平成26年1月24日
一 はじめに
まず冒頭、海上自衛隊輸送艦おおすみと小型船の衝突事故について、亡くなられた方の御冥福をお祈りし、又お見舞いを申し上げます。徹底した原因究明と再発防止に全力を挙げてまいります。
「何事も、達成するまでは、不可能に思えるものである。」
ネルソン・マンデラ元大統領の偉大な足跡は、私たちを勇気づけてくれます。誰もが不可能だと諦めかけていたアパルトヘイトの撤廃を、その不屈の精神で成し遂げました。
「不可能だ」と諦める心を打ち捨て、わずかでも「可能性」を信じて、行動を起こす。一人ひとりが、自信を持って、それぞれの持ち場で頑張ることが、世の中を変える大きな力になると信じます。
かつて日本は、東京五輪の1964年を目指し、大きく生まれ変わりました。新幹線、首都高速、ゴミのない美しい街並み。
やれば、できる。2020年の東京オリンピック・パラリンピック。その舞台は東京にとどまらず、北海道から沖縄まで、日本全体の祭典であります。
2020年、そしてその先の未来を見据えながら、日本が新しく生まれ変わる、大きなきっかけとしなければなりません。その思いを胸に、日本の中に眠る、ありとあらゆる「可能性」を開花させることが、安倍内閣の新たな国づくりです。
二 創造と可能性の地・東北
「創造と可能性の地」。2020年には、新たな東北の姿を、世界に向けて発信しましょう。
福島沖で運転を始めた浮体式洋上風力発電。宮城の大規模ハウスで栽培された甘いイチゴ。震災で多くが失われた東北を、世界最先端の新しい技術が芽吹く「先駆けの地」としてまいります。
3月末までに、岩手と宮城でがれきの処理が終了します。作付けを再開した水田、水揚げに湧く漁港、家族の笑顔であふれる公営住宅。
1年半前、見通しすらなかった高台移転や災害公営住宅の建設は、6割を超える事業がスタートしました。来年3月までに、200地区に及ぶ高台移転と1万戸を超える住宅の工事が完了する見込みです。
やれば、できる。「住まいの復興工程表」を着実に実行し、一日も早い住まいの再建を進めてまいります。
福島の皆さんにも一日も早く故郷に戻っていただきたい。除染や健康不安対策の強化に加え、使い勝手のよい交付金を新たに創設し、産業や生活インフラの再生を後押しします。新しい場所で生活を始める皆さんにも、十分な賠償を行い、コミュニティを支える拠点の整備を支援してまいります。
東京電力福島第一原発の廃炉・汚染水対策について万全を期すため、東京電力任せとすることなく、国も前面に立って、予防的・重層的な対策を進めてまいります。
力強いアーチ姿の永代橋。関東大震災から3年後、海外の最新工法を採り入れて建設されました。コストがかさむなどの反対を押し切って導入された、当時最先端の技術は、その後全国に広まり、日本の橋梁技術を大きく発展させました。
まもなく三度目の3月11日を迎えます。復興は、新たなものを創り出し、新たな可能性に挑戦するチャンスでもあります。日本ならできるはず。その確固たる自信を持って、「新たな創造と可能性の地」としての東北を、皆さん、共に創り上げようではありませんか。
三 経済の好循環
(この道しかない)
日本経済も、三本の矢によって、長く続いたデフレで失われた「自信」を、取り戻しつつあります。
4四半期連続でプラス成長。GDP五百兆円の回復も視野に入ってきました。
リーマンショック後0.42倍まで落ち込んだ有効求人倍率は、6年1か月ぶりに1.0倍を回復。冬のボーナスは、連合の調査によると、平均で1年前より3万9千円増えました。
北海道から沖縄まで全ての地域で、一年前と比べ、消費が拡大しています。中小企業の景況感も、先月、製造業で六年ぶり、非製造業で21年10か月ぶりに、プラスに転じました。
景気回復の裾野は、着実に広がっています。改めて申し上げます。
この道しかない。皆さん、共に、この道を、進んで行こうではありませんか。
(好循環実現国会)
企業の収益を、雇用の拡大や所得の上昇につなげる。それが、消費の増加を通じて、更なる景気回復につながる。「経済の好循環」なくして、デフレ脱却はありません。
政府、労働界、経済界が、一致協力して、賃金の上昇、非正規雇用労働者のキャリアアップなど、具体的な取組を進めていく。政労使で、その認識を共有いたしました。
経済再生に向けた「チーム・ジャパン」。みんなで頑張れば、必ず実現できる。その自信を持って、政府も、規制改革を始め成長戦略を進化させ、力強く踏み出します。
国家戦略特区が、3月中に具体的な地域を指定し、動き出します。容積率規制や病床規制など長年実現しなかった規制緩和を行います。企業実証特例制度も今月からスタート。フロンティアに挑む企業には、あらゆる障害を取り除き、チャンスを広げます。設備投資減税や研究開発減税も拡充し、チャレンジ精神を持って新たな市場に踏み出す企業を応援してまいります。
利益を従業員に還元する企業を応援する税制を拡充します。復興財源を確保した上で、来年度から、復興特別法人税を廃止し、法人実効税率を2.4%引き下げます。キャリアアップ助成金を拡充し、正規雇用労働者へのステップアップを促進してまいります。
この国会に問われているのは、「経済の好循環」の実現です。景気回復の実感を、全国津々浦々にまで、皆さん、届けようではありませんか。
(財政健全化)
4月から消費税率が上がりますが、万全の転嫁対策を講ずることに加え、経済対策により持続的な経済成長を確保してまいります。
5兆5千億円に上る今年度補正予算の財源は、税収の上振れなどこの一年間の「成長の果実」です。国債の追加発行は行いません。来年度予算でも、基礎的財政収支が、中期財政計画の目標を大きく上回る、5兆2千億円改善します。
経済の再生なくして、財政再建なし。経済の好循環を創り上げ、国・地方の基礎的財政収支について、2015年度までに2010年度に比べ赤字の対GDP比の半減、2020年度までに黒字化、との財政健全化目標の実現を目指します。
独立行政法人の効率化、公務員制度改革を始め、行政改革にもしっかりと取り組んでまいります。
四 社会保障の強化
社会保障関係費が初めて30兆円を突破しました。少子高齢化の下、受益と負担の均衡がとれた制度へと、社会保障改革を不断に進めます。ジェネリック医薬品の普及を拡大します。生活習慣病の予防・健康管理なども進め、毎年1兆円以上増える医療費の適正化を図ってまいります。
その上で、消費税率引上げによる税収は、全額、社会保障の充実・安定化に充てます。世界に冠たる国民皆保険、皆年金をしっかり次世代に引き渡してまいります。
年金財政を安定させ、将来にわたって安心できる年金制度を確立します。
所得が低い世帯の介護保険や国民健康保険などの保険料を軽減します。地域において、お年寄りの皆さんが必要としている、在宅での医療・介護サービスなどを充実してまいります。
全世代型の社会保障を目指し、子ども・子育て支援を充実します。この国から待機児童をなくすため、来年度までに20万人分、2017年度までに四十万人分の保育の受け皿を整備してまいります。
昨年、一人の女の子から届いた手紙を、私は、今も忘れません。
今は中学生となった愛ちゃんは、生まれつき小腸が機能しない難病で、幼い頃から普通の食事はしたことがありません。iPS細胞の研究への期待を込め、手紙はこう結ばれていました。
「治療法が見つかれば、とっても未来が明るいです。そして、なんでも食べられるようになりたいです。」
この小さな声に応え、未来への希望を創るのは、政治の仕事です。難病から回復して総理大臣となった私には、天命とも呼ぶべき責任があると考えます。
小児慢性特定疾患を含む難病対策を、大胆に強化します。医療費助成の対象を、子供は600疾患、大人は300疾患へと大幅に拡大。難病の治療法や新薬開発のための研究も、これまで以上に加速してまいります。
病室を見舞った私に、愛ちゃんが、可愛らしい絵をくれました。
「私は絵をかくのが好きで、将来、絵本作家になって、たくさんの子供を笑顔にしたいと思っています。」
難病の皆さんが、将来に夢を抱き、その実現に向けて頑張ることができる社会を創りたい。私は、心から、そう願います。
2020年のパラリンピック。日本は、障害者の皆さんにとって、世界で最もいきいきと生活できる国にならねばなりません。
難病や障害のある皆さんの誰もが、生きがいを持って働ける環境を創る。その特性に応じて、職業訓練を始め、きめ細やかな支援体制を整え、就労のチャンスを拡大してまいります。
五 あらゆる人にチャンスを創る
元気で経験豊富な高齢者もたくさんいます。あらゆる人が、社会で活躍し、その「可能性」を発揮できるチャンスを創る。そうすれば、少子高齢化の下でも、日本は力強く成長できるはずです。
(女性が輝く日本)
全ての女性が活躍できる社会を創る。これは、安倍内閣の成長戦略の中核です。
仕事と子育てが両立しやすい環境を創ります。「小一のカベ」を突き破るべく、一次内閣で始めた放課後子どもプランを着実に実施してまいります。
家族の絆を大切にしつつ、男性の育児参加を促します。育休給付を半年間50%から67%に引き上げ、夫婦で半年ずつ取得すれば一年間割増給付が受けられるようにします。
子育てに専念したい方には、最大3年育休の選択肢を認めるよう経済界に要請しました。政府も休業中のキャリアアップ訓練を支援します。1年半でも2年でも子育てした後は、職場に復帰してほしいと願います。
子育ての経験を活かし、20億円の市場を開拓した女性がいます。子育ても、一つのキャリア。家庭に専念してきた皆さんにも、その経験を社会で活かしてほしい。インターンシップや起業を支援します。
女性を積極的に登用します。2020年には、あらゆる分野で指導的地位の3割以上が女性となる社会を目指します。そのための情報公開を進めてまいります。まず隗より始めよ。国家公務員の採用は、再来年度から、全体で3割以上を女性にいたします。
全ての女性が、生き方に自信と誇りを持ち、持てる「可能性」を開花させる。「女性が輝く日本」を、皆さん、共に創り上げようではありませんか。
(若者を伸ばす教育再生)
若者たちには、無限の「可能性」が眠っています。それを引き出す鍵は、教育の再生です。
いじめで悩む子供たちを守るのは、大人の責任です。
教育現場の問題に的確で速やかな対応を行えるよう、責任の所在が曖昧な現行の教育委員会制度を抜本的に改革します。
公共の精神や豊かな人間性を培うため、道徳を特別の教科として位置づけることとし、教員養成など準備を進めてまいります。
全ての子供たちに必要な学力を保障するのも、公教育の重要な役割です。幼児教育の無償化を段階的に進めます。教科書の改善に向けた取組を進めてまいります。
「世界一の読解力」
15歳の子供たちを対象とした国際的な学力調査で、日本の学力が過去最高となりました。改正教育基本法の下、全国学力テストを受けてきた世代です。一次内閣以来の公教育の再生が、確実に成果を上げています。
やれば、できる。2020年を目標に、中学校で英語を使って授業するなど英語教育を強化します。目指すは、コミュニケーションがとれる「使える」英語を身に付けること。来年度から試験的に開始します。
「日本人はもっと自信を持って、自分の意見を言うべきだ。」
立命館アジア太平洋大学でミャンマーからの留学生ミンさんがこう語ってくれました。教授も、学生も、半分近くが外国籍。文化の異なる人々との生活は、日本の若者たちに素晴らしい刺激となっています。
2020年を目標に、外国人留学生の受入数を2倍以上の30万人へと拡大してまいります。国立の8大学では、今後3年間で外国人教員を倍増します。
外国人教員の積極採用、英語による授業の充実、国際スタンダードであるTOEFLを卒業の条件とするなど、グローバル化に向けた改革を断行する大学を支援してまいります。
意欲と能力のある全ての若者に留学機会を実現します。学生の経済的負担を軽減する仕組みを創り、2020に向けて日本人の海外留学の倍増を目指します。
「可能性」に満ちた若者たちを、グローバルな舞台で活躍できる人材へと育んでまいります。
六 オープンな世界で日本の可能性を活かす
世界に目を向けることで、日本の中に眠る様々な「可能性」に改めて気づかされます。オープンな世界は、日本が成長する大きなチャンスです。
(日本を売り込む)
急成長する新興国では、道路も鉄道も必要です。水道や電気のインフラを整え、災害に強い都市開発が課題です。アジアでは2020年までに8兆ドルものインフラ投資が見込まれています。
その世界のニーズに応える力が、日本にはあります。エネルギー不足や公害などの問題に取り組んできた経験があります。高い環境技術は、世界の温暖化対策にも貢献できるはずです。長年培ってきた経験や技術を、世界と惜しむことなく共有してまいります。
インフラ輸出機構を創設します。交通や都市開発といった分野で、海外市場に飛び込む事業者を支援し、官民一体となって成約につなげます。10兆円のインフラ売上げを、2020年までに3倍の30兆円まで拡大してまいります。
昨年シンガポールで、日本専門チャンネル「Hello JAPAN」が開局。インドネシアでは、仮面ライダーが子供たちのヒーローに加わりました。
日本のコンテンツやファッション、文化芸術・伝統の強みに、世界が注目しています。ここにも「可能性」があります。クールジャパン機構を活用し、コンテンツの海外展開や、地域ならではの産品の海外売込みなどを支援してまいります。
(アジアの架け橋)
成長センターであるアジア・太平洋に、一つの経済圏を創る。TPPは、大きなチャンスであり、正に国家百年の計です。
企業活動の国境をなくす。関税だけでなく、知的財産、投資、政府調達など野心的なテーマについて、厳しい交渉を続けています。
同盟国でもあり経済大国でもある米国と共に、交渉をリードし、「攻めるべきは攻め、守るべきは守る」との原則の下、国益にかなう最善の判断をしてまいります。
アジアと日本をつなぐゲートウェイ。それは沖縄です。
「舟楫を以て万国の津梁となし」
万国津梁の鐘にはこう刻まれています。古来、沖縄の人々は、自由な海を駆け回り、アジアの架け橋となってきました。そして今、自由な空を舞台に、沖縄が21世紀のアジアの架け橋となる時です。
アジアとの物流のハブであり、観光客を迎える玄関口として、那覇空港第二滑走路は日本の成長のために不可欠です。予定を前倒し、今月から着工いたしました。工期を短縮し、2019年度末に供用を開始します。
高い出生率、豊富な若年労働力など、成長の「可能性」が満ち溢れる沖縄は、21世紀の成長モデル。2021年度まで毎年3千億円台の予算を確保し、沖縄の成長を後押ししてまいります。
沖縄科学技術大学院大学には、世界中から卓越した教授陣と学生たちが集まっています。更なる拡充に取り組み、沖縄の地に、世界一のイノベーション拠点を創り上げてまいります。
七 イノベーションによって新たな可能性を創りだす
ITやロボットには、競争力を劇的に伸ばす力があります。メタンハイドレートは、日本を資源大国に変えるかもしれません。海洋や宇宙、加速器技術への挑戦は、未来を切り拓きます。イノベーションによって、日本に新たな「可能性」を創りだす気概が必要です。
世界中から超一流の研究者を集めるため、研究者の処遇など世界最高の環境を備えた、新たな研究開発法人制度を創ります。経済社会を一変させる挑戦的な研究開発を大胆に支援します。年度にとらわれない予算執行を可能とし、長期にわたる腰を据えた研究が行える環境を保障します。
日本を「世界で最もイノベーションに適した国」としてまいります。
(中小・小規模事業者の底力)
「世界シェア3割」
誰にも真似のできない薄いメッキを作るイノベーションは、墨田区にある従業員9人の町工場から生まれました。
日本のイノベーションを支えてきたのは、大企業の厳しい要求に高い技術力で応える、こうした中小・小規模事業者の底力です。
ものづくり補助金を大幅に拡充します。ものづくりのための設備だけでなく、新たな商業・サービスを展開するための設備に対する投資も支援してまいります。併せて、「個人保証」偏重の慣行も改めてまいります。
ソニーもホンダも、ベンチャー精神あふれる小規模事業者からスタートしました。小規模事業者がどんどん活躍できる環境を創るための基本法を制定し、小規模事業者支援に本腰を入れて乗り出します。
(成長分野の可能性を引き出す)
iPS細胞を始め再生医療・創薬の分野で、日本は強みを持っています。しかし、未踏の技術開発には、リスクも高く、民間企業は二の足を踏みがちです。
日本版NIHを創設します。医療分野の研究開発の司令塔です。難病など不治の病に対し、官民一体で基礎研究から実用化まで一貫して取り組み、革新的な治療法、医薬品、医療機器を世界に先駆けて生み出してまいります。
電力システム改革を前進させ、電気の小売を全面自由化します。全ての消費者が自由に電力会社を選べます。ベンチャー意欲の高い皆さんに参入してもらい、コスト高、供給不安といった課題を解決する、ダイナミックなイノベーションを起こしてほしいと願います。
これまでのエネルギー戦略をゼロベースで見直し、国民生活と経済活動を支える、責任あるエネルギー政策を構築します。原子力規制委員会が定めた世界で最も厳しい水準の安全規制を満たさない限り、原発の再稼働はありません。徹底した省エネルギー社会の実現と、再生可能エネルギーの最大限の導入を進め、原発依存度は可能な限り低減させてまいります。
八 地方が持つ大いなる可能性を開花させる
さて今年は、地方の活性化が、安倍内閣にとって最重要のテーマです。地方が持つ大いなる「可能性」を開花させてまいります。
(農政の大改革)
地方経済の中核は、農林水産業です。おいしくて安全な日本の農水産物は、世界中どこでも大人気。必ずや世界に羽ばたけるはずです。
農地集積バンクが動き出します。農地を集約して生産現場の構造改革を進めます。更に、四十年以上続いてきたコメの生産調整を見直します。いわゆる「減反」を廃止します。需要のある作物を振興し、農地のフル活用を図ります。
規模拡大に伴って負担が増す、水路や農道など多面的機能の維持のため、新たに日本型直接支払を創設します。農地の規模拡大を後押しし、美しい故郷を守ります。
経営マインドを持ったやる気ある担い手が、明日の農業を切り拓きます。彼らが安心と希望を持って活躍できる環境を整えることこそ、農業・農村全体の所得倍増を実現する道だと信じます。農林水産業を、若者に魅力のある、地方の農山漁村を支える成長産業とするため、食料・農業・農村基本計画を見直し、農政の大改革を進めてまいります。
(元気な地方を創る)
人口減少が進む中においても、元気な地方を創る。これは、大いなる挑戦であります。
自主性と自立性を高めることで、個性豊かな地方が生まれます。一次内閣で始めた第二次地方分権改革の集大成として、地方に対する権限移譲や規制緩和を進めます。
行政サービスの質と量を確保するため、人口20万人以上の地方中枢拠点都市と周辺市町村が柔軟に連携する、新たな広域連携の制度を創ります。中心市街地に生活機能を集約し、併せて地方の公共交通を再生することにより、まち全体の活性化につなげてまいります。
中山間地や離島といった地方にお住まいの皆さんが、伝統ある故郷を守り、美しい日本を支えています。活力ある故郷の再生こそが、日本の元気につながります。こうした地域で、都道府県が、福祉やインフラの維持などを支援できる仕組みを整えます。都市に偏りがちな地方法人税収を再分配する仕組みを創り、過疎に直面する地方においても、財源を確保してまいります。
地方には、特色ある産品や伝統、観光資源などの「地域資源」があります。そこに成長の「可能性」があります。地域資源を活かして新たなビジネスにつなげようとする中小・小規模事業者を応援します。
(観光立国)
昨年、外国人観光客1千万人目標を達成いたしました。
北海道や沖縄では、昨年夏、外国人宿泊者が八割も増えました。観光立国は、地方にとって絶好のチャンスです。タイからの観光客は、昨年夏ビザを免除したところ、前年比でほぼ倍増です。
やれば、できる。次は2千万人の高みを目指し、外国人旅行者に不便な規制や障害を徹底的に洗い出します。フランスには毎年八千万人の外国人観光客が訪れます。日本にもできるはず。2020年に向かって、目標を実現すべく努力を重ねてまいります。
「日本人のサービスは世界一」
1千万人目として、タイから来日したパパンさんの言葉です。日本のおもてなしの心は外国の皆さんにも伝わっています。昨年は富士山や和食がユネスコの世界遺産に登録されました。日本ブランドは、海外から高い信頼を得ています。
観光立国を進め、活力に満ち溢れる地方を、皆さん、創り上げようではありませんか。
九 安心を取り戻す
その日本ブランドが揺らぎかねない事態が、起きています。
ホテルなどで表示と異なる食材が使用されていた偽装問題については、不正表示への監視指導体制を強化します。悪質商法による高齢者被害の防止にも取り組み、消費者の安全・安心を確保してまいります。
日本を「世界一安全な国」にしていかなければなりません。近年多発するストーカー事案には、警察や婦人相談所などが連携して被害者の安全を守る体制を整え、加害者の再犯防止対策も実施します。社会を脅かす暴力団やテロ、サイバー空間の脅威への対策も進め、良好な治安を確保してまいります。
昨年は、自然災害により大きな被害が相次いで発生しました。災害から人命を守り、社会の機能を維持するため、危機管理を徹底するとともに、大規模建築物の耐震改修や治水対策、避難計画の作成や防災教育など、ハードとソフトの両面から、事前防災・減災、老朽化対策に取り組み、優先順位を付けながら国土強靱化を進めます。
伊豆大島への災害派遣。活動中に御位牌を発見した自衛隊員は、泥を自らの水筒の水で洗い、きれいに拭き取りました。その様子をテレビで見た方から自衛隊に手紙が寄せられました。
「本当に涙が出ました。あの過酷な条件のなかで自衛隊員の心のやさしさに感動しました。」
その手紙は、こう続きます。
「私はもう80歳になりますが、戦争を知っている世代としては最後の世代ではなかろうかと思います。このように逞しく、また、心やさしい自衛隊員がおられる日本は安心です。」
自衛隊は、何物にも代え難い国民の信頼を勝ち得ています。黙々と任務を果たす彼らは、私の誇りです。
十 積極的平和主義
海を挟んだ隣国フィリピンの台風被害でも、1200人規模の自衛隊員が緊急支援を行いました。
避難する方々を乗せたC-130輸送機は、マニラ到着とともに、乗客の大きな拍手に包まれました。「サンキュー、サンキュー」子供たちは何度もそう言いながら、隊員たちに握手を求めてきたそうです。
日本の自衛隊を、日本だけでなく、世界が頼りにしています。世界のコンテナの2割が通過するアデン湾でも、海賊対処行動にあたる自衛隊、海上保安庁は、世界から高い評価を受けています。
今年はODA60周年。日本は、戦後間もない頃から、世界に支援の手を差し伸べてきました。医療・保健分野などで生活水準の向上にも貢献してきました。女性の活躍を始め人間の安全保障への取組を先頭に立って進めています。
シリアでは化学兵器の廃棄に協力しています。イランの核問題では平和的解決に向けた独自の働きかけを行っています。
こうした活動の全てが、世界の平和と安定に貢献します。これが、積極的平和主義です。我が国初の国家安全保障戦略を貫く基本思想です。その司令塔が国家安全保障会議です。戦後68年間守り続けてきた我が国の平和国家としての歩みは、今後とも、変わることはありません。集団的自衛権や集団安全保障などについては、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告を踏まえ、対応を検討してまいります。
先月東京で開催した日・ASEAN特別首脳会議では、多くの国々から積極的平和主義について支持を得ました。ASEANは、繁栄のパートナーであるとともに、平和と安定のパートナーです。
中国が、一方的に「防空識別区」を設定しました。尖閣諸島周辺では、領海侵入が繰り返されています。力による現状変更の試みは、決して受け入れることはできません。引き続き毅然かつ冷静に対応してまいります。
新たな防衛大綱の下、南西地域を始め、我が国周辺の広い海、そして空において、安全を確保するため、防衛態勢を強化してまいります。
自由な海や空がなければ、人々が行き交い、活発な貿易は期待できません。民主的な空気が、人々の「可能性」を開花させ、イノベーションを生み出します。
私は、自由や民主主義、人権、法の支配の原則こそが、世界に繁栄をもたらす基盤である、と信じます。日本が、そして世界が、これからも成長していくために、こうした基本的な価値を共有する国々と、連携を深めてまいります。
その基軸が日米同盟であることは、言うまでもありません。
「世界の市民同胞の皆さん、米国があなたのために何をするかを問うのではなく、われわれが人類の自由のために、一緒に何ができるかを問うてほしい。」
昨年着任されたキャロライン・ケネディ米国大使の父、ケネディ元大統領は、就任に当たって、世界にこう呼びかけました。
半世紀以上を経て、日本は、この呼びかけに応えたい。国際協調主義に基づく積極的平和主義の下、日本は、米国と手を携え、世界の平和と安定のために、より一層積極的な役割を果たしてまいります。
在日米軍再編については、抑止力を維持しつつ、基地負担の軽減に向けて、全力で進めてまいります。
特に、学校や住宅に近く、市街地の真ん中にある普天間飛行場については、名護市辺野古沖の埋立て申請が承認されたことを受け、速やかな返還に向けて取り組みます。同時に、移設までの間の危険性除去が極めて重要な課題であり、オスプレイの訓練移転など沖縄県外における努力を十二分に行います。
沖縄の方々の気持ちに寄り添いながら、「できることは全て行う」との姿勢で取り組んでまいります。
十一 地球儀を俯瞰する視点でのトップ外交
さて、総理就任から一年ほどで、15回海外に出かけ、30か国を訪問し、延べ150回以上の首脳会談を行いました。
ロシアのプーチン大統領とは、4度首脳会談を行い、外務・防衛閣僚協議も開催されました。個人的な信頼関係の下で、安全保障・経済を始めとする協力を進めるとともに、平和条約締結に向けた交渉にしっかり取り組み、アジア・太平洋地域のパートナーとしてふさわしい関係を構築してまいります。
トルコのエルドアン首相とは、三度の首脳会談を通じ、地下鉄、橋などの交通システム、原子力、科学技術分野における人材育成など、多岐にわたる協力で合意し、戦略的パートナーシップは着実に前進しています。
直接会って信頼関係を築きながら、一つひとつ前に進む。いかなる課題があっても、首脳同士が膝詰めで話をすることで物事が大きく動く。昨年は、トップ外交の重要性を改めて実感しました。
今年も、地球儀を俯瞰する視点で、戦略的なトップ外交を展開してまいります。
中国とは、残念ながら、いまだに首脳会談が実現していません。しかし、私の対話のドアは、常にオープンであります。課題が解決されない限り対話をしないという姿勢ではなく、課題があるからこそ対話をすべきです。
日本と中国は、切っても切れない関係。「戦略的互恵関係」の原点に立ち戻るよう求めるとともに、関係改善に向け努力を重ねてまいります。
韓国は、基本的な価値や利益を共有する、最も重要な隣国です。日韓の良好な関係は、両国のみならず、東アジアの平和と繁栄にとって不可欠であり、大局的な観点から協力関係の構築に努めてまいります。
北朝鮮には、拉致、核、ミサイルの諸懸案の包括的な解決に向けて具体的な行動を取るよう、強く求めます。
拉致問題については、全ての拉致被害者の御家族が御自身の手で肉親を抱きしめる日が訪れるまで、私の使命は終わりません。北朝鮮に「対話と圧力」の方針を貫き、全ての拉致被害者の安全確保及び即時帰国、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引渡しの三点に向けて、全力を尽くしてまいります。
十二 おわりに
今月、アフリカ3か国を訪問しました。力強く成長するアフリカは、日本外交の新たなフロンティアです。日本は、インフラ、人材育成といった分野で、アフリカの人々のため一層の貢献をしてまいります。
アフリカの人々のため。87年前、アフリカに渡った一人の日本人がいました。野口英世博士です。
「志を得ざれば再び此地を踏まず」
故郷・福島から世界に羽ばたき、黄熱病研究のため周囲の反対を押し切ってガーナに渡り、そしてその地で黄熱病により殉職。人生の最期の瞬間まで、医学に対する熱い初心を貫きました。
我々が国会議員となったのも、「志を得る」ため。「この国を良くしたい」、「国民のために力を尽くしたい」との思いからであったはずです。改めて申し上げます。
全ては国家、国民のため、互いに寛容の心を持って、建設的な議論を行い、結果を出していくことが、私たち国会議員に課せられた使命であります。
一年前、私は、この場所でこう申し上げました。今や、自由民主党と公明党による連立与党は、衆参両院で多数を持っております。しかし、私の信念は、今なお変わることはありません。
私たち連立与党は、政策の実現を目指す「責任野党」とは、柔軟かつ真摯に、政策協議を行ってまいります。
そうした努力を積み重ねることで、定数削減を含む選挙制度改革も、国会改革も、そして憲法改正も、必ずや、前に進んで行くことができると信じております。
皆さん、是非とも国会議員となったときの熱い初心を思い出していただき、建設的な議論を行っていこうではありませんか。
最後に、こうお願いして、私の施政方針演説といたします。御清聴ありがとうございました。