環境・温暖化対策調査会 政策提言
真の豊かさの実現に向けた水俣病対策の強化
―水俣病公式確認七十年に当たり、悲惨な公害を繰り返さず、水俣病対策の更なる発展を求める―
令和8年7月7日
自由民主党政務調査会
環境・温暖化対策調査会
はじめに
(水俣病の歴史と経緯の認識)
本年、水俣病の公式確認から七十年、新潟水俣病の公式確認から六十一年を迎えた。水俣病は、甚大な健康被害と環境汚染をもたらすとともに、水俣病の被害についての無理解が生まれ、平穏な地域社会に不幸な亀裂がもたらされ、長年にわたり地域社会に深刻な影響を及ぼし続けた。
亡くなられた方々に深く哀悼の意を捧げ、長年の苦難を歩まれた被害者、御遺族、地域の皆様に深く思いを寄せる。また、改めて政府に、平成十六年の最高裁判決において、国が必要な規制権限を行使せず、被害拡大を防げなかったことについて国家賠償責任が認められた事実を厳粛に受け止め、深い反省に基づき水俣病対策を着実かつ総合的に実施することを強く求める。
水俣病問題について、水俣病公式確認から七十年、新潟水俣病公式確認から六十一年に至り、これまで公害健康被害補償法に基づき約三千人の方々が補償を受けたことに加え、二度にわたる政治解決で合計五万人以上の方々が救済対象となり、汚染者負担原則に則りながら補償・救済が図られてきた。その歴史と経緯を十分に踏まえつつ、政府は、これまで公害健康被害補償法の丁寧な運用や、被害地域の医療・福祉の充実、再生・融和・振興等の施策に取り組んできた。特に、今年度からは、政治救済で対象となった患者団体の要望に応える形で物価上昇に応じた療養手当の引き上げが開始された。それらの施策の実績を踏まえてもなお、水俣病に係る様々な喫緊の課題があることから、関係地方公共団体や関係団体を始め地元の声にも丁寧に耳を傾けながら、対策の強化を図る必要がある。
(水俣病問題を巡る喫緊の課題を踏まえた対策強化の必要性)
水俣病の公式確認から七十年、新潟水俣病の公式確認から六十一年を経た今、被害地域では、水俣病問題を巡り様々な喫緊の課題に直面している。認定患者の方々が年々高齢化し、お亡くなりになられ、被害を受けた方々を始めとして地域の方々が高齢期を迎えており、それに伴い経験や教訓の風化が懸念され、かつ、医療・福祉の更なる充実が必要である。また、水俣病問題がもたらした水俣病の被害者への多大な苦痛や、地域社会への深刻な影響、疲弊と亀裂に対して、地域の活力回復に向けた取組も喫緊の課題である。
そのため、水俣病問題の解決を目指して、水俣病対策の更なる発展を求めるべく、政府に対して以下のとおり提言する。これにより、環境を守り、安心して暮らしていける社会を実現することを目指していくことが重要である。
政策提言
水俣病問題の歴史と経緯を踏まえて、これまでの施策をしっかりと尊重しつつ、関係団体や関係地方公共団体等からの要望に応える形で、以下の点で、水俣病対策の更なる発展のため、必要な予算措置を講じること。水俣病被害者の方々がお亡くなりになるに伴い、国の療養費・療養手当に係る予算については、ここ七年で約十億円減少し、今後も減少していくと見込まれる。関係団体が指摘されているように、亡くなった方の分だけ予算を削っていくような「引き算の行政」ではなく、被害地域の医療・福祉の充実、再生・融和・振興等の施策の強化に大胆に振り向けるべきである。
また、水俣病被害者特措法に基づき政府が行う健康調査については、科学的知見の充実を図りつつ利用可能な最良の科学に基づき行うという環境政策の前提に鑑み、令和七年度に実施したフィージビリティ調査の結果も踏まえて、メチル水銀が人の健康に与える影響を可能な限り客観的に捉える手法等の科学的知見の蓄積に努めるとともに、地元関係者への丁寧な説明を通じて調査手法の理解促進を図りながら、必要な検討・準備を進めること。
- 水俣病の被害を受けた方々がお住まいの地域が直面する、水俣病の被害者を支えるご家族等も含めた住民の高齢化を踏まえて、水俣病被害者特措法の対象地域の住民のみならず、高齢化に直面する地域全体の医療・福祉を向上させ、地域全体で被害を受けた方々を支えることを可能とするとともに、被害者を始めとする全ての地域住民の方々が、住み慣れた地域で安心して暮らせるようにする必要がある。具体的には、地域全体の医療・福祉向上を図る施策として、健康づくりや医療・福祉の人材確保、対象地域の拡大を始めとするリハビリ支援の充実、胎児性・小児性患者への支援、物価変動を踏まえた療養手当の継続的見直し、医療従事者の水俣病に係る理解醸成促進等を図ること。
- 水俣病の被害を受けた地域が直面する人口減少や、労働生産性の更なる向上の必要性を踏まえて、公式確認七十年を機に、「環境首都水俣」創造事業を拡充するなど、より一層の地域振興策を講じること。具体的には、海の再生、漁業等の一次産業の振興、温泉や自然環境を始めとする豊かな地域資源を活かした地域活性化を目指すこと。また、環境価値を活用した地元企業の稼ぐ力の強化、企業誘致のためのインフラ整備、人的資本投資の拡充、中心市街地活性化・地域公共交通への支援等を図ること。
- 水俣病の認定患者等の高齢化を踏まえて、地域の差別・偏見の解消を図る施策として、情報発信・普及啓発への支援、貴重な資料の収集・保存や、水俣病資料館語り部の活動を始めとする水俣病の教訓の伝承への支援や、国立水俣病総合研究センターの支援体制の充実、もやい直しセンター等の維持・機能強化を始めとする、もやい直しへの支援の拡充を図ること。
水俣市は、世界でも類例のない悲惨な公害を二度と繰り返さないために、その経験と教訓を活かし、環境汚染という負の資産をプラスの資産に価値転換するために、様々な環境に関する取組を市民協働でこれまでも行ってきたことで、国の認定する「環境モデル都市」に選定されて、ごみの高度分別によるごみ減量化、再生可能エネルギーの導入等を推進してきた。今後、この政策提言を踏まえてこうした環境保全に資する取組をさらに進めることで、我が国の公害問題の原点であり、未曾有の公害から再生した地域として、自然資本を始めとする豊かな地域資源を持続的に活用することにより、環境・経済・社会が統合的に向上し、地域に暮らす住民の高い生活の質/ウェルビーイングが実現する地域循環共生圏の先進地となり、全国のモデルとなることを願う。
水俣病の歴史は、環境と生命の尊重が社会の基盤であるという教えを我々に投げかけており、その理念や教訓を将来世代に確実に継承し、我が国の環境政策の一層の進展を図るとともに、水俣病の悲劇を決して再び繰り返さないという思いを国民と共有しつつ、日本社会の「真の豊かさ」の実現に向けて努力し続ける必要がある。