ITS推進・道路調査会自動運転小委員会
自動運転の実現に向けた提言
令和8年6月4日
自由民主党 政務調査会
ITS推進・道路調査会 自動運転小委員会
(自動運転の意義)
自動運転は、遠い将来の話ではなく、現実の社会で導入が進んでいる技術である。また、自動運転の実現や普及は、道路交通や求められる道路インフラに変化を生じさせる可能性があり、安全性・円滑性の向上に資するITSを含め道路政策を考えるうえでも重要なテーマである。
地方を支える重要インフラである公共交通が深刻な担い手不足を背景にして減便や路線廃止が相次ぎ、“地域の生活の足”のみならず観光客の足の確保が深刻な課題となっている。また、物流においても、昨今の労働時間の厳格化や厳しい労働環境等により、物流の停滞やその担い手の不足が懸念される事態に直面している。さらに、交通事故死傷者数が年間2,500人以上、渋滞損失時間が年間61億人時間あるなど、渋滞の緩和や交通事故の削減も解決すべき喫緊の課題である。経済が活性化し、移動のニーズは益々高まっている中、こうした社会課題を解決するために、自動運転は、非常に大きな可能性を秘めており、我が国が世界に誇る自動車産業の将来を左右するだけでなく、快適で安心安全な自動運転を社会実装することが求められている。自動運転の実現は、高齢者等の移動制約者のモビリティ確保、物流分野における人手不足などの課題解決の他、交通事故の低減や交通渋滞の緩和、更には、新たなサービスやビジネスの創出にもつながるものと期待されている。
(技術開発の現状)
我が国では、社会実装に向けた取組が全国各地で行われ、現状では限定的な空間や環境ではあるもののレベル4での社会実装も進んでいる。
一方、世界に目を向けると、米国や中国では、複数の都市において自動運転タクシーの商用サービスが開始されている。我が国の自動運転に関する取組は、特に事業化という面から、世界に後れを取っており、危機感を抱かざるを得ない状況である。
このような中、自動運転に係るAI技術は急速に進展しており、エンジニア(人)がプログラムを作成する『ルールベース』から、運転を自己学習させる『AIベース』による開発への転換が進み、ルールベースでは対応できなかった自動運転(未知の状況への対応、隘路におけるすれ違い等)が、より安価かつ短期間で実現できる可能性もある。特に、認知から経路判断までを全て単一のAIで処理するEnd to End(E2E)型AI技術は急速に進展しており、L2++車への搭載を通じたデータ蓄積と性能向上の取組は、将来の自動運転技術の重要な基盤となるものと期待される。
他方、AIベース、特にE2E型AIは判断根拠の事後検証が難しいとの課題を抱えている。無人運行を前提とするレベル4自動運転では、L2++とは異なり、走行性能に加えて事故時における判断過程の説明責任の明確化などが不可欠である中、認知から経路判断までの各段階を分離したモジュール型AIが、現時点のレベル4自動運転の社会実装に有効との指摘もされている。特に、定路線のバスやトラックでは、まずはモジュール型AIによる社会実装を進めつつ、並行してE2E型AI技術の高度化を図ることが重要である。
(我が国の取り組み)
我が国では、制度に関しては、道路運送車両法や道路交通法の改正により一定条件下で運転を完全に自動化するレベル4の公道走行が可能となり、道路法改正により自動運行補助施設の整備により自動走行の支援が可能となっている。また、我が国では、高速道路における自動運転トラック、一般道における都市部でのロボタクシー、地方部でのコミュニティバス等公共交通など、道路種別や地域によって自動運転車両に期待される役割が異なる。安全への高い関心や積雪路面、狭小な道路など、日本特有とも言える課題への対応に必要となる技術等は“日本の強み”となりうる。
(社会実装に向けて)
自動運転の社会実装は目前にある。国内において、自家用車については、2027年度にも『AIベース』の自動運転車が販売予定であり、商用車についても、同時期に、運転者を要しない自動運転車の事業化に向けた開発が進められている。政府においても、例えば国土交通省が国土交通大臣をトップとする自動運転社会実現本部を設置するなど、関係省庁において実現に向けた取組みが進められているところであるが、産業育成から地域課題解決まで、幅広い政策課題に対して、様々な自動運転活用アプローチを意識し、官民が連携し、関係省庁が一丸となって自動運転走行の実現に向けた取組を強力に進めていく必要がある。
このような問題意識の中で、ITS推進・道路調査会自動運転小委員会は、国、関係団体や民間企業等からのヒアリング及び意見交換、さらにはL2++車両の試乗など、精力的に取り組みを進めてきたところであり、それらを踏まえ、今後、進めるべき取組として、以下について提言する。
(1)官民連携・ロードマップの推進
- 我が国の自動運転サービスの普及・拡大を加速するため、2030年度に自動運転サービス車両を1万台実現する目標をはじめ、自動運転サービスの事業化が可能となる規模等も意識して、自動運転の車両開発や導入支援、社会受容性の向上、道路インフラによる支援などに国土交通省をはじめとする関係省庁が一丸となって取り組むこと。
- 自動運転の実現にあたって協調して取り組むべき分野を明確化し、産官学連携による研究・技術開発を推進し、国内産業育成に努めること。
- 自動運転の開発促進のため、AIベース、特にE2E型AIの安全性評価手法を確立すること。
- 自動運転車のサイバーセキュリティ確保に向けた取組を進めること。
- 我が国の技術開発や制度が世界に貢献できるよう、関係省庁や官民が連携し、我が国が主導して自動運転の国際基準・標準策定等に取り組むこと。
- バス、タクシー、トラックなど対象とする車両ごとに、より精緻な開発・社会実装の時期や具体的な道筋を記載した自動運転の政府ロードマップを作成したうえで、明確なKPIとともに、PDCAサイクルを回し、評価、更新できるような環境を構築すること。
(2)財政面・制度面からの支援
- 課題に直面する地方や事業者に寄り添い、新たな技術への挑戦を支援するべく、自動運転の社会実装に必要な車両開発・導入や道路インフラ整備について十分な予算を確保するとともに、補助金や交付金による自治体や事業者への支援を行うこと。
- 支援にあたっては、高度な自動運転技術を使ったL4・L2++のサービスカー導入を進めるため、横展開可能な優良事業を重点的に支援するほか、新たな実証や取組みを積極的に実施できるよう道路インフラ側も配慮するとともに、将来の自動運転車を活用した道路管理に向けた取組みなど、需要側の取組も一層加速すること。
- 制度面からは、特に、将来のL4車に繋がるL2++について、メーカーにおける開発・普及の促進や社会的認知・受容性の向上を図るため、優良車認定制度の創設に向けて取り組むとともに、こうした認定車両について、高齢運転者が購入しやすく、また、公共交通機関の運転手不足対策の一環として交通事業者が車両導入しやすい環境を整備するなど、普及促進策を講じること。
- 万が一の事故時に再発防止に向けた原因究明を行い、社会全体の安心・安全を確保すべく、運輸安全委員会における事故原因究明体制の構築に向けて検討を進めること。その際、事故等の発生時に国がメーカー等から必要な情報を得ることができるよう検討すること。
- 自動運転社会の実現を後押し、より安全・円滑な社会とするため、インフラ支援に係る技術基準類の策定などの実施環境の整備を進めること。
- 自動運転サービスが適切に運行管理され、運行主体により責任を持って運送が果たされる制度を構築すること。
- 自動運転車の供給側における責任分担への不安を解消するため、責任の所在や体制について改めて点検・整理すること。
(3)地域公共交通等の維持・確保
- 地方部は運転手不足等の課題が深刻である一方、都市部に比べて障害が少なく、路線バス等では走行する経路も決まっており、レベル4走行が最も早く実現する条件がそろっていることから、これまでの取組みで得られた知見も踏まえ、自動運転のいち早い社会実装に取り組むこと。
- 観光地においても、人手不足解消や観光体験の質の向上に資する自動運転の導入に取り組むこと。
- AIや車載センサ等の車両開発への支援に加え、交差点センサ、迅速な地図の更新、自動運転向けの道路交通情報の提供、自動運転車両の走行環境整備などのインフラとの連携により、多様な交通環境でのレベル4自動運転サービスを導入する地域を増やし、超高齢社会においても地域の足や観光の足が確保された社会構造を構築すること。
- 自動運転と有人運転が混在することから、安全運転等に資する、有人ドライバー向けの運転支援機能についても、道路インフラとの連携も含めて取り組みを強化すること。
- 路線バス等の特定経路のみならず、デマンドバスやタクシー等の面的な自動運転の実現に際し、活用が期待されるE2E型AIの自動運転システムを支援するための取組みを推進すること。
- 自動運転が事業として成立するよう、一人の監視者が複数台の車両を監視するいわゆる1:Nの遠隔監視モデルといったサービスモデルの実現に向けて取り組むこと。
- 自動運転車両のみならず有人ドライバーも走行しやすい環境として、標識や区画線の視認性確保に向けた取組みなどを進めるとともに、歩行者や自転車等の交通弱者の安全確保を図る観点からも、自転車通行空間の確保や歩道整備などの道路整備を着実に推進するほか、自動運転に合わせた生活道路の速度抑制などに資する取組を推進すること。
(4)物流機能の確保・向上
- 物流の大動脈である新東名高速道路における駿河湾沼津SA-浜松SA間の約100km区間で、交通量の少ない深夜帯に自動運転車優先レーンを設定した自動運転トラックの実証実験を踏まえ、東北自動車道等に取り組みを拡大すること。また、自動物流道路については、技術的な検証、制度の整備を行い、東京‐大阪間での早期の実装に向けた取組を進めること。
- 運転手の確保が困難な状況等を鑑み、トレーラータイプの活用も含めた自動運転トラックの実現に向けて、車両開発の道筋の明確化、インフラの支援のあり方、事業モデルを確立し、物流課題の解決に貢献できる社会実装を図ること。
- 新東名のみならず、全国の高速道路で自動運転トラックの走行がしやすい環境を構築するため、ミッシングリンクの早期解消、高速道路の4車線化・6車線化を推進すること。
(5)データ活用環境の構築
- 世界に伍するプラットフォーマーの育成も視野に、プローブデータ等官民が有するデータを自動運転に効率的に活用できるよう、標準化、規格化などの環境整備を進めること。
- 自動運転用AIモデルの開発を支援するため、学習に必要となるデータセットや計算資源調達を支援するとともに、AIの学習を効率化するためのデータエコシステムの構築に取り組むこと。
- 自動運転を支える車両内外の官民のデータをセキュアに連携させる基盤となる次世代ITSについて、具体化を図ること。