日本Well-being計画推進特命委員会

第九次提言

令和8年5月21日

Ⅰ はじめに

我が国におけるWell-beingへの認知度と関心は上昇している。「第3回日経統合ウェルビーイング調査」によれば、2025年のウェルビーイングという言葉の認知度は69.7%と前年より8.4%ポイント上昇した[1]。そのうち、「聞いたことがあり、意味も知っている」とした回答者は36.4%に及び(前年から6.9%ポイント上昇)、ただ言葉が知られつつあるのみならず、意味の理解が国民一人一人の間に広がってきている。

我が国は健康長寿社会を迎え、経済的な「豊かさ」に加えて、人々の心の持ちようや生き方自体に幸福を見出すWell-beingとしての「豊かさ」が、今、まさに重要になっている。国民一人一人が、自分の特性や関心を活かして前向きに挑戦することで、世界に誇る新しい価値を生み出す、こうしたことが、国の発展や豊かさにもつながっていく。第一次提言以来、Well-being向上に向けた官民の取組が進んできたが、国民の関心も高まっている好機を捉え、取組を更に広げ、全ての世代の人々が活き活きと活躍できる社会を構築すべきである。

本委員会は、こうした問題意識を持ちつつ、第九次提言とりまとめに向けて9回開催し、精力的な議論を重ねてきた(参考資料)。これらの結果を踏まえ、以下の提言を取りまとめる。

Ⅱ Well-beingに関する各種取組

(1)Well-beingに関する最近の取組

各府省庁でのWell-being関連施策は、これまで着実に増加してきた。内閣府が毎年とりまとめている「Well-being関連の取組・予算」によると、Well-being関連のKPIの達成のための関係省庁における主な施策・事業として、例えば、文部科学省では子どものWell-being向上の観点も踏まえたキャリア教育の推進、教育関係者含め地域の関係者等の連携推進などの取組を行っているほか、国土交通省では二地域居住の促進に向けた支援などが実施されている。

(基本計画などでのWell-beingの視点の取り込み)

これまで政府が策定してきた基本計画をみると、「教育振興基本計画」、「こども大綱」、「環境基本計画」、「消費者基本計画」等のように、Well-beingの考えが計画内に明確に位置付けられたものが増えている。

令和6年度食育白書でも、ウェルビーイング向上の観点で食育が重要であることが指摘されている。また、グリーンインフラ推進戦略2030(2026年1月策定)では、グリーンインフラを「自然の多様な機能を活用した社会資本であり、将来にわたり持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくり及びウェルビーイング向上に貢献するもの」と定義し、社会課題解決に向けたグリーンインフラの実装を進めるとともに、GREEN×EXPO 2027等を通じた情報発信にも力を入れて取り組むこととしている。

(「満足度・生活の質に関する調査」の実施)

本委員会の提言を受けて内閣府により実施されている「満足度・生活の質に関する調査」は、2025年に7回目の調査が行われた。最新の報告書においては、社会とのつながりと満足度の関係について、重点的に分析されている。

社会とのつながりの満足度に大きく影響する要素として、「困った時に頼りになる知人・友人の有無」や「一緒に楽しめる仲間の有無」を挙げる回答者が多かった。SNS上でのつながりを重視する人は、若年層であってもそれほど多くなかった。また、サードプレイス[2]を持っている人は、総じて生活満足度が高いことなど、人とのつながりや、つながりを深める場所を持っていることはWell-beingには重要と考えられる。

(2)食・農・自然をつなぐ

昨年の第八次提言においては、「食」を重要な要素として組み込んだが、今年はそこから一歩先に進み、食べるために必要である農業、そして、農業を支える基盤としての自然を、一体的に繋がるものとして、ヒアリングを行った。

(関係省庁による取組)

農林水産省は、大阪・関西万博において、「食と暮らしの未来ウィーク」の期間中に、日本の食と農林水産業の魅力を発信するための出展を行った。展示では、何世代も受け継がれてきた食文化や、日本の伝統的な農林水産業により形成された風景や地域の営みなどを紹介するとともに、日本に根差した多様性のある産物を見つめ直し、日本の食と暮らしを支える農林水産業を未来につなげていくための取組を紹介した。

消費者庁は、「エシカル消費[3]」の普及啓発及び食品ロス削減のため、特設サイトや消費者庁公式Instagramでの情報発信に加えて、小・中学校での出前講座やイベントでのワークショップを実施してきた。食品ロス削減については、2000年比で2030年度までに事業系食品ロスを60%減、家庭系食品ロスを50%減[4]という目標を設定し、関係省庁と連携して取り組みを進めている。

環境省は、第六次環境基本計画の最上位の目標として、現在及び将来の国民一人一人の生活の質、幸福度、ウェルビーイング、経済厚生の向上を掲げている。取組の例として、分野横断で地域において主体的・協働的に環境・社会・経済を統合的に向上する事業[5](ローカルSDGs事業)を創出する基盤(地域プラットフォーム)の構築を推進しており、令和元年度から令和5年度までに延べ86地域、令和6年度から令和8年度までに延べ30地域での活動を支援してきた。また、近年、流域に着目し、河川の上流と下流の地域をつなぎ、河川の下流域の企業活動の収益を上流域の水源林や農地に還元していく取組も進めている。具体的には、企業の取組が、地域価値向上と企業価値向上の同時実現につながるネイチャーポジティブな地域づくりに関するモデル事業を3地域で実施した。

(株式会社「マイファーム」における取組)

株式会社「マイファーム」は、「自産自消(=自分でつくって自分で食べる)」のできる社会を目指している。農業を、土地の力を利用して植物(作物)を栽培し、人の心と体を支える仕事、すなわち、胃袋だけではなく、心も体も満たす産業であるとみなし、体験農園や農業学校の運営、農産物の生産、流通販売事業、自治体・法人向けのコンサルティング等に取り組んでいる。

生きるために食べるだけではなく、おいしいものを誰かと食べたり、作る過程を体験したりすることを通じても、食べる楽しみは生まれるとの考えを背景に、マイファームは、「農の日常化」という価値を提供している。

(全国家庭科教育協会における取組)

現在、家庭科の学習指導要領には「食育」が明記され、望ましい食生活を実践できる国民を育成することが目標とされている。家庭科における食育では、生産現場から環境、エシカル消費、栄養、調理、共食、再利用、廃棄まで、食生活の一連の流れについて創意工夫ある実践が行われている。

例えば、筑波大学附属中学校においては、1日350g野菜摂取促進のため、実際の野菜350gの目視から5種類の野菜調理までを実習として行った。この取組を通じ、児童生徒の野菜摂取の大切さや料理の組み合わせの大切さへの理解が向上するとともに、野菜料理を作ることができるという自己効力感も上昇した。

また、高等学校の家庭科の教科書にも、「ウェルビーイングにつなぐ家庭基礎」などウェルビーイングを教科書の主題として内容の充実が図られている例も出始めている。

(3)文化・芸術を通じたWell-beingの向上

日々の暮らしの中で、文化や芸術に触れて感動し、自らものづくりを行うことは、個人の気持ちの切り替えにも資するものであり、また、そうした祭事やイベントの実施によって居場所ができることで、人が集まり、仲間とのつながりも創出される。これまで当たり前のように受け止めていた文化・芸術の重要性について、今回あらためてヒアリングを行った。

(地域の文化・文化財を核とした地方創生とWell-being)

愛知県豊田市は中山間地が7割を占めているが、その中に、お祭りなどで演劇や歌舞伎を奉納するための農村舞台が84棟残っている。2010年より農村舞台アートプロジェクトが立ち上がり、10年間で延べ66名のアーティストによる43公演を実施することにつながった。また、小田木人形座においては、1875年に倹約令により中止となってしまった人形浄瑠璃を2014年に140年ぶりに再興することで、地域住民のWell-being向上を実現した。

(東京藝術大学における取組)

東京藝術大学は、アートの力による、または、アートと異分野との融合による、社会的課題の解決に係る教育研究・社会実装を推進することで、Well-beingの実現を目指すこととしている。

特に、「医学的処方」、「社会的処方」に続く、「文化的処方」を提案している。具体的には、アート活動と医療・福祉・テクノロジーを組み合わせ、その人がその人らしくいられるレジリエントな場所やクリエイティブな体験を作り出すことで、楽しさと感動を生み出し、心が解放され、人と人との緩やかなつながりや心地よいコミュニケーションを自然と発生させることを目指している。「国民文化祭」の開催を契機とした地域連携にも貢献するほか、文化活動が人々や社会のWell-beingに与える効果を、エビデンスを立てて実証していくという取組を、医学や社会学の専門家と連携しながら進めている。

(公益財団法人 福武財団における取組)

福武財団は、地域住民の笑顔があふれ、「住んで良し」「訪れて良し」の地域を作ることを事業目的とし、1985年以来、瀬戸内海において「ベネッセアートサイト直島」というアート活動及び地域活性化活動を実施している。「あるものを活かし、新しいものを創る」という発想のもと、お年寄りの笑顔が溢れるコミュニティを目指している。この取組により直島は、英国BBC放送が選ぶ「2025年に旅行したい場所25か所」に日本国内で唯一選出された。

2010年以降、瀬戸内国際芸術祭を通じても、アートや芸術を入り口としつつ、様々な交流を生み出しながら、地域に縁を生み出す取組も行っている。こうした取組は、地域経済を活発化させるとともに、地域の方々が自らの地域を誇りに思うようになるという効果もあり、島に住む高齢者が、アートプロジェクトから活力を得て、生き生きと健康に暮らすことにつながった。

(4)スポーツや健康経営を通じたWell-beingの向上

平均寿命の長さは日本にとって強みの一つであり、今後はさらに健康で幸福である時間、すなわち「健幸」寿命を延ばしていくことが大事である。

いま、人生の長い時間を費やす仕事の場において、健康を意識した取組が進められている。また、スポーツや運動等の活動に参加することは身体と精神の健康にも資するものであり、結果的に医療費や介護費を削減する効果があるとの研究もある。こうした観点から、スポーツや健康経営を通じたWell-beingの向上についてヒアリングを行った。

(健康経営®の取組について)

健康経営は、従業員の健康増進を経営的視点から考え、戦略的に実践することを意味し、日本健康会議などにおいて官民連携した取組が進んでいる。特に、優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから評価を受けることができる環境を整備することを目的に、2016年度に健康経営優良法人認定制度が創設された。従業員の健康保持・増進のために、がん検診や歯科検診の支援や相談窓口の設置などを行うといった、従業員向けの投資を積極的に行っている法人を優良法人として認定している。2025年度の大規模法人の認定数[6]は3,765法人に及び、上場企業の申請率は約33%に上った。中小規模法人においても、認定数は23,085法人と、年々増加しており、国が進める企業に向けた顕彰制度の中でも特に認知度が高いものとなっている。

(デロイトトーマツの取組について)

デロイトトーマツはスポーツを通じたウェルビーイング向上の取組を推進している。国内外の事例研究によると、地域でのスポーツ・運動を介したウェルビーイング向上のポイントとして「小集団(顔の見える規模間)」「定期的な参加(月1回-週1回で習慣化)」「役割の付与」「専門職の介在」「アクセシビリティ」「ブランド・文化」が重要であるとの分析結果が紹介された。

たとえば英国における事例として、糖尿病や心疾患などの患者を、運動施設やウォーキンググループなどの地域資源につなげることで、ウェルビーイング関連の指標を改善させた例がある。この取組に参加した群は、対照群と比べて医療費が27%減少し、地域住民のウェルビーイングの向上と医療費削減を両立できる可能性が示唆された。

(Well-beingなまちづくりについて)

Well-beingであるまちづくりについて、千葉大学近藤克則特任教授より発表いただいた。発表からは、

  • 「高齢者にやさしいまち」の住民は健康で幸福である(社会的包摂が進んだまちで幸福感が高く、社会参加が多いまちでうつが少なく、物理環境が良いまちで生活機能低下が少ない)
  • 孤食に比べ、共食で幸福感が増加する効果がみられる(幸福感が、独居高齢者で82%、同居の場合でも33%上昇)

との示唆があった。

また、年齢調整済介護認定率については、直近(令和5年)はピーク時(平成27年)から1.6%ポイントの減少がみられたが、仮に介護予防として「通いの場(社会参加型)」を設定したことが効果を出したと解釈するのであれば、これはおよそ60万人が認定を受けず、およそ1兆円規模の介護給付の削減にも相当しうるとの結果が示された。

(5)移動を通じたWell-being向上

二地域居住や関係人口への関心の高まりなど移動を伴う生活の価値が再認識されてきている。本年3月には「ふるさと住民登録制度」のガイドラインが公表され、関係人口の裾野を広げる「ベーシック登録」や、より地域に密着した担い手を対象とした「プレミアム登録」の区分が設けられた。今後、登録データを活用したデータ分析も期待される。また、モデルとなる取組への支援や横展開、「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」等における二地域居住促進施策が進められている。

こうしたことを踏まえ、移動を通じたWell-being向上に取り組む企業からヒアリングを行った。

(日本航空株式会社の取組)

日本航空株式会社は、「移動を通じた関係・つながり」の創造を通じて、個人の居場所を広げ、豊かに生きる多様な選択肢を増やすことで、人生全体を通じた幸福度や生きがいが向上するといった「長期的な主観的ウェルビーイング向上」に貢献することを目指している。

具体的な取組の例として、「関係・つながり」の拡大に向けて、二地域居住推進コンソーシアムを組成し、二地域居住者の費用負担軽減や利便性向上を促すスキームにより、より広域的かつ幅広い利用者層へ新たなライフスタイルの体験を後押ししている。また、2050年CO2排出量実質ゼロの実現に向けた取組を加速するとともに、「流域」という観点で地域を捉え、ネイチャーポジティブの取組を推進し、「人」「社会」「地球」が互いに尊重し合いながら調和する「サステナブルでウェルビーイングな未来」の実現を目指している。

(6)Beyond SDGsにむけた対応

2030年までを年限とするSDGsについて、次の枠組みに向けた議論にあたっては、Well-beingの観点を取り入れていくことの重要性が指摘されており、ビヨンドSDGsに関する取組についてヒアリングを行った。

(ビヨンドSDGs官民会議の取組)

2030年より先の未来に向けた目標設定と、その達成に向けた行動を深めていくためのイニシアティブとして、「ビヨンドSDGs官民会議」が2025年6月に発足した。政府、企業、市民社会、ユース、自治体など幅広い主体が参加し、2030年以降目指すべき姿や、ガバナンスの在り方などについて議論を行うとともに海外の関係機関との連携を通じて、国際的な視野を取り入れながら議論を進めている。

(ウェルビーイング学会の発表)

ウェルビーイング学会による研究[7]によると、G7諸国のWell-being改善に有意な影響を与える要素として、「人生の自由度(選択肢と自己決定)」や「社会的な支え」が重要であると紹介された。日本においては、経済的な豊かさを追うことに加え、自分の意志で人生を選べていると感じられる社会を築くことが、国民のWell-being向上に資するとの分析結果が示された。

Ⅲ 政府への提言

(1)Well-beingに関する国際的な議論への積極的関与

本特命委員会は、前身となるプロジェクトチームから数えて、これまで約10年にわたってWell-beingについての議論を深め、政府への提言を重ねてきた。過去の提言は、政府におけるWell-being向上の取組実施の拡がりという成果につながった。2028年秋には東京において「OECDウェルビーイング世界フォーラム」が開催される。OECDとこうした重要な国際会議を共催できるということは、これまでの我が国のWell-beingに関する先進的な取組が、国際的にも価値を認められた結果であると確信している。

健康長寿社会の形成及び防災活動など我が国には世界に誇ることのできる取組が数多くある。「OECDウェルビーイング世界フォーラム」の開催を1つの大きなチャンスととらえ、日本のスタンダードが世界のスタンダードとなるよう、関係府省庁は一丸となった体制の下、日本の強みを世界に発信するとともに、Well-beingの計測手法や政策への反映等に関する国際的な議論に、産業界や学術界の知見も踏まえながら、積極的に貢献していくべきである。

国際社会に目を向けると、人と地球のための進歩を測る指針として、従来のGDP等の経済指標に加えて、Well-beingや持続可能性に注目すべきとする議論がある。これは本特命委が議論してきたGross Domestic Well-being(GDW)と調和する考え方である。2030年以降の国際的な持続可能性に関する議論・ルール形成も見据え、機を逸することの無いよう情報収集を強化し、国内の議論を国際社会に還元していくべきである。

(2)「食」「農」「自然」を通じたWell-beingの向上

「食」は健康で心豊かな生活に大事なものであり、食を通じて人や自然とつながることでWell-beingの向上にもつながる。健全で豊かな食生活の基盤となる、自然、地域、農林水産業を持続可能なものとし、その思いを、食育を通じて次の世代につないでいくことが重要である。たとえば、今のカロリーベースの食料自給率に加え、食料栄養自給率と言う考え方も用いて国産品による栄養バランスの状況を把握するなど、栄養を持続的に自給するための取組や地産地消を推進し国産栄養資源の充実の取組を波及的に促すことが必要である。

政府においては、食育や共食の中核を担う教科である家庭科の学びの充実、食品ロス削減に向けた啓発の強化、人々が農業や農村に触れる機会の促進、大阪・関西万博での取組を発展させた日本の食文化の積極的な発信と振興、自然資本を核としたネイチャーポジティブな地域づくり等の取組の促進等を進めるべきである。

(3)教育、文化・芸術、スポーツの魅力と価値の再認識及び情報発信

文化や芸術には、人と人をつなぐ力があり、人が生きる原動力ともなりうるものである。また、スポーツは自ら行うことや、観戦することを通じて、個人のWell-beingの向上や健康の促進、ストレス軽減につながるだけでなく、社会とのつながりを生むことによる相乗効果も期待される。

文化・芸術、スポーツは、地域の資源・コンテンツとして地域経済の成長に重要な役割を担うものであり、政府は、国内・海外への情報発信も含め、地域社会と連携し、住民に身近な文化・芸術、スポーツの取組を後押しすべきである。また、教育振興基本計画、文化芸術推進基本計画、スポーツ基本計画に、Well-beingの視点を位置づけ、Well-being向上に向けた取組をより一層進めていくべきである。

(4)健康経営を通じたWell-beingの向上

世界の中でも健康長寿を誇る我が国において、企業にとっても、健康経営を推進することは重要な課題となっている。2024年には、我が国主導で、国際規格ISO25554「高齢化社会―地域や企業等におけるウェルビーイング推進のためのガイドライン」が発行された。この分野は、課題先進国である日本ならではの貢献を世界に還元していくことのできる分野である。今後の少子高齢化の進展も見据え、政府は、女性の健康、ワーキングケアラーの介護離職防止、高年齢従業員の健康確保といった課題について、企業の取組を着実に推進すべきである。

(5)「移動」を通じた関係・つながりの創造

第八次提言においても指摘したとおり、移動を楽しむこと自体もWell-being向上の効果があり、さらに、移動により生み出される人と人とのつながりは、人の暮らしや人生を豊かにするものである。政府においては、Well-being測定の観点から、移動に関連するデータを分析するとともに、二地域居住促進施策を進め、新たな人の流れを生むことで地域経済活性化や関係人口の創出・拡大を図り、多様なライフスタイルの実現を通じたウェルビーイングの向上を実現していくべきである。また、一部の自治体において、住所地以外の小・中学校への通学を推進する取組が進みつつあるところ、政府も、児童生徒にとって豊かな教育機会を与える観点から、利用者へのサポートや好事例の横展開を行うべきである。

(6)2027 年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)でのWell-beingの視点の発信

大阪・関西万博においてWell-beingは一つの重要なアジェンダとして組み込まれた。大阪・関西万博に次ぐ大規模な博覧会として、2027年に開催されるGREEN×EXPO 2027は、花と緑のふれあいを通じて人々に幸福感をもたらすものであり、会場全体がWell-beingにつながる場となると考えられる。こうした機会をとらえ、引き続き、Well-beingの視点を発信していくべきである。

(7)政府におけるWell-being向上に向けた取組の拡大

政府は、上記(1)~(6)のほか、こどものWell-beingの向上、孤独・孤立対策、地域幸福度(Well-Being)指標の活用、グリーンインフラの活用推進、地域における金融経済教育、女性・平和・安全保障(WPS)の分野等においても、取組を前に進めるべきである。

本委員会の累次の提言を受け、政府が策定する様々な基本計画・大綱などにおいて、Well-beingの視点が盛り込まれてきたが、引き続き、関連するKPIの設定等を通じて、Well-beingの取組を広げていくべきである。

本年の骨太方針においても、どこに住んでいても、安全に生活することができ、全世代の国民一人ひとりが活き活きと活躍できる経済社会の構築に向けて、Well-beingの向上の視点を取り込んでいくべきである。

Ⅳ おわりに

人と人のつながりの原点は家族であり、家族とのつながりが社会の中での人と人とのつながりに波及していく。こうしたつながりや関係性の創出は、居心地の良い地域社会や職場環境などのコミュニティの形成につながる。人とのつながりや、つながりを深める場所を持っていることはWell-beingの向上には重要な要素である。

SNSの利用が増え、また、生成AIの出現により、人は相談相手としてAIを選ぶようになってきたとの調査結果もある。こうした社会の変化は、仕事や家事の効率性や利便性を高めるものでもあるが、それと引き換えに、人と人とのコミュニケーションが失われている面もあると考えられる。こうした現代だからこそ、人間同士の対面でのつながりの重要性を再認識し、大人から子供までが対面で過ごすことのできる居場所を作り、社会のつながりを強化していくことが求められている。

我が国における今後のウェルビーイングの推進においては、三つの「わ」が重要である。国内において地方をつなぐネットワークづくりの「輪」、海外とつながりグローバルな社会を作っていく「環」、そして世界に向けてもっと日本の良さを発信するべき和文化の「和」である。そのためにも本提言が活用されることを期待する。

引き続き、本特命委員会は、我が国においてWell-beingに関する取組が一層拡大し、国民一人ひとりにWell-beingが広がっていくよう、精力的に取り組んでいく。

(参考資料) (自)日本Well-being計画推進特命委員会の開催状況

開催日 説明者 説明項目
  • ①2025年
  • 11月19日
江島潔事務局長 第八次提言の振り返り(Jファイル2025におけるWell-being記述について)
鈴木寛氏(東大院/慶応大) Well-being政策をめぐる国際動向について
石川善樹氏(Well-being for Planet Earth)
内閣府 Well-beingに関する令和8年度予算概算要求等について
  • ②2025年
  • 12月3日
農林水産省 未来につなぐ食と風土(大阪・関西万博での取組)
消費者庁 エシカル消費の普及啓発及び食品ロス削減に関する消費者庁の取組
環境省 環境省におけるWell-beingの取組
  • ③2025年
  • 12月17日
浪越隆雅氏(株式会社マイファーム) 食・農・自然をつなぐ(企業等の取り組み事例についてヒアリング)
小林美礼氏、宮田恭子氏(全国家庭科教育協会)
  • ④2026年
  • 2月18日
八木哲也氏(元衆議院議員) 「文化・芸術」に関するWell-beingについて
日比野克彦氏(東京藝大) 文化的処方
笠原良二氏(福武財団) ベネッセアートサイト直島の活動の軌跡
現代アートにより地域活性化の一例
  • ⑤2026年
  • 3月4日
蟹江憲史氏(ビヨンドSDGs官民会議) ビヨンドSDGsの課題と可能性
ウェルビーイング学会 日本の四半期GDWトレンドとBeyond GDPについて
外務省 Beyond SDGsに向けた日本政府の取組
  • ⑥2026年
  • 3月18日
樋口毅氏(株式会社ルネサンス) 健康経営3.0を通じたWell-being社会の実現―企業の人的資本投資から、社会資本の形成へ―
吉田圭造氏(合同会社デロイトトーマツ) 国内外の事例から見る「スポーツ・地域×ウェルビーイング」の状況に関して
近藤克則氏(千葉大学) Well-beingなまちづくり
  • ⑦2026年
  • 4月8日
各府省庁 政府におけるWell-being関係施策の取り組み状況について
  • ⑧2026年
  • 4月15日
文部科学省 デュアルスクールの取組について
斎藤祐二氏(日本航空) 「移動を通じた関係・つながり」とウェルビーイングに関する取り組み状況について
国土交通省 2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)の取組について
  • ⑨2026年
  • 5月13日
第九次提言(案)について

[1]日本経済新聞社「第3回日経統合ウェルビーイング調査」(2026年1月20日公表)。上場企業の正社員モニター1万人を対象としたベンチマーク調査の結果。「聞いたことがあり、意味も知っている」または「聞いたことはあるが、意味は知らない」を合計した数字。

[2]家庭や職場・学校以外で人と交流・リラックスが出来る場所、例えばカフェや図書館、居酒屋やサウナなど。

[3]エシカル消費とは、消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援したりしながら消費活動を行うことである。

[4]2030年度を待たず早期達成を目指すこととしている。

[5]例えば、滋賀県東近江市では、公益財団法人東近江三方よし基金と特定非営利活動法人まちづくりネット東近江が連携した地域プラットフォームのもとで、薪プロジェクト(獣害防止のため雑木林を伐採し薪として販売しエネルギー利用するとともに薪割作業は働きづらさを抱える若者らの中間的就労の場として活用。)等のローカルSDGs事業を行っている。

[6]2026年3月9日時点。

[7]ウェルビーイング学会「日本版ワールドハピネスレポート2026」。