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記者会見

平和安全法制法案成立を受けて 谷垣幹事長会見

平成27年9月19日(土)2:38~2:55
於:院内第14控室
谷垣 禎一幹事長

質疑応答

(代表質問)テレビ東京の小林です。今回、平和安全法制が成立しました。率直な受け止めをお願いします。
ほっとしております。大変いろいろな論点もありましたし、厳しい批判もあったわけです。しかし私どもは与党の政治家として日本の安全、平和をきちんと確保していくにはどうしたらいいのか、やはり結論を出さなければなりませんので、結論を一応出すことができましてほっとしております。ただいろいろ問題は残っておりまして、ご指摘を受けておりますように、やはりご批判も多い。これは、私がかねがね申し上げているのですが、戦後の日本のイデオロギー対決、安全保障問題というのは常にそういう様相を帯びて、議論を進めると理解が深まっていくというのが通常の議論ですが、議論していくとますます亀裂が出てくるという、この安全保障問題に関してはそういう経験をしばしば重ねてまいりました。戦後70年経ち、冷戦も終わってからもう20数年経ちまして、新しい戦略環境、国際環境のなかで新しいものを作っていく必要がどうしてもあったということでございます。課題はやはりそろそろ安全保障論争になると国民の亀裂が生じてしまうというようなことをどうやったら政治の場で乗り越えていくことができるか。これは、戦後の日本にインプットされた問題のなかでも一番大きな問題の一つではないかなと今度改めて痛感をした次第でございます。何とかこの課題に応えていかなければならない、こういう大きな課題が、昔からあった課題ですが、未解決な課題と申し上げるべきかもしれません。そう思っております。
(代表質問)様々ある課題のなかに、一方で法案成立に理解や支持が広がっていないというものがあると思いますが、そういったもの対して今後党としてどのように対応していくお考えですか。
これは、今申し上げたような、戦後の日本政治のなかでずっとある基本的な問題と言っていいかもしれません。ですから、こういう薬をつけたらいっぺんにそれが治るというようなものではないのだろうと思いますね。やはり私どもが粘り強い議論をしていくという必要があると思います。それから何よりも、今回集団的自衛権に関する解釈の見直し等々が議論されたわけですが、しかしさりとてこれはそうしょっちゅう使わなければならないというものであってはむしろ困るわけでして、個別的自衛権自身も今まで一度も戦後発動したことがない。つまりこういう自衛権というようなものは、個別的自衛権であれ集団的自衛権であれ、発動する必要がなければそれに越したことはない。むしろその発動しないで済む、発動しないでやっていける、このために全力を傾ける必要があると思います。それから、必ずしも集団的自衛権など自衛権の発動ではなくて、国際的な貢献、いわゆるPKO法のようなものにしましても、今までと若干、いろいろな形が変わってくる面がございます。すべて問われていることは、新しい事態に対して日本の政治がきちんとした判断ができるのかどうかということが問われている。このなかでいろいろ、要件があいまいだとか、本日も聞いておりましてそういうご批判がございます。しかしこういう国際間のいろいろな紛争等々に対応していくためには、ある程度包括的に規定しなければならないという面がどうしてもございます。そうすると問題は、日本の政治が、これは与党というだけではありません、国会承認ということが原則になっておりますから、日本の政治がそういう問題に対してそれだけのやはり英知と経験というか、そういうものを十分持ち得るのかどうか、そういうことが日本の政治に問われているのだろうと思います。したがって我々も、我々の置かれている国際環境などを、十分情報も持ち、そして冷静な目で対応していくだけの能力がどれだけ備わっているか、そういうことが問われているのだろうと思います。そういう我々自身の政治の力量を上げていく、その努力そのものがある意味でのこういう安全保障の、必ずしも幸福ではなかった議論の歴史というものを乗り越えていく方法なのではないかなと思っております。
NHKの瀧川です。国会審議を通して幹事長から見て理解は深まったとお考えでしょうか。
私は見ておりまして、やはりいろいろなメディアに皆さんがいろいろな街の声やあるいはデモその他で意見表明をされる方もありますが、そういう話を聞いていると、先ほど申し上げたような、イデオロギー対決という表現が適切なのかどうか分かりませんが、なかなか我々の考え方と違う、理解していただけていないなと思う反面、「やはり冷静に考えてみればこういうことが必要なのではないか」、「抑止力というものをきちんと現代に合わせていく必要があるのではないか」というようなご議論もあり、理解が進んでいる面も非常にあるとは思っております。ただ、先ほど申し上げたような、この議論をしていくと冷静な具体的な議論の仕方というよりもややイデオロギー的な、過剰な、あるいは観念的・感情的な議論になっていく面がございますので、できるだけそういうことを乗り越えていくには、我々自身も冷静に対応しなければいけないのではないかと思います。
共同通信の比嘉です。今回の法案への批判の一部に、「憲法違反である」という指摘が大きなウェイトを占めたと思います。こうした指摘を受けたということは、内閣法制局への信頼や国民の政府が出してくる法案への信頼というのが失われた面があると思いますが、その点はいかがでしょうか。
憲法違反という指摘は、これも私は常々申し上げていることですが、憲法全てに対して今のような問題が起きてきているわけではなくて、事柄はやはり9条に関して相当意見の対立があって、集約ができていないというのが、これも戦後日本の憲法論というかあるいは政治論というか、そういうところにかなり内在された問題だろうと思います。私は、ある意味で言えば、この憲法の出自、つまりその当時の日本はマッカーサーが日本防衛の責任も権限も持っていた。日本人にはそのとき、権限もなければ責任もないというような状況のなかで作られた憲法の問題性があると私は思っています。ですから、それをどう乗り越えていくかという議論はこれからも当然あるのだろうと私は思っていますが、そういう問題も戦後の日本政治が乗り越えなければならない極めて重い課題の一つだろうと思います。
共同通信の比嘉です。今回憲法改正賛成派からも「憲法改正することが常道・王道である」というような批判を受けたと思いますが、今回の法案が成立したことで憲法改正は非常に難しくなったと思いますか。
難しくなったというか、憲法改正論者が9条を改正して何を目指していくかというのは人によって立場が違うだろうと思います。しかし国民に今の日本人が持っている安全保障や、わが国の防衛はどうあるべきなのかという日本人の今の問題意識をやはり基礎に考えなければいけないだろうと思います。私は憲法改正をどういう形でやろうと、今回の平和安全法制というのは、これは今でも反対の方がたくさんいらっしゃることも一方でありますが、おそらく今回の平和安全法制が今の日本人の憲法意識というか安全保障意識というか、そういうなかで許容し得るぎりぎりの範囲なのではないかと思っておりまして、つまりそういう問題意識から今の憲法論等々もどう考えていくのかということだろうと思います。
TBSの加納です。この法案に関してはおよそ4か月弱という時間を使いました。幹事長が午前中の会見でも「百年河清を俟つというのはなかなかできないものだ」とおっしゃっていましたが、これだけ大きな法案を一国会で審議することの意味合いについてどのように思いますか。
やはりじっくり議論するという議論もございます。しかし、議論にかけたエネルギー・時間というのは決して一国会というようなものではなかったのではないかと私は思っています。ですから、むしろ先ほど申し上げたように、こういう問題に伴って起こるイデオロギー的な対立状況をどう乗り越えていくかというところが大事な点なのではないかと思います。
国民は、安倍総理がアメリカの議会で「夏までに成立させたい」という趣旨の発言をされたということが国会軽視だということでかなり反発が大きいのですが、こうした国会の重みについてどのように思われますか。
それは、「政府としてはぜひそうしていきたい」ということなのであって、それが約束してきたから国会無視だなどという批判は、私は今回のいろいろな議論のなかでやや周辺的な議論ではないかと思っております。むしろ私が先ほどから申し上げているように、国民の間にこの問題ではイデオロギー的対立があって、それが戦後70年経っておりますから、国民の意識の常に表層にあるわけではありませんが、安全保障の議論を重ねていくと必ずその問題が起こってくるということをいかに克服していくかということの方が大事な問題なのであって、今おっしゃったような、本日の討論のなかではそういうことを批判される方がおられましたが、私はそんなことばかりを議論しているようではこのイデオロギー的対立は乗り越えられないと思っております。
北海道新聞の徳永です。賛否のあった法案を通したことで政権運営への影響についてはどのようにお考えですか。
これは、私の見方が正しいかどうか分かりませんが、こういう議論は、大体こういう問題を主として取り上げてきたのは我々が政権を持っているときですね。そのときは、かなり大きな批判を受けて、地方選挙などもそれが故にしばしば取りこぼしをしてきたというのが過去だろうと思います。しかし、もう少し長い目で見ますと、こういう議論をやりますと、むしろしばらく経つと、ばらけてくるのはどちらかというと批判されていた方の方がばらけてくるという面がございます。それだけ逆に言えば、野党的なお立場の方々からしても、この問題は難しいのだろうと思います。どのように日本の防衛、安全保障の基礎を定めるべきかというのは、例えば民主党なども、おそらく党内をまとめるには非常にご苦労な問題なのではないかと思います。ですから、こういうイデオロギー的対立をした後、我々に反対された野党がまとまっていくというよりはむしろ、ばらけていく現象の方が従来見られました。一番これが典型になっているのが、60年安保のときに、社会党と民社党が分裂したということです。当時の論調は、高校生でよく憶えておりましたが、民社党の分裂を当時の安保に反対をされた方々の主要な論客のなかからは、「これは分裂ではなく、脱落である」、つまり割れていった民社党を誹謗するような議論がずいぶんあったなと思い出しておりますが、要するに、なかなかこれは野党にとっても難しい問題なのだと思います。むしろ、野党がその問題を乗り越えて、きちんと自分たちのスタンスを定めることができるようになると野党も強くなられるのではないかなと私は思っております。