年4月14日(火) *知的財産戦略調査会親会との合同開催 |
内閣府(知財、科技、経済安保)、公正取引委員会、 文部科学省、農林水産省、経済産業省、中小企業庁、特許庁
菅 裕明 東京大学教授 玉井 克哉 東京大学名誉教授 |
| 第3回 令和8年4月20日(月) *知的財産戦略調査会親会との合同開催 |
金融庁 三瓶 裕喜 アストナリング・アドバイザー合同会社 代表
水戸 信彰 住友化学株式会社 代表取締役社長 勝沼 潤 日本電気株式会社 チーフデザインオフィサー |
| 第4回 令和8年4月21日(火) |
海賊版・模倣品対策と著作権等知的財産権の侵害への対応強化(法手続の円滑化、国際執行、訴訟サポート政策) 内閣府(知財)、文化庁、経済産業省、特許庁、総務省、 警察庁、法務省、外務省、財務省
日本放送協会 一般社団法人日本民間放送連盟 |
| 第5回 令和8年4月28日(火) |
2.知的財産権創出・保護小委員会 提言骨子(案)について |
| 第6回 令和8年5月12日(火) |
1.知財侵害訴訟の現状について 2.知的財産権創出・保護小委員会 提言(案)について |
(コンテンツ戦略小委員会)
| 第1回 令和7年12月11日(木) |
関係省庁及び有識者ヒアリング 伊東 敦 株式会社集英社 社長室顧問/一般社団法人 ABJ事務局長 兼 広報部会長 福井 健策 弁護士(骨董通り法律事務所) 平井 佑希 弁護士(桜坂法律事務所) |
| 第2回 令和7年12月12日(金) |
有識者ヒアリング 株式会社デジタルガレージ 一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム 株式会社MIXI (オブザーバー) 株式会社サイバーエージェント 株式会社メルカリ 2.スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律について関係省庁より報告 |
| 第3回 令和8年1月21日(水) |
生成AIの適切な利活用等に向けた知的財産の保護及び透明性に関するプリンシプル・コード(仮称)(案)について 内閣府 |
| 第4回 令和8年4月1日(水) |
音楽・エンターテインメント業界の現状と展望について 事業者ヒアリング 一般社団法人カルチャーアンドエンタテインメント産業振興会(CEIPA) 株式会社STARBASE |
| 第5回 令和8年4月8日(水) |
ゲーム業界の現状と展望について有識者ヒアリング 一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA) 八谷 和彦 東京藝術大学大学院教授(映像研究科ゲーム・ インタラクティブアート専攻) |
| 第6回 令和8年4月15日(水) |
映画業界の現状と展望について有識者ヒアリング 公益財団法人ユニジャパン 株式会社アニプレックス |
| 第7回 令和8年4月22日(水) *知的財産戦略調査会親会との合同開催 |
1.映画業界の現状と展望について 植田 浩史 東宝株式会社執行役員 エンタテインメントユニット国際担当、TOHO Global株式会社 代表取締役社長 2.コンテンツ官民投資ロードマップ 内閣府 |
| 第8回 令和8年4月24日(金) |
アニメ業界の現状と展望について有識者ヒアリング 株式会社アニプレックス |
| 第9回 令和8年5月14日(木) |
1.放送・配信コンテンツの海外展開について 総務省 TBS 2.コンテンツ戦略小委員会 提言(案)について |
(国際標準化小委員会)
| 第1回 令和7年12月9日(火) |
知的財産推進計画2025の進捗状況について (各省庁より報告) |
| 第2回 令和8年3月30日(月) |
政府における国際標準化の対応状況について (各省庁より、令和7年度の取組状況とその成果、省庁内の国際標準化に係る体制整備、戦略17分野における国際標準化の検討状況等を報告) |
| 第3回 令和8年4月16日(木) |
1.国内標準策定機関、国内認証機関、試験認証基盤の強化状況についてのヒアリング ①一般財団法人 日本規格協会(JSA) ②一般財団法人 日本品質保証機構(JQA) 2.国際標準化の検討状況についてのヒアリング ③一般社団法人 データ社会推進協議会 ④野村総合研究所 |
| 第4回 令和8年5月12日(火) |
1.国際標準化における経済界の取組についてヒアリング ①日本経済団体連合会 2.アカデミアにおける標準化活動の評価向上についてヒアリング ②田辺新一 早稲田大学理工学術院 教授 3.国際標準に係る官民ハイレベルフォーラム提言と官民投資ロードマップ素案における国際標準化の組み込み状況について (内閣府より報告) 4.国際標準化小委員会 提言(案)について |
[1]ここでいうアメリカ型とは、公的な事前規制よりも、市場競争を通じて形成されるルール(後述のデファクト標準を含む。)や訴訟等を通じた事後救済を中心とするガバナンス形態を指す。
[2]政府や国家間、標準化機関における合意を経て制定される、公的な性格を有するもの
[3]特定の技術や製品分野などに関係する企業・専門家群の合意で制定される、緩やかな共通ルールとしての性格を有するもの
[4]特定の製品・サービスが世界中に普及することで生まれる、事実上のスタンダード
[5]Standards Developing Organization(標準化機関の総称)