防災DX PT 提言

令和8年5月19日
自由民主党本部 政務調査会
デジタル社会推進本部
防災DXPT

1. 災害による死傷者を最小化するための防災DXの推進

a. 災害による直接死を最小化する

デジタルは災害そのものを防ぐことはできない。しかし、水害等の突然起こるものではない災害では、被害予測や住民の行動予測に基づいた避難誘導を行うことで多くの直接死を防ぐことが可能である。

また、地震等の突然起こる災害においても、事前に被害が起きやすい場所を予測・指摘して改善を行うことや、災害直後の適切な避難誘導等を行うことで、直接死や負傷者の発生を防ぐことにつなげることも可能である。

防災DXの活用にあっては、あらためて災害による直接死を最小化することを究極の目的に据える必要がある。

b. 災害関連死をゼロにする

デジタルは災害関連死への対策として最も効果を発揮する。防災DXの活用により、平時から行政及び医療・福祉関係者等が連携して要配慮者等の情報を適切に把握しておくことを含め、災害ケースマネジメントを着実に実施し、災害時に被災者一人ひとりの状況を把握した上で、それぞれに応じた対応を行う仕組みを整備することで、被災者が災害関連死することを防ぐことが可能である。

防災DXは災害関連死をゼロとすることを目標として推進する必要がある。

能登半島地震対応において官民連携で作られた被災者データベースや、本プロジェクトチームにおいて検討した防災データスペースは、まさに災害関連死ゼロを実現するために構築されるものである。

c. KGI /KPI

DX推進は、単なるデジタル化ではない。デジタル技術によって、物事の仕組みを変革することを意味する。したがって、防災の最終目的である「死者数の最小化」がゴールであり、そのために人命と生活を守るための手段が実現できたかどうかが重要である。

このため、最終目標であるKGI(Key Goal Indicator)は「死者数の最小化」とする。また、これを達成するための中間目標であるKPI(Key Performance Indicator)設定の考え方は「デジタル技術による仕組みの変革」とするべきで、デジタルシステムの導入件数をもってKPIとすることは適切ではない。

災害には原因が異なる直接死と災害関連死があるが、対策も目指す指標も異なる。死という結果のみに着目するのではなく、その手前のプロセスにおいてKPIを設定することが重要である。平時・発災直後・応急期・復旧復興期の各フェーズで分け、国・都道府県・市町村で明確に分担をし、行政だけでなく、地域全体のレジリエンスを対象としてKGI達成に向けたKPIを設定していくべきである。

d. 投資対効果

防災DXへの投資は、単なるコストではなく、「人命救助」と災害によって発生する数十兆円規模の「損失回避」のための「戦略的投資」として位置付けるべきである。南海トラフ巨大地震を想定した場合、防災DXの活用により直接死・災害関連死を一定割合削減できると仮定するだけでも、数万人規模の命を守ることが可能となる。さらに、本プロジェクトチームが目標として掲げる災害関連死ゼロを実現した場合、逸失利益の抑制効果も含め、数兆円規模の経済的効果が見込まれる。直接被害・間接被害の抑制効果も加味すると、合計で数十兆円規模の被害削減効果が期待できる。この規模の効果を前提とすれば、防災DXへの積極的な投資は合理的であるのみならず、国として不可欠の責務である。

e. 他の分野への応用可能性

防災DXで整備される事項は、災害対応以外にも利用可能である。防衛・安全保障において国民向けの対策として必要とされる機能と等しいものであることから、そのまま応用することができる。実際に、米国等の親密国においては、防災目的と防衛目的の双方を満たす形でシステムが作られるケースが見受けられる。

防災データスペースの整備は、単に災害対応だけでなく、国際的なサプライチェーンの分断リスクのもとで、経済安全保障の推進や企業事業継続性の確保等にも有効な仕組みであり、日本国の危機に対して幅広く対応できるものである。また各国用にカスタマイズすることによって、輸出先候補となる他国においても、魅力のあるシステムとして映るものであると確信している。

さらには、後述する防災データスペースを活用して流通するデータは、きめ細かな要配慮者等支援を通じた地域コミュニティの福祉水準の向上、道路等のインフラメンテナンスのスマート化、ドローン・人工衛星活用による農業の生産性向上など、平時の暮らしの質的向上や経済の活性化など、その他分野への応用・展開が可能である。

最終的には、防災が個別分野として切り出された現在の形から、全ての分野に共通機能として防災を実装する形に変革する。全ての分野で日常業務の非常時対応として防災が当たり前のように実行されることで、従来から指摘されてきた防災の人的リソースの問題を解消する。さらに、ビジネスにおいても、防災業界という狭い領域ではなく、日常のあらゆる分野を対象とした事業展開が可能となる。

2. 防災DX基盤の整備

a. 官民一体での防災データスペースの構築

  • i. 防災データスペースが具備すべき機能

    防災・災害対応に関わる国、地方公共団体、指定公共機関、民間事業者、医療機関等の既存の情報システムやデータ連携の取組を活かしつつ、それらを円滑につなぐ仕組みとして、「防災データスペース」の整備を推進する。

    ここでいう防災データスペースは、新たな単一の情報システムを構築するものではなく、各主体が保有するデータを、それぞれの管理・責任のもとに保持したまま、安全かつ柔軟に連携・活用できる環境を実現するためのルール、標準、インターフェース、トラストの枠組みを包含するものである。

    新総合防災情報システムをはじめとする既存の基盤や、各分野におけるデータ連携基盤との関係性を整理しつつ、これらを補完・拡張する形で、自治体・指定公共機関・民間企業のデータを横断的に連携可能とする環境を整備する。

    あわせて、インフラ、物流、通信、保険、人工衛星、SNS等の各分野においては、民間主体によるデータスペースの整備・活用を促進し、官側基盤との双方向接続を実現することにより、新総合防災情報システムを中核とする防災デジタルプラットフォームを、より実態に即し、実効性の高い官民連携基盤へと進化させる。これらのデータ形式・API・メタデータの標準化・オープン化を進め、平時から相互運用可能な環境を整備する。

    構築にあたっては、主体・分野・地域をまたいだデータ連携を可能とする相互運用性の高い基盤として構築する。

    また、国は、防災データスペースの整備にあたり、人命救助、ライフライン復旧、被災者支援等に直結するデータを優先データとして定め、重点的に接続を進める必要がある。特に、災害の切迫期・応急期において救わねばならない人(特に要配慮者、人工透析患者・在宅酸素療法患者等の継続的な医療支援が必要な方等)の各々がどこにどのような状態でいるのかを把握・特定することは、どの自治体も満足に行えていない。この「救わねばならない命の把握・特定」を可能にするデータの特定とその連携が、直接死最小化と関連死防止の観点から極めて重要であり、特に自治体、医療機関、介護施設、民間支援者等との情報連携を確実に行うことが肝要である。これができれば、迅速かつ効果的な救急・救命はもとより、その後の有効な情報発信、避難所運営、物資支援、応受援・広域連携、被災者生活支援などの様々な対策立案・実施に結び付けられる。

  • ii. 自立分散型計算インフラによる止まらないシステムの構築

    首都直下地震では、インフラの連鎖的停止(停電→通信断絶→DC停止→行政判断停滞)等が起こりうると理解している。この連鎖を防止するためには、単純なバックアップではなく首都直下地震や南海トラフ地震級の災害時でも機能を止めないために自律分散型計算インフラによる止まらないシステムの構築を進める必要がある。

    具体的には、コンピューターの処理機能やネットワーク環境を一箇所に集中させず、各地に分散して配置することで、有事の際の柔軟な対応を可能とするべきである。これは単なる通信混雑の回避に留まらず、AIが日常に溶け込む社会において、内容に応じた最適な計算資源の割り当てや、個々のニーズに対する迅速なレスポンスを提供することが可能となる。

  • iii. デジタルツインの活用による災害対応の高度化

    防災データスペースには、デジタルツインも含まれる。デジタルツインの活用にあたっては、単なる可視化手段にとどまらず、意思決定を支える基盤として位置付けることが重要である。

    その際、高精細化が重要であるが、「高精細」とは、単なる見た目の精緻さではなく、建物の構造、素材、用途、周辺環境等の属性情報を含む情報量の充実を意味するものであり、これらを統合的に扱うことで、より現実に即した状況把握およびシミュレーションが可能となる。

    また、AIと連携させ、被害想定、避難行動、資源配置等について多様なシナリオを迅速に検証し、意思決定に資する情報を提供する仕組みとして整備する必要がある。

    さらに、特定用途に限定されない汎用的な基盤として構築し、事前防災から発災対応、復旧・復興まで一貫して活用可能な仕組みとすることが重要である。

    なお、災害発生直後においては、通信途絶や情報不足により現場状況の把握が困難となることが想定される。このため、デジタルツインとAIを活用し、多様なシナリオに基づくシミュレーションを事前に実施・蓄積しておくことで、実際の観測データが不十分な状況においても、被害状況や影響範囲を推定し、先手の対応を可能とする仕組みを整備することが重要である。

  • iv. 防災データスペースを活用した物流支援の最適化

    備蓄があったとしても、災害時に必要な人に必要なものが届けられるとは限らない。絶対量の不足リスク、道路寸断等による輸送リスク、アレルギー等によるミスマッチリスク、要員不足によるオペレーション破綻リスク等があるからである。「防災データスペース」により、備蓄データ、地理データ、要配慮者データ、物流データ等を統合することで、このようなリスク評価を地域ごとの特性を踏まえて詳細に行い、その結果に基づく対策を立案することが可能になる。

    また、災害時には物資生産のサプライチェーンが寸断されてしまい、そもそも物資を生産できなくなるリスクもある。このような事態が現状想定されていないこと自体もリスクであり、物資が生産できなくなる場合に備えて現在ある備蓄や地域にある物資、輸送途上にある物資等の効率的な活用を検討しておく必要がある。このような生産できない事態も想定した物流支援を防災データスペースはサポートする。

    また、防災データスペースにより、被災者・避難所のニーズ、民間企業の在庫・輸送能力、配送状況等のデータを、安全性・信頼性を確保した形で連携し、需要と供給の全体像を可視化することができる。これにより、従来の電話、メール、都度照会、手作業突合に依存した調整から脱却し、必要な物資を必要な場所に、必要なタイミングで届けるための需給マッチングを最適化することができる。

    特に、地方公共団体・避難所等が把握する避難者数、要配慮者の状況、必要物資の品目・数量・配送先等の需要側情報と、メーカー、卸、小売、物流事業者等が保有する在庫量、出荷可能量、輸送余力、配送状況等の供給側情報を、各主体が保有したまま必要な時に必要な範囲で連携可能とすることにより、地方公共団体等による支援要請に基づき、供給元の選定、輸送手段の確保、配送状況の把握、到着確認までを一気通貫でつなぐことが可能となる。これにより、支援の重複や不足、配送の遅延を抑制し、必要な物資を必要な場所に必要なタイミングで届ける災害時物資支援の実効性を高めることができる。

  • v. データスペースとAIのソブリン性

    重要な国益に関する機密情報(防災・国防など)を扱うにあたり、海外製AI、海外製データセンターへの依存は、経済安全保障・セキュリティの観点で課題と認識している。

    特に、あらゆる有事を想定し、データの安全性を含めた機微情報の取り扱い、多岐にわたる関連法案の解釈、慣習への理解等を踏まえて行われる日本語フルスクラッチでの国産LLMの開発、そしてそれを運用するためのデータセンターの国内蔵置が有用であると考える。

  • vi. 防災データスペースの所管

    防災データスペースは、新たな単一システムを国が一元的に構築・保有するものではなく、国、地方公共団体、指定公共機関、民間事業者等がそれぞれ保有・運用するデータやシステムを、安全かつ相互運用可能な形で接続し、必要な時に必要な範囲で連携・活用できるようにするための仕組みとして位置付けるべきである。

    そのため、防災データスペースの所管にあたっては、防災庁が司令塔となって、関係省庁の協力のもと、都道府県、市区町村、指定公共機関、民間事業者等を束ねる推進体制を構築して、共通仕様、利用条件、アクセス権限、来歴管理、真正性確認等の基本ルールや、官民が安心して接続・運用できる共通機能の整備を主導すべきである。これらは、防災分野におけるデータ連携の基盤条件として、デジタル公共財の考え方のもとで整備・維持されることが望ましい。

    一方で、防災データスペースは、新総合防災情報システムその他の既存基盤と競合・重複するものではなく、それらを含む既存の公的基盤や各主体のシステムを補完し、横断的なデータ流通を可能にする枠組みとして整理すべきである。とりわけ、公的機関間の情報共有を担う既存基盤と、民間を含む多様な主体のデータ連携を支える仕組みとの役割分担を明確にした上で、段階的に接続対象とユースケースを拡張していくことが重要である。

    また、実際の運用にあたっては、国が一律に担うのではなく、国がルール整備、標準化、制度設計及び財政支援を担い、都道府県は広域調整や市区町村支援を担い、市区町村は住民に身近な情報や支援業務に即した活用を担うなど、重層的な役割分担を明確化すべきである。あわせて、指定公共機関や民間事業者が、それぞれのデータ主権や秘匿性を確保したまま参画できるよう、目的制御、責任分界、接続条件等の運用ルールを整備する必要がある。

    さらに、導入初期においては、まず人命救助、被災者支援、ライフライン、物流等の公益性が高く効果が明確な領域から優先的に接続を進め、その成果を踏まえつつ、分野別データスペースや民間サービスとの接続を拡大していく段階的な実装を推進すべきである。

b. データの整備

  • i. リアルタイム災害把握基盤の高度化

    防災データスペースにおいては、地理空間情報(地形、建物、インフラ、人口、土地利用等)を中核的な基盤データとして位置付け、継続的に更新・整備する必要がある。特に、人工衛星(SARを含む)、ドローン、車載カメラ、IoT等の多様な観測データを統合し、空間情報として一元的に管理することで、平時の現状把握から災害発生後の初動対応、復旧・復興に至るまで一貫して活用可能な基盤を構築する。

    具体的には、詳細把握・柔軟把握の手段として全国にドローンポートを展開し、遠隔運航により災害発生時に10分以内に現地状況を把握するための即応体制を構築。整備にあたっては、自治体を跨ぐ広域災害オペレーション基盤として構築し、発災時に被災した自治体に対して同時に対応できるよう、災害時のデータ、利用するプラットフォームやUI、指示系統を統一し、対応能力を強化する。災害が起きていない地域から、遠隔操作でのオペレーションを行い、リスクを分散する。

    また、このドローンデータに加え、人工衛星・車載カメラ・航空機・ヘリ・SNS等、地域や現場に関するデータなどの特性の異なる多様なマルチモーダルデータを統合し、災害情報をリアルタイム収集、生成AIでインクリメンタルに処理する。その際、官/政府データ(過去に災害が発生した際の人工衛星・航空機データの活用、災害発生時の航空機・ヘリなどの観測データ)を活用する。

    これらの情報に関して災害関連データの標準化・API化を進め、防災デジタルプラットフォームと連携することが重要である。

    しかしながら、災害時にのみ稼働するシステムを実効的に機能させることは極めて困難である。そのため、ドローン等を活用した平時の行政事務、公共事業及び民間ビジネスとのデュアルユースとデータの蓄積・活用を可能にする制度・仕組みをセットで検討し、その実証・実装を推奨・促進すべきである。

    なお、これらの地理空間情報は、防災用途に限定せず、インフラ維持管理、都市計画、物流最適化等の平時の行政・民間活動にも活用可能な日常時と非常時の区切りがない「フェーズフリー型基盤」として整備することが重要である。

  • ii. 被災者情報と資産情報等の一体的な把握・活用

    被災者支援における金銭的給付(公助・共助・自助)を迅速化する観点から、被災者情報と資産情報を一体的に把握・活用できるデータ整備を進める必要がある。

    具体的には、被災者の基本情報に加え、所有する不動産の位置情報や罹災状況を紐付けることで、生活再建支援金、義援金、保険金等の申請・審査・給付に至る一連のプロセスを効率化し、給付までの期間短縮を図ることが重要である。これにより、被災者支援を「申請主義」から「プッシュ型支援」へ転換することも可能となる。そのため、個人情報基盤(マイナンバー制度等)と固定資産情報等の連携のあり方を検討するとともに、不動産を一意に識別する仕組みの整備を進める。

    あわせて、災害時における被害認定の迅速化に向けて、航空写真(正射画像)、人工衛星データ、ドローン画像、浸水深等のセンサ取得データ、数値標高モデル(DEM)等の高精度データを平時から整備し、発災時に即時活用可能とする体制を構築する必要がある。これにより、現地調査に依存していた被害把握・認定業務の効率化・高度化を図る。

    例えば、被災者情報と保険契約情報、被害推定データを連携することで、被害把握・認定業務の効率化被害把握・認定業務の迅速化のみならず、公的支援との重複排除や最適配分を実現し、被災者ごとの状況に応じたきめ細かな支援が可能となる。

    さらに、平時においても、人工衛星画像や航空写真等を活用した建物・土地利用状況の把握を進め、固定資産情報や空き家対策等の行政分野における活用とともに、民間事業者との間でのデータ共有・更新の仕組みを構築することで、災害時に活用可能な不動産関連データ基盤の高度化を図る。

    これらの取組にあたっては、官民が保有するデータを相互に補完しながら活用することを前提とし、本人同意の取得、利用目的の明確化、トラストの確保等を前提とした上で、官民データの相互利用を可能とする制度・運用ルールの整備を進める必要がある。

  • iii. 相互運用性を支える共通ルールの整備

    国は、防災データスペースに接続するために必要な共通仕様、利用条件、アクセス権限、来歴管理、真正性確認等の基本条件を整理し、官民が接続しやすい環境を整備する。あわせて、防災分野のシステム整備、実証、訓練、補助事業等において、当該基本条件への適合性や相互運用性を重視する。

    また、国は、自治体が既存の防災関連システムを標準仕様に準拠させ、相互運用性を確保するための改修・連携開発する際に、補助金等のインセンティブを設けるべきである。

  • iv. データ主権とトレーサビリティの両立

    データは、各主体が保有したまま連携することを基本とし、提供主体が利用目的、利用範囲、提供先等を適切に管理できるようにするとともに、誰が、いつ、何の目的でデータを利用したかを確認できる仕組みを整備し、データ主権とトレーサビリティを両立させることが重要である。また、認証、契約、監査等の運用ルールを明確化し、行政・民間双方が安心してデータを提供・活用できる環境を整えることも必要である。

  • v. データ整備の推進

    防災分野におけるAI活用の高度化に向け、行政・民間が保有するデータについて、関係主体間の相互理解と協調のもとで連携可能としていく必要がある。まず、オープンデータを徹底的に活用することが重要である。さらには、公開情報のみでは捉えきれない被災実態や支援ニーズに対応するため、行政や民間事業者等が保有する真に必要なデータを、AIが活用しやすい形に整備し、公開情報と適切に組み合わせることで、AIによる分析・予測・意思決定支援の実効性を高められるようにする。あわせて、データの来歴、品質、適時性等を確保し、AIの安全性・信頼性を支えること。

    この推進にあたり、行政機関では下記のようにデータを整備すること。

    • 1. 発災時に住民の命を守るために必要なデータ項目を抽出する
    • 2. 該当するデータを基礎情報、命に関わる情報、その他の情報等、災害時に活用できるように分類して整理する(分類にあたっては運用可能なように3段階程度までとするなど工夫をする)
    • 3. 各データを有事の際に防災データスペースで活用可能なように整備し、その際に地方公共団体の個別システムの仕様に制限されないようにする
    • 4. 各データの来歴、品質、適時性を確保し、AIの安全性・信頼性を支えられるようにする
  • vi. デジタル公共財の整備
    • 1. デジタル公共財の整備・提供の促進

      国が一元的な大規模システムを新たに構築するのではなく、また仕様を策定するだけでもなく、既存のシステムを活かしたまま標準仕様に「つなぐ」ためのオープンなツール・ライブラリ・リファレンス実装等を公共財として整備・提供することを促進する。これにより、どの自治体のシステムでもデータを交換でき、どの民間事業者のサービスでも接続できるようになるとともに、デジタル公共財はその設計図が公開されているため、各自治体や事業者が自らの環境に合わせて改良・再利用できるものとなる。

    • 2. 公費による成果物のオープンソース化の推進

      デジタル公共財の推進に向けて、国の研究事業・委託事業等の公費により開発されたソフトウェアやデータについて、原則としてオープンソース・オープンデータとして公開し、全国で再利用できる仕組みへの転換が必要

  • vii. 防災データの概念定義と標準データモデルの構築

    国・自治体・関係機関の防災DXを進めるには、システムの土台となる全国共通の「防災データの定義」の構築が必要である。

    防災の共通概念を定義し、意味(セマンティック)を揃えた標準データモデルを整備、相互利用できる全国の基盤とする。用語や概念の不統一を解消し、意味を揃えることで、災害連携を円滑にできる。データ定義が統一されることで、データスペースや個別システムは相互運用が高まり、真価を最大限発揮できる。また、基盤であるデータ定義が決まることで、AI活用(学習・推論・自動化)を最大限にできる。

    そのため、平時から災害時まで共通に使えるデータモデルを共通基盤として整備することが重要である。平時でも災害時まで、業務とシステムを同じデータの定義でつなぎ、データにもとづく判断と発信を一貫してできる。

  • viii. 防災デジタル基盤の全国への浸透の徹底

    全国で統一すべきデジタル基盤を徹底的に浸透させる必要がある。国が示す全国共通避難所・避難場所IDや災害対応基本共有情報(EEI)などは、まさにデジタル防災の土台である。防災デジタル基盤の全国への浸透の徹底を早急に実現する。

c. 意思決定支援

  • i. AIによる意思決定支援

    災害時には、人工衛星、ドローン、カメラ、センサー、住民投稿等から多様な情報が収集されるが、これらは分散したままでは意思決定に十分活用することができない。そのため、画像・映像・音声・テキスト等の多様な情報をマルチモーダルAIにより統合的に処理し、状況の把握、優先度の判断、対応方針の検討に直結する形で意味化する仕組みを整備する必要がある。あわせて、状況把握から報告、行動提案までを一体的に支援し、限られた人員の中でも実効性の高い災害対応を可能とすることが重要である。また災害発生時には、現場の自治体職員は、想定外の各種対応に追われること、昨今の職員数不足やノウハウの不足等もあり、各々の対応に時間を要していると認識。

    災害対策本部等において、統合データを基に被害把握・優先順位付け・対応案提示を行う意思決定支援機能を実装する。例えば、地理空間情報とリアルタイムに収集される災害データを統合し、被害状況の可視化、優先順位付け、人的・物的資源の最適配分を支援する機能を実装する。この際、AIは、被害推定、避難誘導、物資配送、要配慮者支援等に関する具体的な対応策を提示する補助機能として活用し、人間の判断を補完する形で意思決定の迅速化・高度化を図るとともに、現場との対話を通じて意思決定を支援するインターフェースを整備する。まずは、発災時に自治体職員が行う災害現場でのプレスリリース文案等の作成等の定型業務などにつき、AIを活用することで業務を効率化することが可能であり、加えて、災害救助法などの適用判断などの首長等の判断の際についても支援を行うことも可能である。

    また、把握した被災規模(想定死者数・倒壊家屋数等)に基づき、各種災害対応業務で必要となる災害対応要員の稼働量等をAIで算出し、人的リソース最適配分の決定を支援することも可能。

    AIによる意思決定支援の実効性を確保するためには、技術導入にとどまらず、現場業務に組み込まれた形で運用されることが不可欠である。このため、防災業務とデジタル双方を理解する人材の育成、導入手順や運用ガイドラインの整備、研修・訓練を含めた支援体制の構築を一体的に推進する必要がある。また、各自治体が共通的に利用可能な形で、報告生成や行動提案等の機能を活用できる標準的な利用環境の整備を進めることが重要である。

    なお、上記についてはあくまで最終判断は人間が行うことが前提であり、人間の判断を補完する「対話型インターフェース」を整備し、迅速かつ合理的な意思決定を支援できるようにする。

    特に、災害対応の初動においては、情報が不完全でありかつ時間的制約が極めて大きいという状況下で意思決定が求められることから、AIによる迅速な状況把握および行動提案を活用しつつ、人による判断との適切な役割分担を設計することが重要である。その際、AIによる分析結果や行動提案については、その根拠や判断過程を明示し、利用者が理解・検証できる形とすることで、信頼性と受容性を確保する必要がある。

    また導入にあたっては、状況把握等の判断一致性が高い領域から段階的に適用し、業務支援から意思決定支援へと拡張するアプローチをとることが望ましい。

  • ii. VLMの活用

    AIによる意思決定支援を行うにあたっては、地域特性(山間部、海沿い、都市部)や災害特性を考慮した日本独自の生成AI(防災VLM: Vision Language Model(視覚言語モデル))を開発・導入することが重要である。

    防災VLMの開発のために、平時や災害時にドローン・人工衛星等から収集された多様な実データ、様々な災害状況を再現するシミュレーションデータ等を整備し、モデルのファインチューニング等への活用を推進すべきである。防災VLMは、その時点で利用できる情報を利用して、被害判定だけでなく、初動対応プランや人的資源配置などの災害対応プラン、定期的な状況報告レポートなど意思決定に役立つ情報を自動生成することが可能であり、災害対応チームとのチャットでプランを洗練させ、現場の意思決定を支援し、国や自治体、現場でデータを連携し、共通的に利用できるプラットフォームとして整備する。

    これらは、データ収集事業者、AI専門家、防災専門家が三位一体となり、産官学連携で取り組む。

  • iii. 防災データスペースの活用に向けた意識変革

    防災データスペースを整備しただけでは、防災担当者に利用されない可能性が高い。防災データスペースの整備にあわせて、国を挙げて災害関連死ゼロに向けて防災DXに取り組んでいることを積極的に広報し、関係者・国民の意識変革を促すことによって、「防災データスペースを利用しないことによる被害の拡大」が起きないような体制整備が求められる。

d. 「場所の支援」から「人の支援」への転換を推進

  • i. 場所(situation)データに加え、人(personal)データの活用

    昨年の改正災害対策基本法や「防災立国の推進に向けた基本方針」により、国は、避難所等への支援から、被災者一人ひとりへの支援に転換する方針を掲げている。しかしながら、ハザードマップ、避難所データ、被害推定など、従来、防災で活用されてきたデジタルデータの多くは、場所を単位として整備されている。一人ひとりを支援するならば、データもまた一人ひとりを対象とした形で整えなければならず、個人をキーとして様々な情報がつながる世界を実現する必要がある。

    例えば、(1)行政が保有するフォーマルな住民情報、(2)医療・介護・福祉分野等が把握するセミフォーマルな住民情報、(3)家族、民生委員、自治会、地域企業等が把握するインフォーマルな住民情報は分断され、有効に活用できていないのが現状である。このような状態にあっては、発災後、要配慮者等への「迅速できめ細かな個別支援」を求めることは現実的ではない。防災データスペースは、個人情報保護ルールのもとで、要配慮者になりえる地域住民の情報を、フォーマル/セミフォーマル/インフォーマルのレイヤーを越えて連接・可視化し、必要な範囲で適切に取得・共有できる仕組みの実現、すなわち、「場所から人へ」の実現を可能にする。

  • ii. 被災者一人ひとりに寄り添ったケースマネジメントの推進

    被災者個々の事情に合わせたきめ細やかで継続的な支援(ケースマネジメント)を実現するためには、被災者の個人情報を活用して臨機応変かつ的確なサービスを提供する仕組みが必要である。そのために、産官学民の知見を結集し、安全に個人情報を活用するための基盤的技術を確立する。

    これらを平時から活用することで、平時の地域福祉社会システムの再構築、福祉・医療・介護サービスDXの現場レベルでの加速、見守りや予兆的支援の日常化が促され、その結果として、有事に「特別な対応」をしなくても命が守られる地域社会の形成にも繋がる。

  • iii. 防災特化AIエージェントによる職員の負荷軽減の実現

    被災者支援にかかる業務は多岐に渡り、また平常時には想定することが難しい業務が突発的に発生することも珍しくない。これらの災害時に特有な業務に関する知識、手順、データ処理等を、AIエージェントが専門的な知識・情報を参照しながら自律的に作業フローを作成する技術の開発が必要である。この技術により災害対応従事者の負荷を軽減するのみならず対応スピードをあげることで、自動化することが難しい被災者支援により多くのエフォートを充てられるようにする。

  • iv. 防災インテリジェンスを可能とする誤情報・偽情報対策

    災害発生時には、防災データスペースを活用し多様な情報を迅速に収集し、状況判断に資する情報を生成するためにAIを利用することが有効と考えられるが、その一方で誤情報や偽情報が混入する懸念がある。こうした問題を防ぐために、AIが自律的に誤情報の出力を抑止する技術の開発が必要である。この技術により、災害対応の状況判断・意思決定のための「防災インテリジェンス」を可能にする。

3. 平時から有事、有事から平時へのシームレスな接続

a. 防災・防衛一体の開発・運用及び社会実装

災害対応や国の守りをより強固なものにするためには、AIやデジタルツイン、データスペースといったテクノロジーを防災と防衛の両面で一体的に活用・運用及び社会実装を進めていくことが不可欠である。

そのためには、これらの技術を単なる「防災用」に留めず、有事の際の「安全保障用」としても活用できる「デュアルユース」の取り組みを加速させる必要がある。

また最新技術を迅速に取り入れるために、機動力のあるスタートアップ企業支援や次世代の専門人材育成の強化が必要である。

b. フェーズフリーを前提とした情報共有システムのプラットフォーム化

災害時にだけ利用されるシステムは、実効的に機能しないことが多い。平時から地理空間情報(地形、建物、インフラ、人口等)を国家基盤として継続的に更新・整備するとともに、人工衛星(特にSAR)・センサー・IoT・民間保有データを平時から蓄積し、データスペースに流通するなど有事に即時活用できる体制を構築する。

また、災害時のみでなく、事前防災や平時のインフラ整備、地域福祉、備蓄・物流などでも活用可能なものとして、持続可能な情報システム基盤を最初から構築し、例えばドローン×VLMに関しては、インフラの脆弱性診断、点検、警備などに活用可能なものとして位置付ける。

また、災害時の被害情報・対応履歴・復旧データを体系的に収集・蓄積し、次の災害対応に活用する。例えば福祉に関しては、平時は福祉介護サービスや見守り活動の充実化、災害時は迅速かつ的確な要支援者支援が可能になる仕組みを検討する。また備蓄・物流に関しては、平時は官民の備蓄管理の最適化や民間物流事業の生産性向上、災害時は官民連携による無駄のない迅速な物資支援が可能になる仕組みを検討する。

c. 地域企業の巻き込みとサプライチェーン構造改革

地域の薬局・ドラッグストア、コンビニ、スーパー等の地域企業は、平時には住民の生活を支える最前線としての機能を、有事には最短距離で支援に転用可能な社会インフラとしての機能を持つ。平時からの協定や協力のもと、防災データスペースを通じて、要配慮者情報、備蓄・物資リスク評価、被災者行動予測といった情報を地域内で共有できる仕組みを実装することで、これらの地域企業が、「防災に協力させられる存在」から「防災を共につくる主体」へと変わり、官民の役割分担や平時・有事の商流・サプライチェーン構造が変わる。これにより、(1)平時の見守り・配送・福祉連携サービスの高度化、(2)有事物資支援の即応化・最適化、(3)官民双方の負担軽減と地域経済活性化などが期待できる。防災データスペースにより、防災がコストではなく、地域価値を生み出す投資へと変わる。

d. デジタルツインやAI災害シミュレーションを用いた地域の防災計画等の策定

「地域ごとの災害リスクのあぶり出し」の実施にあたり、地域ごとの対策の立案(例:地域の防災計画の策定等)を行う際には、デジタルツインやAI災害シミュレーションを用いた無数の災害種別・規模・発生時間等を想定した検証が役立つ。

例えば、ある地域において「道路が寸断されて孤立する集落において、事前に対策を取るとすれば何が最適か」などを多数のシミュレーションを実施することで地域における効果的な対策検討が可能である。

e. 平時運用を前提とした推進体制の整備

  • i. 官民連携による推進体制・環境の整備

    災害時に真に機能する仕組みとするため、関係府省庁、地方公共団体、指定公共機関、民間事業者等が参画する推進体制を整備し、平時からの運用、訓練、人材育成、継続的改善を進めること。あわせて、日常的な利活用を通じて現場で使いながら磨き上げ、災害時に確実に機能する実効的な基盤として育てていくこと。さらに、導入期においては、国が接続費用への補助、共通機能整備への支援、調達・補助事業における評価、民間企業に対する税制上の優遇措置等、必要なインセンティブを設けること。加えて、社会的必要性の高い優先データについては、関係者の負担や機微性に配慮しつつ、提供ルールの明確化や必要な制度的措置を検討すること。

  • ii. 地方公共団体業務のモデル化と変革の支援

    防災DXの上記各種施策の実装やフェーズフリー化を実現するためには、平時及び被災時における地方公共団体等の業務プロセスを施策に合わせて変革する必要がある。

    しかし、各地方公共団体等がその特性に応じて参考にできる業務モデルが整備されておらず、このままでは実装が進みにくい。

    また、公助の限界を迎えているいま、デジタル技術等の導入・運用には「民助」(民間の技術力やノウハウ)の導入と「餅は餅屋」の徹底が不可欠であり、地方公共団体の業務のうち民間に任せられる部分を積極的かつ可能な限り包括的に任せていくこと、そのための制度的、財政的な措置が必要である。

    さらに、被災自治体の職員が対応困難な状況に陥る事態を想定し、事前に指定した外部支援主体(他自治体・民間事業者等)が、発災時に被災自治体のデータスペースへの代理アクセス権を取得できる緊急委任アクセス設計を標準化するべきである。

    国は、防災DX施策推進と並行して、また、民間とも連携して、地方公共団体等の望ましいフェーズフリー型・官民連携型業務のあり方を検討・モデル化し、ガイドライン策定なども含め、その導入を支援、促進すべきである。

f. 産官学民連携から産官学民共創を実現する「つながる仕組み」

「防災庁設置準備アドバイザー会議報告書」や「防災立国の推進に向けた基本方針」では、産官学民連携体制の構築を掲げているが、「手を携える」連携だけでなく、「共に創る」共創を打ち出す。

そのためには、従来の情報共有基盤の範囲を超えたシステム連接が必要である。

産官学それぞれの中で情報共有する「つながる仕組み」を構築する。具体的には、デジタル庁が主として整備する「防災分野のデータ連携基盤」、内閣府防災担当がすでに運用している「新総合防災情報システム(SOBO-WEB)」、SOBO-WEBに技術導入した「基盤的防災情報流通ネットワーク(SIP4D)」があり、これらを相互に連接するとともに、必要に応じた拡張を進める。その上で、これらを柱として社会全体=民を牽引する位置付けとする。

4. 徹底した無人化・自動化・省人化

a. 徹底した無人化・自動化・省人化による災害対応時の死傷者ゼロ

防災DX 推進の目的は、災害による死者数・被害者数を最小化することにある。災害現場は、倒壊や崩壊をはじめとする様々なリスクがあり、救助や捜索といった活動には危険が付きまとうが、徹底した無人化・自動化・省人化によって、災害対応時の死傷者数ゼロを実現することが重要である。

b. AIロボティクス戦略に基づく災害対応におけるAIロボティクスの社会実装

令和8年3月26日に策定された「AIロボティクス戦略~社会実装を加速し、巨大市場を切り拓く~」は、AIロボティクスを戦略領域として位置付け、先行的に社会実装し、新たな中核産業として育成することを目指すものである。その策定にあたっては、16分野について、AIロボティクス実装ロードマップが示され、その一分野として「災害対応」が取り上げられている。そこで示された、市場課題や技術課題、制度課題等を踏まえ、また官需を最大限活用し、災害対応分野におけるAIロボティクスの社会実装を迅速かつ確実に進めていく必要がある。

c. 災害対応におけるドローン等の徹底活用

広範囲において甚大な人的・物的・経済的被害が想定される南海トラフ地震においては、同時多発的な被害の発生後に、限られた対応リソースの中で、災害対応を迫られることとなる。支援を要する自治体が多数にわたり、それらの自治体において災害対応にあたる職員もまた被災者であり、人的リソースが極めて限られる中で、被災状況等の情報を集めるには、ドローンや人工衛星、車載カメラ等を徹底活用し、多様な視覚データ等を迅速に収集・集約することが必要である。また、そのようにして収集・集約された視覚データ等をもとに被害状況と対応策を提示できる生成AI(防災VLM:Vision Language Model)も用いて、災害対応の迅速化・効率化・高度化を図ることが重要である。国は、被災状況の迅速な収集を可能とするため、ドローンポートの整備等の支援を行うとともに、事件・事故時の初動対応、イベント会場のセキュリティ、クマ被害対策、パトロール・見守り等、災害対策以外のドローンポートのユースケースの開拓についても促進する。

d. 「アナログ→デジタル変換」から「デジタル前提」への変革

従来のアナログ業務にデジタルを上乗せするのではなく、最初からデジタルで回る形に業務を再設計する。その上で、デジタルで対応できない事態が生じることを前提に、次の一手としてアナログを残す。網羅性に強いデジタルでできることをやり尽くし、それでも届かないところを絞り込む。そこに少数精鋭の人の力を投入する。わかったことを順次積み上げる従来の「たし算」方式から、先に全体を俯瞰し対応を削り出していく「ひき算」方式に変える。なお、デジタル前提への変革を進め防災DXを徹底するためには、電源及び通信の確保が不可欠であり、電源の喪失や通信の途絶が起きないよう、非常用電源の整備等といった電力インフラの強靭化、衛星通信やHAPSの活用等といった通信インフラの複層化を進める必要がある。

5. 防災DX活用に向けた法制度整備と学習・教育・研修の実施

a. 災害関連法等、 法令上の防災 DXの位置付けの確立

  • i. 災害関連法や個人情報保護法等、法令上の防災DXの位置付けを確立し、 「デジタル技術の活用」 が阻害されることのないよう 、災害時に必要なシステム、データ基盤、分析体制、官民連携プロジェクトを立ち上げられる制度整備を進めるべきである。防災DXは国民の生命と生活を守るための基盤であり、国は平時からの備えを制度と予算の両面で支える必要がある。
  • ii. デジタルをはじめとする災害現場に対する遠隔からの支援を明確に位置 付け るべきである。 救助の方法として デジタルを活用 した 、 遠隔からの システム面での支援に加え、オンライン診療、 遠隔 法律相談、 遠隔 カウンセリング 、遠隔オペレーション支援 等 を入れることにより 、多くの支援を対象とすることができ、現場のリソースを緊急性の高いものや、復興に振り向けることが可能になる。 災害救助事務取扱要領にこれらのデジタル活用支援を明記し、その予算根拠を明らかにすること。

b. 民間データの活用に向けた制度整備

  • i. 防災データスペースでは、民間データを各主体が保有した上で連携できるようなシステムを整備するが、民間がデータを出すためのインセンティブ設計が重要である。
  • ii. 一方で 、 インセンティブが設計されたとしても、防災データスペースに接続する方法が標準化、整備されていなければ事前の準備・訓練等ができず、災害時にいきなり使おうとしても利用できない。そのため、医療、介護等の人の生命に関わる情報や、災害時に多く利用されると考えられる物流関係の情報を管理するシステムベンダーには、標準APIを整備することを義務 付け るべきである。

c. 学習・教育・研修の実施

防災DXの活用は、いきなり「災害時の臨時対応」として実践できるものではなく、基盤環境・データ・法制度の整備と並んで、人に対する学習・教育・研修の実施という平時からの準備があってこそ可能となる。関係府省庁、地方公共団体(首長を含む)、指定公共機関、民間事業者等への学習や教育の機会を通じて、必要な基盤環境・データ・法制度の整備等への知見を集約し、継続的な改善を図っていく必要がある。

関係府省庁、地方公共団体、指定公共機関、民間事業者等の人に対する学習・教育機会だけでなく、防災DXの活用に向けて実践的な研修機会の創出も必要である。現状では、災害対応が開始してはじめて実務経験を積む人が多くを占める中で、防災庁設置の議論では専門人材の育成に防災大学校(仮称)の構想も提案されており、その中で防災DXの活用に向けた研修や災害対応等の疑似体験を通じて人材育成を図っていくことも重要である。

6. 防災投資の促進とインセンティブ設計

a. 平時における計画的な予算措置と、民間技術を活用した恒常的な実証

防災DXを「災害時の臨時対応」ではなく、「平時から継続的に実装・改善する仕組み」として位置付け、安定的な予算措置を講じることを求めます。あわせて、民間が保有する気象・交通・通信等のデータや技術・アセットやサービスを防災分野で活用し、行政システムとの連携、防災ツールの開発・実証、AIを活用したシミュレーションなど民間を活用した恒常的な実証を平時から進めることで、災害時に即応できる体制を整えるべきである。

b. 基金の創設

防災DXを推進するにあたっては、防災に関するデジタル公共財の維持・更新を持続的に支えるための基金を創設すべきである。NPO等のボランティア活動や企業の無償提供に依存する現状から脱却し、産業として自立した防災DXエコシステムへの転換を図る必要がある。

c. 事前防災投資促進に向けた制度設計

  • i. 税制優遇、補助制度等のインセンティブ設計

    わが国における防災投資は、これまで主に公共投資を中心に進められてきたが、災害の激甚化・頻発化、インフラの老朽化、人口減少等を背景に、今後は持続的かつ大規模な防災投資が不可欠となる。このため、防災投資を「コスト」ではなく「価値創出投資」として位置付け、官民双方が主体的に取り組む枠組みへと転換する必要がある。

    防災投資は、単なる被害軽減にとどまらず、サプライチェーンの寸断防止や事業継続性の確保を通じて、経済安全保障の確保にも資するものである。そのため、自然災害の広域化や近年の地政学リスクの高まりを踏まえれば、防災・レジリエンス強化は、国家の競争力そのものを支える基盤であり、防衛・安全保障と一体のものとして戦略的に推進すべき重要政策である。

    また、企業にとっても、防災投資は、単なるリスク回避手段ではなく、企業価値の向上に直結するものである。具体的には、災害時の事業停止リスクの低減、サプライチェーンの信頼性向上、ESG評価の向上、資本市場からの評価改善等につながり、中長期的な成長基盤の強化に寄与する。したがって、防災投資を企業経営の中核に位置付け、その取組を可視化・評価する仕組みの整備が求められる。例えばゼブラ企業の中で防災の社会課題解決を重視している企業を評価する仕組みが考えられる。

    このような観点から、持続的な防災投資を促進するためには、税制優遇や補助制度に加え、ファイナンスを活用したインセンティブ設計を組み合わせることが不可欠である。例えば、レジリエンス向上に資する設備投資に対する融資条件の優遇や防災対策の実施状況に応じた保険料割引等を通じて、防災投資の経済合理性を高める仕組みを構築することが考えられる。

  • ii. 防災対策実施状況を評価する認証制度の整備

    防災対策の実施状況を客観的に評価・可視化する枠組みとして、既存の先行的な取組を踏まえた制度設計が重要である。例えば、日本政策投資銀行によるBCP格付け融資は、企業の事業継続力を評価し金融条件に反映する先駆的な試みであり、またISO22301等の国際規格やリスクファイナンスの考え方を取り入れた枠組みも存在する。

    一方で、これらは個別・部分的な取組にとどまっており、防災投資全体を横断的に評価し、保険・金融・公共政策と一体的に連動させる仕組みとしては未だ十分とは言えない。

    今後は、これらの既存の枠組みも踏まえつつ、防災DXなどの観点も取り込んだ防災対策の実施状況を客観的に評価・可視化する認証制度を、官民が連携して検討・構築することが重要である。

    この認証制度においては、企業などの防災対策の成熟度を段階的に評価し、その結果を融資条件、公共調達等に連動させることで、防災投資のインセンティブを制度的に担保することが可能となる。

    加えて、当該認証制度と連動したリスクファイナンスの仕組みを構築することが重要である。例えば、防災対策の高度化に応じて保険引受条件を柔軟に設計するほか、キャットボンドやレジリエンスボンド等の資本市場を活用したリスク移転手法を組み合わせることで、民間資金の呼び込みを促進することができる。これにより、防災投資を一過性の施策ではなく、持続可能な市場メカニズムとして定着させることが期待される。

    特に、防災DXの実装を進めるにあたっては、データ整備やシステム構築といったソフト面の取組に加え、それを支えるインフラ強化や設備更新等のハード投資が不可欠である。例えば、電力・通信の冗長化、データセンターの分散配置、インフラの耐災害性向上等への投資が伴わなければ、デジタル技術の効果は十分に発揮されない。このため、制度設計においては、防災DXとハードインフラ投資を一体的に評価・促進する視点を持つことが重要である。

    最終的には、防災投資を通じて企業・地域・国家のレジリエンスを高めることが、わが国の経済成長の基盤強化につながるものであり、防災DXとリスクファイナンスを一体化した政策として推進していく必要がある。

d. 危機管理投資から成長投資への拡張を目指した世界最先端創出

災害大国である日本だからこそ、その複雑な自然・文化・社会条件の中で生まれ、数多くの災害で鍛えられた技術とノウハウは、世界のどこでも強靭に機能し得る。「災害に強い日本発の仕組みだからレジリエントだ」という認識に立ち、世界最先端の仕組みを防災に導入するのではなく、むしろ防災から世界最先端の仕組みを創出する活動に対して大きく投資する。

また、災害に対峙する現場起点の仕組みを、その場限りで終わらせず、共通化・標準化を進め、全国、そして国際展開する道筋をつくる。

これにより、社会全体を防災で牽引する文化を醸成するなど、「マイナスをゼロにする」危機管理投資だけでなく、「ゼロからプラスにする」成長投資分野に防災を入れるべきである

7. 国際展開

a. 日本版防災ソリューションの海外展開支援

防災DXの国際展開にあたっては、我が国が有する通信、AI、宇宙、インフラ分野の技術を統合し、「データを起点とした防災ソリューション」としてパッケージ化することが重要である。

特に、ASEANをはじめとする新興国・途上国においては、災害リスクが高い一方で、ハザード情報や資産情報、被害履歴等のリスクデータが十分に整備されていない、あるいは政府に閉じられており民間による利活用が困難であるといった課題が存在する。そのため、日本版防災ソリューションの海外展開にあたっては、リスクデータの整備・流通基盤の構築そのものが出発点であり、我が国企業が主体的に関与すべき重要領域である。

従来の海外防災は、堤防や排水施設等のインフラ整備を中心としたハードソリューションが主流であったが、今後はこれに加えて、人工衛星データやセンサーデータ、地理空間情報等を活用したリスクの可視化、被害予測、意思決定支援等の「防災DXソリューション」が成長領域となる。具体的には、洪水・土砂災害等に対する早期警戒システム(EWS: Early Warning System)の構築、デジタルツインやAIを活用した災害シミュレーションによる被害想定・避難計画策定支援、発災時の迅速な被害把握および対応優先度の提示等が挙げられる。これらは、初期投資が比較的小さく、広域かつ継続的に提供可能であることから、スケーラビリティが高く、持続的なビジネスモデルとして展開可能である。

また、こうした防災DXソリューションの社会実装にあたっては、現地政府の関与が不可欠である。特に、リスクデータの整備・公開、警戒情報の発信、避難計画との連動等は公共的役割が大きく、政府機関との連携なくして実効性を持たせることは困難である。

このため、我が国政府としても、国際機関との連携やトップセールス等を通じて日本版防災ソリューションの海外展開を支援するとともに、関係府省庁が連携した推進体制を構築し、現地政府と民間企業が一体となった導入・運用モデルの形成を促進することが重要である。あわせて、データの利活用ルールや制度整備についても現地政府と協働し、持続的な市場形成を図る必要がある。

さらに、リスクデータの整備および防災DXソリューションの導入は、保険の普及やリスクファイナンスの高度化とも連携し得るものであり、プロテクションギャップ(災害損失に対する保険・金融によるカバーの不足)の解消にも資する。ただし、各国の制度環境や市場成熟度に応じて、リスクファイナンスの導入は柔軟に検討すべきであり、防災DXソリューションと一体的に提供する場合と、段階的に導入する場合の双方を想定することが望ましい。

最終的には、防災DXを核としたリスクデータ整備・分析・防災サービスの提供を通じて、被災リスクの低減と経済成長の両立を実現するとともに、我が国の防災関連産業の国際競争力強化につなげることが期待される。その中核となる技術として、地理空間データ、人工衛星・センサーデータ、災害対応ノウハウ等を統合的に扱い、被害判定や対応計画の自動生成を可能とする技術は、「地理空間データ・AI・防災サービスを組み合わせた新産業」の創出に資する我が国独自の強みとなりうる。

今後の海外展開においても、防災データスペースを中核とした高度な防災DXソリューションが競争優位の源泉となることが期待される。

以上