孤独・孤立対策特命委員会 提言
令和8年5月28日
自由民主党政務調査会
孤独・孤立対策特命委員会
Ⅰ はじめに
- ○ 政府が実施した令和7年の「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」(本年で5回目)によると、16歳以上の国民のうち、「孤独感がある」と回答した方が約4割であり、これを年齢別で見ると、若い世代など現役世代の孤独感が相対的に高いという結果となった。人と人とのつながりの希薄化といった社会構造の変化が指摘される中で、若者たちを中心に4割もの方が孤独を感じているという現状を重く受け止め、「望まない孤独」の問題に社会全体で正面から取り組んでいくことが喫緊の課題となっている。
- ○ こうしたことを踏まえ、孤独・孤立対策については、孤独・孤立状態の「予防」が重要との認識の下、本特命委において政府の対策を主導し、これまで5次に渡る提言を重ね、着実に成果を挙げてきた。昨年(令和7年)の「第5次提言」では、これまでの取組の成果・課題を確認し、積み残した課題・新たな課題への重点的な取組を求めてきたところ。
- ○ 一方、令和7年一年間の小中高生の自殺者数は538名と昨年を上回り過去最多となったところであり、こどもや若者の自殺対策についても、政府を挙げて一層強力に取り組んでいく必要がある状況である。
- ○ また、政府が新たに行った「孤独・孤立対策に関する世論調査」によれば、政府が孤独・孤立対策を推進していることを「あまり知らない」、「まったく知らない」と答えた方が8割を超える結果となった。孤独・孤立対策が国民に浸透しているとは言えない状況にあり、政府において孤独・孤立対策の目的や意義を国民に更に積極的に共有していくことが重要であることは論を俟たない。党としても、孤独・孤立対策が一層着実に前進するよう、本特命委において議論を深め、政府を強力に後押ししていくことが重要である。
- ○ これまで、孤独・孤立対策の推進に当たっては、「社会のあらゆる分野に孤独・孤立対策の視点を入れる」ことが重要との認識の下、推進法や同法に基づく重点計画等に基づき政府全体で取組を進め、政策推進の基盤はほぼ整った。一方、コロナ禍のもとで我が国の孤独・孤立対策が始まってから5年が経過する中、政府全体でみれば、孤独・孤立対策の政策的な優先度が薄れてきているとも感じられる。法施行から3年目となる今、施策全体としての好循環につなげていくためにも、孤独・孤立対策の政策目的や意義について、再度、しっかりと認識共有を図る必要がある。
- ○ こうした中で、本年は、本特命委本体においては、孤独感が高い「若者の孤独・孤立対策」や、積み残された課題である「社会的処方」といったテーマを深掘りすることに主眼を置くとともに、新たに2つのPTを設け(こども・若者の自殺対策PT、「内密出産」について考えるPT)、タイムリーな社会課題に正面から取り組んできたところである。
- ○ 6回目となる令和8年提言では、有識者や地方公共団体からのヒアリングや、活発な議論の中で明らかとなった課題について、政府に対して重点的な取組を求めていく。
Ⅱ 令和8年度に特に取り組むべき事項
1 こども・若者の自殺対策
- ○ 令和7年のこども・若者(小中高生から29歳まで)の自殺者数は3,242人、このうち小中高生の自殺者数は538人と過去最多を更新した。さらに、コロナ禍が開始した令和2年以降のこども・若者の自殺者数は累計約20,000人に上り、対策は喫緊の課題である。
- ○ 本特命委の下に設置された「こどもの自殺対策PT」は、昨年12月に「こども・若者の自殺対策PT」と名称を改め、こどものみならず若者をも射程に入れた上で、本年3月から6回にわたって、有識者や関係団体、関係省庁等からヒアリングを行い、別添のとおり提言を取りまとめた。提言は、①早期発見から支援までの継続的支援体制の整備、②予防に向けた教育・啓発、③家庭環境の支援と居場所づくりの強化、④エビデンスに基づく対策の推進、⑤地域での危機介入策の拡充、⑥自死遺族支援と災害共済給付の運用改善の6つの柱から成る。
- ○ この提言に記載された取組が、着実に実行に移されることを求める。
2 「内密出産」について考えるPT
- ○ 昨年12月に本特命委の下に、「「内密出産」について考えるPT」を立ち上げ、本年3月から議論を始めた。本PTを立ち上げた背景として、児童虐待死のうち約半数が0歳児、特に出生直後に集中しており、その原因として、困難を抱える女性の予期せぬ妊娠の結果としての出産が一定割合存在している事が挙げられる。母親の身元情報を医療機関など限られた機関にのみ明かし、外部には匿名に近い形で出産する制度・仕組み、いわゆる「内密出産」という選択肢を選ばざるを得ないことは決して、望ましい出産のあり方とはいえない。しかしながら、母子の命を守ることを第一として、「内密出産」についての論点整理を行う。
3 孤独・孤立対策
-
(1)孤独・孤立対策全般
- ○ 孤独・孤立対策強化月間について、期間中の取組の評価も行いながら、より効果的なものになるようバージョンアップしていく必要がある。また、孤独・孤立対策ウェブサイト「あなたはひとりじゃない」は、孤独・孤立対策の重要なツールであるため、利用者にとってより利用しやすくなるよう改善を図るとともに、相談窓口等紹介できる支援のメニューについて不断にアップデートするべき。
- ○ 昨年、駐日大使会合が実施されたが、WHOからアメリカが脱退したいま、WHO社会的つながり委員会の取組を我が国が主導していくためにも、様々な国際会議の場において社会的つながりについて積極的に発信していくとともに、例えば、担当大臣に加え、継続的に関与できる者を新たにコミッショナーに追加することを含め、我が国の特色ある取組を諸外国に積極的に発信し、議論を主導していくべき。また、推進室において、国際会議などに十分対応できる人的体制を強化することも急務である。
-
(2)若者の孤独・孤立対策
- ○ 高市総理の施政方針演説において「若者の孤独・孤立」の問題が取り上げられたことは意義深く、若者の大規模な実態調査を行った上で、社会とのつながりの構築をしっかりと支援していくべき。
- ○ 乳幼児期のうちから、親以外の信頼できる大人との出会いをしっかりと育んでいくことが重要。また、若いうちから子育てに触れる機会も重要であり、こども家庭庁の「はじめの100か月の育ちビジョン」に基づき、若い方々が、教育機関や地域で乳幼児の育ちや子育てについて学んだり、乳幼児と関わったりする機会をつくるべき。
- ○ 妊娠期から産後までの切れ目ない予防的支援を行うため、安心できる身近な地域子育て相談機関の設置の推進や、地域子育て支援拠点の利用率の向上に努めるべき。あわせて、こども家庭センターとの連携を進めるとともに、産褥期も含め、産前・産後サポート事業や産後ケア事業の実施を推進するべき。
- ○ 若者とつながるためには、楽しいことややりたいことを「タグ」として「タッチポイント」をつくり、孤独・孤立の悩みを相談することにスティグマ(ためらいや恥ずかしいと思う気持ち)がある方々が、そうした場で本人の望む形で自分時間を過ごし、結果として支援につながっていくような関係性を、地域の中でどのようにデザインしていくかといった視点が重要である。
- ○ 居場所があることが孤独・孤立の予防になる一方、予防の取組は成果が見えづらいという課題もあることから、居場所においてワンストップで支援まで行ったり、相談支援機関の開所時間の延長など、既存政策の機能の拡張も有効である。家庭等に居場所のないこども・若者やこうした当事者に支援を届けられず困っている支援者にとって、休日・夜間の居場所の意義は大きい一方、行政が「ここは大丈夫な場所である」と、当事者や支援関係者に周知することも必要である。
- ○ 義務教育が修了すると福祉的な支援が薄くなるため、各地方公共団体において、福祉や教育の関係者がプラットフォームや地域協議会の下で連携し、高校生を始めとする義務教育を修了した若者の孤独・孤立を予防することも重要。孤独・孤立対策については地方公共団体ごとの取組格差が広がっているのではとの指摘もあり、地方公共団体の取組の基盤となるプラットフォームの設置や居場所づくりへの財政支援を含め、取組の底上げに向けた伴走支援を行うべき。
- ○ 若者の離職などの問題もある中、社員の孤独・孤立への対応は重要な課題である。「企業が社員のつながりに投資する」という考え方を広めていくためにも、例えば、健康経営の中で、コミュニケーションの活性化の観点から取組を進めるなど、社員のつながりづくりの観点から幅広い取組として推進するべき。
-
(3)「社会的処方」に関する取組の推進
- ○ ”Social Prescribing”の訳である 「社会的処方」は、健康問題や悩みや困難を抱える当事者に対して、「薬」ではなく「つながり」を「処方」する取組であり、「ゆるやかなつながり」をつくっていくことが取組の「コア」となるものである。地域の中に、保健・医療にとどまらない様々なタッチポイントをつくり、地域住民にも「リンクワーカー」として参画いただきながら、当事者を社会資源につないでいくことが、孤独・孤立対策の観点から求められる在り方であると考えられる。
- ○ これらは、政府の孤独・孤立対策が始まった5年前から本特命委で議論を重ねるも積み残されてきている課題である。ウェルビーイングの観点も踏まえつつ、保健・医療分野にとどまらない「ゆるやかな社会的処方」や「文化的処方」について、好事例にも学びながら、政府の有識者会議等においてもさらに議論を深めつつ、関係省庁の連携の下、社会実装に向けて工程表をつくり戦略的に取組を推進していくべき。
Ⅲ 結語
- ○ 本年4月で、孤独・孤立対策推進法の施行から3年目となり、孤独・孤立対策の深化に向けて、引き続き、国・地方公共団体における着実な取組が求められる。その際、例えば「UCLA孤独感尺度」なども活用しながら、エビデンスに基づく評価・検証を行い、関連施策のバージョンアップに取り組んでいくべきである。同法の施行により、内閣府が政策調整機能を担うこととなったが、政策推進の旗振り役としてより一層機能を発揮できるよう、体制面も含め党として取組を後押ししていく。
- ○ こども・若者の自殺対策について、「こども・若者の自殺対策PT」では、過去最多を更新し続ける自殺者数を何としても減少させたい、という切実な思いを一つに、精力的に議論を行ってきた。自殺を防ぐための基本的な原則は「自殺の危険因子を減らし、保護因子を増やすこと」であり、そのための施策や提案を提言に盛り込むことができたと私たちは自負している。今般の提言が、危機感を持って着実に実行されることで、一人でも多くのこども・若者が「明日も生きてみたい」との思いを抱けるようになることを切に願う。
こども・若者の自殺対策PT 提言
令和8年5月28日
自由民主党政務調査会
孤独・孤立対策特命委員会
「こども・若者」輝く未来創造本部
こども・若者の自殺対策PT
1.はじめに
令和7年の自殺者数は、全体で19,188人と統計開始(昭和53年)以降で初めて2万人を下回り、最少の数値となったにもかかわらず、こども・若者(小中高生から29歳まで)の自殺者数は3,242人であり、このうち小中高生の自殺者数は538人と過去最多を更新した。これは1週間当たり平均60人を超えるこども・若者の命が失われていることを意味する。さらに、コロナ禍が開始した令和2年以降のこども・若者の自殺者数は累計約20,000人(19,778人)に上る。対策はまさに喫緊の課題である。
こうした極めて深刻な状況に対処するため、昨年6月に改正された自殺対策基本法では、国や学校の責務の追加、心の健康診断、基本的施策の拡充等に加え、地方公共団体が自殺未遂者などリスクの高いこども・若者を早期に発見し、適切な支援を行う協議会の設置を可能とする規定も新たに設けられた。このように、制度の枠組みは整えられた一方で、これまでの自殺対策の検証の在り方をはじめ、改善すべき課題は山積しており、こども・若者を地域社会全体で見守り、支えていく体制の構築は道半ばと言わざるを得ない。
そこで、令和7年2月に孤独・孤立対策特命委員会の下に設置された「こどもの自殺対策PT」は、同年12月に「こども・若者の自殺対策PT」と名称を改め、本年3月から6回にわたって、有識者や関係団体、関係省庁等からヒアリングを行ってきた。
今般、PTでのヒアリングや議論の結果を踏まえ、以下のとおり提言を取りまとめた。この提言が、危機感を持って着実に実行されることで、一人でも多くのこども・若者が「明日も生きてみたい」との思いを抱けるようになることを切に願うものである。
2.早期発見から支援までの継続的な支援体制の整備
こども・若者の自殺を防ぐためには、学校や相談窓口等において自殺未遂者などハイリスク者を早期に発見・把握し、地方自治体へ適切につなぎ、自殺対策基本法に基づく協議会を活用しつつ、救急医療機関を含む関係機関が連携して継続的に支援を行う体制整備が急務である。このような一気通貫の支援体制の構築に向けて、以下の取組を推進する。
-
○ 協議会の設置促進、設置運営に係る財政支援
改正自殺対策基本法により、令和8年度から、地方公共団体は、自殺リスクの高いこども・若者を早期に発見し、関係機関等が共通理解を持ちながら迅速・適切に支援するための協議会を設置できることとなった。協議会は、自殺未遂者などハイリスクのこども・若者とつながり、命を守る役割を果たすとともに、家族からの聞き取り等により、家族が持つ保護因子としての機能の回復につながることも期待される。今後、令和7年度に策定された協議会の運営に関するガイドラインや令和8年度に創設された協議会のモデル事業等を活用し、各地域において協議会が設置されるよう、地方公共団体の伴走支援や協議会の運営に係る好事例の収集・横展開に取り組むとともに、協議会の設置運営を支援するために必要な財政支援の充実を図る。国は、設置目標の設定を含め、計画的な設置促進を図るとともに、進捗状況を毎年度公表する。
-
○ 都道府県等のこども・若者の自殺危機対応チームによる学校、市町村等に対する支援
学校、市町村等では自殺未遂歴や自傷行為の経験等があるこども・若者への対応が困難な場合があることを踏まえ、都道府県・指定都市において、精神科医や精神保健福祉士、弁護士等の専門家による「こども・若者の自殺危機対応チーム」を設置し、学校、市町村を通じた地域での支援を行う。同チームは、令和5年度の開始以降、設置数が増えている(令和7年度で24自治体)ところであり、現在活動しているチームの状況を把握し、必要な情報提供・助言を行いながら、全都道府県(47団体)及び全指定都市(20団体)での設置を目指す。
-
○ 1人1台端末等を活用した「心の健康観察」の導入の促進
1人1台端末等を活用した「心の健康観察」については、「こどもの自殺対策緊急強化プラン」を踏まえ、1人1台端末の活用等による自殺リスクの把握や適切な支援につなげるため、有償・無償で利用できるシステムやその活用方法、マニュアル等が作成・周知されるとともに、システムの導入推進のための地方財政措置が講じられてきたところである。もっとも、全国の学校での実施は未だ達成されていないことから、令和8年度中に、民間事業者等において進められている効果的なアプリ等の開発やその実践等についての情報をまとめるとともに、リスクを把握した後の対応(後掲)と併せて具体の活用方法等を周知し、導入促進を加速化する。また、自殺リスクの把握について、アプリ等の内容によって差があることが指摘されているため、令和8年度中に、医師等の専門家の知見を得て、自殺念慮や心の不調からくる心身症状等を把握するための質問項目等の考え方を検討・整理し、全国で、一定水準を確保した自殺リスクの把握ができるようにする。
-
○ 心の健康診断等を通じた早期発見から医療・福祉へのつなぎの強化
児童生徒の自殺を防ぐためには、前述のアプリ等の普及や自殺リスクの把握の質の向上と併せて、自殺リスクや心の不調が認められる児童生徒を適切な支援につなげるための方策を拡充する必要がある。そのため、学校におけるSC・SSWの配置充実を引き続き推進するとともに、教員の心理・福祉に関する専門知識の向上を図る。加えて、学校におけるACEsを減らすため、教員の不適切指導の未然防止に取り組む。また、学校やその設置者における、自殺のリスクが高い児童生徒への対応やそのための平常時からの体制整備、自殺対策基本法に基づく協議会への参画・連携の在り方、自治体の自殺対策担当部局、福祉部局、精神保健部局、医療機関等の関係機関との連携方策等について整理して示すとともに、学校における自殺リスクの把握及び把握した児童生徒の適切な支援が全国的に広がるよう、効果的な取組のモデル構築を支援する。
-
○ 実態把握を通じた大学等における学生相談体制等の充実
大学や専門学校等の自殺予防やメンタルヘルス対策の体制や取組状況、課題等に関する調査等を行い、大学等の規模や特性に応じた体制等の実態を把握し、その調査結果を踏まえて、自殺対策に関する好事例を大学等に広く発信するとともに、常勤カウンセラーの配置、学内(学生相談室、保健管理センター、指導教員、学生支援担当部署、就職支援担当部署等)の連携向上、学生が学生を支援する「ピアサポート」の活用など、大学等における学生相談体制の充実を図る。
3.予防に向けた教育・啓発
-
○ 心の健康(メンタルヘルス)に関する知識の向上
児童生徒が心の状態や心身に影響を与える要因について理解を深め、心の不調に対して自分に合った適切な方法で対処する力を身に付けることができるよう、児童生徒の精神保健の理解増進に係る取組を促進する。こうした取組をさらに進めるため、学校における指導に資する資料の作成・周知を進めるとともに、教職員等に対する研修を充実させる。また、児童生徒のメンタルヘルスの理解に資するよう、保護者向けに必要な啓発を行う。
-
○ 情報モラル教育の推進
インターネット上での誹謗中傷やいじめなどの問題が深刻化する中で、他者への影響を考え、自他の権利を尊重し情報社会での行動に責任をもつための情報モラル教育を行うことも重要である。このため、「情報発信による他人や社会への影響について考えさせる学習活動」や「ネットワーク上のルールやマナーを守ることの意味について考えさせる学習活動」などを行う情報モラル教育を推進していく。
-
○ こども・若者を守るためのSNS・AIへの対応
SNSをはじめとするインターネット利用が低年齢化するなか、保護者自身のリテラシーの向上や保護者によるこども・若者の発達状況に応じた利用の適切な管理に関する保護者向けの広報・啓発は、これまでも各府省庁において継続的に実施されてきているが、こうした各府省庁による取組を相互に連携させながら、特定のリスクやテーマに焦点を当てたより効果的な広報施策を展開することが必要である。また、「こどもの居場所づくりに関する指針」(令和5年12月22日閣議決定)において、こども・若者によってはSNSやオンラインゲームの空間が貴重な居場所となっている場合もあると指摘されたことを踏まえ、SNS等のプラットフォーム事業者による適切な対応を求める視点も重要である。なお、青少年のインターネット環境整備については、諸外国の状況も踏まえつつ、法制上の対応も含めてしっかりと検討し、関係省庁と連携しながら、令和8年中を目途に具体的な方針を取りまとめる。
メディアによる著名人の自殺報道や事件・事故の映像などがSNS上で拡散されることにより自殺が誘発される現象(ウェルテル効果)の可能性が指摘されていることを踏まえ、報道機関等に対して、世界保健機関(WHO)の自殺報道ガイドラインの遵守の徹底を求める。また今後、こども・若者の自殺対策の観点から、SNSやAIのもたらす影響についての諸外国の対応を注視し、我が国としても積極的に国際的な議論に参画していく。
改正自殺対策基本法において、ICTやAI等の適切な活用を図りながら自殺対策が展開されるようにするとされたことを踏まえ、地方自治体や民間事業者によるICT・AIを活用した自殺対策の動向や効果等を把握しつつ、今後の取組の推進方策等について速やかに検討を行う。
-
○ 自殺手段へのアクセスの制限
自殺を予防するためには自殺手段へのアクセスを制限することが効果的とされている。高層建築物等の屋上では、防火避難上の観点から建築基準法令に基づき柵や金網等の設置を義務付けられており、屋上からの転落防止等の安全確保のため、国は所有者等に対し、法令に基づく施設設置・維持管理等の徹底を求める。
自殺未遂歴は自殺の最大の危険因子であり、若年層の自傷・自殺未遂の手段として多いのは過量服薬(オーバードーズ)と言われている。このため、自殺手段へのアクセス制限の観点から、オーバードーズ対策の推進を図る。
4.家庭環境の支援と居場所づくりの強化-こども期の逆境体験(ACEs)を減らし、肯定的体験(PCEs)を増やす-
-
○ 児童相談所・こども家庭センター等の機能強化、社会的養護施策の支援の充実
過去の被虐待経験が深刻な生きづらさを抱えることにつながる場合も含め、児童虐待はこどもの心身の発達と人格の形成に重大な影響を与え、自殺のリスク要因ともなり得ることから、児童虐待の発生予防から虐待を受けたこども・若者の自立支援まで一連の対策は社会全体で取り組むべき重要な課題である。
関係機関と連携を図り、全ての妊産婦、子育て世帯、こども・若者に対し、虐待・貧困・精神疾患などこどもや家庭が直面する困難に関わらず、出産前から子育て期にかけての切れ目ない包括的・継続的な支援を実施するとともに、虐待への予防的な対応を始めとする相談支援体制の強化等を図るため、こども家庭センター等の全国設置促進や機能強化を進める。また、児童虐待が発生した時に迅速・的確に対応することができるよう、児童福祉司等の増員や専門性の強化など児童相談所の体制強化に取り組む。また、家庭養育優先原則を踏まえつつ、社会的養護が必要となったこどもへの心理的ケアの推進を図るほか、社会的養護経験者等に対する自立支援が確実に提供されるよう、各地域における社会的養護経験者等のピアサポートを含む適切な支援体制の整備に取り組む。
-
○ 多様な居場所づくりの推進
こども・若者が安心して過ごし、小さな気持ちの変化や悩み等を話すことができ、様々な体験ができる多様な居場所が増えることは、こども期の肯定的体験(PCEs(ピース。Positive Childhood Experiences))の機会を増やすことにつながり、PCEsは、逆境的小児期体験(ACEs(エース。Adverse Childhood Experiences))の影響を緩和する可能性があることが示されている。また、こうした居場所の充実は、地域の子育て力を高め、養育者のストレスを減らし、ACEsの予防につながると期待できる。このため、「こどもの居場所づくりに関する指針」も踏まえ、予防的な段階も含め、家庭の養育環境を支える居場所や、企業も含めた民間の創意工夫を活かした多様な居場所づくりを推進する。加えて、居場所を経由して、貧困をはじめとする多様かつ複合的な困難に直面するこども・若者を早期に発見し、行政等の適切な支援につなげることができるよう、地域の支援体制を強化していく。併せて、地域・年代・家庭環境(親の意識や経済力)を問わず、全てのこども・若者の健やかな育ちを支えるため、こども・若者の体験活動の質・量の充実を図る。
オンライン空間を自殺リスクの早期把握と支援提供のインフラと位置付け、SNS相談窓口にとどまらず、メタバース等のオンラインの空間がこども・若者にとって安全で安心な居場所となるよう必要な支援と環境整備を進める。
-
○ SNS・チャット相談の実効性の向上
悩みや不安を抱えるこどもや若者の中には、家族や身近な人には相談できないという声も多く、こうした声を受け止めることのできる相談支援が必要である。民間団体の取組には、こども・若者が相談しやすいよう様々な工夫により相談のハードルを下げる先駆的な取組があるところ、こうした民間団体の強みを活かした「相談の入口」を整備していく。特に若い世代はSNS・チャットの方が利用しやすいなど、様々な相談ニーズがあることを踏まえ、効果的な取組となるよう検証しながら強化していく必要がある。
-
○ 民間団体と地方自治体との連携
こども・若者の声に寄り添い、相談のハードルを下げながら、相談内容に合わせた具体的な支援を行えるようにするため、民間団体と地方自治体が連携した相談支援の在り方について検討を行うとともに、具体的支援へのつなぎ、ハイリスク者への緊急対応、居場所づくりへの支援を行う。
5.エビデンスに基づく対策の推進
-
○ 政策の検証体制の整備
これまで、こども・若者の自殺対策は様々進められてきたものの、小中高生の自殺者数は近年増加傾向にあり、特にコロナ禍以降、女子中高生の自殺は高水準となっている。自殺対策と自殺者数の因果関係を特定することは決して容易ではないからこそ、不断に従来の政策を検証し、有効性を見極めた上で次なる対策を講じることが求められる。このため、「こどもの自殺対策緊急強化プラン」に基づく各省庁の自殺対策を検証し、施策の見直しや中長期を見据えた対策の検討を進めるとともに、こうした検証や政策の企画立案を客観的な分析や助言等を通じて支えるための恒常的な体制を整備すべきである。
また、策定から3年が経過しようとしている「こどもの自殺対策緊急強化プラン」についても、早期に見直しを図るべきである。
-
○ 自殺の要因分析のための調査研究(特に自殺未遂者)
こども・若者の自殺の要因については、自殺未遂をしたこども・若者や自殺念慮を持っているこども・若者の情報を多角的に把握・分析することが重要であることから、令和7年度の調査研究の結果も踏まえ、研究者や支援団体等と適切に連携し、「自傷・自殺未遂レジストリ」の活用など、こども・若者の自殺の要因分析を更に深化させることにより、エビデンスに基づく施策の改善に生かす。また、これまでに実施した心理学的剖検の課題も踏まえ、多角的な調査研究の在り方について検討する。
-
○ CDR(Child Death Review:予防のためのこどもの死亡検証)
CDRについては、情報の取得方法や整備体制等の様々な課題があることから、CDRモデル事業での検証が続いており、昨年度「CDRの制度のあり方に関する検討会」が政府に設置され、本格的な検討が行われている。
CDRの取組を加速するため、秋頃までの検討会での議論を踏まえた上で、刑事訴訟法第47条との関係についての整理や、調査法解剖等の活用の在り方、法整備の必要性も含めた検討会でのとりまとめやモデル事業の実施自治体数の拡大に向けた国の取組に関する工程表を令和8年度末までに作成する。その後の検討会における全国展開に向けた具体的な制度のあり方に関する議論を進める中で、工程表についても必要に応じて見直しを行う。
6.地域での危機介入策の拡充
-
○ 地域ネットワーク構築によるこども・若者支援
多様な支援ニーズを有するこども・若者が、全国どこでも必要な支援を受けられるようにするためには、教育・福祉・医療等の関係機関や民間団体・企業が連携し、顔の見える関係の下で、地域のこども・若者を日常的に見守る体制を構築することが必要である。このため、地域ネットワークの構築を図り、こども・若者やその保護者の悩みの解消に向けた取組を推進する。また、関係機関の機能分担や全体の枠組みの整備について検討を進める。
-
○ こどもの心の診療ネットワークの活用の推進
特に医療・保健分野における連携についても、SOSを出せない場合も含めて「こどもの心のSOS」を感知し、必要な支援につなげることが重要であり、あらゆる関係機関が、継続的かつ重層的なつながりを持ち、こどもや子育て家庭への妊娠期から子育て期までの切れ目のない支援を実施することで、「こどもの心のSOS」に対するセーフティネットを形成することにつながる。このため、こどもの心の診療ネットワーク事業の活用を推進することにより、自傷・自殺企図、過量服薬、問題行動などの「こどもの心のSOS」を感知し、必要な支援に速やかにつなげる体制を整備するとともに、「こどもの心のSOS」に対応できる医師が不足していることを踏まえ、児童精神科医や子どもの心の相談医の面的整備を行う。
-
○ 「地域自殺対策計画」策定・見直しの手引きの改訂
地方公共団体の長は、自殺対策基本法に定める地方公共団体の責務に基づき、主体的に自殺対策に取り組むことが求められている。また、自殺対策は、地域における様々な関係機関や団体の取組が連動性を持って進められる必要がある。何より、様々な取組が実際にこども・若者に届くことが重要であり、地方自治体が、自殺総合対策大綱の見直し等を契機に、地域の実情や課題等を踏まえて「地域自殺対策計画」を見直し、こども・若者の自殺対策や未遂者支援を強化していくことが不可欠である。また、地方自治体が計画を基にPDCAサイクルを実質的に回していけるように、国は「地域自殺対策計画」策定・見直しの手引きを改定するなど、必要な情報提供、助言を行う。
7.自死遺族支援と災害共済給付の運用改善
-
○ 自死遺族・遺児等への支援
家族や友人など身近な人の自殺により遺された人等に対する心理的ケアなど迅速な支援を行うとともに、遺族等が全国どこでも、関連施策を含めた必要な支援情報を得ることができるよう情報提供を推進するなど、支援を充実する。また、遺族の自助グループ等の地域における活動を支援する。
-
○ 災害共済給付
学校の管理下で発生した自殺事案を対象に、党の提言を踏まえ、政府において令和7年度中に災害共済給付制度(死亡見舞金)の運用改善(制度周知の徹底、保護者による直接請求の確立、自殺した「主な原因」の柔軟かつ総合的な判断等)が行われているところ、これらの措置により、高校生に係る故意要件の取扱いを含め、自死遺族への死亡見舞金の給付が適切に行われているかについてモニタリングを継続的に行っていく。