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政策

第193回国会における岸田外務大臣の外交演説

平成29年1月20日

第193回国会における岸田外務大臣の外交演説

 

第193回国会に当たり、外交の基本方針について所信を申し述べます。

 

総論

 本年、2017年は、様々な変化の可能性を秘めた年です。現在、世界各地では、保護主義や内向きの傾向が強まり、また法の支配に基づく国際秩序が挑戦に曝されています。こうした中、同盟国米国では、まさに本日、トランプ新大統領が就任し、8年ぶりに政権が交代します。フランス、イラン、韓国では大統領選挙が行われ、ドイツ、オランダでは議会選挙が行われます。中国でも5年に一度の共産党大会が開催される予定です。さらに、英国のEU離脱交渉も開始される予定です。国際社会において不透明感が増大しています。

 その中で日本は、これまで4年間にわたり安定した政治、外交を実現し、国際社会における存在感を高めてきました。昨年はG7議長国として国際社会の議論をリードするなど、日本は、世界の安定と繁栄を主導する国として多くの国から期待される存在です。日本は、国際社会の安定勢力として、基本的価値を共有する国々と連携し、変化の可能性を秘めたこの一年が日本の国益を増進し、世界の平和と繁栄につながる一年となるよう、国際社会をリードしていかなければなりません。

 

日本外交の三本柱

 本年も、引き続き、日米同盟の強化、近隣諸国との関係強化、日本経済の成長を後押しする経済外交の推進という三本柱を中心に、日本外交を力強く推し進めてまいります。

 第一の柱は日米同盟の強化です。
 日米同盟が日本外交の基軸という方針は不変です。世界経済の原動力であるアジア太平洋地域の安定は日米両国の共通の利益です。昨年末、安倍総理の真珠湾訪問において日米の和解の価値を国際社会に示しました。戦後71年の日米協力の積み重ねに基づく日米同盟の強化こそが地域の平和と繁栄の鍵であるとの認識の下、トランプ新政権とも緊密な関係を構築しつつ、日米同盟を一層強化するとともに、地域及び世界の平和と繁栄に貢献します。

 日米同盟の抑止力を一層強化すべく、新たな日米物品役務相互提供協定(日米ACSA)について国会で御承認いただけるよう丁寧に説明するとともに、新ガイドライン及び平和安全法制の下での具体的な協力を更に進めていきます。在日米軍の安定的駐留には地元の御理解が不可欠です。北部訓練場の過半の返還が実現し、日米地位協定の軍属に関する補足協定を署名しました。普天間飛行場の一日も早い辺野古への移設を始め、引き続き、沖縄の負担軽減に全力で取り組みます。

 また、米国を中心とした同盟ネットワークの強化に向け、日米豪、日米印、日豪印の協力も強化していきます。

 第二の柱は、近隣諸国との関係強化です。
 日中関係は最も重要な二国間関係の一つです。「戦略的互恵関係」の下、両国が地域や国際社会における協力関係を築いていくことが重要です。昨年春の私の訪中や、累次の首脳会談を経て、日中関係の肯定的な側面を拡充・強化し、懸案を適切に処理しながら、本年の日中国交正常化45周年という節目の年に日中関係を全面的に改善させていくよう双方が努力することで一致しています。引き続き、様々な分野での対話・協力・交流を強化し、安定的に関係を発展させていくべく、私自身も引き続き努力してまいります。
 東シナ海では、中国による尖閣諸島周辺における領海侵入や一方的な資源開発などが継続しています。日本として主張すべきことは主張し、引き続き、毅然かつ冷静に対応します。

 韓国は戦略的利益を共有する最も重要な隣国です。一方、昨年末に、在釜山総領事館に面する歩道に新たに慰安婦像が設置された事態は極めて遺憾です。一昨年末の慰安婦問題に関する合意を双方が責任をもって実施することを引き続き韓国側に強く求めていきます。
 日本固有の領土である竹島については、引き続き日本の主張をしっかり伝え、粘り強く対応します。
 安全保障を含む幅広い分野において様々なレベルで意思疎通を図り、相互の信頼の下、日韓関係を未来志向の新時代へと発展させていくことが重要です。

 日中韓三か国による協力プロセスは重要な意義を有しています。議長国として、昨年8月に日中韓外相会議を開催したのに続き、本年のしかるべき時期に日本において日中韓サミットを開催するよう調整します。

 北朝鮮による核実験や度重なる弾道ミサイルの発射は、新たな段階の脅威であり、断じて容認できません。日本は、米国、韓国及び関係国と緊密に連携しながら、北朝鮮へのヒト、モノ、カネの流れを更に厳しく規制する安保理決議の実効性を確保し、独自の措置を着実に実施するなど、断固たる対応をとっていきます。さらに、北朝鮮の脅威に対処するため、日米韓の連携を主導し、日米及び日米韓の安全保障協力など、これまでの取組を更に前進させていきます。
 拉致問題は政権の最重要課題です。「対話と圧力」、「行動対行動」の原則の下、ストックホルム合意の履行を引き続き求めつつ、一日も早い全ての拉致被害者の帰国を実現し、御家族の皆様との再会という積年の想いを遂げるため、引き続き、あらゆる努力を傾注する決意です。

 昨年12月のプーチン大統領の訪日は平和条約の締結に向けた重要な一歩となりました。今後も、政治対話を積み重ねながら、日本の国益に資するよう、日露関係を更に発展させていきたいと考えています。
 最大の懸案である北方領土問題について、先般の首脳会談では、北方四島における特別な制度の下での共同経済活動に関する協議を開始し、また、元島民の方々がより自由に故郷を訪問するために手続を改善することでも一致したところです。引き続き、北方四島の帰属問題を解決して平和条約を締結すべく、「新しいアプローチ」に基づき粘り強く交渉を続けます。
また、ウクライナ情勢の平和的解決に向け、G7等との連帯を重視しつつ、引き続き、建設的な役割を果たしていきます。

 ASEANは本年設立50周年を迎えます。ASEANの更なる統合、繁栄及び安定は、地域の平和と安定にとり極めて重要です。ASEANの中心性及び一体性を支持しつつ、ASEAN及びASEAN各国との関係を一層強化します。

 先般の総理訪豪の成果に基づき、豪州との「特別な戦略的パートナーシップ」を一層深化します。インドとは、「日印新時代」を更に大きく飛躍させるべく、モディ首相訪日の成果に基づき関係を深化させます。太平洋・島サミットプロセスを通じ、太平洋島嶼国との関係を一層強化します。

 また、EUやNATOといった地域的枠組みも活用しつつ、欧州との関係を重層的に強化します。特に、英国、フランス、ドイツ、イタリアとの間で、安全保障・防衛分野における協力も推進していきます。中央アジア・コーカサス諸国は、ユーラシアの安定に重要な戦略的要衝であり、様々な分野での協力関係の拡大を推進します。また、中南米諸国等との協力関係を拡大します。

 第三の柱は日本経済の成長を後押しする経済外交の推進です。
 自由貿易は世界経済成長の源泉であり、TPPを含め、日本が先頭に立ってこれを牽引していきます。
 日EU・EPA交渉は、可能な限り早期に大枠合意が実現できるよう最大限努力します。また、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日中韓FTA等、他の経済連携協定の交渉も質の高い協定を目指して推進していきます。
 企業の海外展開支援を在外公館と一体となって支援します。質の高いインフラの輸出、訪日観光客、対日投資の拡大などを官民一体で精力的に進めます。
 英国のEU離脱については、世界経済や日系企業の活動に対する離脱による影響を最小限にすべく、引き続き、英国及びEUに対し、働きかけを行っていきます。

 

グローバルな課題への一層の貢献

 日本は国連安保理非常任理事国として2年目を迎えます。南スーダンPKOへの要員派遣を含め、国際社会の平和と安定のため、一層貢献してまいります。
 また、包括的な安保理改革を推進するため、G4の一員として、改革推進派諸国と緊密に連携し、早期改革に向けた努力を続けます。

 昨年5月のオバマ大統領の被爆地広島訪問は、「核兵器のない世界」に向けた国際的機運を再び盛り上げることにつながりましたが、引き続き、「核兵器のない世界」の実現に向け、唯一の戦争被爆国として、核兵器国と非核兵器国との間の協力を促し、現実的かつ実践的な取組を重ねることで、NPTを始めとする軍縮・不拡散の国際的な取組をリードしていきます。なお、核兵器禁止条約交渉については、ただいま申し上げた考えの下、主張すべきは主張していくことが重要であると考えます。いずれにせよ、政府全体で検討していく考えです。

 開発協力大綱の下、国際社会の平和と安定及び繁栄と、それを通じた日本の国益確保に官民一体で取り組むべく、積極的かつ戦略的なODAの活用に努めます。

 「人間の安全保障」の考えの下、実施指針に基づき、持続可能な開発のための2030アジェンダを着実に実施していきます。

 TICAD VIの成果を踏まえ、官民が連携した取組を通じてアフリカ諸国を支援していきます。

 気候変動に関するパリ協定については、全ての国による実効的な排出削減が達成されるよう、各国の排出削減の透明性がより高まるルール作りに貢献していきます。

 女性の活躍推進に向けた日本の積極的取組の発信、難民・避難民問題への取組、科学技術の外交への一層の活用を引き続き推進します。
 鯨類を含む海洋生物資源の持続可能な利用については、日本の政策に対する国際社会の理解と支持を得るべく一層努力します。

 

平和と安全/法の支配の強化

 アジア太平洋地域の安全保障環境は一層厳しさを増しています。国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、平和安全法制の下で、地域と国際社会の平和と安定及び繁栄にこれまで以上に積極的に貢献していくとともに、いかなる事態に際しても、国民の命と平和な暮らしを守り抜きます。

 南シナ海における一方的な現状変更は国際社会共通の懸念事項です。引き続き、関係国と連携し、南シナ海をめぐる問題の全ての当事国が国際法に基づく紛争の平和的解決に向け努力することの重要性を訴えてまいります。「海における法の支配の三原則」に基づき、「開かれ安定した海洋」の維持・発展に取り組みます。

 中東地域の安定に向け問題の根本的な原因に対処するとともに、地域各国に安定の実現に向けた建設的役割を働きかけていきます。

 拡大するテロ・暴力的過激主義の脅威に対し、特にアジアにおける水際対策や穏健な社会の構築等、国際連携を強化し、国際テロ情報収集ユニットを通じた情報収集を含め、総合的なテロ及び暴力的過激主義対策に取り組んでいきます。
 昨年7月のダッカ襲撃テロ事件を受けて作成した報告書に沿って、国際協力事業関係者の安全対策の強化を進めるとともに、中堅・中小企業を含む海外進出企業、留学生など在外邦人の安全対策を更に強化していきます。

 宇宙空間及びサイバー空間における法の支配の強化のための国際的なルール作りや北極をめぐる国際社会の努力に積極的に参加するとともに、各国との協力をより一層強化します。

 

総合的な外交力及び戦略的対外発信の強化

 主要国並みの外交実施体制の実現を含む総合的な外交力を引き続き強化します。日本の「正しい姿」や多様な魅力を、本年世界3カ所に開設するジャパンハウスも活用しつつ、戦略的に対外発信するとともに、親日派・知日派の育成を引き続き強力に推進していきます。日本の魅力は、地方にこそ溢れています。「地方から世界へ」地方の魅力を発信し、「世界から地方へ」多くの外国人観光客、対内投資などを誘致できるよう私自身が先頭に立って取り組んでいきます。

 

結語

 政府は、これまで4年間、日本を取り巻く厳しい安全保障環境を冷静に認識し、平和安全法制や特定秘密保護法を制定するなど、安全保障面での「備え」を整備する取組を進めてきました。同時に、オバマ大統領の広島訪問や安倍総理の真珠湾訪問、韓国との一昨年の慰安婦問題に関する日韓合意といった和解の取組、また、軍縮、防災、女性の活躍推進などのグローバルな課題への積極的な取組を続けるなど、外交におけるバランスを重視してきました。こうしたバランスのとれた外交こそ、外交に対する国民の理解を得る上で重要であり、今後も丁寧に説明の努力を続けながら、外交を進めていきたいと考えています。
 議員各位そして国民の皆様の御理解と御協力を心からお願い申し上げます。