新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言
【安全保障調査会 提言】
令和8年6月9日
自由民主党
(総論)
(外交・防衛分野の抜本的強化)
(経済安全保障や認知戦対応等を含む政府横断的な取組の抜本的強化)
(予算等)
1.はじめに
現行三文書の策定以降、不安定な中東情勢も含め、国際情勢は激動を迎えている。自由で開かれた国際秩序は流動化し、大国間競争・対立の激化、紛争解決のために武力に訴える事案の増加など、安全保障環境は加速度的に変化し、より複雑かつ深刻になっている。
世界で多発する武力紛争においては、無人アセットやAI等の先端技術を活用した「新しい戦い方」が出現し、戦場の構造変化が起きつつある。また、ロシアによるウクライナ侵略が4年を越えて長期化し、防衛装備品のサプライチェーンの確保や、国民生活・経済基盤の維持を含め、長期にわたる作戦を遂行できる「継戦能力の確保」が各国にとって大きな課題となるとともに、抑止の信頼性を左右するほど重要な要素となった。これらの変化の中では、装備品を開発・生産するに当たっての思想やサイクルが大きく変容していることや、宇宙領域やAIの活用等が戦場における迅速な情報共有と意思決定を可能とし、戦況を大きく左右する要因となっていることなども大きな注目を浴びている。さらに、国家を背景とするものをはじめとした巧妙化・高度化されたサイバー攻撃が、我が国にとっても現に直面する安全保障上の脅威となっている。そして、認知戦への対応は、民主主義の根幹を支える表現の自由を守りつつ、外国からの影響工作に左右されない適切な意思決定を確保し、国際社会における我が国の立場を強化する観点からも喫緊の課題となっている。
さらに俯瞰して見れば、一部の国家はサプライチェーン支配の拡大や国際慣行と異なる鉱物資源等の輸出規制など、「経済の武器化」を進めており、自由貿易・自由競争を前提とする国際経済秩序をめぐる状況も大きく変化するなど、経済安全保障の重要性が増大している。加えて、直近の情勢として、ホルムズ海峡の事実上の閉鎖は社会に甚大な影響を及ぼしている。原油については、備蓄の機動的な活用に加えて、官民を挙げてホルムズ海峡経由ではないルートからの調達に注力し、一定の代替調達が可能となる見込みである一方、ナフサ由来の石油化学製品の目詰まりなどについて、様々な業界から声が上がっている。また、我が国は四面を海に囲まれた海洋国家で、貿易量の99%以上を海上輸送に依存している中、船舶保険なども含めて、様々な物資を輸送する民間企業が有事に際して直面する課題も顕在化している。中東で発生したシーレーンや航行の自由を巡る問題は、アジアの主要海峡で発生する可能性もあり、我が国としてもこうしたリスクをしっかり認識していく必要がある。また、科学技術の分野では、AI・量子等の先端技術のイノベーションと実装のサイクルが、経済的競争のみならず、軍事技術に革新をもたらし、国際的なパワーバランスを左右するほどの大きな影響を持つなど、技術の発展なくして安全保障が成立しない実態も明らかとなっている。
こうした中、米国の第2次トランプ政権は、あらゆる取組において米国を最優先すると宣言するとともに、同盟国と同志国が米国に頼るのではなく、米国と共に防衛力を強化することを求めるとの立場を鮮明にしている。
このように、既存の秩序や行動原理が本質的に変容し、加速度的に流動化していく国際情勢の中で、我が国は、我が国を守る一義的な責任は我が国自身にあるとの基本を改めて強く認識する必要がある。その覚悟の上で、国家の独立、国民の生命と財産、領土・領海・領空の主権、自由・民主主義・人権・法の支配といった基本的な価値観を守り抜いていかねばならず、国民の理解を得ながら、我が国の安全保障に万全を期すための諸施策を断固として推進しなければならない。その上で、望ましい国際秩序を創造すべく、国際社会において自ら主体的な役割を果たしていかなければならない。
2.情勢認識
上記のとおり、「新しい戦い方」や「継戦能力の確保」といった課題の顕在化や、「経済の武器化」への対応をはじめとする経済安全保障の重要性の高まり、技術をめぐる国際競争の激化への対応など、現行三文書策定以後の情勢変化は、まさに安全保障環境の構造的な変化であり、より複雑かつ深刻な情勢である。さらに、中露・露朝の戦略的連携が深まる中で、緊急事態において複数正面における複合的な事態の発生すら念頭におく必要がある。
政府は、新たな三文書に向けた検討において、これらに十分に焦点を当てて更なる情勢分析を行うとともに、以下に述べるような周辺国等の軍事動向や経済・技術に係る動向も踏まえ、現実を直視した情勢認識を示すべきである。
(1)中国
中国は、長年にわたり透明性を欠いたまま継続的に高い水準で国防費を増加させている。公表国防予算の名目上の規模は、1996年度から30年間で27倍となっており、中国は、この国防費を使い、軍事力の質・量を急速かつ大規模に強化している。海上・航空戦力や宇宙・サイバー・電磁波領域、「無人化・智能化」した作戦能力の強化などを加速させるとともに、核・ミサイル戦力の近代化・多様化にも注力し、量的拡大も急速に進めている。
さらに、海空域での活動を急速に拡大・活発化させている。中国軍は我が国南西諸島周辺における活動を恒常化させ、「第二列島線」に至る西太平洋の広大な海域における運用能力を向上させている。これは、いわゆる接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力を確立し、米国の前方展開能力と地域における軍事的優位性を相対化していく試みが進捗しているものと考えられる。さらに、中国は、東シナ海・南シナ海において力又は威圧による一方的な現状変更の試みを執拗に継続し、例えば、過去数年間、台湾を取り囲むような威圧的な大規模軍事演習を行い、能力を誇示するとともに、実際の作戦要領の演練を実施しているとみられる。
このような強圧的な軍事姿勢は、我が国に対してもとられており、中国海警船の尖閣諸島接続水域内の航行は常態化し、領海侵入も頻発している。また、海警船の増勢、大型化・武装化も進行している。さらに、2024年の中国軍機による領空侵犯や中国海軍空母による我が国領海に近接した海域での航行、2025年の中国軍機による自衛隊機への特異な接近や断続的なレーダー照射など、中国による軍事活動は活発化している。また、我が国周辺での無人機の活動も活発化しており、無人機に対する航空自衛隊機による対領空侵犯措置の件数も増加傾向にある。
経済面でも、中国は、自立自強・双循環の方針の下で、重要な新興基盤技術の育成と世界の対中依存強化を着実に推進している。また、他国の対中経済依存を利用し、輸出規制等の貿易措置を通じた「経済の武器化」を一層先鋭化させている。特に、重要鉱物・レアアースの輸出規制は民生品・防衛装備品のグローバル・サプライチェーンに大きな影響を与えている。更に、中国は、重要鉱物等の輸出規制のみならず、デュアルユース品目の対日輸出規制や、我が国企業を「管理リスト」「監視リスト」に含めるなど、継続的に対日圧力を強化している。
(2)北朝鮮
北朝鮮は核兵器とその運搬手段であるミサイル関連技術の開発に注力している。特に極超音速ミサイルと称するミサイルや、変則的な軌道で飛翔するミサイル、鉄道や潜水艦から発射される短距離弾道ミサイルなどの開発を急速に進め、我が国を含む他国のミサイル防衛網を突破する能力を保有しようとしている。核開発については、核兵器の小型化・弾頭化を実現し、核分裂性物質の生産も拡充している。さらに、こうした活動等の資金源獲得のため、暗号資産窃取やIT労働者の活動といったサイバー空間での活動に深く関与している。
また、北朝鮮はロシアとの軍事協力を急速に進展させ、ロシアへの弾道ミサイルを含む武器・弾薬の供与に加え、兵士をロシアに派遣した。こうした軍事協力は、北朝鮮が他国の戦争を直接支援するという前例であり、戦略的に大きな示唆を与えるものである。さらに、北朝鮮が実戦経験を積み、ミサイル能力の向上や無人アセットを用いた戦い方が軍内へ普及する可能性や、ロシアの核・ミサイル関連技術が北朝鮮に移転する可能性も否定できない。
このように軍事力強化を進める北朝鮮は、韓国に対する認識を大きく転換し、南北関係を「敵対的な二つの国家の関係」と表現している。こうした転換が朝鮮半島、更には地域の不安定化を招くおそれに留意する必要がある。
(3)ロシア
ロシアは欧州正面で大規模な軍事力をもってウクライナ侵略を継続する中、北方領土を含む極東での軍備強化を継続しており、核戦力を含む相当規模の戦力が存在するほか、戦略原潜や水上艦艇、地対艦・地対空ミサイル、戦闘機など、新型装備への更新も進展している。
加えて、ロシアは我が国周辺での活発な軍事活動も継続しており、2024年には、ロシア軍哨戒機による領空侵犯に対し、航空自衛隊の戦闘機が初めてフレアによる警告を行う事案も発生した。さらに、最近では、ロシアは中国と共同の軍事活動を我が国の周辺で実施しており、日本海での海軍の共同演習等の各種演習、爆撃機の共同飛行、艦艇の共同航行などを通じ、両国の戦略的連携を強化している。
(4)経済・技術
経済・技術分野では、近年、国際経済秩序の動揺と自国優先主義の先鋭化、大国間の技術開発競争激化、特定国によるサプライチェーン支配の深刻化という3つの潮流が生起している。国際経済秩序が機能不全に陥り信頼が低下する中で、自国優先主義が先鋭化するとともに、米国・中国といった大国間の技術開発競争の激化に伴って、科学技術・イノベーションが競争力や安全保障の鍵を握るとの認識に立ち、主要国は大胆に政策の再構築を進め、トップ人材の獲得を戦略的に加速している。一方、複数の核心的な技術分野において、特定国が、我が国より優位にあり、国民生活や経済運営に不可欠な技術分野を他国に依存する例も一層増加している。更に、重要な新興基盤技術の育成強化や、ヒト・モノ・カネ・サイバー攻撃等も活用して技術を窃取しようとする試みが巧妙化している。
3.我が国の安全保障を確保するためのアプローチと国民の理解
(1)国を挙げた安全保障の取組
上述のとおり、我が国は、外交・防衛面のみならず経済・技術面を含めて、あらゆる面において、「力が物を言う」時代に直面している。こうした安全保障環境の中で、我が国が国際社会において発言力・影響力を持つとともに、国民の生命・身体・財産を守り抜くためには、国家安全保障の車の両輪である「外交力」と「防衛力」を強化する取組が引き続き肝要となるが、これを支える「経済力」や「技術力」の強化を進めていく必要があることも当然の結論である。さらに、これらが効果的に機能を発揮するための「情報力」と「人材力」を合わせた6つの要素を有機的に連携させていくことが重要である。安全保障上の課題が多様化し、有事と平時の境目や軍事と非軍事の境目が一層曖昧となる中、日本全体の国力を強化し、まさに国を挙げて安全保障上の目標の実現に取り組んでいくことが必要となっている。
(2)国民の理解
国を挙げて安全保障上の目標の実現に取り組む観点から、以下に提言する様々な分野の取組を進めていくためには、国民の理解を得ることが不可欠である。我が国が直視しなければならない安全保障環境の厳しさはもとより、国民の生命・財産と我が国の平和と繁栄を守り抜いていくために必要な政策、そしてその実現のために克服すべき課題も含め、政府・与党として丁寧に説明を行い、理解を得ていくよう努めなければならない。
4.積極的な外交の展開
現行三文書においても、安全保障に関わる総合的な国力の主な要素として、外交力を第一に挙げ、我が国に望ましい安全保障環境を能動的に創出するための力強い外交を展開することとしている。こうした考え方は引き続き重要であり、まず優先されるべきは積極的な外交の展開である。
我が国が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」というビジョンを提唱して10周年となるが、とりわけ近年においては、AI・デジタルなどの加速度的な技術革新とその覇権争いといった変化に加え、「アメリカ・ファースト」が浸透している米国のアプローチの変化、既存の国際秩序に挑戦する中朝露の連携の深化により国際的なルール作りにおいて従来の役割を果たすことが難しくなっている欧州、国際社会における責任を十分に果たせないグローバル・サウスといった国際環境の潮流が生まれており、こうした潮流に対応すべく我が国の目指すべき外交の方向性を定めていく必要がある。とりわけ、紛争解決のために武力に訴える事案が増加しているという世界的な現象は、インド太平洋地域にとっても「対岸の火事」ではない。
こうした状況の中で大局的に目指すべきは、自由で開かれた国際秩序を守る外交である。我が国は米国・欧州の双方から戦略的連携の強化を望まれる立場にあり、また、長年のグローバル・サウスとの良好な関係をも活かし、我が国が自由で開かれた国際秩序づくりを主導していくべきである。そのためにも、我が国としては、防衛力を含む日本全体の国力を早急に高め、また、特定国に依存しない経済安全保障面の取組を進めることにより、日本の国際社会における立ち位置を強化すべきである。
激動の国際環境においても、世界最大のパワーを有する米国の重要性は変わらず、日本の外交・安全保障の基軸は日米同盟であり続けるべきであると同時に、開かれた国際秩序の維持に利益を共有する欧州との連携も重要である。
とりわけ、インド太平洋地域の平和と安定のためには米国の関与が不可欠であり、米国をつなぎとめるためにも、日米韓、日米豪、日米比、日米豪印等の同盟国・同志国間の枠組みを推進する必要がある。また、インド太平洋地域における秩序については、日本がより大きな役割を果たすとの考え方の下、ASEAN諸国、豪州、インド、太平洋島嶼国、欧州諸国等との関係も強化すべきである。特にASEAN諸国等との協力に重点をおきながら、FOIPの取組も戦略的に進化させ、インド太平洋地域の各国の自律性・強靱性を高める取組を重点的に進めることが重要である。一国のみで自律性を確保することが現実的に困難となる中で、同志国間で戦略的に国際分業のパートナーシップを構築すること、また、外部からの「経済の武器化」等の脅威によって国益が脅かされる場合に集団的にその影響に対応することが必要となってきているところ、従来の同志国との連携を「集団的自律性」(collective autonomy)の確保に向けた取組として位置付け、外交戦略に経済安全保障的な要素をこれまで以上に意識的に取り込んでいくことも考えていかなければならない。
また、経済的な威圧が横行する中で安定的な経済活動が出来る環境・ルールが求められることを踏まえ、経済安全保障の考えを取り入れた新たな国際経済秩序や国際ルールの形成に向けた取組を主導すべきである。具体的には、CPTPPなどのこれまでの同志国のネットワークを戦略的に強化することに加え、新たな国際貿易体制・ルールの形成についても議論を重ねていく必要がある。 この観点から、まずはアンチダンピングなどの貿易救済措置等、我が国が積極的に活用してきたとは言い難い既存のルールを徹底的に活用しなければならず、そのため、貿易救済措置等の実施体制を諸外国と遜色ない水準に強化することが重要である。さらには、データ基盤や重要鉱物のサプライチェーン強靱化をはじめとする分野別のアプローチを拡大・深化するとともに、新しい経済基盤(エコシステム)を構築していくことも重要である。
さらに、国際秩序を支える主体として、国際機関を積極的に活用するとともに、経済安全保障を更に推進する観点から、新たな国際機関の設立を主導することも視野に入れるべきである。例えば、2025年12月に行われた経済安全保障・東京フォーラムを礎に、「経済安全保障版シャングリラ会合」を日本が定期開催し、新たな国際機関の設立を主導する第一歩とすべきである。
こうした新たな国際秩序を世界に唱道していくには、その担い手となる人材の育成・展開も不可欠であり、国際機関の邦人幹部人材の拡大に加え、ビジネスリーダーを含め「世界で勝負できる人財」の育成を急ぐべきである。日本の地位向上や発信力の強化に繋がるよう、経済安全保障の視点から見て重要なポストの特定と獲得に向けた支援の強化に加え、国際機関幹部候補のキャリアトラックを公務員の中で作るべく公務員制度を抜本的に改革するとともに、民間やアカデミアの人材発掘を強化すべきである。
そして、FOIPの下での自律性・強靱性を高める取組は、安全保障分野においても進めていくことが必要であり、地域の平和と安定のための連携を拡大するため、グローバル・サウスを含む幅広い国々を安全保障上のパートナーと位置付け、安全保障・経済安全保障に資するODA・OSA双方の規模を拡大しつつ外交ツールとして強化し、さらに、新設されるOESA[1]や防衛装備移転などと有機的に組み合わせ、国・地域のニーズを踏まえた戦略を検討することが重要である。特に、現行の国家安全保障戦略を受けて創設されたOSAは、インド太平洋地域の同志国の自律性・強靱性の向上に貢献しており、OSAを質・量の両面で更に拡充すべきである。こうして積み上げた同志国との関係は、有事の際の同志国との協力の可能性を高める。
加えて、世界各国で紛争が頻発していることや感染症などのリスク等を踏まえ、政府全体として大規模な邦人等の保護や退避、また、避難民に対する支援が生じた際への備えを入念に行うべきである。在外公館は在外邦人を護る「最後の砦」である。在外邦人保護を更に充実させるために、あらかじめ在外公館の人員・機材を含む体制を強化するとともに、有事の際に必要となる予算を十分に確保できるようにしておくべきである。
また、我が国の信頼を守り抜き、認知戦を戦い抜くため、政策発信・広報と文化外交・魅力発信を双翼と位置付け、戦略的対外発信を一層強化することが死活的に重要である。認知戦への対応を含めた情報収集・分析の強化と戦略的対外発信の強化といった後述する重要な課題も踏まえた上で、必要な予算を十分に確保することを含め体制強化に努めるべきである。
こうした取組を進め、外交・領事実施体制を含む外交力を抜本的に強化しなければならない。
5.我が国自身の防衛努力
防衛力は国家安全保障の最終的な担保であり、「新しい戦い方」への対応や継戦能力の確保は、我が国にとっても喫緊の課題である。更に、我が国においては今後も人口減少と自衛官の募集難の傾向が続くという中で、防衛力を高度に自律的で強靱な能力を発揮できるものへと変革していかねばならない。そのため、既存の装備品や組織体制を徹底的に見直しつつ、防衛力の変革に向けた必要な組織体制の抜本強化を断行すべきである。
(1)ネットワーク連接やAIを活用した迅速な意思決定の確保
「新しい戦い方」は、前線部隊や無人アセット、人工衛星などをネットワークで連接して情報をリアルタイムで共有し、収集した膨大なデータをAIで処理・分析することにより意思決定を迅速化する形で行われている。
こうした状況を踏まえ、我が国も、AIを活用した情報収集・分析能力の高度化を進めるとともに、必要なデータをリアルタイムに伝送・共有するための高速大容量のネットワーク、大量のデータを蓄積するためのデータ基盤の整備・活用を通じて、情報収集・分析・意思決定のサイクルを迅速化することが急務である。
また、大量かつ多様な無人アセットを効率的に運用するためのAIを活用した指揮統制システム等を早急に整備し、迅速な意思決定を可能とするべきである。その際、指揮統制システムへの電子防護能力の付与も併せて実施していくべきである。
なお、インテリジェンス能力の構築にあたっても、部隊運用に必要な情報を迅速に提供できるようにするため、AI活用を含むデジタル基盤の整備・活用や、指揮統制システムとの関係の在り方を設計時点から検討すべきである。
(2)無人アセットの大量運用と用途の拡大
ウクライナの戦場では、無人アセットが戦闘様相に大きな変化をもたらしている。無人アセットと弾道・巡航ミサイルを組み合わせた複合攻撃や、高価な装備品に対する非対称的な攻撃をはじめ、その用途は、偵察・観測、補給、通信中継といった機能面でも多様化している。また、無人機の生産規模は急増し、ウクライナ・ロシアの無人アセットの年間生産量は数百万機と指摘されるほか、米陸軍長官は今後数年以内に少なくとも百万機の無人アセットを調達する計画を明らかにした。
このように多様な無人アセットを大量に導入し、従来の装備品とも組み合わせつつ、目的や戦況に応じて如何に臨機応変に運用できるかが鍵となっており、我が国の周辺国や地域においても、多種多様な無人アセットの開発・取得や生産基盤の拡大が加速している。我が国は、想定される作戦様相の大きな変化や我が国の地理的特性を踏まえながら、長距離運用が可能なものも含めて多様な無人アセット(UGV・USV・UAV・UUV)の導入を大胆かつ迅速に推し進めるとともに、有人アセットと無人アセットのベスト・ミックスを実現すべく、自衛隊の適切な組織体制を含めて、無人アセットに係る施策を大胆に検討し、早急に実施に移るべきである。このため、国内における量産基盤を早急に構築するとともに、高度に自律的な無人アセットを実現すべく、AIとロボティクスはトップ・プライオリティで積極投資を進めるべきである。
また、無人アセットの有事における運用はもちろん、平素における自衛隊の訓練や装備品等の試験において、電波法等の各種規制により実施に制約が課せられて十分に行えていないという問題がある。こうした問題に対応するため、各種規制の緩和・撤廃や迅速な調整など、法令に関する整理を含め政府一体となって早急に取り組むべきである。
さらに、我が国としても産学官一体となって先端技術の研究開発に重点的に投資するとともに、民間企業の防衛部門と民生部門の連携を促し、さらにはスタートアップを含めてデュアルユース技術を有する民生企業等の研究開発・量産設備投資を促進することにより、国産無人アセットに係る防衛イノベーションエコシステムの構築を進めるべきである。また、無人アセットの開発・実証を行うための特区の活用等も含めて施策を考える必要がある。
(3)スタンド・オフ防衛能力・反撃能力の更なる強化
スタンド・オフ防衛能力については、既に外国産ミサイルの取得及び国産ミサイルの配備が開始された。スタンド・オフ防衛能力は、我が方の人的損耗を局限しつつ、我が国に侵攻してくる艦艇や上陸部隊等に対して早期・遠方の対処を可能にするものであり、我が国への侵攻自体を躊躇させるものである。
また、スタンド・オフ防衛能力等を活用した反撃能力は、相手の戦略的・戦術的な計算を複雑化させ、日本にミサイルを撃ち込もうとしている相手に、目的を達成することは容易ではないと思わせることで、抑止効果を大きく高める極めて重要なものである。こうした観点から、スタンド・オフ防衛能力は、我が国の抑止力を向上させる鍵であり、その整備を加速・強化し、必要かつ十分なミサイルの量の確保や射程などミサイルの質の向上を進め、情報収集をはじめ当該能力を効果的に発揮する態勢構築も含め、着実に配備を進めることが不可欠である。
加えて、長射程ミサイルを運用するVLS搭載潜水艦は、水中における高い残存性を特徴とし、事態が継続する間、相手の計算を複雑化し続けられるなどの観点から抑止力の質を安定的なものに転換させるものと言え、次世代の動力の活用を含め、その保有に係る施策を速やかに検討すべきである。
(4)複合的な攻撃に対する防空能力の構築
伝統的なミサイル・航空機から、無人アセット・極超音速兵器まで、経空脅威は益々多様化している。ウクライナ侵略において、ロシアは侵略開始以降、既に一万発を超えるミサイル攻撃を行ったとされているほか、近年では大量の無人アセットとミサイルを組み合わせた大規模攻撃が行われ、ウクライナ軍の防空能力への継続的な負担になっている。インド太平洋地域でも、例えば、中国は地上発射型の射程三百キロメートル以上のミサイルを三千発以上保有しているだけでなく、近年では防空網突破能力の高い極超音速滑空兵器等の配備や、多様な無人機の配備を急速に進めている。
このような多様化・深刻化する弾道ミサイルや無人アセット等の経空脅威からの防衛に万全を期すため、統合防空ミサイル防衛能力を強化することの重要性は一層増している。特に、ウクライナでも見られているような大量飽和攻撃に耐え得る体制を構築する必要がある。
この観点から、戦闘が長期化しても対応できる体制構築を見据えてPAC-3MSEやSM-3ブロックⅡA、中SAMといった主軸となる防空ミサイルの整備を加速し、各種ミサイルの「量」を確保するとともに、HGV等のミサイルの脅威に対する迎撃ミサイルの開発・整備を着実に進めるべきである。
また、高価な迎撃ミサイルのみに依存しない防空体制を構築すべく、高出力エネルギー兵器や迎撃UAV等の効率的な迎撃手段に関する研究開発や早期装備化を推進し、デコイの導入や部隊・装備品の分散配置、施設の抗たん化等の消極防御に係る取組も進めるべきである。
(5)宇宙・サイバー・電磁波領域を含めた全領域での統合作戦能力
宇宙・サイバー・電磁波領域は各種運用の根幹であり、これらの領域での優越を確保し得る能力発揮の基盤を強化することは、意思決定の優越の確保の観点からも極めて重要である。
ウクライナでは、民間衛星を含めた衛星網の活用が戦場における通信・情報優位を左右するほど重要になっている。また、観測衛星から得られる画像や電波、PNT(位置・航法・時刻)衛星が提供する位置情報は、標的設定や索敵のための基幹インフラとなっている。一方、宇宙空間における脅威・リスクが高まっていることから、我が国としては、宇宙利用の拡大のみならず、宇宙空間・宇宙システムの安全かつ安定的な利用の確保といった取組を、同盟国・同志国とも連携しつつ、加速する必要がある。
防衛省・自衛隊においても、衛星コンステレーションを含む宇宙システムを利用し、移動目標の探知・追尾を含む警戒監視能力やターゲティング能力等の強化や、更なる電波収集能力の強化を進めるとともに、民間衛星の活用を含む多層的で抗たん性の高い衛星通信網を段階的かつ重層的に構築すべきである。同時に、宇宙領域監視(SDA)能力及び機能保証に係る能力を一層強化し、耐傍受性・耐妨害性の確保等により強靱化を図るべきである。その際、電波収集等も含めたSDA衛星の推進にも注力すべきである。
サイバー領域においても、官民双方の継続的な能力構築と国際連携が不可欠になっており、防衛省・自衛隊としても、昨年成立したサイバー対処能力強化法等の着実な実施、とりわけ、能動的サイバー防御の実効性をさらに確保するための取組を進め、同盟国・同志国との情報共有や協調等を通じて、サイバー攻撃による作戦遂行妨害を防止すべきである。
このためにもサイバー人材の育成が急がれており、政府が人材を採用するに当たっては、サイバー人材のキャリアパスを充実させるために必要な取組を検討するとともに、これまでの国家公務員の人事制度・給与体系に捉われず、諸外国の例も参考にしながら、優秀な人材を確保すべきである。人材の育成に当たっても、自衛隊員の若年層からの教育や、官民間の人材の流動性を向上させるための取組を進めなければならない。
電磁波領域においても、各種アセットの電子戦能力を向上させつつ、レーザーや高出力マイクロ波等を活用したドローン対処など、電磁波の利用方法を拡大し、早期装備化を推進すべきである。
一方、宇宙・サイバー・電磁波領域は、陸・海・空の従来領域のアセットの戦力発揮を含めた全領域での統合作戦を実施し、相乗効果によって全体の能力を増幅させることにこそ意味がある。ウクライナにおいても、こうした組み合わせが進化することにより新たな戦闘様相が展開されている。こうした観点から、最後の砦となる陸上防衛力はもとより、海上優勢・航空優勢を維持・強化するための艦艇・戦闘機等の着実な整備を進めつつ、無人アセットやAI等の新技術、宇宙・サイバー・電磁波領域の能力と、従来領域の既存のアセットを効果的に組み合わせたベストミックスを検討し進化させることが重要である。
(6)太平洋・シーレーン防衛の強化
現下の安全保障環境等を踏まえると、南西地域に加え、太平洋側の防衛体制の強化の重要性が一層高まっている。特に、太平洋側においては防衛上の「空白」が存在することも踏まえれば、ウクライナ侵略のような長期戦という事態に陥った場合、継戦意思を挫くことを企図して、特に太平洋側から我が国に対する攻撃が行われることもあり得る。このため、例えば太平洋側へのレーダーの配置を含め、太平洋側における防衛上の「空白」を解消し、太平洋側からの攻撃に対しても万全の対応を行い得るよう、対処力、指揮統制・通信、展開・運用基盤を一体として整備する必要がある。太平洋側の防衛を強化することは、米本土等からの米軍の戦力投射を確保することにも資するものであり、日米同盟の抑止力・対処力を担保するものとなる。
加えて、四面環海の我が国は、衣食住を構成する原材料のほとんどを海上交通路・シーレーンを通じた海外輸入に依存しており、有事にあっても、民間船舶が安全に通行できる状態を維持することは、国民生活を支える上で重要である。シーレーン防衛にあたっては、戦略的寄港などの平素からの取組を進めつつ、広大な海域をカバーする必要を踏まえ、米国や豪州、欧州、アジア諸国等の同盟国や同志国と連携の上で、自衛隊として果たすべき役割が何かを検討すべきである。
(7)継戦能力の維持・確保
2022年2月に始まったウクライナ侵略は既に4年を超え、あらゆる種類の装備と弾薬が大量に消費されている。ウクライナの経験は、継戦能力の重要性を物語っており、事前の備蓄等も含めて、こうした高消耗・長期化を前提とする「新しい戦い方」への適応が問われている。
他方、これまでの我が国の防衛力整備の考え方は、高消耗・長期化への対応を想定していたとは言い難く、有事においては、各種物資の調達に重大な支障が生じ得ることや、同盟国・同志国からの支援の到着には一定の時間を要し、国内での緊急増産も一朝一夕には可能とならないことなど、現実を看過してきた。
今後はこうした現実を直視し、我が国としても、抑止力を構成する重要な要素として継戦能力を確保していくことが肝要であり、有事が発生すれば長期間継続することも現実的にあり得るという発想で備えを構築すべきである。こうした観点から、平素から、弾薬・部品・燃料・糧食などの十分な備蓄の積み増しや保管体制の整備を進めるとともに、有事増産も見据えた防衛産業の規模と能力を確保することが極めて重要である。また、あらゆる事態に対応するための自律性・強靱性を確保していくため、物資・施設、輸送力、人的基盤・衛生機能、装備品の生産・維持整備など様々な観点から、少なくとも年単位での継戦能力を確保しておくことが必要である。また、施設、部隊、隊員のCBRN(化学・生物・放射性物質・核)対処能力等の向上も重要である。
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(弾薬・資機材等の確保と防衛施設の強靱化)
現在、弾薬等の確保や可動数向上のための維持整備、さらには施設の抗たん化、火薬庫の確保等の取組に従来にない資源を振り向けて強力に取り組んでいるが、こうした施策を引き続き推進・強化すべきである。その際、顕在化した消極防御の重要性を踏まえ、司令部の地下化や施設の抗たん化はもとより、装備品や施設の分散・隠蔽・欺瞞・代替といった様々な方策を組み合わせるべきである。
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(輸送力の強化)
自衛隊が作戦を実施する上で、部隊や物資を速やかに展開するため輸送力の強化が不可欠である。船舶の運航を担うべき自衛官及び予備自衛官の確保に課題がある中、既存のPFI船舶の活用を含めた更なる民間力の活用を民間とのコミュニケーションを常に深化させつつ進めることに加え、民間における無人運航技術の実証の成果等も活用しながら、自衛隊における自動化・省人化・無人化された輸送船舶の導入を進める必要がある。同時に、物資の事前備蓄により輸送所要も軽減すべきである。
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(人的基盤・衛生機能強化による継戦能力強化)
継戦能力強化の観点からは人的側面も考慮すべきである。有事対応に十分な人員を確保するため、予備自衛官等が現在十分に充足されていない状況を改善すべく、その確保に更に取り組むとともに、有事における自衛官の募集や急速練成の要領を確立すべきである。
同時に、人的損耗を局限する戦い方を実現するとともに、衛生職域は後方職域ではなく最前線の職域であると発想を転換し、特に第一線救護の質の向上を含め、衛生機能を変革する必要がある。負傷した隊員を確実に後送できる態勢を整備するとともに、有事が長期化しても対応できるよう、同盟国・同志国との協力に加え、対外依存度が高くサプライチェーン・リスクのある医薬品や血液製剤、衛生資器材の確保・備蓄を進めるべきである。また、心的外傷後ストレス障害や四肢等に障害を負った隊員へのサポート体制の整備や、隊員が多数負傷した場合に備えた官民連携による病床・医療人材の確保、衛生分野における研究の充実等を一層積極的に進めるべきである。また、これらの取組を通じ、医官のキャリアパスの魅力化を図ることについても検討すべきである。
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(装備品の生産・維持整備)
ウクライナの戦場では、いわゆるラピッド・イノベーション・サイクルと呼ばれる手法が頻繁に行われている。例えば、一方が相手のドローンへの妨害手段を見つけて対処すれば、もう一方は現場部隊と製造企業の間で速やかに情報共有して仕様を改善し、数週間で再び投入するという戦い方が日常的になっている。こうした従来の装備品開発の流れとは全く異なる極めて速い装備品の製造サイクルとエコシステムを我が国においても実現すべく、防衛省の調達の在り方や部隊と防衛産業との関係を含め、大胆な施策を講じていく必要がある。
同時に、長期戦においては、同盟国・同志国との防衛装備協力は重要である。同盟国・同志国との間での装備・弾薬の共通化・互換性向上に係る取組を一層進めるとともに、有事における協力も念頭において、二国間・多国間での装備品の生産・供給分担や共通の整備・補給基盤の確保といった取組を推進することは死活的に重要である。
6.人的基盤強化・組織定員改革
我が国の防衛力の中核は今後も自衛隊員であり、防衛力の変革の実現も「人材力」に拠るものであるところ、自衛隊員の能力を最大限発揮できる環境を構築すべきである。同時に、自衛官の募集対象人口は約20年後には約3割減と推計され、中途退職者も2024年度では採用者の半数相当に上るという厳しい現実を直視し、自衛官の現員減少は回避困難な大きな課題との認識の下、組織定員や装備品の在り方など戦力そのものを見直すことが不可欠である。
このため、まずは「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」を踏まえ、自衛隊員全体として、募集強化、給与体系の独自見直しなどの処遇改善、自衛官として培った経験や能力を活かし自衛隊の活動の基盤強化に資するような業界への再就職を含む退職自衛官の再就職支援、組織文化改革などの強力な推進が不可欠である。また、自衛官の任務負担が増える中で、どのようなインセンティブの付与を行い得るか検討すべきである。
加えて、エンゲージメント向上、採用制度を含む人事制度等の柔軟化、語学等の各種教育支援を含む自衛官の職業としての更なる魅力化や、社会的地位の向上を図るとともに、更なる定年延長や事務官への転官も含め、自衛官がより長く活躍できるための施策を検討すべきである。この際、米国の大学等における予備役将校訓練課程に類する制度等が、将来の幹部人材や高度専門人材の計画的確保に資する可能性がある。また、社会的地位向上については、国民に自衛官の職務の重要性が広く理解され、自衛官及びその家族に感謝や敬意が示される社会となるよう、福利厚生面を含め、自衛官及びその家族に対する施策の検討を進めるべきである。
さらに、事務官・技官も自衛隊にとって不可欠であり、自衛官と共通的な人事システムの導入による戦略的な人事管理やエンゲージメントの向上等を推進すべきである。
その上で、不可避的な人口減少に伴う現員減少の現実を直視し、これに対応するため、AIやロボティクスによる徹底した省力化・省人化・無人化を通じてより強固でスマートな自衛隊へと変革すべきである。また、アウトソーシングの一層の活用等により管理業務に係る人員配置を抜本的に見直すべきである。このような取組を進める中において、必要な場合においては、既存の駐屯地・基地等の整理を進めること等を検討することもやむをえないものと考える。アウトソーシングを進めていくにあたっては、物資輸送をはじめとし、有事の際に自衛隊が必要とする業務継続が担保されるよう、予備自衛官を含む退職自衛官の活用や、民間企業への支援策をはじめとする制度面も含めて、総合的に検討する必要がある。
また、2025年3月に創設された統合作戦司令部を中核とする新たな統合運用体制の中で、従来の陸海空の縦割りから脱却することが不可欠である。この認識の下、中間司令部の数を減らし、少ない結節により陸海空自衛隊が有機的に行動できるような、真に効率的・効果的な組織構造を実現すべきである。このような取組は、第一線で活動する要員を確保することにも資する。
同時に、複雑な安全保障環境に対応するには、防衛省本省における政策立案機能の強化が不可欠である。とりわけ、防衛協力・交流、新領域への対処等、防衛省本省が対応すべき政策課題は増加の一途を辿っており、現在の防衛省本省の体制では明らかに不十分である。政策立案機能の強化により、迅速な政策実現を可能とするため、従前の考え方にとらわれず、新たな局の純増を行った上で、全体として体制を強化すべきである。この際、自衛官の十分な確保に加え、事務官・技官等の増員など組織体制の抜本的強化や人的基盤強化、退職自衛官の活用拡大を進めるとともに、防衛生産・技術基盤の強化と防衛装備移転を一体的に支援する法人等の設立も含め、従来の延長に留まらない大胆な施策を含めて検討を進め、防衛省・自衛隊の体制を見直し、全体として変革していくことが必要である。
7.防衛生産・技術基盤、防衛装備移転
自衛隊が粘り強く戦い抜くためには、継戦能力・抑止力の要として、防衛生産・技術基盤を抜本的に強化していく必要がある。従来、政府は事業者の撤退防止等の観点から取組を進めてきたが、現下の厳しさを増す安全保障環境、そして長期戦への備えという観点から、業界再編も視野に、平時所要を前提とした従来の国内生産体制を転換し、必要な性能を有する装備品等が、必要な時に適正な価格で供給されるよう、デュアルユースの生産・技術基盤の強化・活用も含め、有事を耐え抜くことが可能な防衛産業への変革を実現することが必要である。このため、例えば、国の監督の下、国内の防衛生産基盤の強化、防衛技術基盤の強化、装備移転の推進を一体的に支援するため、上記のように、法人等の新たな組織を設立し、必要な人材・予算の確保や出融資を含む支援ツールなど、これまでに例のない形での体制整備を進めるべきである。
(1)国内における防衛生産基盤
まず国内における防衛生産・技術基盤強化策として、諸外国における国有施設民間操業(GOCO[2])や政府出資等の制度も参考に、政府の役割の拡大を含め、有事の増産能力やサプライチェーンのリスク対応力の強化に資する法整備を検討すべきである。また、継戦能力の強化の観点から、防衛産業の操業継続確保のための支援、製造手段・場所等の制約要因の除去、装備品・弾薬等の製造に必要な重要鉱物等の確保等により、装備品等の製造・維持整備が行われる土台を整え、有事の増産を見据えた防衛産業の製造能力強化を進めることが重要である。
また、防衛装備品等の製造能力を維持・向上させるべく投資を促進するためには、防衛産業が長期的な投資に値する産業であると認められる環境を構築することが必要との観点から、防衛需要の見通しや予見可能性を高める取組が不可欠である。加えて、小型ドローンのようなデュアルユース技術を活用する装備品や部品・部素材については、民生用の生産ラインを有事に防衛用途で活用するといった発想も含め、平時からの生産・技術基盤の強化策も重要である。この際、政府からの表彰をはじめ、優れた装備品等を開発・生産した企業がマーケットから評価される取組や社会的地位を向上させられる取組も検討すべきである。
さらに、特にサプライチェーン上・中流の基盤強化のため、地方自治体や金融機関と連携した新規参入促進や、取引適正化や設備投資・研究開発支援策等の中小企業政策の活用を進めるべきである。同時に、防衛関連投資に対する忌避感を軽減するため、防衛関連投資の必要性・意義を政府自らが発信するとともに、政府系金融機関等による積極的な取組を進めるべきである。加えて、重要鉱物などの供給途絶リスクを有する物資の安定供給確保のため、鉱山開発等の供給源多角化の取組や、防衛調達における速やかな供給源切替えを進めるべきである。
(2)防衛技術基盤
科学技術力は国力の源泉であり、新しい戦い方を実現する防衛装備品の研究・開発を推進することにより、その中で育成・強化された技術力は我が国全体の国力の向上にもつながるものである。海外では最先端科学技術を迅速に防衛分野に取り込んでいく取組が先行する中で、我が国としても国立研究開発法人、大学、スタートアップ、非防衛企業との連携を強化することが重要である。このため、防衛上必要である分野に関し、国立研究開発法人や大学の研究基盤の整備や、防衛ニーズに基づく挑戦的な目標設定により科学技術の牽引にも繋がる研究、デュアルユース技術の研究推進により、革新的な技術を発掘し、育て、成果を社会に還元するエコシステムを構築し、防衛イノベーションのための取組を追求すべきである。その際、秀でた技術を持つスタートアップが、資金力や信用力といった既存の防衛分野への参入障壁に阻まれないよう、防衛省の調達規則や契約制度を柔軟化するとともに、スタートアップに対する伴走支援や出融資等を強化すべきである。また、在外公館を最大限活用した海外企業等との連携も進めるべきである。なお、かかる最先端科学技術の取り込みにあたっては、経済安全保障の観点から技術流出防止が重要であることを鑑み、デュー・デリジェンスの実施などの研究セキュリティの確保について十分に配慮することが必要である。加えて、防衛分野に裨益し得る研究に研究者が躊躇なく参画できるよう、関係府省庁が協力して国立研究開発法人や大学に働きかけるとともに、研究者を様々な働きかけから守る仕組みについても明確化・周知していく必要がある。
こうした取組により、防衛調達による最先端科学技術の育成・取込みと市場拡大を実現する防衛イノベーションエコシステムを構築しなければならない。
この際、防衛への投資は、単に消費される「コスト」や、財政を圧迫する「赤字要因」としてのみ捉えられるべきものではなく、防衛生産・技術基盤の強化や研究開発への投資が、防衛力を支えると同時に、デュアルユース技術の創出や先端産業の育成を通じて、日本経済に貢献する「未来への投資」としての側面を有していることを認識すべきである。この観点から、政府は、防衛力強化を一義的な目標としつつ、その過程において得られる技術、人材、生産基盤が日本経済に波及する効果を一層意識し、研究開発、調達、実証、海外展開等の施策を戦略的に組み合わせて推進すべきである。
(3)防衛装備移転
近年の我が党の防衛装備移転に関する方針は一貫しており、防衛装備移転を推進することで我が国にとって望ましい安全保障環境の創出が可能となるという考えに基づくものである。とりわけ、昨今、豪州やフィリピンに代表されるように、我が国の装備品に対するニーズが高まっており、こうした国々との協力は、同志国連携を一層緊密なものとし、相互運用性を向上させ、地域の抑止力を一層高めることに資する。さらに、現下の情勢に鑑みれば、防衛装備移転を促進することは、平素の国内生産能力の強化や、同盟国・同志国との備蓄の共有、共通の整備・補給基盤の整備にもつながり、最終的に有事の際の継戦能力を確保するための有力な手段となる。こうした観点から、次期三文書の検討において、「有事への備えを万全にしてこれを抑止するために必要不可欠な政策手段」としての意義も加えて再定義するとともに、今般の5類型の見直しも踏まえ、防衛装備移転をより積極的に推進すべきである。
また、防衛装備移転は、我が国の安全を確保し、インド太平洋地域の平和と安定を支えるための重要な政策的手段であることから、自衛隊の中古装備品の移転に係る期待も踏まえ、自衛隊法第116条の3に規定する無償譲渡等の対象に、自衛隊が保有する「武器」を加えるべきである。
他方、防衛装備庁をはじめとして、官民ともに防衛装備品の海外移転促進に向けた体制が十分ではない中で、今後は、移転先拡大やサプライチェーン協力の強化、装備移転に係るニーズの把握からオフセットの調整、移転先に対する運用・維持整備等の教育支援に至るまでの相手国政府や企業との調整など、業務の大幅な増加が見込まれる。これらに対応するため、官民の体制や連携の強化が必要であるとともに、装備移転を戦略的かつ効率的に推進するため、司令塔機能の強化を含む政府全体の体制の整備を行うべきである。また、防衛装備移転を推進する上で、企業のレピュテーションリスク等の懸念を払拭する仕組を設けることや、在外公館等を最大限活用しながらOSA等の支援ツールと有機的に連携すること、相手国へ融資する体制を構築することが重要である。
8.地域コミュニティとの連携
自衛隊の部隊配備・施設整備等や在日米軍の安定的な駐留や円滑な訓練の実施については、国民の幅広い支持と理解が不可欠であり、地域社会との連携が極めて重要である。自衛隊・米軍の活動が増大・多様化する中で地域社会の理解・協力を引き続き得るため、周辺地域の生活環境の整備等の各種施策をより充実させるとともに、地元調達にも十分な配慮を行うべきである。
同時に、日米同盟の抑止力・対処力を強化しつつ地元負担軽減を図るため、日米で連携して訓練移転を含め在日米軍再編等に全力で取り組むことは不可欠である。特に在日米軍専用施設・区域が集中する沖縄の負担軽減は重要な課題であり、米軍施設・区域の返還等を一層推進していくべきである。
自衛官数の減少は防衛施設が所在する地域社会に少なからぬ影響を及ぼし得るものの、部隊再編や定員見直し等が不可避であることを踏まえれば、大幅な定員減や駐屯地・基地等の整理を行う場合は、その規模や時期について早期に地元に示すなど透明性の高いコミュニケーションを実施し、地域に与える影響を可能な限り局限するような措置を講じつつ、その跡地利用の在り方を含め、地域社会の理解を得ていく必要がある。
9.日米同盟の強化と拡大抑止
日米同盟が我が国の安全保障政策の基軸であることに何ら変わりはない。第2次トランプ政権は、米国のインド太平洋地域の同盟国・同志国へのコミットメントは疑いないとした上で、各国自身が切迫感を持って取組の段階を上げ、行動していかなければならないと説いている。こうしたトランプ政権の安全保障分野における動きを注視しつつ、我が国も同盟国として、積極的・主体的な役割を果たすことが重要である。
日米同盟が、我が国を含む地域の平和・安全及び繁栄のために更なる役割を果たすため、自衛隊と米軍との相互運用性・補完性を念頭に、同盟全体としての能力の相乗効果を最大化し、日米同盟の抑止力・対処力を更に強化すべきである。特に、より高度かつ実践的な共同訓練の促進や防衛装備品の共同開発・生産・維持整備をはじめとする防衛産業協力を強力に推進していくことが必要である。
また、日本自身の防衛体制を強化することこそが、日米同盟を強化する道であることを大前提としつつ、米国の地域へのコミットメントを引き続き確保すべく、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用はもとより、米国による核を含むあらゆる能力を用いた日本の防衛に対するコミットメントを更に強化するための方策を検討すべきである。ロシアが核戦力を背景とした威嚇とも取れる行動をとっていることや、中国が核戦力を質・量の両面で拡大させていることなどの安全保障環境の変化やサイバー・宇宙領域を含めた対応の必要性も踏まえ、日米両政府間で、深刻化した脅威に対して米国が提供する核抑止力を中心とした拡大抑止の信頼性を一層確保すべく、日米拡大抑止協議などの政府間協議を通じ、日米のより密接な協力を含めてしっかり取り組んでいく必要がある。その際、我が国周辺において大量破壊兵器に係る懸念が生じる中で、CBRNに係る日米間の協力も強化していく必要がある。また、在日米軍の安定的駐留の重要性を踏まえ、日米地位協定の在り方を不断に検討していくべきである。
10.同志国との更なる連携
共通の価値と利益を共有する各国が、インド太平洋全体を俯瞰的に捉え、それぞれの自主的な取組の間で協力と連携を強化し、シナジーを生み出すことで新たな価値と利益をもたらしていくことは極めて重要である。こうした観点から、これまでも、「OCEANの精神[3]」、「多層的な相互連結性の網[4]」といったコンセプトを打ち出してきた。特に、一部の国が嫌がらせや威圧に直面しても地域全体で支えることのできる強靱なインド太平洋地域をつくり、地域における抑止力を高めていく観点から、より実効性の高い形で同志国との連携を進めていくべきである。
加えて、同志国との連携は、我が国の継戦能力を支えるとともに、シーレーンの確保など、我が国の安全を確保する上で重要な役割を果たし得るものであり、これらの役割が必要に応じて果たされるよう平素から取組を行うことで、同志国との連携を、信頼性の高い抑止力として機能させる必要がある。
これらの観点から、同志国との二国間協力を推進するとともに、日米韓、日米豪、日米比、日米豪比、日米豪印といった、日米を中核とする多国間の協力を強化し、艦艇・航空機の相互訪問や共同訓練、能力構築支援を始めとする多層的な協力を進めるべきである。加えて、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分との認識の下、欧州諸国とも連携を一層強化すべきである。また、前述のとおり、同盟国・同志国との防衛装備品の共同生産、備蓄の共有、共通の整備・補給基盤の確保といった取組が一層重要である。
また、我が国のシーレーンは広大であり、その安定的利用の確保のためには、同盟国・同志国等との連携が不可欠である。このほか、我が国のみでは十分な対処が困難であるサイバー脅威に関しても、同盟国・同志国との脅威・脆弱性等の情報共有や共同訓練等の連携を強化し、インド太平洋地域における人材・デジタルインフラの構築等を通じたレジリエンス強化を進めるべきである。
11.経済安全保障・科学技術分野における取組強化
党経済安全保障推進本部の提言[5]に示したとおり、自国優先主義を先鋭化させる大国や地域が、生産基盤の確保や技術の維持・獲得でしのぎを削り、地政学リスクの顕在化が現実の脅威として常態化する中で、国家を背景とした非市場的な政策や慣行に起因する、自由かつ公正な経済活動に対する外部脅威に向き合うには、我が国としても、国が一歩前に出るとともに、経済のメインプレイヤーである民間のマインドも変えていき、官民一体となって対応していくことが求められている。このため、官民連携を一層高度化するべく、安全保障と経済合理性を両立して、企業の経営判断・行動の変容を促す規範・環境を整備すべきである。また、ひとりひとりの国民、ひいては社会全体で、経済安全保障を支える必要性を「自分ごと」と捉える認識を共有するべく、民間企業・地方自治体・国民各層向けのリスクコミュニケーション[6]を強化・工夫することが重要である。加えて、産学官において、経済安全保障推進法により設立される総合的な経済安全保障シンクタンクをハブとして、経済安全保障の観点を織り込んだ自律的な取組を牽引することができるプロフェッショナルを育成すべきである。
また、「国民生活の維持を他国の情勢に左右されず確保する」ことを目標に、「平時からの備え」から、「有事があり得ることを前提」とした社会・産業構造の強靱化を進める必要がある。平時と有事の発想の断絶を乗り越えて、あらゆるリスクを念頭に、国民生活・産業活動に関わる幅広い分野で、後述する持続的な対応能力の確保と合わせて、不断のリスク点検及び点検結果の政策実装を徹底することが不可欠である。
同時に、生産基盤の強化、技術の保護・促進、AI・データ時代の新たな安全保障に取り組む必要がある。1990年代以降、日本を含むG7諸国の製造能力は低下を続けている一方、中国は、製造業のイノベーション能力の向上、情報化と工業化の高度な融合の推進、工業基礎能力の強化等を体系的に進め、製造能力を拡大してきた。欧米においても、国内製造への回帰に向けた動きが一層鮮明となり、防衛産業基盤の強化と相まった形で政策リソースが集中的に投下されている。これまで以上に地政学的な不安定性が高まり、今後もかかる状況が継続することが懸念される中で、今こそ「生産力こそ抑止力」の考え方に立ち、自律性・強靱性を支える生産基盤の抜本強化に向けて、これまで以上の取組が求められている。具体的には、①先端技術に限らず、化学品等の基盤的物資・技術も対象とし、②上流から下流、資源循環、それらを結ぶ海上輸送等の物流まで一貫して、③生産基盤を支える人材力やデジタル化・AI導入を推進する視点を強化し、官民の適切な負担のもと経済安全保障の取組を持続可能なものとしていく必要がある。併せて、平時は民生向けニーズに応じた製品を製造し、有事には防衛その他の政策的要請に応じた製造へと切り替えが可能な、いわば「デュアル生産設備」の整備・活用や、多国間の連携による生産基盤の確保等、多様な政策手法を活用し、取組を高度化していくことが求められる。また、民間の対応が極めて困難な領域について、諸外国の事例も踏まえ、国による更なる支援の在り方についても検討すべきである。
各国は、科学技術・イノベーション政策を国家安全保障の中核的要素として明確に位置付け、重要技術の国内確保、研究開発基盤の強靱化、サプライチェーンの多元化、技術流出の防止といった観点から、産業振興とは質的に異なる政策を推進している。こうした中、我が国として、本年3月に閣議決定された「第7期科学技術・イノベーション基本計画」を踏まえ、科学技術と国家安全保障の有機的連携を深めるとともに、技術流出対策の更なる強化を進めることが必要である。とりわけ、我が国の技術優位性、ひいては戦略的不可欠性を確保するべく、経済安全保障上の重要技術について、集中的・選択的に研究開発投資とその支援を強化するとともに、同志国間の連携による技術スタックを構築するべきである。また、人材育成を軸とし、研究開発、拠点形成、設備投資、スタートアップ支援、ルール形成等の政策を総動員して、重要な技術を一気通貫で支援するエコシステムを構築すべきである。同時に、経済安全保障の観点で守るべき重要技術について、技術流出を防ぐための制度的措置を講じるべきである。技術流出対応は、同志国と連携して取り組みつつ、技術窃取の更なる巧妙化に対し、外為法等の投資審査手法を強化するとともに、民間企業等が保有する情報も含め、技術流出対策を引き続き強化すべきである。
また、AIは日常生活から産業、安全保障まで、様々な分野で取り入れられるほか、物理空間へも伸長し始めており、その開発・利活用は、産業競争力や安全保障に直結し、防衛・経済等の優位性、ひいては国力を左右するものと言える。バーティカルAIやフィジカルAIといった我が国としての勝ち筋への投資を着実に進めるとともに、インド太平洋地域を中心に、域内における信頼できるAIエコシステムの確立に貢献し、AIテックスタック[7]における我が国の優位性・不可欠性を確保すべきである。その際、データを適切に保護するとともに、データ流通に不可欠な通信インフラを確保することが重要である。さらに、バーティカルAI・フィジカルAIの実装に際して営業秘密等の流出リスクへの対応を講じるほか、安全保障上重要な個人機微データの漏えい防止策について新たな制度を構築するとともに、あらゆるデータについて、資源としての潜在的価値が高まっていることも踏まえ、サプライチェーン・リスク対策を横断的に実施するとともに、企業・大学に加え、広く国民にリスクを周知すべきである。加えて、通信インフラについては、四方を海に囲まれた我が国にとって、社会・経済活動の維持だけでなく、安全保障の観点からも重要なインフラとなっている海底ケーブルについて、その安全性や強靱性を確保することが重要である。
12.認知戦への対応と政府の国内外への発信の強化
ロシアによるウクライナ侵略の教訓のほか、昨今の我が国の国政選挙のたびに外国からのものと思われる偽情報や事実に基づかない独自の言説等が流布される現状を踏まえれば、外国からの影響工作・プロパガンダへの対策を含む認知戦への備えは我が国の安全保障に直結する喫緊の課題である。政府は、平時の段階から民間企業・地方自治体を含む国民との間で安全保障上のリスクに関する意思疎通を行うことが、有事における戦略的資産として機能することをしっかりと念頭に置いた上で、適切な情報環境を積極的に構築する取組を推進することが重要である。
このため、情報収集・分析に加え、平素からの民間企業・地方自治体を含む国民との意思疎通によるリテラシー向上や国内及び国外での迅速かつ正確な情報発信等に係る体制を強化するとともに、民間企業とも連携しながら、政府横断的な認知戦への対応能力を強化すべきである。その際、迅速かつ正確な情報発信は、我が国に対する好感度、親近感、信頼感が醸成されている環境において初めて効果を発揮するとの認識の下、我が国の政策発信・広報と、文化外交・魅力発信を、認知戦を戦い抜くための双翼とし、我が国の活動の評価を毀損するような発信や偽情報の拡散に対するレジリエンスを高めるとともに、国際会議等の場での発信はもとより、平素からの能動的かつ重層的な国内及び国外への発信を強化し、日本の多様な魅力の発信を含め、関係省庁の連携を通じた戦略的コミュニケーションを更に深化すべきである。また、諸外国の経験・知見も取り入れながら、AIの利活用やビッグデータ分析を活用した高度な評価・分析を行うための情報分析基盤の構築・強化を含め、膨大かつ戦いを左右する時代に突入している公開情報の収集・分析(OSINT)を十分に実施できる体制を構築すべきである。そして、若年層も含めた国内外の人々にSNS等によって直接訴求することも含め、戦略的な対外発信機能を強化すべきである。併せて、諸外国と平仄をあわせながら、デジタルプラットフォーマーの責任の更なる強化を検討すべきである。
13.政府横断的な取組の促進
(1)持続的な対応能力の確保
2022年から続くロシアによるウクライナ侵略の長期化は、継戦能力を確保することの重要性を示すとともに、軍事・非軍事を問わずあらゆる事態において国民の政府への信頼を確保し、安定した国民生活・産業活動を維持することが重要であることを浮き彫りにした。
これを教訓とし、国防イコール安全保障との狭い考えから脱却し、社会の営みを持続可能なものとする国民の理解、国民生活・産業活動の維持があってこそ、自衛隊の継戦能力も発揮できると考え、これらを支える政策については、防衛費と並ぶ重要項目として予見可能性をもった形で予算の確保に努めるべきである。
そのためにも、社会・産業構造の強靱性を高めるべく、関連する全ての省庁において、あらゆるリスクに目を背けず、包括的なアプローチでリスクの総点検を進めるべきである。現下のイラン・中東情勢の対応等を通じて明らかになった海上輸送の途絶等の物流を含むリスクも踏まえ、多様なリスクシナリオに基づき、国民生活・産業活動の維持に必要なエネルギー、食料、医薬品、生活必需品等の備えは十分か、いかに国民の政府への信頼を確保し、電力、通信、水道等の基本的な社会インフラ基盤を機能させ、国民生活・産業活動を守るのかといった観点から徹底的に調査・分析を深めるとともに、政府全体で、その結果について着実にスピード感をもって各省庁で政策を精査・実行し、官民の具体的な行動変容につなげるサイクルを確立することが重要である。
また、経済の混乱時を想定し、国民生活・産業活動を維持するという観点から、新たな事態類型の策定や認定制度の創設、事態推移に応じた立法措置等も考えられる。加えて、有事生起時の初動の在り方や社会全体の持続的な対応能力の強化について、必要な体制整備や制度改正の検討に着手すべきである。
(2)サイバー脅威に対する防御・抑止
政府・民間へのサイバー攻撃は、継戦能力にも直結し得る脅威であり、国家安全保障に深刻な影響を及ぼしているサイバー空間において、平時・有事、軍事・非軍事の区別に意味はないと言っても過言ではない。特に驚異的な速度で進化するAIは、サイバー空間に深刻な影響を及ぼしている[8]。このため、平素より、サイバー脅威から国・国民を守るため、国が要となって、民間も含む我が国の力を結集し、また、同盟国・同志国との連携の下、防御側に係る施策と能動的サイバー防御を含む攻撃者に対抗する施策を車の両輪として、これまで以上に粘り強く実施することにより、攻撃者側に継続的にコストを賦課し、サイバー脅威のシームレスな防御・抑止を図らなければならない。更に、官民連携も通じた社会全体のサイバーレジリエンスを強化させて、世界最高水準の強靱さを持つ国家を目指すべきである。
そのため、サイバー対処能力強化法・整備法を着実に実施するとともに、更なる対処能力強化のために必要な制度の見直しを随時行う必要がある。見直しにあたっては、サイバー脅威の急速な深刻化に十全に対応し得るよう、政府及び官民間でのサイバー情報の収集から提供及びサイバー空間での対処をより強力に行う仕組みを構築していくこととし、その中で、国家安全保障の観点から、サイバー空間における情報収集や対処の在り方について検討を行うべきである。また、同法の実施にあたっては、内閣官房・内閣府、警察、防衛省・自衛隊が、それぞれの役割を果たしつつ、三位一体となってその中核的機能を担うことから、その体制整備は必須である。サイバーセキュリティ施策全般の強化が求められるなか、同法の着実な実施に向け、国家安全保障戦略の改定に係る議論を踏まえ、必要な予算等を確保すべきである。
さらに、政府機関における情報システムのセキュリティや政府機関間の連携など政府自体の基盤強化が必須であり、必要な予算等を確保すべきである。例えば、「AI主権」[9]の確保の観点も踏まえ、自律的な運営・管理を確保した上で、機密性の高い情報を扱うために必要な情報保全・秘密保全措置を講じたクラウド(高機密ソブリンクラウド(仮))の導入を進めることが必要である。「サイバーセキュリティ戦略」における方針及び国家安全保障戦略の改定に係る議論を踏まえ、具体的なクラウド技術の活用の在り方の検討を早急に進めるとともに、本年中に政府として最適な調達・契約・運用方法について一定の結論を得るべく検討を進めなければならない。また、高度サイバー人材の発掘・育成に取り組み、質・量の両面で人材を強化することに加え、AIや官民双方のサイバー対処人材の活用を進め、サイバー対処能力強化法に基づく官民連携の枠組みも活用しながら、官民対処の在り方を検討する必要がある[10]。その他、地方公共団体・中小企業等のサイバーセキュリティ対策を強化するとともに、官民が協力した持続可能なサイバーセキュリティ確保の在り方を検討していくべきである。
(3)AI・データの利活用
AI技術の急伸は、安全保障を取り巻く環境を一変させており、我が国としても、AI・データ利活用を安全保障の文脈で捉え直し、防衛省・自衛隊に限らず、政府全体の安全保障関係部局において、徹底的にAIの実装・活用を進めるべきであり、そのための人材育成、組織文化、業務プロセスなどの抜本改革を進める必要がある。一方、AI利活用における自律性を確保することも必要であり、さらに、我が国のAIテックスタックにおける不可欠性の確保も必須である。AI利活用は、安全保障や産業競争力に直結し、防衛・経済等の優位性を左右するものであり、その前提となる基盤を他国に過度に依存すれば、政策判断の自由度が制約されるほか、国民生活・経済活動にもチョークポイントが生じ、広く安全保障に支障が生じ得る。このため、我が国として、いついかなるときもAIを自律的に選択・運用できるよう「AI主権」を確立するべく、国産基盤モデルや高機密ソブリンクラウド(仮)、データ基盤等、データの安全性と主権性を確保した、信頼できる基盤を整備すべきである。この際、データセンターをはじめとする基盤インフラについては、電磁パルス(EMP)攻撃への対策を含め、設計・建設段階から脆弱性を局限するよう努めるべきである。
加えて、データセキュリティの観点からは、AIの利活用を一層推進するためにも、信頼性が確保されたデータの利活用を推進する重要性が一層高まっている。このため、我が国として安全保障上重要な個人機微データの漏えい防止策について新たな制度を構築するとともに、「DFFT[11]」のコンセプトを深化させ、信頼の確保された自由なデータ国際流通の実現に向けて、データガバナンスに関する国際的な議論を我が国が主導していくべきである。
(4)海洋安全保障・海上保安能力
海洋国家たる我が国にとって、海洋安全保障が重要であることは論を俟たない。海上交通の安全を確保し、我が国に必要な物資の海上輸送の途絶を防ぐため、MDA能力強化を含め、シーレーン防衛にかかる我が国自身の能力を強化するとともに、同盟国・同志国や沿岸国との連携をより深化させることは喫緊の課題である。また、国際海上コンテナ航路の多角化・拡充や、船舶保険に対する政府による再保険制度等の仕組みについて検討が必要である。さらに、海洋安全保障の前提となる強靱な造船業・海運業の確保にも引き続き取り組んでいく必要がある。
同時に、法執行機関として一義的に領海警備の最前線に立つ海上保安庁と、国の安全を守る最後の砦として我が国の領土領海の防衛にあたる海上自衛隊が担う役割は極めて重要である。この観点から、海上保安庁に必要な能力や装備について、現行計画を見直し、質及び量の両面で迅速かつ大幅に強化し、対応能力を向上させるべきである。具体的には、大型巡視船の老朽化や社会全体の人手不足等に伴う任官希望者の減少といった現状を踏まえ、巡視船の修繕費や、老朽船等の高機能代替整備、通信機能の強化、さらには若者に魅力的な処遇向上と老朽化した宿舎の更新といった人的基盤の強化等「足腰」にかかる予算も十分に確保する必要がある。同時に、常続的な監視能力向上、広域海洋監視のため、無人アセット等の新たな技術を活用するとともに、省人・省力化されたアセットの開発・実用化を推進する必要がある。
また、シームレスな対応の観点から、自衛隊と海上保安庁及び警察の円滑な連携を実現するための取組を平素から推進する必要がある。特に、2023年に制定された海上保安庁の統制要領を含め、自衛隊と海上保安庁の役割分担や連携方策について、更に掘り下げた議論を行うべきである。また、海上自衛隊・海上保安庁と米海軍・米沿岸警備隊との共同訓練・共同巡航や、米国及び友好国と共同したインド太平洋地域の海洋国家への能力構築支援の実施など、FOIPの実現に向けた各国・地域との連携も深化させなければならない。
(5)公共インフラ・研究開発
我が国を守るためには自衛隊が強くなければならないが、我が国全体で連携しなければ、我が国を守り抜くことはできない。現行三文書において、総合的な防衛体制の強化として取り入れられた公共インフラの利用・整備や研究開発の取組について、更なる改善を図りつつ引き続き推進すべきである。
公共インフラについて、自衛隊や海上保安庁による民間空港・港湾の円滑な利用や、そうした利用を前提とした整備(道路含む)を推進すべきである。加えて、国民保護の体制強化の観点からも、南西地域を含む住民の迅速な避難を実現すべく、必要なインフラの整備を早急・着実に進めるべきである。併せて、特定利用空港・港湾となることに伴う具体的メリットを明らかにできるよう検討すべきである。
研究開発については、我が国の学術界においては、戦後長きにわたって防衛目的の研究が忌避されてきており、現在でも安全保障に関連した研究を否定する意見も残る。しかしながら、最先端の科学技術は加速度的に進展し、防衛技術と民生技術を明確に線引きすることは現実的ではない。これまでに構築してきた政府横断的な連携体制を深化させ、我が国の官民の高い技術力を幅広くかつ積極的に安全保障に活用すべきである。
(6)国民保護の体制強化
我が国に対する武力攻撃に先立って、住民の迅速な避難を実現することは極めて重要である。この観点から、現行三文書に記載されている、円滑な避難に関する計画の速やかな策定、官民の輸送手段の確保、空港・港湾等の公共インフラの整備と利用調整、様々な種類の避難施設(シェルター)の確保・整備といった取組を進め、防衛力強化と相まって、国民が安心感を得られるよう一層努力しなければならない。また、有事に際し、航空輸送のみならず海上輸送によるアセットの機動展開や在外邦人の退避を含む国民保護を迅速に実施するため、引き続き、官民連携して実効性確保の取組を推進することや、住民避難等の各種訓練の実施や検証、J-ALERTの情報伝達機能等の強化や国民に分かり易い形での避難行動の周知・啓発、これらを踏まえた制度面を含む必要な施策の検討を進めていくべきである。
(7)宇宙に関する能力の強化
宇宙に関する能力は、我が国の自律性を確保し、抑止力・対処力の実効性を総合的に向上させる上で不可欠の能力である。宇宙安全保障構想や宇宙領域防衛指針に基づき、宇宙システムの機能保証や代替手段を含め防衛能力を強化すべきである。その際、関係省庁・民間企業等が連携し安全保障と産業発展の好循環を実現すべきである。
特に、耐傍受性・耐妨害性の確保をはじめとする宇宙に関する能力の強靱化は重要であり、我が国の自律性を担保する観点から、社会基盤の前提となるPNT(位置・航法・時刻)機能を担う準天頂衛星の対妨害性等の機能強化や、光通信によるセキュアな大容量通信などを推進すべきである。
また、国境のない宇宙空間の特性を踏まえ、宇宙領域における規範の形成に積極的に関与していくとともに、宇宙の安定的な利用を確保するため、多国間枠組みや二国間対話等への参加等を通じて同盟国・同志国との連携を強化すべきである。
さらに、航空自衛隊を航空宇宙自衛隊に改編した上で、宇宙利用能力向上と人材育成を加速していくため、政府全体でのJAXAの技術の民間移転・施設整備、技術基盤・人的資源の強化や組織体制の検討の動きも踏まえつつ、JAXAや民間との人事交流や人材確保を拡大するとともに、防衛省・自衛隊で培った経験をJAXAや民間企業で活かすといった人材のエコシステムを構築し、我が国全体の宇宙人材の裾野拡大と底上げを図るべきである。
(8)インテリジェンスの強化
インテリジェンス機能の司令塔である「国家情報会議」及び「国家情報局」の設置も見据え、まずは司令塔の総合調整能力を確立すべきである。特に、我が党が本年3月に取りまとめた「我が国のインテリジェンス機能の抜本強化に関する提言」(「三月提言」)に則り、情報共有プロトコル、分析チーム人員と独立性の強化、適切な人事や人材育成制度の確立などを通じて、インテリジェンスサイクルの確立に注力するべきである。また、国家情報戦略を早期に策定し、将来必要となる能力を検討するため有識者会議を立ち上げるべきである。
その上で、各インテリジェンス関連機関の情報能力を組織や体制を含めて整備・強化すべきである。具体的には、「三月提言」を踏まえ、電波通信情報(SIGINT)、画像情報(IMINT)を含む地理空間情報(GEOINT)、公開情報(OSINT)、人的情報(HUMINT)の各種情報収集能力を強化するため、対外情報機関の創設、インテリジェンスの専門人材の育成、官民における情報収集衛星等による画像収集機能の拡充・強化、SDA衛星による電波等の収集機能の確立、防衛駐在官を含む在外公館員の更なる拡充・活用や、それらのために必要な人員・予算等のリソースの確保につき、検討を具体化すべきである。また、これらの取組につき、今年夏に党において策定予定の新たなインテリジェンス強化に関する提言内容と併せて、政府として必要な機能や体制等について早急かつ強力に検討と実装を進めるべきである。
また、宇宙・サイバーなど情報収集が必要な領域が拡大する中、AIや通信技術の進展など著しく変化する技術革新を踏まえ、情報分野においても先端的能力の構築に取り組むことが必要である。例えば、前述のとおり、公開情報の収集において、AI等の新しい技術を積極的に活用するなど、変化を恐れず大胆な取組を進めるべきである。
さらに、外国による影響工作に対する法的措置の導入を含め、カウンターインテリジェンスのための体制を強化するとともに、いわゆるファイブアイズをはじめとする関係国との情報協力を促進する必要がある。
同時に、機微な安全保障関連情報を多く扱う省庁は、同盟国・同志国との協力の大前提となる情報保全を確保しつつ情報共有を迅速化・円滑化するため、情報やアクセス権限等を適切に管理・共有できるセキュアな環境を構築するとともに、セキュリティ・クリアランスに関連する手続等を電子化するなど効率的な運用や、クリアランスの付与にかかる体制強化や制度の見直しに早急に着手し、遂行すべきである。
14.安全保障を確保するための予算
国家安全保障の最終的な担保は防衛力であり、防衛力の強化なくして我が国の平和と安定、そして繁栄はあり得ない。厳しさを増す安全保障環境の中で「新しい戦い方」や継戦能力の確保などに対応していくためには、防衛力の抜本的強化と速やかな変革が不可欠である。
厳しさを増す国際情勢を背景として、NATO諸国は、2035年までに中核的国防支出を対GDP比で3.5%とする目標に合意し、韓国は可能な限り早期に国防費を対GDP比3.5%に、豪州も2033年度までに国防費を対GDP比で3%に引き上げる旨を表明した。自国を守る覚悟のない国を助ける国はない。我が国としても、自国防衛の国家意思を明確に示し、地域における平和と安全を守る旗手としての覚悟と決意を示すことが必要である。これは、我が国の防衛力整備の実態的な進展と相まって、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化し、同志国との協力をさらに強固にすることにもつながる。
したがって、我が国周辺はもとよりグローバルな安全保障環境が加速度的に厳しさを増していることを考慮し、NATO諸国や韓国・豪州等の中長期的な国防予算の取組も踏まえつつ、我が国の主体的な判断の下、具体的かつ現実的な議論を積み上げた上で、防衛力強化とその裏付けとなる予算を確保し、装備・体制の両面において5年以内に防衛力の変革を成し遂げるべきである。その際、政府は、我が国の独立と平和を守り抜く上で必要不可欠な経費を積み上げて防衛力整備計画を作成し、その実現に向けた財源の確保とあわせて、納税者である国民に対して丁寧に説明し理解を得る必要がある。また、政府は、総合的な防衛体制の強化に資する取組等、我が国の国力をトータルに活用し安全保障を確保するための取組も一層進めるべきである。同時に、我が国の安全保障の礎である経済・金融・財政の基盤強化に不断に取り組むべきである。
15.おわりに
本提言は、党安全保障調査会において、有識者等の招聘を含め、自民党所属議員で議論を重ねたものである。政府においては、本提言を踏まえ、各種施策・事業の規模感や達成時期を含めて具体的な議論を積み上げ、提言の趣旨が達成できるよう国家安全保障戦略等を改定することを期待するものである。
[1]「Overseas Economic-Security Arrangement」の略称。民間企業による経済安全保障上の重要な海外事業をJBICによる劣後出資等を通じて支援するべく、経済安全保障推進法の改正によって創設予定である特定海外事業促進制度。
[2]「Government-Owned, Contractor-Operated」の略。一般的に、政府が施設(工場や設備等)を取得・保有し、生産や施設管理については国の事業として民間事業者に委託することをいう。
[3]「One Cooperative Effort Among Nations:Perspective for the Indo-Pacific」の略。開放性、包摂性、透明性を確保しながら①「ルールに基づく国際秩序を回復」、②「アカウンタビリティを強化」、③「国際公共益を増進」しようという精神を共有した上で、価値と利益を共有する国が、①地域全体を俯瞰的に捉え、②それぞれの自主的な取組の間で協力と連携を強化することで「シナジー」を生み出し、それにより③インド太平洋全体に新たな価値と利益をもたらそうという姿勢を共有すべきとの各国の国防当局の方向性。(2025年シャングリラ会合)
[4]地域を俯瞰し、各国で運用や共同訓練 、人的交流や能力構築支援 、装備・技術協力をモザイクのように組み合わせて相互連結性の重層的な網をはりめぐらせていく、そして、強固なシナジーを生み出し、地域全体に柔軟で強靱で安定的な秩序をもたらしていく。(2025年ADMM+会合)
[5]「国家安全保障戦略など三文書見直し及び骨太方針に向けた提言」(令和8年5月14日、自由民主党政務調査会経済安全保障推進本部)
[6]社会を取り巻くリスクに関する正確な情報を政府、企業、国民等の間で共有し、相互に意思疎通を図ること。特にここでは、社会が混乱し平時と有事を問わず情報が錯綜する中で、政府が適時に正確な情報を国民各層に対する媒体の確保・能力向上の重要性をも含意する用語として用いている。
[7]テックスタックとは、テクノロジースタック(技術の積み重ね)の略で、デジタルサービスや先端システムなどを構成するハードウェア、ソフトウェア、データ、インフラ等が依存関係を持ちながら運用される階層的な技術群を指す。各層における特定国への依存は、供給途絶、技術的排除等、システム全体の継続性•自律性に影響を及ぼし得る。
[8]「AIホワイトペーパー2.0-AI駆動型国家への構造転換-」(令和8年5月19日、自由民主党政務調査会デジタル社会推進本部AI・web3小委員会)
[9]ここでいう「AI主権」とは、全面的な国産化でも全面的な他国依存でもなく、領域毎の必要性に応じた戦略的設計概念に基づき、我が国としての自律的なAI利活用のために必要な基盤へのアクセスを確保していくものである。
[10]「国家安全保障戦略等改定や日本成長戦略策定に向けた提言」(令和8年5月14日、自由民主党政務調査会国家サイバーセキュリティ戦略本部)
[11]DFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)。プライバシーやセキュリティ、知的財産権に関する信頼を確保しながら、ビジネスや社会課題の解決に有益なデータが国境を意識することなく自由に行き来する、国際的に自由なデータ流通の促進を目指すというコンセプト。