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政策

第77回自民党大会 谷垣禎一年頭演説(全文)

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2010年1月26日

自民党総裁の谷垣禎一でございます。昨年の総裁選挙を受けて、就任いたしました。全国それぞれの地域からご参集いただいたみなさま、どうぞよろしくお願いいたします。
昨年の総選挙で、わが党は痛恨の敗北を喫しました。1955年の自由民主党結党以来、途中10カ月ほどを除いて、54年もの間、担い続けていた政権与党の座を降りることになりました。その意味で、確かに、歴史的な政権交代であったかと思います。
わが党は、衆議院118人、参議院78人のかつてない小さい体制で、この党大会を迎えています。私たちがこの大会で誓うべきは、議会政治のもうひとつの役割である「野党」としての政権批判の責務をしっかりと果たすこと、そして、政権奪還をめざして行動し、できる限り早く、私たちの政権を実現することであります。そのためのわが党の決意と団結をここに改めて確かめ合いたいと思います。
あの総選挙はいったい、どういうことだったのでしょうか。わが党が敗れたのか、それとも民主党が勝ったのか。一義的には、わが党が与党の座に長くいたがためにそこに安住して政権運営に緊張感を失い、内部対立をさらけだし、的確斬新な政策の実行が滞ることになったとき、そこに民主党がいました。そこで「いっぺん民主党に」という空気がびまんすることによって、わが党が敗れたということだったと思います。
しかし、ピンチはチャンスです。これを裏返せば、わが党がもう一度、政治を担うことへの緊張感、責任感、的確斬新な政策を取り戻すことによって、国民のみなさまは、必ずやわが党にもう一度政権を託そうと思ってくださるでしょう。「いっぺん民主党」と思った、その民主党は、政権の責任者の不適格、政権担当能力の不足を露呈しつつあります。その意味では、こんどの政権交代は災いを転じて福となす、ライオンがわが子を崖下に突き落とすように、国民からわが党を鍛えなおし、新生復活するためのチャンスをいただいたと見るべきなのです。
50余年の政権与党の間に積もり積もったしがらみの数々、それは本来は、自民党が国民各界各層とつながる絆であったはずなのですが、それが惰性に陥っていたことも否めません。政権交代はわが党にとっても、しがらみを脱ぎ捨てるチャンスであります。
自民党政治は、霞が関の官僚諸君の英知と献身にも助けられて、戦後日本の安全と繁栄を築いてまいりました。しかし、いつしか、わが党が官僚諸君に依存し安住し、政と官の間になれあいが生じたことも否めません。しかし、民主党は「政治主導」の名のもと、いわゆる政務3役で政治をとりしきり、「官僚排除」によって浅薄で迎合的なばらまき政策に堕しています。私たちは、政と官の正しいありかたを再構築していきます。
政治と業界団体との関係につきましては、もたれあいの果てに密室で不当な利権をむさぼっていたのではないかとの認識が世に蔓延しました。今後、自民党は、個別の案件での利害調整ではなく、大きな政策の方向性について真摯な対話を重ねてお互いの理解を深め合う関係にしていきたいと考えています。
自民党の敗北への総括を求める声があります。まさにいま、私が申し上げたことが総括なのであります。いま一度申し上げます。一部の人間が利益を分配して、内輪の権力闘争に明け暮れる、もはやそんな自民党とはきっぱりと決別します。国民から遠いところで政治が行われている自民党であってはなりません。
私は総裁就任以来、各地を訪ね、それぞれの地域のみなさんとひざを突き合わせてお話をうかがってきました。実は、そのなかで私は改めて、自民党は地域に根ざしている人々とともにある、唯一の真の国民政党であるとの自信を深めています。
私は、こうした地域の方々のお話に耳を傾けながら、政務3役だけで何でも決めてしまう尊大な鳩山政権よりも、はるかに私たちのほうが国民とのパイプを持っていると確信しました。私が「みんなでやろうぜ」と申し上げたのは、自民党だけでやろうぜということではありません。国民とともに「みんなでやろうぜ」という思いなのであります。
「疾風に勁草を知る」という中国の言葉があります。強い風が吹いても、地に根を張る草は吹き飛ばされません。私たち自民党は、実現できない項目を羅列したマニフェスト政党ではありません。地域に根付いた、地域に生きる強い政党です。私たちは、家庭基盤を充実させ、地域から出発するという原点に立ち返りたいと思います。すでに私たちの先達、例えば大平正芳総理大臣は「家庭基盤の充実」「田園都市構想」を提唱しました。それが私の主張する「絆」を大切にする政治です。
まず、元気でがんばれる人はがんばってもらわねばなりません。その人たちが社会を前進させる力であります。自助、すなわち自らの生活を自らで支え、さらには国家の歳入を支えてもらわなければなりません。
しかし、なんらかの理由でハンディを背負った人たちにはみんなで助け合うことが必要です。家族や地域やボランティアで支えあう共助、そして政府や自治体による公助、つまり自助、共助、公助の3段構えで、改めて社会を築きなおすことが必要です。自立と共生、成長と福祉の両方に目配りしていくこと、私はそれを「おおらかな保守主義」と呼びたいと思います。
これはいま生きる国民だけのことではありません。「自分だけよければよい」のではないことはもちろん、「いまだけよければよい」のでもありません。次の世代の負担にたよらない、自制心のある財政をめざさなければなりません。少子高齢化社会に向かって、社会保障の給付を十分に実現していくには、国民がきちんと負担をしていく覚悟が必要です。給付は負担なくしてありえません。税制への長期展望のない政治は、未来の国民に無責任な政治です。よき次世代を育てる公教育の再生も忘れてはなりません。
鳩山政権は、民主党革命を標榜しておりますが、これはすでにして裏切られた革命というべきでしょう。バランスを失した放漫予算は「ハトヤマ不況」を濃厚にしてきています。マニフェストに書いてあるからとダムを中止しながら、その一方では、「ガソリン値下げ隊」をつくって大騒ぎした暫定税率の廃止は小沢一郎幹事長のひとことで存続が決まり、この重大なマニフェスト違反もひとこと形式的なおわびを口にしただけです。鳩山総理をあやつるがごとき、小沢一郎幹事長の相次ぐ乱暴な発言は、これまでの自民党のよき伝統である「自制心のある保守主義」とは異質のものであります。私たちは、単に自民党のためではなく、日本の民主主義のために「小沢独裁」と闘わなければなりません。国民不在、国益無視の行き過ぎた選挙至上主義と闘わなければなりません。
とうてい看過できないのは、鳩山総理、小沢幹事長をめぐる政治資金問題です。
鳩山氏は、実母から巨額の資金提供を受けたことがわかり、政治資金規正法違反で秘書が起訴され、多額の贈与税をおさめたとのことです。信じられないことに、鳩山氏はかくも巨額の「子ども手当」を「知らなかった」と言っています。
小沢幹事長の秘書だった石川知裕衆院議員ら3人がやはり政治資金規正法違反で逮捕されました。そのうちのひとり、大久保隆規秘書はすでに公判中であります。小沢さんの「陸山会」は不動産屋さんかと見まがうほど、たくさんの土地やマンションを購入しています。前代未聞というべきです。
民主党のトップリーダー2人が政治資金問題で疑惑の中にいるというのは、まことに異例異様な事態です。かつて「秘書が過ちを犯せば議員を辞める」と公言した鳩山氏の発言はどこへ行ってしまったのでしょうか。「臆することなく検察と戦って」と小沢幹事長を激励する鳩山総理には、国家統治の最高責任者としての自覚がまったく感じられません。
私たちは、彼らが政権の責任者としてふさわしい資格があるのかどうか、問い続けます。  しかし私たちは、彼らの政治倫理をただすとともに、他山の石と戒めなければなりません。「民主党も自民党と同じだ」などという言い方を国民からされないように、「いや、自民党は生まれ変わった」と胸を張ることができるように、自民党は政治倫理の面でもかつての過ちを繰り返してはなりません。その点もここで誓いあいたいと思います。  私どもにとって、今年は勝負の年です。私は、積極果敢に闘ってまいる決意です。7月の参議院選挙で必勝を期すのは当然のことであります。それと同時に、野党として通常国会を闘うことによって、鳩山政権を国民に問う衆院解散、総選挙を迫っていくことでなければなりません。わたしたちはたじろいではいけません。ここにご参集いただいたみなさまのすべて、どうかもっと知恵を絞り、もっと汗を流し、政権奪還をめざしていっしょに闘いましょう。
孟子に「自ら省みてなおくんば、千万人といえどもわれゆかん」という言葉があります。私たちは私たちが正しいと思った道をまっしぐらに進みましょう。日本の未来を信じ、堂々と正論を語りましょう。それが誇りある保守です。私は非力非才ながら、自らを叱咤激励して、がんばる所存です。わが同志のみなさん、心をひとつにして、悔いない闘いを挑もうではありませんか。どうか私を支えていただき、ともにたくましく闘って、新しき自民党の時代をつくっていこうではありませんか。