自由民主党 教育立国調査会 提言
~日本を強く、豊かにする人材育成強化に向けて~
令和8年6月4日
自由民主党政務調査会
教育立国調査会
1.はじめに
団塊ジュニア世代が高齢者となる2040年にかけて、生成AIの飛躍的進化等の技術革新や少子高齢化・人口減少の一段の加速により、AI・ロボットの活用等を担う専門人材や、地域の社会・産業を支えるエッセンシャルワーカー等の圧倒的不足、地方の過疎化の一層の深刻化が懸念されるなど、我が国の社会・産業構造は新たな局面を迎える。こうした局面を乗り越え、高市内閣が掲げる「強い経済」を実現するためには、その基盤となる人材力の抜本的強化を図る人材育成システム改革を果敢に進めるとともに、人材育成システム改革への投資効果が成長のための人材力の向上として社会や産業に還元される「人への投資の好循環」を拡大していくことが必要不可欠である。
本調査会としては、このような情勢認識の下、昨年、「高校教育改革2040」(6月)、「人材育成システム改革2040」(8月)、「文系中心構造の大転換」(11月)の3つの緊急提言を取りまとめた。今般、政府が日本成長戦略会議・人材育成分科会において取りまとめた「高校から大学・大学院等を通した人材育成システム改革ビジョン~人への投資の好循環による強い経済の実現~」(以下「ビジョン」という。)は、まさに本調査会が提言した「高校から大学・大学院等まで一気通貫した人材育成システム改革の具体的な構想をまとめること」と軌を一にするものであり、同ビジョンに盛り込まれた施策・取組の速やかな実行が求められる。
我々の予測を超える程のAX(AIトランスフォーメーション)の加速度的進展を考慮すれば、人材育成システム改革はまさに「焦眉の急」であり、現時点で想定される2040年の社会・産業の姿を前提として段階的に取り組めばよい、という悠長なものではない。AXによる社会・産業構造の変化や人材需要の構造的変化を的確に捉えつつ、ビジョンが掲げる「イノベーション」を興すことのできる人材や「現場」を支える人材を戦略的に育成していくため、関係省庁や産業界・関係機関による協働の下、直ちに実効性のある改革を進める必要がある。そのために、従来の予算の枠にとらわれることなく集中投資すべき当面の重点事項と実効性向上に向けた方策を明らかにし、それらの施策・取組を一気呵成に進める契機とするため、本調査会として、日本を強く、豊かにする人材育成強化に向けた提言を行い、もってAI時代を生きる国民一人一人のウェルビーイングの向上に資することを願うものである。
2.人材育成システム改革の強力な推進に向けて
以下に掲げる事項については、向こう数年でスピード感を持って特に重点的に取り組む必要がある。政府において早急に具体化を進め、今夏に策定する政策文書や令和9年度予算の概算要求に盛り込むとともに、併せて、それらへの集中投資のために必要な財源の手当てを図るべきである。
なお、人材育成システム改革を強力に進めていくのだとしても、個々人の人生における自由で多様な選択が尊重されるべきことは論を俟たない。3.(2)で後述する意識改革等を通じて、AX等により変容する社会や産業・職業の姿を社会で広く共有しながら、キャリアチェンジを含む個々人の主体的な進路・職業選択の先に、個々人の自己実現と社会貢献実感の充足、社会や産業の人材需要の充足と持続的な経済成長を目指すべきである。
(1)当面の重点事項
≪社会の変化に応じた高校教育改革≫
- 「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)」の策定や高等学校等教育改革促進基金の創設など、高校教育改革が進む好機を捉え、各都道府県において策定する「高等学校教育改革実行計画」の着実な実現のため、改革に取り組む高校に向けた「高等学校教育改革交付金(仮称)」等の新たな財政支援の仕組みの構築、交付金等を活用し改革に取り組む高校の指導体制の充実など、国策として高校教育の振興に必要な措置を講じること。併せて、高校教育に係る教育費負担の軽減に引き続き取り組むこと。
≪高校教育改革と連動した高等教育改革≫
-
AXをはじめ、激しい社会の変化の中で、社会の在り方を自ら形作ることができる主体的な人材を育成するため、産業構造の変化に対応し、理工・デジタル系人材や現場エキスパートの育成強化に取り組むべきである。その際、人文・社会科学系の学生の学修時間の短さなど、我が国の高等教育の課題にも対応し、入学後の徹底した切磋琢磨と自分の判断と言葉に責任を持つための知的な修羅場体験を通じて学生の力を伸ばす「出口」の質保証などを併せて進める必要がある。
これらを踏まえ、変化の著しいAI時代に柔軟に対応しつつ、高等教育の機能強化を推進するため、
- 成長分野に係る学部等の再編や体制強化への支援等による、大都市の私立大学も含む、大学での実践的な理工・デジタル系人材育成の強化等
- 私学助成の拡充・重点化等による、理工・デジタル系人材育成や地域を支える人材の育成に取り組む大学等への支援
- 人文・社会科学系学部の入学定員のダウンサイジングによるST比(学生教員数率)の改善や理数分野併修等による、徹底した切磋琢磨と知的な修羅場体験を通じた教育の質の向上
- 在学中の知的成長をはじめとする学修成果等の可視化とそれに基づく教育の改善の観点からの評価など、高等教育機関の評価の在り方の改革
- 戦略17分野を先導する、大学院における高度人材育成強化
- 問いを立て、人を動かし、責任を持ち決定する力を育むべく、国内外の多様性の中で切磋琢磨し価値を創造する、海外留学等の人材育成支援
- 物価・人件費の上昇等を踏まえつつ、教育研究活動の充実等を行う国立大学法人運営費交付金の大幅拡充、共創拠点の実装化
- 高度専門人材の確保に向けた高専の設置促進・機能強化、国立高専機構運営費交付金の拡充、高専の「学位」授与に向けた検討
等に取り組むこと。
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大学の規模の適正化を図りつつ、地域を支える人材と高等教育へのアクセス確保を進めるため、
- 知事と学長、産業界等が連携したプラットフォームにおける、地域の人材需要(医療・福祉、産業、インフラ等)を踏まえた必要な人材の育成・高等教育等へのアクセスの確保方策の協議・実行とそれに対する支援
- 地方を支える人材の確保に向けた専門高校と短大・専門職大学等の一貫教育支援
- 経営体力がある段階での大学の円滑な撤退の促進
等に取り組むこと。
≪実践的職業人材の育成≫
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「学び続ける社会」の実現に向け、大学が「18歳中心主義」から転換し、「学び続ける社会」の拠点となるとともに、リ・スキリングが個々人の自己実現や処遇向上、企業の成長に確実に繋がるシステムを構築するため、
- 戦略17分野を先導する人材や現場エキスパート人材の育成、中小企業のAX化など、社会から求められるリ・スキリングプログラムの開発・提供等への支援の抜本的拡充
- リ・スキリングを大学のミッションとして明確に位置付け、全学的な体制の整備に取り組む大学への重点的な支援
- 産学が連携したリ・スキリングによる社会人修士・博士育成のための環境整備の一層の促進
- 社会人による奨学金の活用の更なる向上に向けた検討
等に取り組むこと。
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地域で必要となるAI・デジタル技術等を活用した高い専門性を発揮できるエッセンシャルワーカーの育成に向けて、
- 都道府県単位での人材需給を見通しつつ、地域の成長分野や人手不足分野の人材を育成する専門学校の教育の質の向上
- 専門学校における遠隔授業などを柔軟に行うための制度改正
等に取り組むこと。
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AI実装人材の育成強化、AI時代に向けた教育環境整備に向けて、
- 初等中等教育段階では、AIを含む情報活用能力の抜本的な向上を目指し、「生成AIガイドライン」の早期改訂、教育分野特化AIの実証研究、学校現場のクラウドベースのインフラ整備、教職員を対象とした研修機会の拡充、英語の授業等でAIを活用するモデル構築や実践事例の蓄積・発信等により、安全かつ主体的にAIを活用できる学習環境の構築を図ること。
- 高等教育段階では、人文・社会科学系の分野を含む各専門分野に応じて数理・データサイエンス・AI教育の高度化を図るとともに、大学・専門学校等と地域の中小企業・業界団体等と連携により、中小企業のAX化を推進するためのリ・スキリングプログラムの開発・実装を進めること。
≪人材力の基盤となる環境整備≫
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次期学習指導要領が目指す主体的・対話的で深い学びの実装や多様性の包摂のための伴走支援や環境整備として、
- 教職課程の抜本的見直し等を通じた質の高い教師の養成、学校の指導・運営体制の充実や教職の魅力向上による教師のなり手の確保、デジタル学習指導要領の実装を含めた徹底した伴走支援
- 情報活用能力の抜本的な向上をはじめとした、国による教材・動画コンテンツの開発を含む環境整備
- 特定分野に特異な才能のある児童生徒の資質・能力を最大限伸ばす教育の充実に向けた相談支援体制の構築
- 次期学習指導要領に対応した設備や教材の整備の推進
- AI時代の基盤となる創造的な学習環境の計画的な整備
等に取り組むこと。
(2)必要な財政措置・財源確保等
人材育成システム改革を強力かつ確実に推進するためには、集中投資のために必要な財源の確保が欠かせない。本調査会として、これまで累次の提言において主張してきたとおり、教育や人材育成への積極的な投資は、将来の経済成長や税収増、少子化や格差の固定化の打破などに資する最大の先行投資である。高市内閣が進める「危機管理投資・成長投資」の成否を分けるのは基盤となる人材力と言っても過言でなく、上記(1)に掲げる施策・取組は日本成長戦略会議で示された戦略分野やこれらを支える社会インフラ関連分野等の人材育成に直結するものであるため、これらを「新たな投資枠」の対象に含めるなどして集中投資を進めるべきである。
また、昨年のいわゆる教育無償化に係る政党間協議において、高等学校等就学支援金制度の拡充以外の「高校教育等の振興方策」に2,000億円規模/年を充てることを前提として合意され、租特の見直し等により財源を捻出した。この経緯を踏まえれば、引き続き既存の教育財源を原資とすることなく、最低限のこととして当該財源を確保し、上記(1)のうち、高校から大学・大学院等を通した改革に係る施策・取組の実施に充て、人材育成システム改革として一貫性のある予算運用を図るよう本調査会として強く求めたい。
さらに、「人材育成システム一体改革交付金(仮称)」として都道府県や教育機関に対し交付できるような仕組みを構築すべきである。その際、所要額の大幅な増加により仮に財源が不足することとなる場合には、改めて、税制による対応や先行投資としての教育国債の活用など新たな財源の確保を目指すべきである。
加えて、教育環境の整備に当たっては、各都道府県等が予見可能性を持って計画的に事業を実施できるよう、事業採択に必要な予算総額を当初予算において十分に確保するべきである。
3.人材育成システム改革の実効性向上に向けて
全国津々浦々で人材育成システム改革を実効あらしめるためには、短期・中長期の工程の明確化やその進捗管理を図ること、各地域に産業クラスターの創生を企図する「地域未来戦略」との連動を含め、政府を挙げての成長戦略の一環として取組を進めることはもとより、地域・分野毎の人材需給の見通し・分析結果を自治体・産業界・教育界等で共有し、各機関がベクトルを合わせて協働することが不可欠である。
また、当事者である児童生徒・学生や保護者・教育関係者をはじめ、広く社会一般にある固定的なキャリア観の刷新やアンコンシャスバイアスの払拭、女子中高生の理系進路選択支援などの意識改革に向けた国民運動・PR活動も並行して進める必要がある。
(1)自治体・産業界等との協働
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社会・産業構造の変化に伴う地域・分野毎の人材需給のミスマッチを防ぐため、地域毎に産官学金労等の連携により人材育成の在り方を協議する「地域人材育成構想会議」や「地域構想推進プラットフォーム」の実働化を図ること。具体的には、
- 地域ブロック毎の「地域人材育成構想会議」を継続開催し、「地域構想推進プラットフォーム」と連携しながら全国的に連携事例の創出を図り、産業界と教育界との協働による実践型の教育・人材育成の普及・拡大に取り組むこと。
- 知事・学長等のリーダーシップの下、速やかに全ての都道府県で「地域構想推進プラットフォ―ム」を立ち上げ、地域の人材需要(医療・福祉、産業、インフラ等)を踏まえた必要な人材育成、専門学校を含む高等教育等へのアクセスの確保方策を協議し、産業界の十分な協力を得ながら、各地域の大学の在り方に関する方針等に基づいて実行を進めること。
- 各都道府県において地域の実情に応じた人材育成システム改革を確実に実行・実装させるため、国がリーダーシップを発揮し都道府県を伴走支援する「地域教育改革リエゾン」、「地域高等教育改革支援チーム」の取組を継続実施すること。
- 産業界と教育界との協働による実践型の教育・人材育成の取組を普及・拡大していくため、企業版ふるさと納税等の既存税制の活用を推進するとともに、更なるインセンティブの強化に向けた検討を進めること。
(2)意識改革に向けた国民運動・PR活動
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社会・産業構造の変化や人材需要の動向を踏まえれば、従来の進路・職業選択の見方が必ずしも今後妥当するものではなくなりつつあるという危機意識を社会全体で共有し、各教育段階を通じて、児童生徒・学生や保護者・学校関係者等の意識改革を促していく必要がある。このため、
- 社会・産業構造の変化、人材需要や将来所得の見通し、高校教育、大学入試、大学教育の一体改革をはじめとする人材育成システム改革の動向等について、関係省庁等の連携による情報発信の強化
- とりわけ専門高校や高専、専門学校の魅力・特色の発信強化
- それらの取組とも連動したキャリア教育、進路指導・就職支援の充実
等に取り組むこと。
- 全国的なリ・スキリングの機運醸成及びリ・スキリング支援策など情報発信の充実のため、参加型シンポジウムの開催や関係省庁等と連携した情報発信など、「全世代型リ・スキリング国民運動」を展開すること。
4.むすびに
本提言を取りまとめるに当たっては、AIを巡る最新事情やAXによる産業構造変化、高校教育改革やリ・スキリングを含む高等教育改革の動向に造詣が深い有識者にご知見を賜った。ご協力いただいた有識者各位に厚く御礼を申し上げる。
何よりも、社会・産業構造の大きな変容を伴うAI時代を生きる国民一人一人の人生を豊かで実りあるものとするためにこそ、人材育成システム改革は「待ったなし」の優先課題であると同時に、時に柔軟に見直しをかけながら中長期的な視点から所要の施策・取組を貫徹する覚悟が求められよう。本調査会としても、政府から進捗報告を求めつつ、引き続き適時に提言を行うこととする。
また、議論の過程でご意見のあった、AI時代において思考力・創造性など人が人としての価値を発揮するための力の育成方策などについては、今後、本調査会に設置した「AI時代を生きる人間力育成プロジェクトチーム」において議論することとする。