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月刊誌「りぶる」 10月号より

災害から命を守る!
気象予報の最前線へ

長官インタビュー

萩生田光一文部科学大臣
長谷川直之気象庁長官

今年1月、気象庁の新長官に就任した長谷川直之さん。気象庁の役割や課題、防災への取り組みなどについて伺いました。

気象庁ホームページ
気象庁ホームページ
https://www.jma.go.jp

技術開発と情報の利活用
たゆまぬ努力が被害を最小限に

気象庁ホームページ
気象庁ホームページ
https://www.jma.go.jp

―近年、台風や集中豪雨などによる災害が激甚化している気がします。

長谷川 おっしゃる通りで、各地で数十年に一度といわれる記録的な大雨が降り、土砂災害や河川の氾濫などが相次いでいます。皆さまが肌で感じる災害の激甚化は、数字でも裏付けられています。例えば、1時間に50ミリメートルという「バケツをひっくり返した」ような激しい雨が降った記録を過去のデータから分析すると、その頻度は確実に増えています。気象庁が発信する情報でしっかりと身を守っていただきたいと思います。
 激甚化する災害に対応するため政府は今、「国土強靱化」を推進しています。私は、この「強靱化」という言葉が非常に良いなと感じています。“強さ”だけでなく、“しなやかに”という考え方が入っているからです。
 例えば台風の発生を防ぐことはできませんが、早期の警戒や避難などをしっかりと行うことで被害を最小限に抑えることができます。その時々の状況に合わせて“しなやかに”対応していくためには、台風の進路や大きさ、強さなど、事前の情報収集が不可欠ですから、それらの役割を担っている気象庁の仕事はますます重要になってきていると実感しています。

―防災のための予報は、どのように進めていますか。

長谷川 「技術開発」と「情報やデータの利活用の促進」を両輪に進めています。技術開発とは、予報精度を上げていくこと。これは最新のスーパーコンピューターとシミュレーション技術の発展などにより飛躍的に向上しています。
 近年、各自治体は“空振り”を恐れず、避難指示等をどんどん出しています。実際、避難される方も、以前に比べれば増えてきたと思います。また、避難したものの災害に至らなくても、ある程度は理解が得られるようになりました。しかし気象庁は、この現状に甘んじてはなりません。私たちが技術開発を一生懸命頑張って初めて、皆さまに「何事もなくて良かった」と思っていただけるからです。これからも全力で予報精度向上に努めてまいります。

―技術開発における喫緊の課題は何ですか。

線状降水帯イメージ 写真提供:気象庁
線状降水帯イメージ
写真提供:気象庁

―技術開発における喫緊の課題は何ですか。

長谷川 線状降水帯の発生予測です。積乱雲が次々と発生して線状の降水域が何時間もほぼ同じ場所に停滞する状態を線状降水帯といい、近年各地で甚大な被害をもたらしています。
 非常に悔しいのですが、この線状降水帯はスーパーコンピューターを駆使しても事前に発生を予測することが非常に困難です。気象庁では昨年12月に「線状降水帯予測精度向上ワーキンググループ」を立ち上げ、最新の研究の知見なども取り入れながら、課題克服に力を入れています。

 線状降水帯が発生した際は、大雨による災害発生の危険度が急激に高まっていることを皆さまにしっかりと伝えるため、今年6月から「線状降水帯」というキーワードを使って発表しています。

分かりやすく伝えるために
さまざまな取り組みを実施

キキクル 写真提供:気象庁
キキクル
写真提供:気象庁

―集めた情報やデータの利活用はどのように進めていますか。

長谷川 防災に関して言うと、ただ情報を発表するだけではなく、分かりやすく伝えることが大事だと考えます。「大変な被害になりそう」という私たちの危機感を皆さまに共有していただくために、さまざまな工夫をしています。
 その一つが「キキクル」です。昨年まで「危険度分布」と呼んでいましたが、認知度が低く、もっと身近に利用していただけるよう名称を公募して「キキクル」に決まりました。

 大雨による土砂災害、浸水、洪水の危険度を色分けして地図上に表示し、一目で分かるようになっています。例えば大雨の時、自分のいる場所が薄い紫色になっていたら非常に危険ですので、すぐに安全な場所に避難しましょう。この「キキクル」は気象庁ホームページからアクセスできます。災害から身を守るため、ぜひご活用ください。

「キキクルでは、災害の危険度を地図上にリアルタイム表示しています。スマートフォンでも最新の情報をご確認できます」と長谷川直之気象庁長官
「キキクルでは、災害の危険度を地図上にリアルタイム表示しています。スマートフォンでも最新の情報をご確認できます」と長谷川直之気象庁長官

―災害が発生した時の対応についてはいかがですか。

長谷川 平成30(2018)年3月、JETT(気象庁防災対応支援チーム)を創設しました。これは、大規模な災害が発生した(あるいは発生が予想される)場合に、自治体が立ち上げた災害対策本部を訪れ、現地のニーズに合わせて気象等をきめ細やかに解説するチームです。今も7月3日に土砂崩れが発生した静岡県熱海市に派遣しています。
 私たちは土砂の中から人を救ったり、壊れた道路や橋を直したりすることはできません。しかし、それらの役割を担う人たちを二次災害からしっかりと守り、安全かつ円滑に活動できるよう、全力で支えていきたいと考えています。

―自治体との連携が重要になりますね。

長谷川 全国の気象台が、日頃から市町村と密にコミュニケーションを取っています。例えば「あなたの町の予報官」というチームを編成し、市町村の防災担当者を対象にしたワークショップを開催。お互いに顔の見える関係を構築し、緊密な連携を図っています。また、実際に災害の危険が迫った時には気象台長から市町村長に直接電話して状況を説明するなど、地域住民の迅速な避難につなげています。
 それから昨年12月、気象台のOB、OGを「気象防災アドバイザー」として新たに委嘱しました。彼らには、自治体側の立場で気象庁の発表の意味するところを読み解き、市町村長に助言を行うなど活躍してもらいたいと考えています。まだ人数は少ないのですが、これからどんどん増員していきます。また、実例を積み重ねながらメリットや活用法などを提案し、普及を図ってまいります。

「災害が激甚化する中、命を守るためにぜひ覚えておいていただきたいことの一つが特別警報です。これは気象庁が最大限の警戒を呼び掛けるもので、特別警報が発表された場合は、その対象地域はこれまでに経験したことがない危険な状態にあります」と長谷川気象庁長官
「災害が激甚化する中、命を守るためにぜひ覚えておいていただきたいことの一つが特別警報です。これは気象庁が最大限の警戒を呼び掛けるもので、特別警報が発表された場合は、その対象地域はこれまでに経験したことがない危険な状態にあります」と長谷川気象庁長官

インタビューの続きはりぶる本誌でご覧ください

りぶる10月号

月刊誌「りぶる」では、女性ならではの視点で
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発行日 毎月15日発行
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