誰もが安心して歳を重ねることができる「幸齢社会」の実現に向けて
~「幸せな身じまい」を実現できる社会の構築に向けて~
令和8年6月2日
自由民主党政務調査会
社会保障制度調査会
誰もが安心して歳を重ねることができる
「幸齢社会」に向けた包括的支援プロジェクトチーム
はじめに
- 少子高齢化や人口減少の進行により我が国の社会構造は変化してきており、令和6年4月に、国立社会保障・人口問題研究所が公表した、「日本の世帯数の将来推計(全国推計)-令和6年推計-」によれば、令和32(2050)年には単独世帯が一般世帯総数の44.3%を占める(令和2(2020)年の38.0%から6.3ポイント上昇)こととなるなど、単独世帯の一層の増加が見込まれ、これに伴い単身高齢世帯の増加も見込まれている。
- このような社会構造の変化に伴い、身寄りのない高齢者等[1]の問題は、現在の単身高齢者だけの問題ではもはやなくなっており、将来身寄りのない状態となる方々が増える現役世代にとっても身近な問題であり、日頃からの高齢期への「備え」の観点が一層重要となっているといえる。また、令和7年には、いわゆる「団塊の世代」の方々が全員75歳を過ぎ、75歳以上の人口が合計約2135万人[2](総人口の17.3%)となった。今後は、認知機能の低下等がみられる高齢者の方々が更に増加していくことが懸念される。
- 足元では、厚生労働省が令和6年度に実施した引き取り手のないご遺体等の取扱いに関する実態調査(令和7年3月に調査結果公表)において、引き取り手がなく地方自治体が取り扱ったご遺体数が、令和5年度で約4.2万人にのぼるとの推計が出され、また、内閣府が令和8年4月に公表した推計において、誰にも看取られず亡くなり、一定期間経過後に発見される「孤立死」された方の数が、令和7年で約2.2万人と推計されている。
こうした状況から、今後、身寄りのない高齢者等が増加する中で、地方自治体における事務負担の増加や、誰にも看取られず亡くなる方の尊厳の問題も深刻になっていくことが懸念される。
- こうした中、身元保証や日常生活支援、死後事務等のサービスを行う「高齢者等終身サポート事業」を行う民間事業者の数は増加を続けている[3]。このような事業は、契約が長期にわたること、契約の適正な履行確保が必要であること等、一般的な契約に比べて消費者保護の必要性が高いことから、国において令和6年6月に「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を策定し、その周知を行ってきているところである[4]。
- これまで、身寄りのない高齢者等に対する支援については、令和6年及び令和7年の2度にわたり、政府における取組の推進に向けた提言を行ってきたところである。こうした中、令和7年8月には、高齢者等終身サポート事業者の全国団体として「一般社団法人全国高齢者等終身サポート事業者協会」が設立され、また、関係省庁において、身寄りのない高齢者等への支援を強化するため、社会福祉法や民法の改正法案が国会に提出されるなど、着実に取組が進んできているところ。
- 一方、先に述べたとおり、今後、認知機能の低下等がみられる高齢者が更に増加することが懸念される中、民間と行政機関との適切な役割分担の下、新たな課題も含め、これまで以上にスピード感を持った対応が求められる。
今後、更に単独世帯が増加し、相続人がいない方が増えていくことが見込まれる中、本人が生前に自らの意思で遺産の一部を非営利団体等へ寄附する、「遺贈寄附」を選択肢の一つとして希望する方も増えていくものと考えられる。しかしながら、税制上の課題も含め、今後、遺贈寄附を普及していくために解決するべき課題は多いとの指摘もされている。
- こうした状況も踏まえ、身寄りのない高齢者等に係る課題にスピーディーに対応する観点から、民間企業等における新たな高齢期への「備え」の取組など[5]も参考にしつつ、令和8年提言においては、令和7年提言において「特に重点を置いて取り組むべきとされた事項」を深掘りしつつ、これまでの議論において有識者等から指摘のあった新たな課題も盛り込み、政府に対し、身寄りのない高齢者等に対する支援の更なる強化に向けて提言を行うものである。
今後、特に重点を置いて取り組むべき事項
【身寄りのない高齢者等を地域で支えるための体制整備】
- 今国会に提出された「社会福祉法等の一部を改正する法律案」において、頼れる身寄りがいない高齢者等に対し、資力が十分にない方も含め日常生活・入院等の手続・死後事務の支援を行う事業を新たに第二種社会福祉事業に位置付けるとともに、相談体制等の整備を図ることとされるなど、着実に取組が進み始めている。
- こうした中、改正法案に基づく新たな第二種社会福祉事業を着実に実施できる体制を整備するため、現在の「日常生活自立支援事業」も含めて、実施に重要な役割を担う社会福祉協議会の体制確保に向けて必要な支援(生産性向上のための支援を含む。)を行うとともに、幅広い主体の事業への参入を促進できるよう、事業の実施に当たって必要となる要件を早急に整理して示すべき。
【高齢者等終身サポート事業者における質の確保】
- 高齢者等終身サポートサービスを必要とする国民が、質の確保された事業者を安心して選択できるよう「一般社団法人全国高齢者等終身サポート事業者協会」が優良事業者認定の仕組み[6]を創設するところであるが、中には低所得者に対しサービスを提供するに当たり、遺贈寄附[7]により受け入れた金銭をサービスの対価に充当している場合もあり、各事業者が遺贈寄附により得た金銭を低所得者への支援に確実に充てているか確認することが難しい実態もある。
- このため、優良事業者認定の仕組みの創設に当たって、国が適切に関与・支援を行いながら、高齢者等終身サポート事業者の業界内部での透明性や公正性を確保するための体制の構築を進め、大手介護事業者や金融機関等との連携など様々な業種を巻き込みつつ、業界全体の信頼性の確立を図る。
また、早期からの備えに対する国民意識の向上の状況を見ながら、高齢者等終身サポート事業者の財政基盤の確保を図る観点からも、将来的な課題として事業者等が利用できる基金等の検討を行うべき。
【身寄りのない高齢者等に関する金融機関における取組の促進】
- 高齢者等終身サポート事業者が、本人に代わって金融機関における手続きを行う場合もある。こうした実態を把握する観点から、国において、金融機関に対するアンケートやヒアリングを行ってきたところであり、その結果等を踏まえ、「一般社団法人全国高齢者等終身サポート事業者協会」による優良事業者認定の仕組みや、新しい第二種社会福祉事業の創設などについて周知・情報提供を行うべき。
また、金融機関との連携により、高齢者等終身サポート事業者の信頼性が高まることも踏まえ、金融サービスを提供する事業者や利用が見込まれる者への情報提供を行うなど、民間保険や信託の活用を推進し、将来の「身寄りなし問題」への「備え」の促進を図るべき。
【身寄りのない高齢者等への日常生活支援に当たってのキャッシュレス対応の促進】
- 身寄りのない高齢者等への日常生活支援においては、買い物費用の立替えが行われる場合もあるが、現金による授受では、使途や金額の記録が残りにくく、後から金融上のトラブルにつながるおそれがある。このため、キャッシュレス対応の促進など、身寄りのない高齢者等を金融トラブルから守るための工夫についても促すべき。
【身寄りのない高齢者等の緊急連絡先等の情報登録・連携の仕組みの検討】
- 身寄りのない高齢者等については、病気や認知機能の低下により本人が話をできない状態になった際に、本人の代わりに情報伝達を行う方がいないといった問題も指摘されている。このため、一部の地方自治体(神奈川県横浜市・横須賀市、東京都豊島区等)では、緊急連絡先や住民の生活に関する希望等をあらかじめ登録し、いざというときに登録された情報を関係機関間で共有できるようにする取組が行われている。
- こうした情報登録・連携の仕組みについて、将来的には全国的なスキームとすることを見据えつつ、まずは、取組を始める地方自治体の参考に供する観点から、個人情報の取扱い等を整理したガイドラインの策定を行うべき。
【新たな成年後見制度の施行に当たってのきめ細やかな対応】
- 今国会に提出された「民法等の一部を改正する法律案」において、成年後見制度をより利用しやすいものとする観点から、法定後見を補助に一元化するなどの見直しを行うこととされている。
- 一方で、包括的代理権を有する成年後見人が存在しなくなり、個々の法律行為ごとに制度の利用の必要性を確認して審判を受ける等の対応が生ずるなど、利用者等に新たな対応が求められることとなる。このため、改正法案の施行に当たっては、制度の利用に際して支障が生じないよう、きめ細かな対応を行うべき。
【地域の居住支援体制の構築に向けた支援等】
- 令和7年10月の改正住宅セーフティネット法の施行により、家賃債務保証や居住サポート住宅の認定制度が開始されたが、入居支援などを行う居住支援法人の数は増えている一方、入居中の見守りなどには十分に対応できていない居住支援法人もあることから、実態把握を行い、地域の居住支援体制の構築に向け必要な支援を行うべき。
- また、見守りや安否確認の実施に当たっては、ICT機器などテクノロジーをうまく活用しながら、駆け付け対応の人材確保も重要であることに配意し、住宅セーフティネット法に基づく基本方針[8]等を踏まえ取組を推進するべき。
- 加えて、改正住宅セーフティネット法の施行により、居住支援法人の業務に入居者からの委託に基づく残置物処理が追加されたことを踏まえ、居住支援法人による、「残置物の処理等に関するモデル契約条項」も活用した、円滑な残置物処理の取組を推進するべき。
- 住まいの決定の場面においても、公営住宅を含め身元保証を求める慣行について見直しを図っていく必要がある。保証人を確保できないことを理由に公営住宅に入居できないといった事態が生じないよう、保証人に関する規定を削除したガイドラインについて、再周知されたが、引き続き、こうした取扱いについて、事業主体に周知を図るべき。
おわりに
- 身寄りのない高齢者等の問題は、頼れる身寄りがないことにより、これまで家族が担ってきた仕事(見守り、入院、入所、逝去後の対応(死後事務)、住まい、これらを受けるための意思決定の支援等)を期待することができなくなっていることが根底にあり、こうした方々を本人の意思を尊重しつつ、判断能力の状況に応じてどのように支えていくかという視点に立ち、精力的に議論を行ってきた。民間や政府において動き出した取組を着実に深化させていくため、今後とも後押ししていく。
- また、今後、「多死社会」が進行していく中においては、これまでの身寄りのない高齢者等の支援の議論や取組の成果をベースにしながら、国民一人ひとりが各自の価値観に基づいて「幸せな身じまい」を実現できる社会を早期に構築するため、引き続き法的措置も含め、スピード感を持って取り組んでいくことも求められる。政府において、こうした府省庁横断的な課題に取り組むための司令塔機能の充実が図られるよう働きかけていく。
[1]身寄りがあっても家族・親族との関係は様々であり、身寄りがない状態(支援を期待することができない状態)になり得ることに留意する必要がある。
[2]総務省統計局「人口推計」(令和7年12月1日現在確定値)
[3]「身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査」(令和5年8月総務省行政評価局)では、同事業に該当すると考えられる事業者として、全国で412の事業者をリストアップしている。
[4]国において、地方自治体のほか、金融業・不動産業・福祉事業等の関連団体に対し周知を行っている。
[5]例えば、東京大学高齢社会総合研究機構では、高齢期への「備え」として、主に50、60歳代を対象として、産学連携で「ALP」(Advance Life Planning)研究事業を実施。「ALP」とは、将来の人生を本人が能動的に設計(Plan)していくことを目指し、本人と関係者が事前に(Advance)/継続的に、繰り返し行っていく、資産・住まい管理及び介護(Life)に向けた備えと対応にかかる意思決定を行うことができるプロセスをいう。
[6]「一般社団法人全国高齢者等終身サポート事業者協会」への入会の基準として、「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を上回る基準を設定し、サービス利用者が安心して事業者を選択できるよう、当該協会として認証制度の創設に向けて検討を行っている。
[7]「遺贈寄附」とは、遺言者が自身の財産の一部又は全を特定の団体に寄付することをいう。
[8]「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する基本的な方針」(令和7年厚生労働省・国土交通省告示第7号)