企業価値を伸ばし続けるガバナンス改革への提言

―経営力の向上、制度のイコールフッティング、法執行の強化―

令和8年7月29日
自由民主党 政務調査会
司法制度調査会
成長志向型コーポレートガバナンスPT

1.なぜ今、成長志向型ガバナンスか

本提言の目的は、日本企業が企業価値を伸ばし続けるための成長志向型のガバナンスを確立することにある。それはこの10年のコーポレートガバナンス改革をさらに推し進める営みであり、経営者保護のために改革を後退させるものでも、また、アクティビストを一律に規制するものでもない。建設的な株主提案を企業の成長に生かす一方、必要な開示を欠く実質的な協調行為や、制度趣旨を逸脱する濫用的な株主権行使が疑われる事案には、明確なルールと実効的な執行で対応する。そのため、企業の経営力向上、対等な市場環境の整備、法執行の強化の三つを一体として推進する。

(1)企業の中長期的な成長に向けた「コーポレートガバナンス」の重要性

日本経済が中長期的に持続可能な成長を実現するためには、その担い手である企業が、目先の業績や株価対応にとどまらず、将来にわたり中長期的な価値創出を見据えた投資、すなわち設備投資、人的資本や無形資産への投資、研究開発投資(以下「成長投資」)を、大胆かつ継続的に行っていくことが不可欠である。

しかし、この10年余り、企業業績は総じて改善し、株価も過去最高を更新する歴史的な水準まで上昇してきたにもかかわらず、将来の収益の原資となるべき成長投資は、これに見合う形で伸びていない。また、企業活動を支える従業員が受け取る賃金も、実質ベースでは横ばいで推移してきた。一方で、それらを大幅に上回る比率で、自己株式取得や配当が増加している。このように、日本企業が獲得した利益は、それを実現した従業員への投資、さらには中長期的な価値創出に向けた投資へ十分に振り向けられてきたとは言いがたい(以下の表参照)。

成長投資と株主還元の変化(2016年度=100)

成長投資と株主還元の変化(2016年度=100)

出典:Speeda、Bloomberg(対象は日本の上場企業のうち、データ取得が可能なもの)

こうした状況の下、政府は成長17分野を特定し、企業の予見可能性を確保し、また国がリスクをとってこれらの分野に投資をする意志を示すことで、民間企業からの成長投資を強く促そうとしている。金融庁・東京証券取引所は、2026年7月、「成長投資の促進」を旗印として改訂コーポレートガバナンス・コードを公表、経済産業省も同じく7月に「成長投資ガイダンス」を公表しており、上場企業は、その適切な実践が望まれる。

こうした政府の取組を踏まえながら、会社の中長期的な成長に向けた投資等を実現する責務は、第一義的には企業の経営陣・取締役会が負うべきである。そして、企業の経営者・取締役の行動は、企業に対して資本を提供し、経営者の選解任権等により経営を委託し、重要事項については決議する権限を持つ株主の意思に拠るところが大きい。したがって、経営者による果敢な成長投資、中長期的な成長を実現しようとするならば、株主・投資家から取締役会・経営者への規律が機能するコーポレートガバナンスについて改めて検討し、中長期的な成長投資、企業価値向上を促す「成長志向型のコーポレートガバナンス」の実現を目指す必要がある。

「株主による経営者への規律」に関して、近年、経営者や世間の関心を集めているのは、我が国では近時活発化している、いわゆる「アクティビスト」(物言う株主)の活動である[1]。ここで強調すべきは、アクティビストの活動には、経営者に対する規律を強化し、果敢な成長投資を促す積極的な側面があることである。例えば、創業家等が高い比率の株式を保有し強い影響力を持ついわゆるファミリー企業や、政策保有株の割合が多い企業などの中には、取締役に対する株主からの規律が相対的に働きにくく、企業の成長への意識付けも相対的に弱いと指摘されている事例も存在する。このような場合、アクティビストによる経営者への改善提案・エンゲージメントは、企業の業績改善につながることが期待され、実際にそうした例も多く見られる。

他方で、ごく一部の株主・アクティビストによって、会社全体の中長期的な成長や、中長期で株を保有し続けたい株主の利益まで害されかねないとの指摘もある。例えば、一定数の株式を取得した後、企業価値の向上に繋がらない提案を繰り返し、最終的に高値での売却機会を作り出し自ら売り抜ける等、企業の利益ではなく自己だけの短期的利益を図るアクティビスト活動が指摘されている。こうした行為により、会社の資金・時間等が費消され、最終的に会社が(アクティビストの持株を売却させるために)要求に屈することで、中長期的な成長に向けた投資の原資が奪われてしまう。

(2) 本PT提言の狙い

こうした問題意識を背景として、本プロジェクトチーム(以下、「本PT」)は、アクティビストを含めた株主から経営者への規律が、企業の中長期的な成長という本来の目的に沿って適切に発揮され、企業の成長が更なる資本市場からの資金調達にも結びつくよう、会社法をはじめとする資本市場に関する法制度のあり方について提言を行う。

本提言は、アクティビスト活動の全体を一律に「悪」と決めつけ規制するものでは決してなく、むしろ、アクティビストの活動が、日本企業の経営者への規律を強化し、その成長力を高め得ることを正面から認めるものである。

一方、法令違反や開示義務の潜脱、制度趣旨の逸脱が疑われる態様で自己の利益のみを図るような「濫用的アクティビズム」については、建設的なアクティビズムと区別し、諸外国の法制度とのイコールフッティング及び株式市場の公正性の観点から対応を検討する。このような方向性は、企業が、経営リソースを建設的なアクティビズムへの対応に集中させることを可能にする点で、企業の中長期的な成長にコミットするアクティビズムを促進することともなる。

そこで、本PTは、以下の3つの視点に基づき、現場の実態に関するヒアリングも踏まえたうえで、提言を行うこととする。

  • ①経営力の向上:根本的な対策として、会社の中長期的な成長を実現する責務を第一義的に負う経営陣・取締役会が、株主・投資家の視点を十分に踏まえながら、経営力を高めること。具体的には、企業の成長に資するアクティビストの提案は積極的に活用しつつ、一方で不合理な提案を毅然と拒絶しうる取締役会が実現されるべき。
  • ②対等な市場環境:アクティビストの活動がグローバルに広がるなかで、株主と経営者との関係に関する日本の法制度が、欧米諸国の法制度と比べてバランスを失する場合には、グローバルで競争している日本企業は、欧米諸国では起こりえない対応を迫られ、国際競争上不利に立たされ得る。したがって、日本の法制度について、欧米諸国とのイコールフッティングが確保されるべき。
  • ③法執行の強化:株式を巡る法制度の執行(エンフォースメント)が十分でない場合には、アクティビストの活動が違法に及ぶ場合でも抑止できず、一方で制度を遵守する投資家が不利益を被り、結果的に日本の株式市場の公正さへの信頼も失われかねない。したがって、執行力の強化が図られるべき。

このように、本提言は、経営力の向上を大前提に、国際水準の制度整備と厳正な執行を車の両輪として進めることで、日本企業の中長期的な成長を実現し、それが資本市場からの更なる資金調達に結びつく好循環を生み出すことを狙いとする。

2.近時のアクティビストを含めた株主、資本市場の動向

アクティビストは、投資先企業の規律付け・ガバナンス向上に重要な役割を果たし、企業価値向上に資する提案をする場合も多い。アクティビストの活動が経営改善等に繋がった例(ヒアリング等で確認された実例に基づく)としては、以下が挙げられる。

  • 規律あるガバナンスと積極的なリスクテイクを求める提案を行い、大規模な成長投資計画の策定・実行につながった事例
  • 不祥事などで業績が低迷し、経営改善が必要な局面において、事業ポートフォリオの見直しを提案した結果、非中核事業を売却し、収益性の高い事業への経営資源を集中させ、大幅な業績改善に繋がった事例
  • 経営改善に関する提案等を踏まえて、市場が伸び悩んでいた当時の主力事業から、収益性の高い事業へ軸足を移した事例

また、中長期的な企業価値向上が目指すべき資本市場の姿ではあるものの、短期目線での株主も資本市場に厚みを与えており完全に否定されるべきではない点に留意が必要である。

その一方で、濫用的なアクティビズムが疑われる手法例として、企業価値の向上の観点や法的な公正性の観点から懸念ある事例も指摘されている。例えば、

  • アクティビストが、明らかに中長期的な観点からは企業価値向上につながらない提案(短期的な目線での過度な株主還元や、中長期の展望がない株式非公開化)を行い、一方で会社との対話には応じず、場合によっては株主提案や臨時株主総会招集までエスカレーションし、その対応のために経営者のリソースを奪われてしまう事例
  • 客観的根拠の希薄な情報に基づき、会社及び経営陣を批判するキャンペーンがマスコミ等を通じて行われる一方、会社側が対話や訂正を要請しても、これに応じないなど、建設的なエンゲージメントが実現しなかった事例
  • 一部のアクティビストが上場会社の非公開化やMBOを提案し、PEファンド主導でそれが実現した場合において、アクティビストとPEファンドが水面下で連携していると疑われ、公正性・透明性に疑義がある事例
  • 一部のアクティビストが、その保有する株式をPEファンド等が主導するTOBに応募しつつ、当該PEファンドの買収SPC等に再出資することにより、不当に有利な利益を得ていることが疑われる事例などが指摘されている。

加えて、一部の上場企業では、複数の投資家が実質的に連携しながら株式を取得し、株主提案や取締役選任を通じて短期間で経営権に大きな影響力を及ぼす「ウルフパック」戦術を用いた事例もみられる。これらの主体は、一般的なアクティビストとは区別して論じられるべきではあるが、秘密裏に結託し、法令違反が疑われる態様で、特定の会社の経営権の取得や不公正ファイナンスによる企業価値の毀損を図っているとの指摘があり、他の株主や資本市場参加者にとっての公正性・透明性の観点からも大きな問題を抱える。また、海外の法人・個人の関与が指摘される事案も存在し、経済安全保障の観点からも問題となる可能性がある。

3.企業の経営力向上

アクティビストによる株主提案の内容は、従来の株主還元要求から、取締役の選解任、事業ポートフォリオの見直し、非公開化、オペレーションなど、経営の根幹に関わる提案へと広がっている。これは、アクティビストが、現行の経営陣による経営には改善の余地があり、より株価を高める方策が存在すると判断しているからこそ、株式を保有し、株主提案を行っているものと考えられる。

そのため、企業は、アクティビストからの提案を受けた際に、その場しのぎの短期的な対応策を検討するのではなく、改訂された「コーポレートガバナンス・コード」や「成長投資ガイダンス」の内容などを十分踏まえた上で、平時から企業価値の向上に取り組み、それを株価に反映させていくことが重要である。具体的には、各社が取締役会等において、中長期的な企業価値向上に向けた戦略の策定、戦略に基づく取組の実施、取組の検証(レビュー)、検証に基づく戦略・取組の修正、というサイクルを回し、そしてその内容を機関投資家・一般株主に説明し、適切な株価形成を行うことが望ましい。かつては、株主総会をあえて集中日に設定するなどして、株主の建設的な提案に真摯に向き合うことを避けようとするような慣行の存在が問題視された。こうした風潮はだいぶ薄らいだとはいえ、持続的な企業価値の成長を志す観点から、改めて取締役による経営者への規律が重要となる。

この点、株主からの信認を得て経営を監督する取締役、特に会社の利害関係から独立して選任された社外取締役が、経営陣の意向におもねることなく、中長期的な企業価値向上に資する経営となっているかをフェアに判断できることが重要である。そのためには、社外取締役が取締役会の議長を務めることや、社外を含めた取締役に十分な情報が提供されるように取締役の支援体制を構築することなど、各企業のガバナンスの実態に合った形で、取締役の本来の機能が発揮されるよう取り組むことが重要である。

株主・取締役・経営陣の適切な緊張関係こそが効果的なガバナンスの鍵であり、監督・経営の実績に応じて、取締役・経営陣を交代することはタブーとすべきではない。

さらに、これまで、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コード[2]に加え、伊藤レポート[3]、成長投資ガイダンス、東証要請[4]など、様々な指針等が公表されてきているが、その内容について、本来の趣旨と異なる理解が投資家・企業の双方に広がり、その結果として、企業価値の向上の観点から懸念のある事案が生じているとの指摘がある。したがって、政府及び関係機関は、これらの指針等の趣旨が正確に伝わるよう、投資家から経営戦略等に関する提案があった場合を含めた企業と投資家の対話における、望ましい事例・望ましくない事例を収集・公表し、企業・投資家双方にとって参考となるようなものとすることを含め、取り組むべきである。また、企業が、平時から企業価値向上のためのレビューを定期的に行うなど、こうした指針等に基づいて経営力向上に取り組めるようガイドを行うとともに、そうした取組を企業内で遂行できる必要な人材面の支援を行うべきである。

4.諸外国と対等な市場環境の整備

諸外国とのイコールフッティングが確保されていないと日本企業の国際競争力が損なわれるため、この観点から以下提言する。

(1)会社法制の見直しに関する論点

本PTでは、会社法制の見直しとして、以下を提言する(なお、以下の①ないし⑤については、直近での法改正を睨んでの提言となる。)。

  • ①株主提案権の行使要件の引上げ

    株主提案権の行使要件及び提案範囲の適正化を検討するべきである。現行会社法では、総議決権の「1%以上」又は「300個以上」の議決権を有することが株主提案権を行使する要件となっているが、投資単位の引下げが進んだ結果、300個という個数要件は低いハードルとなり、一部の株主による濫用的な提案を招く一因となっている。一方で、欧米の主要国において、このような個数要件を設けている国は不見当である[5]。したがって、このような個数要件は廃止し、1%の割合要件へ一本化することや、代替要件を設定することを含めて検討するべきである。

  • ②株主提案権の範囲の限定

    一部の株主が、定款変更の株主提案権をいわば濫用して、取締役会の権限に属する業務執行事項についてまで、定款に記載するよう株主提案を行うことにより、経営の機動性を阻害する事例がある。欧米の主要国の制度も参考にしつつ[6]、所有と経営の分離という株式会社の基本的な構造に立ち返り、定款変更の形式を濫用するような業務執行事項に関する株主提案の制限について検討するべきである。もちろん、一方で株主による経営者への規律、成長投資にも繋がりうる正当な提案は、決して阻害されてはならない。そこで株主提案を制限する業務執行事項を限定することなどにより、バランスを確保すべきである。

  • ③臨時株主総会招集請求権の行使要件の引上げ

    株主による臨時株主総会招集請求権の要件の厳格化を検討するべきである。現行会社法では、総議決権の「3%以上」を有する株主に臨時株主総会の招集請求権が認められているが、この低いハードルが、一部の株主による突発的な招集請求を容易にしている。臨時株主総会の頻発は、企業に多大なコストと労力を強いるだけでなく、中長期的な戦略の遂行を妨げる要因にもなる。欧米の主要国の水準に合わせ[7]、この割合を現在の「3%以上」から「5%以上」程度に引き上げることで、真に緊急性・必要性の高い局面に限定される規律へと見直すことを検討するべきである。また、臨時株主総会の招集請求を口実に、真の目的は調査者制度を活用しての「業務・財産の状況の調査」であることも考えられ、以下の調査者制度の見直しとセットでの改正が重要となる。

  • ④実質株主の確認制度

    企業が株主名簿上の名義株主の背後にいる「実質株主」を正確に特定できる制度の創設を検討するべきである。近年、多くの機関投資家は信託銀行等の仲介機関の名義で株式を保有しているため、企業が「真の対話相手」を把握できないという構造的な課題が生じている。この課題に対応するために欧米の主要国では実質株主を確認する制度が導入されている。そこで、日本においても、会社が実質株主を確認する制度を創設し、その実効性を確保するために違反者への議決権停止を含めた規律を設けることで、実効性のある対話基盤を確立することを検討するべきである。実質株主の持株数だけでなく国籍も把握し得る制度の存在は、外国投資家による適切な外為法の遵守にも資するもので、ひいては経済安全保障の確保にも繋がるものである。

  • ⑤調査者制度の見直し

    株主が招集を請求した臨時株主総会において選任される「業務及び財産の状況を調査する者」の見直しを検討するべきである[8]。この調査者制度は、不正の疑いがある企業が第三者委員会等を用いて恣意的な調査を行うおそれに対する株主側の対抗手段として機能し得るとの指摘がある一方で、裁判所が選任するものではないため、一部の株主に情報収集手段として用いられるなど、濫用のおそれがあることや、会社の機密情報にアクセス可能なため、技術情報が海外に流出するなど、経済安全保障上のリスクもある。同様の制度を設けている欧米の主要国は限られることも踏まえ、調査者の中立性・公平性を担保し、濫用を防止する合理的な見直しを行うことを検討するべきである。

更に、より大きな変革をもたらす可能性があり、中長期的な議論を要する論点として、PTの議論では、投機的又は濫用的な裁定取引を防止するために、米国(デラウェア州等)の制度を参考に、①M&A取引公表後に株式を取得した者による株式買取請求権の行使を制限することや、②株式買取請求の価格決定申立における「公正な価格」を「ナカリセバ価格」に制限することを検討するべきとの指摘があった。他方で、我が国の株式買取請求権は公正な条件を担保して少数株主を保護する機能を有するところ、米国では、取締役及び支配株主が少数株主に対して負う信認義務が厳格に考えられており、また、M&A取引公表後にそのような信認義務違反訴訟が提起される例も多く、その訴訟において広範な情報開示手続が用意されているなど、少数株主を保護する機能を担う他の規律が存在するとの指摘もある。中長期的にも、会社法制のあり方を含め制度全体を俯瞰して国際的なイコールフッティングを目指す議論が期待される。

(2)資本市場に関する諸制度に係る論点

ウルフパック事案に対応するために、大量保有報告制度の開示対象となる共同保有者の認定に係る立証の困難性を解決すべく、本年5月1日に施行された金融商品取引法等改正において、共同保有者とみなされる一定の外形的事実の類型として、役員兼任関係等が追加された。また、今国会で成立した金融商品取引法等改正において、大量保有報告制度違反の課徴金の水準が現行の70倍に引上げられることとなる。

これらの改正を受け、まずはこの改正法の下で、ウルフパック事案に対するエンフォースメントを強化すべきであるとの指摘があった。重要な法改正であり、巧妙化するウルフパック事案へ適切に対応できるよう、改正法の厳正な執行が重要である。

加えて、国際的な制度比較も踏まえ、以下の点について指摘があった。関係省庁におかれてはこのような制度のあり方について、国際的な動向も踏まえながら、不断に検討されたい。

  • ž資本市場の透明性・公正性の向上に資する大量保有報告制度について、閾値、記載事項、共同保有者概念に関して、我が国の制度は米英仏独と比較しても同等又はより透明性の高い制度となっているものの、報告書の記載事項が相対的に詳細である点も踏まえ、変更報告書の提出期限について報告義務発生日から5営業日と他国と比べやや緩やかな内容となっている。
  • žTOBの予告公表に関し、我が国では米英と比較して、買付け実施の合理的根拠、買付け実施予定時期、買付資金に係る規律がある点では共通しているものの、一定の場合には買付け実施予定の有無を開示させ、買付けを実施しない旨を公表した場合は一定期間買付けが禁止される英国のPut Up or Shut Up Ruleのような規制は存在しない。
  • ž金融商品取引法上の売買報告書制度・短期売買利益返還制度はあくまでインサイダー取引の未然防止のための制度であるが、米国の規制は、報告書のインターネット開示に加え、共同保有分・信託型ファンドも対象になっている。
  • ž複数議決権の発行については、発行の必要性やスキームの相当性等の要件を満たせば、東証市場への発行体の上場は可能であるが、米国の証券取引所と比較して要件が厳しく、その発行実績は1社に限られている。
  • ž信用取引は、投資家が議決権を取得することよりも、差金決済によってキャピタルゲインを得ることを主たる目的とする取引である。しかし、そのような制度の想定を越えて、一部の投資家の証券会社に対する議決権行使指図や企業の経営支配権へ影響力行使が行われている事例、証券会社等による議決権行使方針が不透明な事例も指摘されている[9]。
  • ž一定規模以上の資産運用を行う機関投資家の株式の保有状況を当局・市場が定期的に把握する観点から、米国のForm 13Fのように、米国証券取引所に上場されている株式に係る一任運用資産が1億ドル以上の機関投資家に対し、四半期ごとに、各期末から45日以内に、株式の保有状況の開示を求める仕組みを設けている例もある。

更に、より中長期的な議論を要する論点として参考にすべきものとして、議決権行使助言会社の利益相反を始めとした諸課題に対応すべきとの指摘もあった。

5.公正な資本市場に向けた法執行の強化

資本市場で生じた問題事例の中には、現行の法制度で対応し得るものもある。もっとも、いかなる法改正も、厳正に執行されなければ、ルールを守る投資家だけが負担し、「正直者が馬鹿を見る」状況に陥りかねない。

開示規制違反に係る課徴金勧告の事例は令和元年度以降57件(令和8年5月末現在)あるが、そのうち大量保有報告制度違反に対するものは2事例(5件)にとどまっている。この状況が執行力の不足を端的に示しており、諸外国の当局と比して、人員体制や専門性の面での脆弱さは否めない。

貯蓄から投資への動きの中で投資者の裾野の広がりも見られ、的確・適切な市場監視の重要性は高まっている。そこで、これまでの金融商品取引法の改正も踏まえ、関係当局において以下の施策を通じた執行体制の強化を提言する。

  • ž証券取引等監視委員会において、投資家側の規制・取引実務に知見を有する人員も含め、必要な人員を確保すること。また、大量保有報告事案に関する専門チームを構築すること。
  • ž証券取引等監視委員会において、市場環境の変化等も踏まえ、専門的知見がある者を幹部職員に登用すること。
  • ž証券取引等監視委員会は、証券会社等や不公正取引の調査・検査を担当する他部署との連携を強化すること。また、金融庁内の関係部署や関係省庁との連携を推進すること。
  • ž証券取引等監視委員会は、デジタルフォレンジック等のデジタル技術を積極的に活用すること。
  • ž証券取引等監視委員会は、潜脱的な大量保有報告事案等、非定型・新類型の事案等に積極的に対応すること。また、このような事案に失敗を恐れずに対応する組織風土を醸成すること。

6.三位一体の推進と不断の見直し

本PTの目的である、「成長志向型コーポレートガバナンス」を実現するためには、①企業の経営力向上、②対等な市場環境の整備、③法制度の執行力の強化が重要である。これらは相互に密接に関連する課題であることから、一体的かつ同時に進めていくことがカギとなる。「鶏が先か、卵が先か」を議論し、「1つが実現するまで、残りの対策には着手しない」ようでは永久に進まない。

上記3つの取組は、法務省、金融庁、経済産業省が担当すべき問題ではあるが、これらを一体的に進めるためには、各省庁が平素より政策面の対話を欠かさずに、密に連携することが極めて重要となる。更に、金融商品取引法の厳正な執行においては、金融庁の内部部局と、証券取引等監視委員会との一層の連携も重要となる。

また、濫用的アクティビズムやウルフパック等の手法は、今後も高度化・複雑化し、法制度の隙間を突く新たな動きが生じることも想定される。このため、市場の実態や諸外国の制度・運用動向を継続的に注視し、それらに遅れることのないよう、関連分野の専門家の意見も聞きながら、不断に法制度の見直しや整備を進めていくべきである。

本PTの提言を機に、法務省、金融庁(証券取引等監視委員会を含む。)、経済産業省をはじめとする関係省庁が、会社法、金融商品取引法、企業経営強化に向けたソフトロー等を担当する立場から適切に実態を把握し、情報共有や執行面での協力も含めて、より一層、緊密に連携して取り組むことを求める。

本PTとしても、提言を踏まえた政府の取組みの進捗状況を、継続的に確認していく。

以上

司法制度調査会 成長志向型コーポレートガバナンスPT 会議の開催実績

令和8年6月18日(木) 議事
・ウルフパック事案等の実例に関してヒアリング
(細谷 佳津年 地域新聞社 代表取締役社長、
玉井 裕子 長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
令和8年6月23日(火) 議事
・株主提案権等の行使の実例に関してヒアリング
令和8年7月2日(木) 議事
・エンゲージメントファンドの活動及び上場制度に関してヒアリング
(槙野 尚 Kaname Capital Partner/Head of Research、
東京証券取引所)
令和8年7月9日(木) 議事
・企業の経営力向上と執行力強化の観点からヒアリング
(土屋 大輔 KPMG/あずさ監査法人 CFOアドバイザリー
有限責任あずさ監査法人 アドバイザリー統轄事業部 パートナー、
谷口 達哉 TMI総合法律事務所 弁護士)
・提言取りまとめに向けた論点整理
令和8年7月17日(金)
※司法制度調査会、成長志向型コーポレートガバナンスPT合同会議
議事
・これまでのPTでの指摘事項等について
・提言案について

[1]2025年のアクティビストの投資件数は174件と過去最高、米国に次いで世界2位となっている。

[2]「責任ある機関投資家」の諸原則(2014年2月策定、2025年6月最終改訂):機関投資家に対して、エンゲージメントや議決権行使等に関する諸原則を示す。機関投資家が、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく「建設的な対話」を通じて、企業の持続的成長と顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大という責任(スチュワードシップ責任)を果たすための行動原則。

[3]「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト最終報告書(2014年8月公表):日本企業に対して、資本コストを上回るROE(最低限8%)を達成することにコミットするべきと提言。

[4]「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」(東京証券取引所2023年3月公表):上場会社に対して、継続して資本コストを上回る資本収益性を達成し、持続的な成長を果たすための抜本的な取組を要請。プライム・スタンダード市場上場企業に対して、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて、現状分析、計画策定・開示・取組の実行を求めるもの。

[5]株主提案権は、①米国では、一定金額以上の株式を一定期間以上(例えば、市場価格2000ドル以上を3年以上)保有する株主に、②イギリスでは、議決権総数の5%以上の株式を保有している株主又は1人当たりの平均払込済金額が100ポンド以上の議決権付株式を有する100名以上の株主に、③ドイツでは、持分が合わせて基本資本の5%に達する株主又は持分価額が50万ユーロに達する株主に、④フランスでは、資本の5%以上の株式を保有している株主(ただし、会社資本が75万ユーロを超える場合には、金額が増加するにつれて必要な持分比率が低下する。)に認められている。

[6]①米国では、「会社の通常の事業運営」に関する株主提案は会社が拒絶することができる一方で、②イギリスでは、業務執行事項に関する株主提案は制限されていない。③ドイツ及びフランスでは、株主総会では原則として業務執行に関する事項を決議することができないとされており、株主総会で適法に決議することができない事項は株主提案の対象にならないとされていることから、業務執行に関する事項についての株主提案をすることができない。

[7]①米国(デラウェア州)では、定款で定められた者にのみ認められており、②イギリスでは、5%以上の議決権を有する株主に、③ドイツ及び④フランスでは、資本の5%以上を有する株主に認められている。

[8]なお、会社法上、「業務の執行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるとき」に会社の業務及び財産の状況を調査させるために、総議決権又は発行済株式の3%以上を有する株主が申し立てて裁判所が選任する業務検査役制度が存在するが、調査者は、上記の事由がなくとも臨時株主総会において決議されれば裁判所の関与なく選任される者であり、両者は異なる制度である。

[9]一方で、円滑・公正な価格形成に資する通常の信用取引が否定されるべきではない点に留意が必要である。