憲法改正推進本部 遊説・組織委員会|STUDY 2 自衛隊の違憲論を巡る憲法改正

憲法改正推進本部 遊説・組織委員会

平和 衛の憲法論議

STUDY 自衛隊を巡る憲法改正と違憲論 STUDY 自衛隊を巡る憲法改正と違憲論

平和 衛 平和 衛

第2回 自衛隊に対する批判の歴史

2020.5.27

STUDY 2 自衛隊の違憲論を巡る憲法改正

提供:防衛省

■自衛隊の存在そのものへの批判

自衛隊が発足して以来、自衛隊の存在そのものに対する激しい批判がありました。1980年代まで世界は東西間の厳しい冷戦下にあったことから、「相手から攻撃を受けたら、それを上回る被害を相手に与える、それにより相手に攻撃を控えさせるようにする」という抑止戦略も広がり、米ソは大量の核兵器を蓄積していきました。こうした時流においても、以下に挙げるように、国内では「自衛隊は存在自体が憲法違反だ」という批判が続きました。

「そもそも自衛隊は、アジア侵略と人民弾圧の先兵として、マッカーサー指令により、憲法第9条を真っ向からじゅうりんして創設された非合法の軍隊であります」
「国民の税金でまかなわれている自衛隊が、こともあろうに国民を殺す訓練をしている。国民はこのような自衛隊を断じて容認するものではありません」
(1969年7月参議院本会議、共産党・岩間正男議員)

「まさに今日、憲法に示された平和的生存権を現実に侵害しているのは、米軍と、それに従属する自衛隊の存在そのものであることは、これは明らかです」
(1973年9月参議院本会議、共産党・岩間正男議員)

「自衛隊や防衛庁などの不要不急部門で膨大な過剰定員が温存され、全体として大きなひずみと行政のむだがあります」
(1980年11月衆議院内閣委員会、共産党・中島武敏議員)

中には、自衛官を志す若者に向けられた意見もありました。

「ぼくは防衛大学生をぼくらの世代の若い日本人の一つの弱み、一つの恥辱だと思っている。そして、ぼくは、防衛大学の志願者がすっかりなくなる方向へ働きかけたいと考えている」
(1958年9月毎日新聞、大江健三郎氏)

こうした自衛隊の憲法違反論は、21世紀になってからも続きます。1994年7月から1年半の間、村山富市総理大臣のもとに内閣を組織した社会民主党でしたが、2006年に採択した「社会民主党宣言」で「現状、明らかに違憲状態にある自衛隊」としました。

「社民党宣言において、現状、明らかに違憲状態にある自衛隊との認識を示し、既に自衛隊の実態は違憲状態だとの考えに至ったものであります」
(2012年5月衆議院憲法審査会、社会民主党・照屋寛徳議員)

さらに、その後も以下のような発言が続けられてきました。

「(防衛省の予算について)税金の使い方を改めていく。軍事費が戦後はじめて5兆円超えましたけど、人を殺すための予算」
(2016年6月テレビ番組、共産党・藤野保史議員)

「私たちは自衛隊と憲法は両立しないという立場です」
(2019年6月ネット党首討論、共産党・志位和夫委員長)

国民の合意での憲法第九条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる。
(2019年11月日本共産党総会にて党大会議案として承認され、2020年1月党大会にて承認された日本共産党綱領)

■自衛官個人に対する権利の侵害

自衛隊への批判は、自衛隊員個人やその家族、自衛官を志す若者にも向いた歴史があります。

  1970年代、立川市は同市に住民基本台帳への登録を求める自衛隊員の申請を拒みました。親である自衛隊員が市の住民として認められないと、家族にも種々の不利益が発生します。具体的には、1973年1月の自治大臣の国会答弁(下記をご覧ください)が明らかにしています。この国会答弁は、立川市の判断に対して自治省が問題提起をしたものですが、当時の美濃部東京都知事はこの自治省の考え方に立たないことを明らかにしました。当時の新聞では、次のように報じています。

自治省通達は29日、行政局長名で出され、「自衛隊員が基地のある市町村の住民であることは明らかで、住民基本台帳への記載がなされていないことによって、数々の権利や利益の侵害を起す。これは憲法に保障されている基本的人権に関連する重大な問題である」とし、立川市に対して早急に住民登録をするよう求めていた。
これに対して、美濃部知事は態度を保留していたが、31日、通達を無視する方針を固めた。その理由として、(1)自治体である立川市がその責任と判断に基づいて決めたことにとやかくいうのは地方自治の原則に反することだし、自治省の通達を立川市に伝えることは立川市の判断が誤りであるということを押し付ける結果になる、(2)立川市の行動は自衛隊の強行移駐に対する市民の怒りをあらわしているもので、単に法律的な問題で片づけられるものではない。自衛隊の存在そのものが憲法に違反しているかどうかの疑義があることからしても、住民登録拒否で抵抗することも当然である。今度の事件の最大の原因は強行移駐であることをあげている。
(1973年1月31日朝日新聞夕刊)

(1)については、自衛隊員個人やその家族に数々の権利や利益の侵害が生じても、地方自治の原則を優先しています。この論理が通るのであれば、市長・知事の判断や議会が可決した条例が個人の権利を侵害していても、地方自治の方を優先することがまかり通りかねません。
(2)については、自衛隊の存在の合憲性に疑いがあり、市民の怒りがあるので、隊員とその家族の権利や利益に関連しても、自治体による住民登録拒否での抵抗は当然であると言いたいのでしょう。

  1973年1月の国会(衆議院内閣委員会)では、若い隊員をめぐる以下のような議論もなされています。

高瀬防衛庁人事教育局長 「那覇市と立川市におきまして、隊員の住民票についての受付が停止されております」

  江崎自治大臣 「これによって受ける個人的な影響は非常に多岐にわたります。選挙人名簿への登録、国民健康保険、国民年金の被保険者資格の取得、児童手当等の受給資格を取得する問題。米穀類の消費者としての登録・手帳の問題。学校の学齢簿への登載。住民税の課税がされない。住民登録がないので写しを得られず、運転免許証の取得、自動車の登録、若い自衛官が大学へ行きたい、定時制の学校へ行きたくても、その進学手続きができない」

「こんな話は古いよ」、と言われるかもしれません。確かに、現在の立川市長や東京都知事は、憲法に即して地方自治を運営しているので、このようなことは考えてもいないでしょう。しかし、「自衛隊の存在の合憲性に疑い」を持ち、主張する人々は、今でも多数存在しているのです。はたして今後も、「同じような問題は起こらない」と断言できるのでしょうか?

■現代の国際状況を鑑みた論議を

井上ひさし氏は、2007年5月に山形新聞で、「憲法は(先の戦争で、アジアで1,500万人を超える死者を出したことに対する)わび証文で、日本人は一切丸腰で武器を捨てます」と表しています。しかし日本は、核や生物兵器を持ち、相変わらず弾道ミサイルの発射を止めない北朝鮮や、数十年にわたって軍備を増強し、尖閣侵入を止めない中国に囲まれています。今を生きる私たち、私たちの子や孫たちは、「自衛隊は憲法違反だ」という論議に縛られないといけないのでしょうか? 

  憲法上に自衛隊を明記すれば、自衛隊は合憲であることに異論がなくなります。役割や責任、行動の外延を決めている自衛隊法などの関連法律と相まって、自衛隊が国民主権の下に置かれて、文民統制が行き届く。そして隊員一人ひとりが誇りを胸に、任務の崇高さを感じ、任務の難しさにたじろぐことなく、国民の負託にこたえることにつながるのではないでしょうか?

PROFILE

平和 衛

平和 衛

ヘイワ マモル

自衛隊の憲法問題に長年向き合ってきた研究者。
自衛隊の活動を追いながら、日々、日本の平和と安全を願っている。

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