沖縄振興調査会 提言
令和9年度の沖縄振興策の方向性について
令和8年6月4日
自由民主党政務調査会
はじめに
本年は、令和4年に沖縄振興特別措置法が改正されてから5年目の節目を迎えた。
これまで与党・政府が一体となって予算を確保し、また特別な税制措置を講じ、社会資本整備や産業振興等を推進してきた結果、沖縄県民のたゆまぬ努力とあいまって、沖縄経済は着実に成長している。その一方で、未だ全国最下位である一人当たり県民所得や深刻なこどもの貧困など、解決しなくてはならない課題が山積し、また、近年全国を上回る消費者物価指数の上昇が見られる。政府においては、同法の施行状況について検証が行われているところであるが、沖縄振興調査会としても検証状況をしっかりと把握し、より効果的な施策へと見直す必要がある。
また、日米両政府が普天間飛行場の返還に合意してから本年で30年を迎えたが、いまだに返還が実現していないことについて、重く受け止める必要がある。他方で、普天間飛行場を含め、広大な基地跡地が返還される沖縄の未来をしっかりと見据えながら、沖縄振興を国家戦略として総合的・積極的に推進し、骨太な方策を講じていく必要がある。こうした観点から、自由民主党沖縄振興調査会として精力的なヒアリング・議論や現地視察を実施してきた。
これらを踏まえ、今後の沖縄振興の方向性を以下のとおり提言する。
1 強い沖縄経済の実現
強い沖縄経済の実現に向け、産業振興が要であるという認識の下、人材の育成や沖縄の強みを生かした先進的な取組を進めていく必要がある。
沖縄のリーディング産業である観光業については、令和7年度の入域観光客数が速報値で過去最高の1,093万人を記録した。また、「見せる復興」を進めてきた首里城正殿については、いよいよ本年秋に復元工事の完了が見込まれる。こうした沖縄の伝統文化や技術・芸術を活かしつつ、観光コンテンツの整備に合わせて、観光産業に携わる人材の育成などを進めることが必要である。併せて、公共交通の在り方の検討や各種社会資本の整備、そのための体制強化等を通じて、観光客の更なる増加に対応できるよう、オーバーツーリズムという課題にも対応し、沖縄観光の持続可能な発展を実現する必要がある。
地域を支えるインフラについては、昨年、本土復帰前に整備された水道管の漏水事故が発生するなど、施設の老朽化が進行していることや、北部・離島地域をはじめ沖縄において自然災害リスクが高いことも踏まえ、防災・減災・国土強靱化をはじめとした社会経済活動の安全・安心確保に向けた取組を加速させる必要がある。
農林水産業については、高付加価値化に向けた取組を含め、県産農林水産物の販売力の強化等を支援していく必要がある。そのうち、黒糖生産については、住民の生活と地域経済を支える基幹産業であることを踏まえ支援を行ってきたが、事業者の経営状況を注視しながら、糖業の自立的発展に不可欠な競争力・経営力の向上に向けた支援を行っていく必要がある。また、物価高騰が続く中、農林水産物の沖縄県外への輸送費を軽減する取組を引き続き支援するとともに、移入コストについても、県内産業への影響も踏まえながら、効果的な支援の在り方について調査・検討を進める必要がある
さらに、沖縄においてスタートアップを育成・支援すべく、地元企業や金融機関、研究機関等が官民一体となって取り組む。その際、真に有望なスタートアップに対して継続的な支援を集中させる等により、グローバルな社会課題の解決と沖縄の産業振興を図っていく必要がある。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)については、世界に冠たる日本の科学技術分野の先駆けとなるポテンシャルを秘めている。引き続き世界最高水準の教育研究活動が可能となるよう、必要な研究環境の整備などの取組支援を着実に実施するとともに、沖縄のスタートアップの約25%がOIST発となっていることなどを踏まえ、地元経済界等との連携を一層強化しつつ、研究の成果を更なる沖縄の振興につなげていく必要がある。
化石燃料への依存度が高い沖縄において、脱炭素社会を実現することは急務であり、離島における実証事業を引き続き進めていくとともに、先進的な取組への支援を進め、産学連携による技術開発や、持続可能な交通環境の構築を推進していく必要がある。
2 基地返還を見据えた取組への支援
西普天間住宅地区跡地における「沖縄健康医療拠点」は、昨年4月までにその中心となる琉球大学医学部及び大学病院の移転が完了し、今後は跡地利用のモデルケースとして、沖縄の振興に貢献していくことが期待されている。今後も、沖縄に返還される跡地が、中部地域はもとより沖縄全体の振興に結び付くよう、議論を深めていく必要がある。
広大な基地返還予定地を、沖縄が飛躍的に発展し日本を牽引するポテンシャルと捉え、那覇空港から普天間飛行場に至るエリアを価値創造重要拠点と位置づける「GW2050 PROJECTS」については、那覇空港の機能強化や成長産業創出の仕組みづくり等を柱として、真に自立した沖縄経済の実現を目指していくための方策や考え方が戦略的に示された。2050年に向けた本構想の早期実現に向けて、その具体化をしっかりと後押しをしていく必要がある。
駐留軍用地跡地の先行取得については引き続き推進するとともに、返還予定地周辺のまちづくり等を含めて、地元自治体が計画的な取組を進めることができるよう支援していくことが必要である。
また、沖縄の地理的優位性を活かし、地元の雇用創出にも大きく寄与する航空関連産業クラスターの形成を促進する必要がある。
3 条件不利地域の振興
沖縄の北部・離島については、その条件不利性に鑑み、引き続き必要な支援を行うことが求められる。
北部地域については、地域の産業振興・定住環境の整備に向けた支援を引き続き進める。また、本年3月に設立された、北部12市町村が連携する「沖縄やんばるDMO」が、「JUNGLIAOKINAWA」、「美ら海水族館」や「世界自然遺産やんばるの森」などを含め、やんばる地域の自然・文化・住民生活と調和した持続可能な観光地域づくりの司令塔として役割を担うことができるよう、支援をしていく必要がある。
離島地域については、産業振興・定住環境の整備に向けた支援のほか、小規模離島町村における子育て支援、教育環境向上の取組への支援を引き続き進める。また、離島住民の割高な移動費の負担を軽減するための取組や、離島における医療提供体制の確保に向けた取組を支援する必要がある。
4 未来を担う世代への支援
沖縄は、全国で最も合計特殊出生率が高い一方で、最も低い一人当たり県民所得や、高い母子世帯出現率及び若年妊娠率など、沖縄の未来を担うこどもを取り巻く環境は未だに厳しい状況にある。
このような状況の打開に向けて、AIを含めたデジタル技術も活用し、各種産業振興策を通じて、子育てをする親をはじめ県民の所得向上を図るとともに、これまで進めてきたこどもの貧困対策支援員やこどもの居場所等を通じた支援をしっかり進めるほか、ひとり親家庭、とりわけ母子世帯に対する支援や若年妊産婦の自立に向けた取組の充実、地域における学習・就労支援体制の強化に向けた事業等を通じて、継続的な支援をより一層充実させていく必要がある。
さらに、沖縄において、こどもが身体的・精神的・社会的に将来にわたって幸福な状態(Well-Being)で生活を送ることができるよう、教育・医療・福祉が融合した取組を展開し、実現していくことが重要であり、琉球大学における学際的な政策研究や研究結果の社会実装等を後押しするとともに、政策研究の効果的な推進体制について検討を進める必要がある。
沖縄の人口も減少が続いていることから、現下の人手不足だけでなく、人口減少社会の本格的な到来を視野に入れながら、沖縄の歴史的・地理的特性や自然環境の豊かさ、国際色に富む社会の特性なども活用し、競争力強化策や所得向上策と併せ、各界の未来を支える人材の育成・確保策を講じていく必要がある。
その一環として、国際交流の促進を通じて、外国語能力や国際理解のある人材の増加を図るとともに、沖縄の地の利を生かした外国との人材交流の活性化といった次のステップに発展していくことが期待される。