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政策国会国会演説

第198回国会における河野外務大臣の外交演説

河野外務大臣

第198回国会に当たり、所信を申し述べます。今回が私の二度目の外交演説となりますが、昨年の外交演説の中で申し上げた六本の柱を引き続き、外交政策の中心に据えてまいります。

第一に、日本の平和と安全を確保していく上で、日米関係を一層強化し、日米同盟の抑止力と対処力を一層向上させます。同時に、普天間飛行場の一日も早い辺野古移設を含め、地元の負担軽減に全力で取り組むとともに、沖縄の一層の成長につながる国際化支援を進めます。さらに、米国の協力を得て英語教育を推進します。

加えて、自由、民主主義、基本的人権、法の支配、国際法の尊重など共通の価値観を持つ国々との連携を強めていきます。インド、豪州、EUや欧州主要国等の戦略的利益を共有する各国との枠組みや、ASEANを含めたアジア太平洋の地域協力等、同盟国・友好国のネットワーク化を推進します。

第二に、我が国周辺の安全保障環境を踏まえつつ、近隣諸国等との関係の強化を進めます。ロシアとは、「1956年共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる」との首脳間の合意を踏まえ、領土問題を解決して平和条約を締結するとの基本方針の下、交渉責任者として粘り強く交渉に取り組みます。

大局的観点からの中国との安定的な関係構築は極めて重要です。首脳間を含めたハイレベルの往来を通じ、経済関係のみならず、国民レベルの交流を深め、信頼関係の強化を図ります。他方、東シナ海における一方的な現状変更の試みは、断じて認められません。引き続き、冷静に、かつ、毅然と対応してまいります。

国際社会は核武装した北朝鮮を決して受け入れません。核・ミサイル問題を解決し、正しい道を歩めば明るい未来を描くことができるということを、北朝鮮の現体制に示し、北朝鮮による全ての大量破壊兵器及び弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄まで国際社会の団結を維持するとともに、拉致問題の早期解決に向けた努力を続けます。

韓国に対しては、日韓請求権・経済協力協定、慰安婦問題に関する日韓合意など、国際的な約束事をしっかりと守ることを強く求めていきます。また、日本固有の領土である竹島については、日本の主張をしっかりと伝え、粘り強く対応します。

第三に、WTOを中心とする、ルールに基づく多角的貿易体制をしっかりと守り、改革する努力の旗振り役を務めます。また、官民連携の推進による日本企業の海外展開支援、再生可能エネルギーの利活用を含めた資源外交、インバウンド観光の促進、日本産商品への風評被害対策、海外で日本企業が直面する知的財産侵害対策、鯨類を含む生物資源の持続可能な利活用等の取組等、積極的な経済外交を進めていきます。本年、日本で開催されるG20の議長国として、世界経済の成長を牽引するためにリーダーシップを発揮していきます。

第四に、地球規模課題の解決への一層積極的な貢献をしていきます。

国連の安保理は、もはや21世紀の現実を反映していません。安保理を改革していくことは日本だけでなく、国際社会の喫緊の課題です。まず、改革のための正式な交渉を始めることを目標にします。

唯一の戦争被爆国である日本にとって、核軍縮・不拡散は重要な問題です。核兵器のない世界の実現に向け、核兵器不拡散条約の維持・強化や「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」の開催等を通じ、核兵器国と非核兵器国といった立場の異なる国々の橋渡しに努め、核軍縮・不拡散の現実的かつ実践的な取組を主導します。

地球規模課題への対応が急務となる中、SDGsの達成に向けて、日本が主導してきた「人間の安全保障」の考え方に基づき、「誰一人取り残さない」社会を実現するための取組を進めていきます。

気候変動問題は最も重要な課題の一つです。気候変動は、北極にまで影響を及ぼしており、環境変化のメカニズムの解明、その影響を理解することが重要です。また、我が国の知見や技術を活かし、パリ協定の着実な実施を始め、気候変動の影響にしっかり立ち向かいます。

このほか、海洋プラスチックごみ対策やユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進にも取り組みます。G20大阪サミットを見据え、これら諸課題に対しリーダーシップを発揮します。

イラク、シリアにおけるイスラム国の支配地域が大幅に縮小したものの、外国人テロ戦闘員が出身国や第三国へ帰還・移転したことにより、テロ及び暴力的過激主義の脅威もアジアも含めて世界中に拡散しています。関係各国とテロ対策に関する協力を強化し、穏健化の促進等に取り組みます。また、在外邦人の安全確保に万全を期してまいります。 

第五に、引き続き対中東政策を強化していきます。中東の平和と安定は、日本を含む世界の平和や経済の繁栄に直接関わってきます。それゆえに、中東地域における政治的な関与の強化が必要です。日本は、宗教・宗派や民族的な観点から中立であり、中東地域になんら負の歴史的足跡を残したことはありません。また、中東に影響力のある米国と強固な同盟関係にあります。このような強みを持つ日本だからこそ果たせる役割があります。ようやく日本も中東におけるプレイヤーの一つと認識されるようになりました。引き続き、日本の中東への関わり方を示す「河野四箇条」、すなわち、「知的・人的貢献」、「人への投資」、「息の長い取組」、「政治的取組の強化」の「四箇条」の下、中東の平和と安定に向け一層の役割を果たしていきます。

第六に、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、努力を続けます。法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序とシーレーンの安全は、国際社会の安定と繁栄の礎です。そのために、航行の自由や法の支配の普及・定着、国際スタンダードにのっとった質の高いインフラ整備による連結性の向上、海洋安全保障分野の能力構築支援の三つをASEAN諸国、米国、豪州、インド、NZ等の関係国と緊密に連携しながら、具体的に進めます。

今回は、これらに加えて、いくつかのことを申し上げたいと思います。

日本は、軍事力を背景とした外交を行うことはありません。一方、我が国外交の大きな柱であるODAはピークからほぼ半減しています。知恵と工夫による我が国の「裸の外交力」が試される時代になりました。裸の外交力を高めるためにも、外交活動を支える足腰を強固にする必要があります。そのためには、外務省に良い人材を集め、更にその人材に磨きをかけなければなりません。外務省では、全職員の約3割、来年度入省する職員の約半数が女性であります。また、全職員の約6割、約3,500名が在外公館で勤務しています。共働きの職員、介護を抱える職員など様々な事情を抱える職員がそれぞれの持ち場で活躍しています。しかしながら、現在、外務省の業務は飛躍的に増大しているため、一部の外務省職員の残業時間は、これまで累次の機会に述べているとおり大変深刻な状況にあります。このような状況が続けば、外務省に優秀な人材が集められないという状況にも陥ります。それぞれの職員が、普通に家族と時間を過ごし、育児休業などの休業や休暇制度を活用し、子育てや介護など家庭と仕事を持続的に両立できる体制の整備により一層取り組む必要があります。立法府にも是非、このような状況を御理解いただきたいと思います。さらに、多様な人材が活躍できる組織とする上で、障害者の雇用にも全力で取り組み、障害者が活躍できる環境を整えていく所存です。

もちろん外交の責任者としての外務大臣の責任も重大です。国連安保理の非常任理事国選挙を始め、国際司法裁判所の裁判官の選挙、北朝鮮に関する安保理決議の完全履行、あるいは国連改革など、国際場裏で日本への支持を獲得するためにはトップセールスが欠かせません。また、多くの国際会議は益々各国の利害が激しくぶつかり合う場になっており、日本の立場を反映させるためには、事前の連携、事後の調整が欠かせません。外務大臣就任以来、日本の外務大臣として初となる国々9か国を含め63の国と地域、のべにして94の国・地域を訪問しましたが、No country shall be left behind、「どの国も取り残さない」という精神で身を粉にして職務に努めてまいります。そのためには外務大臣の海外出張を効率化すると同時にロジを簡素化する必要があります。

今、日本外交の大きな武器になりつつあるのが、2013年にユネスコでも無形文化遺産に登録された和食です。現実に、多くの国で、大統領や首相が、積極的に大使公邸に足を運んでくださっています。そのためには腕の良い公邸料理人を確保し続けることが大切です。

日本外交の最大の課題は、自由、民主主義、基本的人権、法の支配、国際法の尊重といった基本的価値に基づいた国際秩序を様々な方面からの挑戦から守り続けることにあります。

ある国で経済が発展すれば、その国民は次に民主主義を求めるようになると私は信じています。しかし、最近の国際的な経済の発展に比べ、民主化の遅れが見受けられます。基本的価値に基づく国際秩序に対抗する秩序を創り上げようとする動きとは断固、戦わなくてはなりません。

他方、民主化を目指すならば、その道筋は一つではありません。その国なりの民主化の道筋、速度があるはずです。押し付けではなく、その国に寄り添った民主化支援を目指します。G7などの場で、基本的価値に基づいた国際秩序の中でそれぞれの速度で民主化を目指すアジアの声をしっかりと代弁していきます。

サイバー空間においても、近年、一部の国が管理・統制する潮流が出てきています。過度な管理・統制に対し、我が国は民間や学術界、市民社会から幅広い参加を促す国際的なマルチステークホルダーの取組に基づき、「自由、公正かつ安全なサイバー空間」を堅持していきます。また、人工知能、IoT、第五世代移動通信システム等の技術の発展は新しいサービスを生み出し、社会的価値を創出する一方、サイバー攻撃に対する社会の脆弱性を増しています。こうした脅威に一国のみで対応することは容易ではなく、国際社会全体との連携が不可欠です。こうした認識の下、日本は「法の支配の推進」、「信頼醸成措置の推進」、「能力構築支援」を三本柱としてサイバー外交を推し進め、「自由、公正かつ安全なサイバー空間」を実現していきます。

自律型致死兵器システム、LAWSと呼ばれる、人工知能を搭載し、人間の関与なしに人を殺傷する兵器に関しても、国際的な議論が始まっています。かつて火薬や核兵器が戦争の在り方を変えたように、人工知能も戦争の在り方を根本から変える可能性があります。映画「ターミネーター」のように人工知能が人間の関与なしに自ら判断し人間を殺りくするリスクもあれば、人工知能の活用により低コストで兵隊を置き換えられる可能性もあります。すでに多くの国では開発競争が始まっており、我が国は有意な人間の関与が必須であるとの立場から、日本の安全保障の観点も考慮しつつ、国際的なルール作りに積極的に関わっていきます。

ODAに関しては、背伸びをせず、身の丈にあった、人間の安全保障を中心とする日本らしいODAを目指します。

ODAに対する理解を国民の間で深めていくためにも、ODAの効果を明確に示していく必要があります。保健や教育、女性または農業などの支援に関しては、国際的にも効果を数字で示せるようになりつつあります。税金を使う以上、ODAも結果にコミットすることが必要です。

今年は、横浜で第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が開催されます。アフリカでは、選挙、議会、法律、司法、治安、徴税、入国管理など国家の制度に対する国民の信頼が低く、国家の公式な統治機構よりも民族や文化や宗教的な結びつきが重視されてしまう国がまだあります。それが温床となって、内戦や宗教的対立、テロが頻発し、開発が遅れます。アフリカにおける平和構築、特に国家の制度構築の取組に対し、積極的に手を差し伸べていきます。その一方、成長著しいアフリカは21世紀最後のフロンティアとも言われ、大きな潜在力を持っています。TICAD7へ向けて、官民の連携を通じた日・アフリカ間の貿易投資、アフリカの経済成長のための人材育成、質の高いインフラ整備の一層の促進を図る考えです。

今や世界的に難民、避難民の数は約7,000万人に達し、第2次世界大戦後最多となっています。気候変動の影響で台風や集中豪雨などの自然災害は激甚化することが予想されています。2030年までにSDGsを達成するためには、毎年2兆5000億ドルの資金ギャップを克服しなければならないと言われていますが、我が国を始め、先進国の多くは厳しい財政制約に直面しています。そのため、革新的な資金調達メカニズムが必要です。グローバリゼーションから利益を得た者が、その利益の一部を人道支援のために国際機関に提供することが求められます。国際的な取組みの進展状況等を踏まえつつ、グローバリゼーションがもたらす利益の一部を活用し、それを地球規模課題の対策に充てる国際的な資金調達の方法は議論を深める価値のある一つのアイデアです。日本は、こうした議論の先頭に立ってまいります。

OECDのDACルールの下では、一人当たりGNIが一定水準を超えた国はODAカウントの対象から外れます。しかし、気候変動の中、島嶼国のように災害のリスクが高まっていく国もある中で、柔軟な対応が求められています。ODAにカウントされるか否かにかかわらず、支援を必要としている人をしっかり支援してまいります。

発展途上国の経済の多くは、ODAだけでなく、日本からの投資を求めています。ODA予算が限られている中で、民間の投資を動員することも今後の日本外交にとって大変重要です。大企業だけでなく中小企業も積極的に海外に出て行けるように、情報提供やODAを活用した海外展開支援をしっかりと行っていきます。

また、昨年末に発効したTPP11の拡大や発効が確定した日EU・EPA、さらにはRCEP交渉の早期妥結のように大規模な自由貿易の取組を進めるだけでなく、経済規模が小さな国・地域とのFTAや投資協定も戦略的に進めていきます。北京やソウルと比べると、東京から直行便が飛んでいる国、都市の数は限られています。民間活力を外交に生かすためにも、国交省と連携し、直行便を増やし、投資や観光の交流を増やしていく必要があります。

いまやマンガやアニメを入り口として日本語や日本の文化にも興味を持つ若者が世界中に増えています。ドラえもん、ハローキティやピカチュウは今や国際的キャラクターですし、寿司やラーメンのレストランは世界中で見ることができます。マンガやアニメだけでなく、日本のテレビ番組や映画、音楽、和食や飲み物、ゲームなどさまざまな形で日本の文化を世界に向けて発信し続けていく必要があります。残念ながら文化予算は、フランスはもとより韓国と比較しても少ないのが現状であり、日本も一層力を入れる必要があります。一方、国の予算だけでは限界があります。官民協力に取り組みつつ、文化で稼げるようにすることも大切です。

日本の自然・文化は多くの外国人観光客を魅きつけています。2019年ラグビー・ワールドカップ、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会、更に2025年の大阪・関西万博に向け、被災地の復興ぶりも積極的に国際社会に発信し、インバウンド観光促進にも貢献していきます。

日本が様々な外交政策を推進し、基本的価値に基づく国際秩序を実現していくためにも、日本の政策・取組の戦略的な対外発信により努めます。特に、歴史認識や領土保全における日本の立場を発信していくことは、極めて重要です。

日本を理解し、支持・応援してくれる親日派・知日派を発掘し、育てていくことも極めて重要です。また、日本語教育は、外国人材の円滑な受け入れや、外国人と日本人の共生社会の実現のためにも重要であり、その観点からも海外における日本語教育に取り組んでいきます。しかし、残念ながら英語はもとより、フランス語、スペイン語、中国語等にも学習者数において大きく後れを取っています。地道な取組が必要です。日系社会との連携も重要です。日系社会との絆を一層深められるような取組を一層強化していく必要があります。

外交は、外務省だけ、政府だけで行うものではありません。日本全体の力を使った外交が必要です。無償資金協力や技術協力にもっとNGOの力を活用しなければなりません。いや、活用できるNGOを育てていかなければなりません。そのために、ODAに関する有識者懇談会から提出された提言も踏まえて、日本NGO関連予算をまずは、3割程度積み増し、実施状況を見つつ、段階的に引き上げてまいります。その中で、NGOの一般管理費の引き上げについては、最大15%を見据えて検討していきます。

JICAのガバナンスを確立すると同時に、ODAの実施に関してもJICAと競争できる実施主体を養成していきます。健全な競争関係を確保しつつ、ODAの全体像の中でNGOや開発コンサルティング等の実施主体の特性を踏まえ、日本全体としての「顔の見える」ODAを実施してまいります。コンサルティングの分野も抜本的に改革し、国際的な競争力を強化していきます。

国連を始めとする国際機関で活躍する日本人を増やすことも急務です。国際機関に対して、日本人の職員、幹部の数の増加を日本の拠出金とリンクさせることを明言していますが、そもそも応募者の絶対数が足りません。若手でも英語力などの問題で国連の採用試験に受かる者がほとんどおらず、JPOからの採用しかほぼ道がないため、国連機関に採用される若手の人数はJPO予算に制約されます。短期的な対策として、海外に留学している日本人学生に対して国際機関に関するガイダンスを強化していきます。国家公務員をJPOとして国際機関に派遣することを復活させます。

また、国際機関の職員の幹部登用を後押しするため、上を狙う国際機関の日本人のために外務省のポストを活用していきます。

日本で高等教育を受けても英語ができるようにならないことが、国際機関だけでなく、日本人が様々な場面で活躍する際の障壁となっています。美しい日本語か英語かの選択ではありません。どちらも必要です。英語教育の抜本的な改革は急務です。文科省と連携していきます。

国際機関の中でも重要な組織のトップを取るために、各国は、首相や閣僚経験者を始め、政治家の候補者を擁立してきています。これに対抗し、国際機関のトップを取るためには、日本も政治家を候補者として擁立していく必要があります。そのためにも与野党の枠を超え、適材を適所に擁立することが必要です。我こそはと思う方は是非名乗りを上げていただきたいと思います。外務省は全力で御支援申し上げます。

私は、これからも日本の国益や平和をしっかり守りながら、世界の平和と安定に貢献していく考えです。

議員各位そして国民の皆様の御理解と御協力を心からお願い申し上げます。