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政策

第186回国会における代表質問 石破 茂幹事長

平成26年1月28日

石破 茂幹事長

1.はじめに

自由民主党を代表して、安倍総理の施政方針演説に対して質問いたします。

 

第二次安倍政権が発足してから一年あまり、総理の「日本を取り戻す」という強い決意のもと、様々な分野において掲げた政策は、確実にその成果を挙げつつあります。

多数の議席を有する安定政権は、ともすれば「強引な政権運営」というような批判にも晒されます。総理の「この道しかない」との強い決意のもと、より多くの方々のご理解を得て政策を確実に実現させていくために、今まで以上に謙虚で丁寧な政権運営・国会運営を心がけねばならないことを我々自民党は強く肝に銘じております。

 

野党の皆様におかれましても、国民的な広い視点に立ち、建設的なご議論を賜りますよう切にお願い申し上げます。

 

昨年の参議院選挙における国民の審判により、六年ぶりに衆参の「ねじれ現象」が解消されました。

衆議院解散は勿論あくまで総理の専権事項でありますが、「次期参議院選挙が行われる二年半後までは国政選挙が無い」と想定される中にあって、政策の優先順位を明確にし、期間内に着実にこれを実行することが強く求められます。選挙を意識するあまり、人気取りのポピュリズムに堕することがあっては断じてなりませんし、短期間に「あれもやろう、これもやろう」などという拙速も厳に戒めなくてはなりません。国民から安定的な議席を頂き、時間的な猶予を与えられたというのはそういうことなのであります。

 

経済成長と財政再建を両立させるための好循環の実現、そして被災地の復興。総理の示されたこの優先順位はまさしく国民が求めているものであり、一つ一つ着実に政策目標を達成することで、今一度政治と国民との信頼関係を取り戻して行かなくてはなりません。

安倍政権はそれができる政権なのであり、そのために我々自民党は、引き続き全力を尽くして参ります。

 

 

2.震災復興

  3月11日で、あの東日本大震災・大津波・原発事故から3年を数えます。未だ27万人を超える被災地の方々が今年の正月を避難先で迎えられたという事実を直視しなくてはなりません。

総理は就任以来、毎月1回被災地を訪問するなど、地域の人々に寄り添う姿勢で、復興に向けて積極的に取り組んでこられました。

わが党としても、大島理森前副総裁を本部長とする復興加速化本部が政府に対して三度にわたる提言を行うなど、政府・与党一体となった取り組みにより、農地や漁港の整備や災害公営住宅への入居など、復興が進みつつあります。

 

新たな局面を迎えた被災地からは、市町村の担当者や現場の技術者・技能者等の人材不足・資材不足等へ対応するための要望が数多く寄せられています。このような切実な声に確実に応え、1日も早く平穏な生活を取り戻して頂けるよう、引き続き取り組んでいく必要があります。

 

東京オリンピック・パラリンピックを、長く続いた経済の低迷からの脱却と、東日本大震災・大津波・原発事故からの復興の輝かしい象徴としなくてはなりません。世界中の方々が日本を訪れる2020年には、東北が日本をリードし、日本が世界をリードしている、そのような夢を現実のものとしなくてはなりません。

残された六年余りで我々は何をすべきか、いかなるスピード感を持って臨むか、改めて総理の復興加速化に向けた具体的な方針をお聞かせください。

 

  原子力災害を受けた福島の復興・再生をさらに加速させることは特に重要です。長期避難者の方々への手厚い支援を行いつつ、被災者の方々の今後の人生設計に明確な指針を示して選択肢を提示するとともに、事態の収束に向けて国と事業者が一丸となって汚染水・廃炉・風評被害対策や除染の加速化に取り組むことが政権の責務です。お考えを承ります。

 

3.経済・成長戦略・財政・社会保障改革

  安倍政権として、今年の最優先課題は、「経済の好循環の実現」であります。「大胆な金融緩和」、「機動的な財政政策」の成果には目覚ましいものがありました。論より証拠、野田前総理が解散を表明した一昨年11月14日の日経平均株価は8,664円。現在は15,000円前後までに上昇し、対ドル為替レートも、79.51円であったものが100円を超える水準にまで達しております。

  達成すべき目標は、「デフレ不況から完全に脱却し、雇用や所得を拡大させること」であります。なぜ日本だけが長期にわたるデフレから脱却できなかったのか。生産年齢人口が減少していることも大きな要因の一つではありますが、それは多くの先進諸国においても見られる現象です。

日本だけで起こっている現象は、名目賃金の低下です。1995年から2010年までの間、アメリカの名目賃金は1.7倍に、ユーロ圏でも1.4倍になっておりますが、日本の名目賃金はこの間に一割も下がっています。

  賃金が下がれば購買力が落ちる、購買力が落ちれば消費が減る、消費が減れば結果的に過剰生産となり、在庫が増え、価格が下がる、これをカバーするためにまた賃金が、下がり雇用が減る、という悪循環が起こっていたのではないでしょうか。

  好循環を実現するためにはこの逆を実行しなくてはなりません。需要不足を解消しない限りデフレは脱却できないのであり、そのためには賃金を上げなくてはならないのだと考えます。「景気が良くなったから賃金を上げる」のではなく「賃金を上げなくては景気が良くならない」のです。

 

  昨年、経済に明るさが戻ってきたことには、大胆な金融緩和によって長期金利が低下し、国債の消化が円滑になり、これが機動的な財政出動とマッチングしたことが大きく寄与しています。統計を子細に見れば、円安で輸出が増加したのでも、製造業の設備投資が増加したのでもないことがわかります。

第一、第二の矢によって生み出された時間的な余裕を何としても生かし、第三の矢である経済成長政策を実効あらしめることが決定的に重要となります。それは消費税率が引き上げられても、なお経済が失速しないことを実現するものでなくてはなりません。

政府は手品師でも魔法使いでもありません。しかし政府として出来ることはすべてやり抜くという決然たる意志のもとで、これまであらゆる政策を総動員してきましたし、これからもそうあらねばなりません。

今後は民間がこれに応えていただくことが必要であり、内部留保はそのためにこそ活用していただきたいのです。

内部留保は企業の業態により大きな違いがあり、特に中堅、中小企業においては、経営が厳しくなった時の備えと内部留保を厚くしているとの事情もあることも併せ考え、経済の好循環実現に向けた総理の見解を承ります。

 

  来年十月から消費税を10%に引き上げることを定めた税制抜本改革法は、附則において、経済状況を好転させることをその条件としております。

平成27年度の予算編成のスケジュールを勘案すると、本年7月から9月期のGDPの伸び率が明らかになるのが11月であることから、引き上げの判断時期は12月になると思われますが、この時期、その際重視すべき点、また、逆進性の緩和のあり方につき、総理の考えをお示しください。

 

法人実効税率を引き下げる環境づくりに正面から取り組む、との姿勢を政権が示すことは、「成長戦略への強いコミットメントを市場や企業に伝える」という大きな意味があります。一方において、法人税を引き下げる際には課税ベースの拡大や減価償却の厳格化が必要となりますが、課税ベースの拡大は限界税率を引き上げ、投資を抑制することとなり、デフレ脱却の阻害要因となることも指摘されています。

法人税率の引き下げは、新規の投資を行っていない企業にもメリットが及ぶことも考えあわせると、デフレで実質金利が高止まり、投資が抑制されている間は投資減税を先行させ、その間に法人税改革に向けた姿勢を鮮明にした上で徹底した議論を行い、確実に改革に繋げていくことが望ましいと考えますが、所見をお述べ下さい。

 

【女性が輝く日本】

総理は、成長戦略の中核として「全ての女性が活躍できる社会を創る」ことを挙げておられます。経済の成長には「労働力の増加」「生産設備の増加」「技術の向上」が必要であり、そのためには高い能力を持つ我が国の女性の力が不可欠です。

これ以上の少子化を食い止めるためにも、女性にとって仕事と子育てを両立できる環境を創っていくことが必要です。2017年末までに保育所などの定員を約40万人分増やして待機児童を解消すること、三年間の育児休業取得を実現することなどはその意味から大きな意義を持つものです。

同時に、女性の社会進出を阻んでいるのは「日本社会特有の長時間労働」も大きな要因であることを指摘しなくてはなりません。

 

 

女性は出産・育児と長時間労働との間で厳しい選択を迫られているのが現状です。三年間休職することで、労働市場での女性の地位が下がりかねないことに不安を感じる女性がいることもまた事実なのです。

男性が家事に携わる時間が長いほど第二子以降が生まれる、との諸外国の統計もあります。これまで生産に費やしてきた時間を消費に回すことは、生産と消費の不均衡の是正にも寄与しますし、消費の拡大にもつながります。独身の男女が出会う時間を増やすことで、未婚率の減少も期待されます。

男女ともに、長時間労働を改め、新たなライフスタイルを構築するべく、従来我々が持っていた価値観からの脱却するための強力な施策が必要なのではないでしょうか。お考えを承ります。

 

【エネルギー政策】

  成長戦略を推進していく上で、また、経済の好循環と所得の拡大、財政健全化を実現するためにも、エネルギーの安定供給体制の確保は不可欠です。

 

現在、日本国内の全ての原発が停止し、火力発電所などが代替していますが、これらにかかる化石燃料費として年間約3.6兆円、一日に換算すると約100億円の国富が海外に流出しています。

昨年の貿易統計が過去最大の11.4兆円となったのも、円安と共にこの原油などの輸入額が急増したことが大きな要因となっています。

今後、円安が進めばこの額はさらに膨らみ、生産コスト増となって輸出に対する円安効果を減殺するばかりか、輸入物価の上昇等により、国内産業と消費の大きな圧迫要因になる恐れがあります。

  これを放置すれば、総理が成長の大きなエンジンの一つと位置づける賃上げも困難となりかねません。賃上げどころか、さらなるコスト削減、リストラを迫られかねないのです。

 

  現在の日本のエネルギー自給率は6%です。1973年のオイルショック当時のエネルギー自給率は8.2%。あの当時よりもエネルギー自給率が低いという事実を我々はもっと深刻に考えなくてはなりません。

今、停電という事態が生じないのは、一にかかって現場の努力によるものであり、中東で何かが起こった時、老朽化した火力発電所の運転に支障が生じた時に、初めて事態の深刻さに気づくのでは遅いのです。

わが党も再生可能エネルギーの比率を高め、原発の依存度を可能な限り引き下げることを公約としております。しかし、現状においてなお不安定かつ高コストの再生可能エネルギーの比率を上げていくためには、それを可能とする経済力が必要です。

 

それを生み出すためにこそ、最高度の安全性が確認された原発を稼働させ、その経済力をもって再生可能エネルギーのコストを下げ、安定性を向上させるべきなのだと考えますが、そこへ至る具体的な道筋を明確に示すことが必要です。

原発が止まっていることは安全であることとイコールではなく、その事実を踏まえれば「原発ゼロ」というのはスローガンではあっても、政策ではありません。さればこそ、使用済み核燃料最終処分のあり方についても、方針を明らかにしなくてはなりません。

 

我が国の国際競争力を低下させることなく、国民生活を支える、責任あるエネルギー政策を構築すること、併せて、今後の原子力エネルギーのあり方について国際的ルールを制定するために、我が国が先導的な役割を果たすこともまた、我が国が国際社会に果たすべき責務であると考えますが、今後のエネルギー政策について、総理の所見を出来る限り具体的にお示しください。

 

【TPP・農政】

TPPに関しては、日米両国が交渉の早期妥結を目指す方針で一致し、鋭意協議を行っていると承知しています。

両国の意見にはまだ隔たりがあると認識しておりますが、われわれが国民にお約束し、国会においても決議された「重要五品目は必ず守る、攻めるべきは攻める」との確固たる方針のもと、最終的な着地点を見出していくことが肝要です。

 

昨年政府は、コメの生産調整の廃止を視野に入れるとともに、農地集積バンクに代表される生産現場の構造改革を決定致しました。

守るべきは消費者に負担を負わせて農産物の高価格を維持することではありません。重要品目の関税撤廃は断固阻止しつつも、コストを削減し、付加価値を高め、輸出を拡大し、農業・農村の所得を向上させることによって消費者と生産者との間に「ウィン・ウィン」の関係を築き、農業・農村の持続可能性を維持することこそが達成すべき至上命題なのです。

食料自給率自体だけが政策目標なのではありません。飢餓に苦しむ国でも、自給率の高い国はいくらでもあるのであり、それは一つの結果なのであり、大切なのは農地面積、農業所得、後継者の確保、農業インフラ、農産品の品質などを要素とする自給力なのです。

 

「日本の農業」などという抽象的なものが存在するわけではありません。何万という地域にそれぞれの農業形態があり、誰が農業を担い、誰がどのような形で地域を担うのか、所有と経営の分離や産業政策と社会政策の明確な位置づけなどをキーワードとして、今が農政の大転換を図る最後の機会であると考えます。

農林水産業・農山漁村の再生に向けた総理の考えをお述べ下さい。

 

【人口減少社会への対応】

これと関連し、総理は施政方針演説の中で、「今年は地方の活性化が最重要のテーマである」と述べられました。しかし、山口を選挙区とされる総理も実感しておられることと思いますが、現在進行している事態は極めて深刻です。

増田寛也元総務大臣は「2040年地方消滅」との刺激的なタイトルを冠した最近の論文の中で、精密な分析のもとに、「人口減少の大波はまず地方の小規模自治体を襲い、その後地方全体に急速に広がり、最後は凄まじい勢いで都市部をも飲みこんでいく。このままいけば30年後には、人口の再生産力が急激に減少し、いずれ消滅が避けられない地域が続出する恐れがある」と論じておられます。

 

少子化による人口減少は高齢者の増加によって見かけ上これまで顕在化してきませんでしたが、今後、高齢者すら減少する時期が多くの地域で到来します。

地方の人口は、東京をはじめとする大都市に移動してきました。しかし、東京の出生率1.09が全国最低であるように、大都市の人口の再生産力は極めて低いのが現実です。大都市も地方も急速に活力を失い、国家そのものが衰退して行く悪夢の到来をなんとしても避けるために、国家として最大の力を注がなくてはなりません。

従来の発想を大きく転換し、企業拠点の地方展開を慫慂することなどによって、地方中核都市に資源を重点的に配分して最後の砦とし、そこから再生を図るなどの施策も必要となるものと考えます。総理の認識をお聞かせください。

 

【財政健全化・社会保障制度改革】  

財政健全化について、経済の好循環を創り上げることにより、国・地方の基礎的財政収支を「2010年度との比較において、2015年度までに赤字の対GDP比を半減させ、2020年度までに黒字化する」との目標が掲げられています。

 

しかしながら1月20日に政府が発表した中長期の経済財政試算では、2015年度の基礎的財政赤字半減目標は達成するが、2020年度の黒字化には11.9兆円(消費税率換算で4%程度)の収支改善努力が必要となることが明らかとなりました。

これを受けて、歳出・歳入一体改革の具体化を求める声も出ておりますが、2020年度の黒字化に向けてどのように取り組んでいくのか、お考えをお示しください。

 

  我が国が世界に誇る年金・医療・介護の社会保障制度を持続可能なものとし、社会保障が本来持つ保険としての役割を正当に機能させることにより真に必要な方々に手厚い制度として、これを次の世代に引き継いでいかなくてはなりません。リスクを回避できなかった人に必要とされる手当てを行うのが保険の本質なのであって、決して贈与的な機能を持たせてはなりません。

総理は、増大する社会保障費への対応と子育て支援の拡充等について言及されています。制度の適正化、消費税という安定財源を伴う拡充等について、改めて社会保障制度改革への所見を承ります。

 

4.外交・安全保障

【普天間基地移設問題】

  沖縄県の仲井眞知事が、辺野古の公有水面埋め立てについて、法律に則って承認をされました。民主党政権で迷走した普天間基地の移設は、仲井眞知事、沖縄の多くの方々、与党の沖縄県選出国会議員や与党の県並びに市町村議会議員等の多くの方々のご理解とご協力により、再び一歩前に進むこととなりました。普天間基地の危険性を一日も早く除去する、その思いを我々は形にしなければなりません。

 

  先の名護市長選挙では、「なぜ辺野古崎沖なのか」という点について、十分にご説明しきれなかったことを反省しております。移設容認の候補が敗北し、現市長は、今後「移設を阻止する行動を取る」と表明しておられます。しかしそれは、その思いとは異なり、「普天間の固定化」をもたらすことにしかならないことを私は強く危惧いたします。

 

普天間基地の危険性とは、墜落の危険性であり、また騒音被害です。これを解消することがそもそもの命題なのです。

 

墜落の危険性と騒音被害を回避するには、滑走路を市街地から2000メートル以上離隔して造成することが必要です。「音は距離の二乗に反比例する」という物理の原則によって、距離を2倍にすれば騒音は4分の1に、10倍にすれば100分の1になります。

普天間基地の市街地との距離200メートルから、名護市街地と辺野古代替施設との距離2000メートルへと10倍にすることで、騒音は100分の1にまで減じられます。これは成田の教訓を踏まえた関西空港、中部国際空港、北九州空港などの例を見ても分かる通りです。日米合意の「V字型滑走路案」は、騒音の極限化と集落の上を飛行しないことによる事故の極限化を実現するために、可能な限り沖合に展開することとしたのです。

 

「『キャンプ・ハンセン』+『キャンプ・シュワブ』+『辺野古弾薬庫』」という現在の形に、滑走路を一体運用する体制が加わることによって、海兵隊の持つ機能が確保できるようになってこそ、嘉手納以南の海兵隊6基地、約1700ヘクタールの返還がはじめて可能となるのです。

 

この地域において一定の抑止力を確保することは、我が国とアジア太平洋地域の平和と安全に対し、日本国として果たさなくてはならない責務です。

 

本土への訓練の分散移転など、従来には見られなかった負担の早期軽減策も打ち出されており、五年での普天間基地の閉鎖状態の実現と併せてその着実な実施を図らねばなりませんが、それでもなお地政学的にも、司令部機能、訓練機能、補給機能、運用機能の一体化の観点からも、一定の抑止力をこの地域に確保することは決定的に重要なのです。

 

平成25年まで日本で唯一人口が増え続け、成長するアジアと距離的に近く、今後多くの土地の有効利用が見込まれる沖縄は、飛躍的な発展が期待されます。過去沖縄が負った苦難の歴史を考えるとき、沖縄を日本一、いや世界一豊かで幸せな島にすることは我々の責任であります。その中で、名護市を中心とするヤンバル(山原)地域の雇用と所得を増大させ、医療・福祉を充実させていくことは沖縄発展の大きな鍵となるものです。

以上を踏まえ、沖縄県知事ならびに自民党沖縄県連から強い要望のありました「普天間基地の五年以内の運用停止の実現とオスプレイ12機程度の県外拠点配備」「キャンプ・キンザーの七年以内の全面返還」「環境に関して日米地位協定を補足する新たな政府間協定の作成」と沖縄の更なる振興策について、総理の実現に向けた所見を伺います。

 

【日米同盟】

  外交・安全保障政策の司令塔となる日本版NSC(国家安全保障会議)が創設され、NSS(国家安全保障戦略)策定と併せて、我が国の領土・領空、国民の生命と財産を守るための環境整備が端緒につきました。

  安全保障を図る上で一番重要なのは、地域におけるバランス・オブ・パワーを維持し、抑止力を機能させることです。日米同盟の深化は、戦争をするためではなく、戦争を引き起こさないためになされるものです。「日本で出来ることは日本が行う」、これを基本として国内法を整備し、陸・海・空の人員と装備の実効性を高め、ガイドラインなど必要な協定を深化させることが重要です。

昨年の防衛大綱の決定や2プラス2の成果も踏まえ、今後どのように日米同盟を深化させていくのか、お考えをお聞かせ下さい。

 

昨年の臨時国会において成立した特定秘密保護法により、米国をはじめとする同盟国、友好国との情報共有が飛躍的に進み、我が国の安全保障に寄与することとなりますが、一方で審議を通じ、行政の恣意や肥大化に対する懸念も多く聞かれました。

これを解消するため、国会におけるチェック機能の創設に向けて検討を進め、党や議会において鋭意努力を続けておりますが、総理として国会の関与についての見解をお述べ下さい。

 

【日中・日韓、領域警備】

  中国や韓国は我が国にとって重要な隣国であり、経済的にも文化的にも密接な相互関係が築かれています。

残念ながら、いまだ両国との首脳会談は実現していませんが、それをもって政権が両国を重視していないとするのは浅薄な見方であります。総理は常に、対話のドアはオープンであること、課題があるからこそ対話すべきであることを発言しておられます。

我々は議員外交やトラック2外交などを可能な限り活性化させ、我が国がいかに地域の平和と安定を望み、そのために積極的に行動する用意があるかを国内外に発信していくことで、首脳会談への環境を整えていきたいと考えておりますが、中韓との関係改善についての総理のご所見をお伺いします。

 

一方で中国による尖閣諸島周辺領海への侵入や、国際法の概念とは大きく異なる「防空識別区」の設定など、現状変更を試みる行動を抑止するために、我が国は法整備と能力の向上を急がなくてはなりません。

  海上保安庁が有するのは海上の治安維持の権限であり、領海を悪質な態様で航行する外国船舶に対して退去通告や臨検・拿捕はできても、自衛権に基づく強制排除措置を取ることはできません。

 

  自衛隊に対して海上警備行動や治安出動を下令しても、その本質があくまで警察権である以上、警察比例の原則が厳格に適用され、その行動にはおのずから制約があります。防衛出動は自衛権行使の三原則が満たされない限り下令できないのみならず、「急迫不正の武力攻撃」以外の手法で領土が侵された場合には対応が困難となります。ここに「隙間」が存在することはかねてから指摘されてきています。

新たなNSCにおいて各省庁連携の下、早急に法を整備し、シミュレーションや訓練の積み重ねによる切れ目ない対応策を進めるべきと考えますが、見解をお伺いします。

 

5.集団的自衛権・憲法改正

 

【集団的自衛権】

冒頭、政策に優先順位をつけることの重要性について述べました。まず復興と経済再生に取り組み、成果を挙げることなくしては、他の重要な政策を国民の理解を得て実現させることはできません。

しかしそれは、他の重要課題を放置してよいということでは決してなく、それらの解決のために緻密で丁寧な準備を常に怠ることなく、一端俎上に上った際には万全の態勢で臨む姿勢こそが重要です。

集団的自衛権の行使を可能とすることは我が自由民主党が総選挙、参院議員選挙で公約に掲げた、重要課題の一つです。総理は施政方針演説の中で、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告を踏まえ、対応を検討すると述べられました。

集団的自衛権を議論するに当たっては、「国連憲章における位置づけ」「日本国憲法との関係」「我が国ならびに地域の平和と安全に与える影響」の三つの観点が必要であると考えます。

 

第二次世界大戦後、国連が創設されるにあたり、何故わざわざ憲章に集団的自衛権が明記されたのか。これは拒否権を持つ大国の横暴を危惧したラテンアメリカ諸国の提唱によるものでした。

アメリカなどの大国が参加しなかったため機能を十分に発揮できなかった国際連盟の教訓から、大国に拒否権を与えることで国際連合は発足することとなりました。しかし、武力攻撃による侵略行為が行われた際に大国が拒否権を行使すれば、安保理は「適切な措置」をとることが出来ず、侵略国の思いのままの事態になってしまう。武力攻撃を受けた国は「安全保障理事会が適切な措置をとるまでの間」に限って、個別的自衛権と共に「密接な関係を持つ国と共同して武力攻撃を排除する」集団的自衛権が認められたのです。集団的自衛権の本質が「大国と共に侵略を行う権利」ではなく「大国の横暴から自国を守る権利」であることを忘れるべきではありません。何故これを、国連中心主義を唱える我が国だけが行使できないのか。この点の徹底した議論が必要です。

 

日本国憲法第9条は、

「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する」

「この目的を達するため、陸・海・空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」

と定めます。

 

集団的自衛権を行使不可能とする論拠として「国際紛争を解決する手段」である、とするのは国連憲章の否定にもつながりますし、「交戦権の行使である」とするのは個別的自衛権行使との整合性がとれません。憲法との関係を論理的につき詰めて議論しなくてはなりません。

 

尖閣の現状や、中国の「防空識別区」の設定、北朝鮮情勢の変化などを考えた時、我が国を含むアジア太平洋地域において、先にも述べたとおり、バランス・オブ・パワー、力の均衡を維持することは絶対に必要です。

アメリカの同盟の形が従来の「ハブ・アンド・スポーク型」から「ネットワーク型」に変化を遂げようとするとき、「集団的自衛権行使不可」を前提とした、アメリカだけを唯一の同盟国とする非対称的双務関係から、「集団的自衛権行使可能」を前提とし、多くの国と新たな関係を構築することは、この地域に確固たる力の均衡を確立し、平和の維持と紛争の回避に大きな役割を果たすことになるものと考えます。

集団的自衛権行使を可能とすることが、我が国ならびに地域の平和と安全にどのように寄与するのか、という議論も徹底して行われなくてはなりません。

 

 

自民党は長年にわたり真摯な議論を積み重ね、一昨年末に集団的自衛権の行使を可能とすることなどを内容とする「国家安全保障基本法」を取りまとめて総選挙、参院選挙に臨みました。集団的自衛権の行使にあたっては国会の事前承認を必要とし、濫用防止の規定を設け、国連憲章との整合性を図るなど、これは多くの懸念に応えうるものと自負いたしております。

 

広範かつ真摯な議論を積み重ね、多くの国民の理解と支持を得る努力を積み重ねることによってのみ、集団的自衛権を行使可能とする法整備は大きな前進をみるものと私は考えるものであり、我が党としても最大限の努力を致して参ります。安保法制懇談会の報告の時期も様々に取り沙汰されておりますが、スケジュール感も含めて、総理の見解をお述べ下さい。

 

【憲法改正】

自由民主党は結党以来、自主憲法の制定を党是とし、野党時代には、国民主権、平和主義、基本的人権の尊重という基本原理を継承しつつ、時代に即した憲法改正草案を策定いたしました。

 

本年は、より理解を深めていただき、国民主権の我が国において、国民の手による憲法を制定する機運を高めていくため丁寧な説明をしていきます。総理は施政方針演説において、「憲法改正も必ずや前に進んでいくことができると信じています」と述べられました。憲法改正に向けた総理の所見を承ります。

 

6.おわりに

以上、いくつかの観点から総理のお考えを質して参りました。

経済、財政、安全保障、エネルギー、医療、福祉、第一次産業。我が国は、多くの喫緊の課題に直面しております。本来それらは、我が党がかつて政権にあった時代に方向性を見出し、その解を国民に向けて示すべきものであったにもかかわらず、それを先送りしてきた面があったのではないかとの反省を、長く政治に携わってきた者の一人として私は強く持っております。

政治不信が叫ばれて久しく、国政選挙における投票率は低下し続けています。今は内閣支持率も、与党に対する支持率も高水準に推移しておりますが、これは、未だ期待を本質とする相対的なものなのかも知れません。政権の支持率と個々の政策の支持率には相当の乖離があることも事実です。

「政治を、政権を信頼したい」との思いは多くの国民が持っているはずです。我々はその思いに応えなくてはなりません。

  これを言えば嫌われる、票が減る、人気が落ちる、そのような理由で主権者たる国民に対して「真実を語る勇気」を持たないのは政治の自己保身であり、国民を信じて真実を語らない政治が、国民から信じて貰えるはずはありません。

  日本に残された時間は実に短く、政策の選択肢の幅は極めて狭いのです。総理が常々口にされる「この道しかない」との思いのもと、自民党として、国家国民に対し、今日を築いてくださった古(いにしえ)の方々に対し、さらにはまだ見ぬ次の世代に対して、最大の責任感と緊張感と使命感を持って、全身全霊をもって国政に臨むことを申し述べ、私の質問を終わります。