政策

第190回国会における安倍総理の外交報告

平成28年1月4日

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(総論)

私の海外出張に関して、報告申し上げます。昨年9月から12月にかけて、国連総会、中央アジア、日中韓サミット、G20首脳会議、APEC首脳会議、東アジア首脳会議、COP21、インド等に出張し、地球儀を俯瞰する外交を積極的に展開して参りました。この一連の出張を通じ、世界の平和と繁栄のために、国際社会は何をなすべきか、そのためにわが国はどのような貢献を行うことができるのかについて、国益を踏まえて、わが国の主張を明確に訴え、それが結果にも十分に反映され、大きな成果を挙げたと考えています。以下、順を追ってご報告いたします。

 

(国連総会)

9月下旬には、国連総会に出席しました。国連総会では、ミレニアム開発目標の次なる開発目標について、活発な議論が行われました。わが国は従来より、人間の安全保障の考え方に基づき、保険、防災、女性、教育を重視すべきむね主張してまいりましたが、新しい開発目標となる2030アジェンダにこのような日本の考え方が、明確に盛り込まれたことは大きな成果だったと考えます。
また、国連創設70周年となる節目に、私は、メルケルドイツ首相、モディインド首相、ルセフブラジル大統領とともに、安保理改革に関するG4首脳会合に出席し、安保理改革を力強く推進していく決意を確認しました。

 

(中央アジア訪問)

10月中旬には、中央アジア諸国を訪問しました。中央アジアはアジアの中心であり、東西の結節点となる、地政学的に重要な地域です。各国ともこれまでは天然資源の輸出に依存してきましたが、いまはより付加価値の高い経済を目指し、質の高いインフラを求めており、そこに日本が果たせる役割があります。この訪問には、経済界に同行していただき、今後3兆円を超えるビジネスチャンスを生み出すとともに、各国との友好協力関係をさらに発展させることができました。

 

(日中韓サミット)

11月には、ソウルで行われた日中韓サミットに出席しました。私はかねてから中国や韓国との間では隣国ゆえに難しい課題があるが、だからこそ首脳レベルでも前提条件を付けずに率直に話し合うことが重要と繰り返し述べてきました。そしてそれが実現いたしました。日中韓サミットでは、日中韓3カ国の協力の枠組みが完全に回復したこと、日中韓サミットを定期的に開催すること、日本が本年議長を引き継ぐことに合意しました。日中韓3カ国は地域の平和と繁栄に対する大きな責任を共有しています。
今回のサミットでは、パククネ大統領、李克強首相と経済、環境、防災、文化、人的交流など幅広い分野における3カ国の協力を推進していくことや、北朝鮮をはじめとする地域や国際社会が直面する重要な諸課題について、率直に意見交換を行うことができたことも非常に有意義でした。
李克強首相との日中首脳会談では、日中関係は戦略的互恵関係の考え方に基づき、改善の方向にあり、この勢いをさらに強めていく必要との認識で一致しました。さらに、外相相互訪問の再開、日中ハイレベル経済対話の本年早期の開催で一致するという具体的な成果も得ました。
パククネ大統領との日韓首脳会談では、日韓間の諸懸案、北朝鮮問題について議論しました。日韓間の意思疎通をはかる努力により、両国関係が少しずつ前進していることを評価するとともに、今後とも、安全保障、人的交流、経済をはじめとしたさまざまな分野における日韓間の協力を強化していくことで一致しました。
また、慰安婦問題については将来の世代の障害にならないようにすることが重要であるとの観点から、両国間での協議を加速化することで合意し、これを踏まえ12月28日におこなわれた日韓外相会談における合意、及び、私のパククネ大統領との首脳電話会談を通じ、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることになりました。これをもって、日韓関係が、未来志向の新時代に入ることを確認しています。

 

(G20、APEC、ASEAN首脳会議)

11月中旬にはG20首脳会議、APEC首脳会議、ASEAN関連首脳会議に出席しました。一連の会議においては主要な国々のリーダーたちが集まり、世界経済の持続的な成長をいかにして確保していくか、テロをはじめ国際社会が直面する様々な課題にどのように対応していくかについて真剣な議論を行いました。
世界経済の減速が懸念される昨今、最大のテーマは経済の成長であります。私からはアベノミクス第2ステージ、とりわけ戦後最大のGDP600兆円、希望出生率1.8、介護離職ゼロという3つの明確な的に向かって新しい3本の矢を放ち、1億総括役社会の実現を目指すという新たな考え方について詳しく説明し、各国首脳の理解と支持を得ました。

 

(TPP首脳会合)

マニラで行われたTPP首脳会合では早期発効に向け、各国の国内手続きを速やかに完了させることで一致しました。基本的価値を共有する国々と作る新たなルールの下、世界の4割の経済圏が生まれます。その求心力により、他の国・地域から参加への関心表明を受けました。
G20首脳会議の直前にパリで同時多発テロ事件が発生したことを受け、一連の首脳会議を通じて、「人類共通の価値に対する挑戦に対して世界は結束しなければならない」と呼びかけ、日本もアメリカもロシアも中国も中東の諸国もテロとの戦いに国際社会全体がしっかりと手を携えていくという明確なメッセージを一致して発信していくことができました。

 

(東アジア首脳会議)

11月下旬に出席した東アジア首脳会議では、南シナ海の情勢を中心に、航行の自由や紛争の平和的解決など、法の支配の遵守が主要なテーマとなりました。会議では多くの首脳が、南シナ海の一方的な現状変更に懸念を示し、威嚇または武力の行使に訴えないこと、国際法に則った紛争の平和的手段による解決の重要性を指摘し、議長声明にもそうした要素が盛り込まれました。
私は国際社会における法の支配を遵守する立場から、主張するときは国際法に則って主張すべき、武力の威嚇や力による現状変更は行ってはならない、問題を解決する際は平和的に国際法に則って解決すべき、という3原則をシャングリラ会議で提唱しましたが、この3原則が着実に国際社会に浸透しつつあると考えています。

 

(COP21)

11月下旬には気候変動問題に関し、京都議定書に代わる新しい枠組みを決めるCOP21首脳会合に出席しました。首脳会合では私より経済成長と気候変動への対応を両立させる鍵を握るイノベーションの強化、2020年における1.3兆円の気候変動対策実施等を内容とする途上国支援の2本柱からなる我が国の貢献策「美しい星への行動2.0」を説明し 今こそ先進国、途上国が共に参画する温室効果ガス削減のための新しい枠組みを築くべき時である旨を主張しました。
この我が国の一貫した主張が実り、その後の閣僚級の交渉において史上初めて、気候変動枠組み条約に加盟する195の国々とEUすべてが参加する公平な枠組みとしてのパリ協定が採択されました。この合意を高く評価すると共に、今後とも日本はイノベーションで世界を牽引し、国際社会における主導的な役割を果たしていきます。

 

(インド訪問)

12月中旬にはインドを訪問し、モディ首相との首脳会議で、日印関係が新しい時代に入ったことを確認し、日印新時代の道標となる共同声明として「日印ビジョン2025」を発出しました。日印新時代の幕開けにふさわしいプロジェクトとして、ムンバイとアーメダバードを結ぶ高速鉄道に日本の新幹線システムの採用が決まりました。安全性、正確性を誇る日本の新幹線システムを活用したインドにおける高速鉄道の第1号路線の実現に向けて今後、具体的協力を進めていきます。また、日印間の平和的目的の原子力協力全般に基礎を与える協定につき、原則合意に至りました。この協定は原子力の平和的利用について、インドが責任がある行動を取ることを確保するものです。従って万が一インドが核実験を行うような事がある場合には、日本からの協力は停止します。これはインドを国際的な不拡散体制に実質的に参加させることにつながり、核兵器のない世界を目指し、不拡散を推進する日本の立場に合致するものです。今後ともモディ首相と共に日印新時代を切り開いていくと共に、普遍的価値を共有するアジアの2大民主主義国である日印両国が緊密に協力し、アジアや世界の平和と繁栄をともに牽引していく所存です。

 

(締め)

本年はG7伊勢志摩サミットの議長国、国連安全保障理事会の非常任理事国入り、TICADの初めてのアフリカでの開催、日中韓サミットの議長国などが予定されており、日本外交が世界を引っ張る年となります。本年も経済や安全保障の観点から国益を増進し、国際社会が直面する様々な課題について、世界と緊密に協力し、リーダーシップを発揮して取り組んで参ります。