企業会計に関する小委員会提言
令和8年4月22日
金融調査会
企業会計に関する小委員会
1.コーポレートガバナンス改革の推進
① これまでの取組・背景
2015年のコーポレートガバナンス・コード適用開始から約10年が経過し、プライム市場上場企業の大宗が3分の1以上の独立社外取締役を選任する等、コーポレートガバナンス改革には一定の進捗が見られる。他方で、コードは中長期的な企業価値の向上のための自律的な取組を企業に促すという性質を有するものであるにもかかわらず、コードの形式的な対応にとどまり、コードの趣旨や精神に照らして、中長期的な企業価値の向上に向けた取組を検討・実践していない企業が多いとの指摘もある。
これまでも、金融庁は「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」を策定し、関連する施策を遂行する等、コーポレートガバナンス改革の実質化を促進してきた。また、本小委員会においても、政府及び東京証券取引所に対し、企業や投資家の形式的な対応をより実質的なものに変えていくための施策や企業の稼ぐ力を更に向上させるために必要な措置の検討を進めるように求めてきた。現在、金融庁及び東京証券取引所では、5年ぶりのコーポレートガバナンス・コードの改訂について検討しているところであるが、本小委員会においてもコードの改訂を議論の中心に置きつつ、数次に亘り議論を行ってきた。
② 今後の対応
直近では企業業績は好調に推移しており、2024年度の経常利益は2013年度比で2倍近い131兆円となっているものの、研究開発投資等を欧米と比較すると、まだまだ十分でない現状にある。中長期的な企業価値向上ひいては日本経済の成長のためには、高市政権が掲げる「成長投資」を企業が積極的に行うことが、極めて重要である。特に、成長投資の一環としての賃上げを含めた人的資本投資や知的財産投資等の拡大が喫緊の課題であるほか、地域社会への投資という観点も重要である。また、現預金を含めた金融資産を成長投資へ有効活用することも重要な観点であると考えられる。
これらを踏まえた上で、金融庁及び東京証券取引所は、成長投資促進のためのコーポレートガバナンス・コードの改訂を早期に進めるべきである。その際には、コードの目的は、短期的なものではなく、中長期的な企業価値の向上であることを強調すべきである。合わせて、東京証券取引所においては、コーポレートガバナンス・コードの改訂の趣旨にあわせて、コーポレートガバナンス報告書の内容を見直していくべきである。
また、コーポレートガバナンス・コードに記載されている内容の実効性を持たせる観点から、金融庁と東証は、改訂されたコーポレートガバナンス・コードの実施状況を分析・評価するとともに、グッドプラクティスを公表するなど、浸透のための施策を検討すべきである。
「スチュワードシップ・コード」の趣旨に沿った対話やスチュワードシップ活動に関する情報提供が適切に行われているかの確認を含め、上場企業や機関投資家の両コードの取組状況をフォローする。
2.有価証券報告書の定時株主総会前開示に向けた環境整備
① これまでの取組・背景
有価証券報告書には投資家の意思決定にとって有用な情報が豊富に記載されていることから、投資家との建設的な対話等のために、定時株主総会の3週間以上前に開示されることが最も望ましい。昨年3月の金融担当大臣からの要請を受け、2025年3月期決算企業のうち、有価証券報告書を定時株主総会前に開示した企業は57.7%となり、前期に比して著しく増加したものの、8割の企業が1日から2日前の開示に留まっている。金融庁が行ったアンケート結果を踏まえると、2026年3月期に総会前開示を実施する上場企業は77%程度となる見込みとなっている。これらを踏まえ、金融庁は、法務省等と連携し相談窓口の設置や勉強会の開催等、前向きに取り組む企業を支援する施策を進めている。
② 今後の対応
今後総会前開示を更に推進して、3週間以上前の開示を達成するためには、企業の準備時間の確保、企業の業務負荷の軽減及び十分な監査時間の確保が課題である。この課題を解決するためには、単に企業の有価証券報告書の作成スケジュールを前倒しするのではなく、定時株主総会の開催の後倒しが有効な手段となり得る。また、企業負担の軽減のために、開示項目の簡素化を進めるとともに、金融商品取引法上の有価証券報告書と会社法上の事業報告等の一本化・監査の一元化という制度上の対応は極めて有効である。
これらを踏まえ、法務省は、有価証券報告書と事業報告等の一本化・監査の一元化を含んだ会社法改正法案の速やかな国会提出と、関連改正箇所について、2028年3月期を目標としつつ、早期の施行を図るべきである。監査の一元化と合わせて、監査の期間を確保した上での総会前開示を進めるため、会社法監査の期限に係る義務を緩和することも検討すべきである。また、金融庁においては、引き続き上場企業の総会前開示に向けた取組状況をフォローするとともに、各企業の取組を丁寧に支援する等により定時総会前開示の機運醸成に努めるべきである。
3.サステナビリティ情報の開示・保証
① これまでの取組・背景
投資家が投資判断を行う上で重要な情報であるサステナビリティ情報が、比較可能性が担保された状況で開示されることは重要であり、またその情報の信頼性を確保し投資家保護を図る観点から、第三者による保証制度も重要である。これまで、本小委員会においては、国内外の動向も踏まえつつ、サステナビリティ情報の開示・保証に関する論点について議論を重ねてきた。また、金融庁より、検討の結果として、本年1月に金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」報告が公表されるに至った。同報告の中では、グローバルな投資家との建設的な対話を志向するプライム市場上場企業の、時価総額の大きな企業から順次サステナビリティ開示基準に準拠した有価証券報告書の作成を義務付けること、開示基準の適用開始時期の翌年から保証を義務付けること、保証業務提供者に対し登録制を導入し、監査法人・監査法人以外のいずれの者も登録要件を満たす場合は参入可能な制度とすること等が提言された。
② 今後の対応
今後、同報告の内容も受けた関連法案が国会審議を経て成立した後には、金融庁は、諸外国の制度の運用状況を含めた国際的な動向や国内企業及び保証業務提供者の準備状況にも注視しつつ、制度の円滑な施行に努めるべきである。その際、保証業務提供者による保証の質を確保するために、独立性を含む保証業務提供者の業務管理体制の状況を注視するとともに、保証業務の責任者である業務執行担当者において適切な知識・経験・能力があることを担保できるよう制度の運用を図るべきである。また、具体的な保証基準等の検討にあたっては、日本公認会計士協会等の関係者と適切な連携を図っていくべきである。
併せて、成長投資の一つである知的財産等の無形資産への投資については、政府において企業の積極的な開示を促していくべきである。
4.スタートアップ企業への成長資金供給促進に向けたディスクロージャーに係る対応
① これまでの取組・背景
スタートアップ企業への成長資金供給の促進のためには、投資家保護に留意しつつ、発行体の開示負担にも配慮した開示制度の整備が重要であることから、これまで党や政府の会議等において累次議論が進められてきた。本調査会でも資金調達に必要な開示に伴うコストの分析・調査を行い、その結果も踏まえ、有価証券届出書の提出免除基準等の見直しを図るべきことが提言された。また、金融庁より昨年12月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告では、有価証券届出書の提出免除基準を1億円から5億円に引上げ、5億円以上10億円未満の募集については、より簡易な様式による有価証券届出書を利用可能にすること、特定投資家私募(プロ向け私募)の勧誘の相手方に、特定投資家の要件を満たしているが移行手続を行っていない者(潜在的特定投資家)を追加すること等が提言された。
② 今後の対応
今後、これらの内容も踏まえた関連法案が国会審議を経て施行された後も、政府においては、実際の制度の利用例等も踏まえつつ、成長資金の供給の促進に向けた制度のあり方について継続的に検討を行うべきである。あわせて、特定投資家私募で調達した際に発行された有価証券のセカンダリー取引を活発化することは特定投資家私募の制度利用促進にも寄与することから、セカンダリー取引活発化のための措置を検討し、実施していくべきである。さらに、資金調達をする場合に規制がかかる端緒となる勧誘の概念が過度に広すぎないかという点についても検討を行い、規制範囲の適正化を図るべきである。
5.監査法人・公認会計士を巡る課題
① これまでの取組・背景
監査法人・公認会計士は、「資本市場の番人」として、監査業務を通じて、企業の適正な情報開示、そして健全な企業活動を支える重要な役割を担っている。信頼性が確保された企業の情報開示は、企業と投資家の建設的な対話の前提となるものであり、監査法人・公認会計士による監査業務が適切に実施されることによって、建設的な対話が促進され、企業の持続的な成長や企業価値向上等に向けた資金の流れの創出に繋がっていくことになる。
こうした監査法人・公認会計士を巡っては、公認会計士の合格者数は堅調に増加している一方、監査法人に所属する公認会計士の数は緩やかな増加にとどまっており、監査業務以外の業務に従事するいわゆる「監査離れ」が長期にわたり進んでいること、上場会社の監査の担い手は大手監査法人から中小監査法人へと裾野が拡大していること等変化が生じている。こうした変化を踏まえ、本小委員会では、監査業務の魅力向上及び中小監査法人の監査品質の向上、それに向けたキャパシティビルディングについて、数次に亘り議論を行ってきた。
② 今後の対応
日本公認会計士協会においては、公認会計士の志願者数、合格者数と比較して、監査に従事する者の数があまり増えない現状を踏まえ、公認会計士の本来業務である監査の魅力向上に向けた施策を検討すべきである。また、中小監査法人を含めた監査の担い手における監査の質をより一層向上させるように努めるべきである。特に、適格な中小監査法人の人材育成やデジタル化等の経営基盤強化を支援するキャパシティビルディングの取組を焦眉の急として推進すべきである。そのためには、日本公認会計士協会においては、関係機関と連携し、監査業務に関連する共通IT基盤・プラットフォームの構築に取り組むべきである。さらに、監査品質を向上するために、経営基盤を強化し規模の拡大を目指す中小監査法人に対して、中小監査法人間のネットワーキングの強化等も、協会として支援に取り組むべきである。
また、金融庁においては、こうした協会の取組を後押しするとともに、ITや人的基盤など中小監査法人が抱える様々な経営課題について対話を行うなど、中小監査法人の監査品質向上に向けた取組を一層強化すべきである。
加えて、金融庁、公認会計士・監査審査会においても、有効な検査・モニタリングの在り方について十分に検討を行い、検査自体がプロセス責任の追及に偏ることや、チェック型監査を助長し「監査離れ」を惹起することがないよう適切に対応するとともに、中小監査法人の実情を十分に理解した上で、協会とも連携して監査品質の向上を後押しするようなきめ細かな支援を実施すべきである。
さらに、監査法人は、スタートアップ企業に対し、監査を通じて把握した内部管理体制の不備等について適切に指摘・助言することによって、内部管理体制の構築等、上場に向けてのスタートアップの取組を促しつつ、質の高い監査が安定的に提供されるよう取り組むべきである。
6.会計不正事案への対応
① これまでの取組・背景
企業による適正な情報開示、財務情報の信頼性を確保する会計監査は、資本市場における重要なインフラとして機能している。
過去、会計不正については、米国のSOX法を参考として内部統制報告制度が導入され、その後も、「不正リスク対応基準」や「監査法人のガバナンス・コード」の策定、上場会社等監査人登録制度の導入等、会計不正の抑止に向けて関連制度が見直されてきたところである。
しかしながら、昨今、新規上場時の会計不正や日本を代表する大企業における会計不正等、上場企業による会計不正が相次いでおり、我が国資本市場に対する信頼に影を落としかねない事態となっている。
② 今後の対応
会計不正は、資本市場に対する投資家の信頼を害するものであり、健全で活発な資本市場の形成を妨げる。最近会計不正事案が続発していることは誠に遺憾であり、関係者においては、事案の究明、必要な処分、再発防止策の策定をしっかりと行うべきである。
オルツの会計不正事案は、監査法人の交代が行われた後に同社が上場したが、上場前から経営幹部が関与した売上架空計上が行われていたものである。また、ニデック、KDDI等、日本を代表する大企業においても最近不正会計が続発している。これらの背景には、経営者による過度な業績プレッシャーをはじめ、経営トップへの権限の集中、内部統制や監督機関による牽制機能の不全、会計監査人・投資家・市場に対する不誠実さ、不正を正当化する企業風土、上場企業グループとしての自覚とリテラシーの欠如、事業管理・子会社管理をはじめとする経営の仕組みの不全等、事案により多岐にわたるもののそれぞれ重要な原因が指摘されている。
これらの事案を受け、まずは上場企業こそが、一義的な責任主体であることから、コアな経営者自身が適正な情報開示の重要性をあらためて認識すべきである。したがって、上場企業の財務情報開示に関する規律向上については、有価証券報告書の記載内容が適正であることを確認する確認書(金融商品取引法第二十四条の四の二)における「有価証券報告書の記載内容の適正性に関する事項」の記載事項を、米国等の制度も踏まえて追加することに向けた法令改正により、より充実し、実効的な開示となるよう後押しすべきである。また、コーポレートガバナンス・コードの改訂を通じて、上場企業に、経営者の内部統制や全社的リスク管理体制の適切な整備への責任に対する意識の向上、情報開示に対する規律の向上等を求めるべきである。
次に、独立社外取締役に関しては、経営者に対する牽制機能と不正に対する抑止力(ブレーキ)が働くようにすべきである。具体的には、コーポレートガバナンス・コードの改訂を通じて、独立社外取締役が十分にその機能を発揮することを求めるとともに、取締役会の機能の強化を求めるべきである。また、取締役会の機能強化に関するグッドプラクティスを収集・公表することによって、その浸透を図るべきである。
加えて、監査人が適切に職業的懐疑心を発揮し、監査の信頼性を確保することが重要である。日本公認会計士協会をはじめとする関係者は、5.において記載したように監査品質の向上など能力強化に向けて、支援に取り組むべきである。
また、「架空循環取引」のような繰り返される不正の手法については、日本公認会計士協会において、これまでも循環取引の防止及び発見に関して参考となる情報を提供してきたところ、監査人が会計不正を未然に防ぐことができるよう、こうした情報を研修等も通じて改めて共有・徹底するなど、関係者が協力して具体的な抑止策を講じるべきである。
最後に、新規上場に関連して発生した会計不正事案を受けて新規上場に係る主要なゲートキーパーである日本取引所グループ、日本証券業協会、日本公認会計士協会が、新規上場時の会計不正事例を踏まえた対応策を公表したところ、上場準備会社の過度な負担を回避することにも留意しながら、政府も含めた関係機関の連携強化を図りつつ、これらの対応策を着実に実施し、再発防止に取り組むべきである。
本小委員会においては、経営者に対するサンクションの強化を求める意見や内部統制の実効性を問題視する意見も聞かれたところである。有価証券報告書等の虚偽記載等の会計不正に対する刑事罰の在り方については、過去の法改正の経緯・趣旨や、刑法上の詐欺罪や会社法上の特別背任罪の法定刑との平仄にも留意しつつ、会社の経営者に対する抑止力が十分に働くよう、事案に応じた厳正な科刑の実現が図られていくことが肝要である。また、こうした不正が繰り返されることがないよう、情報開示主体である上場企業の規律の向上、監査人の監査品質の向上、上場審査の実効性の向上等について、政府をはじめとする関係者が協力し、幅広い視点で検討した上で、再発防止に向けて不断の施策が講じられるべきである。
7.金融経済教育を通じた企業会計、監査や開示制度の重要性の発信
① これまでの取組・背景
政府は、全国での金融経済教育を推進するための主体として、2024年4月に「金融経済教育推進機構(J-FLEC)」を設立した。J-FLECでは、若年層から高齢者層まで、幅広い世代を対象とした金融経済教育を推進すべく、年齢層別の教材の作成や、企業・学校等の講師派遣の実施、イベント・セミナーの実施等に取り組んでいる。
2025年12月末のNISAの口座数は約2800万口座となり、18歳以上の国民の4人に1人が口座を保有する状況となっている。そのような中、多くの国民が一人ひとりのライフプランに沿って安定的な資産形成を行うため、金融経済教育の重要性はますます高まっている。
また、経済活動を正しく理解し、広く社会で活躍するためには、会計に関する基礎的な素養(会計リテラシー)もますます必要となってきている。日本公認会計士協会においては、会計リテラシーの普及・定着に向けて、セミナーの開催や授業支援教材の提供等、教育現場への支援活動に取り組んでいる。
② 今後の対応
決算情報等の開示制度は、その信頼性を担保する監査制度と相まって、投資判断の基礎を成す重要な社会インフラとして機能している。また、企業会計(財務会計・管理会計)は、企業の適正な財務情報開示の前提であり、かつ、健全な企業経営を支える基盤である。このため、J-FLECの教材の改訂や日本公認会計士協会の教材・ウェブサイト(会計探究ラボ)の活用等を通じて、その重要性を金融経済教育の中でも取り上げていくべきである。
また、監査や開示制度を支える会計リテラシーを幅広い世代へ普及させていくことも重要である。現在、次期学習指導要領改訂に向けた議論も進んでいるところ、会計が経済活動を支える基盤となる機能を果たしていること等の重要性について、学習指導要領解説等において関連する記載を充実するべきである。