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記者会見

東日本大震災から5年を迎えるにあたって 安倍晋三内閣総理大臣

平成28年3月10日
安倍 晋三 内閣総理大臣

明日3月11日。あの東日本大震災から5年を迎えます。まず冒頭、改めて、大震災によってお亡くなりになられた全ての方々に、心から哀悼の意を表したいと思います。
町に壊滅的な被害をもたらした津波。その津波にも耐え、そびえ立つ「奇跡の一本松」の姿を、多くの皆さんが覚えておられると思います。岩手県の陸前高田に、私が、総理大臣就任後、初めて足を運んだのは、ほぼ3年前のことでありました。
津波の被害を受けた建物に上り、2年を経過してもなお、震災の爪痕が色濃く残る町の姿を、目の当たりにしました。雪がちらつく中で見た、あの無残な光景は、今も忘れられません。
何としても、復興を加速する。その決意のもと、総理就任以来、3年余りで30回近く、被災地に足を運んでまいりました。
「手続に時間がかかる。」
「人材も資材も足りない。」
「用地取得が進まない。」
現場で耳にしたこうした声に一つひとつ対応するところから、3年前、私たちはスタートしました。復興庁のもと霞が関の「縦割り」を打ち破る。そして、「現場主義」を徹底する。それまでの復興行政を一新し、復興を加速してまいりました。
3年前に訪れた時、見渡す限りの更地であった、宮城県の女川町の中心地は、先月、その景色を一変させていました。地域の皆さんの「足」であるJR石巻線が復旧し、木の温もりを感じる新しい駅舎の前には、電気屋さん、青果店、フラワーショップ。素敵な商店街が完成し、たくさんの人たちで賑わっていました。
政権交代した3年前、計画すらなかった高台移転は、ほぼ全ての事業が着工し、この春には、全体の4分の3の地区で造成が完了します。ほぼ全ての漁港が復旧します。7割を超える農地が作付可能となり、9割近い水産加工施設が再開を果たしました。
他方で、今なお仮設住宅で暮らしておられる方々、まだまだ厳しい状況に置かれている皆さんが、たくさんいらっしゃいます。被災した、お一人お一人にとって、この5年間は、つらく、苦しい日々であったことでしょう。
それでも、その皆さんの故郷への熱い思いが大きな力となって、復興は、一歩一歩、確実に前進しています。
これからも、被災地の皆さんの不安な気持ちに寄り添いながら、地域ごとの多様なニーズに応えた支援を、しっかりと行ってまいります。
先週訪れた福島では、避難生活を送る5人の酪農家が集まって、500頭もの乳牛を育てる、東北最大規模の牧場をオープンしました。出荷が始まったばかりの乳製品を前に、「一日も早く福島が自立して、真っ向勝負ができるよう頑張っていきたい」と、復興への情熱を、私に語ってくれました。
原発事故で大きな被害を受けた福島は今、太陽光発電やリチウムイオン電池などの関連企業も集まり、未来のエネルギー社会を拓く「先駆けの地」になろうとしている。被災地でも、新しい産業の芽が次々と生まれつつあります。
今後5年間を「復興・創生期間」と位置づけ、十分な財源を確保し、被災地の自立につながる支援を行っていく考えであります。
昨年、全線で開通した常磐自動車道では、復興需要もあいまって、交通量が増えています。地域の皆さんのニーズを踏まえ、福島県と宮城県で、混雑が見られる区間について、この復興・創生期間内に四車線化を実現します。直ちに事業に着手いたします。
さらに、全線開通の時期が未定であった、JR常磐線についても、福島の地元の皆さんの強い期待に応えて、東京オリンピック・パラリンピックが開かれる前の、2019年度中に、全線開通を目指すことを決定いたしました。
福島では、来年春までに、帰還困難区域を除く避難指示を解除し、一人でも多くの方に故郷へと戻って頂けるよう、中間貯蔵施設の建設と除染を一層加速し、生活インフラの復旧に全力で取り組んでまいります。
とりわけ、生業の復興が重要です。昨年夏、官民合同チームを発足させ、5か月余りの間に、原発事故によって被災した3千を超える中小・小規模事業者の皆さんの所に直接伺い、膝詰めで相談・支援を行ってまいりました。
現場主義を徹底し、お一人お一人の状況を丁寧に把握しながら、事業再開、生活再建に向けて二人三脚の支援を行っていくべく、現在の体制を更に強化することにより、今後、被災した全ての事業者、8千に及ぶ事業者の皆さんを、個別に訪問する考えです。意欲ある農業者の皆さんも、一日も早い営農の再開が可能となるよう、きめ細かな支援を行っていきます。
帰還困難区域においても、放射線量が低下していることが、モニタリングで明らかとなっています。地元の皆さんの、故郷への思いをしっかりと受け止めながら、区域見直しに向けた国の考え方を、今年の夏までに明確に示したい、と考えております。
東京電力福島第一原発では、この瞬間も、現場の作業員の皆さんが、困難の伴う廃炉作業に取り組んでいます。心から敬意を表したいと思います。
原子炉建屋の周りに、凍らせた土の壁をつくる作業も、間もなく始まります。地下水の流入を抑え、汚染水対策を大きく前進させます。今後も、国も前面に立って、廃炉・汚染水対策に全力で取り組んでまいります。
1年前、イギリスのウィリアム王子と、福島で御一緒しました。屋外で元気一杯に遊ぶ福島の子供たちに、王子は、優しい笑顔で、「楽しそうだね」と語りかけていました。そして、その夜は、王子と共に、福島が誇る食材を使った料理や、福島の地酒を、堪能しました。
風評被害の払拭には、できるだけ多くの外国人の皆さんに、福島を実際に訪れて頂き、地元の食材を味わって頂くことが、何よりの対策であります。
さらに、福島に限らず、東北各地に、たくさんの外国人の皆さんにお越し頂きたい。それが、復興への大きな力になると信じます。
昨年、日本を訪れる外国人観光客は、政権交代前の2倍以上、ほぼ2千万人に達しました。しかしながら、東北六県の外国人宿泊者数は、昨年ようやく、震災前の水準である50万人を回復したにすぎません。この数を、ラグビーワールドカップ、更には東京オリンピック・パラリンピックを大きな起爆剤としながら、2020年に、3倍の150万人に押し上げることを目指す。今年を、まさに、「東北観光復興元年」にする考えであります。
今後5年間で、海外の旅行会社の方々を2千人規模で東北に招き、その素晴らしさを体験してもらう。東北への魅力あるツアーを組んでもらうため、大々的な「東北プロモーション・キャンペーン」を実施します。
さらに、外国人観光客の皆さんには、東北の各都市を巡るだけではなく、その周辺にある、津々浦々、故郷の良さを実感してもらいたい。外国人観光客向けに、地域の路線バスや鉄道の「フリーパス」を企画するような取組も行いたいと思います。
「奇跡の一本松」が残った、あの陸前高田は、新規創業率が全国第5位。新しいビジネスが次々と生まれています。その陸前高田の町では、今、桜の木を植える活動をしている方々がいます。
あの津波の教訓を、風化させてはならない。
その強い思いのもとに、津波の被害を受けた海岸に、この5年間で1千本近い苗木を植えてきました。先日、私も参加しましたが、植樹活動を見守る、地域の皆さんの明るい笑顔が、とても印象的でありました。
苗木は、すぐには花をつけません。しかし、数年後には、花をつけ、津波の教訓を語り継いでいく。「記憶」をつなぐ桜であります。同時に、満開に咲き誇る美しい桜は、地域の人々にとって、復興への「希望」を生み出す桜となるに違いありません。
東北の復興なくして、日本の再生なし。
その揺るぎない信念のもとに、「希望」に満ち溢れた東北を創り上げていく。その決意を新たにしております。