「日本文化を、強く豊かに。」
~文化立国実現に向けた国家戦略の構築~
(提言)
令和8年6月4日
自由民主党政務調査会
文化立国調査会
Ⅰ.はじめに
今、文化政策は大きな曲がり角にきている。
文化立国調査会では、令和7年5月20日に「文化立国実現に向けた国家戦略の構築(提言)」(以下、「令和7年提言」という。)をとりまとめ、わが国の「心」とも言うべき文化芸術をわが国成長の原動力としていくため、文化芸術への投資拡充を急ぐべき3つの「勝ち筋」領域として、①文化芸術がけん引するコンテンツ産業振興等の成長戦略の実現、②クリエイター等支援やコンテンツを発信する基盤の整備、③文化資源の活用による「地方創生2.0」、を提言した。
提言を踏まえて編成された令和7年度補正予算及び令和8年度当初予算は、国際観光旅客税財源を含めて対前年度を上回る規模になり、真の文化立国実現に向けた更なる一歩を踏み出すものであったと評価できる。
しかしながら、諸外国との比較においては、わが国の官民による文化投資は未だ少なく、自動車関連産業を上回り約100兆円ともいわれる文化関連産業[1]が日本全体の成長の起爆剤となる基幹産業であることを今こそ強く認識すべきである。地方公共団体や民間においても、文化芸術への投資を経済的な成長につなげる様々な先進的取組がはじまっているものの、これらの取組は「点」にとどまり、わが国経済をけん引する原動力とはなりきれていない。
世界的に評価され、極めて大きい存在感を示している[2]わが国の「コンテンツ」については、「2033年までに海外売上高を20兆円とする」政府目標が掲げられているとともに、第221回国会の高市内閣総理大臣施政方針演説(以下「総理施政方針演説」という。)等において、17の戦略分野の1つとして位置付けられた。また、観光産業について2030年度までに訪日外国人旅行者数6,000万人、同旅行消費額15兆円という政府目標が掲げられている中で、総理施政方針演説では、「多様性に富んだ地域の魅力や文化・スポーツを活かした地域活性化も進めます。あわせて、食や伝統芸能を含めた文化財の継承・保存・活用をはじめとした文化芸術政策を推進」することが表明されている。
これらの達成をけん引するのは、まさに文化芸術の力に他ならない。特に、マンガ・アニメ・ゲーム・音楽・実写・映画のみならず、それらの源泉であるとともに厚みや多様性をもたらす、わが国の歴史等に根差した伝統文化や舞台芸術(ライブ)・工芸や美術品(アート)、文化財の保存・活用等の幅広い文化芸術の振興が必要である。これらの振興は、単にコンテンツの海外展開に資するというだけでなく、海外からの評価や視点を取り入れることで、我が国の文化芸術を客観的に捉え直し、新たな価値創出につなげ、その成果を地域に還元していくという、地域と世界を一体的に循環させる仕組み(エコシステム)の設計にもつながるものである。
また、同じ17の戦略分野の1つである「国土強靱化」においても、文化芸術は重要である。例えば、高市政権における総合経済対策においては、文化施設の耐災害性の強化や地域の貴重な文化財を守る修理・防災対策が位置付けられた。加えて、「国土強靱化年次計画2026(素案)」においても、「起きてはならない最悪の事態」として「貴重な文化財や環境的資産の喪失、地域コミュニティの崩壊等による有形・無形の文化の衰退・損失」が掲げられるとともに、「国指定等文化財の耐震対策・防火対策」等が主要施策として掲げられているところである。
文化財を活用して地域振興・観光振興や海外展開につなげるとしても、そもそも適切な保存・継承なくしてはその価値を守り、高め、発信することも出来ないのであり、その意味で、文化財の保存・継承はその土台・前提となっている。何よりも、現代を生きる世代だけではなく、連綿と続く未来の世代にわたって、文化財の魅力や価値を享受し続け、そして発展させることを可能とするためには、文化財の保存・継承に携わる人材の養成や事業量の確保、そして文化施設の整備を計画的に推進する必要は一層高まっていると考えられる。 このように、上述の果実の基盤となる文化施設の整備についても、国の責務として本格的に向き合う時期にきており、仮にその役割・機能を果たすことが困難になれば、コンテンツ産業の振興や国土強靱化対策の推進の支障となるとともに、文化芸術人材の活躍の場に加えて人々が文化芸術に親しむ機会も奪われ、わが国の文化芸術の衰退につながりかねない。
そして、文化芸術の重要性は、上述の17の戦略分野にとどまらない。分野横断的課題の1つである「人材育成」については、本年4月に文部科学大臣の下で「高校から大学・大学院等を通した人材育成システム改革ビジョン ~人への投資の好循環による強い経済の実現~」[3]が取りまとめられ、その中では、「コンテンツの振興を担う人材の育成や裾野拡大」として、①マンガ・アニメ・ゲーム等のコンテンツ分野の人材育成[4]、②我が国のコンテンツの多様性を生み出す歴史や伝統、地域性等に根差した舞台芸術や美術等の分野における人材育成や裾野拡大、③観光や教育等の他分野と連携し、文化芸術による地域活性化を担う人材の育成、④文化芸術に関する教育の充実、が位置付けられた。
アート思考やデザイン思考を含め、未知なる課題に対してAIに代替されない創造力を発揮し、変化を受け止めるのではなく自ら生み出していけるようなクリエイティブ人材の育成、とりわけ文化をつくる人材に加えて文化をつなぐ人材や文化を世界へ拓く人材の育成を通して、わが国の経済力の基盤となる「人材力」を強化するとともに、国民一人ひとりのウェルビーイングを実現していくためにも、文化芸術が果たす役割は益々重要になると考えられる。
これらを含め、文化芸術分野の人材育成については、担い手であるクリエイター・アーティストや実演家、職人・技術者等のみならず、それをプロデュース・発展させる人材や他分野と横断的に接続させる人材、地域内外や海外に展開させる関係人材も含めた民間における雇用の拡大や、コンテンツや文化資源の磨き上げ、異分野間の融合・掛け合わせを通したインバウンド等の新たな需要の創出にもつながるものであり、「成長投資」として、政府の「新たな投資枠」の対象とすべきである。
こうしたわが国の「勝ち筋」となる文化への成長投資が価値を生み出し、官民を通した更なる投資拡大につなげて経済活性化や税収の増加に直結することで、それがまた新たな文化の創造や文化財の継承を図ることを通し、経済を強く豊かにするという好循環を実現するため、近年の物価高騰等も勘案し、これまで補正予算で獲得した分や国際観光旅客税の文化庁分倍増を含め、文化庁予算について2030年度までに年間4,000億円を目指し、大幅な拡充を政府に強く求めるとともに、党としても社会的な機運の醸成を強力に推し進めるべきである。
そのため、文化立国調査会では令和7年提言以降、PT・小委員会を含めて計16回もの議論を行い、現場や専門家からの知見を取り入れつつ、具体的方策について検討を行ってきた。本提言は、これらの議論を踏まえ、これまでの文化立国調査会が対象としてきた射程を超えて、わが国の「勝ち筋」となり得る領域への投資拡充を加速し、文化立国実現に向けた好循環を実現する「文化立国戦略」(仮称)の策定を提言するものである。
Ⅱ.文化芸術への投資拡充を図る上で重要な3つの柱
1. 文化芸術がけん引するコンテンツ産業振興を通した成長戦略の実現
一つ目の勝ち筋は、文化芸術がわが国経済全体の成長をけん引することである。日本国内の人口減少が見込まれる中で、中東情勢等によって不確実性を増す世界において、わが国のコンテンツは世界的に評価され、存在感を増し続けており、わが国が誇るべき文化資源であり基幹産業として、海外市場への展開やインバウンドの拡大に応じた地域の活性化への貢献などにより、わが国の経済を成長させる力を持っている。
わが国が世界でも高く評価されるコンテンツを生み出し続けてきた強みの一つとして、物語性や世界観、キャラクターの多様な魅力や奥行き・厚みがある。それらの厚みや多様性をもたらすものは、わが国の伝統、歴史、思想、生活、地域性、テクノロジーなどであると考えられる。例えば、マンガ原作のミュージカル化や古典題材のアニメ化など、コンテンツからライブ・アートへ、またライブ・アートからコンテンツへのといったクロスオーバーにより、相乗効果が生まれる。このことは、わが国の強みであると同時に、例えば韓国もK-POPと映像、舞台の融合により高い評価を受ける作品を生み出しており、世界的な潮流ともいえる。
「2033年までに海外売上高を20兆円とする」目標の達成に向けては、人材の量・質ともに必要であり、これまでと異なる次元の支援策が急務であるが、我が国の当該分野への投資は相対的に少なく[5]、このままでは、優位性をもつ日本のコンテンツ産業とはいえども、潜在的な成長の機会を失い、海外に席捲される恐れが現実化すると言わざるを得ない。
上述のような多様な日本の創造の強みを活かしつつ、コンテンツへの投資を拡大し、収益化・事業化や海外展開にまでつなげることで、経済活動が活性化すれば、その経済的利益が次の製作や人材育成の原動力となる。また、若い世代を中心に、アニメ等のコンテンツを通して日本に興味を持ち、来日する人が多く、作品ゆかりの土地への訪問(コンテンツツーリズム、聖地巡礼)などにより、インバウンドの増加にも大きな働きをしている。海外売上を伸ばすということは、コンテンツを通して、その中で描かれた我が国の社会や文化に親しみや信頼をもってもらうことにもつながっている。
このようなコンテンツを生み出すのは人の力である。かつ、「よいものを作れば売れる」というものではない。コンテンツを製作し、海外発信していくには、作品のアイディアを生み出す人材、それをビジネスとして展開できる人材、制作現場を支える様々な技術を担う人材、いずれが欠けても実現できない。国内では人口減少が進み、海外では各国がコンテンツ政策に力を入れ、国際競争が激化している。こうした中、クリエイター等のコンテンツにかかわる人材を育成・確保し続けることは、それがなければ戦略的な海外展開による成果の国内への還元・再投資が行われず、わが国の国力の源泉が枯渇しかねないという意味において、もはや経済安全保障の一部であり、日本を守る上での重要な抑止力の強化や平和な世界への貢献につながるものとして、国策として強力に支えることが必要である。さらに、多様な資金調達の枠組みの検討など産業構造の改革も進めていくべきである。
そのような考えから、令和5年度補正予算でクリエイター支援基金事業が始まった。令和5年度補正予算(60億円)により、世界で活躍が期待されるクリエイター等の海外発信の支援や文化施設の高付加価値化を支援、令和6年度補正予算(95億円)では、人材育成のコースやプログラムの創出のための取組を支援、令和7年度補正予算(175億円)では、クリエイターが生み出すマンガ等のコンテンツのデジタル配信による普及に向けた取組(コンソーシアムの構築)や、製作現場を支える中核的な専門人材の育成・確保等に関する取組を支援することとなった。
クリエイター支援基金による支援対象団体、過去の人材育成事業の支援対象者等へのヒアリングによると、令和5年度補正予算事業では、育成対象のクリエイター等が独創性を発揮し、海外でも評価を得つつあり、大きな成果を出し始めていることが明らかになった。特に意義が大きいのは、複数年度にわたる支援が可能となったことである。これにより、海外の機関やキーパーソンとの関係構築、中期的な計画の策定、海外会場の確保、渡航調整などが行いやすくなった。また、作品や舞台を発表するだけでなく、企画段階における英語でのピッチや、ワークショップ等を行い、単なる発表にとどまらない成長機会が生まれている。このように、年度単位ではなく複数年度にわたる支援はクリエイター等支援にとってのスタンダードとなるべきものである。
こうした成果を最大化するために、令和5年度補正予算事業の継続及びさらなる拡充は不可欠と考える。基金による取組は、すでに試行的な段階を越え、仕組みとして定着させる段階に入っている。今後、文化庁・(独)日本芸術文化振興会において、団体ごとの取組状況の評価も行い、採択時に5か年で計画を立てた各団体が最後まで事業を継続できるようにするとともに、さらなる事業拡充を行うことを強く提言する。令和8年度予算及び令和7年度補正予算により、政府全体では初めて500億円を超えるコンテンツ関係予算が措置された。画期的である。一方、諸外国のコンテンツ関係予算に比べると、まだまだ十分な水準とはいえない。クリエイター支援基金事業も含め、予算全体を倍増し、複数年度化して、政府全体で5年5,000億円以上の予算措置を確保する必要がある。
クリエイター・アーティスト育成支援全体の方向性としては、①人材育成の「取組」から「エコシステム」へ(必要な人材に応じた育成支援、キャリアステージに応じた育成支援、官民協働による循環構造(エコシステム))、②コンテンツ振興を柱にした文化立国の実現(コンテンツに厚みや多様性を生み出す、ライブの熱狂、体験がIPや日本に対するファンを増やす、コンテンツ文化とライブ・アートを両輪とした文化芸術立国)を目指すべきである。その上で、クリエイター支援基金とその他の予算措置等により、以下のような施策の充実を図ることが必要である。
あわせて、わが国の誇るべき文化のグローバル展開の推進に向けて、在外公館・国際交流基金海外事務所を起点とした日本文化コンテンツの積極展開など、わが国文化芸術のグローバル展開及び国際文化交流の取組に対する支援に取り組むべきである。
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A クリエイター等向けの人材育成支援
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(挑戦を通して才能を磨き、認められる機会の充実)
クリエイター等にとって、監督やプロデューサー等として企画開発段階から主体的に関わり、作品を最終的に世に送り出す経験は、自身の表現を大きく広げる貴重な機会となる。とりわけ若手や独立系のクリエイター等にとっては、資金や人脈の制約によりその一歩を踏み出しにくい場面もあるが、ひとたびそうした機会が得られれば、自らの発想や感性を存分に発揮し、才能が大きく花開く可能性を秘めており、実際にこうした挑戦の機会を得て「人生が変わった」という声が数多く上がっている。そのため、資金や製作体制を支援し、クリエイター等が企画・製作・海外展開を通じた「挑戦」を重ねる中で才能を磨き、評価・認知につなげていく機会を、クリエイター支援基金の抜本的な拡充により、大幅に強化すること。
また、作品製作を通じた人材育成においては、企画から作品の完成・発表までに長期間を要することや、海外進出に当たって必要なスキルの習得に時間を要することから、単年度の支援では十分な成果につながりにくいという課題がある。そのため、複数年度にわたり継続的に人材育成や作品製作を支援するクリエイター支援基金を抜本的に拡充すること。その際、海外宿泊費など高騰している経費への対応や、収益を上げた場合の取扱いについて、ニーズを踏まえつつ現場の実態に即した支援を行うこと。
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(キャリアステージに応じた切れ目のない支援)
若手クリエイター等がデビュー後、映画祭等で国際的に評価されても、次の製作機会を得られずさらなるキャリアアップにつながらない場合があるなど、キャリアステージごとに様々な課題が見られる。そのため、クリエイター支援基金や関連する予算事業を抜本的かつ一体的に拡充した上で有機的に組み合わせ、若手から中堅やトップ、他業種からの参入を含め、キャリアステージに応じて切れ目なく支援する仕組みを構築すること。
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(国際共同製作等の推進)
国際的な活躍を志向するクリエイター等が、国による信用力の裏付けを得つつ、海外の優れたクリエイター等と協働し、作品製作を通じて才能を磨く機会は重要なものである。そのため、国際共同製作をはじめ国際的な活動機会の創出を強力に支援すること。
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(プロデューサーや海外法務、知的財産等、グローバルビジネスの専門人材)
グローバルな市場環境においては、作品の企画、予算管理から海外展開までを担うプロデューサー等の役割も重要である。また、単にコンテンツを海外に持っていくだけでなく、適切な対価をクリエイター等に還元できるよう、配信事業者等との交渉をはじめ、海外展開に当たっての権利処理ができる海外法務や知的財産管理に長けた人材も必要である。このようなグローバルビジネス人材の育成についても、座学ではなく、実際の作品製作や公演製作のプロジェクトを通して実践的に学ぶことができるよう、複数年度にわたり継続的に支援し、強力に進めること。
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(製作環境の整備や大学・専門学校等における産業界のニーズを踏まえた人材育成)
コンテンツの製作には、アイディアを生み出すクリエイターに加え、その製作工程を支えるクリエイター、プログラマー等の人材が質、量ともに必要とされているため、人材定着や人材育成のための研修の充実、尊厳ある創造環境の整備、活動基盤強化などが引き続き必要である。
大学、専門学校等の養成機関において教育が行われているが、産業界のニーズを十分踏まえられていないという指摘があり、そのニーズを踏まえ、制作現場で活躍できる人材を育成することが求められている。コンテンツ製作に必要となるスキルを特定し、その習得・検証を段階的に行うアプローチも重要であり、例えば、ゲーム分野においては技術革新のスピードが極めて速く、実践的なスキルを継続的に更新していくことが必要となっている。そのため、クリエイター支援基金(令和6年度、令和7年度補正予算事業)をさらに拡充し、教育機関における体制の構築・強化を図りつつ、教育機関と産業界が連携して行う教育やそのためのカリキュラム構築、プログラムやコースの設置を一層支援すること。
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(挑戦を通して才能を磨き、認められる機会の充実)
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B 人材育成・活躍促進の基盤強化
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(発表や交流の機会の充実)
若手クリエイター等にとって、かつてのメディア芸術祭やその後継であるENCOUNTERS(メディア芸術クリエイター育成支援事業の成果発表会)、クリエイター支援基金の成果発表会のように、自身の作品を発表し評価を得るとともに、異分野のクリエイター等と交流する機会は、斬新で新たな発想に基づく創作につながる重要なものである。そのため、統括団体等様々な民間団体等による表彰の機会を後押しするなど、多様な分野の多様な作品の発表機会や分野横断的なクリエイター等同士の交流の場を充実し、さらなる才能の発掘や化学反応につなげること。
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(制作環境の支援)
クリエイター等がAIなど新技術を活用した高度な制作を行うには、最新の機材や技術を活用できる環境へのアクセスが求められるが、独立系のクリエイター等をはじめ個々での整備は困難である。そのため、諸外国の事例も参考にしつつ、各種機材を備えた共用スタジオ等の利用を可能とすることや、開発ツールの支援を含め、制作環境の支援を推進すること。
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(AIの活用)
制作におけるAIの活用については、クリエイター等の創作を後押しし、才能を発揮する助けとなる可能性を有しており、今後不可欠な技術の一つになっているが、導入に当たっては、企業の風評リスクを含め、丁寧に進める必要がある。加えて、制作そのものにとどまらず、ローカライズやアクセシビリティ確保等に係る業務の効率化にもつながるものである。業界や大学等の研究機関の連携により、AIを活用したコンテンツ制作に関する注意点や人材育成の方向性の整理などを促進すること。
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(海賊版対策の抜本的強化、適切な対価還元)
海賊版の撲滅のため権利者の権利行使の支援強化など対策を抜本的に強化するとともに、正規版のコンテンツの流通を促進すること。また、クリエイター等や権利者への対価還元に向けて、AI学習用データの構築等に関する調査研究・実証を進めること。
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(地方創生やインバウンド誘致に資する取組への支援)
近年、作品の舞台となった地域を訪れる「聖地巡礼」が活発化し、地域経済の活性化やインバウンド誘致にも寄与している。さらに、アニメ制作スタジオなどが地方へ広がるなど、地方においてコンテンツの人材の育成や産業の集積が行われている。こうした流れを持続的な地方創生につなげるため、地方自治体を中心とした取組を強力に支援すること。
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(誰一人取り残さない公演実施環境)
障害のある者が文化芸術に容易にアクセスできる環境を整備することは、包摂的な社会の実現に不可欠であり、その前提となるアクセシビリティの確保は重要かつ緊要な課題である。また、コンテンツによる経済価値を最大限に発揮するためには、ライブやイベント等の熱狂、リアルな体験機会を通して、海外ファンの拡大や来日を促進することが必要である。そのための環境整備として、誰もが容易に公演情報を入手しチケットを購入できる環境を早急に整えるとともに、公演中のセリフや場面設定をユニバーサルに届ける仕組みを構築することが待ったなしの状況である。そのため、チケッティングや情報発信を一元的に行うプラットフォームの開発を強力に支援するほか、字幕化・多言語化など世界標準のアクセシビリティに対応した鑑賞環境を早急に整備すること。
また、映画や美術等に比べ、演劇等の舞台芸術に関しては、我が国において国内外の多くの企業、人々とのつながりを生むような国際的な舞台芸術の祭典がない。そのため、上述の訪日外国人等の鑑賞環境整備とあわせ、民間が行う国際的な舞台芸術の祭典を強力に支援すること。
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(文化芸術団体や施設の自立性向上)
舞台芸術団体や文化施設が自立して持続可能な活動を可能としていくため、事業収入を高めたり、寄付収入を増やしたりするための体制強化など、収入の多角化や事業基盤の安定強化のための取組を支援すること。
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(アーカイブの充実)
過去のマンガ、アニメ、ゲーム等の作品や、その原画、絵コンテ、設定資料等の中間生成物は、作品の価値を高め、後世のクリエイター等による創作活動の深化を促す貴重な資産である。そのため、資料等の収集・保存・デジタル化や、調査研究・人材育成等のリサーチ機能、情報発信や展示・活用の機能を有する、メディア芸術ナショナルセンター(仮称)構想を推進すること。
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(発表や交流の機会の充実)
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C 次世代への投資
子供の頃に自分の身体を使って表現し、文化芸術に触れる体験をすることで豊かな感性や創造性を育むSTEAM教育[6]は極めて重要であり、とりわけ感受性の高い時期に多様な芸術に触れることは、それらを身近なものとして捉え、将来的に職業として意識し、次代の担い手へと成長していく契機にもなる。
その上で、従来の小・中・高等学校では、ゲームやアニメ、マンガなどのコンテンツに学校教育の中で触れる機会はほとんどなかった。しかし、コンテンツが我が国が世界に誇るべき文化として国内外で認知されてきたことや、一人一台端末が普及し、情報活用能力の育成や、探究的な学びが推進されていることを踏まえると、学校教育でコンテンツの創作などを体験することは、極めて意義深い。一方、教師自身がそうした教育の経験に乏しいことから、プロのクリエイターや、各業界の支援を受けながら進めていくことが必要になる。このため、子供たちがクリエイターから直接指導を受けたり仕事の魅力を聞いたりできる機会の拡大、教師も指導ができるような教材、教育プログラムの開発・普及や研修などについて、各業界の協力を得ながら、強力に推進すること。
音楽や美術、演劇などの文化部活動は、子供たちが文化芸術活動に取り組む貴重な場であるが、急速な少子化の中で、中学校単位の部活動の維持が困難になっており、部活動の地域展開(地域文化クラブ活動への移行)を進めることが喫緊の課題となっている。部活動の地域展開を機に、これまでに中学校の部活では例の少なかった、ゲームやアニメ等のコンテンツの創作に関わるクラブを創設することも期待される。そのため、部活動の地域展開が各地域の実情を踏まえて着実に進むよう、財政支援や相談対応・伴走支援を行うこと。
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D アート振興
我が国に蓄積されてきた古代から現代までの質の高いアートの蓄積をさらに深めながら、日本におけるアートの創造を振興し、アート界における日本の国際的な立場を高め、発信力を強めると同時に、これまでアジアにおけるアート市場のハブ的な役割を果たしてきた香港の立場が流動化するにあたり、日本国内におけるアートの資産としての位置づけを確立し、国際的なアート市場における日本のプレゼンスを大きくすることも目指すべきである。日本とアートコミュニティが少なくともアジアでリードするようになることを目指して、以下の提言を行う。
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(重要な美術品の散逸・国外流出防止と収集強化)
- 国宝・重要文化財級の美術品や、日本国内に所在する海外由来の重要美術品について、コレクションの散逸や国外流出を防止する制度を整備する。重要な美術品やコレクションについて、納税猶予や物納の特例の対象となる登録有形文化財や登録美術品への登録を推進するとともにさらなる措置を講じる。また、必要に応じて市場での買い支えを行う基金を設立する。
- また、相続税の納税猶予に関連して、美術館等へ寄託する際の寄託契約の標準化を進め、寄託者名の表示、展示期間の明確化等についてルール化する。
- すでに海外へ流出してしまった日本の美術品については、可能な限り目録を整備し、市場に再び現れた際に買い戻しを行うための基金を創設する。この基金への企業・個人からの拠出については、公益信託等の制度を活用し、寄付金控除の対象とすることで民間資金の活用を促進する。
- 企業による美術品保有については、長期的な文化資産保全の観点から制度整備を進める。株式会社が保有する美術品を財団法人等へ円滑に移管できる制度を創設するとともに、アクティビスト株主等の圧力によって、企業保有の重要美術品が国外流出または散逸することを防ぐ施策を講じる。
- 国宝・重要文化財級の美術品について、文化財保護と市場活性化を両立する措置を講じる。
- 災害発生時などでの万が一に備える意味でも、日本国内の美術品のデジタルアーカイブ化を進める。
- AIが日常的に使われるようになった時代のなかでも変わらない美術の価値、我が国が積み上げてきた文化を大切にしていく。
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(アート分野を支える美術館と人材の支援)
- 国公立美術館については、各館は収蔵品の評価を行い、重要作品が市場に出た際には迅速に取得できるよう、購入資金の積立を行う。また、そのような運営改善を行った美術館が収蔵庫を拡充する場合には、優遇措置を講じる。さらに、国公立美術館が保有する作品について、安全性が確保される場合には、民間美術館、画廊、企業等からの展示協力要請に応じることを原則化し、美術品の活用機会を拡大する。さらに、美術館の夜間開館については、地域の参画、協力も得ながら検討を進める。
- 美術関連人材育成プログラムを整備するとともに、高等教育機関によるアートマネジメントや修復、鑑定等に関するカリキュラム設置を支援する。さらに、美術館キュレーターの育成プログラムや、美術品修復のための共同センターを設立する。海外における日本美術の研究者・キュレーターの育成を促進する。
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(アート市場の活性化)
- 日本国内の美術品市場に関する統計基盤を整備し、市場規模や流通実態を可視化するとともに、信頼性ある鑑定・評価制度を確立する。民間及び関係省庁等が連携し、個人や企業の所有する美術品を登録や鑑定評価に関する制度を検討する。
- 香港等の主要市場並みに通関・保税手続きを簡素化し、デジタル化を徹底することで、国際的な美術品取引の利便性を高める。また、保税制度全般についても、他のアジア諸国と比較して遜色のない制度整備を進める。
- 減価償却対象となる美術品価格の上限引き上げなど、美術市場活性化のための抜本的見直しを行う。また、一般公開を条件に企業保有美術品の評価ルールを見直す制度も検討する。
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(日本発アートの魅力発信強化)
- 国内の芸術祭やアートフェアなどアート関連の行事を、国立新美術館をはじめとする国立美術館等とも連携しながら、世界のアートカレンダーの中に位置づける。また、アートバーゼルやフリーズに匹敵するような日本発のアートフェアの立ち上げに挑戦する。
- 在外公館を日本文化発信の拠点として位置づけ、積極的に活用する。在外公館等で質の高い日本人アーティストの作品展示を促進する。寄贈だけでなく一定期間の貸与も積極的に活用することで、多様な作品展示を可能とする。大使をはじめ我が国の外交官も、日本のアートを世界に向けて発信するための先頭に立つべきである。
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(文化行政の実効性の強化)
- 予算配分がどのような方針と基準に基づいて行われたかを検証するとともに、実際にアーティスト支援へ十分に充てられているかを確認する。また、公的支援を受けたアーティストがその後どのような活動や成果を上げたかについても追跡調査を行い、政策効果の検証につなげる。
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(重要な美術品の散逸・国外流出防止と収集強化)
2. 「文化財の匠プロジェクト2.0(仮称)」や文化資源を中核とした「地域未来戦略」
二つ目の「勝ち筋」は、「文化財の匠プロジェクト2.0(仮称)」や文化資源の活用による「地域未来戦略」の実現である。全国にあまねく存在する文化資源は、観光産業をはじめとした地域経済の活性化に貢献し、地方が持つ伸び代を活かすための切り札となり得るものである。
特に、観光産業について2030年度までに訪日外国人旅行者数6,000万人・旅行消費額15兆円とする目標とする中、欧米の訪日旅行者の6~7割が日本の歴史・伝統文化体験をするなど[7]、文化資源は観光産業の中核をなすものであり、世界に通ずる魅力ある文化観光の実現により、文化を通じた地方創生を実現すべきである。
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(活用の前提となる文化財の適切な保存と強靱化)
文化財は、地域のたからであり、絆であり、全国各地を豊かにする可能性を秘めた貴重な資源である。文化財の活用の必要性と、活用による可能性が年々高まりを見せている今だからこそ、活用を根底から支える「保存」の意義を改めて認識することが重要である。文化財を適切に維持・管理・修理し、保存することは、わが国の歴史・文化そのものを守り伝えることで事実に根差した外交ナラティブの基盤となるとともに、わが国のソフトパワーの充実に際してのいわばインフラ整備と言っても過言ではなく、また、古から人の手により高い技術により修理をしながら受け継がれ続けてきていること自体が、日本の誇るべき文化であるとも言える。
文化財の保存を取り巻く環境は、物価や賃金単価の上昇に伴う必要経費の増大、加速度的に進む人口減少や過疎化、所有者の高齢化等による維持管理の困難化、頻発・激甚化する自然災害による度重なる被害など様々な課題があり、依然として厳しい状況にある。このような状況の中で、伝統芸能等で使用する楽器・道具・和紙等がなくなり、伝統芸能等の保存・継承自体が困難になるpoint of no returnとなるとの危機感をもって施策を進めることも求められる。
具体的には、まず、文化財の保存・継承に欠かせない用具・原材料の確保については、生産支援の実施により供給ストップを阻止できた例や、新たな生産者が生まれた例もある一方で、生産支援を実施できている用具・原材料は全体からすると限定的であることから、支援対象分野の拡大を図るとともに、需要規模が縮小傾向にある中で、自走的な生産体制の確立に繋げられるよう、柔軟で幅広いニーズの創出、用途・販路の開拓等を目指すことが必要である。また、用具・原材料に係る調査を踏まえ、それぞれの課題を把握して生産支援等の取組につなげているものの、現時点では文化財類型ごとの個別対応にとどまっており、文化財類型にとらわれない形での共有とともに、用具・原材料生産を取り巻く状況等に応じて、生産の集約化・多角化・代替化など、広い視野に立った持続可能な文化財保護のあり方の検討も求められる。
次に、文化財保存技術の担い手の確保と養成については、選定保存技術保持者・保存団体の複数認定及び団体認定を積極的に推進するという目標は一定程度達成されたものの、特に個人や零細な団体の事務・運営負担や、若手人材が実務経験を積むことができる機会の不足が課題となっている。技術の錬磨や伝承をさらに充実させていくためにも、例えば団体同士の相互協力、統括的団体の形成、団体外からのサポートの仕組み等の検討に取り組むとともに、文化財保存技術の世界に進むことを決意し、定着する若手人材の確保に向けた取組を進めること、さらに国指定以外の文化財修理に携わる経験の提供等も含め、若手人材の研鑽の機会の充実に対する支援も必要となる。
さらに、適切な修理を実現するための事業規模の確保については、保存修理事業を一定の水準で実施できるよう予算を確保することに加えて、近年では、文化財所有者がクラウドファンディングに取り組む例や、地方公共団体がふるさと納税・企業版ふるさと納税の仕組みを活用して域内の文化財保護のための資金を確保する例も存在している。他方、昨今は労務単価の上昇や物価高による修理事業費の高騰により、所有者の自己負担分の資金確保も一段と厳しさを増している。このため、予防保全の考え方も取り入れながら修理を計画的に実施していくことや、過去の修理実績をデータ化し分析することで適正な修理時期を予測していくこと、所有者負担の軽減に資する手立ての充実とあわせ文化財の価値や文化財を守る・活かす・つなぐ意義や必要性・重要性を国内外問わず説明・発信していくことも必要である。
こうした課題意識の下、「文化財の匠プロジェクト[8]」が最終年度を迎える中、持続可能な文化財の維持継承体制の構築に向けて、文化財の保存・継承に欠かせない用具・原材料の確保、文化財保存技術の担い手の確保と養成、適切な修理を実現するための事業規模の確保に関する取組をより一層充実させた次期計画(「文化財の匠プロジェクト2.0(仮称)」)を策定し、文化財修理センターの整備及び人員体制の構築も含め、文化財の保存と活用の好循環を生み出す基盤を強固なものにしていくことが必要である。また、我が国に2例しかない極彩色古墳壁画である高松塚古墳壁画等の保存管理・公開活用を図る観点から、高松塚古墳壁画保存管理公開活用施設(仮称)の整備の促進も必要である。加えて、昨年策定した「国土強靱化実施中期計画」及び「第1次文化財防災対策5か年計画」に基づき、文化財の防災対策を着実かつ強力に進めていくことも求められる。文化財の持つポテンシャルを最大限発揮し、日本全体の豊かさに繋げていくためにも、文化財の適切な保存と強靱化に惜しみない投資をしていくことが必須である。
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(地域における文化芸術活動基盤等の強化)
わが国には、長い歴史を通じて受け継がれてきた祭り等の伝統行事や邦楽等の伝統芸能、伝統工芸、食文化を含む生活文化、建築文化などのさまざまな文化資源があり、地域の人々の営みにおいて、こうした文化資源は受け継がれ、コミュニティを形成するとともに、近年では、各地の魅力ある文化資源の観光や体験を目的として訪日するなど世界中の人々の心を捉えており、引き続き、これらの様々な文化の継承と振興を推進していく。
また、文化芸術を経済波及効果の創出や地域の価値創造、持続可能な社会基盤を支える不可欠な戦略的資源として活用するためには、文化芸術資源そのものの磨き上げの体制に加えて、アーティスト・地域住民・行政・企業をつなぎ、プロジェクトを設計・運営する役割や、海外を含む外部と地域住民の価値観をつなぐ仲介者としての役割、住民・若者・行政が主体的に参加する文化プロジェクトを設計する役割、を担う人材が不可欠である[9]。しかしながら、現状、①地域の文化芸術人材となるための明確なキャリアパスがない、②長期にわたって働けるNPOや文化施設等の団体が不足している、③文化部局行政職員の異動によりノウハウや人間関係が蓄積されない、④国際ネットワークを持たず、海外の先進事例に触れる仕組みがない、⑤文化政策固有の指標が整備されておらず、政策判断への反映が難しい、といった課題が指摘された。このため、地域の特性を活かし、地域内・地域外をつなぎ文化的価値を生み出すコーディネーターの育成を中核としつつ、分野横断型のカリキュラムによって育成された人材が、地域で経験を積み、安定的に活躍できるキャリアパスを保障することによって地域に定着し、評価指標(KPI)で成果が可視化される、観光・教育・福祉等の地域の関連産業との連携による人材循環の仕組みの構築を日本全国で図っていくべきである。
さらに、こうした文化芸術を支える担い手を将来にわたって育成していく観点から、舞台芸術の総合的な活動支援や、学校や劇場・音楽堂等、地域における文化芸術鑑賞・体験機会の充実、障害者等による文化芸術活動の推進にも取り組むべきである。
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(文化資源を活用した全国各地のインバウンド創出・拡大)
現在、一部の大都市へ観光客が集中することによって、「オーバーツーリズム」問題が顕在化しており、今後の観光産業の発展には、日本各地の豊かで多様な歴史・文化を提示し体験してもらうことで、それぞれの地域の「ファン」を増やしていく試行錯誤を繰り返していくことが極めて重要となる。一方、2030年度までに6,000万人、15兆円という政府目標の達成をより確実なものとするためには、これまで日本に関心を寄せていなかった層に的確にアプローチすることが必要である。
行先の多様化と分散化に向けた各地への「周遊」観光を促進し、地方での滞在長期化・リピート化を加速するとともに、無関心層の訪日意欲を喚起する取組を加速していくためには、それぞれの地域において守り、伝えられてきた文化資源を更に磨き上げ活用することは極めて有効であり、複数年度にわたる息の長い支援が必要である。
日本全国各地への周遊を促進するにあたっては、インバウンド誘客の核となる拠点整備を行う必要がある。具体的には、世界に誇る我が国の文化財について、引き続き世界遺産への登録に向けた推薦を行うとともに、登録された文化遺産については、旅行者の急増に対応した適切な保存の取組だけでなく、世界遺産のブランド力等を活用した地域活性化の取組に対しても支援を行う。文化資源を中核とする観光拠点・地域を引き続き全国で整備するため、文化観光推進法に基づく文化観光拠点・地域の整備の促進や、日本遺産等の文化資源の魅力向上や発信強化を行うとともに、多彩な文化体験を提供可能な文化観光拠点地域の形成を促進するため、拠点地域の形成を主導する人材の確保・育成、文化体験の提供に必要な施設・設備の整備、デジタル技術の積極的な活用を支援する。また、国立文化施設をインバウンド拠点として位置づけ、国立博物館等が行う快適な観覧環境の提供のための施設設備の改修、鑑賞機会の充実(公開期間の延長を含む)に向けての支援、地域との連携強化を促進するとともに、観光・インバウンド誘客に資する魅力的な博物館・美術館、劇場・音楽堂等の文化施設を各地に創出するため、文化施設でインバウンド向けの事業を行うに当たり必要となる観覧環境の整備や収益施設の設置・改修等への支援を行う。
こうした拠点整備とあわせ、文化財の価値や魅力を明確に伝える取組や訪日外国人観光客の関心が高い展示物について地方の鑑賞機会の拡充、博物館等のシンボルとなる所蔵品の公開促進に向けたメンテナンスや環境整備を行うことで、全国各地の文化資源の掘り起こし・魅力化・活用を高度化することが必要である。具体的には、国宝・重要文化財の公開活用を促進するため、地域の博物館のシンボルとなる所蔵品の常設展示を行う取組への支援や、博物館等が所有する地域ゆかりの文化遺産を「いつ来ても見られる」ようにするための高精細レプリカやデジタルコンテンツを活用した展示機能の整備など、地域の博物館が、地域内や国内外の博物館との連携も含め、観光やまちづくり等において中核的な役割を果たすよう、その取組を推進する。また、旅行者が我が国の「たから」である文化財の魅力を十分に感じられるよう、文化財の適切な周期による修理・整備や健全で美しい状態に回復するための美装化等への支援を行う。また、訪日外国人旅行者を含め、全ての人にわかりやすくその魅力が伝わる文化資源の解説作成や多言語化への支援にも取り組む。さらに、日頃より公開活用されるインバウンド利用等の頻度が高い指定文化財やその周辺敷地において、これまでの支援の枠組みでは必ずしも十分ではない状況となっていることを踏まえ、当該敷地を含めた一体的かつ継続的な修理・整備を支援することを検討する。
近年、インバウンド需要の回復・拡大や、地域固有の体験価値への関心の高まりを背景に、文化資源を活用した観光・まちづくりへの期待は一層高まっている。他方で、多くの地域において、魅力ある文化資源を十分に活かし切れていない状況も見られる[10]。地域において文化と経済の好循環を実現するためには、「官民公金」といった多様な関係者を束ねながら、経営的視点を持って事業を推進し、持続的な展開につなげることのできる人材[11]や、文化財を活用した高付加価値なコンテンツを、インバウンドを含む観光客に対して満足度高く提供・運営できる専門人材[12]の存在が不可欠である。
しかしながら、現状では、こうした人材が地域に十分存在しているとは言い難く、文化資源を活用した事業の継続性の確保や、担い手の育成・確保が大きな課題となっている。このため、これまで進めてきた文化資源を活かしたマーケティング支援、設備整備支援、コンテンツ造成支援等に加え、今後は、地域における文化資源活用の担い手を育成・確保するため、「人への投資」を抜本的に強化していく必要がある。そして、こうした文化観光を稼げる営みとすることができる人材=文化を核とした地方創生人材を中心に、地域で食文化をはじめとした生活文化を体験し、魅力ある地域の建造物を訪れて 建築文化[13]にも触れ、さらにはそうした建物に泊まるという、地域のホンモノの文化に浸るコンテンツを提供するほか、地域の質の高い伝統芸能・工芸技術に親しみ、それらへの理解を深める鑑賞・体験機会を併せて提供することで、コアファンの形成や長期滞在化・リピート化につなげ、地域における文化と経済の好循環モデルづくりを支援し、全国各地での実施を加速させることが求められる。
更に、日本の文化芸術の魅力を世界に発信し、地域の文化振興を目的とした官民大型プロジェクトである「日本博」については、本年3月に高市総理出席の「日本博総合推進会議」が開催され、海外に高い訴求力を有するマンガ・アニメ等の活用や、多様な領域の掛け合わせ、ナイトタイムを含む多様な機会の活用、海外富裕層を視野に入れた高付加価値な体験の提供、横浜グリーンエクスポ等の国際プロジェクトと連携した取組等により、全国各地の文化資源の多面的魅力の発信を図るべきであるという新たな方針が決定された。とりわけ、来年3月に開幕する横浜グリーンエクスポは、官民をあげて取り組む国際プロジェクトであり、文化芸術面での発信やインバウンドの増加に寄与する絶好の機会となりうる。高市総理の指示を受けて、横浜グリーンエクスポと連携についてさらなる強化を実現するためには、全国各地の文化芸術団体が、本来的な取組も維持しつつ、横浜グリーンエクスポの場を大規模かつ柔軟に活用できるよう、十分な支援を行うことができる環境を整備すべきである。
3.多様で豊かな文化芸術を生み出す土壌の抜本的強化
これら上記取組が経済成長や地域活性化、観光振興という果実を生むためには、国立文化施設をはじめとした文化施設(博物館、劇場・音楽堂等)の機能強化や、地域の様々な文化の継承・振興が前提となる。文化芸術の基盤を強固にし、社会課題に対応できる環境を整備して、文化の多様性を守り、育み、継承していく様々な取組を行う必要があり、そのための財政的な投資を行うことが求められる。
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(わが国の伝統文化の中核となる国立劇場の再整備と伝統芸能の継承基盤充実)
開場以来長年にわたりわが国文化芸術の「顔」として機能してきた「国立劇場」は、発表の場としてだけでなく、次の世代を育てる場としても大きな役割を果たしてきており、令和5年10月の閉場以降、一刻も早い再開場が求められている。同時に、グローバル化が進展した現在においては、国立劇場に国内外から多くの方々が来場することで、日本の伝統芸能の普及・発信が進み、後世にわたってわが国の伝統芸能が継承されるよう、その基盤を充実させることも必要である。
政府においては、国立劇場建設PTで行われた議論等を踏まえ、令和6年度補正予算に物価高高騰相当分として200億円が計上されるとともに、令和6年12月には再整備計画が改定され、ホテルの併設や地代設定は必須としないとする等、民間事業者の参入をより確実にするための手立てが講じられてきた。また、令和7年提言を踏まえ、令和7年9月にも再整備計画が改定され、令和7年度中に3回目の入札公告を行い、令和15年度の再開場を目指すスケジュールが明記されるとともに、高市政権における総合経済対策では、「国立劇場については、2033年度の再開場を目指して、再整備を国の責任で早急に行うため、建設費高騰が続く建設市場の動向に合わせ、必要な時期に追加の財政措置を適切に行い、民間事業者の入札参加を容易にする」旨が明記された。
その後、民間事業者との対話の結果を反映し、入札参加が容易となるように、①入札手続き期間について、入札公告以降の手続き期間を延長、②6年半の工事期間に、余裕期間を確保する提案を可能とする[14]、③応募者が本事業の業務量を想定するための参考となる「概算事業費」の提示、といった措置を講じた上で、独立行政法人日本芸術文化振興会において、本年3月末に3回目の入札公告を開始したところである。
今後は、今回も遅延すれば関係者の信頼を失いかねないという強い危機感の下で、令和15年度の再開場に向けて着実に準備を進めるため、適切な時期に追加的な財政措置を確実に行うとともに、国立劇場がわが国の伝統芸能を守り、育ててきたこれまでの役割を更に発展させるため、閉場中においても伝統芸能に関わる方々の活躍や鑑賞機会を継続するための公演及び伝統芸能の伝承者の人材育成の代替場所の確保、再開場後の一般の人が来場しやすい公演等の形態の工夫の検討、インバウンド拡大に向けた国内外への発信強化など、ソフト面も含めて、伝統芸能の継承基盤の充実を図ることを政府に強く求める。
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(文化芸術の「顔」として国内外に存在感のある国立文化施設の機能強化)
国立文化施設は、文化財や美術作品の収集・保管、調査研究、教育普及、展示等の業務を行う施設であり、国民の財産である貴重な文化財や美術作品を後世に守り伝えるとともに、わが国の文化財や美術作品の魅力を国内外に発信し理解を深めてもらうための、きわめて重要な役割を果たしている。
令和8年度の政府予算には、国費(運営費交付金)に初めて物価高対応等を含めた(3法人計6.5億円増)ほか、インバウンド対応予算の創設(3法人計31億円増)などのこれまでより充実した措置が盛り込まれた。しかしながら、ここにとどまらず、今後とも国立博物館・美術館が、我が国の文化芸術の「顔」として、これまで以上にナショナルセンターとしての存在感を国内外に示すことができるよう、十分な予算の確保に努め、展示スペースの拡充や所蔵作品の充実、グローバル拠点化等を通して、各館の魅力を抜本的に向上させていく必要がある。
そのためには、まず、各館の工夫を促しつつも、国立文化施設の機能がしっかりと維持・強化されるように、運営費交付金を十分に確保することこそが、何よりも果たすべき国の最重要な責務である。
また、いわゆる二重価格等については、近年の物価高騰による展示費用の増加等への対応、鑑賞された方に十分に堪能いただける展示の魅力化や、海外から日本に訪れる方への多言語対応の充実などを目的として、先行事例やインバウンドを含めた来館者数への影響等も考慮しつつ、検討を進めるべきである。一方で、子供の無料入館等、社会的・教育的に求められる措置についてはこれまでと変わらず実施することで、文化芸術の体験機会へのアクセシビリティの確保を図るとともに、文化芸術活動を人々のウェルビーイング(健康や幸福等)に生かす「文化的処方」の考え方の普及を促進すべきである。
こうした活動の充実の実現を担う、「人材力」をはじめとした経営の強化も急務である。法人本部のリーダーシップのもと、各館を一体的に運営できる体制を整備することや、ファンドレイジング、企業連携、広報、顧客開発を含めた専門人材の確保、展覧会やコレクション活用の司令塔としての学芸企画機能の強化、業務効率化・DX化の推進体制の整備等の必要な対応を着実に進めていく必要がある。
他方、足元に目を向ければ、国立文化施設においても、館内照明のLED化、老朽化による耐震性能不足で閉館(明治古都館)、建物の狭隘化や漏水、空調設備の老朽化(国立美術館)、老朽化による外壁全体の剥落(国立科学博物館)といった事態が生じている。保存・継承はもちろん、多様な入館者に日本の代表的な文化施設として世界に伍する存在感を発揮できるよう、ユニークベニューとしての施設活用や快適な観覧環境を提供するための改修、外観及び内部リノベーション等の工事を実施していく必要がある。
これらを含め、文化芸術の「顔」として国内外に存在感のある国立文化施設の機能強化は、文化立国実現に向けた国の覚悟そのものである。本調査会とこれまで以上に連携を図り、こうした施策を実施していくことを政府に強く求める。
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(地域における文化施設の機能強化)
人々が文化芸術を創造し、享受する場となるのが、地域の博物館、劇場・音楽堂等の文化施設である。文化施設がその役割・機能を果たし続けることは、人々が文化芸術に触れ、親しみ、そこから生きる喜びを見出す機会が提供され続けるということである。
また、文化芸術は、観光・まちづくり・国際交流・福祉・教育・コンテンツ産業等の分野との連携の下で様々な価値を生み出しているほか、多様性、包摂性、持続可能性をキーワードとした新たな社会の実現に大きく貢献するものであり、その基盤となる文化施設にも、社会の持続的な発展に寄与し続けるという役割が求められる。
しかしながら、文化施設をめぐる課題として、①約1,800館の劇場・音楽堂等[15]と約1,300館の博物館[16]の約7割が2040年代までに建て替え時期を迎えるという「危機」が確実に起きると予測されること、②人口減少社会下における人員不足や文化施設に求められる役割の多様化に対応できる人材の確保・育成、③文化芸術の鑑賞機会[17]や施設の数・稼働率等における地域間格差、④文化行政や文化施設のミッションの浸透やそれに基づく実践の不足、が指摘されている。こうした課題を克服し、文化施設が多様な人々の対話と交流を促進し、外にも開かれたハブの役割を果たすことで、「地域社会の文化的土壌の芳醇化」と「付加価値の創出」という2つの機能を連動させる「創造的循環」を形成し、多様な個人のウェルビーイングの向上と心豊かで活力のある社会の持続可能な発展に寄与する役割を果たすことを後押ししていく必要がある。
具体的には、まず、文化施設の持続可能性を確保する上で喫緊の課題である老朽化や物価高騰への対応として、地方創生に係る交付金や国際観光旅客税等あらゆる手段を駆使して、文化施設のハード面の支援を拡充していくべきである。文化施設が今後求められる役割を踏まえれば、観光・インバウンドや地域活性化に資するものとして、「見せる収蔵庫」や観覧環境の充実をはじめ魅力ある博物館の取組を推進するなど、戦略的な環境整備への投資を行っていくことも求められる。
次に、文化芸術体験の地域間格差に向けて、首都圏における劇場不足に対応し、実演芸術団体の地域における公演活動の場を確保するとともに、地方において質の高い実演芸術の鑑賞機会を確保するため、芸術団体と劇場・音楽堂等との提携により、地域における中長期的な活動基盤の形成を推進する取組を強力に支援すべきである。
最後に、文化施設をハブとした創造的循環に向けて、文化施設が自らのミッションに基づき、自律的にその機能強化を図る取組を支援するとともに、各文化施設が関係機関と連携・協働しながら、各課題に対して効率的・効果的に対応していくことを可能とする「文化施設連携プラットフォーム(仮称)」の形成を促進することを通して、人口減少社会や人材不足の中でのリソースの共通化も図り、「点」から「線」や「面」としての活動の展開を後押ししていくことが必要である。
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(方言の保存・継承、文字・活字文化のオールジャパン体制での発信・国際展開)
方言は、地域の歴史的、社会的な伝統に根差した言葉であり、地域の文化の基盤を成し、地域の豊かな人間関係を担うものである。文化庁ではこれまで、ユネスコで示された8言語及び東日本大震災の被災地方言を対象として保存・継承の取組を実施してきたが、多くの方言が消滅し、多様な地域の文化の基盤が失われる危機に瀕していることから、早急に記録・保存することが必要である。最近では、方言のデータを学習したAIによる通訳や文章作成なども行われ始め、若い世代でも方言を楽しめる環境が生まれつつあるが、一方で、AIが学習する信頼できる方言データは不足しているという課題もある。文化や言語の多様性を尊重しようとする国際的な潮流や信頼できる言語資源としての方言データ整備の必要性を踏まえ、未来へ伝える地域資源としての方言の保存・継承に向けた取組を推進していく必要がある。
また、地域社会に好循環を生む持続可能な文字・活字文化については、近年、不読率が6割を超え、書店数の減少など当該文化を取り巻く環境が厳しさを増す中、書店、出版社等が連携した特色ある取組への支援とともに、その振興に向けた普及・啓発を推進する。加えて、他コンテンツの根幹となるIPやストーリーの源泉である日本の文学作品等の活字文化について、オールジャパン体制でグローバル展開を加速化するための体制整備や海外展開支援を強化すべきである。
さらに、文化遺産オンラインの推進、文化芸術のデジタル・アーカイブ化の促進やそのバーチャル映像をライブで鑑賞できるようにするための取組、デジタル技術を活用した文化芸術活動の推進に加え、AI等の活用を見据え、マンガを含む多様な言語表現についてデジタル言語資源の整備を含む文化DXを着実に進めていく必要がある。
Ⅲ.おわりに
文化政策は、文化は大切であるというものの、ともすれば経済と無関係のもののように捉えられ、これまで潤沢な予算措置がなされてこなかったことは否めない。また、「文化は高尚で、ハードルの高いもの」という固定観念から、文化愛好者層ではない国民に必ずしもその必要性が理解されず、「文化」という概念を拡張することも道半ばにある。
しかしながら、文化なき経済は必ずどこかで限界に達し、やがて衰退に向かう。これまでの古いマインドセットを根本から打破し、これまでの考え方にとらわれない政策を実行していくことは必須であり、それなしにはわが国の未来を明るく照らし出すことは出来ない。文化政策はこのような、いわば「崖っぷち」にあるとさえ言える。
こうした危機感の下で、本提言に記載した、クリエイター等の育成や文化財の継承・保存・活用、文化施設の機能強化等を持続的かつ効果的に推進していくためには、文化芸術団体・産業界・教育機関・行政機関がそれぞれの知見と役割を持ち寄り、相互に連携して取り組む体制を構築するとともに、施策を担う行政機関の専門性を高め、実践と知見の蓄積を図ることが必要である。また、こうした文化資源が国内外で適切に評価、発信されるためには、研究者や専門家の存在とその育成・確保も不可欠である。
そのため、独立行政法人を含め行政機関における専門的知見や実務能力の向上や体制強化を図りつつ、知見の共有・蓄積の仕組みを整備し、産学官が一体となって施策を企画・推進する枠組みを構築すべきである。さらに、研究者や専門家の社会的価値を高め、その育成・確保を図るため、大学・大学院におけるコンテンツや文化財の保存・活用、文化資源を活用した地域活性化に係る研究の全国的な拠点整備などにも取り組むなど、社会との接続を意識した人材育成を図ることが必要である。こうした施策の推進に当たっては、専門学校・大学等既存の枠組みを生かしつつ、また、教育立国調査会とも連携しつつ、取り組んでいくことが求められる。
また、本提言に記載された文化芸術の本質的な価値やそれを継承・発展させるための各種施策について、国民的なコンセンサスを形成していくことも求められる。わが国の文化芸術の振興を図るためには、文化芸術の礎たる表現の自由の重要性を深く認識し、文化芸術活動を行う者の自主性を尊重することを旨としつつ、フランスといった文化に国家戦略として投資している諸外国に比肩するような、文化芸術を国民の身近なものとし、それを尊重し大切にするよう包括的に施策を推進していくことが不可欠である。
本提言はゴールではなく、あくまでも文化立国実現に向けたスタートであり、政府において、その立案・実行のための体制を強化しつつ、提言された各施策について関係者との密接な連携・協働の下で、着実に実行することを強く求める。そのためにも、ソフトパワーを十全に引き出すべく、諸外国の事例[18]も参考にしつつ、文化に関連する施策を推進する司令塔としての文化省(仮称)の創設も視野に体制を抜本的に強化すべきである。
[1]外食産業、観光産業、コンテンツ産業、スポーツ産業、教育産業、放送産業、アート関連市場の規模を合計すると約100兆円となり、日本最大規模の産業とされる自動車関連産業(約71兆円)を上回るとの指摘がある。
[2]日本のコンテンツ産業の輸出規模(2024年)は約6.0兆円であり、自動車(約22兆円)に次ぐ規模であるとともに、半導体(約5.5兆円)や鉄鋼(約4.5兆円)を上回っている。
[3]令和8年4月28日日本成長戦略会議人材育成分科会
[4]17の成長戦略分野の1つとしてコンテンツ産業官民協議会においても検討
[5]令和7年度補正予算では、政府全体で550億円を超えるコンテンツ予算を確保したものの、年間1,000億円規模以上の政府支援を通じてコンテンツ制作や流通を行う諸外国との間には引き続き差がある。
[6]STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)に加え、芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲でAを定義し、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な学習を推進すること。
[7]観光庁(2019),『体験型観光コンテンツ市場の概観』.
[8]令和3年12月文部科学大臣決定・令和4年12月改正(令和4~8年度の5か年計画)
[9]国内外の創造都市・クリエイティブツーリズムの先進事例として、以下がヒアリングで把握された。
- 金沢市:伝統工芸と現代アートの融合による独自の文化エコシステムを構築し、クリエイター移住・定住を促進。アートコーディネーターやプロデューサーが多彩な文化プロジェクトを企画・開催し、都市ブランドや経済効果を創出。
- 丹波篠山市:民間との連携により、アーティストや職人、デザイナー等が空き家を工房兼住居として活用できる環境が形成。都市の創造人材が農村文化と関わりながら新たな創作や事業を展開する動きが生まれ、定住・定着も推進。
- サンタフェ(米国):先住民文化・現代アート・クラフトが融合し、「場」と「機会」が地域に存在することで、大学や美術学校の卒業生が地域内でキャリアを形成できる環境が整い、文化経済の自立的な循環が形成。
- ボローニャ(イタリア):市民参加型の文化プログラムと大学の連携により、若手アーティストの育成と社会包摂を両立するモデルを展開。住民・アーティスト・大学が連携して文化プログラムを運営する参加型の文化ガバナンスが展開。
[10]ヒアリングでは、文化観光における本質的な課題として、①責任の所在が不明確で意思決定過程も不透明な主要関係者の集まりであるという「ガバナンス(統治機構)」の課題と、②マネジメントの高い地域経営者が不足し、結果としてマネタイズできないという「マネジメント(経営)」の課題が挙げられた。
[11]ヒアリングでは、国と企業経営に強い大学等により立ち上げられた地域経営人財の新機能が、国と支援地域を調整・決定し地域経営者を派遣及び地域内の地域経営人財候補を育成していく、「地域経営人財新機能」の必要性が指摘された。
[12]ヒアリングでは、文化財の活用を伴う「投資」としてのインフラ整備や、活用するためのコンテンツの造成、そしてノウハウや人材を内製化して守り伝えるといった取組を担う人材の必要性が指摘された。
[13]我が国特有の伝統建築から現代建築に至るまでの「建築文化」は、それ自体が国際的に極めて高い評価を得ている有力な観光資源である。特に、近年各地で勃興を見せる建築ツーリズムについては、今後その地域への裨益を最大化できるよう、各地域での取組を支援するとともに、各地域における好事例を集約して横展開を図るための、全国的な建築文化の拠点機能の形成が必要である。
[14]入札公告では、より短い期間の提案を評価することとしている。
[15]地方公共団体、独立行政法人又は民間が設置する劇場、音楽堂、文化センター等で座席数300以上のホールを有するもの。(文部科学省「社会教育調査」より)
[16]登録博物館・博物館指定施設の合計。
[17]令和3年度に演芸・演劇・舞踊鑑賞を行った者の割合は、11大都市圏の7.9%に対して11大都市圏以外では4.2%と開きがあるほか、全国平均の6.8%に対して東京都では12.8%と、東京都をはじめとする大都市圏と、それ以外の地域では鑑賞機会の格差があることがうかがえる。(総務省「社会生活基本調査」(令和3年度)より)
[18]文化政策を担う国家レベルの行政機関について、例えば、フランスは文化省、イタリアは文化省、韓国は文化・スポーツ・観光省となっている。