環境・温暖化対策調査会 政策提言
危機管理投資としての気候変動適応 ―変化の時代を切り拓く未来志向の戦略を― ポイント
令和8年6月4日
気候変動による影響が顕在化する中、国民の生命・暮らしや様々な分野の経済活動等に対し広範かつ甚大な被害を生ずるおそれがある。こうした被害を最小化するためにも、官民を挙げた適応策による万全の備えを進めることが必要。
適応への事前投資は長期的に経済全体として2~10倍の便益が見込まれる。適応の技術は日本が世界をリードできる成長分野。まさに適応はビジネスチャンスでもある。日本列島を強く豊かにしていくため、本提言を骨太の方針にインプットするとともに、気候変動適応計画に反映させ、深刻な気候変動影響に対する危機管理投資を政府一丸となって断行し、未来志向の適応の社会実装を加速化すべきである。
1.生命や暮らしに関わる深刻な影響に対するメリハリをつけた危機管理投資
(1)深刻な影響に対する危機管理投資
以下の項目を含め気候変動影響評価報告書で特に優先的に対応すべきとされた影響について、令和8年度中に見直す気候変動適応計画において対策の重点化を図ること。
- ・健康:屋外で働く者への熱中症対策の推進、地域における熱中症対策の推進支援等によって、早期に熱中症死亡者1,000人を下回ることを目指すこと。2030年までに全国のクーリングシェルターを指定している市町村の割合を100%にすることも含めて、熱中症対策実行計画を今年度見直すこと。
- ・防災・インフラ:ハード・ソフト対策による流域治水、グリーンインフラ活用による国土強靱化、自立分散型エネルギー設備導入等による地域防災レジリエンスの強化を推進すること。
- ・食料:農林業における高温耐性品種やスマート技術を含む生産安定技術の開発・導入、育種(品種改良)による養殖に適した性能を持った種苗の開発・普及等を進め、産地の連携やサプライチェーン全体での取組を推進すること。
- ・生態系と自然管理:緩衝地帯の管理を含む鳥獣対策、外来生物対策、自然共生サイトの認定促進、生態系等のモニタリングの拡充、ネイチャーテックの開発・実装を推進すること。
(2)「次期気候変動適応計画」に基づく確実な適応の推進
- ・環境省は気候変動適応推進会議を主導し、政府の適応に関する予算を取りまとめるとともに、気候変動適応計画に官民投資額の目標を設定することで、民間投資も含む社会全体の適応を加速化すること。
2.気候変動適応の国内外の社会実装の多面的展開
(1)地方と暮らしの課題解決にも貢献する未来志向の社会実装の促進
- ・産業形態や災害リスク等の実情を踏まえた地域の適応を実践するため、便益が明確な適応先進モデル地域を2030年までに30か所創出し、適応策の社会実装の突破口を開くこと。
(2)ビジネス競争力強化と我が国のサプライチェーンの強靱化
- ・防災対策、フードテック等の適応ビジネスの促進を通じた競争力強化のため、製品・サービスの開発・実用化やその効果の見える化等、適応ビジネス推進のための環境整備を行うこと。
- ・気象災害の早期警戒システム等に代表される日本の優れた適応技術をもつスタートアップを含む民間企業の海外展開を強力に支援するため、途上国にパッケージ展開等を推進すること。マレーシア、カンボジア等の途上国において、我が国の早期警戒システムを2030年までに10都市で実装することを通じて、サプライチェーン強靱化を進め、経済安全保障の強化に貢献すること。
- ・気候リスクマネジメントや適応ビジネスによる企業の持続的成長性と金融や投資の好循環を生み出すため、適応ファイナンスに関する支援ツールを整備すること。
(3)気候変動危機にさらされる世界の未来を守るイニシアティブ
- ・国際ルールづくりに積極的にコミットし、関係ガイドライン作成等を主導するとともに、日本の民間セクターによる技術支援を促進すること。
3.あらゆる関係者の適応の重点化のための科学の推進
- ・関係者の意思決定を円滑化し、取り組むべき適応の優先順位を明確化し、最適な適応策の組み合わせや実施判断を可能とするため、経済影響等について定量化、社会的影響の解像度の向上、適応策の効果の評価手法の開発等を行い、気候変動適応センターの取組強化を進めること。