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政策国会国会演説

第204回国会における西村内閣府特命担当大臣(経済財政政策)の経済演説

第204回国会における西村内閣府特命担当大臣(経済財政政策)の経済演説

一.はじめに

経済財政政策担当大臣として、 我が国経済の現状と課題、 政策運営の基本的考え方について、 所信を申し述べます。

二.経済の現状と経済財政運営

(我が国経済の現状)

二〇二〇年の日本経済は、 新型コロナウイルス感染症の影響により、 大変厳しい状況となりました。 四、五月には、緊急事態宣言の下、経済を広く人為的に止めたことで戦後最大の落ち込みを経験しました。その後は、各種政策の効果や海外経済の改善もあり、持ち直しの動きが続いていますが、経済は依然としてコロナ前の水準を下回っており、回復は道半ばです。
特に、 最近の感染拡大による経済の下振れリスクに十分な注意が必要です。 政府は今月、十一都府県を対象とする緊急事態宣言を発出したところですが、今回の緊急事態宣言においては、これまでの経験・知見や専門家の分析を踏まえ、感染リスクの高い場面に効果的な対策を徹底します。あわせて、昨年春の経験も踏まえ、いわゆるエッセンシャルワーカーの方々には配慮しつつ、テレワークにより出勤者数の七割削減、不要不急の外出自粛など、国民の皆様に御協力をお願いして、何としても感染拡大を抑えることを最優先に対応してまいります。この難局を国民一体となって乗り越えるため、これらの措置によって厳しい影響を受ける方々には、協力金の拡充など予備費の活用も含めた支援策を講じてまいります。また、対策の実効性を高めるため、新型インフルエンザ等対策特別措置法など関連法改正について、幅広い関係者の意見を聴きながら早期に国会に提出します。引き続き、国民の皆様の御理解、共感をいただけるよう適切な情報発信をしながら、感染対策に全力で取り組みます。

(経済財政運営の方針と来年度の経済見通し)

政府は昨年十二月、決してデフレには戻さないとの強い決意で、財政支出四十・〇兆円程度、事業規模七十三・六兆円程度の「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」を閣議決定しました。
医療提供体制の更なる強化やワクチン接種体制の整備など、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に全力を挙げるとともに、感染症の厳しい影響に対し、雇用と生活をしっかりと守ること、同時に、成長分野への民間投資を呼び込みながら、民需主導の成長軌道の実現につなげること、という二つの視点の下、予算・規制・税制といったあらゆる政策手段を総動員し、防災・減災、国土強靱化の推進も盛り込んだ総合的な対策としています。本対策の裏付けとなる令和二年度第三次補正予算を令和三年度当初予算と一体的に、十五ヵ月予算として切れ目ない経済財政運営を行ってまいります。これらにより、緊急事態宣言による厳 しい状況を乗り越え、来年度の経済成長率は実質四・〇%程度、名目四・四%程度、GDPは来年度中にはコロナ前の水準を回復することを見込んでおります。その実現に向けて、デフレ脱却・経済再生に全力で取り組んでまいります。また、「経済再生なくして財政健全化なし」との基本方針の下、民需主導の成長軌道に戻すことに万全を期すとともに、 「新経済・財政再生計画改革工程表」の着実な実行やデータに基づく政策立案により政策効果の高い歳出への転換を徹底し、財政健全化につなげてまいります。

三.ポストコロナの経済社会に向けて

今回のコロナ危機は大変厳しい試練ではありますが、その一方で、これまで困難と思われてきた課題への対応も、「やればできる」ということがわかりました。就業者の三割以上、東京二十三区では六割近くがテレワークを経験し、地方移住への関心も高まっています。内閣府の意識調査では、今では東京圏在住の三割が地方移住に関心を持ち、 二十代の若者に限定すれば、 その割合は四割に上るとの結果となっています。これは長年の課題であった東京一極集中是正に向けたチャンスでもあり、二地域居住やスマートシティの実現、 ワーケーションを始めとする新たな働き方など、 未来に向けた芽が出始めています。 こうした動きを後戻りさせず、「新たな日常」を定着させ、更に拡大してまいります。このことが、感染防止と経済の生産性向上を両立させつつ、ウィズコロナ、ポストコロナ時代の新しい成長につながると考えます。
そのためには、まず、デジタル化の推進です。デジタル・ガバメントの確立に向けた取組を抜本的に加速し、あわせて、5Gのその後も見据えた通信網の高度化、交通、物流分野等におけるデジタル化など、「デジタル・ニューディール」を強力に推進し、デジタル化を通じた民間企業の経営革新を促してまいります。 グリーン社会の実現に向けた取組もカギとなります。二〇五〇年カーボンニュートラルの実現に向け、成長が期待される十四の産業において、高い目標を設定し、あらゆる政策を総動員する戦略として、昨年末に「グリーン成長戦略」が策定されました。更なる深掘りを進め、今年の成長戦略に反映し、民間の大胆な投資やイノベーションに向けた取組を「グリーン・ニューディール」で全力で後押ししてまいります。
また、日本企業の組織の硬直性を打破することが急務です。定期的にシリコンバレーを訪問してきていますが、あるベンチャー企業からは「日本企業はたくさん視察に来るが、いつも五十歳前後の男性ばかり。スーツ姿にネクタイだけ外して、 毎回同じような質問ばかりして帰っていく。 そして、 その後何の連絡もない」 、 「なぜ、日本企業には外国人、女性、若者がいないのか」。このように日本企業の多様性の低さについて、目が覚めるような指摘を受けました。今こそ、多様な人材の登用を促し、多様な発想で未来を切り拓くときです。コーポレートガバナンス改革を推し進め、外国人や若者、女性の活躍の機会を増やすことにより、企業の経営革新につなげ、GAFAのような世界を牽引する企業が日本からも創出されるような事業環境を作ってまいります。大企業からベンチャー企業まで、産・学・官オープン・イノベーションの推進に取り組みます。また、中堅・中小企業に対しては、新たな分野への展開、業態転換等を支援するための最大一億円の事業再構築補助金を創設し、前向きな取組を後押ししてまいります。
そして、何より重要なのは「人」への投資であります。一人ひとりの人材・能力を引き出し、新たな時代に適応したイノベーションを生む人材の育成に取り組みます。子供たちには、少人数学級とICT活用を両輪とした個別最適な学びの実現、 社会人には、 キャリアアップ支援やリカレント教育の強化、テレワークや副業・兼業、フリーランス等の多様な働き方の環境整備を進め、多様な人材の能力・発想が存分に発揮されるよう、「人」への投資、正に「ヒューマン・ニューディール」を進めてまいります。
成長戦略会議で取りまとめた「実行計画」において、ポストコロナ時代を見据えた主要改革の基本的方向性を具体化しました。今国会において、産業競争力強化法の改正など所要の法案を提出するとともに、最終取りまとめに向けて、成長戦略の検討を更に進めてまいります。

(経済連携の推進)

イノベーションの創出や地方創生のためには、海外から高度な人材・技術・豊富な資金を呼び込むことが重要です。対日直接投資の一層の促進に向け、法人設立手続きのオンライン化・英語化に加え、高度人材の受入れや新しい時代に向けたデジタル投資や企業再編などを促進すべく、税制改革を含めた事業環境の整備を進めてまいります。 本年春までに、 次期達成目標設定を含めた中長期戦略を取りまとめてまいります。
また、世界で自国第一主義が広がる中、TPP11協定等を通じた自由貿易の重要性が改めて認識されています。本年のTPP委員会の議長国として、特に、デジタルの実装、サプライチェーンの強靱化といった分野での議論を更に深め、協力を推進していきます。 その一環として、 デジタル経済に関してウェブ上の国際的なセミナーを開催したいと思います。
このハイスタンダードでバランスの取れた二十一世紀型のルールを世界に広めていくため、引き続き署名国による協定の早期締結を促すとともに、TPP11協定の着実な実施・拡大に取り組んでまいります。その際、加入に関心を示しているエコノミーが、協定の高いレベルを満たす用意ができているかどうかについては、しっかりと見極めてまいります。

四.国民生活の安心の確保に向けて

医療や介護の現場の方々、生活に困っておられる方への支援に携わる方々など、年末年始も休まず最前 線に立ち続けている皆様に心より感謝申し上げます。 今回のコロナ危機はそれぞれの社会の脆弱なところを浮き彫りにしており、我が国においても非正規雇用の方々や女性など弱い立場にある方々が大変厳しい状況に直面しています。生活困窮者やひとり親世帯への支援、 再就職支援やトライアル雇用に対する賃金助成などを通じ、 セーフティネットを強化し、 誰一人として取り残されない包摂的な社会の構築に取り組んでまいります。
また、暮らしと雇用を守りつつ、一人ひとりの能力を最大限に引き出しながら働きがいを持って仕事に取り組めるよう、働きながら更なる能力向上に取り組める環境整備、新たな分野への円滑な労働移動の支援など、パッケージとして総合的に取り組みます。就職氷河期世代の方々についても、お一人お一人に寄り添いながら、それぞれの事情に応じたきめ細かな支援を行ってまいります。
成長と分配の好循環を実現するためには、 雇用の確保とともに、 最低賃金を含めた賃上げの流れを継続していくことが大切です。 厳しい状況にある企業も多くあることは承知しておりますが、 政府として、 中小企業を始めとする生産性向上に向けた支援、雇用増や賃上げなど所得拡大を促す税制措置を講ずるなど、賃上げのモメンタムを維持できる環境整備に全力で取り組んでまいります。

(全世代型社会保障)

少子高齢化が急速に進む中、少しでも多くの方に「支えられる側」から「支える側」として活躍していた だけるよう、現役世代の負担上昇を抑えながら、 全ての世代の方々が安心できる社会保障制度を構築し、 次の世代に引き継いでいくことが、 我々の世代の責任です。 昨年末閣議決定された 「全世代型社会保障改革の方針」 に沿って、 少子化対策の抜本的強化と高齢者医療について負担の仕組みの見直しに取り組むことで、改革を更に前へ進めていきます。本通常国会では、方針において示された後期高齢者の自己負担割合のあり方等、必要な法案の提出を図るとされた項目について、法案を提出し速やかに御審議いただけるよう万全を期してまいります。

五.むすび

新型コロナウイルス感染症は、我が国経済が抱えてきた長年の課題を改めて浮き彫りにしました。感染拡大を全力で抑えながら、今こそ、こうした課題に正面から取り組むときです。デジタル、グリーン、ヒューマン、 この三つの 「ニューディール」 に全力で取り組み、 民間の創意工夫、投資意欲を引き出すとともに、多様な人材の能力・発想が花開く社会にしていきたい。 コロナ禍の中、 今は大変厳しい状況にありますが、その中だからこそ、未来への扉を開いていこうではありませんか。三つのニューディールこそが未来の扉を開きます。 そして、 一人ひとりが扉の向こうに向けて新たな一歩を踏み出す、 その勇気を全力で応援していきたいと思います。
本年二〇二一年が、我が国経済・社会の大きな変革のラストチャンス、との気概を持って、日本が新たな、そして大きな一歩を踏み出す一年となるよう全力を尽くしてまいります。
国民の皆様、議員各位の御理解と御協力をよろしくお願いいたします。