令和9年度フュージョンエネルギー政策に関する提言

「フュージョンエネルギー創造立国に向けて」

令和8年6月2日
科学技術・イノベーション戦略調査会
フュージョンエネルギーPT

中東情勢、特にホルムズ海峡封鎖を受けてオイルショックの再来の懸念が高まる中、我が国におけるエネルギー安全保障は、より深刻味を増して重要な問題となってきている。電力については、既に石油資源に頼る状況ではないが、経済安全保障の観点から、海水から燃料を調達できるフュージョンエネルギーを実現し、我が国のエネルギー源とすることは、我が国の将来の存亡をかけた重要な課題である。

フュージョンエネルギーPTが令和7年11月に取りまとめた提言を踏まえ、政府において約1,000億円規模となる補正予算が編成された結果、政府における支援メニューが充実し、いよいよ各プレイヤーが、2030年代の発電実証に向けて走っていくフェーズに入った。

高市内閣は、令和7年11月に、危機管理投資・成長投資の戦略17分野を指定し、そのうちの一つにエネルギー安全保障上、他の戦略分野の基盤となるべくフュージョンエネルギーを位置づけ、官民投資ロードマップの策定を進めている。このロードマップの素案は、本年3月のフュージョンエネルギーPTにおいて点検を行い、一部修正を求めたところである。また、令和9年度概算要求は、高市内閣が一から編成する最初の予算であり、「政府の予算の作り方を根本から改める」「これまで単年度で編成され、補正予算の編成が常態化している流れを変え、複数年度で自治体や事業者に予見可能性をもたらす予算編成にする」という方針を打ち出している。

これに向けて、フュージョンエネルギーの実現に必要となる経費について、必要となる金額を、不足無く、かつ研究開発の特性を踏まえて複数年度の支援も可能とする形で確保する必要がある。また、予算編成のみならず、フュージョンエネルギーの実現や産業基盤の確立には、人材の育成や安全確保等の制度整備、さらには商用化・市場獲得を見据えた発電実証以降の工程についても明確化することが必要である。

フュージョンエネルギーPTは、各プレイヤーの取組状況をしっかりとフォローアップし、研究開発を担う各プレイヤー単独では解決が難しい課題を政治の力で解決していく。これにより、研究開発を阻む障害を取り除き、全速力で商用化を見据えた発電実証の実現を目指していく。

このような観点から、今後の政策の在り方について以下、提言する。

1.フュージョンエネルギー実現に向けて残された技術課題の克服

フュージョンエネルギーの実現には、炉材料開発やブランケット開発、トリチウム取扱い技術、プラズマ制御技術、強度の放射線環境下における計測制御(センサーの開発)や遠隔保守技術(ロボット技術の確立)、信頼性・保守性等の運用性・可用性向上など、工学的にも難易度が高く、どの国も未だ解決できていない技術課題が存在している。このような残された技術課題を、世界で最初に克服した国がフュージョン時代の主導権を握るだけでなく、福島第一原発の廃炉作業を加速させるなど他分野へも波及する最先端の技術を多く内包している。

こうしたことから、我が国が世界の主導権を握れるよう、世界最大のフュージョン統合実証プラント建設と運用により各種の知見やデータを取得するITERや、現在世界で稼働している唯一の大型の核融合装置であるJT-60SAを最大限活用しつつ、炉型を超えた重要な共通基盤要素技術を整理した上で、残された技術課題の克服に向けた研究開発を強力に推進するべきである。

このため、国研・大学・民間事業者の役割分担を明確にした技術戦略の下で、令和9年度予算において、QST等において重要な要素技術の確立に向けた研究開発を強力に推進するとともに、スタートアップ等も活用できるイノベーション拠点の施設・設備を整備し適切に運用できるよう、必要な予算を確実に措置すべきである。

また、ITER、JT-60SAを含む幅広いアプローチ活動を強力に推進するとともに、それらの成果を生かした原型炉開発を着実に推進できるよう、必要な予算を着実に措置すべきである。

2.スタートアップ等による野心的な技術開発の加速

我が国では、従来、スタートアップ等による発電実証に特化した支援施策が存在していないことが指摘され、その必要性が叫ばれてきた。フュージョンエネルギーPTでも、令和7年5月及び同年11月の提言において政府に対して対応を求めてきた。

これを受け、令和7年11月には、経済産業省の推進体制が強化され、令和7年度補正予算においてスタートアップ等への支援事業について5年間で1,000億円規模を見込む予算が措置され、本年4月から補助事業者の公募が開始されたところである。

スタートアップ等による野心的な研究開発は、より競争力のあるフュージョン発電システムを実現し、ゲームチェンジャー・ゲームオーナーとなる可能性を秘めている。令和9年度予算においても、必要な経費を着実に措置すべきである。また、スタートアップ等の研究開発を強力に推進するため、NEDOを念頭に資金供給機能の強化に向けて必要な措置を講じるべきである。

更に、SBIR制度を念頭に、フュージョンエネルギーの実現に重要となるコンポーネントや材料等の実用化を目指すスタートアップの技術実証、さらにはサプライチェーン参画等の将来の海外展開まで見据えて段階的に支援する予見性の高い制度への拡充を検討すべきである。

3.人材育成

フュージョン発電実証及びその後の商用化のスピーディな実現に向けて、放射性物質等の高度な安全管理を必要とする多様なプラントの現場(基本設計から据付工事、操業・メンテナンスまで)の経験を積んで、プラント全体のスーパーバイズができる人材の育成が必須である。このため、現在、建設や整備が進んでいるITERやJT-60SAを戦略的に有効活用し、フュージョン統合プラントの設計・建設等の経験を有した人材を育成する必要がある。例えば、我が国の若手・中堅技術者等を複数年の計画に沿って数十人規模でITERに派遣し、先端的な現場を経験する実務に従事させるため、日本人職員100名以上を目指すべきである。その際、現地での言語や住居等の支援を含めて安心して渡航することができる環境を構築する必要がある。併せて、ITERの進捗・価値に係る我が国での認知を向上するため、国内広報機能の強化を検討すべきである。

4.制度整備

予算関連施策のほか、フュージョンエネルギーの実現や産業基盤の確立には、制度的な枠組みの整備が必要である。

フュージョンエネルギーの早期実現に向けて、そのための研究開発の強力な推進に加えて、産業の振興、安全の確保、人材育成、国民の理解促進等を図ることについて、国としての態度を示しつつ、原子力基本法やRI法等の既存法律との関係も整理し、産業化を見据えた国家基盤技術としての位置づけを明確化する「フュージョンエネルギー推進法(仮称)」について、次期通常国会への提出を目指すべきである。

また、安全確保を大前提としつつ、フュージョン自体の安全面における特性を十分に勘案した上で、科学的に合理的で国際的な議論や各国の規制動向も踏まえた規制体系の確立が必要である。現状、原子力規制庁が事業者との意見交換を進めているが、規制検討を加速し、研究開発の進捗に応じて段階的に規制の具体化を進めるべきである。その際、グレーデッドアプローチの考え方を踏まえること等も重要である。一方で、商用プラントの立地判断のための自治体や地域への説明に必要な情報(系統接続なども含む)については、その整理を先行して進めることで将来的な予見可能性を高めることも不可欠である。

更に、我が国が開発・獲得したフュージョン関連技術のうち経済安全保障上の重要技術については、国益の観点から適切に管理されることが重要である。民間企業を含む関係機関においては、技術情報を適正に管理するための必要な措置など経済安全保障上の観点が求められるとともに、安全保障貿易管理制度に関する法律上必須とされる取組や研究セキュリティ・インテグリティとして求められる取組、経済安全保障上の重要技術に関する技術流出防止対策についても、適切に対応・実施することが必要である。

以 上