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政策

第190回国会における岸田外務大臣の外交演説

平成28年1月22日

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第190回国会に当たり、外交の基本方針について所信を申し述べます。

 

総論

 本年は、日本の外交にとり、大変重要で責任の大きい一年です。特に、G7議長国として、4月には広島で外相会合、5月には伊勢志摩サミットを主催します。自由、民主主義、法の支配、人権といった基本的価値を共有するG7として、相応しい課題を取り上げ、国際社会にしっかりとしたメッセージを発信していきます。

 また、本年1月から2年間、国連安保理非常任理事国を務めるほか、日中韓サミット議長国、初のアフリカ開催となるTICADVIなど、日本が国際社会の議論をリードする多くの貴重な機会があります。

 こうした貴重な機会を十分に活用し、日本の国益を守り、増進させるとともに、国際社会におけるグローバルな課題の解決のためにも貢献していきます。そして、国際社会における存在感を一層高めるため、引き続き、戦略的な外交を展開してまいります。

 

日本外交の三本柱

 今後も、これまでの成果を土台としつつ、日米同盟の強化、近隣諸国との関係推進、そして日本経済の成長を後押しする経済外交の推進という日本外交の三本柱を中心に取組を続けてまいります。

 第一の柱は、日米同盟の強化です。
 日本外交の基軸である日米同盟は、かつてないほど盤石です。日米両首脳は、昨年4月の安倍総理訪米の際、地域や世界の平和と安定の確保に引き続き主導的な役割を果たしていくことを確認し、11月の首脳会談では、日米同盟を基軸として地域の平和と繁栄のためにネットワークを構築していくことで一致しました。
 新ガイドライン及び平和安全法制は、日米同盟の抑止力の一層の強化に資するものであり、その下での取組を推進します。米軍の抑止力を維持しつつ普天間飛行場の危険性を除去すべく、政府として一日も早い辺野古への移設に向けて取り組みます。昨年9月、日米地位協定の環境補足協定を締結し、12月には沖縄の在日米軍施設・区域の一部の早期返還等に関する日米共同発表を行いました。沖縄の負担軽減にも引き続き全力で取り組みます。

 第二の柱は、近隣諸国との関係推進です。
 昨年11月、約3年半ぶりに日中韓サミットが開催され、3か国による協力プロセスが完全に正常化したことを踏まえ、本年、日本が議長国として主催するサミットで具体的な成果が上がるよう取り組んでまいります。

 日中関係は、最も重要な二国間関係の一つです。両国は、地域と国際社会の平和と安定のための責任を共有しています。昨年の累次の首脳会談、外相会談を踏まえ、日中関係は全体として改善基調にあります。今後とも各分野における対話と協力を進め、「戦略的互恵関係」の更なる推進に努めます。
 一方で、東シナ海では、中国による尖閣諸島周辺における領海侵入や一方的な資源開発が継続しています。日本として主張すべきは主張しつつ、引き続き、毅然かつ冷静に対応してまいります。

 最も重要な隣国である韓国との関係は極めて重要です。昨年3年半ぶりに開催された日韓首脳会談で、慰安婦問題についての早期妥結に向けて協議を加速化するとの両首脳による指示を踏まえ、12月の日韓外相会談では、慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認しました。この合意を着実に実施し、日韓関係を未来志向の新時代へと発展させていきます。
 日本固有の領土である竹島については、引き続き日本の主張をしっかり伝え、粘り強く対応します。

 北朝鮮に関しては、「対話と圧力」の方針の下、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決を目指します。北朝鮮による核実験については、日本として断じて容認できるものではありません。安保理非常任理事国として、新たな安保理決議に実効的かつ強力な措置を盛り込むよう国際社会と連携するとともに、日本独自の措置についても毅然かつ断固たる対応をとってまいります。
 同時に、拉致問題については、政権の最重要課題として全力を傾けるとの方針にゆらぎはありません。拉致問題を解決するための対話の窓口を日本から閉ざすことはしません。一日も早く全ての拉致被害者の帰国を実現し、御家族の皆様との再会という積年の想いを遂げるため、あらゆる努力を傾注する決意です。

 ロシアとの間では、最大の懸案である北方領土問題について、昨年の私の訪露で平和条約締結交渉を再開しました。今年こそ日本の国益に資する形で日露関係全体が前に進む一年にしなければなりません。北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結すべく、一層力を入れて交渉にあたるとともに、様々な機会を活用して政治対話を積極的に行ってまいります。
 また、ウクライナ情勢の平和的解決に向け、G7等との連帯を重視しつつ、G7議長国として積極的な役割を果たします。

 より統合され繁栄し安定したASEANは、地域全体の平和と安定にとり極めて重要です。ASEANの更なる統合に向けた努力を引き続き支援するとともに、ASEAN各国との関係を一層強化し、南シナ海の平和と安定への貢献も含め、引き続き協力してまいります。

 特別戦略的グローバル・パートナーシップの関係にあるインドを始め、南西アジア各国との関係を深化させます。

 基本的価値と戦略的利益を共有し、「特別な関係」にある豪州との協力関係、日米豪の協力を一層強化します。また、島嶼国等大洋州諸国との協力も推進します。

 基本的価値を共有する欧州各国との関係を、EUやNATO等の枠組みも活用しつつ一層強化します。特に、英国及びフランスとの安保・防衛協力を推進していきます。中央アジア諸国は、ユーラシアの安定に重要な戦略的要衝であり、様々な分野での協力関係の拡大を推進します。中南米諸国とも、本年はリオ五輪が開かれることも踏まえ、様々な分野で交流と協力を拡大します。

 第三の柱は、日本経済の成長を後押しする経済外交の推進です。
 私自身、これまでキューバやイランなどでトップセールスを行い、また、飯倉公館にて地方の魅力を海外に発信するレセプションを開催してまいりました。成長する海外市場の需要を取り込むべく、ODAや投資協定の整備を通じた企業の海外展開支援、インフラシステムや日本産品の輸出などを、官民一体となって精力的に進めます。特に、アジアを中心に「質の高いインフラパートナーシップ」を通じたインフラ投資を一層推進してまいります。

 経済連携の推進は成長戦略の柱の一つです。日米がリードしたTPP協定が大筋合意したことを受け、早期の署名と発効を目指します。また、TPP協定の大筋合意を弾みに、他の経済連携交渉を精力的に進めていきます。

 

グローバルな課題への一層の貢献

 国連加盟60周年の本年から2年間、加盟国中最多となる11回目の安保理非常任理事国を務めます。この機会を通じ、国連との連携を強化し、積極的平和主義の実践として、世界の平和と繁栄のための議論をリードし、日本の考えを世界に発信します。国連PKO等への協力を通じ、幅広い課題に積極的に貢献してまいります。国際機関における日本人職員増強にも努めます。

 国連が国際社会の現実を反映し、課題によりよく対応できるよう、インド、ドイツ及びブラジルとともにリーダーシップを発揮し、安保理改革の推進に努めます。

 4月に広島で開催するG7外相会合等を通じ、唯一の戦争被爆国として、「核兵器のない世界」の実現に向けて核兵器国と非核兵器国の協力を促し、軍縮・不拡散の取組をリードします。
 核テロ阻止は世界の安全保障上重要な課題であり、核テロの阻止のために、アジア地域や世界の核セキュリティ強化に積極的に貢献してまいります。

 持続可能な開発のための2030アジェンダを着実に実施し、「人間の安全保障」の考え方に基づき、保健、女性、教育等の課題や防災の主流化に取り組みます。

 「女性の輝く社会」の実現は政権の最優先課題です。今後も国際女性会議WAW!を始めとする様々な機会に、女性のアジェンダの推進に全力で取り組みます。

 開発協力大綱の下、国際社会の平和と安定及び繁栄と、それを通じた日本の国益確保のため、官民一体となって取り組むべく、積極的かつ戦略的にODAを活用してまいります。

 気候変動分野では、COP21で合意された、史上初めて全ての国が参加する枠組みである「パリ協定」を歓迎します。この歴史的合意を世界全体の気候変動対策に関する取組の前進につなげるよう貢献してまいります。

 昨年9月に私が任命した科学技術顧問の下、安全保障、グローバル課題、国際協力等、外交の様々な局面で日本の優れた科学技術を活用していく科学技術外交を推進してまいります。

 鯨類を含む海洋生物資源の持続可能な利用等について、国際社会の理解と支持を得るべく一層努力します。

 初めてのアフリカ開催となるTICADVIを通じ、官民が連携し、アフリカとのパートナーシップを更に強固にします。

 アジア太平洋地域の安全保障環境は一層厳しさを増しています。またこの一年、海洋安全保障の重要性は急速に増しています。どの国も一国のみでは自国の平和と安全を守ることはできないとの認識の下、日本、地域、そして世界の平和と安定及び繁栄のため、国際協調主義に基づく積極的平和主義を推進してまいりました。第189回国会においては、この積極的平和主義を実践するためのものとして平和安全法制が成立しました。引き続き、国民の命と平和な暮らしを守るとともに、地域と世界の平和と安定及び繁栄に一層貢献していきます。

 南シナ海において見られる、大規模かつ急速な埋立てや拠点構築、その軍事目的での利用等、現状を変更し緊張を高めるあらゆる一方的な行動に、深刻な懸念が多くの国より表明されています。これらの行為の既成事実化は認められません。海洋における「法の支配」を強化していくため、G7議長国として、関係国と連携し、「海における法の支配の三原則」に基づき、「開かれ安定した海洋」の維持・発展に取り組みます。

 昨年のパリ同時多発テロ事件を始め、無辜の市民の命を奪う卑劣なテロは、平和と繁栄という人類共通の価値への挑戦です。昨年12月、外務省に設置された「国際テロ情報収集ユニット」の活動も通じ、政府一丸となって国際テロ対策を強化し、国内外の日本人の安全確保に全力を挙げるとともに、国際社会と連携し、テロとその根底にある暴力的過激主義への対策に一層注力してまいります。

 日本は、中東地域の安定のために、国際社会と協調し、全ての当事者が自制し、対話を通じて事態の沈静化に努めるよう呼びかけていきます。
 シリア情勢の政治プロセスの進展を支持し、日本としても人道支援を中心に各国と連携しつつ、情勢の改善に尽力していきます。また、地域各国の建設的な役割を働きかけていくとともに、可能な限りの支援を非軍事的な面で実施してまいります。イランの核合意を支持します。日本としても、国際社会と連携しつつ、国際不拡散体制の強化と中東地域の平和と安定に寄与していきます。

 ソマリア沖・アデン湾、アジアにおける海賊対策を通じた海上交通路の安全の確保及び宇宙空間、サイバー空間における「法の支配」の実現と強化にも尽力します。また、北極における新たな機会と課題に対し、日本としても積極的に貢献していきます。

 

総合的な外交力及び戦略的対外発信の強化

 主要国並みの外交実施体制の実現を目指し、在外公館の拡充や外交要員の競争力の一層の向上も含め、総合的な外交力を引き続き強化してまいります。また、国際社会での存在感を一層高めるよう、日本の「正しい姿」や多様な魅力を戦略的に対外発信するとともに、親日派・知日派の育成を強力に推進します。

 

結句

 外交は人と人との絆が重要です。世界各国の外務大臣等とこれまで築いた信頼関係と絆を大切にしながら、今後も日本の国益の確保のため、着実に外交課題で結果を出してまいります。
 議員各位そして国民の皆様の御理解と御協力を心よりお願い申し上げます。