我が国の「情報防衛力」の強化に向けて

―開かれた社会を、隠れた工作から守る―

2026年8月5日
自由民主党インテリジェンス戦略本部

1.「情報防衛力」 ー 抑止・収集・監督の一体的強化

開かれた社会を、隠れた工作から守る。

これが、我が国がいま「情報防衛力」を備えるべき最大の理由である。情報防衛力とは、国民を監視するための力ではない。外国勢力による隠れた工作から、国民の自由な判断と民主主義の公正を守るための力である。

豪州は2018年、英国は2023年、フランスとニュージーランドは2025年。主要民主主義国は、外国勢力による干渉から自国の民主主義を守る法制度を相次いで整え、強化してきた。翻って我が国には、外国勢力のための隠蔽された代理活動や干渉行為を正面から捕捉する法制度が、いまだ存在しない。

背景には、国際秩序そのものの変質がある。ロシアの力による現状変更、米中間の戦略的競争の激化、権威主義国家間の連携が同時に進行し、世界はルールよりも力が物を言う予測困難な時代へと回帰しつつある。安全保障上の戦略手段はサイバーや認知戦、経済的威圧や宇宙へと広がり、我が国を取り巻く安全保障環境は、戦後最も厳しく複雑なものへと変質した。各国の諜報活動の手法もまた、伝統的な秘密情報や物の窃取にとどまらない。国民の自由な判断、選挙や世論の公正、企業の技術、在留外国人コミュニティの安心、そして開かれた民主主義社会そのものを内側から標的とする形へと多様化・巧妙化している。

こうした混とんとした時代においては、自らの眼で世界を見通し、自らの判断で針路を定めることが何よりも重要である。その成否を握るのが、インテリジェンス能力の抜本的な強化に他ならない。同盟国・同志国と機微情報を共有し、共同で脅威に対処しうる水準まで我が国の「情報防衛力」を高めることは、もはや先送りできない課題である。

ここで重要なのは、外国による諜報活動の「抑止」と、対外情報の「収集」は表裏一体だという点である。外国勢力による工作から国民を守るためには、脅威の主体・手法・意図を事前に把握し、その背後にある外国勢力を特定する能力、すなわち対外的な情報収集・分析能力が不可欠の前提となる。同時に、強力な権限を政府に付与するのであれば、それに見合った国民による監督機能、すなわち民主的統制が伴わなければならない。「知る力」なくして「守る力」は成り立たず、そして国民の「信頼」という土台なくして、そのいずれも持続しない。

このため本提言は、情報防衛力の強化を、①悪意ある活動を思いとどまらせる「抑止」、②脅威を把握する「収集」、③国民の信頼を担保する「監督」の三本柱として一体的に進めることを提唱する。あわせて、これら三本柱を横断的に支える基盤(体制・人材・技術)の強化についても提言する。

我が国は、特定秘密保護法、セキュリティ・クリアランス制度、能動的サイバー防御法と、一段ずつ階段を上ってきた。当本部としても本年2月に「我が国のインテリジェンス機能の抜本強化に関する提言」を取りまとめ、また、本年5月27日に国家情報会議設置法が成立し、我が国の情報力強化に向け大きな一歩を踏み出した。国家の「頭脳」であるインテリジェンス・コミュニティの司令塔の整備に続く次の課題は、国家の「目」と「耳」を鍛え、それを支える国民の信頼を確かなものとすることである。

本提言は、その次の一段を示すとともに、政府が本年夏を目途に立ち上げる予定の有識者会議(「政府有識者会議」)における検討に資するべく、情報防衛力の強化に向けた法制及び体制の選択肢と論点を提示するものである。なお、この三本柱は相互に補完し合う不可分の関係にあり、政府有識者会議における検討とその後の法制化の工程においても、一体として早急に設計・推進されることを強く求める。

2.防諜体制の強化(「抑止の強化」)

(1)防諜法制の整備

諸外国においては、外国勢力のために行われる活動は、秘密情報の窃取にとどまらず、政治・選挙・世論への隠蔽された働きかけや、在留外国人コミュニティへの監視・威圧にまで及んでいることが、防諜法制のもとでの情報収集や捜査を通じて明らかとなっており、また我が国においても犯罪捜査の過程で外国勢力のための情報収集活動等が疑われる事例が出てきている(別紙1:海外及び我が国における諜報活動等の検挙事例)。しかし我が国には、こうした外国勢力のための隠蔽された代理活動や干渉行為そのものを捕捉する包括的な法制度がそもそも存在せず、防諜法制の整備は主要国に比して大きく立ち遅れ、結果としてこれらの行為を十分に抑止できていない。なお、本章の法制が処罰の対象とするのは、外国勢力のために隠蔽して行われる活動であり、透明性が確保された正当な外交・経済・学術・取材・報道活動等を妨げるものではない。

  • ア 我が国の現状

    我が国の現行法を点検すると、その課題は大きく二つに整理できる。第一に、そもそも外国勢力の代理人としての行為に関する透明性が欠如している。外国勢力の利益を図るためになされていることが隠されたまま、政治家や政府関係者に対する政策立案や政治的意思決定に関する働きかけ(いわゆる「ロビー活動」)がなされた場合には、知らず知らずのうちに我が国の政策や政治的意思決定に外国勢力からの影響が及んでしまうことになるが、現状において我が国の法制はこれに対処できていない。

    第二に、我が国の法制は、外国勢力との繋がりに基づき行われる干渉行為を十分に処罰できない。具体的には、まず、(a)行為自体は処罰可能であっても、外国勢力との繋がりに着目し、それゆえに生じる我が国の安全に対する危険を十分に評価できる法制となっていない。たとえば、特定秘密等の不正取得、民間が保有する営業秘密の侵害、施設侵入や破壊工作などの行為が外国勢力のために行われた場合、そのような行為自体は現行法でも処罰し得るが、いずれも外国勢力のために行われたことを理由とする刑の加重はない。したがって、多くの場合、このような行為によって、個人の財産権等の侵害にとどまらず国家の安全までもが危険にさらされるという行為の本質が刑罰に反映されない。また、より重要なのは、(b)そもそも処罰の空白も存在することである。たとえば、外国情報機関の活動を支援し又は同機関から金銭等の便益を受け取る行為、不実表示(なりすましや欺罔)による政治・社会への干渉、特別法によって秘密指定されていない機微な国家情報を外国勢力のために取得・漏洩する行為などは、現行法では必ずしも十分に処罰できない。英国・豪州を始めとする諸外国が、これらの行為を外国勢力等との繋がりに着目して処罰対象としているのと対照的である。

  • イ 諸外国の制度

    一方で、諸外国は、こうした活動を、①外国代理人登録制度による代理活動の透明化と、②外国勢力による干渉行為に対する刑事罰の整備という2つの類型の防諜法制によって抑止している(別紙2:各国の防諜法制の概要)。

    具体的には、米国は1938年に外国代理人登録法(FARA)を制定し、英国は2023年国家安全保障法により外国影響力登録制度(FIRS)と外国干渉罪を併せて導入した。豪州も2018年に外国影響透明性スキーム(FITS)と外国干渉罪を同時に整備し、2023年には同罪による初の有罪判決に至っている。NZも2025年に外国干渉行為を犯罪化する法改正を行った。これら各国の経験が示す教訓は、①登録制度による「透明化」と②罰則による「処罰」のいずれか一方のみの導入では、抑止の実効性を欠くということである。とりわけ豪州では、登録制度が議会から執行の実効性について疑念を提起される一方、情報機関と警察の合同タスクフォースによる干渉行為の阻止が成果を上げており、制度を包括的に整えたうえで執行体制と一体的に設計することの重要性を示している。

  • ウ 提言

    上記を踏まえ、以下提言する[1]。

    • 政府有識者会議において、以下の諸点に留意して、①外国代理人の登録等義務と、②外国勢力による不正な干渉行為に対する刑事罰を含む、「外国干渉防止法」(仮)の整備に向けた検討を進めること。
    • 外国代理人登録制度の設計にあたっては、諸外国の先例[2]も参考に、登録の実効性と事務負担の調整の観点から詳細を検討すること。また、代理活動の登録管理は、制度の中立性や実効性の確保の観点から、国家公安委員会が担当することが考えられる。外国代理人登録制度の運用にあたっては、関係諸機関での情報共有や連携を密に行うこと。
    • 外国干渉行為への罰則導入については、(a)外国勢力との繋がりに着目した加重類型を整備するとともに、(b)諸外国の類似法制と比較して現行法の処罰の空白を埋めること。例えば、外国情報機関の活動を支援し又は同機関から金銭等の便益を受け取る行為、外国勢力等のための欺罔等の手段による政治・社会への干渉行為、漏洩すれば我が国の安全や利益を害する国家情報を外国勢力等のために取得・漏洩する行為、民間が保有する安全保障上重要な営業秘密を外国勢力等のために取得・漏洩する行為などが、これらの対象として考えられる。
    • 一方で、このような法制化に当たっては、正当な外交・経済・学術・取材・報道活動を萎縮させないよう、諸外国の立法例に倣い、「外国勢力」等の定義や干渉行為に該当する行為の明確化を図ること[3]。

(2)運用体制の整備

防諜法制の整備とともに、これを運用する体制の整備も不可欠である。すなわち、対外情報収集とともに、国外からの脅威と連動して行われる国内での隠蔽された代理活動や干渉行為の諸動向(経済安保、サイバー攻撃、国際テロ等の関連動向を含む)を迅速かつ的確に把握する体制の構築が課題となる。

防諜法制の運用体制については、まず、情報収集部門は常に成功バイアスを内在しているため、分析部門はその成功バイアスに抗い、情報収集部門から役割と任務において一定の独立性を確保しつつ、「失敗を指摘」することが求められる。このように情報分析の質の担保、責任や役割分担の明確化による実効性の確保、権限の集中から生じる弊害の抑止等の観点から、原則として、分析機能と収集機能は分離されるべきである。

また、犯罪捜査は具体的犯罪の立証や犯人特定が目的である一方で、情報収集は将来の脅威把握や未然予防のために広く状況把握を行うことが目的である。こうした役割や任務の性質の違いと、それによる組織文化や法的制約、求められる監督体制の違いを念頭に、諸外国では、犯罪捜査と情報収集は独立した機能として設計されていることが多い。

上記を踏まえ、以下提言する。

  • 政府有識者会議において、以下の諸点に留意して、防諜(カウンターインテリジェンス)に携わる各情報機関の役割分担をより明確化し、連携強化を進める具体的な方策を検討すること。
  • 警察庁は、外国勢力による国内の諜報活動につき、外事情報部を中心に、引き続き、情報収集、有害活動の未然防止及び刑事捜査を担うこと。
  • 公安調査庁は、外国勢力による国内の諜報活動につき、情報収集を行うとともに、当該活動をやめさせるために必要な刑事捜査以外の適切な対応策を採ること。このような体制の構築のために、公安調査庁の設置法を改正する必要があれば、かかる措置を行うこと。
  • また、豪州などを参考に、刑事捜査の対象となりうる事案につき、情報収集段階から、警察庁、公安調査庁及び関係諸機関との間で緊密な協働を可能とする合同タスクフォースを常設すること。
  • 国家情報局は、主に、各情報機関において収集された外国勢力による国内の諜報活動に関する情報の分析・評価を行うこと。

3.情報収集能力の強化(「収集の強化」)

(1)シギント能力の強化

防諜の出発点は、脅威をいち早く察知することである。外国情報機関の活動やサイバー攻撃、影響力工作の多くは通信ネットワーク上に痕跡を残すため、通信・電波等の信号情報の収集・分析(シギント)は、情報防衛力の中核をなす能力である。同盟国・同志国との情報協力においても、シギント能力とその法的基盤の有無が協力の深度を左右する。

  • ア 我が国の状況

    我が国には、安全保障目的で通信情報を収集・利用するための一般的な法制度が存在しない。昨年成立し本年から順次施行されるサイバー対処能力強化法は、安全保障の観点からサイバー攻撃対処に限定してその端緒を開いたものである。

  • イ 諸外国の制度

    一方で、主要国は、犯罪捜査を目的とする制度とは別に、安全保障を目的として外国関連の通信情報を収集・利用するための法的枠組みを整備している。英国は2016年調査権限法により、大臣の承認と独立した準司法的な審査を重ねる「ダブルロック」の下でこれを認め、豪州は大臣の承認と独立監察総監による事後検証を組み合わせている。いずれも、明確な法律上の根拠と厳格な監督をセットとすることで、強力な能力と国民の信頼を両立させている点が共通する。

  • ウ 提言

    上記を踏まえ、以下提言する。

    • 政府有識者会議において、以下の諸点に留意して、対外情報に関する通信情報収集能力の強化のための法的措置の具体的設計を検討すること。
    • 外国情報機関等による影響工作や情報取得等の犯罪捜査の観点からの通信情報収集能力強化のため、「通信傍受法」の対象犯罪に特定秘密保護法違反及び新設する「外国干渉防止法」(仮)違反等を追加すること。
    • 安全保障の観点からの通信情報収集能力強化のため、一定の条件下において、外国機関等の活動解明に資する通信情報の収集・利用を可能とする制度(「対外情報収集法」(仮))の整備に向けた検討を進めること。その際、通信の秘密(憲法第21条)との整合性を確保しつつ、諸外国のシギント法制を参考に、対象や事態などに応じて行政的承認と独立した司法的関与を前提とする厳格な承認要件を課すこと。また、承認手続に加え、対象範囲の限定、取得した情報の最小化、保存期間と廃棄、独立機関による事後監査、苦情・救済手続といった監督の枠組みを、権限の付与とセットで一体的に設計すること。
    • 上記の制度の具体的な設計にあたっては、当本部において、(i)サイバー対処能力強化法の目的や対象の拡大等を含む更なる機能強化のための法改正と、(ii)安全保障目的の通信情報の収集・利用を可能とする「対外情報収集法」(仮)の制定という、双方のアプローチが議論された。政府有識者会議においても、この双方のアプローチを俎上に載せて検討を進めること。

(2)ヒューミント能力の強化

通信や衛星だけでは社会の温度感覚は測れない。人を通じて相手国の意図の核心に迫るヒューミントは、シギントやオシントでは代替できない独自の価値を持ち、各国情報機関の中核をなしてきた。技術的な情報収集に過度に依存することなく、地域専門知の向上を含むヒューミントにも注力すべきである。

  • ア 我が国の状況

    我が国は、2015年に外務省に国際テロ情報収集ユニット(CTU-J)を設置し、海外での人的情報収集に第一歩を踏み出したが、その任務はテロ情報に限定され、外交・安全保障・経済に関する本格的な対外情報収集を担う機関は存在しないのが現状である。こうした問題意識から連立政権合意においては、令和9年度末までに独立した対外情報庁(仮称)を創設することを明記している。

  • イ 諸外国の制度

    一方、ヒューミント能力の獲得には長い時間を要する。主要国も、長い年月と多くの紆余曲折を経ながらヒューミント分野の人材育成と組織の強化を図ってきた。

    すなわち、政策部門が情報部門に過度な干渉を行うことのないよう、英国の秘密情報部(SIS/MI6)、豪州の秘密情報庁(ASIS)は、いずれも外務大臣の所管の下に置かれつつ、長官が情報活動の運営について自律的な権限を有し、日々の収集対象や手法に政策部局が個別に介入しない仕組みを法律上担保している。所管大臣による民主的統制と、現場の作戦的独立性とを両立させている点が、各国に共通する設計思想である。

    なお、外国情報部門は国家安全保障上の「秘密」を守り、国内情報部門は個人の「自由」を守るべき機関である。守るべき価値が異なれば、組織文化も、課される法的制約も、求められる監督の在り方も異なる。このため諸外国では、外国情報部門と国内情報部門を別個の組織として設計する例が多く、我が国の制度設計においても重要な考慮要素となる。

  • ウ 提言

    上記を踏まえ、以下提言する。

    • 政府有識者会議において、令和9年度末までに独立した「対外情報庁」(仮)を設置するため、以下の諸点に留意して、法的措置及びそのあり方を検討すること。
    • 対外情報収集を担うヒューミント組織の中核として、独立した情報機関を設置すること。設置にあたっては、限られた人的資源を最大限有効に活用し、設置後直ちに稼働可能な組織設計とすること。また、政策部門からの独立を確保しつつ、外交アセットの円滑な利活用と運用上の齟齬を回避する観点から、英・豪などを参考に外務大臣の監督の下の独立の外局として設置することも有力な選択肢と考えられる。その際、収集・分析の専門的判断が、その時々の外交・政策上の都合によって歪められることのないよう、人事・予算面での自律性を含め、政策部局からの任務遂行上の独立性を確保できる設計となるよう留意すること。
    • なお、対象任務を広範な安全保障目的へと拡大するにあたっては、ヒューミント業務の危険性に鑑み、専門人材の確保及び育成の進展のペースにあわせて慎重かつ段階的に進めるものとすること。
    • あわせて、海外で活動する要員の身分保全や関係者を含む安全の確保及び活動の国内法上の適法性を確保するための法制の要否や、専門人材の計画的な育成についても、組織の整備と一体で検討を進めること。

(3)オシント能力の強化

公開情報を体系的に収集・分析するオシントは、近年の情報爆発とAIの進展により、その重要性を飛躍的に高めている。とりわけ、SNS等を通じた外国勢力による影響力工作や偽情報の拡散は、その痕跡の多くが公開空間に現れるため、投稿の発信源やネットワークの構造を解析するオシントが、脅威の早期検知と背後の主体の特定に大きな力を発揮する分野である。米国をはじめ各国の情報機関は、こうした分析においてシンクタンクや民間専門企業、アカデミアと連携し、政府内部に閉じない形でオシント基盤を構築している。

上記を踏まえ、以下提言する。

  • 国家情報局において、以下の諸点に留意して、オシント能力を強化する上で、政府が自ら担うべき機能と、国内外の専門機関に委託すべき機能について、基本的な考えを整理すること。
  • 具体的には、民間委託に適する分野と政府が保持すべき機能の切り分け、信頼できる委託先の確保・育成、調達やセキュリティ・クリアランスの在り方などについて、具体的な検討を進めること。

(4)ジオイント能力の強化

衛星画像等を分析するジオイントは、商用衛星の高解像度化と打上げ頻度の向上、AIによる自動解析の進展により、平時の脅威監視から有事の対応まで、その重要性を急速に高めている。

もっとも、衛星情報は、政策判断や外交に資する情報部門のニーズと、部隊運用に直結する防衛部門のニーズの双方にまたがるため、各国でも両部門の協力と分担が共通の課題となっている。例えば米国では、衛星を建造・運用する機関、画像を分析する機関、軍の地理空間部門が、それぞれの役割を分担しつつ、情報コミュニティ全体の統合的な枠組みの下で連携する体制を整えている(別紙3:各国政府の画像情報関連機関について)。

上記を踏まえ、以下提言する。

  • 国家情報局は、内閣衛星情報センターの分析人員を増強し、24時間運用体制の早期実現を図ること。
  • 政府有識者会議は、衛星情報収集に関して国家情報局における収集と分析の独立性、防衛省との役割分担など、国益に資する在り方を模索すること。

4.監督の強化(民主的統制)

抑止と収集の強化は、国民の信頼なくして持続しない。情報機関の正統性の確保には、合法性や成果のみならず、社会的受容性のチェックが必要である。情報機関に強力な権限を付与する以上、その活動が法と目的の範囲内にあり、社会的に受容されることを不断に検証する仕組みを一体として整備することは、能力強化の代償ではなく前提条件である。米国・英国・豪州などの主要国は、この監督を、議会による監視(議会監視)と、専門家による行政から独立した監察(独立監察)とを重層的に組み合わせることで実現しており、これが各国に共通する設計思想である。本提言においても、能力の強化と監督の強化は、切り離すことなく、一つのパッケージとして同時に制度化されるべきものと位置付ける。

(1)議会監視

  • ア 我が国の状況

    我が国では、衆参両院に置かれた情報監視審査会が、特定秘密及び重要経済安保情報の指定・解除や適正評価の実施状況等の監視を担っているが、インテリジェンス活動を直接監視しているわけではなく、当該秘密指定を通じて間接的に監視しているのみである。

  • イ 諸外国の制度

    これに対し、主要国の議会監視の代表的役割は、予算執行の状況把握と妥当性、幹部人事や重要施策に関する報告聴取、情報機関の政策的優先課題や運用方針の点検、活動の合法性や有効性に加えて社会受容性の事後的検証などである。米国では、最も機微な情報の共有先を与野党有力役職者8人に絞るなど、また豪州では情報コミュニティ全機関を対象に上下両院合同の議会監視を行うなど、各国独自の特徴的な工夫が見られる(別紙4:各国の情報監視制度の比較)。

  • ウ 提言

    上記を踏まえ、以下提言する。

    • 当本部において、政府における「抑止」及び「収集」の強化の検討と並行して、以下の諸点に留意して、インテリジェンス機関に関する議会監視の強化の具体的方策について、検討する。
    • 情報監視審査会においては、今後インテリジェンス活動の強化に伴い適正に特定秘密等に指定された機微情報については、監督の対象となるが、さらに、特定秘密保護法の制定時に付された付帯決議に沿って、主要国の例も参考にしつつ、今後の政府におけるインテリジェンス能力強化に向けた作業の進捗に併せて政府から意見・提案を聴取しながら、行政・予算への監視対象の拡大や厳格な情報保全の仕組みを導入することを視野に、当本部において具体的設計を行う。
    • その際、インテリジェンスと特定秘密等の特性の違い、機密保全の重要性、監視強化と運用合理性の関係など、議会監視の構成・運用に十分留意する必要がある。

(2)独立の監察機能

一方で、議会監視のみでは、機密性の高い個別活動の実態把握や専門的な検証には自ずと限界がある。このため、議会監視の強化と併せて、高度の専門性と継続性を備えた独立の監察機能を整備し、両者を組み合わせた監督体制を構築することが、実効的かつ我が国の実情に適った方策である。

主要国における独立監察の代表的役割は、専門家による機密情報への随時アクセスや施設立ち入りを通じた、実施中の個別活動を含む運用の実態把握と妥当性の検証、活動の事前承認などであり、ここでも各国独自の工夫が見られる。

また、情報機関の活動が国民からの信頼を得続けるためには、その活動が、「外国勢力による隠れた工作から、国民の自由な判断と民主主義の公正を守る」という目的に適っているかどうか、検証可能な形で監督されなければならない。そのためには、情報機関に対する外部からの監察機能を整備するだけでなく、内部に独立した監察機能を設け、ガバナンスを徹底することが極めて重要である。たとえば米国では、各情報機関及び情報コミュニティ全体に、独立した監察総監(IG/ICIG)が置かれ、活動を厳格に監察している。

上記を踏まえ、以下提言する。

  • 当本部において、政府における「抑止」及び「収集」の強化の検討と並行して、以下の諸点に留意して、インテリジェンス機関に関する独立監察組織の具体的設計について、検討する。
  • 例えば、英国のインテリジェンス及び通信情報監察機関であるIPCOを参考に、サイバー対処能力強化法に基づき本年設置されたサイバー通信情報監理委員会のような、専門家の知見を活かした合議体の行政委員会を置くことも有力な選択肢である。その際、設置形態の在り方を含めて必要な法的措置を検討すべきである。
  • 情報機関の活動が国民からの信頼を得続けるため、情報機関に対する外部からの監督とともに、内部に独立した監察機能を設け、ガバナンスを徹底することが極めて重要である。米国など諸外国の例を参考に、情報機関の内部に監察を担う専門部署を設けることを検討する。
  • プライバシーや人権に十分配慮するのは当然であり、この点、議会監視と独立監察によって十分に監督されるよう具体的な措置を講じると共に、救済手続なども検討し、国民の安心を担保すること。

5.インテリジェンス基盤の強化

以上の抑止・収集・監督の三本柱の実効性は、それを支える組織・人材・技術の基盤にかかっている。本章では、当本部が本年2月にとりまとめた「我が国のインテリジェンス機能の抜本強化に関する提言」(「第一次提言」)の内容も踏まえ、三本柱を横断的に支える基盤の強化について提言する。

(1)国家情報局の運用と情報機関の連携強化

本年5月に国家情報会議設置法が成立し、インテリジェンス・コミュニティの司令塔としての国家情報局、すなわち国家の「頭脳」の整備が始動した。もっとも、その真価は運用によって決まる。とりわけ、収集された情報を国家として統合し評価する総合分析(オールソース・アナリシス)機能は、本提言に掲げる収集能力の強化と車の両輪をなすものである。改めて、第一次提言の内容も踏まえ、以下提言する。

  • 国家情報局は、同志国に倣い、首相官邸など枢要な政府施設や会議への携帯電話や電子機器の持ち込みルール及びセキュリティチェックのあり方など防諜プロトコル全体の抜本的な見直しを進めること。国家情報局は、文章レポート形式によるインテリジェンス・ブリーフィングの徹底や、省庁間の安全なインテリジェンス共有システムの構築など、第一次提言に掲げたインテリジェンス・サイクル強化策の実装を早急かつ着実に進めること。
  • 国家情報局は、同志国に倣って、インテリジェンス機関が収集・作成した情報やレポートについて、機密度と内容に応じて、政策サイドを含む政府内の関係部署に共有範囲を決めフィードバックが得られるような電子的な共通プラットフォームを早急に構築すること。またインテリジェンス機関の情報共有基盤である「トップシークレットクラウド」の整備を加速すること。同時に、システム整備を待たずに必要に応じた省庁間の情報共有の更なる推進を加速すること。
  • 国家情報局は、国家情報局の中核機能である総合分析を担う情報分析官の人員体制を、同志国の例も参考に抜本的に強化するとともに、新任分析官に対する組織的な研修を実施すること。その際、分析結果の品質担保と信頼確保の観点から、分析チームには、政策サイドからも情報収集サイドからも一定の中立性・独立性が確保されるよう留意すること。

(2)インテリジェンス人材の確保と育成

情報防衛力を最終的に支えるのは、人である。本提言に掲げる抑止・収集・監督のいずれの機能も、高度の専門性と使命感を備えた人材なくしては実現しない。第一次提言の内容も踏まえ、以下提言する。

  • 各省でインテリジェンス業務に関わる人材が、安心して職務に専念できる人事・処遇等のキャリアパスの設計・強化に早急に取り組むこと。
  • 国家情報局は、関係省庁と連携して、各省庁のインテリジェンス業務に省庁横断の教育訓練制度(インテリジェンス・アカデミー)の創設や、同志国情報機関との連携協力の深化に向けた人材交流・派遣の制度化など、組織的な人材育成を推進すること。我が国にノウハウが不足する分野については、当初は同志国の支援を受けることも検討すること。
  • 国家情報局は、抑止・収集・監督の各機能の強化を支える人的基盤として、既存の各情報機関の定員の計画的な増強を図ること。その際、本提言に掲げる組織の在り方に関する検討と整合的に進めること。
  • 国家情報局のみならず、各情報機関の幹部人事についても、特定の省庁出身者の指定席とすることなく、人物本位・能力本位での任命を徹底すること。

(3)インテリジェンス技術開発

インテリジェンス能力の向上には、それに資するAI・サイバー・量子・センシング等の先端技術への持続的な投資が不可欠である。しかし、急速に進化する民間技術を政府内の開発のみで取り込むことは困難であり、外部の革新を機動的に活用する仕組みが求められる。上記を踏まえ、以下提言する。

  • 国家情報局は、米CIAが設立した投資ファンド「In-Q-Tel」の例に倣い、情報機関が有望な民間スタートアップへ戦略的に出資・育成するファンディング機能の創設を検討すること。これにより、最新技術の早期発掘と実装を加速し、我が国の技術的優位性の確保につなげること。

(4)その他、制度設計や運用上の留意点

情報防衛力は国民の理解なくしては得られない。インテリジェンス先進主要国であっても、歴史的に紆余曲折を経ながら、その実現に向けて不断の努力が積み重ねられている。その核心は信頼である。先人の経験も踏まえ、国内外はもとより政府組織内外から信頼されるに足る制度・運用・意識にするため、以下を留意事項として付しておく。

  • 国民とともに築く国家レジリエンス:情報防衛力は政府のみで完結しない。外国勢力による工作は、地方自治体、大学、企業、重要インフラ、そして国民一人ひとりの自由な判断にまで及んでおり、社会全体で国を守る総合的な力が不可欠である。政府は、安全保障上支障のない範囲で積極的に情報を発信して説明責任を果たすとともに、情報リテラシー及びサイバーセキュリティに関する教育・啓発を官民で推進すべきである。守るべき情報は確実に守り、共有すべき情報は誠実に共有する。国民は、自由と民主主義をともに守る主体である。
  • 政策と情報の分離と情報共有:政策部門は、政策立案の期待バイアスを常に内在しているため、情報部門はその期待バイアスに抗い、過大評価や過小評価を疑い、一定の独立性を確保しつつ、収集・分析・評価の業務にあたることが求められる。もとより、情報は政策のためにある。情報部門は、カスタマーたる官邸要路や国家安全保障局などの政策部門のために機能する組織として設計されるべきである。一方で、ここでいう独立性とは役割と任務においてである。非合理的な情報分断が生じないよう下記の工夫を講じるべきである。なお、繰り返しになるが、収集と分析の関係に関する、役割と任務における一定の独立性と情報共有の重要性についても、関係間でより明確に意識すべきである。
  • 独立部門間の情報共有プロトコル:役割と任務において一定の独立性を担保すべき部門間であっても、過度な情報の分断は、インテリジェンス能力の阻害要因にしかならず、必要な情報の共有は積極的になされるべきというのが歴史上の教訓である(Need To Shareの推進)。早急に情報共有プロトコルの標準化に注力し、それによって適切な情報の共有がなされるよう設計すべきである。
  • 情報源バイアスへの対処:単一情報源への過度の依存や、情報源の思想信条や意図等のバイアス、あるいは技術的確度や特性など、情報源の脆弱性が分析結果に大きなバイアスをかけた歴史上の失敗を教訓に、情報部門は、政策部門への情報共有時に、情報源の検証、確信度、不確実性、想定と判断の区別、異論の可視化と対抗検証の結果を付すなど、情報基盤の確立を待つことなく情報共有プロトコルの標準化を試みるべきである。
  • 失敗から学ぶ組織文化:失敗は忘れられがちである。各国の情報機関は、失敗の検証を通じて制度と運用を改善してきた一方、改革が振り子のように新たな課題を生んだ例も少なくない。インテリジェンスの拠り所が国民の信頼である以上、信頼が有限の資産であることを認識し、失敗を教訓につなげて常に自己改善する組織文化を、制度的な担保と併せて醸成すべきである。

以上

別紙一覧

  • 別紙1:海外及び我が国における諜報活動等の検挙事例
  • 別紙2:各国の防諜法制の概要
  • 別紙3:各国政府の画像情報関連機関
  • 別紙4:各国の情報監視制度の比較

[1]外国代理人登録制度については、このほかに、海外においては、代理活動を依頼する主体が海外か国内かを問わず、議会や政府へのロビイングを行う代理人に登録を求める法律も存在する(例・米国のLobbying Disclosure Act of 1995)。これらも、代理活動の透明性を確保しようとするものである一方で、外国政府や外国情報機関との繋がりに着目するものではないため、本提言の対象外とする。

[2]諸外国の法制のなかには、すべての国の代理人について等しく登録義務を課すものもあれば、英国FIRSのように、(i)リスクの低い外国勢力のために行う政治的影響活動を対象とする基本層と、(ii)我が国の安全保障上特に注意を要するものとして指定された外国勢力等のために行う広範な活動を対象とする強化層、の二段階方式を採用するものもある。

[3]さらに、当然のことながら、刑法上の正当行為による違法性阻却(刑法35条)も適用され得るし、依頼相手が外国勢力と知らずに行った行為については故意(刑法38条)が否定され得る。